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2020/05/03

金正恩は健在でした!謎は残るが認めねば

<状況:健在でした!>
  なんと、北朝鮮金正恩委員長は全くの健在のようです。
米国のトランプ大統領が、米国時間の5月1日(金)に第一報を受けた際には「今はまだ何もコメントできない。」としていましたが、翌2日(土)に自らのツイッターの中で金委員長の健在について「I, for one, am glad to see he is back, and well!(彼が戻ってきて健在であるのを見て嬉しい。)」とのコメントを出しました。ということは、2日のツイッターまでの間に、米国の情報筋が北朝鮮メディアの伝えた金委員長の映像の分析をはじめ、本当にあれが本人なのか、健在は本当なのか、様々な筋から裏を取ったあげく、「健在は真実」と結論を出したのでしょう。北朝鮮側もあの映像を出したくらいなので、「Go」サインが出され、我々の窺い知れないレベルで様々な情報をリリースして「健在」情報の情報洪水を起こしているかもしれません。
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2020年5月1日、農業肥料工場の完工式に出席した金正恩委員長(North Korean leader Kim Jong Un attends the completion of a fertilizer plant, together with his younger sister Kim Yo Jong, in a region north of the capital, Pyongyang, in this image released by North Korea's Korean Central News Agency on May 2, 2020.)(VOA 2020年5月2日付記事「He’s Back: Kim Jong Un Reappears — at Fertilizer Plant 」より)

<私の読みは間違っていました。まだまだ修行不足であることを肝に銘じます>
  ともあれ、金正恩は健在でした。見たところ、一部でまことしやかに囁かれていた心疾患の大手術の後とは全く思えない顔色の良さ、笑う、歩く、指導する、タバコ吸う金正恩が映像の中で跋扈しています。ということは、大手術というのも誤報だったということでしょう。ということは、私も情勢を見誤りました。これは認めねばなりません。自分の読みなど、まだまだケツが青い浅学菲才であることを肝に銘じます。あらためて、国際情勢を読むことの難しさと、それでも暗中模索・試行錯誤をしながらも、何とか国際情勢を読む努力や勉強を続けなければいけないな、と痛感した次第です。

  私のこのブログは、クラウゼビッツの名著「戦争論」の中の一節にちなんだ「fog of war」と題しています。これは、「戦争や国際情勢ってのは霧がかかったように先が読めないもの、その全容や背景は中々把握できず、人間は読み違えや実行段階でのミスなどの錯誤が起きる、そういった掴みようのないものなのだ。人間がいかにこれを掴み切ろうとしても、完全には把握できず、往々にして錯誤を犯すものなのだ。これは科学技術・情報収集能力・情報システムやネットワーク等が非常に発達した現代でもこの霧は晴らすことはできないのだ。」という意味ですが、これが私の戦争観、国際情勢観であり、それでも錯誤を承知で先を読む努力をしよう、という考えからブログのタイトルに命名しました。まさに、fog of war。いやぁー、奥深さを痛感します。まだ勉強が足りないぞ、というのを教訓とし、錯誤は素直に認め、また懲りずに努力を続けさせていただきます。

<されど謎は残る>
  勿論、謎は残ります。
① 結局、金委員長が太陽節に欠席したのはなぜだったのか?祖父であり建国の父である金日成の生誕祭ですから、余程の事情があったのだろうと思います。VOA報道では、金委員長は先代の金正日の政権運営・国家運営スタイルとは距離を置き、違いを見せて(金正日総書記は金日成主席を崇敬している姿勢を貫いた)金正恩スタイルを見せているのではないかという見方、或いはもっと単純に意図的に世界を欺いてみただけではないか、という見方を報じています。私見ながら、いずれも当たらないと思います。金正恩が金日成を否定したら、自らの地位の正当性である白頭山の血統という正統性を軽んじることになります。また意図的に、ブラックジョークをかましますか?
  私見ながら、あるとすれば、政権内・国内の米国・中国・韓国への内通者をあぶりだすために、今回の雲隠れを各国がどう読むか、情報の流れを確認し、あぶり出した裏切り者を粛正するための一連の作戦だった、という可能性があると思います。

② 健康問題は?では全くの健康だったのか?
  外見上の肥満、過去の心疾患の既往症、ヘビースモーカーであること等から、相当の心疾患や高血圧・高脂血症、生活習慣病等が推測されていましたが、ある程度の健康問題はあるにせよ、今回は全く重篤な状態などではなく、いわんや伝えられたような手術など受けていなかったのでしょうか?
  健康問題があって、例えば手術やら心筋梗塞やらがあって、前項に関連しますが、太陽節に欠席したのなら納得できる話なのです。一番理解しやすく、納得のできる事情としては、こんなところでしょうか。 ・・・ 前述のように太陽節の直前に心筋梗塞の発作等で倒れるなどの問題が起こり、仕方なく太陽節を欠席し、しばらく静養し、ようやく回復して全快となったので満を持して公式イベントなどの政務に復帰した ・・・。
  恐らく、この辺の確たる情報は出てこないでしょうけど。

③ 健康問題を踏まえ、後継者問題は?
  いずれにせよ、今回のしばらくの本人不在・安否不明となった件で、後継者問題が世界の関心の的となりました。金委員長はまだ36歳と若いものの、やはり健康問題に疑問符が付けられ、生活習慣病や家系的に心疾患の懸念もあることから、「急逝もあり得る」と認識され、その際の後継者がまだ確立していないことが認識されました。間違いなく、金委員長本人も認識していると思います。金委員長の実子もいるのでしょうが、金委員長の幼少・子供時代も全くの秘密のベールに包まれていたように、今のところ北朝鮮メディアにも全く登場していません。いずれにせよ後継者にはなり得ません。当面は第1候補は実妹の金与正女氏でしょうが、女性が国家の頂点に立つのは北朝鮮社会においては非常に難しい。よって集団指導体制になるのでしょう。金委員長は、当然自分が長生きするつもりでしょうが、自分が急逝することも想定して、逐次に金与正を政治の前面に出し、地位も与え実績を積ませ、他方で忠実な金与正の補佐者を育て、絶対の忠誠を誓わせていくのでしょうね。やはり、白頭山の血統、北朝鮮にとって絶対の正当性たる金日成の血筋は第一の条件でしょうから、伯父さんに当たる金平一氏を海外から呼び戻したのも、金与正女氏を補佐させるつもりではないかと思います。

 これらの疑問を、今後もアンテナを立てて勉強させていただきます。

(了)

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2020/05/01

金正恩安否不明続く: 情報の錯綜と米中韓の思惑

金正恩安否不明続く: 情報の錯綜と米中韓の思惑

※<5月2日(土)1000現在の補足事項>
・ 5月2日朝0700のNHKニュースによれば、北朝鮮中央通信(ラジオ)が2日に報じたところでは、5月1日に金正恩委員長が平安南道の農業肥料工場の竣工式に参加し、群衆に手を振って応えた、とのこと。4月11日に政治局の会議に参加したとの映像が報道されて以降、3週間ぶりの金委員長の動静の報道ということになりますが、そもそも11日の映像すら、自衛隊OBの西村金一さんの分析(JBプレス 4月29日付「「金正恩重篤説」で得する国はどこか?」より)では過去の映像ではないかと疑問符をつけられており、遡ると2月末の党中央委員会政治局拡大会議への出席以降2ケ月あまり動静が不明ということになります。今回のラジオ報道も真偽のほどは怪しいものです。重体説への否定情報のPRとしてのカウンター情報としか思えません。ちなみに、本件に関しトランプ大統領は「今は何も言えない。」とコメントしているとのこと。ほら、やっぱり『意味深長』でしょ。

※<5月2日(土)1500現在の補足事項>
・ ネットで確認したところ、北朝鮮は金委員長が出席した式典の写真も出していますね。数枚の写真のうち、背景に2020年5月1日とハングルで書いてあり、写真からすると本人ぽいのでこの写真が真実であれば金氏は顔色もよく元気なようで、横には金与正女氏もおり、本物っぽい写真です。しかし、金氏には影武者もおり、また以前の映像の画像の修正でそれっぽく見せた可能性もあり、まだ真偽のほどはわかりませんね。前述のように、本件に関する5月1日(米国時間)のトランプ大統領のコメントを見ても、本当に本人が写真の通り元気であって、情報筋のウラが取れていたら「今は何も言えない。」とは言わないはずです。まだ確たる情報ではないことの証左ですね。

※<5月2日1900現在の補足事項>
・ なんと、ボーっとしてたら本日午後3時頃に、北朝鮮は動画を出してきましたね。写真画像とは違って、動画で見ると、いかにも本物っぽいですね。野外で眩しいからか、心なしか目の感じが細いようにも見えますが、確かに本人ぽく見えることは否定できませんね。仮に、本人であったとして、動画で見る限り足も引きづっておらず元気そのもの。とても大病のあと、特に大手術の後のようには見えません。しかし、もしそうであるなら、祖父であり建国の英雄である金日生を讃える太陽節という国家の最重要行事に金委員長が欠席するというのは解せません。本来なら金委員長は万難を排して必ず出席したでしょうから、欠席したということは余程の抜き差しならない事情があったはずです。この辺がスッキリしないので、「まだ確たることは分からない」としか言えない段階ですね。 

********************
<状況>
  4月21日に米国のCNNが北朝鮮の金正恩氏の重体説を報じて以降、10日ほど経過していますが、同氏の健康状態をめぐる情報は、既に死亡、大手術後に重体続く、いや回復して静養中、いやいやコロナ感染を回避しているだけ、更に、プライベートビーチを散策している、というものまでピンからキリまで錯綜中で、いずれも信憑性も具体性もないものばかりです。
  当の北朝鮮は黙して語らず、韓国は重体説を否定して北朝鮮の「正常」をPR、中国は金正恩氏の健康状態に関連して医師団を派遣?との報道があり、そのような中、米国のトランプ大統領は4月28日に金氏の健康状態について、次のような思わせぶりな発言をし、一段と情報の錯綜に拍車をかけました。

   Asked about Kim's status on Monday, Trump said, "I can't tell you, exactly -- yes, I do have a very good idea, but I can't talk about it now. I just wish him well." But later in the same press conference the President told reporters, "He didn't say anything last Saturday. Nobody knows where he is so he obviously couldn't have said it. This is breaking news that Kim Jong Un made a statement on Saturday. I don't think so."
   (金正恩氏の健康状態について記者に問われたトランプ大統領は、「正確にはお話しできない。今は申し上げられないが状況は承知している。彼が健康であることを願う。」と述べ、その後、同じ記者会見の場で、「(北朝鮮内での報道にて、4月18日土曜に金氏が労働者にメッセージを送ったとされたことについて)金氏は先週土曜に何も発言していない。誰も金氏の所在を知らないし、そんな発言があったのなら臨時ニュースものだが、明らかに発言は不可能であった、と私は考えている。」と述べた。)
(CNN 4月28日付「Trump adds to confusion over Kim Jong Un's health status」より。下の写真も同記事より。) 
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<私見ながら>
○ 私見ながら、そんな各国のリーダーの思惑を四字熟語で表現すると次のようなものではないかと思います。
  北朝鮮は「隠忍自重」: 今はじっと堪えて金正恩委員長の回復?を待つ我慢の時。
  韓国は「愛執染着」: 同胞北朝鮮を愛するが故に情念主導でかばっている文政権。
  中国は「虎視眈々」: 医師団を派遣する等、この機会に北朝鮮の覇権を握ろうと狙う。
  米国は「意味深長」: 奥深い複雑な意味を持つコメントで煙に巻くトランプ大統領。

○ 北朝鮮は「隠忍自重」: 今はじっと堪えて金正恩委員長の回復?を待つ我慢の時
   北朝鮮政府が、最高指導者金氏の重体説を報じられながら一切黙して語らないというのはこれまでにないことです。これまでは、最高指導者に対する侮辱を許さず、この手の報道にはすぐさま口汚い言葉で反論がありました。これが全くないというのは何とも不可解。先代・先々代の金日成や金正日の死去の際の沈黙を彷彿とさせます。少なくとも、金正恩委員長の身に何かが起きていることの証左であると考えています。

○ 韓国は「愛執染着」: 同胞北朝鮮を愛するが故に情念主導でかばっている文政権
   韓国政府は重体説を全面否定していますが、確たる否定情報もないのに政府は一致団結して否定しています。文在寅大統領以下の政府を挙げたこの全否定ぶりからすると、情報筋の客観的情報に基づくものではなく、ただただ北朝鮮をかばいたい思いが先行しているものと思われます。対コロナ政策が国民に評価され、気を大きくした現政権が、政権の基本政策である南北統一を推進したい思いからすると、今金正恩委員長に倒れられては困る。そんな噂を否定したい。その思いが先行しているものと思います。ちなみに、現政権は北朝鮮側からは思いの外信用されておらず、また情報ソースも以前ほどなく、あまり正確な情報は掌握していない、と米国情報筋から見下されています。

○ 中国は「虎視眈々」: 医師団を派遣する等、この機会に北朝鮮の覇権を握ろうと狙う
   中国の医師団派遣情報は、わざと情報だけ流しているのか本当に派遣しているのか不明ながら、中国の北朝鮮へのねじ込みが始まっていることを痛感します。「医師団派遣」はもしかしたら中国側が政府筋でないところから意図的に流したブラフかもしれない、との見方があります。日本のマスコミが中国の医師団からの情報として流している話も、米国情報では眉唾ものとのこと。しかし、本当に派遣しているかもしれません。以前は北朝鮮は金正恩氏の心臓系統の診療はフランスから医師団を招いていましたが、コロナ関連でフランスは無理だったのでしょう。そこで中国が派遣というのは、中国政府の思惑とも一致しそうです。金正恩委員長が重体だったとして、中国が医師団を派遣したとしたら、まさに生殺与奪の権を中国が握ったも同然です。なので、真偽のほどはともかく、中国の北朝鮮に対するねじ込みは始まっている、と見て間違いないでしょう。

○ 米国は「意味深長」: 奥深い複雑な意味を持つコメントで煙に巻くトランプ大統領
   米国トランプ大統領の思わせぶりな発言は重体説の肯定のようにも見えるものの、そうでない時の言い訳もできる逃げ道を作っています。発言自体をそのまま理解すれば、やはり重体説を知っているかのようにもとれますが、回復を待っているようにも取れ、なおかつ、そもそも全く元気であったとしても、いずれともとれる意味深長な言葉ですよね。大統領にとって、今国家が直面しているのはコロナウイルスの蔓延をどう克服するか、そして低迷する瀬戸際の経済をどう回復させるか、今は北朝鮮の指導者の容体どころの話ではありません。実際のところ、トランプ大統領にとっては金委員長の容体なんて、どうでもいいんですよ。国際情勢としては重要ですが、「世界の平和と秩序と自由を守る米国」なんて信条はトランプの頭にはありません。頭のほとんどを占めているのは経済であり、選挙戦での再選ですよね。しかし、選挙を控えているので、米国の大統領として「知らない、分からない」とは言えません。CIAはじめ、米国の情報筋はそれぞれ死亡から重体から元気まで、いろいろな情報に接し、その分析結果として大統領に報告しているでしょう。しかし、それが正しいのか、真偽の程は分かりません。大統領としても公算大なることを話したいでしょうが、違った場合にボロカスに大統領選挙戦で攻められるネタになります。そこで、この意味深作戦を取ったのだと思います。「知っているよ。言わないけどね。」としたり顔で話せば、真偽はどうあれ、後で攻められることはありません。

 ※ 隠忍自重: 今はじっと我慢して、軽々しい言動を慎むさま
   愛執染着: 愛するが故の煩悩に捕らわれているさま
   虎視眈々: 己の野望を遂げるため機会を狙っているさま
   意味深長: 奥深い複雑な意味を持ち、裏に別の意味が隠されていること

(了)

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2020/04/25

金正恩の安否不明で浮上した後継者問題と米中の思惑

 世界がコロナ禍に苦しむ中、2020年4月20日(月)米国のCNNは、米当局筋の話として、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長・総書記が大手術の後に重体状態との情報あり、米国政府が精査中との報道がありました。金総書記は、まだ若いものの家系からしても外見の体型的にも、これまでも金総書記の健康状態(特に心臓疾患)に疑問符が付けられたことがありました。今回は、北朝鮮の行事の中でも非常に重要な行事である祖父金日成主席の生誕を祝う太陽節式典に欠席したとあって、情報の尤もらしさが取りざたされています。そこで注目されるのは、金総書記の後継者問題の弱い基盤と米中はじめ関係各国の様々な思惑が浮上してきています。事実であれば、北朝鮮の体制は浮動状況となり、朝鮮半島をめぐる国際情勢が大きく動くことになります。
(参照: VOA 2020年4月20日付記事「South Korean Officials Deny Rumors Kim Jong Un is Seriously Ill」及び同月22日記事「Noth Korea Silence on Kim's Health Raises Succession Speculation」(下の写真も同記事より))
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ソウルにて金正恩重体説を報じるニュース映像を見る韓国人(People watches a television screen showing a file image of North Korean leader Kim Jong Un during a news program at the Seoul Railway Station in Seoul, South Korea, March 21, 2020.)

<状況>
① 2020年4月20日、米CNNが米国政府筋の情報として、北朝鮮の金正恩総書記の重体説が報じた。韓国政府はすぐに具体的な情報は何もない旨の異議を唱えた。米国政府もCNNの報道については是認しておらず、トランプ大統領は「フェイクニュースだ」と切って捨てた。
  他方、韓国の北朝鮮通の報道機関は、金総書記が心臓疾患の手術を受けたと報道。しかし重体説ではなく、むしろ安定した状況であるものの、彼の肥満、ヘビースモーカー、過労等が要因であったとのこと。また、別の米国の報道機関は別の米国政府筋の情報として、CNNと同様の内容を伝えている。他にも、不確か情報ながら、コロナウイルスの可能性を推測する声や、金総書記が手術を受け療養中の病院を名指しで、「北平安省の衡山病院」とする情報も。
  一方、北朝鮮政府は全く音なしの構え。19日(日)のトランプ米大統領の「金総書記から素晴らしい書簡をもらった」旨の発言に対し、北朝鮮として一切書簡を出していない旨の否定コメントのほか、今回の金総書記重体説については何の反応もしていない。一連の重体説に関連して、4月11日の北朝鮮党中央委員会政治局の会合に金総書記が参加した北朝鮮の報道以降、金総書記の動行は一切報道されていない。

② 金総書記の健康状態は不明なままだが、その後継者について確たる基盤は整っていない。まず、北朝鮮の建国の父金日成の直系の血統で考えれば、金総書記の実妹の金与正(キム・ヨジョン)が第一候補と考えられる。その対極をなす対案は集団的指導体制の可能性であろうと見られている。
  実妹の金与正は、昨年の米朝首脳会談でも金総書記の直近で交渉の場におり、国際的にも認知されている。他方、北朝鮮には超保守的な男性社会であり、特に政治権力の場ではそれが顕著と言えよう。その意味では、金与正が血で血を洗う権力闘争を勝ち抜いて最高権力を保持できるか、下は従うのか、疑問が残るところ。血統で言えば、実の兄、金正哲がいるが、金総書記が権力を握る前に人畜無害を貫いていて生き残っている。可能性はゼロではないが、性格も大人しく、表舞台に出ることはなさそう。金総書記の異母弟の外交官、金平一(キム・ピョンイル)が数十年も本国から在外大使館に島流しになっていたものが昨年帰国しており、目を引くところ。この金平一や、役職上は国家元首となっている金総書記の子飼い、ナンバー2の崔龍海(チェ・リョンヘ)が集団指導体制で名前が挙がってもおかしくない状況。
  しかし、これまで金一族による血なまぐさい粛清があった北朝鮮の権力闘争の歴史を鑑みれば、いずれのオプションも盤石の基盤ではなく、本当に金総書記が死亡するような場合には、北朝鮮情勢は不安定この上ないと言わざるを得ない。

<私見ながら>
○ 今回の金正恩の重体説により、あらためて後継者不在の情勢不安定化のタネがあることが再認識されます。
  見た目には金与正が後継者ですよね。金正恩も昨年来、金与正を何かと側近において国内的にも国際的にも認知させています。一部報道では、金正恩が党幹部らに「金与正を支えよ」と指導したとのこと。深読みすると、自分の健康不安を前提に、後継者として名指しで育てているように見えます。実際、最近の北朝鮮の対外的なコメントに、なぜか金与正がコメントを発したりしています。また、金与正自身はまだ政治局員候補でしかありませんが、昨年党幹部の組織指導部長の長老をクビにして、相対的に金与正が組織指導部の事実上のトップに据えています。
  しかし、前述のように北朝鮮の政治は血統だけで統治できるかというと、そう甘くはありません。形の上で金与正をトップにおいても、これを支えるための集団指導体制はあり得ます。

○ ここらで出てくるのが、中国の思惑でしょうね。暗殺されましたが、金正恩の異母兄の金正男は一時期中国がいざという時の切り札にしていました。今は金一族の血統の濃い替え玉を持っていませんが、間違いなく集団指導体制を標榜し、親中国派をねじ込んでくるでしょう。北朝鮮の核開発問題では、金正恩が北朝鮮の独自路線を取ってきましたが、金正恩亡きあとは、中国が事実上の宗主国としてグッと前に出てくることは必然でしょう。陰謀をめぐらせば、今重体であるなら、そのまま殺すかもしれませんね。
  他方、米国はどうでしょうか。トランプ米大統領にとって、今の時期ほど朝鮮半島情勢が動いてもらいたくない時期はないでしょう。今年11月の大統領選が終わるまでは平穏であってもらいたい、と願っているでしょう。米国にとって良い方向に動くならまだしも、親中国の北朝鮮ができてしまったり、北朝鮮が政情不安な状態になったりすることが絶対に望ましくないことは間違いないでしょう。むしろ、仮に重体であるにせよ、現金正恩体の維持を支持し、存続を望むと思います。まず間違いなく親米国の北朝鮮ができることはないですからね。
  ・・・
  日本はどうでしょうか。今、日本はコロナ禍でそれどころではない状況。今、核弾頭の弾道弾ミサイルを保有する北朝鮮情勢が不安定になることは、日本にとっても望ましくないことは確かです。今回の重体説は誤報であった方がましかも知れませんね。しかし、望ましくないからそうならないとは限りません。今回の重体説を良き警鐘として、そうなった場合の日本への影響や日本の対応について検討を始める契機、と考えた方が得策ですね。特に、地理的に近い日本が備えなければいけないのは、強大な北朝鮮軍の動向。クーデターはあり得ます。強大な軍を持つ、特に核兵器を持つ北朝鮮が不安定化するほど気持ちの悪いものはありません。
  重体説を煽るつもりはありませんが、今北朝鮮政府が沈黙していることほど気味の悪いものはありません。過去、金正日が死去した際には、死去後50数時間の沈黙がありました。世界がその死を悟ったのは、北朝鮮の動向・電波を傍受しているから情報筋から、葬送マーチが聞こえてきた、との情報を得た時だったのです。もし死去のようなことがあるとすれば、側近高官のみぞ知ることで、権力継承の体制が固まるまでは国内外に沈黙を守り、固まってからその権力継承者が全権を背負い・実際の権力を握った上で、情報をリリースをすることになるでしょう。既述のように、権力継承基盤が盤石ではないので、時間はかかるでしょうね。間違いなく、その間に中国からねじ込みが考えられますから。
  ウーム、当面注視が必要ですね。誤報なら誤報で、元気な金正恩が(影武者ではなく)北朝鮮の高官たちに偉そうに指導している場面などの最新の北朝鮮中央テレビの映像が出てきてもらわんことには安心できませんね。

 (了)

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