FC2ブログ
2021/07/30

中国:政府に挑んだ企業家に懲役18年の見せしめ判決

_119642377_gettyimages-1331038620.jpg
大午集団の創業者 孫大午氏 (2021年7月29日付BBC記事「Outspoken billionaire Sun Dawu jailed for 18 years in China」より)

 2021年7月29日、裁判中だった中国河北省の小さな村を国内最大の農業グループに育てた「大午集団」創業者の孫大午氏に、懲役18年の判決が下りました。貧乏な家に生まれ、クズ拾いから養鶏・養豚を始め、一代で巨大農業グループを立ち上げた孫氏。持ち前の反骨と正義感から、当局の賄賂要求を断り、当局に対しあけすけに正論を主張して抗い、これまで逮捕や裁判も数回ありましたが、昨年8月にグループ本社そのものへの一斉捜索・一斉逮捕があり、当局に従順には従わず抗った孫氏及びその家族やグループ幹部が20数名も逮捕・拘束され、2021年7月14日から公判が開始され、29日に孫氏に懲役18年、及び巨額(1億5000万ドル)の返済金、他の逮捕者に1年から12年の懲役刑が科されました。
(参照: 2021年7月29日付VOA記事「Chinese Farmer Who Praised Lawyers Sentenced to 18 Years」、同日付前掲BBC記事「Outspoken billionaire Sun Dawu jailed for 18 years in China」、2021年7月14日付日テレニュース「中国著名企業グループ創業者の初公判」、及び2020年11月25日付東京新聞記事「標的にされた異色の中国企業家 当局にこびない孫大午氏」)

孫氏に懲役18年という重い判決、アリババ創業者馬氏の行方不明
 いやー、どうなるのかな、と思っていたのですが、18年の懲役とは非常に厳しい判決でしたね。個人的に注目していたし、こういう豪傑ビジネスマンが中国にゴロゴロ出てくると、日本は敵わないなぁ、と思っていたんですが。日本にとってありがたいことに、中国政府自身がこういう国家の宝のような傑物を潰してしまうんですね。この人、前述のように、裸一貫から、農業企業を起こして成功させ、「大午集団」なる大企業に育て、なんと生まれ故郷の村全体をユートピアのような企業村にしました。村内に農業をはじめとした商業施設や観光施設を作り、更に9000名近い従業員を家族丸抱えで、村ごと学校から病院まで面倒を見る共同体のような村を作って、中国中の関心を引いていました。しかし、今回で完全に潰されてしまいましたね。

 孫氏と同様に政府や当局に抗って干されたアリババのジャック・マーこと馬雲氏もしばらく行方不明になっていましたから。馬氏の場合は、「時代錯誤な政府規制が中国のイノベーションを窒息死させる」と中国政府の施策を痛烈批判したことで、習近平国家主席の激怒を買い、拘束されていたと伝えられ、今年1月に数カ月ぶりにネットイベントに姿を現したようですが、もはや完全に牙を折られ恭順の姿勢を取らされているようですね。

大午集団・孫氏の当局への抵抗
 おそらく、馬氏と孫氏の違いは、政府や当局への反抗姿勢の徹底ぶりです。馬氏は、政府の政策への批判により、「こっぴどく叱られた」感じですが、孫氏の場合は地元の当局とのかなり長い抗争と逆転勝利などがあって、ネット等を通じて中国国民の中にも孫氏を応援する人たちも出てきたことに対し、政府が「これは芽のうちに徹底的に潰しておかないと偉いムーブメントになる」と危機感を持たせたことではないかと思います。

 前掲の4つの記事に孫氏の大午集団の地元当局との抗争歴が書かれていましたので、バラバラの記事内容を要約しますと、以下のような流れです。
 ・ 2003年、当局の指示で銀行が民間企業への融資を渋ったため、苦肉の策として自己企業の従業員や村民等から相当額の資本を集めたことが当局から「違法」として咎められ、懲役3年、執行猶予4年の判決を受けた。一説には、この一件の引金は孫氏が政府の農政について批判したことに対する報復、と言われている。
 ・ 同年、この「違法な資金調達」の懲役刑について、ネットで炎上し一般市民からの支援という追い風が起き、撤回となり名誉が回復される。
 ・ 2019年、中国に豚インフルが流行し、大午集団の農場も中国の農業も大打撃。この際、孫氏は「政府が豚インフル発生を隠蔽した」と公然と政府批判を展開。
 ・ 2020年2月、2003年の一件の裁判の際の大午集団側の著名な弁護士が謎の失踪。当局に反逆罪で逮捕・拘束された模様。
 ・ 2020年6月、大午集団と国有企業の間で係争があり、当局の一方的な措置で大午集団の建物の破壊の強制執行が行われた際に、大午集団従業員が抵抗したが、これが暴力行為とされ、8月11日に大量の武装警官が動員されての一斉捜索・一斉逮捕。孫氏を始め数十名が逮捕・拘束された。罪状は、社会秩序騒乱などの容疑。

スクリーンショット (37)
大午集団への一斉捜索・逮捕・拘束 (前掲日テレニュースより)

孫氏には一罰百戒どころか見せしめに企業ごと壊滅へ
 上の画像のように、この2020年8月の一斉捜索・逮捕・拘束の際、まるで暴力団かテロ集団の摘発か、というほどの鳴り物入りで、数十台の警察車両、数十名もの武装警官、警察犬などが動員されて村内に突入し、建物のドアを蹴破ってしらみつぶしにするような大捜査線になった模様です。

 だから、これはただの暴力事案に対する警察の逮捕なんて話ではなくて、政府の指示による政府・当局に歯向かうものに対する「見せしめ」としての逮捕劇でしょう。そして、鳴り物入りで暗黒裁判をし、法の名のもとに「見せしめ」のために創業者ごと企業グループごと(村ごと)潰したんですよ。中国政府は、こうした見せしめにより企業への統制を強め、「いいか、政府に抗うものは潰したるぞ!」とマインドコントロールをしているわけです。これで、政府の企業や一般市民に対するグリップは確たるものになるでしょうけど、他方で、もはや企業のクリエイティビティとか自由かつ柔軟な発想とか切磋琢磨とか、そういった企業の進展性や伸びしろまで潰してしまっていますよね。

 まぁ、そんな中国の方が日本にとっても好都合かもしれませんね。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
スポンサーサイト



2021/07/25

中国ワクチン接種国で感染者増加: しかし一定の役割を果たしたと評価

SINOVAC.jpg
タイ、バンコクにて中国のSINOVACワクチンを準備中の医療従事者 (FILE - A medical worker prepares a syringe with a dose of China's Sinovac coronavirus vaccine at the Central Vaccination Center, inside the Bang Sue Grand Station, in Bangkok, Thailand, May 24, 2021.) (2021年7月21日付VOA記事「China Considering Foreign Booster Shot to Improve Efficacy of Its Vaccines」より)

 2020年初頭から世界を駆け巡った新型コロナウイルスCOVID19。これに人類が対抗する決め手として、各国各製薬会社がワクチンの研究開発にしのぎを削りました。その中で、中国とロシアのワクチンが、比較的早期に鳴り物入りで自国及び友好国などに有償又は無償で供給し、ワクチン外交を始めました。その中国自慢のCINOVACやCINOPHARMのワクチン、その開発の速さ、データの非公開などから、西側から信頼性や危険性が懸念されていましたが、・・・やはり、有効性で差が出てきました。

各国のデータから言えること
 2021年7月21日付VOA記事「China Considering Foreign Booster Shot to Improve Efficacy of Its Vaccines」(前掲)及び同年6月21日付Fobes Japan記事「中国シノバック製コロナワクチン、有効性への懸念さらに高まる」によれば、
 ・ 接種率が高い世界6ヶ国のうち、中国ワクチンを接種した5ヶ国にて感染者が増加
 ・ タイは、感染者や死亡者数が増加し、政府の感染症対策及び中国ワクチンへの依存への反発と欧米のワクチンの輸入を要求して反政府デモに拡大(7月18日)。
 ・ インドネシアは1億2,500万回分という中国ワクチンの世界最大の輸入国だったが、中国ワクチン接種済みの医療従事者350名以上が感染したことが判明(6月17日)。デルタ株が疑われる。
 ・ 1回以上の接種率が米国53%に対して61.4%と世界有数の高さを誇るウルグアイ(中国ワクチンを接種)が公開した実データでは、中国ワクチンの有効性は死亡を含む重篤化の防止効果は90%以上ある一方、発症の予防は61%と低い。そのウルグアイの人口10万人当たりの死者数は世界トップクラス。
 ・ これまで中国ワクチンを接種してきたフィリピンやチリ等の国々で、「ブースターショット」と言われる追加接種の必要性が検討され、もう中国ワクチンではなく欧米ワクチンに転換される模様。
   そして、この追加接種の検討をしている国に、当の中国も入るのです。前掲のVOA記事によれば、この追加接種には純正中国ワクチンを使用せず、上海の中国製薬会社とドイツの製薬企業の共同開発という形で欧米ワクチンを導入する模様です。

私見ながら、中国ワクチンの有効性は限定的だが一定の役割を果たしたと評価します
 上記のようなニュースから言えることとして、中国ワクチンの有効性はやはり限定的だったようです。
 しかし、だからと言って、こき下ろすつもりはありません。かく言う私も、以前のブログで中国ワクチンの有効性についてこき下ろしたことがあります。しかし、今回、前掲のVOA記事などをよく読んで、考え直しました。例えば、前述のウルグアイの実データの話、「中国ワクチンの有効性は死亡を含む重篤化の防止効果は90%以上ある一方、発症の予防は61%と低い。」をどう見るか、です。発症の予防が60%そこそこっていうことは確かに低いですが、それでも重篤化を90%も防いでくれたんでしょ。大したもんです。イスラエルの実データでは、ファイザーが97%、モデルナで94%だそうですから、発症予防という意味では確かに低い。しかし、今懸念されているインド型のデルタ株に対しては、ファイザーであっても64%に低下したそうです(イスラエルのデータ:前掲VOA記事参照)。勿論、中国ワクチンだと、対デルタ株への有効性は更に低く、50%以下どころか40%も切るかも、と懸念されています。
 しかし、それでも私が「評価できる」と言っているのは、「持たざる国」へのワクチンの提供、という意味で「一定の役割を果たした」と言えると思うのです。考えてみてください、ファイザー、モデルナなどの欧米ワクチンは、非常に有効性も高いようですが、金持ち国から導入していきましたよね。日本もそうですよね。「持たざる国」は順番が来るまで死体の山を築いて待つのでしょうか?そういう意味では、中国は、2020年後半~21年と中国ワクチンをアジア、中南米、アフリカの比較的お金のない国々に有償・無償で大盤振る舞いしてきたことは、本当に一定の評価ができると思います。有効性が限定的であろうが、あれで当初のCOVID19の世界的パンデミックの第1波、2波、3波を治める役割の大きな一翼を担ったと言えるのではないでしょうか。

 勿論、中国には言いたいことはありますよ。「新型コロナ中国起源説(武漢の研究所が元凶だった説)」を何とか収めるための政治的PRにワクチン外交を展開したことや、自国や世界の公衆衛生よりも自国の政治的意図を重視してワクチン外交の道具に使っていたことなど、鼻につく点は否めません。このワクチンだって、欧米ならもっともっと臨床テストを繰り返し、データも公開して、人体への影響について十分な安全性が保障されるまで、一般大衆に摂取しないでしょう、普通な国なら。中国だからこそ、たいして十分にデータが取れていないうちにGoをかけて接種し始めてしまったんですよ。
 しかし、そこを十分に割り引いても、アジア、中南米、アフリカの国々で、死体の山が築かれましたけど、この中国ワクチンの流布のお陰で、死体の山の苛烈さは幾分緩和したのではないかと思います。そういう意味で、中国ワクチンは一定の役割を果たしたと評価すべきだと思います。

 中国は、今のところ中国ワクチンの有効性が限定的であるなどとは国家として認めていませんが、中国の医療従事者たちが自覚しているようです。そのうち、特に中国での冬季オリンピックを念頭に、中国の追加接種が本格化する頃、純正中国ワクチンでなく、欧米ワクチンの力を借りた追加接種になることを中国政府がどのように表現するか、その辺が見ものですね。素直になればいいのに。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
2021/07/20

中国の本性を見た豪州: 対中強硬姿勢へ覚悟の転換

 オーストラリアが「親中」的だった外交姿勢を、近年では「是々非々」から更に「対中強硬派」に変えたなぁ、という程度の認識をしていましたが、2021年7月16日付ニューズウィーク日本版記事「経済依存してきた中国に、真っ向から歯向かうオーストラリアの勝算は?」で背景が分かりました。
210706P34_ARA_01-thumb-600x547-261173.jpg
オーストラリアは国防費を大幅に増やしている ERNESTO SNACHEZーROYAL AUSTRALIAN NAVY (前掲ニューズウィーク記事より)

キッカケは豪州の政治家への賄賂報道
 2017年のテレビの報道番組にて、中国がオーストラリアの政治家達に政治献金等で懐柔し、対中国政策を有利に導こうとしていることを明らかににたことで、オーストラリア人の中国に対する認識を一変させた模様です。

中国の本性を見た豪州: 対中強硬姿勢へ転換
 確かに、⒑年一昔前のオーストラリアの政治・外交・安全保障の担当者には「割と親中派が多いな」という印象がありました。 
 丁度、自衛隊正面では、「日米豪のトライラテラル(trilateral)」という方向性があり(ちなみにこの後「印」を加えたクアッド(quad)に発展)、日米豪の幹部で今後の共同訓練についてコンセプトを話し合われ、私はその末席を汚していました。アジア太平洋地域の安全保障という前提で、何が我々にとって脅威になっていて、それにどのように日米豪でスクラムを組んで対抗していくか、という議論になりましたが、日米豪の制服組は明確に台頭する中国を念頭に話が合い、日米豪でこのような共同訓練を、という具体論に至りましたが、それぞれ本国に持ち帰ると豪州国防省のキャリア組や政治家の猛反発に遭いました。日米豪のミリタリー同士の連携をすること自体はよいのですが、中国を敵と見做すことに猛反対なのでした。曰く「中国は貿易におけるパートナーであって、貿易上袂を分かつことのできない友人なのだ」と。恐らく、それは日米も経済的には貿易相手であって、必ずしも「敵」ではないのです。要は、安全保障上の脅威として見るか見ないかの視座の問題でした。豪州の政治レベルの判断として、「No! 中国を脅威として認識していない」というものでした。

 それもそのはずで、実際、中国は資源大国オーストラリアの原材料の3分の1以上の輸出国であり、いまだ1940億$もの最大の貿易相手国です。その経済的な繋がりを背景に、オーストラリアの政財界に懐柔・浸透した中国に、豪州は徐々に疑念を持つようになりました。分水嶺的には、親中派で知られたターンブル政権の際に、ダーウィン港を中国企業に99年間租借(2016年)する怪しい協定を結んだ頃を頂点に、2017年の報道番組以降、中国熱が冷めていきます。この「親中」から「疑中」を経て、一挙に「反中・嫌中」的に舵を切ることになったのは、中国の豪州に対する貿易おける報復措置です。2018年にオーストラリア政府が、5G通信網から中国のファーウェイ社の製品を拒否したのを皮切りに、中国に物申すようになった際、中国は豪州製品の輸入に対し反ダンピング関税を発動するなど、異常なほど過激な対抗措置を取りました。この対抗策に対し、豪州内では中国に対して事を構えたことに対する後悔ではなく、「本性を見た」というレベルの強い反発心が醸成されました。この流れの帰結が、2020年のコロナ禍です。新型コロナウイルスの起源の問題について、まず病気の発祥の地であった武漢に対する国際的な調査の必要性を豪州政府が言及した際に、中国は殊更にオーストラリアに対して反発。これまた様々な対豪経済制裁に出ました。「掌替えし」はお互い様なのかも知れませんが、つい先日までの蜜月から一挙に関係は冷却化しました。2021年に至っては、4月5月頃には過去最低レベルの関係悪化になり、中国は、これまで豪中外交の成果でもあった二国間の戦略経済対話の活動をすべて停止する、という対抗措置に出ました。これに対し、豪軍将官や政府高官から、台湾有事の際には中国との戦争の可能性にも言及があったほどです。英語の方のNewsweek誌のバックナンバーで、2021年5月6日付記事「Why Australia-China War Talk is Rising Between the Two Nations」(=「豪州で対中戦争論が持ち上がる理由」)と題したものまで出るほどです。

豪州の覚悟
 前掲のニューズウィーク誌日本版の2021年7月16日付記事「経済依存してきた中国に、真っ向から歯向かうオーストラリアの勝算は?」の一説の言葉を借りれば、「資源大国オーストラリアにとって、最大の貿易相手国である中国への強硬姿勢には当然ながら不安もある」というのが、オーストラリアの偽らざる気持ちでしょう。
 しかし、・・・私見ながら、結局、豪州は腹をくくったのでしょう。覚悟を決めたんですよ。
 貿易相手としては、今でさえお得意様である中国に対し、政治・安全保障の世界においては明確に一線を引いたわけです。日米だって同様ですが、平時の経済活動として、貿易においてはお互いにお得意様ですが、いざ死活的国益のフィールドの話になったら、まなじりを決して対決するぞ!という意味において、腹をくくったんですよ。立派、あっぱれ!
 日本もかくあるべし。

(了)


にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
2021/07/14

アフガンの行方:米軍撤退、タリバン全土制圧、ロシア/中国/トルコの思惑

スクリーンショット (36)
米国建国記念日を前にした7月2日の会見にてバイデン大統領は明々白々にアフガン撤退についての記者の質問を嫌がった。
(2021年7月3日付BBC記事「Bagram: Last US and Nato forces leave key Afghanistan base」より)
 
「米軍が遂にアフガンから完全撤退…」 
 あれ?このニュース、いつか見た光景のような気がします。
 そう、1975年4月下旬、南ベトナム政府を見限ってサイゴンから米軍が全軍撤退したベトナム戦争の末期のデジャブを見ているようです。撤退直後の南ベトナムの首都サイゴン陥落のように、アフガンのカブール陥落も時間の問題かもしれません。

米軍のアフガン撤退完了は目前に
 2021年7月8日、米国のバイデン大統領は、アフガニスタンにおける米軍の活動について同年‪8月31日に終了する予定、と発表。これに先立つ7月2日には、在アフガン最大の軍事基地で空港機能を持ったバグラム基地から撤退。この日の会見では、米国建国記念日を目前にした会見ということもあり、バイデン大統領は明々白々にアフガン撤退についての記者の質問を嫌がりました。(参照:冒頭写真ののBBC記事)米軍以外の外国軍もほとんどが米軍以前に撤退。今後、650名の米軍が米国大使館などの警備のために残留するのみとなりました。これにて20年近く続いた米国主導の多国籍軍によるアフガンでの作戦行動は全て終了し、名実ともに、外国軍がアフガンから撤退します。‬

 一方、勢力を盛り返しつつあるタリバンは、米軍の逐次撤退に伴い地方から中央に向け、各地でアフガン政府軍を潰走させ、失地を回復して捲土重来を果たしつつあります。‬(2021年7月5日付BBC記事「Afghanistan: Soldiers flee to Tajikistan after Taliban clashes」
_119248033_img-20210622-wa0022-768x5761.jpg
6月のタリバン民兵との戦闘で敗れタジキスタンに逃げ込んだアフガン政府軍兵士(More than 1,000 Afghan soldiers have fled to neighbouring Tajikistan after clashing with Taliban militants, officials have said.)(前掲BBC記事より)

アフガンの行方
‪ 現地をよく知る英‬国防軍参謀長のサー・ニック・カーター陸軍大将はBBCの報道番組「Today」で、アフガンの今後について、公算大なシナリオ2つと望ましいシナリオ1つを説明しました。 公算大な①「アフガン政府が踏みとどまり全州都を維持」、及び②「‪タリバンが国の一部を支配、国が分裂」。加えて、望ましいシナリオ③「(政府とタリバンが)‬具体的な政治的譲歩と協議が実現する展開」です。
 私見ながら、これは英国防軍参謀長という立場からの、いささか政治的なコメントでしょうね。現地をよく知る方ですので、腹の中ではもっと深刻に受け止めているはずです。最も公算大なのは、「‪タリバンによる全土制圧・統一」でしょう。政府軍も踏ん張ったとしても、優勢なタリバン支配地域と劣勢なアフガン政府支配地域に二つに分裂し、事実上アフガンという国家は崩壊し、国際社会にアフガン国家・政府を代表する正当な主体は存在しなくなるでしょう。それも時間の問題で、結局はタリバンは全土制圧するでしょうね。いわんや、③の「(政府とタリバンが)‬具体的な政治的譲歩と協議が実現する展開」はありえないでしょう。タリバンはアフガン政府を米国の傀儡と見ているので、政治的妥協なんかしませんよ。現政府要人は殺し尽くすでしょう。英国防軍参謀長の①のシナリオが成り立つのは、撤退後も米軍が政府軍の作戦を航空攻撃によって全面的にバックアップする場合のみです。しかし、それはもはやバイデン米大統領にその気がないのです。事実、バイデン大統領は会見の際に、「これまでと違う結果達成の合理的な期待がないまま、新世代のアメリカ人をまたアフガニスタンの戦争に送り込むつもりはない」と発言しています。(参照:2021年7月3日付BBC記事「Bagram: Last US and Nato forces leave key Afghanistan base」)
 
 アフガン政府は、引き続き米軍のバックアップがあることをタリバンはじめ内外に示したいため、今月2日、アフガンのガニ大統領と駐留米軍司令官ミラー大将が会談し、「米国の継続的な支援と協力」を協議したと発表していますが、これは焦りの証左でしょう。恐らく、アフガン政府にしてみれば、在アフガン米国大使館(及び同盟国大使館)の警備のための650名の米軍を人質に、相応の(マイナーな)非軍事支援を得るくらいでしょう。米軍にとっては、それにより外郭の警備と安全の保障を得る程度でしょうね。やがて来るタリバンと政府軍の戦いが、首都カブールに及ぶ際は、米国は大使館を引き揚げるでしょうね。じ後は中立的立場を貫き、アフガン政府軍への軍事的支援はしないでしょう。だって、腐敗した政府と戦う団結力がなく戦っては潰走する政府軍を米軍は既に見限っているのです。
 
米軍が去って虎視眈々のタリバン、ロシア、中国、そしてトルコ
 タリバンはもはや全土統一しか頭にないでしょう。これまで最強の米軍がいたので山岳地帯に逃げ、地方からジワジワと勢力伸長しては米軍に叩かれてきました。トランプ前大統領がアフガン撤退のためにタリバンとネゴり、2021年5月には完全撤退することを条件に、米軍撤退までの間は米軍に手を出さないことに同意したのです。米国はこの協議にアフガン政府を交渉のテーブルにすらつけませんでした。見限ってますから。タリバンの現在の焦眉の急の戦略目標は米軍が去ったバグラム基地。ここには米軍の残置した武器弾薬や物資があり、基地自体は今後の重要な戦力基盤です。当然、現在はアフガン政府軍が我が物としています。これが攻略された時がアフガン政府軍の事実上の壊滅の時期でしょう。

 ロシアの思惑は少し複雑。過去タリバンと泥沼の紛争が長く続いた挙句にアフガン撤退をした経験から、タリバンとは手を結べません。アフガン近隣国トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタンなどと連携して、対タリバン防波堤を講じ、アフガン政府とも連携の模様。でも、ロシアもアフガン政府と政府軍の実力の低さを知っており、痛い目に遭っているので深入りは避けるでしょう。

 中国の思惑について、2021年7月9日付産経新聞記事「中国、アフガン関与狙う」によれば、中国内の新疆ウイグルの安定のため、アフガンをイスラムテロの温床化させないよう、米軍撤退後のアフガン安定化に関与する姿勢を見せ、アフガン政府とも連携しつつ、パキスタンを通じてタリバン支援もしている模様。しかし、私見ながらタリバンとは手を組めまいと見ています。タリバンは根っからのイスラム原理主義ですから、中国と手を結ぶ要素は共通の敵がいるときだけでしょう。米軍が去った今、共通の敵は不在です。中国が対アフガン関与政策を進めるなら、めでたいことだと思います。やがて必ずや思惑通りに運ばずに破綻するでしょう。むしろ、新疆ウイグル自治区で虐げられたウイグル人とタリバンが連携して、対中国の戦力基盤に育てたいですね。

 トルコもアフガン関与を狙っている模様です。2021年7月9日付読売新聞記事「トルコ、アフガン積極関与」によれば、トルコ軍はNATO加盟国として現在も500名ほどアフガン駐留をしており、これをカブール空港警備のために残す模様です。これにより、バグラム基地を撤退した後のカブール空港の戦略的重要性を認識する米国に恩を売り、ロシア製の防空システムS400を米国に内緒で買って米国の激怒を買っている問題の解消を図っている、とのこと。トルコに関しては、タリバンもイスラム教徒なので敵視していないという他のアフガン駐留国とは違う要素があります。それでも、カブール空港警備となると、空港を掌握したいタリバンと利害衝突し、やがて攻撃対象とされるかもしれません。

私見ながら
 思うに、アフガニスタンという国は特別に御し難い民族性を持つ国でして、古くはイスラム帝国、モンゴル帝国、チムール帝国、オスマン帝国、近代でも大英帝国、現代に入ってソ連、そして今回の米国と、いかなる最強軍事大国と雖も、草の根レベルで抵抗されコントロールできず、最後はホッポリ投げられてきた国なのです。ベトナム戦争に勝った北ベトナムを想起させる不屈の反発心を持つアフガンの民族性は、世界最強かもしれません。ですから、中国には是非深入りしてもらいたいですね。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
2021/07/07

コロナ無しだがロックダウン不況:北朝鮮の強気の泣き言

Kim Jong Un, June 29 2021
党中央委員会の拡大会議(2021年6月29日)で厳しい表情で北朝鮮の現状を語る金正恩総書記(2021年7月5日付VOA記事「7月3日付けVOA記事「North Korea Faces Worsening Economic Woes amid COVID Lockdown」」より)

北朝鮮の現在の状況が見えてきた
 2021年6月15日から金正恩総書記出席のもと、朝鮮労働党第8回中央委員会第3回全体会議が行われ、29日には党政治局の拡大会議が行われ、金総書記が発言し、その内容が30日付の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に掲載されました。
 その内容から、北朝鮮の現在の状況が読み取れ、それを各国各紙が記事にしています。(2021年6月30日付けNHKの報道「“コロナ対策で危機をもたらす重大事件” 北朝鮮 国営メデイア」、7月3日付けVOA記事「North Korea Faces Worsening Economic Woes amid COVID Lockdown」など)
 それらの報道によると、ザックリ言うと次の4点です。
 ① 北朝鮮は鎖国的なロックダウンを継続しており、これが功を奏して未だコロナ感染なしを維持している。
 ② 国連がコロナワクチンを供与する枠組みを提示しているのに北朝鮮は拒否した。
 ③ このロックダウンの維持により、昨年の台風の影響等による壊滅的な飢饉の状況とのダブルパンチで、経済危機に陥りもはや人道危機の状況である。(金正日時代の1990年代に数百万人が飢饉で犠牲になった頃を引き合いに出す)
 ④ コロナ対策について政府高官の重大な過失があり、「国家と人民の安全に大きな危機をもたらす重大な事件が発生」し「幹部たちの無能と無責任」を指摘した。
 
 上記4点をどう理解するか、がミソですね。
 まず①の「コロナ対策が功を奏してコロナ未だ感染者なし」を高らかに誇示し、②ではコロナワクチンの国際的供与を拒否」するという相変わらずの強気な姿勢の表れ。
 しかし、③で「ロックダウンの影響と飢饉でもはや経済危機・人道危機」という冷静な分析のような泣き言を言い、④では「政府高官がコロナ対策で重大な過失」とのショッキングだが内容を全く明かさずに誰かに責任を負わし、政府の過失を認めざるを得なかった弱気を示しています。
 
 私見ながら、4つともいつもの北朝鮮らしい表面上は強気一辺倒ですが、その実、弱気が如実に交錯しており、北朝鮮にしては相当弱っている感がします。しかし、本当に弱っているのか?というと、北朝鮮ウォッチャーによれば、「それほどの危機的状態とは思えない」(デイリーNKロバート・ローラー氏)という指摘もあります。北朝鮮はワクチンを使いたければ、国連の枠組みにすがらずとも、中国やロシアのワクチン供与を受ける手もあるのに、「それをしないということは本当にワクチンを拒んでいるかも」、という指摘もあります(米スチムソンセンターのレイチェル・ミヨン・リー女史)。
 
強気と弱気の交錯した北朝鮮の本音は?
 上記の①~④と北朝鮮ウォッチャーの専門家の意見を踏まえた私見を述べさせていただければ、
 まず、①の「北朝鮮はコロナ感染なし」というのは虚偽で、事実上感染者はかなり出ているが、鎖国的ロックダウンにより限定的ではある。これまで「感染者なし」と報告してきたことに綻びを生じ、もはや金正恩の知るところとなり、関連高官は責任を取らされて粛清された。これが④の部分であろう。金正恩もコロナの感染状況などを具体的に掌握しているが、これまでの内外への、特に国民への「コロナ感染なし」との説明との整合性から、(今更「実は感染してました」とは口が裂けても言えない。)引き続き、この姿勢を崩さず強気に行く。いわんやコロナワクチンを海外から供与されて、「全国民にワクチンを射つ」なんて極力避けたい。コロナ感染拡大を抑える最有力手段は、北朝鮮の場合は、引き続き鎖国的ロックダウンしかない。従って、海外からの人や物の流入を止め続けたい。だから②の「ワクチンすら外国から入れさせない」。しかし、これが中国をはじめ支援を提供する国々からの支援をも止めることになるというジレンマに陥っている。③の「経済は疲弊し、飢饉が祟って国民は飢えに苦しむ」。・・・と一応、決して他国に困窮を訴えて支援を哀願するような表現は一切せず、極めて冷静な分析を装って弱音を吐く。その弱音の理由は、「本当は経済支援、食糧支援を得たいから」、ということではないのかも。まだ余力はあるのかも。ではなぜ③のように「人道危機」とまで言うのか?私見ながら、バイデン新政権になった米国との交渉の切り口として、米側の譲歩を引き出すための対米国用の「交渉の切り口提示」の発言であり、巧妙な交渉術ではないか、と見ています。
 
 (了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング