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2021/05/23

ガザ:危うい停戦は次なる紛争のカウントダウンか

ガザ:危うい停戦は次なる紛争のカウントダウンか
 停戦成りましたね。それはそれでよかった。11日間に及ぶイスラエルとパレスチナ自治政府のガザ地区との間の報復攻撃の応酬は、双方が停戦に合意しました。双方が「勝利」と歓喜し、国際的な援助も本格的に入り、破壊された街が逐次修復され、町も人々も活気を取り戻し始めています。
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停戦を「勝利」と喜ぶガザのパレスチナ人(Palestinians celebrate in the streets following a cease-fire brokered by Egypt between Israel and the ruling Islamist movement Hamas in the Gaza Strip, on May 21, 2021, in Gaza City.)(2021年5月21日付VOA記事「Fragile Israel-Hamas Cease-fire Met with Cheers, Criticism」より)

 しかし、この停戦はゴールではなく、極めて危うい崖っぷちの上を歩いている現在進行形の国際情勢だということを念頭に置くべきだと思います。導火線、いや爆発性の危険物がそこかしこに存在するのがパレスチナです。例えば、東エルサレムのパレスチナ人の土地問題で、裁判結果に基づく強制的な差し押さえに対するパレスチナ人の抗議デモが起きて、それに対するイスラエル官憲のデモ対応でパレスチナ人に犠牲者が出たとして、停戦中とはいえコントロールの効かない過激なハマスの鉄砲玉による暴発はあり得ます。自爆テロやロケット攻撃が起きたとして、それを契機に、イスラエルは報復攻撃をします。停戦は棚上げとなる可能性は十分に高い状態です。これを称して「次なる紛争のカウントダウンだ」という論評もあるくらいです。(BBC記事2021年5月22日付「Israel-Palestinian conflict: Aid arrives in Gaza as ceasefire holds」の評論欄「A countdown to the next conflict?(BBC特派員ToM Bateman))
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エルサレムのアルアクサモスク前の広場でパレスチナ人を取り締まるイスラエル軍(前述のVOA記事より)
 
朗報はエジプトによる停戦監視だが…ハマス内の分裂の兆しもあって…
 2020年秋からのナゴルノカラバフの紛争を例にとると、2020年9月下旬から軍事衝突となり、10月10日に停戦となったものの数次の停戦棚上げで紛争が続き、結局10月10日頃の4度目の停戦でようやく本腰を入れた停戦後の復旧・復興に入りました。決め手は、ロシアの調停とロシア軍の停戦監視部隊の駐留です。ロシア軍が介在している以上、停戦破りがあれば、ロシア軍が乗り出して対応することになりますから、アルメニアもアゼルバイジャンも慎重になります。
 さて、パレスチナのガザはどうでしょう。今回、米国がイスラエルの首に鈴をつけ、ガザのハマスに対してはエジプトが首に鈴をつけました。そのエジプトが停戦監視部隊を駐留させるという情報ですから、ロシア軍ほどのにらみは効かないものの、一応、第3者たるエジプト軍が停戦履行状況をチェックしてくれるし、イスラエルにとっても心からの信用はしていないでしょうけど、一応の停戦監視の履行の保障にはなるでしょう。
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停戦後のパレードでのガザのハマス部隊(Hamas militants parade through the streets for Bassem Issa, a top commander killed by Israeli Defense Forces military actions prior to a cease-fire reached after 11 days of conflict between Gaza's Hamas rulers and Israel, in Gaza City, May 22, 2021.)(2021年5月22日付VOA記事「As Israel-Hamas Cease-Fire Holds, Egypt Mediates for Long-Term Truce」より)

 とはいえ、今回バイデン米大統領とともに停戦の調停役を演じたエジプトのアブデルファッタエルシシ大統領の足元(エジプトの政情)も不安定です。それ以上に危ういのが、ガザ地区の実権を握っているハマスの組織内で、外交重視の調停派と武闘思考の強硬派との間で激しい意見対立がある模様です。ガザのハマスの政治指導者ヤヒヤ・シンワー氏の一派は停戦を長期的に維持することを是として外交重視の姿勢をとっていますが、ハマスの軍事部門の司令官モハメッド・デイフ氏やハマス全体の政治指導者イスマイル・ハニエ氏は対イスラエル強硬派です。停戦も再編成や補給のための方便という思考があります。現行の停戦は利害が一致しているからいいですが、今後東エルサレムの土地問題などで再び問題が顕在化した時には、外交重視派と武闘派の意見対立はコントロールの効かない鉄砲玉がはじけることが引き金となって、イスラエル側から鉄砲玉ではなく公然と報復攻撃という形で停戦破りが行われるかもしれません。それというのも、直ぐ上の写真を見てください。今回の停戦を「勝利」と位置付けて歓喜するパレスチナの若者の目には、上の写真のようなハマス部隊の堂々の市中パレードは「停戦を勝ち取った英雄」に映るわけですから、鉄砲玉予備軍は大勢いるわけです。

 パレスチナ情勢は、まだまだ目が離せませんね。

(了)

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2021/05/21

停戦成るか:やむにやまれぬイスラエルとパレスチナの衝突

停戦成るか?バイデン米大統領のネタニヤフ首相への電話会談
 A statement released by the White House said: "The president conveyed to the prime minister that he expected a significant de-escalation today on the path to a ceasefire." (米大統領府の発表:「米大統領はイスラエル首相に対し、本日中に停戦に向けた重大な緊張の緩和をすることに期待する、と伝えた。」)(BBC 2021年5月19日付(現地時間)記事「Israel-Gaza: Biden tells Netanyahu he wants 'path to ceasefire'」より)
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イスラエルの航空攻撃を受けたガザ市街 (Damage from an Israeli air strike overnight in Gaza City: 前述のBBC記事より)

 連日イスラエルとパレスチナの泥沼の攻撃の応酬が続き、現地市民の悲惨な被害の状況や衝突の状況が日本にも伝えられています。国連や国際社会の仲介も空しく、連日の報復の応酬でしたが、米国がやっと動きましたね。これまでは強い言葉での停戦要請せずにいたバイデン米大統領は、日本時間の本日=現地時間の2021年5月19日(水)朝、イスラエルのネタニヤフ首相と数度目の電話会談をし、今回は明確かつ期限を示して停戦に向けた舵を切れと要請をしました。実質的にパトロンの米国にここまで言われたら、いくらイスラエルのネタニヤフ首相が食えない奴でも、さすがに停戦の方向に舵を切ることにならざるを得ないでしょう。既にイスラエルの外交筋や軍は、これまでの空爆等の成果を評価し概ね軍事的にイスラエルにとっては十分な成果を上げていると分析した上で、エジプトやカタールを仲介に交渉を始めている模様です。

 そうなれば何よりですが、ソロバン勘定通りに行かないのが中東、特にパレスチナ問題なのです。中でも、今回の攻撃の応酬の焦点「ガザ地区」というのは、同じパレスチナ自治政府のでもハマスという過激派組織が実効支配する地区で、今回の衝突でもイスラエルの人口集中地区に対するロケット弾の飽和攻撃という手段で徹底抗戦をしていますので、イスラエル側も一歩も退かない状況です。勿論、ガザ地区のハマス側も一定の成果を得ての停戦という話は受け得る話です。しかし、本当の停戦に至るかどうかのカギは、双方の思惑が停戦の条件において折り合いが付けられるかどうかでしょうね。

 私見ながら、バイデン大統領に直接要請されたからには、表面上イスラエル側は一旦矛先は収めると思いますが、イスラエル官憲の弾圧行為に対するパレスチナ側の反発で起きる地上における小さな衝突を契機に、またどちらかが報復攻撃をし、また再び報復攻撃の応酬の口火を切る可能性が大きいと見ています。

 PKOでイスラエルに勤務し、その際に生のパレスチナ問題も実体験で見聞しました。その肌感覚から言えば、パレスチナ問題は根が深く、一触即発の導火線の中で日常生活をしている感じですから、一度火がついたからには行きつくところまでいかないと治まらないのではないか、と憂慮しています。

「かくすれば かくなるものと 知りながら 已むに已まれぬ 大和魂」
 我々当事者ではない第3者から見ると、感情の発露や怨嗟の応酬にしか見えません。状況が全く違いますが、吉田松陰の和歌を思い出しました。千発ものロケット弾をイスラエルの市街地に向けて撃つガザ地区のパレスチナ人、これを防空システムで迎撃しつつ、航空攻撃でガザの市街地に精密な報復攻撃をするイスラエル軍、・・・「あんなことしたらこうなるから止めとけよ」と我々第3者に批判されようが、彼らにとっては「そうと分かっていても報復攻撃をせざるを得ない」、そんな状況です。「やむにやまれぬ」双方それぞれの感情があって、周囲から即時の攻撃停止を呼びかけられても、攻撃を停止するなどあり得ない、敵に対する報復攻撃をせずにはいられない。そんな彼らを突き動かしている思いとは、自らの生存を脅かす敵を殲滅しない限り、自らの家族の生存が危ういのだ、という自らの生存のための「自己防衛」に根差しています。第3者から何を言われようが、「他人が口を出すな!お前らに何が分かる?」という状況です。
 イスラエルとパレスチナがなぜかくも憎しみ合い傷つけ合うのか、現地で勤務した経験に基づき、見聞きした現場感を踏まえてそれぞれの思いをご紹介します。

パレスチナの「やむにやまれぬ」事情
 イスラエルの事実上の実効支配地域の中に、パレスチナ自治政府の西岸地区とガザ地区があります。これは世界史で皆さんもご承知の通り、2000年も前に確かに現イスラエルの地にユダヤ人の国がありましたが、ユーラシア大陸とアフリカをつなぐ戦略的重要性の高い場所に位置するこの地は、歴史上様々な帝国に支配され、ここにいたユダヤ人たちも歴史の反動の中で世界に離散していました。ユダヤ人とはユダヤ教を信仰する人々のことですから、ユダヤ教の教え通り、「ユダヤの民は今は世界に離散していてユダヤの土地に戻れない状況に身をやつしているが、神との約束に基づき、やがて聖なるあの土地に帰る日が来るのだ。」と2000年の間願ってきました(シオニスト運動)。それが2度の世界大戦後に時機到来したわけです。世界のユダヤ人がユダヤの地に帰り、自分の国を建国しました。しかし、ユダヤ人にとってのユダヤの地は、パレスチナ人にとっては昔からここに住んでいるパレスチナの土地ですから、ここで当然利害対立が起きます。ユダヤ人は当初は英国の手引きで、じ後は自らの手で、この地に帰りつき、お金で土地を買ったり不毛の地を開拓したり、少しづつ土地を獲得し、やがてユダヤ人の国「イスラエル」を建国しようとします。当然、パレスチナ人と衝突。財力と知力を使い、イスラエル建国闘争に勝ち、イスラエルを建国します。パレスチナ人は難民となり、周囲に離散。ここで周囲のアラブ諸国が激怒し、イスラエルに対する戦争となりました。これがいわゆる数次に及ぶ中東戦争です。これまた知力・財力・軍事力・米国の力を借りて、イスラエルは建国当初より支配地域を拡大しました。しかし、国際社会も黙っておらず、国連の安保理決議などの横槍が入って、何とか先住民であったパレスチナ人の自治区を作れということで、今の状況に収まってきました。
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 上図の薄いピンク色がイスラエル、事実上イスラエルの実効支配地域内で点線で境界が引かれたせヨルダンと隣接している「西岸地区」とエジプトに隣接している「ガザ地区」の2つがパレスチナ自治政府の土地です。パレスチナ自治政府は「ファタハ」党が与党のアッバース議長(大統領)が政府の代表ながら、ガザ地区はこれに従わず、過激派組織ハマスが実効支配しています。
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西岸地区やガザ地区を囲む隔壁

 この西岸地区、ガザ地区の周囲は上の写真のような壁に囲まれています。これはパレスチナ側が自治区の領域を示すため立てた塀ではなく、イスラエルがパレスチナのテロリストがイスラエル側に入ってこないように、自国市民の安全確保のために勝手に設置した隔壁であり、事実上パレスチナ自治区を監獄状態にしています。更に念を入れて、地中海に面しているガザ地区においては、海上からの出入りをイスラエル海軍が封鎖しています。信じられますか?パレスチナへの出入りは西岸地区もガザ地区も数か所のみに制限され、出入りにはイスラエル軍・警察による執拗なチェックを受けます。要するに、国家としての尊厳をイスラエルが実力で圧殺し、パレスチナ自治政府の土地を事実上の監獄化しているわけです。しかも、米国がパレスチナを国家として認めておらず、日本も米国に右を倣えをしてパレスチナを国家として承認していません。なので「自治政府」というもってまわった言い方をしているわけです。お恥ずかしい話です。

 現地を知る者として、PKO当時、中立的に勤務しなければいけない立場なので職務上は中立を貫きましたが、パレスチナ問題に関しては正直なところ「親パレスチナ・反イスラエル」になってしまいます。パレスチナ側からイスラエルのチェックを受けて毎日出稼ぎにくるパレスチナの人々が、イスラエル軍によりひどい仕打ち・扱いを受けているのを何度も見ました。高圧的にして暴力的なそのチェックのありさまを見ていると、第3者ながら血が逆流しました。パレスチナ人はそんなひどい仕打ち・扱いを受けても、イスラエル側に出稼ぎに行きます。それは、悲しいまでにパレスチナ自治区内での仕事より給料がいいから。パレスチナはイスラエルによって強制的に鎖国させられているような状況なので、政治も経済もひっ迫し、物は流通しないは失業率は50%程度だわ、上水道も寸断、下水道も普及しておらず衛生状況も悪いわ、いいことがありません。ガザ地区なんか特に酷く、し尿が市内や地中海に垂れ流しにするものだから、地中海のガザ近郊の海洋汚染が甚だしい状況です。日々の生活は苦しく、金も仕事もなく、イスラエルへの出稼ぎも屈辱的だが生きるために働く、・・・そんな閉塞感を抜きに、今回の報復攻撃の応酬は語れないのです。

 今回の衝突の始まりは、聖都エルサレムのイスラム教の聖地岩のドームとアルアクサモスクの聖域にイスラエル軍が侵入・閉鎖してパレスチナ人を締め出した事案、これに続いて東エルサレムの本来ならパレスチナ自治区の土地にユダヤ人が土地の所有をめぐって提訴し、イスラエルの裁判で勝訴しパレスチナ人の土地を取り上げた事案があり、これに抗議するパレスチナ人がイスラエルの官憲に逮捕拘束され、デモは弾圧されたことから全土に拡大しました。パレスチナ自治区でもでも、パレスチナ自治区ではないイスラエルの地域でもイスラエル国民のパレスチナ人がいます。あちこちでデモがあり、これがイスラエル軍や官憲に手酷い弾圧に遭いました。これに呼応する形でガザ地区のパレスチナ人によるイスラエルに対するテロ的な攻撃があり、これをイスラエルが弾圧し、これに報復するロケット弾攻撃が始まりました。イスラエルはロケット攻撃を超ハイテク装備のアイアンドームという迎撃精度の高い局地防空システムで防空するとともに、航空攻撃による精密誘導ミサイルでハマスのアジトを攻撃。ハマスもわざと病院やら学校やらパレスチナ市民を人間の盾にしてアジトを作るので、イスラエルの攻撃で被害をこうむる罪のない無垢の市民も出ます。この辺をイスラエルは配慮しません。イスラエル市民を守るため、パレスチナ市民が多少犠牲になっても「仕方がない」と考えます。だから、ハマスはカッサームロケットというパイプを改造した手製のロケットを沢山作って、イスラエルのハイテク防空システムに対してローテクだが飽和攻撃によって対抗します。ハマスはガザの地下にトンネルを無数に作って、トンネルからの神出鬼没のロケット発射をしては隠れます。イスラエルはこれを衛星やドローンで監視し、トンネル入り口と思しきものに航空攻撃で潰しにかかっています。また、イスラエルはモサドというイスラエル版CIAを使ってハマスの主要幹部の暗殺工作も実施しています。これまでも(今回以前)何人ものハマス幹部が暗殺されています。
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カッサームロケット弾

 連日の攻撃の応酬により、イスラエルでは12名が死亡、ガザのパレスチナ人は200数十名が死亡。ハマスにしてみれば善戦している方かもしれません。しかし、ガザの普通の市民も攻撃による夥しい負傷者や生活の破壊、市街地の破壊でもうクタクタです。しかし、怨嗟の炎がやまない状況なのです。若者たちはハマスがイスラエルに一矢報いている姿が英雄に見えるわけです。・・・だから、なかなか終わらない。終われない。そんな気がします。

 おそらくバイデンのイニシアチブでイスラエル側は小休止するでしょうが、パレスチナ側が抑制の効かない過激な鉄砲玉がいて小衝突が起きると思います。そしてまた報復の連鎖へ。専門家は、ソロバン勘定からして「長期戦は誰も望まない。」ので停戦になると読んでいる方々がいます。しかし、ガザのパレスチナ人は治まらず、結局泥沼化するでしょう。1987年~93年の第1次、2000年~2005年の第2次インティファーダのような泥沼状態になるのではないか、と懸念しています。あの時も、泥沼の抗争が何年も続いたあげくに、ようやく双方が疲弊して交渉のテーブルに着いたのですから。
 悲しいかな、誰も望んではいないものの、イスラエルとパレスチナの抗争は泥沼のインティファーダ化するであろう、と推測する次第です。

(了)

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2021/01/30

米議事堂の暴動と香港デモ:中国が米国をWスタンダードと批判したが・・・

米議事堂の暴動と香港デモ:中国が米国をWスタンダードと批判したが・・・
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(2021年1月7日付Global Times記事「A tale of two cities told by US double standards」より)

中国が米議事堂暴動事件を受け米国をWスタンダードと批判
 ちょっと古い話ですみませんが、2021年1月6日に起きた米国連邦議事堂での暴動事件について、中国の官制メディアGlobal Times(環球時報)が7日付の「A tale of two cities told by US double standards」という記事にて、ここぞとばかり米国を批判しました。端的な例では、トランプ政権のポンペイオ国務長官の言葉を比較して、中国の香港デモについて「We stand with the people of Hing Kong.=我々は香港デモの民衆と共にある。」と政府側を敵視しデモ側の肩を持つ一方、米国ワシントンDCの議事堂暴動では「Lawlessness and rioting is always unacceptable.=不法な暴動は受け入れられない」と言うのは都合のいいWスタンダード(二枚舌)ではないか、というわけです。(上の画像参照) "Model Democracy Withering, America Unable to Repair Its Image after Capitol Riot,"という言い得て妙な見出し文を使って、米国が中国に対して批判するときに大義名分として掲げる「民主主義」モデルは、実はもはや色あせているではないか、それが証拠に議事堂暴動が起きて以降、もはや米国はその落ち目のイメージを修復することはできないのだ!というのが中国の官制メディアGlobal Timesの主張です。
 まぁ、確かに今回の議事堂暴動には仰天しましたね。まさか米国であんなことが起きるなんて、議事堂の警備隊もさすがに意表を突かれたんでしょうね。直前にホワイトハウス前でトランプ大統領に煽られて、その気になったデモ隊は議事堂へ前進。警備の警官も議事堂の議員たちも、せいぜい国会議事堂周りでシュプレヒコールをするくらいだと思ったのでしょう。ところが、デモ隊は議事堂へ押し入ろうという勢いが強く、警備の警官と押し問答の挙句、デモは暴動化し、武装している者が階段を駆け上がり、窓ガラスを割ってまで議事堂内に突入を強行する状況に、・・・。議事堂内に突入した後も武装警官との押し問答となり、ついに会議場内まで入られ、大統領選挙の締めの作業を妨害するどころか、その議事を仕切っていた「裏切者」ペンス副大統領を「吊るせ!」と息巻く状況に。危うく副大統領は難を避けたものの、暴徒がそこまで暴れる事態となりました。結果、デモ側で4名の死亡、警官が1名重症(じ後死亡)という大惨事になりました。・・・この暴動については、中国から揶揄されても仕方がないですね。

吐いたツバは自分に降りかかる
 しかし、私見ながら、米国の揚げ足をとって同じ土俵で語るこの論法は、そのまま中国の足元をすくう論理でもあります。デモに対する政府側の対応の違いを比較すれば、どちらが民主的か弾圧的かって話ですね。両国とも暴徒と化した者の不法行動を「犯罪者」としてその場に拘束したり逮捕したりはしていますが、逮捕やその後の拘留や裁判や、社会生活において、正常な民主国家として法的に公正かつ正当な、人道的な扱いをしてますか?って話ですよ。
 米国の一応官制メディアであるVOAも黙っていません。(※VOAは米国政府の官制メディアではありますが、報道姿勢は政治から中立的であり、結構トランプ政権に対しても是々非々で批判しており、米国のプロパガンダ報道はしていません。)2021年1月27日付VOA記事「China's Propaganda Use of US Capitol Assault May Backfire, Analysts Warn」にて、私の視点とは違う方向から反論しました。
 あのような暴動事件があってもなお、「政権交代」を止められなかったことこそ、民主選挙結果というもの、複数政党制の政治というもの、それらの正当性を示すものであり、一党独裁の中国を脅かすものだ、というのが第一のポイントです。そもそもトランプ前大統領が勝った2016年の大統領選挙も、政権政党だった民主党候補のヒラリー女史が人気投票では勝っていたものの選挙ではトランプ陣営の逆転となったことも、今回の現役大統領のトランプが敗れたということも、中国共産党の一党独裁体制の中国にとってあまり国民に知らしめたくない民主主義国家の選挙の「民意」なのだ、という主張です。なるほど確かにね。
 第二に、米国の暴動では5名が死亡という痛ましいものでしたが、この暴動後に政権政党ではない野党側の発議で現役大統領が「今回のデモの暴徒化を扇動した」という件で上院での弾劾裁判に追い込んでいること。なるほど、これも中国政府には脅威でしょうね。
 また、今回の暴動の後に、暴動に共謀した可能性のある警察官達も追及を受けており、警察官の中の一部に過激主義の兆候があることにも焦点を当てていることも、中国では起き得ないことであり、こうしたことが米国の民主主義の「強さ」である、と主張しています。
 第三に、(ここは前述の私見と同じ論点ですが)中国やロシアでよく見られるような暴力的な大量逮捕がなかったこと、逮捕された人々にも正当かつ公正な裁判があり、弁護士の弁護を受けられること、を指摘しています。中国だと、弁護しようとした弁護士が資格をはく奪されたり、弁護を認められなかったり。何が起き、その後どうなったか、つぶさに見てみれば、いずれの国が民主的なのか、あるべき姿なのかは一目瞭然です。
 そして第四に、軍の政治からの中立性、即ち「忠誠を誓う対象が政府・政権や大統領個人ではなく憲法である」という点です。その証左として、大統領選挙後にトランプ大統領が選挙結果を拒否することを表明した際に、軍のトップである米統合参謀本部議長ミリー大将の発言を挙げています。
”We do not take an oath to an individual,” Milley said days after the November 3 vote at the opening of the National Museum of the United States Army. ”We take an oath to the Constitution … and each of us will protect and defend that document regardless of personal price.” (「我々軍は、個人に対して宣誓をしているのではない。我々は憲法に宣誓をしている。我々軍人は、個人の価値観に拘わらず、憲法を防護し守護する。」) ・・・やられましたね。渋いこと言いますね。中国では、軍すなわち人民解放軍は中国共産党に対して忠誠を誓っています。人民解放軍が中国共産党や政権指導者の意に反すなどと言うことはあり得ず、「政治への中立性」などと言うことはあり得ない。こうした民主主義国家の政治と軍のあり方、という点も中国にとって自国民にはあまり知らしめたくない米国の「民主主義」の骨太な正当性の証左でしょうね。
 
 Global Times(環球時報)は中国国内のみならず、各国語でもネットで提供しているので、中国のプロパガンダを広報しているわけですが、米国を礼賛するつもりは全くありませんが、この勝負はどう見ても米国側に旗が上がりますね。

(了)

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2020/10/08

中国が反体制派を投獄し精神障害に⁉

中国が反体制派を投獄し精神障害に⁉
 2020年9月30日付VOA記事「China Uses Mental Illness to Discredit,Imprison Dissidents,Rights Observers Say」の報道によれば、中国は政府に対する反体制派の活動家を投獄し、精神障害を起こさせ、釈放後も精神病院と家族の元を行ったり来たりの状況に陥った事例が510件もあるという。俄かには信じられない話だが、これが事実ならいよいよもって中国の闇は我々日本人の想像を絶するほど深いようです。
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香港でも、やがて・・・

「民生観察」という中国国内の人権団体が告発
 中国国内の人権問題をウォッチしている中国湖南省に根拠地を有する、「民生观察:minshengguancha(日本語的には「民生観察」)」という団体のウェブサイトは、先ほど触れたような事例を記録し、告発し続けている。その主宰者、劉飛躍(Liu Feiyue)氏は2016年12月に国家転覆扇動の容疑で逮捕され、更に国家機密漏洩容続疑まで嫌疑をかけられ、2019年1月に5年の懲役という実刑判決が出た。この団体は、主宰者の逮捕以前から一貫して中国の人権問題の告発を世界に発信し、主宰者の逮捕後もめげずに告発を続けている。

VOA記事は投獄されて精神障害をきたした女性に着目
 VOAの記事では、民生観察がウォッチしていた一人の女性に着目し、掘り下げている。
 この女性は、2019年に反政府運動に参加、国営企業や中国共産党を非難し習近平の写真にインクをかけ、逮捕された。4ケ月の拘留から釈放され父親が出迎えた時には、彼女は全く別人格になっていたという。顔つきや体つきも変わってしまい、意味不明の言動をし、何があったのかを尋ねる親の質問には答えない状況だったという。この後、精神病院に収容されてしまい、退院して親元に帰ってきた時には、投与された薬の副作用らしく、天気が悪いと失禁し、夜には意味不明の叫びをあげ、ひどく怯えた様子で、前より精神障害が重くなっていたという。

 一体、拘留の間に何があったのか、精神病院では何があったのか?彼女はもはや答えられないが、VOAの記事では、別の男性の経験談を記している。
 この男性は、年金の不満について政府に請願を続けていた。ある日、「精神障害」との名目で精神病院に収容され、数か月を過ごさせられた。この間、投薬による異様な眠気、体の不調、倦怠感に悩まされ、周囲には暴れたり拘束帯で縛られたりしている精神疾患患者に囲まれて過ごしたという。彼の場合は精神疾患をきたさずに退院したが、体の不調は続き、「精神障害者」とのレッテルを張られた社会生活への影響は計り知れないという。

私見ながら
 政府にとって背を向ける者、反体制派の活動家に対して、後に続く者がないように抑止する「見せしめ」の目的なのか、はたまた反体制派の活動家に対する国家としての「治療」のつもりなのか、いずれにせよ許されざることですね。
 前述したようなひどい話があれば、例えば、逮捕され精神障害をきたした人がいたとすれば、その家族やごく近しい人々はまさに身近にその惨状を知るわけです。こういう話はすぐに口コミで伝わるはずです。ところが、中国は共産党の一党独裁により、政府が強権を有し、完全に国民や社会全体をコントロールしているわけです。世間には報道されず、変な噂は社会の中の密告制度で封じることができます。では、社会の人は皆、こうした話を全く知らないでしょうか。噂にも聞かないでしょうか。
 いやいや、1990年代の冷戦の崩壊の頃を思い出してみてくださいよ。あれだけ鉄壁の国家のコントロールを誇っていたかのように見えた東欧諸国が、あれよあれよの間に崩壊しました。やがて本家本元のソビエト連邦まで崩壊しました。あれは政治的な国家体制の移行でしたか?米国はじめ西欧諸国の介入でしたか?いやいや、それぞれの国家の中の自壊、草の根レベルの欝々とした国民達の不満の爆発でしたよね。当時と比して、今やネット情報の時代。中国はネットの監視が厳しいけれども、ここまで情報化してしまった社会や人々の耳や口を塞ぐのは難しい。いわんや心の中の欝々とした気持ちは、なんぼ強権を誇る中国政府でもコントロールはできませんよ。やがて、必ず全てが明るみになる日が来るでしょう。事実が明らかになったその時、国家としていかに残虐非道なことをやっていたのか、中国国民はもとより、世界が知ることになるでしょう。

 つくづく、こんなことは長く続くわけがない。今に、自らの国民により暴かれることでしょう。
 加えて、香港に中国本土並みの反体制派への「治療」が始まらないことを祈ってやみません。

(了)

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2020/03/03

コロナ禍の中、北朝鮮がまた発射実験した思惑

 2020年3月2日、北朝鮮がまたも飛翔体2発を発射実験。昨年11月以来、北朝鮮のミサイルやら大口径ロケットやらの発射実験もしばらくなりを潜めていましたが、3ヶ月余りぶりに相変わらず空気を読まない発射実験を再開しました。昨年、米朝交渉は結局進展せず、焦れに焦れていた北朝鮮が、なぜ世界も自国も新型コロナウイルス対応で大わらわのこの時期に飛翔体発射実験を強行したのか、様々な推測がなされています。
(参照: VOA記事2020年3月2日付「Even Amid Virus Scare, North Korea Continues Weapons Tests」。下の写真も同記事より。)
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北朝鮮の飛翔体発射を報じるニュースを見るソウルの人々(People watch a TV showing a file picture for a news report on North Korea firing two unidentified projectiles, in Seoul, South Korea, March 2, 2020.)

<状況>
① 2020年3月2日、北朝鮮は2発の飛翔体を発射、最高高度35km、距離240kmほど飛翔し北朝鮮東方海上に落下。元々計画していた米韓共同訓練と同じ時期に実施予定の北朝鮮軍の訓練を、米韓はコロナウイルスの影響で中止したが北朝鮮軍は実施し、この訓練に連接しての発射であった模様。

② 北朝鮮自らの報道(広報)、韓国統合参謀本部や米軍によれば、発射した飛翔体は、北朝鮮が開発中の大口径ロケットと思われるが、短距離弾道ミサイルの実験であった可能性も指摘されている。

③ 北朝鮮最高指導者金正恩は、昨年12月に朝鮮労働党中央委員会総会にて、米朝交渉の進展を期して、自粛していた核実験や大陸間弾道ミサイル発射実験はもはや縛られない旨言及していた。また、新年のスピーチでは、「新たな戦略兵器をお見せする」と言及。

④ 今回の飛翔体発射実験の北朝鮮の思惑について、様々な推測あり。開発中の戦略兵器の計画的な実証実験、飛翔体発射による軍事的挑発の再開、軍事的緊張の引き締め、停滞する米朝交渉に対する焦れの表れ、または米国はじめ関係国への牽制、等々。

<私見ながら>
◯ 開発中だから?軍事的挑発の再開?米朝交渉の牽制?思惑は別のはず
  開発中の戦略兵器を実験したいから発射というのは、開発者の企図はそうでしょうが、goサインを出した金正恩の思惑は別物でしょうね。やはり、この時期に発射した狙い目的があるはず、と思います。
  軍事的挑発の再開?牽制説?も分からなくはないですが、緊張を高めて牽制してアウトプットは何なのか?っていう話ですね。北朝鮮にとって何かメリットありますか?
  米朝交渉の停滞打破・牽制説は分からくはない話ですが、ではこれがキッカケで米側が交渉を北朝鮮の望む方向に向けるのか?否、米国がその気になるにはインパクトが小さすぎ。
  思惑は別にあるのではないか、と推察します。

◯ カギはコロナ禍の最中での発射にあり
  私見ながら、コロナ禍の最中になぜ撃ったのか?というところがカギだと思います。別な言い方をすれば、対外的なことより対国内的な思惑ではないか、と。
  北朝鮮国内では、北朝鮮の公式発表ではコロナウイルスを水際で押さえ込んでいることになっています。北朝鮮政府の適切な対応が功を奏し、「感染者はゼロである」と高らかに広報しています。しかし、WHOをはじめ関係国からは実は感染拡大は深刻ではないか?経済制裁等により検査や医薬品・医療資材等は不足しているのではないか?感染症に対する情報や専門家が不足していないか?と懸念されています。間も無く国連が人道的支援をする方向です。
  アレ?感染者ゼロなのに?と北朝鮮国民が不審に思いませんか?北朝鮮はこれまでいつもそうでしたが、実は国家財政が逼迫していても、先軍主義(軍の精強化ファースト)で軍や戦略核開発にない金をつぎこんできました。干ばつで食糧難になった際も、国連や韓国はじめ対外から支援を受ける際には直前に威勢良く軍事演習をしています。それですよ。国民に虚勢を張って、国家・政府に対する威信や信頼を揺るぎなきものとするための措置だと思います。そういう国です。
  あくまで私見ながら。

(了)

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