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2021/09/18

北朝鮮の新型変則軌道ミサイルは迎撃困難?:やれることはある

2021年9月15日新型弾道ミサイル
2021年9月15日北朝鮮の新型弾道ミサイル発射(2021年9月16日付NHKテレビ「北朝鮮国営テレビ 列車から発射したミサイルの映像公開」より)

北朝鮮の新型変則軌道ミサイルは迎撃困難?!
 2021年9月15日、北朝鮮がまた短距離弾道ミサイルを発射し、「100キロ未満の低い高度を、変則的な軌道でおよそ750キロ飛しょうし、(我が国の)排他的経済水域の内側の日本海に落下」(NHK報道)したことを、同日防衛省が発表しました。しかも、今回の弾道ミサイルでセンセーショナルに報道があったのは、今回の北朝鮮の新型弾道ミサイルを24時間監視している我が国及び韓国のレーダーが正確に捉えられなかったこと、特に弾道ミサイルながら比較的低空を滑空する変則軌道をとるため、この新型ミサイルに対し我が国の現有弾道ミサイル防衛装備では対抗できない、との報道がなされ、注目を集めています。
(参照:2021年9月16日付NHK「北朝鮮 弾道ミサイル その後の分析でEEZ内側に落下と推定」ほか各紙)

私見ながら、対抗策がないわけではない
 ほとんどのマスコミが、今回の北朝鮮の新型弾道ミサイルについて、判で押したように「迎撃困難」とか「対抗策なし」と喧伝していますが、決して舐めてはいけませんが、無用の恐怖心を煽るのも間違いです。私見ながら、少々異論があります。

①まずこのタイプのミサイルは2年前から発射実験している
 まず、「新型」と称されていますが、これは元々ロシアが開発し20年近くあちこちに武器輸出しているイスカンデル型ミサイルで、2年前から北朝鮮は射ってますよ。2019年7月26日付 日経新聞「迎撃困難、ロシア製模倣か 北朝鮮の新型ミサイル 在日米軍も射程に、韓国軍が分析」にもあるように、我が国内でも報道されています。
 ロシアが開発したイスカンデル型ミサイルは、高度50キロ、射程500キロほどですが、輸出用のは280キロ程度しか届かないようになっていました。売りは、敵国の防空システムをかいくぐれるよう、弾道ミサイルの特性である「放物線」軌道を部分的に変速軌道にし、狙われやすい段階では敵の対空ミサイルを誤爆させるデコイを撃ったり、滑空して飛距離を伸ばしたあげくに慣性誘導に加え衛星誘導や光学誘導も駆使して目標に命中させるというシロモノです。ロシアは国内外のロシア軍に配備のほか、グルジアやシリアで実戦運用し、ナゴルノカラバフ戦争ではアルメニアが使用するなど、実戦経験も豊富です。北朝鮮は、この輸出型のプロトタイプに、北朝鮮なりに改良を施しては実験をして実用化・実戦配備化を目指して研究開発したのでしょうね。   
2年前の2019年7月の発射の際が、高度50キロ射程600キロでしたから、高度を上げて100キロ以下で滑空させ射程を伸ばして750キロに。戦術弾道弾ミサイルながら、750キロ射程があるので戦域レベルのカテゴリーと言えましょう。元のイスカンデル型ミサイルは高さ7.2m、直径0.9mくらいなので、ニュース映像の発射シーンを見る限り、通常の列車用の電柱が5m位ですから高さ10mx直径1m強くらいに大型化しているように見えます。装輪車両発射から列車発射に改良していますね。敵ながらあっぱれなミサイル開発ですよ。

②しかし、ナゴルノカラバフの実戦成果では「使えない」ミサイルだった
 つい昨年の話、ナゴルノカラバフ戦争でアルメニアがアゼルバイジャンに対して実戦でこの型のミサイルを使用していますが、そもそも不発射やら、発射できても迎撃されるやら、到達しても目標を外すは弾頭が不発するは弾頭爆発の威力がないは、アルメニアの大統領自身が酷評した、という逸話があります。当然ロシアは猛反発。「そもそもアルメニアはイスカンデルミサイルを発射していない」と主張していますが、実際にミサイル発射のシーンがSNSで発信されて残っているし、アゼルバイジャン国内にそのミサイルの弾頭の残骸が証拠として残っているし、・・・。実際には役に立たなかった模様です。(ちなみに、アゼルバイジャンに落ちたそのミサイルの残骸は、必ずや西側、特に米軍の手中に入り徹底的に分析されているものと思われます。)
 ただ、これはロシア軍用純正ミサイルではなく、量産輸出用の方ですから品質管理が悪いバッタ品をロシアがアルメニアに売りつけた、という話かもしれませんが…。

 この話をもって、この型のミサイルをプロトタイプにして改良した北朝鮮の今回の新型ミサイルが「使えない」ということにはなりません。しかし、そもそも「弾道ミサイル」というものは、、発射前後のロケット噴射エンジンの推進力で高高度まで上がり、放物線を描いて目標に落ちて行き(目標に当てるために少々の終末誘導はするものの)、長射程の目標に弾頭が命中するように作ったものです。それを迎撃されないように、本来の放物線的な弾道軌道を外れて変速軌道にしたり、デコイを撃ったり、と改良したがゆえに、いろいろ無理がある装備体系になっています。北朝鮮は、今回の実験で目標に命中した、と喧伝していますが、アルメニアの悲劇のように、実戦運用において所望の精度が発揮できるかは、全くもって未知数なわけです。
(参照: 2020年12月8日付Missile Threat「The Air and Missile War in Nagorno-Karabakh: Lessons for the Future of Strike and Defense」)

③イスカンデル型ミサイルの迎撃は、難しいが対抗策がないわけではない
 そして、前述のアルメニアの話で私が注目したのは、アゼルバイジャン軍のイスラエル製の迎撃ミサイルシステムにレーダーで捕捉され、その迎撃ミサイルで撃ち落とされていることです。あれ?迎撃困難じゃなかったの?
 これは、そもそもロシアと友好国であるはずのアルメニアが、敗戦の腹立ちまぎれにこのミサイルが使えなかった話を暴露したため西側諸国の耳目に入った話ですが、そもそも、アルメニアのように量産型輸出用のものではなく本チャンのロシア製イスカンデル型ミサイルもグルジア、クリミア、シリア等でも実戦で使われてきました。そしてそのミサイルの使用による戦果が、戦場を支配するゲームチェンジャーになったか?というとなっていません。戦史において目を引くのは、第2次世界大戦のドイツの電撃戦における主力戦車の戦場の席巻、真珠湾奇襲の際の日本帝国海軍の空母からの艦載機による打撃力、等々のように、その当時の戦場の常識をぶち破るゲームチェンジャーとなる武器が出現し、戦略地図や装備体系に激震が起きるものです。そういう意味では、迎撃困難なはずのイスカンデルは装備化・実戦運用されてからはや20年近くですが、全くゲームチェンジャーにはなっていません。例えば、シリアにロシア軍がイスカンデル型ミサイルを装備して駐留・加勢していますが、この存在がシリアの内戦状態を一変させるような戦果を出していません。同様に、グルジアやクリミアの紛争でも実戦運用していますが、これまた同様に、この存在がグルジアやクリミヤの戦況を一変させるような戦果を出していません。ミサイル以外の総合戦闘力や外交において紛争自体には勝っています。要するに、このミサイルで敵国主要都市や敵軍の戦力の中枢部を叩けるのであれば叩いているはずで、このミサイルの存在により、敵軍は手も足も出ない状況になったか?なっていないのです。また、ロシアもそうは使っていないのです。要するに、グルジア軍やウクライナ軍(クリミア)の防空システムをかいくぐる無敵のミサイルではないのです。

自衛隊のミサイル防衛
日本の弾道ミサイル防衛の体制(防衛省・自衛隊HP 防衛省の取り組み「ミサイル防衛について」より)

 少々話を整理すると、「全く使えないミサイルだ」と言っているわけではなく、イスカンデル型が迎撃が難しいことは間違いないのです。しかし、決して迎撃不可能なわけではなく、「今自衛隊が装備している防空システムを駆使することで、対抗策はある」ということを言いたいのです。
 自衛隊の弾道ミサイル防衛は、航空自衛隊の警戒管制レーダー、海上自衛隊イージス艦のSM-3ミサイル、及び航空自衛隊のペトリオットミサイル(PAC-3 )です。(ここに陸上自衛隊のイージスアショアが導入される計画がありましたが中止されました。)
 レーダーで捕捉できないか?: もともと、弾道弾ミサイル防衛において、北朝鮮から発射された時点からウォッチされその軌道が予測され継続的にレーダーが監視しているわけですが、軌道が変則的なため、これまでの変速軌道でないものを前提としていた予測軌道を取らないために捕捉しきれなかったのかも知れません。弾道軌道の中のどのあたりの段階で変速軌道になるのか、滑空がどう違ってくるのか、終末誘導がどうなっているのか、この辺のデーターを揃えて監視態勢をとれば、「補足できなくはない」といえます。
 SM-3やPAC-3で迎撃できないのか?: できます。イスカンデル型は、高度が50キロなので、「SM-3は最低迎撃高度が70kmなのでイスカンデル型の迎撃は困難」と目されていましたが、今回の新型は射程を伸ばす改良をしたがゆえに高度は100キロに。よって捕捉が可能になりました。また、PAC-3は、射程高度は防衛秘密なので明確にできませんが、捕捉は十分に可能です。「捕捉」とは、空自のレーダーが捉えたミサイルの軌道の情報からSM-3やPAC-3の固有のレーダーが直接ミサイルを捉え、その捉えたミサイルの軌道にミサイルが命中するように誘導・迎撃する、その一連の行動を「捕捉」という言葉を使いました。要するに、迎撃可能なのです。勿論、確率論の問題ですよ。100発100中で迎撃できるわけじゃありません。外したら我が国国土に落ちるわけですから大変なことです。しかし、逆説的に「迎撃不可能」とか「対抗策なし」というわけではないのです。

 勿論、この新型ミサイルが迎撃が難しいことは間違いないのです。更に防空を強化するために「あれが欲しい」「これがあったら」は当然あります。それは、今後の防衛省の検討課題でしょう。
 しかし、もう一度、声を大にして言いたいのは、これをもって北朝鮮のミサイル能力に対して恐怖心を煽るのはあるべき姿ではなく、「今ある手段で対抗策がないわけじゃない」ということです。

(了)

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2020/07/11

イージスアショア配備撤回は間違っている

 数週間古い話ですみません。
 友人からイージスアショア撤回問題について見解を求められたので、ブログにて回答させていただきます。
AP_20156477089100.jpg
米国のロッキード・マーティンの施設にあるイージス・アショアの上部構造(wikiより)

イージスアショアの配備撤回
 6月15日夕、河野防衛大臣は弾道ミサイル防衛の縦深性が期待された迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止を、突如表明。
 理由は、配備を検討していた秋田県と山口県に対し、ブースターの一部の落下は演習場内に収まるよう改修するから大丈夫、と説明してきたが、改修コストが予想をはるかに超えるため、断念せざるを得ない、ということ。
 このニュースを受け、勉強不足なマスコミ各社は、イージスのそもそも迎撃ミサイルとしてのウェポンシステムそのものにも言及して、はじめから使い物にならないかのようなクソミソな批判を喧伝。

ちょっと待て、本質は何だ?
 ちょっと待って、論点がおかしい。「ブースターの落下が演習場内に収まるように改修する」という杜撰な防衛省の地元への説明は確かに非がある。しかし、本質を見誤っている。日本に核ミサイル攻撃を甘受するのか否かの問題のはず。日本を守るためのイージスアショアによる迎撃ミサイル発射の際に、ミサイルをロケット噴射で上空に推進する役目のブースターは、役目を終えると重力で外れて落下していく。これが洋上だったら人が住んでいないので問題にならないが、陸上配備のイージスの場合は、確率論の話ながら、落下する場所が演習場内に収まるとは言い切れない。ここをどう捉えるかが問題の本質のはずだ。本質的な議論のために少し乱暴な表現をすれば、ブースターが演習場外の住宅地に落下して生じる物理的被害と、日本の首都東京や主要都市に弾道ミサイルによる核攻撃を受けて生じる物理的被害・政治経済的影響の比較分析の問題ではないだろうか。後者を何としてでも避けるための努力がイージスアショアの導入であって、その際の問題点がブースターの演習場外落下の可能性である。

 地元は可能性の絶無を求めるでしょうよ。しかし、いつどの方向に攻撃されるかわからない弾道ミサイル攻撃に対応するイージスアショアの防空ミサイルに、「ブースターの落下を演習場内に収めるように改修せよ」というのが無理な相談。弾道ミサイルの迎撃ミサイルなんだから、弾道ミサイルに命中する迎撃ミサイルの精度が何よりの本質。ブースターの落下のコントロール?なんて枝葉も枝葉の問題である。では、「ご安心ください、ブースターは100%演習場内に落下するように回収できました。但し申し訳ないことに、迎撃ミサイルの命中精度が落ちました、すみません。」なら配備できてめでたしめでたし?なのか。

 要するに、沖縄の在日米軍基地問題と本質は同じ。我が国防衛のために、在日米軍を沖縄という戦略的重要性のある場所に置かせていただく。地元にはご苦労をかける。だから様々な補償や沖縄振興の措置をとる。これと同様、我が国防衛のために、イージスアショアを秋田県と山口県に置かせていただく。ブースター落下の可能性の問題への補償と地域振興の措置を篤くとらせていただく。・・・こう言う話じゃないの?

「飽和攻撃されて金のムダ」は間違っている
 蛇足ながら、更に2点ほど。「イージスアショアなんて高い装備を米国に買わされるのはバカバカしい。北朝鮮が何発も何発も飽和攻撃をしてきたら、初めの数発を迎撃できても、どっちみち何発か当たるんだから。やるだけ金の無駄だ。」という件と、「イージスアショアが配備撤回なら、これを機会に『敵基地攻撃能力』を持つべきだ。」という件、という議論について私見ながらコメントさせていただく。

 まず「北朝鮮の飽和攻撃には敵わないのだから、お金のムダなのだ論」だが、勉強不足も甚だしい。現行のイージス艦は、各艦のイージスシステムが200個以上の目標を捕捉し、同時に10個目標を迎撃できる。これを海上自衛隊は8隻保有している。ここ数年の最新SM-3の迎撃(実射)実績では外していない。90%を超えて100%に近似するところまで来ている。100%とは言わないまでも、理論的には飽和攻撃に手も足も出ない状態ではない。しかしながら、艦艇搭載である以上、船は補給も必要だし定期的なメンテも乗組員の休養も必要なので、実は1/3しか実戦配備できない。しかも、海上自衛隊のイージス艦の任務は弾道ミサイル防衛の専任ではない。多様な任務をこなす各種海自艦艇の一翼として多様な任務につく。これを強力にバックアップするのが陸上イージスだったはずなのだ。よって、陸上イージスは金のムダではない。確かに金はかかるが、陸上イージスは非常に重要な弾道ミサイル防衛の要だったのだ。

「これを機に敵基地攻撃能力を論」なんて有り得ない
 次に「これを機に敵基地攻撃能力を持とう論」だが、理論としてはあり得るが、現在の日本の認識ではその論法が成り立つ可能性はない。そんな議論がまともにできる日本なら、そもそも陸上イージスのブースター落下可能性で配備の撤回には至らないでしょ。ムリなんですよ。今の日本人の常識では。まぁ、議論はいいけどね。実現可能性なんてout of眼中な話だ。

河野大臣、アンタが国民を啓蒙しなきゃダメでしょ!
 そもそも、イージスアショア導入の本質は、北朝鮮や中国の弾道ミサイル防衛の強化だったはず。度重なる北朝鮮の弾道ミサイル開発及び多目標に指向される核弾頭の開発により、北朝鮮の弾道ミサイルによる核攻撃が日本国民の生命・財産の「今そこにある危機」と認識したのではなかったか?イージスアショアは、日本全体を24時間365日警戒できる弾道ミサイル防衛の強力な縦深性をもたらすものだったはずだ。イージスアショアは、元々はイージス艦に搭載された防空ミサイルの陸上設置型を言う。日本の弾道ミサイル防衛の要であるイージス艦のSM-3を、地上配備でオーバーラップして文字どうり「魔を払う盾=イージス」を提供するものだったはず。エセのニワカ軍事アナリスト?や勉強不足の記者達が、この陸上イージスをあたかも欠陥品のようにボロカス言うが、勉強不足も甚だしい。イージス艦の防空能力は、弾道ミサイルの迎撃の90%以上まで能力が向上している。これを陸上からのイージスによるオーバーラップで100%に近づけようという取り組みだった。

 こんな正論は普通の常識的な政治家では国民に説明できない。できる可能性があるのは宇宙人=河野大臣のみ。そういう意味でアンタに期待していたのに。宇宙人っぷりが違う方に働いて、早々にイージスアショアを切りやがった。違うぞ河野!アンタ本質を理解しているはずだ。宇宙人のアンタなら、他の常識的政治家が真っ青になる「国民に正論をかまして啓蒙する」なんて所業が出来るはず。制服自衛官も期待していたはず。もう制服脱いだから俺が言ってやる!河野!見損なったぞ!逃げるな!

(了)

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