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2021/04/15

イスラエルがイラン核施設を破壊?で一触即発:カギ握るのは米国

イスラエルがイラン核施設を破壊、イランは報復開始?
 2020年4月11日、イラン中部にあるナタンツの核開発施設が原因不明の爆発事案が発生。電気系統がダウンし、これによりウラン濃縮に使う遠心分離機が壊滅的ダメージを受けた模様。イラン政府は、この「核テロ」はイスラエルの犯行だと主張し報復を表明するとともに、13日にはイラン外務次官が濃縮度60%のウラン製造をする旨、IAEAに通告。同日、イスラエル関連の船舶がアラブ首長国連邦のフジャイラ沖で攻撃を受け、イスラエル報道ではイランの犯行と糾弾。高い可能性でイランによる報復と見られている。 (参照: 2020年4月12日付VOA記事「Iran Blames Israel for Nuclear Facility Blackout」、同年同日付東京新聞〈Tokyoweb〉記事「イスラエル船に攻撃と報道 UAE沖、イランの報復か」)
President Hassan Rouhani addresses
President Hassan Rouhani addresses the nation in a televised speech in Tehran, Iran, Feb. 10, 2021. (Iranian Presidency Office via AP) (2020年4月14日付VOA記事「Iranian President Says Higher Enrichment Decision is Response to Nuclear Facility Attack」より)

激怒したイランの暴走で情勢は制御不能化か?
 米国バイデン政権の誕生で、イラン核合意に米国が復帰し、対イラン経済制裁が解除される方向性が期待されていた中、そんな甘い期待を待ったをかけたのがイスラエル。イラン核開発を断固阻止するため実力行使でこれを粉砕。情勢は一転して危険水域に舵が切られた模様です。イランもイスラエルに報復で応じ、更なる核開発推進へとアクセルを踏み始めた状況です。イランは態度を硬直化させ、国際社会の制止を聞かずに核開発に邁進する気配を示しています。イラン核合意交渉は再び暗礁に乗り上げ、イラン対イスラエルの緊張はさらに高まりつつある中、情勢は制御不能状態に至るのか懸念されています。
(参照: 2020年4月13日付VOA記事「Analysts: Iran Nuclear Site Sabotage May Weaken Tehran’s Position in Indirect Talks with US」)

カギを握るのは米国: 沈静化・軟着陸を模索
 私見ながら、このカギを握るのは米国でしょうね。米国としては、イランを暴走させずにコントローラブルな状態に置きたいので、何としてでも情勢を沈静化させ、イラン核開発の暴走ももイスラエルの暴挙も、況やイラン対イスラエルの直接の紛争も避けて、穏便に行きたいのです。従って、米国は、まずはイスラエルの首根っこを押さえて「もう勝手なことするなよ」とたしなめ、他方でイランに「経済制裁を解除してもらいたいなら、おまえもこれ以上暴れるなよ」と落ち着かせ、これ以上の緊張緊迫化をさせずに「核合意への復帰」と「対イラン経済制裁の解除」を軟着陸させる方向で収めに入ると見ています。米国は今、懸案だったアフガンからの完全撤退が焦眉の急の喫緊課題であり、9.11の20周年までに無事に撤退完了するためにも、対イランを軟着陸させたいのです。実際、4月12日にオースティン米国防長官がイスラエルを訪問し、ネタ二ヤフ大統領や国防相と会談しています。表面上はもっと以前から組まれていた来訪なので、あくまで米国とイスラエルの間の安全保障についての会談ですが、今回のイラン核施設への破壊工作について「もう勝手なことをするなよ」と念を押したことは間違いないでしょう。

今回なぜイスラエルが破壊工作をしたのか
 今回のイスラエルのイラン核施設への破壊工作はイスラエルの単独犯であって、米国には内緒で実施したと思われます。元々、2009年~⒑年に同じナタンツのイラン核施設に米国とイスラエルの共同作戦で,stuxnetというマルウェアを忍び込ませた巧妙なサイバー攻撃により、当時のイラン核開発の目玉だったウラン高濃縮プラントの遠心分離器の壊滅的破壊作戦を成功させた経緯がありました。しかし、今回はイスラエルの単独犯です。バイデン政権下の米国は知っていたら必ず止めたでしょうから。実は昨年8月にも、イスラエルは爆破(空爆か?)作戦をしています。これも単独犯。または、当時のトランプ政権は知っていて見ぬふりをしたかもしれません。イスラエルって国は、過剰な自国防衛理念があって、「イランが核兵器を持てば必ずイスラエルを標的とするため、絶対にそれを阻止する。実力行使もいとわない。」と公言してはばかりません。米国にしてみれば、「馬鹿野郎!人がせっかくイランを大人しくさせようと思って、核合意という枠にはめようとしてんだから妨害すんじゃねぇよ」という話です。イスラエルにはそんな合意なんて甘い話は信用ならないのです。トランプ政権からバイデン政権になって、バイデンは元々オバマ政権の副大統領でしたから、必ずや核合意に復帰すると読んで、イスラエルはその核合意復帰を阻むために、わざと今回の核テロを単独犯行したに違いありません。核合意交渉なんかできない情勢にかきまぜたわけです。ネタニヤフって奴はそういう奴なんですよ。

米国が対イラン強硬策に出ず、慎重な対応をする理由
 バイデン政権は、トランプ前政権が離脱したイラン核合意体制に復帰したい、というのが何よりの理由です。イスラエルにはそれが我慢ならないでしょうけど。バイデン政権の考え方として、イランとは仲よくできないまでも、「これだけは守れよ」という枠の中にはめて、それなりに緊張関係にあっても、それぞれ共存共栄したいのです。イスラエルが「そうはさせじ」と妨害するのを知っての上で、米国は今こそ慎重に事を進めたいのです。それというのも・・・
 米国が懸念する要素の一つに、イランの大統領選挙が間もなくあります。少なくともイランの現ロウハニ大統領は穏健派なので、まだ米国との交渉相手としてベストです。彼ならまだ話になるから。しかし、今回の事件で対イスラエル強硬派=対米強硬派が政権についた場合、もはやイランは米国との交渉のテーブルにつかず、暴走に至るでしょう。まだロウハニの方がまし。
 また、米国が懸念する要素の二つ目にして最大の懸案が、アフガン撤退問題です。今年9月11日で20年にもなりますが、ここまでに完全撤退し、アフガン戦争を終わりにしたいのです。一見、イランをめぐる情勢と関係がなさそうですが、実に影響大なのが「タリバン」なのです。タリバンは徹底的な攘夷派=外国嫌いなので、米軍に早く出て行ってもらいたいのに、イラン情勢の緊迫に伴って在アフガン米軍が撤退に向けた活動に専念できず、対イラン緊迫のための航空基地使用だとか活動で多忙になると、タリバンは激怒し、対米テロを再燃させことが必定です。米国としては整斉とアフガンを撤退したいのに、再びテロでアフガン国内が混乱の渦中になってしまい、ベトナム戦争時のサイゴン陥落前の米軍撤退のような形での「逃げるような撤退」は絶対に避けたいのです。

イランも珍しく米バイデン政権の考えを理解して暴走は慎しんでいる模様
 今回のイスラエルへ船舶への「報復」をよく確認してみると、小規模損害かつ人的損耗なしなのです。特に、イスラエル人を殺していません。イスラエルにとって経済的な損失はある程度ありましたが、限定的なのです。要するに、怒りのはけ口として、今回の報復はやるにはやったのですが、こうした直接の実力行使は慎むでしょう。なぜならば、イランにとっても米国主導の対イラン経済制裁の解除が国家的な外交目標です。米国の核合意復帰と経済制裁解除しか道がないのは、普通の神経の政治家には分かるのです。しかし、イランの怖いところは、イスラム原理主義で凝り固まった国家指導者ハメネイ師や、強硬派の政治指導者、及び政治的プロパガンダに乗せられて頭に血が上ったデモ市民には、現実主義や道理は通用しません。これがイランの恐いところ。アキレス腱ですね。だからこそ、イランの大統領選挙がイラン情勢を見る剣が峰になりそうです。

(了)

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2020/11/30

イラン核開発科学者をイスラエルが暗殺か:バイデン就任前に対イラン外交を悪化狙う? 

イラン核開発科学者殺害事件
 2020年11月27日、イランの首都テヘラン郊外のアブザードという小さな町で、イランの核開発の主導的役割を果たした科学者モーセン・ファクリザデ博士が、乗車していた車両を標的とした機関銃によるテロ攻撃を受け、殺害されました。イランのザリフ外相もイラン国営メディアも、以前イスラエルのネタニエフ首相が記者会見でこの博士の名前を出し「この名を覚えておいた方がいい」という思わせぶりな発言があったことから、イスラエルの仕業であると名指しで非難しています。また、イラン最高指導者ハメネイ師もイスラエルを糾弾し、報復を宣言しています。なお、今のところイスラエルはコメントしていません。(参照: 2020年11月27日付 VOA記事「Top Iranian Scientist Assassinated in Attack on His Convoy」、及び同年11月28日付BBC記事「Mohsen Fakhrizadeh, Iran's top nuclear scientist, assassinated near Tehran 」)
Iranian scientist murdered
ファクリザデ博士が銃撃され暗殺された車両(This photo released by the semi-official Fars News Agency shows the scene where Mohsen Fakhrizadeh was killed in Absard, a small city just east of the capital, Tehran, Iran, Nov. 27, 2020. (前述のVOA記事より)

私見ながら
 これは間違いなくイスラエルの仕業ですね。
 イランのザリフ外相や、最も最新ではイラン最高指導者ハメネイ師の発言(参照:2020年11月28日付AP記事「Iran’s Supreme Leader Vows Revenge Over Slain Scientist」)で明確に糾弾されているように、これはイスラエルの「暗殺」です。理由は明確、次期米国大統領バイデン氏のイラン核合意体制(トランプ現大統領が離脱した)への復帰という方向性に対する「妨害」です。こういう時のイスラエル政府の思考はたちが悪い。確信犯ですよ。イランにとって救国の英雄である核開発プロジェクトのリーダーだった国の宝のような科学者を暗殺したりしたら、この後、イランは激怒し、まともに外交交渉なんてできない状況になることを知っての上での暗殺なのです。イランの対外交渉は硬直、特に、イスラエル寄りの対米国外交では初めからヘソが曲がってしまう。次期米国大統領バイデンがイランとの核合意体制に復帰したいことを潰すために、わざと今は何ら対応できないトランプ政権下で暗殺なんてことをする。このタイミングでこんなことをすれば、イランにとっては本来はあるべき宥和策であったとしても、一度我を忘れて激怒してしまったイランはもはや手が付けられない。その根源は、理屈ではなくイスラムの原理・原則と感情的に一歩も退かなくなってしまう最高指導者ハメネイ師の性格。そこを読んで、イスラエルという国は意図的にやっているのです。
Mohsen Fakhrizadeh
ファクリザデ博士(既述のVOA記事より)

 イスラエルのイランに対する暗殺や謀略は、実はこれまで何度も起きてきました。狙いは、イランの核開発の殲滅です。イスラエルにとって、イランの核開発の標的は自国になろうことは明確なためです。どっちもどっちと言えばその通りですが、イランは核開発を追求し、イスラエルはありとあらゆる手段で潰しにかかってきました。イランの核開発は1989年に極秘裏に始まり、プロジェクトAMADと呼ばれ、ファクリザデ博士は研究開発部門のトップでした。しかし、2000年代初めに米国とイスラエルの共同のサイバー攻撃(※stuxnetというウイルスを使いました)で、核開発の中心的拠点だったナタンツ原子力施設の遠心分離機を破壊し、開発を頓挫させました。イランは様々な報復をイスラエルに仕掛けるとともに、核開発を復興しました。ファクリザデ博士は核開発復興の中止人物で、核濃縮を前進させたと言われており、イスラエルもずっと付け狙っていたと思われます。イスラエルは、これまで2010年から2014年までの間に4名の核開発の主要な科学者をイスラエルは暗殺し、今回のファクリザデ博士で5人目です。イランにしてみれば、憤懣やるかたない悔しさでしょう。
(※この米国とイスラエルによるサイバー攻撃でイランの核開発を潰した件は、本ブログ2019/03/25付けの「東京五輪を狙ったサイバー戦は始まっている」にやや詳しく書きました。興味のある方は覗いてみてください。)

 イスラエルがバイデン次期米大統領及び西欧諸国の対イラン宥和政策を潰しにかかっている、と読んでいる専門家の皆さんhs非常に多いようですが、私見ながら、あくまで状況証拠に過ぎませんが、同様のことを他の地域でもやっている、と見ています。
 今回のファクリザデ博士の暗殺と同時並行的に、イスラエルがシリアと軍事的に対峙し、国連PKO(UNDOF)も停戦監視任務で展開しているゴラン高原において、シリア側(クネイトラ県内)に航空攻撃を仕掛けています。(参照: 2020年11月24日付VOA記事「Report: Syria Claims Israeli Attack on Post South of Capital」)この攻撃について、シリア側はゴラン高原イスラエル側方向からの航空攻撃であることを非難し、イスラエル側も攻撃を認めています。イランが背後にいるヒズボラ系の軍事拠点であることが攻撃の理由らしいですが、私が問題だと思っているのは、直近傍に国連PKOのUNDOF部隊が「停戦監視」を任務として展開しているのに、イスラエルは意図的にその停戦合意を抵触する攻撃をしています。国連でもめることを計算に入れているとしか考えられません。

 既述の暗殺もそうですが、ゴラン高原の停戦監視地域であるクネイトラ県内での攻撃も、平素なら米国に動きを察知されて「止めよ」と勧告されたり、米国にも内緒で作戦遂行しても後で米国側に裏を取られてしまうので、普通ならやりません。にもかかわらず、イスラエルが今やっているのは、間違いなくトランプからバイデンへの移行期という、しかもトランプ政権下にうちにやってしまえ、という駆け込みラッシュです。トランプはバイデンへの恨みもありますし、娘婿もユダヤ系ですし、やってきた政策も在イスラエル米国大使館をテルアビブからエルサレムにする(国際的にはアラブ諸国の猛反対がある)など、親ユダヤです。今後の米国のイランとの宥和政策の方向性を意図的に潰すための布石を、そうと知っていて見逃しているのでしょうね。米国の元CIA長官のジョン・ブレナンは、ファクリザデ殺害事件について、中東地域の紛争に火をつける無謀な犯罪行為、と非難しています。(参照:前述のBBC記事)


(了)

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