ガザ停戦・人質解放の行方:停戦は数日で終わりイスラエルは攻撃を再開する

(画像: 2023年11月25日付NHKニュースより)
ガザ紛争は、束の間の停戦・人質解放でほっと一息の状況ですが、私見ながら、これで紛争のピリオドは打てず、数日の停戦の後、再び両者は決裂しイスラエルは攻撃を再開し、掃討作戦を益々エスカレート、苛烈を極める惨状が続くものと推察します。第1弾の停戦・人質解放に続き、数日の停戦・人質解放が数回反復されるものと思われますが、イスラエルは国際世論や米国等の圧力に妥協することなく、ガザのハマスの徹底的な掃討を続行すると推察します。
束の間の停戦・人質解放
2023年11月22日、イスラエルとハマスは国際的な仲介の下で23日から4日間の人道的戦闘停止、人質50人の解放(ただし解放は毎日10名すつ)に合意しました。停戦は大きな混乱なく履行され、カタール外務省報道官の発表によれば23日~24日にイスラエル人13名(高齢者、子供、女性など。複数国籍を持つ人を含む)、タイ人10名、フィリピン人1名()の人質が解放され、交換にイスラエルの刑務所に拘留されていた39名のパレスチナ人が解放されました。この停戦の間、滞っていた人道支援物資のガザ地区への補給が行われ、危機的状況と言われたガザ地区の人道状況が緩和されることが期待されています。束の間の停戦・人質解放に沸く双方の市民の姿が報道映像で見られます。
なお、この一時的な休戦の間には、イスラエル軍のガザ侵攻部隊はそのままガザ地区内の陣地に駐留しますが軍事行動や拘束・逮捕等の治安行動も一切停止、無人機も航空機もガザ上空を飛ばない、一方のハマス等武装勢力も一切の攻撃はしないことになっています。この間にガザ地区への補給車両の往来が再開されますが、この間でハマス等武装勢力に対する武器・弾薬等の再補給があってはならないため、補給車両の積み荷のチェックは行われます。
(参照: 2023年11月25日付NHKニュース、同日付BBC記事「Israel hostages: Freed women and child helped out of ambulance」、「Israel releases 39 Palestinian prisoners from Israeli prisons」、2023年11月22日付ISW記事「Iran Update, November 22, 2023」、 ほか)
停戦は数日で終了し、イスラエルは苛烈な攻撃を再開するだろう
人質解放に沸くイスラエル市民及びイスラエルの刑務所に拘束されていたパレスチナ人の解放に沸くパレスチナ市民の映像や、束の間の停戦を「このままずっと」と願う思いは募りますが、かと言って、このまま戦闘が終了するとか停戦期間の延長とか、よりドラスティックな両者の交渉の進展などが期待できるか?というと、国際紛争の現実はそう甘いものではありません。私見ながら、今回の停戦・人質解放第1弾は当初の期日通りで一旦終了し、イスラエルは再びガザ掃討作戦の攻撃を開始するでしょう。しかも、むしろイスラエルの掃討作戦はこれまで以上に苛烈になるでしょう。停戦間で身を潜めていたハマスの活動が活発化し、ハマスはじめ武装勢力の幹部や戦闘員や武器・弾薬含む物資の移動、或いは人質の移動などが行われるでしょうから、イスラエルにとっては格好の偵察活動の時期です。この期間に更にハマス等武装勢力の拠点や武器弾薬拠点と思われるポイントを見つけるでしょう。よって、停戦後にそこを狙い撃ちにした空爆が苛烈に行われ、地上攻撃もトンネルや拠点潰しに拍車がかかるでしょう。このイスラエルの攻撃開始により、停戦間の束の間の雪解けムードだった国際世論は一挙に吹き飛ばされます。イスラエルに対する国際的な批判は更に高まるでしょう。
他方、それは私の読みであって、専門家の方で、今後イスラエルは妥協的になっていくと読む向きがあります。11月24日付NHKニュース「イスラエル、ハマスと人質解放・戦闘休止で合意なぜ?停戦は?」にて、大阪大学の辻田俊哉准教授は、ガザ侵攻継続の莫大な経済的負担、36万人ものイスラエル史上でも中東戦争後最大の予備役動員をかけた状況、動員された兵士の家族の問題、ガザ地区周辺やレバノン国境からの住民避難の継続による補償の問題など、イスラエルにとって頭の痛い問題が多いことから、ハマスの主要な拠点であった北部を制圧したことから、今後イスラエル軍は段階的に動員解除するなど、国際世論も勘案しながら逐次に矛を収めていく方向と読んでいる模様です。
少々反論すると、辻田准教授の「経済的負担などから紛争継続は長く続かないだろう」という読みは一般論であって、ことイスラエルにはその一般常識は通用しない、と私は考えています。特に、現ネタニヤフ首相に関しては、兵士の家族からのプレッシャー?住民避難の補償問題?そんなことで回れ右をするような男ではありません。経済的負担を理由にハマス討伐で妥協するなんてことはあり得ません。ネタニヤフは根っからの右翼タカ派であり、今回の10月7日のハマスの越境攻撃・イスラエル住民殺害・人質拉致拘束に対しては、復習の鬼と化しており、確信犯的に経済度外視でハマス壊滅を達成追求するものと思われます。そんな私の読みを裏打ちするエピソードとして、2023年11月23日付Newsweek記事「Israeli Minister Predicte How Long ’Intence Fighting’Will Continue」によればイスラエルのギャラント国防相は23日に前線の兵士に対して訓示し、「この戦闘はここ数ケ月は続く。ガザ地区の敵対勢力を壊滅するまで続ける。」と叱咤激励しています。また、11月22日付Newsweek記事「Israel-Hamas Ceasefire Won’t Last, Netanyahu's Ex-Adviser Claims」によれば、ネタニヤフ首相の元顧問ヤーコフ・アミドール氏は「イスラエル国民の感情として、今回のハマスの越境攻撃の1件でハマスの壊滅を熱望する声が根強く、もし今回の停戦でガザ掃討をを幕引きするようなら、この政権は終わる。」とまでコメントしています。勿論、停戦を望む声もイスラエル国内にありますが、より大多数の声として、ハマスへの怨嗟の炎は燃え滾っているようです。ネタニヤフはその支持を基盤に強気の態度を曲げないのです。
今後の展望: イスラエルはハマスを撲滅するまでガザ侵攻をやめない、パレスチナに怨嗟は残り、両者の怨嗟の衝突は続く
イスラエルはネタニヤフ政権である限り、ハマス壊滅が達成されるまでガザ侵攻を終了しないでしょう。出口戦略として、南部も掃討し、(表面上)ハマスは撲滅できた、と宣言し、一時的なイスラエル軍のガザ地区暫定統治の後、パレスチナ西岸地区のアッバース議長に委ねるなどの権限移譲の後、ガザ地区から完全撤退となるでしょう。これで、表面上はきれいに紛争の収束。しかし、表面上であって、地下のパレスチナ人の反イスラエル感はマグマのように熱く煮えたぎり、ハマスの看板をかけ替えて違う名の同様の過激武装勢力となって紛争の根は残るでしょうね。だって、パレスチナ人のイスラエルに対する怨嗟の感情はもうDNAレベルで記憶されるでしょう。怨嗟の情は消えませんって。従って、第2、第3のハマスの越境攻撃のようなテロ行為は続き、これに対してイスラエルが苛烈に掃討する、この怨みの連鎖は続いてしまうでしょう。
正しいことではないし、あるべきことではありません。
しかし、これが国際紛争の現実です。
(了)


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