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2020/08/27

香港国家安全法の影響で米大学は匿名でディスカッション⁉

香港国家安全法の影響で米大学は匿名でディスカッション⁉

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8月26日 香港にて、民主派の議員テッド・フイ氏が警察官に国家安全法に基づき逮捕された。Pro-democracy legislator Ted Hui is arrested by police officers in Hong Kong, Aug. 26, 2020.(2020年8月26日付VOA記事「Two Hong Kong Pro-Democracy Lawmakers Arrested」より)

<状況>
  コロナ対策で多くの大学がリモートで授業をしている中、香港や中国本土からの留学生を多く抱える米国の大学では、ある必要に迫られて一部の学生を匿名でクラスでのディスカッションに参加させることを検討しているという。その必要性とは、香港の国家安全法に基づく中国政府によるネット上の監視や検閲から、中国系の学生の身の安全を守るというもの。同法は、中国国内のみならず在外にあっても、中国国家の安全保障を脅かすものに対し訴追できる枠組みを持っている。米国のハーバード、プリンストン等の大学では、学生を守るために、既述の措置を準備している模様。
(2020年8月24日付VOA記事「Can Anonymous Classrooms Protect Students from Beijing Snooping?」より)

<私見ながら>
○ 中国の国家安全保障法の異常さ
  発端となったのが、ある香港出身の中国系アメリカ人が、米議会へのロビー活動により中国の香港への国家安全保障法の導入に反対する画策をしたが、これに対し中国当局は起訴する方向であり、逮捕される可能性があるという件。さすがに現在米国籍を持っている方だから、中国当局が直接逮捕するとか身柄引き渡しを米国に要求するとかは、いくら何でもないでしょうけど。
  信じ難い話しながら、この法律では、中国当局から見て中国の安全保障を脅かす「犯罪」行為を実施または関与した場合、外国を含めて場所に関わらず、中国国籍の人物・組織のみならず外国籍であっても、組織や個人を起訴できる、とのこと。
  信じ難いし、それって国際的に法的拘束力が認められる話なのか?と甚だ疑問符がつく話です。
  しかし、ことの是非に関わらず、中国当局は間違いなくネット上の検閲を行なっているため、米国の大学は中国系留学生の自己防衛の枠組みを提供するため、匿名でのクラス参加を導入する模様です。米国の大学では、あくまで授業の一環としてアカデミックな自由かつ活発なディスカッションが行われており、特に、文系の国際関係論や政治学など、国際情勢について自由に議論しますから。もし、中国からの留学生が、中国政府の政策に対し批判的な議論をしたとして、オンライン授業が中国当局に傍受され、本人が起訴されるとか、中国の留守宅が家宅捜索を受けたり、家族が参考人として取り調べを受けたり、・・。そんなことにならないように、匿名での参加でじえいさせようとの「親心」です。米国の大学が、が米国内で実施しているオンライン授業なのに、オープンにできず、自由に議論できないなんて、教授陣も米国人学生も、憤懣やるかたないでしょうね。罪のない留学生達は、匿名であっても疑いをかけられることもありそうなので、ヒヤヒヤしていることでしょう。いかにこの法律が異常か、改めて痛感します。

○ 「匿名で授業」という自衛措置の前に、そもそも抗議すべきだが・・・・
  大学のすべきこととして、片方の手で匿名討議で自衛する、とすればもう片方の手で、「オンライン授業を傍受して中国系学生を訴追するようなことはあってはならない」、と中国へ釘をさすべきではないか?と思います。
しかししない。なぜか?一説には、大学当局や教授個人が中国からいろいろな形で支援を受けていることが指摘されています。例えば、学校の施策や教授の研究にバックアップを受けていて、それを公にしていない、とのこと。日本人の想像を越えるほど隅々まで、中国の影響力は米国内に蔓延っているということの証左なのでしょう。

  以上、小ネタながらVOAニュースの気づきの点に言及しました。

(了)

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2020/07/04

国家安全法下、香港を離れる活動家の無念の声を聞け!

国家安全法の猛威と活動家の離脱
 2020年6月30日、中国政府が香港国家安全維持法を正式に香港へ施行することとなり、香港では活動家狩りの渦中、香港の辻々で活動家達が武装警察に検挙されるシーンがマスコミの報道で伝えられる。このような中、民主デモの女神と言われたアグネス・チョウをはじめ、若手活動家が続々と活動組織の解散や離脱、そして香港を去る決意表明をしている。彼らは今後も海外から活動を継続するつもりだ、と言いつつもその目には闘志が感じられない。「最後まで戦う」と力強く語っていた彼らすら、現実に中国政府の国家権力の凄まじさを香港の街で見せつける状況を甘受せざるを得ない。すぐそばに迫る身の危険を痛切に感じての決心のようだ。悲しいかな、これが国際情勢の現実である。
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(写真)「香港国家安全維持法」をめぐり、香港では抗議行動が起こっている(2020年7月2日付BBC記事「【解説】香港の「国家安全法」なぜ人々をおびえさせるのか」より)

国家安全法下の香港人の恐怖
 実際、国家安全法の何が怖いのか?
 ザックリ言えば、国家安全法が施行された香港では、中央政府から見て離脱・転覆・テロ・外国勢力との結託に当たる行為は、国家に対する犯罪を犯したと見做され、最低3年、最高で無期懲役が科される。
 街に出て公然と反対を叫ぶ香港人が逮捕されているが、我々がマスコミを通じて目にするこうしたシーンはむしろ一部に過ぎず、ほとんどの一般の香港人は、これまで当たり前のように自由に声を上げていた香港のマスコミやオピニオンリーダー達と同様に、声を上げるのを控えているのだ。判断基準が曖昧なために、過去の発言等で既に目をつけられ、自分の今後の発言が逮捕の引き金になるやもしれないことに戦々恐々としているのだ。
 要するに、国家安全法の導入が香港の法制度の基盤を変えてしまったのだ。この法律には、香港内に国家安全法に基づく法と秩序維持のため、中央政府の法執行官が常駐することを認めている。もはや、「法と秩序」の判断基準は一国二制度に基づく香港スタンダードは通用せず、中央政府から見ての判断基準にとって変えられたのだ。文字通り中国の一部になってしまった。

活動家の無念
 民主派活動組織(政党)デモシスト(香港衆志)の党首ネイサン・ロー(羅冠聰)、民主デモの女神アグネス・チョウ(周庭)、不屈の闘志ジョシュア・ウォン (黄之鋒)らの脱退の弁は以下の通り。彼らの行間に無念が声が聞こえる。
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(写真)国際社会はチョウ(左)とウォンを見殺しにしたのか(写真は2019年8月、デモ扇動の疑いで逮捕され、釈放された2人) Anushree-REUTERS (2020年7月1日付Newsweek記事「Citing Safety, Hong Kong Democracy Groups Close Facing China Security Law」より)

 ネイサン・ロー(羅冠聰): (ロー氏は7月1日、ビデオリンクにて米下院外交委公聴会で証言した際、中国政府に収監されるのを恐れ、「香港に戻るのが心配だ」と発言。2日には香港を脱出し、「国際レベルでの擁護活動を継続していく。・・・リスクを鑑みて、今は私の個人的な居場所や状況についてはあまり明かさないことにする。」とメディアに声明。

 アグネス・チョウ(周庭): ツイッター
Agnes Chow 周庭    @chowtingagnes
私、周庭は、本日をもって、政治団体デモシストから脱退致します。これは重く、しかし、もう避けることができない決定です。
絶望の中にあっても、いつもお互いのことを想い、私たちはもっと強く生きなければなりません。
生きてさえいれば、希望があります。  周庭 2020年6月30日

 ジョシュア・ウォン(黃之鋒): ツイッター
Joshua Wong 黃之鋒   @joshuawongcf
I hereby declare withdrawing from Demosisto...
If my voice will not be heard soon, I hope that the international community will continue to speak up for Hong Kong and step up concrete efforts to defend our last bit of freedom.

 ジョシュア・ウォン氏のツイートの最後の一文が切ない。
 「もし、私の声が聞こえなくなったなら、国際社会が香港のために声を上げ、香港人の最後のささやかな自由を守る具体策のステップアップを願う。」
 中国政府が国家安全法を香港に導入することについて、国際社会は、外野での批判はしたものの結局はあまり声をあげることもなく受け入れてしまった。この現実を仕方なく受け入れつつも、それでもすがる思いで期待を示さざるを得ない、そんな彼らの無念の声が聞こえてくる。

(了)

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2020/06/06

金融の視点: 国家安全法で安定した香港を望む!?

金融の視点: 国家安全法で安定した香港を望む!?
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香港にて天安門事件追悼をする香港市民(Participants holds candles during a vigil for the victims of the 1989 Tiananmen Square Massacre at Victoria Park in Causeway Bay, Hong Kong, June 4, 2020, despite applications for it being officially denied.)
(VOA記事 2020年6月4日付「Hong Kong Legislature Passes Controversial National Anthem Law」より)

<資本は香港の安定を望む!>
 「資本は香港市民の自由や権限より、香港の安定を望む。お金の動きの視点から見れば、香港市民のデモによる香港の混乱こそ問題であり、むしろ国家安全法の導入など中国政府の介入による安定した香港こそ望ましい。なぜなら、中国の銀行を信用できない中国の富が香港の外資系金融機関に集中している。香港が安定したfinancial & commercial centerとして機能することが国際的に重要である。その証左に、英金融大手のHSBCやスタンダードチャータード銀行が、中国政府の国家安全法の香港への導入を支持した。」

<銀行マンの視点にビックリ>
 いやー、参りました。知人の銀行マンの方から、この話を伺いました。私のような金融や経済の視点に疎い者に取っては、まさに目からウロコが落ちる話でした。

 実は、この話を伺うことになった発端は、私の素朴な愚問から始まりました。現在の香港の価値について、「10年20年も前ならいざ知らず、もはや中国の経済力がここまで伸長すると、中国本土に比して香港の稼ぎは数%程度という時代。それでも香港のfinancial & commercial centerとしての価値や地位というものは、変わらず強大なのか?」という質問に対するご回答でした。

 この銀行マンの方のご認識では、
「いやいや反対なのだ。中国が経済的に伸長するほど香港が栄える、という図式。世界中で稼いだ中国の富の行き先は、在香港の外資の金融機関に集まる。中国企業のオーナーや政府高官は、中国の金融機関を信用していないのだ。」

 見方を変えると、全く違った見え方がするものですね、ビックリです。私は、経歴上、国際情勢・安全保障・危機管理からの視点で物事を見てしまいがちです。国際情勢の動きを、国益や安全保障・軍事、地政学や歴史的経緯に基づく脅威への対応などの視点で捉え、それが地球を回す回転軸であるかのように捉えがちです。それはそれで、国際情勢を見る一つの視点・視座としては間違っていないとは思いますが、今回ご示唆をいただいた違った視点から見ると、同じ事象を全く違った色合いで見せてもらった思いがします。やはり、同じ事象を語るに際して、自分の関心正面の視点だけで捉えず、広域多方向からの視点で分析・考察し、最終的に自分なりの総合的結論を出すということが大事なのだと、再認識しました。

<HSBCは苦渋の選択?当然の選択?>
 そんな視点から見てみると、ナルホド、現実主義という点では私も共通なため、金融から見た香港の話、非常によく分かります。実際、HSBC(香港上海銀行)やスタンダードチャータード銀行の「中国政府の施策を支持」という選択のハラが十分理解出来ます。

 日経の記事では「英HSBC、香港国家安全法を「支持」 英中の板挟みも」(2020年6月4日4:53 (2020年6月4日5:50 更新))と受け止めています。本国の英国では、中国の国家安全法の香港導入を厳しく批判していますので、英系金融機関として「板挟み」に苦しむだろう、との見方です。
 
 前述の銀行マンの方がほくそ笑む顔が思い浮かびます。HSBCやスタンダードチャータード銀行は「当然の選択」をしたのでしょう。このことで本国から何らかのお咎めがあるのでしょうが、その時は満面に「苦渋の選択」であったことを装うでしょう。それでも中国政府支持を示したことで、香港での稼ぎは安泰と言えましょう。実によく分かります。

<それでも香港市民の反抗を応援します>
 これらを踏まえた上での総合的結論として、・・・それでも「中国政府の香港への強権発動の政策を許容すべきではない。」と考え、香港市民の反対運動を応援します。今の中国政府の覇権主義を許容していると、まず中国内の新疆ウイグル地区やチベット等の国内の少数民族問題にも目をつぶることになります。中国政府の本質は、第一次世界大戦と第二次世界大戦との間(大戦間期)のナチス党率いる日の出の勢いのドイツの覇権主義と同じに見えてなりません。大戦間期に、西欧諸国がナチスドイツの覇権主義に対し、その危険性に気づいていながらも、目の前の小春日和的な安定や経済的なメリットのために、ヒトラーとの宥和政策に逃げて事を荒立てないようにした結果、ついにポーランド侵攻という明白な侵略を許す結果となりました。これにはさすがに耐えかねて、第二次世界大戦へ突入となりました。

 「大げさだよ」とのご叱責をいただきそうですが、中国政府は台湾に対しても「一国二制度」と言っているのをご存知でしょうか?今回、中国政府は香港返還時の「一国二制度」という国際的な約束を事実上反故にして、香港の制度的な自治を事実上認めない施策を導入したのです。台湾は、事実上の自治国(独立国とは言わないまでも)ですが、中国政府は香港同様、「中国の一部」の「一国二制度」としているわけですから、香港の次に台湾に対して一方的な政策をかましてくることは十分考えられ、その際に国際的非難に対して、今回と同様に「内政干渉」と言うでしょう。外圧くらいならまだしも、台湾に対する海上封鎖や奇襲的侵攻という直接的物理的な圧力もあり得る話です。一昔前と違って、今や中国の軍事力は、海上封鎖も奇襲進行も可能な企図も能力も十分に持っているのですから。

 話を香港に戻すと、今回のような中国政府の香港への強権発動に対して、目の前の利益のために宥和政策を取って増長させてはならない。ならぬものはならぬ、あってはならないことは断じて許してはならない、と国際社会がスクラムを組んでキツイお灸を据えるべし、と思います。香港問題は、内政干渉ではなく国際的約束として、中国政府に一国二制度を守らせねばならないのです。一昔前のソビエト連邦に対する「封じ込め政策」と同様、中国政府が香港に対する強権発動を諦めさせるまで、延いては近隣アジア諸国に対する覇権主義を諦めるまで、国際的協調により封じ込めるしかないと思います。その意味において、米国トランプ大統領(この人はまた違った意味での問題児ですが・・・)の一歩も退かない対中強行姿勢は高く評価します。

(了)

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2020/05/31

香港の混乱は不可避、民主派リーダーは闘志を燃やす

 この問題をめぐっては、米中対立や香港でのデモと警察の衝突を軸にマスコミ報道がなされています。米国の制裁処置により、アジアの金融の中心地であった香港の立場の行方など、切り口はいろいろあるのでしょうが、ちょっと違った観点からのお話を。

<要旨>
 2020年の中国全人代のトップニュースは、図らずも香港に対する国家安全法の導入という鬼っ子が出た感じになりました。「そっちかい!?」という展開でしたね。全人代初日5月22日の李克強の政府活動報告の中で、経済成長の数値目標を(初めて)示さなかったことは予想通り、国防予算は前年比6.8%増という軍拡路線の継続にはちょっと驚き、そしてビックリネタが香港への国家安全法導入でした。香港は「一国二制度」を約束されていた筈が、この法律の導入により、事実上の本国同様の反政府行為者への逮捕、訴追、刑罰となります。これにより、香港が謳歌していた中国にあって中国ではない西側先進国並みの自由や民主や人権尊重は終焉を迎える、との評価が大勢を占めています。トランプ米大統領はじめ西欧諸国も中国を糾弾しています。米国は中国への制裁を課し、米中対立はもはや不可避です。
 香港の民主活動家のリーダー達も、状況を懸念して香港の危機と世界からの支援を訴えています。そんな中、リーダーの一人、ジョシュア・ウォン(黄志峰)氏は、コロナ対策を口実に下火となった民主デモは、むしろこの国家安全法への反対運動で再び火がつき、長期戦を辞さない闘志で満々、と怪気炎を上げています。同氏によれば、香港への対応で国家安全法という奥の手を導入せざるを得なくなったということからも、むしろ危機に瀕しているのは中国政府の方だ、との見方を示しています。
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The UK could offer British National (Overseas) passport holders in Hong Kong a path to citizenship if China does not suspend plans for a security law in the territory, Foreign Secretary Dominic Raab says.(BBCNews 2020年5月29日付「UK could offer 'path to citizenship' for Hong Kong's British passport holders」より)
 
<民主活動家の声 その1>
 「学民の女神/民主の女神」と英雄視ないしアイドル視されているアグネス・チョウ(周庭)女史は、5月22日付ツイッターにて次のようなコメントを出している。
****************************
  中国政府による香港の完全破壊が始まった。昨日、中国全人代が香港に直接「国家安全法」を立法することを発表した。これは、香港の立法会で審議せず、中国政府が直接香港の法律を制定するということ。デモ活動や国際社会との交流などがこれから違法となる可能性が高い。一国二制度の完全崩壊です。  周庭
****************************

 また、同女史は、香港では現在インターネット上の規制が緩く、YouTube、Instagram、Google、Twitter、Facebook等のサービスが使えるが、今後は中国本土同様のネット上の官憲の管制下におかれ、民主活動の動向や香港政庁や政府への批判を見張り、投稿者への逮捕などが起きることを懸念。香港の動向について、世界に注目してもらい、世界からの支援を訴えている。

<民主活動家の声 その2>
 民主活動家のリーダーの一人、ジョシュア・ウォン(黄志峰)氏は、まだ若いのに歴戦の闘将のような透徹した使命観を持ち、先を見通した冷徹な自負を述べている。(写真はジョシュア・ウォン氏(黄志峰))
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 同氏によれば、 ・・・一国二制度はもはや崩れ去った。しかし、昨年来の民主デモはコロナ対応があって下火となっていたが、中国政府の国家安全法の香港への導入により、民主デモ運動全体に再び火がついた。民主デモは再び大規模に行われ、中国政府はこれを弾圧する、もはやこの闘争は不可避。この間、何度も逮捕されるであろう。それでも戦う。香港人は長期戦を辞さない闘志で満々である。危機に瀕しているのは、香港というより、むしろ中国政府の方である。中国政府は、コロナ対応で、経済的にも国内外からの批判に対しても追い詰められている。追い詰められているがゆえに、火中の栗を拾ってもいい、国家安全法の香港への導入という奥の手を使わざるを得なったのだ。中国政府と長期戦となることを覚悟している。香港の2000年以降生まれの若い世代の若者達の戦いに負うところ大。香港の若者達よ、香港を離れずに共に戦おう。
(DW 2020年5月28日付「Hong Kong is being 'robbed of its rights」より)

<私見ながら>
 今や、全人代のニュースは香港の国家安全法導入決定の話題、特にトランプ米大統領をはじめ西側諸国の中国への批判、米中の対立の激化、香港での民主デモによる同法導入反対の運動と警察との衝突などで盛りだくさんです。私見ながら、今回のことで、香港はさぞ危機に瀕した状況なのだろうと思っていました。BBC記事によれば、英国は香港市民(英国パスポート保持者)に対して、単なるビザ発給ではなく英国市民権の付与の便宜を図る模様です。こうした救いの手が差し伸べられる状況下、「だったら香港から逃げ出した方が正解かもしれないなぁ」、なんて思っていました。実際、香港は危機に瀕しているのだろうと思いますが、ジョシュア・ウォン氏の見解を知ってビックリ。彼らの勇気に、こちらが励まされたような感覚に陥りました。
 なるほど、危機に瀕しているのは中国政府の方かもしれません。昨年は犯罪者の中国本国への引き渡しが民主デモに阻止されました。民主デモが、海外からの支援を得ていたことも断じて許せないのでしょう。米国や西欧からの善意の市民レベルの支援も当然あったでしょうが、中国政府が看過できないと思っているのは、米欧の国家的な諜報機関等による謀略も当然あるからでしょう。外国勢力からの謀略の温床に見えるわけです。事実、香港を舞台に、米国のCIAや英国のMI6をはじめ、諜報・謀略活動は当然あると思います。中国政府も当然香港の民主活動家を装ったスパイを入れているでしょうし、中国政府も海外で同じことをしています。おっと、脱線しました。すみません。
 中国政府は、海外から批判されることが分かっている今回の措置をなぜとったのか?ジョシュア・ウォン氏が言うように、追い込まれているのかもしれません。なぜなら、もっと穏当な策があったはずだからです。今回、国家安全法の香港導入を全人代で採決しましたが、こんなことしなくても、コロナ対策を口実に香港での集会や運動の禁止を徹底すれば、デモを封じることは可能だったはず。今夏の香港内の選挙で、民主派候補者に様々な妨害工作で落選させ、親中国政府派に議会の過半数を取らせれば、香港議会での合法的な民主派への締め付けはできたはず。にも拘らず、そうせずに即効性のある、その代り海外からは反対され批判を受ける国家安全法導入という手を打ちました。要するに、なりふり構わず、米欧との対立も辞せず、最も即効性のある策を打ったわけです。さもないと、香港の飛び火が中国本土で純中国庶民のモヤモヤした反政府衝動に火をつけるかもしれない。コロナ対応では、中国の庶民の政府不信を買いましたからね。

 いやー、こちらが勇気づけられたような気がします。
 頑張れ!香港!

(了)

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2019/12/26

習発言「香港よ、マカオは一国二制度の成功モデル」

 2019年12月20日、中国の習主席はマカオ特別行政区の20周年記念式典にて「マカオは一国二制度の成功モデル。制度導入が不十分な香港の模範となる。」と賞賛した(※)。この発言に香港は反発。更に総統選挙を控える台湾の反発を招き、総統選挙にも親中派に向い風、反中独立派に追い風となろう。
(※ 2019年12月24日付VOA記事「Analysts: Xi's Praise of Loyal Macau Won’t Appeal to Hong Kong, Taiwan」)

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Chinese President Xi Jinping, front left, and his wife Peng Liyuan, front right, wave after arriving at Macao Airport, Dec. 18, 2019.((※ 2019年12月24日付VOA記事「Analysts: Xi's Praise of Loyal Macau Won’t Appeal to Hong Kong, Taiwan」より)

<状況>
  習首席はマカオ特別行政区の20周年式典に出席、「“The people in Macau have whole-heartedly embraced the ‘one country, two systems.’ Let’s recognize that the ‘one country, two systems’ is the best system for Hong Kong [sic] to maintain its long-term prosperity and stability,” マカオ市民は一国二制度について心温かく迎い入れてくれた。香港にとっても、一国二制度は長期的に安定し繁栄しうる最高のシステムであることを認めよう。」と述べた。

<私見ながら>
◯ マカオは一国二制度の優等生か?
  確かに、マカオは習主席の目から見ればそうかも知れません。香港と同様、以前は他国の植民地とされ、後に中国に返還されたものの、香港とはだいぶ違う形で発展を遂げました。マカオはポルトガル領時代から東洋のラスベガスと称されるようなカジノの街として発展し、ポルトガル領時代から親中派の実業家何賢(別名スタンリー・ホー)がマカオのカジノ王・影の総督だったこともあり、返還前から中国との関係は比較的親密で、返還後も何賢の息子が初代行政長官となり、中国政府とは密接に協力しつつ一国二制度を実践してきました。裕福になった中国から非常に沢山の富裕層がカジノ客として訪れて金を落とし、中国資本が相当入り、半ば中国直轄領的な国営のカジノ街になっています。(もちろんカジノですから、米国などの外国資本も相当入っています。)香港と同様「特別行政区」ながら、中国本国に飲み込まれた形です。名目GDPは非常に高く(香港より)、カジノで潤う人々とそうでない人々の貧富の差は著しい状況。中国福建省などからの新移民も多く、香港のような市民の自己主張やデモはない代わりに、市民の顔が見えない街。文字通り中国に飲み込まれつつあります。
  香港の人々から見れば、これが一国二制度?だとしたら、香港にとってちっとも魅力的ではない一国二制度であり、別にマカオになりたいとか成功例とは思っていないのです。何より「制度」そのものについて、返還前の自由や民主的な統治体制を引き続き認めることだったはずなのです。
  習主席の発言は香港人には全くアピールしないでしょう。

◯ 台湾総統選挙にも影響あり
  今回の習主席発言は、現職の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統にとって何よりの追い風でしょうね。この発言により、台湾国民は一段と中国への警戒感を強めることになるでしょう。投票日は正月明け、もう目の前に総統選挙が迫っており、この最後の追い込みの時期にこの発言ですから、現職の蔡英文総統(反中国派)には何よりのクリスマスプレゼントだったでしょう。対抗馬の国民党の韓国瑜(ハン・グオユー)(親中派)氏には最悪の向い風。習主席にしてみれば、マカオを引き合いに出して香港の方向性を善導したつもりが、期せずして敵に塩を送った形ではないでしょうか。

(了)

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