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2022/11/17

ウクライナ軍のドニプロ川渡河作戦始まる:東岸に橋頭堡を確立せよ! 

Nov 16 2022
現地時間11月16日の南部戦線の戦況(2022年11月17日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates:RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, November 16」より)

ドニプロ川渡河作戦は始まっている 
 狡猾なウクライナ軍は音なしの構えのためメディア報道がされていませんが、ウクライナ軍のドニプロ川東岸への渡河作戦は既に開始されています。 
 ISW(米国の戦争研究所)の分析にて、数日前からウクライナ軍が数か所でドニプロ川の渡河を試み、ロシア軍の陣地からの渡河を阻止する戦闘が報告されていました。最新の2022年11月15日付(日本時間16日午後発信)の分析では、ロシア側の一部の報告として「既にヘルソン市の東方40㎞のノヴァ・カホウカ、同市の南東10㎞オレシキー、及び同市の西方40㎞以上に黒海に伸びる突き出る半島キンバーン・スピットに到達した」との情報があります。オレシキーのウクライナ市長が「ウクライナ軍がオレシキーを解放した」とのソーシャルメディアへの投稿がありましたが、後に削除した模様です。一方で、ロシア側のソーシャルメディアへの投稿でオレシキーから後退するロシア軍の姿が報告されています。要するに、ウクライナ軍は既に渡河作戦を実施中で、一部は東岸に達しているものの、渡河作戦は「半渡(はんと)」と言って渡河の途中が一番脆弱なため、敢えてその行動を秘匿し、ロシア軍からの集中砲火を避けているものと思われます。 
 
東岸に橋頭堡を確立せよ 
 ドニプロ川渡河作戦の最初の関門はドニプロ川を渡って、橋頭堡を設置することです。橋頭堡とは、「敵地などの不利な地理的条件での戦闘を有利に運ぶための前進拠点であり、本来の意味では橋の対岸を守るための砦のこと」(Wikipediaより)であり、ロシア軍の構えるドニプロ川の東岸にウクライナ軍の攻撃拠点を設置することです。この拠点が設置されれば、この拠点が盾となって後続部隊の渡河を援護し、かつ後続部隊がこの拠点からロシア陣地に対して攻撃をする際にはこの拠点が攻撃の援護射撃をする拠点になります。 
 しかし、渡河作戦というのは実に難しい。まず橋をロシア軍に落とされたドニプロ川を渡らねばなりません。ドニプロ川は大河なので渡渉点によっては100mを越えます。恐らく橋頭堡が設置されるまでは浮橋(ふきょう)を使った艀(はしけ)で部隊を対岸で隠密裏に運んで、橋頭堡が設置された後に浮橋を連結して応急の架橋を設置するのではないかと思われます。 
 努めて隠密裏に渡河し、敵のいる東岸に拠点を築く、というのが一苦労です。このため、敵に気付かれずに比較的容易に川が渡れて、なおかつ、対岸に拠点となりそうな堅固な盾となってくれる地形があって盾の後に後続部隊を収容できる一定程度の地積がある、そんな場所を選ばねばなりません。恐らく、夜間のうちに一部の部隊が隠密に渡河し、夜陰に乗じて拠点となる地域を偵察し、同地を占領・確保を目指しますが。恐らくは、ロシア軍も警戒していますから、半渡の状態でウクライナ軍の渡河の動きを察知し、そこに集中砲火をかけてきます。こちらも西岸の後方から敵陣地に猛烈に砲撃して頭を上げさせないように応戦します。その激戦の中、拠点を設定する部隊を渡河させ、東岸に引き入れて応急の陣地を構成し、何とか橋頭堡を設置する、という流れです。当然、激戦になります。この激戦の中で、橋頭堡を設定し、なおかつ逐次部隊と装備を投入して強化して、拠点化する流れです。 
 恐らく、ウクライナ軍は今まさに橋頭堡を設定している最中でしょう。激戦は必至ですが、頑張ってくれ! 
自衛隊 艀(浮橋)
 (架橋)浮橋
プレゼンテーション3
上が浮橋を使った艀(はしけ)、中が浮橋を使った応急の架橋(MotorFan.jp「陸上自衛隊:90式戦車も渡れる! 浮体橋とボートで構成、柔軟に運用できる『92式浮橋』自衛隊新戦力図鑑」より(※写真は自衛隊提供) ) 、下の写真は朝鮮戦争時の釜山橋頭堡
 
冬を見越して早期に渡河作戦を成功させ努めて早く東岸のロシア陣地線を突破せよ 
 よく指摘される「冬将軍」の条件下での作戦について、どんな様相になりそうかを展望します。 
 まず、この地域の冬は北海道以上の寒さであること念頭に置く必要があります。大陸の冬ですから、日本人の経験したことのない様相です。強いて言えば、日露戦争時の冬の黒溝台の戦闘で我々の大先輩たちが経験した状況に近いのかも知れません。今回のウクライナ戦争の地域では、過去、ナポレオンやナチスドイツが冬将軍に敗れ、厳寒の中で半死半生の退却となりました。 
 さて、元々の地元同士の戦いとなったウクライナ軍対ロシア軍はどうか?結論から言うと、厳寒の気候は戦闘の進展を大いに減速するものの、両国軍とも冬装備を保有し、冬でも戦闘訓練を積んでいますから、基本的に戦闘行動は継続できます。事実、ナチスドイツにモスクワ攻防戦まで迫られた当時のソ連軍は、厳冬期に頑強な戦闘を継続し、ナチスドイツに粘り勝ちしました。当時は現ウクライナ人もロシア人もソ連軍として戦っています。従って、戦況進展のスピードは鈍くなりますが、これまで通り日々戦闘は継続するでしょう。とは言え、12月半ばから一機に厳寒の気候に入り、ドニプロ川は凍結し、大地は凍土となります。このことが戦闘に大きく影響することは間違いありません。 
 攻者ウクライナ軍と防者ロシア軍の差についてですが、一般的に、防御側は自ら準備した防御陣地に戦闘に必要な武器・弾薬・食料・各種補給品を備蓄してあり、防寒を含め備えかつ構えているので、有利であることは明白。他方、攻撃側は、事前の準備もなく何の防護物もない敵地に自らの姿を晒して乗り込んでいくので、更に武器・弾薬・食料は携行したもので当面の戦いをしなければならないので、非常に不利です。厳寒の中、敵弾に晒されて凍る大地に身を伏せるので、敵弾下でそのまま動けなければ凍死する状況です。 
 厳寒期の気候が戦闘に与える影響ですが、これは攻防両軍に言えることですが、武器や戦車等の装備は厳寒下で故障や結露が起き得ます。金属の潤滑グリスが固まってしまったり、人が接する照準具や照準眼鏡の結露も起きます。故障排除するにも、修理のための後送するにも、厳寒期ゆえの困難が伴います。この点では、西側諸国の支援の下、後方補給態勢が比較的整っているウクライナ軍は有利であり、一方、ロシア軍ヘルソン東岸守備隊はウクライナ軍の長射程砲HIMARSによる後方補給拠点やチョークポイントへの砲撃により、後方補給態勢が非常に脆弱になっており、この点ではウクライナ軍が非常に有利と言えます。 
 また、日照時間が短くなるので、いわゆる日中の戦闘時間が短く、夜間戦闘の時間が長くなります。現地では夏季に日に15時間程度ある日照時間が、冬季には9時間程度になります。夜間でも戦闘するには照明弾による照明や暗視眼鏡の使用が必要です。この点でも、西側諸国の支援を受けたウクライナが有利、後方補給が脆弱なロシアは不利と言えましょう。 
  
 総じて言うと、12月半ば以降の厳冬期は両軍の戦闘行動に大きく影響を与えますが、戦闘行動は継続します。しかし、既述の通り厳冬期となると基本的に防者に有利、攻者に不利なため、厳寒期を迎える前に渡河作戦を成功させられるか否かがカギとなります。厳寒期の渡河作戦は非常に厳しい。ヘタをするとドニプロ川の線で戦線が膠着してしまいます。それではロシア軍の思う壺。よって、ウクライナ軍の観点から言えば、現在の戦勢を活かして努めて早期=努めて11月中にヘルソン東岸に橋頭堡を確立して、12月前半にロシア陣地線に突破口を開けて陣内戦に持ち込みたいところです。

 頑張れ、ウクライナ!

(了)

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2022/09/18

ロシア軍北部戦線ハルキウ州敗走:背景に劣悪な指揮、装備、兵士

recruiting in jail
兵士不足を補うため刑務所の囚人に志願を募るロシア民間軍事会社ワグネル(2022年9月17日付BBC記事「Russia's Wagner boss: It's prisoners fighting in Ukraine, or your children」より)

敗走したロシア軍将兵の声なき声
 2022年9月初旬のウクライナの北部から東部にかけての反撃攻勢が成功裏に進むや否や、連日ウクライナ情勢のマスコミ報道がかしましくなされています。その尻馬に乗るようにロシアをこき下ろすような話を書きたくないのですが、そんな記事の中に現在第一線にいるロシア軍の将兵が直面している様々な困難な問題が見られ、今後のウクライナ戦争の行方にも大きく影響しそうなので、そうした要因に着目してみたいと思います。特に、ロシア軍が撤退したハルキウ州に残されたロシア軍の武器や弾薬、様々な遺棄資料、或いは、ロシア国内での軍事ブロガーの軍や政府への批判の中に、耳を傾けるべき前線のロシア軍将兵の声なき声が聞こえてきます。

敗走の背景に指揮、装備、兵士の質の問題が
 北部戦線ハルキウ正面でロシア軍がかくも脆くも敗走するに至った背景にはどういう要因があったのか?について、軍事作戦の優劣以外の要因を焦点に、いろいろな記事を読み漁ったところ、①指揮、②装備、③兵士の資質、の3点で現場のロシア軍将兵がひじょうに困難な状況に直面している模様です。これが故に、ロシア軍は本来の頑強な抵抗や我慢強さを発揮することなく、意外に脆くも敗走に至ったのではないか、と推察されます。

①指揮
 頼りない指揮、端的には「指揮官」が本来の指揮を執っていないことが問題のようです。それを端的に示す例として、前線の将兵達が「There is no opponent worse than your own commander who is a… (=バカな指揮官は敵より怖い)」という刺繍のパッチを戦闘服に貼って行動している、そんな画像がロシア国内の軍事ブログに出回っているそうです。(参照:2022年9月17日付BBC記事「Ukraine war: Russian retreat exposes military weaknesses」) どこの軍隊でも、たまにバカな指揮官はいるものです。そんな場合、将兵達は腹ではそう思っても(たまに将兵間の酒のツマミに上司の悪口をいうことはあっても)、自分の考えをパッチに刺繍して貼るなんて自殺行為はしませんよ。特に、上下関係の厳格な以前のロシア軍ではあり得ないことです。ロシア軍なら見つかったら全員摘発され、拷問のあげく反省独房に入れられ、相当の痛い目に遭うハズです。自衛隊ですら、反省房はないもののこってりと指導され、「注意」処分を受けるでしょう。そのはずが、こうして隊員達が上官の頼りなさをこき下ろすパッチを隊員共有のコンセンサスかのように平気で貼っている、….近代軍隊として考えられない状況です。要するに、小隊長クラスの身近な将校を含めて、小隊・中隊・大隊・連隊等の各級指揮官の「部隊指揮」が成り立っていないのでしょう。これでは軍事作戦の実行を命じる「命令」の尊厳は無力化してしまい、部隊の軍事行動は成り立ちません。
 こういう状況であれば、指揮官の「撤退」命令を待たずに、将兵が自分の守るべき陣地を捨てて勝手に逃げ出し始め、もはや統制の取れない状況で「敗走」に至ったのであろうことは、容易に想像できます。

②装備
 2022年2月下旬にロシアのウクライナ侵攻が開始されて以来、特に、電撃侵攻の初期作戦において、第2次世界大戦後最大規模のロシア軍の大戦車軍団がウクライナの各正面で機動・展開し、惜しげもなく精密誘導弾などの新鋭兵器が撃ち込まれました。恐らく短期決戦の算段をしていたのでしょう。それが半年を超える長期戦となり、ロシア軍はもはや「矢弾尽きる」状態になっています。
 前線の将兵は、今日明日の装具・武器・弾薬・各種補給品にも事欠いている状況です。その窮状は、現場の将兵が家族との間でとる電話連絡やSNSを通じてロシア国内にも知られ、国内でクラウドファンディングが始まっている模様です。国家財政からの支出ではなく市民レベルの資金集めにより、既に過去3ヶ月間で約15億ルーブル(1700万ドル)を集め、戦う装備の武器・弾薬やドローンに始まり、兵士が身につける戦闘服や防寒具・靴下・下着に至るまで、ありとあらゆる補給品を前線に送るため、資金集めが活発に行われている…。状況はそんなところまで来ているようです。民間がお金で軍需品を買って前線に寄付する?そんなことができる国なんですね。

③兵士の資質
 侵攻開始以来、ロシア軍将兵の人的損耗は相当な数字に至っていると思われます。ロシア国防省の発表では千名程度のようですが、ウクライナ国防省の読みで4万名、米国国防省の読みでも1万5千名は戦死しているとのこと。戦線での人的損耗の交代要員をロシアは補充したいわけですが、今回の戦闘は他国との「戦争」ではなく、特定の目的のもと限定的な軍事目標を達成するための「特別軍事作戦」という仕切りになっており、国家としての徴兵や動員の大号令をかけていません。これに代えてロシア政府がやっているのは「志願兵の募集」です。
 ところが、この「志願兵」がクセモノ。ロシアの周辺少数民族をお金で釣って雇って少数民族の志願兵大隊を作ったり、東部2州などの占領地の男子を半ば強制で動員したり(もはや占領地の男性は老いも若きも駆り出されている模様)、果ては悪名高きロシアの民間軍事企業ワグネルが刑務所に服役中の囚人を動員(一応「志願」兵らしい)して、これらの動員された志願兵は、わずか1週間の新兵訓練だけ受けたのみで前線に放り込まれている模様です。(参照: 2022年9月17日付BBC記事「Russia's Wagner boss: It's prisoners fighting in Ukraine, or your children」)
 いやぁー、これでは戦えないでしょうね。兵士の資質なんて、1週間で養えるものではありません。彼らはまだ田舎の市井の市民のまま、或いは囚人のままでしょう。彼らに銃だけ持たせて「戦え!」と言っても、人数だけ揃っても部隊の軍事作戦行動になりませんよ。

間もなくウクライナ戦争の天王山となるヘルソン市攻防戦が始まる!
 あまり着目されていませんが、ISWの毎日の分析を見ていて、私見ながら見出しにように「間もなくウクライナ戦争の天王山となるヘルソン市攻防戦が始まる!」と見ています。9月初旬の北部攻勢を主攻撃と思っているど素人なマスコミ報道に騙されないでください。南部ヘルソン正面がウクライナ軍の主攻撃です。
 否、ヘルソン市攻防戦はもう始まっているのですが、ロシア軍のヘルソン市の防御陣地が固いので戦況が進んでいないだけです。間もなく、ウクライナ軍は血の代償を払いつつ、いずれかの攻撃軸で血路を開き、ここから多くの両軍の血を吸うであろうヘルソン市攻防戦が始まると推察します。
 ロシア軍は、引き続き前述の3点の困難を患いながらも、ここで頑強な抵抗を示すと思います。世界はロシア軍のど根性をここで目撃する、私見ながらそう思っています。

(了)

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2022/08/13

続・断末魔のロシア:各正面で打つ手なし、占領地も混乱。ウクライナの総反撃への期待と不安 

爆発前後のサキ航空基地
爆発前後のクリミアのサキ航空基地(2022年8月12日付BBC記事「Crimea blasts significantly hit Russian fleet」より)

2022年8月13日現在(日本時間)の戦況
 -ロシア軍の主作戦正面である東部戦線ドネツク正面において、現在の接触線に沿ってシヴェルスクの東、バハムートの北東と南東、等において限定的な地上攻撃を行ったものの、バハムート北東部の一部で進撃するも、その他は概ねウクライナ軍に撃退された。今後もバハムートへの進撃を試みると見積もられる。この地上攻撃以外の正面では、接触線沿い及び内陸の都市部への砲爆撃を続けている。
 -ロシア軍の支作戦正面である北部戦線ハルキウ正面において、ロシア軍はもはや地上攻撃を実施せず。ハルキウ市とハルキウ北東及び南東の市街や集落に対する砲爆撃を続けた。
 -ロシア軍の支作戦正面である南部戦線ヘルソン正面においても、ロシア軍は地上攻撃を実施せず。ヘルソン州の行政境界に沿い、及びヘルソン州に隣接したミコライウ州とドニプロペトロウシク州の市街地に対して砲爆撃を続けたのみ。他方ウクライナ軍は、限定的な地上攻撃の他は、かなり継続的に実施しているヘルソン正面のロシア軍の兵站拠点と弾薬庫を標的にしたHIMARSによる徹底的な兵站壊滅作戦を続行。ロシア支配地域のヘルソン州行政顧問が、8 月 12 日のウクライナの砲爆撃により、ロシア軍がノヴァ⁻カホウカ水力発電所を確保しようと軍事装備と弾薬を輸送するために使用した橋が全て使用不能になったことを認めている。
 -米国国務省は8 月 11 日、ザポリージャ原子力発電所への出所不明の砲爆撃があった件について声明を発出し、同原発周辺におけるロシア軍の軍事活動を停止し、原発の管理権をウクライナに返還し、非武装地帯の創設するよう求めた。ちなみに、ロシア軍は同原発に悪名高い民間軍事会社ワグナー(ワグネル)の部隊を配置しており、原発周辺への地雷の敷設など、要塞化を進めている模様。
 -ロシアの占領地域では、①パルチザン活動の脅威化、②アゾフスタリ製鉄所で強靭に抵抗したアゾフ連隊の捕虜に対する見せしめ公開裁判、の2点の動きあり。
  ①占領地をロシア連邦に併合する国民投票を準備中のところ、そうはさせじとパルチザンによるテロ攻撃が数多く起きており、そのテロ攻撃の標的がロシアの占領当局の要員や親ロシア派のウクライナ住民協力者であるため、国民投票準備を阻み占領当局を悩ます最大の要因になっている。8 月 8 日夜、メリトポリの統一ロシア党本部で起きた爆破事件(選挙責任者が標的)、 11 日、ロシアのパスポートとロシアの自動車登録を配布していたロシア内務省のサービス センターの自動車爆破事件(地区登録検査局局長が標的)、また10日にマリウポリの中央地区でも大規模な爆発があったなど、枚挙に暇がない。占領地域のロシア当局の要員にとってパルチザン活動は日常的恐怖の存在であり、駐留ロシア軍の行動も対パルチザン活動に相当な戦力を割かれており、もはや無視できない勢力となっている。
  ②マリウポリのロシア占領当局は、アゾフスタリ製鉄所を拠点に強靭に抵抗したアゾフ連隊の捕虜を「裁判+処刑ショー」とすべく、マリウポリ市立交響楽団ホールを裁判所兼捕虜拘置所に改造し、見世物として公開用の法廷と捕虜を拘置する公開用のオリ等を準備し、これをビデオで公開。この公開法廷は 8 月 24 日、31 日に開かれる模様。これに合わせ、占領当局はロシア国民へのPRとして、「マリウポリでの反ロシアの過激ウクライナ人の抵抗に対処するためにロシア軍は行動を起こしている」というロジックで演出しており、市中ではアゾフ連隊の部隊章付きの制服を着た民間人の逮捕劇をPR用に行っている模様。
 -ロシア軍の人事については、8日米国防省が発表した数値ではウクライナ侵攻開始以来、ロシア軍の戦死傷者の総数は7万~8万に達するとのこと(参照:2022年8月9日付朝日新聞「ロシア軍の死者・負傷者『7万人~8万人に達した』」)。この穴埋めのため、ロシア国内の少数民族共和国への志願者募集キャンペーンを実施しているが、実はかなりサバを読んだ充足率らしく、大隊規模(500数十名)と称して100名そこそこの中隊規模だったりしているのが実情の模様。戦場にいるロシア軍の 約60%は、こうした短期契約の志願兵で構成されており、しかも契約金も支払われておらず、ロシア軍の士気は非常に低い模様。この人員損耗をカバーする要員確保のため、ルハンシク州などの占領した地域のウクライナ住民にて強制動員をかけており、占領下の召集ウクライナ住民のみで8000名を確保する計画がある。また、こうした部隊を指揮する将校を養成するため、本来の将校を養成する士官学校ではなく、急造の将校養成コースを設置し、軍曹経験者を消耗品的な将校・小部隊指揮官として大量生産している模様。そんな中、8 月 11 日に黒海艦隊司令官イーゴリ・オシポフが更迭され、ヴィクトル ソコロフ中将に交代した模様。主要指揮官の更迭はまだ続きそうだ。
(参照: 2022年8月12日付及び11日付ISW記事 「Ukraine Conflict Updates」、ほか)
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ロシア軍に打つ手なし
 上記の動き、特に本来の侵攻作戦の主作戦正面の東部戦線、支作戦正面の北部及び南部において、もはや主要な攻勢作戦は影を潜め、「攻撃は続けてまっせ」という内外へのPR用の地上攻撃以外は、脈絡のない砲爆撃のみ。私見ながら、このPRとは、もはや「内外へのPR」というよりもプーチン大統領へのPRかもしれない。そのくらい、全船を預かる現地ロシア軍部隊に打つ手はない状況です。何より、侵攻作戦の継続には十分な兵力(兵隊さんの数)が最低条件です。今回の場合、東部2州の完全制圧や現在の占領地域の確保のためには、部隊として数十コ大隊規模が必要ですが、後続戦力がもうありません。仕方なく、貧乏な少数民族をお金で釣って志願兵としたり、占領地のウクライナ住民を強制動員したりしている状況です。動員されたウクライナ住民に後ろから銃を突き付けて鉄砲を持たせて戦わせるとして、同胞ウクライナ軍と戦えると思います?少数民族にしても、急に軍事教練を受けて鉄砲を持たせられたくらいで、まともな戦闘ができますか?人数の問題ではなく、これでは戦えません。まぁ、彼らの運用用途は最も不足している最前線の戦闘要員ではなく、後方地域の兵站・補給整備などでしょうけど。

占領地内も混乱
 ロシア占領地内のパルチザン活動の活発化は目を見張るものがありますね。パルチザンの構成要員の方々も命懸けでやっているわけだから大変だと思いますが、イラク戦争やアフガン戦争における米軍を標的としたテロ攻撃と同様、反占領当局・反占領軍に対するテロ攻撃って、弱者の戦法ながら非常に効き目があるんですね。今や、占領地の占領当局の要員は、日常的なテロ攻撃にビビりまくり、ロシア軍の行動も大いに制約を受け、占領政策の推進も遅々として進んでいない模様です。これをロシア国内の国民に覆い隠すため、アゾフ連隊の公開裁判のようなPR策をいろいろやる訳です。恐らく、その公開裁判、そしてその先の公開処刑は、ロシア国内では一定の支持者がいるかもしれませんが、心あるロシア国民やウクライナや欧米をはじめとする国際社会の目にどう映るでしょうか?ISIL(いわゆる「イスラム国」)が中東ででかい面をしていた頃、拘束した西側や敵対アラブ諸国の軍人・民間人をオレンジ色の囚人服を着せ丸見えのオリに入れて、斬首処刑したり体に火をつけて焼死させたり、そんな処刑ショーをネットで垂れ流していました。あの頃と同様、ロシアが公開する裁判や処刑は、国際社会の目には暗澹たる残酷ショーにしか見えないでしょう。

ウクライナの総反撃への期待と不安
 既述の通り、ロシア軍の侵攻も峠を越え、もはや打つ手がなくて断末魔の様相を呈している、・・・そうなると、ウクライナの総反撃の開始に期待がかかります。どうせやるのなら、早く、大々的に、かつ、徹底的に総反撃してくれ、と余計な期待をしてしまいがちです。総反撃をするとすれば、既に今後の反撃の足がかりを得ている南部の2方向でしょう。①ヘルソン市に20kmとほど近い北西のポサド-ポクロウスキからヘルソン市への進撃、及び②ヘルソン市から60km北東のダヴィディウ橋の橋頭堡からノヴァ⁻カクホウカ市への進撃。この2軸でスクリュードライバー的に南部ヘルソン正面でグイグイと穴をあけ、そこから後続の戦力を西側装備で突っ込ませて戦果拡張すれば、一挙に南部戦線で失地を回復していけるでしょう。いやー、期待が膨らみますね。当然、反転攻勢を開始するには十分な兵力・火器・装備・弾薬を予め準備しなければならず、西側からの供与・配分を含め、一定の時間が必要なのでしょう。

 ところが、8月12日付のニュースで、9日にロシア支配下のクリミア半島のロシア軍のサキ航空基地に出所不明の一連の爆発が起き、1名死亡、8機の戦闘機等が大破し、ロシア黒海艦隊の戦力は著しい打撃を受けた模様、との報(参照:2022年8月12日付BBC記事「Crimea blasts significantly hit Russian fleet」)。メディアの報道ぶりでは、ウクライナ特殊部隊の仕業で、これが反撃開始の狼煙であるとの見方も出ていました。ネットで爆発前と後の航空基地の写真を見て確信を持ちました。・・・これは事故じゃない。爆発ではなく、特殊部隊が潜入して爆破装置をつけるか、或いはドローンで精密誘導した誘導弾による爆撃ですね。写真のような各機離隔して掩護壕になっているわけですから、これが偶発の事故で次々と誘爆するわけがありません。当然、人為的ですね。
 この報で、私自身は現役時代を彷彿とさせるようなキナ臭い感覚を覚えました。私の独り言ながら、「クリミア半島はヤバいって。だってプーチンは激怒し、萎えかけたロシア軍の士気にガソリンをかけて火をつけてしまう…。」という不安感を苛みました。勿論、クリミア半島も元々はウクライナの土地です。しかし、プーチンは勿論ですがロシア民族の歴史観からして、「クリミア半島はロシアのもの、麗しき土地、懐かしき土地」という意識があります。もともとはウクライナ人の土地かも知れませんが、歴史的には度々(ほとんどかも)ロシアの支配下に置かれ、現ウクライナの土地になったのも、ソ連時代にウクライナ出身だったフルシチョフ書記長が当時のウクライナ共和国に割譲したことが由縁でした。つい先月にも、ロシア首相のメドベージェフ氏が、「もしウクライナがクリミアを標的にすれば『審判の日』がすぐに待っている」警告していました。

 このキナ臭い不安感は、恐らく米国をはじめ欧米諸国も共感しているのではないかと思います。欧米はウクライナの侵攻前の失地回復を支援してきた訳ですが、ここでクリミアというパンドラの箱まで開けたがるウクライナには、必ずや「ちょっと待て!」と言うと思います。既述の通り、クリミアもロシアに侵攻されて取られた土地ですよ。しかし、今年の2月下旬以降のウクライナ侵攻と2014年以降のクリミア侵攻とは絶対的な違いがあります。それはロシアの国益意識です。前者、すなわち今回のウクライナ侵攻はそもそもロシアの国益?だったかも怪しい。ウクライナの土地を強奪することに国益があった訳じゃなく、ウクライナがNATOやEUに寝返っていくことによる安全保障上の脅威観でした。他方、後者、すなわちクリミア半島は、恐らくロシアの「死活的国益」でしょう。もはや人の国の土地なのにね。イギリス領当時の香港に対する中国の感情に近いかもしれない。だから、2014年の侵攻当時にロシア国民の熱い支持もあったし、欧米の「当惑のあげく黙認」という反応に至ったのだと思います。

 いやー、ゼレンスキー大統領、気持ちは分かるけど、この際クリミアに手を出すのは控えましょうよ。プーチンの手持ち札の中には禁断の「核兵器」をはじめ「生物・化学兵器」もありますが、今のところ一応の合理的判断でそうした札を切り札として使っていません。そのキッカケを作ってしまいますよ。止めときましょう。あいつが死んでから長い目で取り返せばいいじゃないの。あいつが達者なうちは止めときましょうよ。

 頑張れ!ウクライナ‼

(了)

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2022/05/25

ウクライナ戦況の実相:今様「西部戦線異状なし」 実は今だに一進一退

メディアの報道では分からない戦況の実相
 メディアの報道ぶりを紙面やTV画面で斜め読みしていると、ともするとドンバスの戦いは終わったかのような錯覚に陥りますが、とんでもない話です。 米国のInstitute of Study of War(戦争研究所)の最新情報(参照: 2022年5月24日付ISW記事 「Ukraine conflict updates (May 23, 2022)」)の戦況の細部を確認したところ、ウクライナの全正面で実は今だに一進一退の戦闘が続いている状況がよく分かります。確かに戦勢(勢い)上はウクライナが辛勝したと言えますが、実際の戦場ではロシア軍とウクライナ軍は各戦線で対峙しており、まだ戦闘は継続中なのです。

一進一退の戦闘が各地で続く
 以下、戦況を説明するに当たり、便宜上、侵攻(攻撃)側のロシア軍の作戦構想で下記の4正面を分けて説明します。(戦争研究所の戦況分析は、ウクライナ軍、米軍からの情報に加え、ロシア内の独自情報源によるものです。下記の戦況は、戦争研究所の前掲戦況資料に基づき、私の解釈を加えています。)
スライド1

 ザックリ言うと、各正面の概要は次のような状況です。
 ロシア軍の攻撃は、
  主作戦正面①: 東部(ドンバス地域)正面(イジュームとドネツク及びルハンシク正面における対ウクライナ軍包囲作戦)
  支作戦正面②: マリウポリ正面(マリウポリの完全掌握のためのアゾフスタリ製鉄所の掃討戦)
  支作戦正面③: ハルキウ正面(ハルキウから部隊を北に転じて東部正面の取作戦正面のための後方補給線の確保)
  支作戦正面④: 南部正面(へルソン州の確保)。

 総じて言うと、東部正面(ドンバス平原)においてロシア軍は引き続き各地域で攻撃を継続しており、一部では突破し、局地的に新たな獲得地を得たり、ウクライナ軍を包囲・撤退させている模様です。ウクライナ軍にしてみれば、概ね陣地線を維持しつつも、一部で奪取された地域もある激戦が続いている状況です。ハルキウ正面では、ウクライナ軍がロシア軍を押し戻したものの、同正面にロシア軍は一部を維持し、主作戦正面への後方連絡線(補給線)を維持、マリウポリ正面及び南部(へルソン)正面では、ロシア軍は「防勢転移」の態勢と言えましょう。
 図の見方として、ここ数日の攻防の進展として、水色部分がウクライナがここ数日で反撃して奪還した地域、黄土色(オレンジ?)がロシア軍がここ数日で新たに突破・奪取した地域です。
  
<① ドンバス平原正面>
スライド2
スライド3
 東部戦線ドンバス正面のロシア軍の作戦目的は「ドネツク州及びルハンシク州2州の完全掌握」であり、そのための作戦目標は「ドンバス平原に主力部隊を集結させたウクライナ軍を包囲・殲滅する」ことである。しかし、現在の戦況ではロシア軍の攻撃衝力は勢いを失しているものの、局地的に戦力を投入して攻撃を仕掛けてきており、局地的な突破口が形成されると形勢が逆転する可能性もあるギリギリのせめぎあいである。
 具体的には、23日、イジューム南東部への空爆と砲撃を強化し、ロシアの各地からの増援部隊を投入し、スロビャンスク地区での突破を目指した攻撃を再開する模様。イジュームの南東、ディブロヴェ、ヴィルノピリヤ、ボゴロディチネ、フサリフカ、チェピル、ドリーナ、ストゥデノク、スヴィアトリルスク周辺のウクライナ軍陣地への偵察をしている。ロシア軍がイジューム南東20kmのドヴェンケ地区での突破を図ったが、ウクライナ軍が阻止している。ロシア本土~ハルキウ東部~イジュームに伸びる後方連絡線(Line of Communication/要するに補給線)を確保するため、ハルキウからイジュームの地域に潜むパルチザン(ロシア支配地域にいる親ウクライナ一般市民のゲリラ)のテロ攻撃を封殺するため、この地域にロシア軍治安部隊を投入し、厳戒態勢と摘発体制を強化している。

 また、セヴェロドネツク地区では、ロシア軍の攻撃に進展あり。セヴェロドネツク北東のシチェドリシチェヴェで局地的に突破、さらに、ゾロテでも突破し、南からセヴェロドネツクの局地的包囲を遂げ、この地域でのウクライナ軍に対する局地的な包囲に成功した模様。ロシア軍は、この局地的成功に勢いづき、ポパスナ周辺のトシキフカ、コミシュヴァカ、ニルコヴェ、ヴァシリフカ、ノヴァ・カミャンカ、ミロニフスキー地域での突破を図り、バフムートに向かって西進する企図がある模様。包囲されたウクライナ軍はヴォロディミリフカからソレダールまで西に撤退した模様。ロシア軍は、さらにドネツクとルハンスクの行政国境付近で前進し、バフムートの南東にあるミロノフスキーを攻撃奪取した模様。今後、南と西の両方からバフムートに攻撃する可能性あり。

 また、ライマン地区でも部分的な突破に成功しライマンの一部を支配、次なる目標としてアヴディイフカの攻略を目指している模様。ここが奪取されると、スロヴィャンスクへの高速道路を確保されるため、ウクライナ軍は警戒している。

<② マリウポリ正面>
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 マリウポリ正面のロシア軍の作戦目的は「マリウポリの完全占領」であり、そのための作戦目標は「ウクライナ軍守備隊の縮小」である。大きな戦闘は起きていないが、アゾフスタリ製鉄所のアゾフ連隊の残留部隊の掃討戦が続いている。
具体的な動向としては、ロシア軍と親ロシア派武装勢力は、アゾフスタリ製鉄所地域は度重なる戦闘とロシア軍のクラスター型ロケット焼夷弾の惨状が著しく、地域の安全化に苦慮している模様。アソフスタリ製鉄所へのクラスター型ロケット焼夷弾攻撃についてはロシア内でも批判があり、ウクライナ軍の降伏を待つべきだった、との意見もある模様。アゾフスタリ製鉄所の攻防戦では、ウクライナ軍アゾフ連隊の製鉄所地下要塞を根城にした神出鬼没のゲリラ戦により、相当数のロシア軍の死傷者があった模様。しかも、未だに製鉄所の地下要塞に残留部隊が潜んでおり、掃討戦が続いている。なお、既に投降したアゾフ連隊の兵士らは連行・収監され、占領下のドネツク州の拘置所で裁判を待っている模様。ドネツク州の親ロ派自治政府とロシア政府の占領局との間で官僚的な主導権争いがある模様。また、ロシアからの「ボランティア?」部隊及びチェチェン軍部隊がマリウポリからザポリージャ州に続く高速道路を警戒・監視している模様。

<③ ハルキウ正面>
スライド4
 ハルキウ正面におけるロシア軍の作戦目的は、「イジュームへと延びる後方連絡線を確保する」であり、このための作戦目標は、「ハルキウ正面で攻撃部隊だった勢力を北に転じ(撤退させ)、ハリコフの北部の防御陣地を構築・陣地線の維持」をすることである。ロシア第6軍と第41統合武器軍、ドネツクの親ロシア部隊の第1軍団及びルハンシクの親ロシア部隊の第2軍団の部隊が、ハルキウ正面でのウクライナ軍の更なる前進を防ぐためにこの地域で活動している模様。ロシア軍でなく、東部2州の親ロシア部隊を運用する理由は、同じウクライナ人同士で争わせることを作為している。親ロシア派情報では、ロシア軍がリプシとハルキウ州のルビジネ(ルハンシク州ではなく)でまだ戦闘中、と報告しており、これはロシア軍がハリコフ市の北部で一部をウクライナから再奪還したことを意味する。
 ちなみに、 ロシア軍は5月23日現在で、今だハルキウ市とその周辺を砲撃し続けている。

<④ 南部正面>
スライド5
 南部正面におけるロシア軍の作戦目的は、「ウクライナ南部で恒久的な支配を確立」であり、そのための作戦目標は「ウクライナの反撃から制圧下に置いたヘルソンを確保する」ことである。

 具体的には、ロシア軍がヘルソン州とムィコラ~イウ州の国境を強化している模様。また、ロシア軍は、クリミア北西部に2つのS-400対空ミサイル大隊を配備し、ウクライナの反撃の可能性に対する防空を強化している模様。これらから、ロシア軍は来るべきウクライナ軍のへルソン奪回に向けた備えを固めつつあると言える。 

 また、南部正面(へルソン州)の特質の一つは、ザポリージャ市の南80kmにあるザポリージャ原子力発電所があることだが、ロシア軍がこの発電所の東にあるヴァシリフカに部隊を集結させており、ザポリージャ原子力発電所の支配を未だ狙っており、ザポリージャ州におけるウクライナの反撃の脅威を低減させる企図がある模様。

戦況の実相は今様「西部戦線異状なし」: 一進一退の膠着戦の中で損耗が続く現実
 上記の戦況の記述は、地図と一致しない地名がゴジャゴジャ出てきて読み辛くてすみません。地名等の記述の細部は、分かり辛いので読み流してください。要するに、まだ一進一退の攻防が続いて、辛く長い闘いの日々が続いていることが分かってもらえば結構です。
 いやー、改めて再認識しました。東部正面のドンバス平原の戦いは、今だに激戦中ですね。ロシアが突破を試み、それをウクライナが阻止し、一部では突破され・・・、というような、一進一退の苦しく長い闘いの渦中のようです。
 既述の通り、ウクライナ戦線は名画「西部戦線異状なし」と同様の様相です。戦況は実は今だに一進一退の激戦がそこかしこで起きており、そこに地域住民や双方の兵士の死傷者が数百名出ているのが実態でありながら、双方の上層部や国際的な関心から俯瞰的に見ると、「異状なし、特筆すべき進展や失陥なし」で片づけられる長期膠着戦に陥っているわけです。

 ちなみに、古い映画ですが「西部戦線異状なし」って知っています?第1次世界大戦下の戦線の膠着の中、ある青年ドイツ兵士を主人公に、彼の眼を通じて、当時の一般市民の生活、出征、訓練、前線での砲爆撃、塹壕での生活、戦友の死、空虚感、自らの人間性の喪失、そして自らの戦死、の心の軌跡をたどる名画です。忘れられない名シーンに、思いがけず出くわした敵兵を何とか刺殺したのち、その敵兵にも家族が待っていることを知り、後悔しながら敵兵を介抱するが死んでしまうシーンがあります。またラストシーンでは、人間性を失いつつあった主人公が塹壕の近くでさえずるヒバリに久しぶりに優しい気持ちを起こし、久々にスケッチしようとして手を伸ばしたところで狙撃され死んでしまいます。そして、その日の戦闘報告には「西部戦線異状なし、特筆すべき報告事項なし。」と記載される、という何とも切ない余韻に包まれる名シーンがあります。

 映画の舞台は第1次世界大戦ですが、時を隔てて21世紀の現代戦下でも、この同じ地球の片隅で全く同じことが起きているなぁ、ということをつくづく痛感します。この戦争を、いち早く、終結させたいと思いつつ、我々にはどうしようもないのが現実。せめて、日々メディアの現地の戦況への関心が薄れる中、それでも長期膠着戦の下ではこうした悲劇がずっと起きていることを忘れないようにしたいと思います。

(了)

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2022/03/12

いよいよキエフ攻防戦:必死の抵抗空しく焦土と化し数日で陥落か

いよいよキエフ攻防戦へ
 2022年2月24日から開始されたロシアのウクライナ侵攻は既に2週間が経過。初動で出遅れたロシア軍は、態勢を立て直して本格侵攻モードに入り、建前上は初動と同様「市民を標的としない」と言いつつ、今やロシア軍の攻撃は事実上「無差別化」し市民の犠牲を顧みません。
2022年3月11日(日本時間)の段階で、ロシア軍は初動で攻めあぐねたウクライナの首都キエフに対し、ロシア軍は包囲の態勢をとりつつ最短で北15キロの位置まで来ています。数日前から包囲しつつあり、包囲環を圧縮して最終的な攻撃の戦闘展開をとっているところと思われます。いよいよキエフ市街地での攻防戦が開始されようとしています。

軍民共に待ち構えるキエフ
 2022年3月10日付CNN記事「ロシア軍待ち構えるキエフは『要塞化』、防衛の決意固い市民」によれば、ウクライナ軍のキエフ防衛部隊と残留市民は共同してキエフ市の「要塞化」に努め、来たるべきロシア軍の市内への侵入を待ち構えている模様です。残留一般市民も、健気なまでにキエフ防衛のために対戦車障害を道路に置いたり、土嚢を積み上げたり、火炎瓶を作ったり、兵士のために食糧や物資を供給したりするなど、各自のできることで貢献しようとしています。ウクライナ軍と残留一般市民の士気は高く、ロシア軍から愛する街キエフを守り切る気概に満ち、手ぐすね引いてロシア軍を待ち構えている状況です。

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首都キエフへ進軍するロシア軍を待ち受けるウクライナ軍の兵士ら/Chris McGrath/Getty Images (前掲CNN記事より)
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市中心部での店舗の営業を続けるリュドミラさん(左)と夫のドミトロさん/Ivana Kottasova/CNN (前掲CNN記事より)
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キエフ市街の要塞化の状況(2022年3月12日付BBC「Ukraine war: Kyiv prepares for Russian attack」より)

キエフ攻防戦の行方 
 私見ながら結論から言うと、前述の努力にも関わらず、割と短期、数日でロシア軍がキエフを陥落させるでしょう。
 まず、間もなく始まるであろうロシア軍の猛烈かつ圧倒的・無差別な砲爆撃で市街地は焦土と瓦礫の山と化すでしょう。砲爆撃の間、地下のシェルターに退避していた市民は、シェルターであっても相当な被害者が出るでしょう。砲爆撃の衝撃音で震え上がった上に、瓦礫を掻き分けて地上に上がって2度ビックリ。愛する街キエフの跡形もない程の焦土になって、膝から崩れ落ちることでしょう。その上でロシアは総攻撃開始前に市民の退避を促します。キエフ防衛に気概を燃やしていたはずの市民は、もはや戦意を喪失することでしょう。ロシア軍は、南西方向に人道回廊を設定してほとんどの市民を退避させ、その上で、もはや市民は退避させウクライナ軍しか残っていないという前提で、満を持して人道考慮を一切しない完膚なきまでの総攻撃を開始します。ウクライナ軍も善戦するとは思いますが、ロシア軍の包囲部隊が補給路と退路を断ち、殲滅するつもりでしょう。
 このように、事前砲爆撃で1日、人道回廊で1日、総攻撃(掃討含め)に2日で、最短計4日でキエフ陥落・占領を宣言するでしょう。

 残酷なことを面白がって書いているのではなく、戦術的妥当性及び軍事合理性から言ってこうなる、という現実論です。現在、継続的にロシア・ウクライナ間で停戦協議をしており、先日は外相会談もありましたが、プーチンは当面妥協する気はないでしょう。一応、国際社会に向けたエクスキューズとして、和平努力はしてますよ、というポーズをとるために交渉を継続しているだけであって、停戦のための議論をするつもりは全くありません。先日のラブロフ外相のコメントでも明らかです。プーチンは、ロシア軍に対し、「何が何でも首都キエフを奪取せよ!」と厳命しているでしょうから、ロシア軍は初動の戦闘のような遠慮がちな攻撃を廃し、完膚なきまでの圧倒的な戦闘力発揮をするでしょう。ネックは市民の存在。だから前述のような事前の砲爆撃で焦土化し、市民の士気を挫いた上で人道回廊の設定で市民を退避させると思います。市民にとっては闘魂満々だったでしょうが、焦土と化した愛するキエフの街並みに愕然とし、闘魂は消え去るでしょう。
 
 CNNの記事のような草の根努力は、前述のように灰燼に帰すでしょう。やはり拠点防御を市民交えて続けるのは難しいですね。しかし決して無駄ではありません。この無念の涙と国内戦の現実認識が、これから始まる長い長いウクライナ市民の根強い抵抗のスタートになるのです。拠点防御でなく、あちこちで随時随所のレジスタンスはヨーロッパの市民の抵抗の伝統です。国の主権はロシアに奪われ、親ロシアの傀儡政権が立つでしょうが、ここからの長い長い抵抗にこそ、一縷の望みが繋がるのです。長期に抵抗を続けることで国際社会を後押しし、プーチンから妥協を引き出したり、あわよくばプーチン政権が倒れたり、・・・望みが繋がるわけです。
 がんばれウクライナ!

(了)

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