イスラエルがイラン核施設を破壊?で一触即発:カギ握るのは米国
イスラエルがイラン核施設を破壊、イランは報復開始?
2020年4月11日、イラン中部にあるナタンツの核開発施設が原因不明の爆発事案が発生。電気系統がダウンし、これによりウラン濃縮に使う遠心分離機が壊滅的ダメージを受けた模様。イラン政府は、この「核テロ」はイスラエルの犯行だと主張し報復を表明するとともに、13日にはイラン外務次官が濃縮度60%のウラン製造をする旨、IAEAに通告。同日、イスラエル関連の船舶がアラブ首長国連邦のフジャイラ沖で攻撃を受け、イスラエル報道ではイランの犯行と糾弾。高い可能性でイランによる報復と見られている。 (参照: 2020年4月12日付VOA記事「Iran Blames Israel for Nuclear Facility Blackout」、同年同日付東京新聞〈Tokyoweb〉記事「イスラエル船に攻撃と報道 UAE沖、イランの報復か」)

President Hassan Rouhani addresses the nation in a televised speech in Tehran, Iran, Feb. 10, 2021. (Iranian Presidency Office via AP) (2020年4月14日付VOA記事「Iranian President Says Higher Enrichment Decision is Response to Nuclear Facility Attack」より)
激怒したイランの暴走で情勢は制御不能化か?
米国バイデン政権の誕生で、イラン核合意に米国が復帰し、対イラン経済制裁が解除される方向性が期待されていた中、そんな甘い期待を待ったをかけたのがイスラエル。イラン核開発を断固阻止するため実力行使でこれを粉砕。情勢は一転して危険水域に舵が切られた模様です。イランもイスラエルに報復で応じ、更なる核開発推進へとアクセルを踏み始めた状況です。イランは態度を硬直化させ、国際社会の制止を聞かずに核開発に邁進する気配を示しています。イラン核合意交渉は再び暗礁に乗り上げ、イラン対イスラエルの緊張はさらに高まりつつある中、情勢は制御不能状態に至るのか懸念されています。
(参照: 2020年4月13日付VOA記事「Analysts: Iran Nuclear Site Sabotage May Weaken Tehran’s Position in Indirect Talks with US」)
カギを握るのは米国: 沈静化・軟着陸を模索
私見ながら、このカギを握るのは米国でしょうね。米国としては、イランを暴走させずにコントローラブルな状態に置きたいので、何としてでも情勢を沈静化させ、イラン核開発の暴走ももイスラエルの暴挙も、況やイラン対イスラエルの直接の紛争も避けて、穏便に行きたいのです。従って、米国は、まずはイスラエルの首根っこを押さえて「もう勝手なことするなよ」とたしなめ、他方でイランに「経済制裁を解除してもらいたいなら、おまえもこれ以上暴れるなよ」と落ち着かせ、これ以上の緊張緊迫化をさせずに「核合意への復帰」と「対イラン経済制裁の解除」を軟着陸させる方向で収めに入ると見ています。米国は今、懸案だったアフガンからの完全撤退が焦眉の急の喫緊課題であり、9.11の20周年までに無事に撤退完了するためにも、対イランを軟着陸させたいのです。実際、4月12日にオースティン米国防長官がイスラエルを訪問し、ネタ二ヤフ大統領や国防相と会談しています。表面上はもっと以前から組まれていた来訪なので、あくまで米国とイスラエルの間の安全保障についての会談ですが、今回のイラン核施設への破壊工作について「もう勝手なことをするなよ」と念を押したことは間違いないでしょう。
今回なぜイスラエルが破壊工作をしたのか
今回のイスラエルのイラン核施設への破壊工作はイスラエルの単独犯であって、米国には内緒で実施したと思われます。元々、2009年~⒑年に同じナタンツのイラン核施設に米国とイスラエルの共同作戦で,stuxnetというマルウェアを忍び込ませた巧妙なサイバー攻撃により、当時のイラン核開発の目玉だったウラン高濃縮プラントの遠心分離器の壊滅的破壊作戦を成功させた経緯がありました。しかし、今回はイスラエルの単独犯です。バイデン政権下の米国は知っていたら必ず止めたでしょうから。実は昨年8月にも、イスラエルは爆破(空爆か?)作戦をしています。これも単独犯。または、当時のトランプ政権は知っていて見ぬふりをしたかもしれません。イスラエルって国は、過剰な自国防衛理念があって、「イランが核兵器を持てば必ずイスラエルを標的とするため、絶対にそれを阻止する。実力行使もいとわない。」と公言してはばかりません。米国にしてみれば、「馬鹿野郎!人がせっかくイランを大人しくさせようと思って、核合意という枠にはめようとしてんだから妨害すんじゃねぇよ」という話です。イスラエルにはそんな合意なんて甘い話は信用ならないのです。トランプ政権からバイデン政権になって、バイデンは元々オバマ政権の副大統領でしたから、必ずや核合意に復帰すると読んで、イスラエルはその核合意復帰を阻むために、わざと今回の核テロを単独犯行したに違いありません。核合意交渉なんかできない情勢にかきまぜたわけです。ネタニヤフって奴はそういう奴なんですよ。
米国が対イラン強硬策に出ず、慎重な対応をする理由
バイデン政権は、トランプ前政権が離脱したイラン核合意体制に復帰したい、というのが何よりの理由です。イスラエルにはそれが我慢ならないでしょうけど。バイデン政権の考え方として、イランとは仲よくできないまでも、「これだけは守れよ」という枠の中にはめて、それなりに緊張関係にあっても、それぞれ共存共栄したいのです。イスラエルが「そうはさせじ」と妨害するのを知っての上で、米国は今こそ慎重に事を進めたいのです。それというのも・・・
米国が懸念する要素の一つに、イランの大統領選挙が間もなくあります。少なくともイランの現ロウハニ大統領は穏健派なので、まだ米国との交渉相手としてベストです。彼ならまだ話になるから。しかし、今回の事件で対イスラエル強硬派=対米強硬派が政権についた場合、もはやイランは米国との交渉のテーブルにつかず、暴走に至るでしょう。まだロウハニの方がまし。
また、米国が懸念する要素の二つ目にして最大の懸案が、アフガン撤退問題です。今年9月11日で20年にもなりますが、ここまでに完全撤退し、アフガン戦争を終わりにしたいのです。一見、イランをめぐる情勢と関係がなさそうですが、実に影響大なのが「タリバン」なのです。タリバンは徹底的な攘夷派=外国嫌いなので、米軍に早く出て行ってもらいたいのに、イラン情勢の緊迫に伴って在アフガン米軍が撤退に向けた活動に専念できず、対イラン緊迫のための航空基地使用だとか活動で多忙になると、タリバンは激怒し、対米テロを再燃させことが必定です。米国としては整斉とアフガンを撤退したいのに、再びテロでアフガン国内が混乱の渦中になってしまい、ベトナム戦争時のサイゴン陥落前の米軍撤退のような形での「逃げるような撤退」は絶対に避けたいのです。
イランも珍しく米バイデン政権の考えを理解して暴走は慎しんでいる模様
今回のイスラエルへ船舶への「報復」をよく確認してみると、小規模損害かつ人的損耗なしなのです。特に、イスラエル人を殺していません。イスラエルにとって経済的な損失はある程度ありましたが、限定的なのです。要するに、怒りのはけ口として、今回の報復はやるにはやったのですが、こうした直接の実力行使は慎むでしょう。なぜならば、イランにとっても米国主導の対イラン経済制裁の解除が国家的な外交目標です。米国の核合意復帰と経済制裁解除しか道がないのは、普通の神経の政治家には分かるのです。しかし、イランの怖いところは、イスラム原理主義で凝り固まった国家指導者ハメネイ師や、強硬派の政治指導者、及び政治的プロパガンダに乗せられて頭に血が上ったデモ市民には、現実主義や道理は通用しません。これがイランの恐いところ。アキレス腱ですね。だからこそ、イランの大統領選挙がイラン情勢を見る剣が峰になりそうです。
(了)


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2020年4月11日、イラン中部にあるナタンツの核開発施設が原因不明の爆発事案が発生。電気系統がダウンし、これによりウラン濃縮に使う遠心分離機が壊滅的ダメージを受けた模様。イラン政府は、この「核テロ」はイスラエルの犯行だと主張し報復を表明するとともに、13日にはイラン外務次官が濃縮度60%のウラン製造をする旨、IAEAに通告。同日、イスラエル関連の船舶がアラブ首長国連邦のフジャイラ沖で攻撃を受け、イスラエル報道ではイランの犯行と糾弾。高い可能性でイランによる報復と見られている。 (参照: 2020年4月12日付VOA記事「Iran Blames Israel for Nuclear Facility Blackout」、同年同日付東京新聞〈Tokyoweb〉記事「イスラエル船に攻撃と報道 UAE沖、イランの報復か」)

President Hassan Rouhani addresses the nation in a televised speech in Tehran, Iran, Feb. 10, 2021. (Iranian Presidency Office via AP) (2020年4月14日付VOA記事「Iranian President Says Higher Enrichment Decision is Response to Nuclear Facility Attack」より)
激怒したイランの暴走で情勢は制御不能化か?
米国バイデン政権の誕生で、イラン核合意に米国が復帰し、対イラン経済制裁が解除される方向性が期待されていた中、そんな甘い期待を待ったをかけたのがイスラエル。イラン核開発を断固阻止するため実力行使でこれを粉砕。情勢は一転して危険水域に舵が切られた模様です。イランもイスラエルに報復で応じ、更なる核開発推進へとアクセルを踏み始めた状況です。イランは態度を硬直化させ、国際社会の制止を聞かずに核開発に邁進する気配を示しています。イラン核合意交渉は再び暗礁に乗り上げ、イラン対イスラエルの緊張はさらに高まりつつある中、情勢は制御不能状態に至るのか懸念されています。
(参照: 2020年4月13日付VOA記事「Analysts: Iran Nuclear Site Sabotage May Weaken Tehran’s Position in Indirect Talks with US」)
カギを握るのは米国: 沈静化・軟着陸を模索
私見ながら、このカギを握るのは米国でしょうね。米国としては、イランを暴走させずにコントローラブルな状態に置きたいので、何としてでも情勢を沈静化させ、イラン核開発の暴走ももイスラエルの暴挙も、況やイラン対イスラエルの直接の紛争も避けて、穏便に行きたいのです。従って、米国は、まずはイスラエルの首根っこを押さえて「もう勝手なことするなよ」とたしなめ、他方でイランに「経済制裁を解除してもらいたいなら、おまえもこれ以上暴れるなよ」と落ち着かせ、これ以上の緊張緊迫化をさせずに「核合意への復帰」と「対イラン経済制裁の解除」を軟着陸させる方向で収めに入ると見ています。米国は今、懸案だったアフガンからの完全撤退が焦眉の急の喫緊課題であり、9.11の20周年までに無事に撤退完了するためにも、対イランを軟着陸させたいのです。実際、4月12日にオースティン米国防長官がイスラエルを訪問し、ネタ二ヤフ大統領や国防相と会談しています。表面上はもっと以前から組まれていた来訪なので、あくまで米国とイスラエルの間の安全保障についての会談ですが、今回のイラン核施設への破壊工作について「もう勝手なことをするなよ」と念を押したことは間違いないでしょう。
今回なぜイスラエルが破壊工作をしたのか
今回のイスラエルのイラン核施設への破壊工作はイスラエルの単独犯であって、米国には内緒で実施したと思われます。元々、2009年~⒑年に同じナタンツのイラン核施設に米国とイスラエルの共同作戦で,stuxnetというマルウェアを忍び込ませた巧妙なサイバー攻撃により、当時のイラン核開発の目玉だったウラン高濃縮プラントの遠心分離器の壊滅的破壊作戦を成功させた経緯がありました。しかし、今回はイスラエルの単独犯です。バイデン政権下の米国は知っていたら必ず止めたでしょうから。実は昨年8月にも、イスラエルは爆破(空爆か?)作戦をしています。これも単独犯。または、当時のトランプ政権は知っていて見ぬふりをしたかもしれません。イスラエルって国は、過剰な自国防衛理念があって、「イランが核兵器を持てば必ずイスラエルを標的とするため、絶対にそれを阻止する。実力行使もいとわない。」と公言してはばかりません。米国にしてみれば、「馬鹿野郎!人がせっかくイランを大人しくさせようと思って、核合意という枠にはめようとしてんだから妨害すんじゃねぇよ」という話です。イスラエルにはそんな合意なんて甘い話は信用ならないのです。トランプ政権からバイデン政権になって、バイデンは元々オバマ政権の副大統領でしたから、必ずや核合意に復帰すると読んで、イスラエルはその核合意復帰を阻むために、わざと今回の核テロを単独犯行したに違いありません。核合意交渉なんかできない情勢にかきまぜたわけです。ネタニヤフって奴はそういう奴なんですよ。
米国が対イラン強硬策に出ず、慎重な対応をする理由
バイデン政権は、トランプ前政権が離脱したイラン核合意体制に復帰したい、というのが何よりの理由です。イスラエルにはそれが我慢ならないでしょうけど。バイデン政権の考え方として、イランとは仲よくできないまでも、「これだけは守れよ」という枠の中にはめて、それなりに緊張関係にあっても、それぞれ共存共栄したいのです。イスラエルが「そうはさせじ」と妨害するのを知っての上で、米国は今こそ慎重に事を進めたいのです。それというのも・・・
米国が懸念する要素の一つに、イランの大統領選挙が間もなくあります。少なくともイランの現ロウハニ大統領は穏健派なので、まだ米国との交渉相手としてベストです。彼ならまだ話になるから。しかし、今回の事件で対イスラエル強硬派=対米強硬派が政権についた場合、もはやイランは米国との交渉のテーブルにつかず、暴走に至るでしょう。まだロウハニの方がまし。
また、米国が懸念する要素の二つ目にして最大の懸案が、アフガン撤退問題です。今年9月11日で20年にもなりますが、ここまでに完全撤退し、アフガン戦争を終わりにしたいのです。一見、イランをめぐる情勢と関係がなさそうですが、実に影響大なのが「タリバン」なのです。タリバンは徹底的な攘夷派=外国嫌いなので、米軍に早く出て行ってもらいたいのに、イラン情勢の緊迫に伴って在アフガン米軍が撤退に向けた活動に専念できず、対イラン緊迫のための航空基地使用だとか活動で多忙になると、タリバンは激怒し、対米テロを再燃させことが必定です。米国としては整斉とアフガンを撤退したいのに、再びテロでアフガン国内が混乱の渦中になってしまい、ベトナム戦争時のサイゴン陥落前の米軍撤退のような形での「逃げるような撤退」は絶対に避けたいのです。
イランも珍しく米バイデン政権の考えを理解して暴走は慎しんでいる模様
今回のイスラエルへ船舶への「報復」をよく確認してみると、小規模損害かつ人的損耗なしなのです。特に、イスラエル人を殺していません。イスラエルにとって経済的な損失はある程度ありましたが、限定的なのです。要するに、怒りのはけ口として、今回の報復はやるにはやったのですが、こうした直接の実力行使は慎むでしょう。なぜならば、イランにとっても米国主導の対イラン経済制裁の解除が国家的な外交目標です。米国の核合意復帰と経済制裁解除しか道がないのは、普通の神経の政治家には分かるのです。しかし、イランの怖いところは、イスラム原理主義で凝り固まった国家指導者ハメネイ師や、強硬派の政治指導者、及び政治的プロパガンダに乗せられて頭に血が上ったデモ市民には、現実主義や道理は通用しません。これがイランの恐いところ。アキレス腱ですね。だからこそ、イランの大統領選挙がイラン情勢を見る剣が峰になりそうです。
(了)


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