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2021/07/30

中国:政府に挑んだ企業家に懲役18年の見せしめ判決

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大午集団の創業者 孫大午氏 (2021年7月29日付BBC記事「Outspoken billionaire Sun Dawu jailed for 18 years in China」より)

 2021年7月29日、裁判中だった中国河北省の小さな村を国内最大の農業グループに育てた「大午集団」創業者の孫大午氏に、懲役18年の判決が下りました。貧乏な家に生まれ、クズ拾いから養鶏・養豚を始め、一代で巨大農業グループを立ち上げた孫氏。持ち前の反骨と正義感から、当局の賄賂要求を断り、当局に対しあけすけに正論を主張して抗い、これまで逮捕や裁判も数回ありましたが、昨年8月にグループ本社そのものへの一斉捜索・一斉逮捕があり、当局に従順には従わず抗った孫氏及びその家族やグループ幹部が20数名も逮捕・拘束され、2021年7月14日から公判が開始され、29日に孫氏に懲役18年、及び巨額(1億5000万ドル)の返済金、他の逮捕者に1年から12年の懲役刑が科されました。
(参照: 2021年7月29日付VOA記事「Chinese Farmer Who Praised Lawyers Sentenced to 18 Years」、同日付前掲BBC記事「Outspoken billionaire Sun Dawu jailed for 18 years in China」、2021年7月14日付日テレニュース「中国著名企業グループ創業者の初公判」、及び2020年11月25日付東京新聞記事「標的にされた異色の中国企業家 当局にこびない孫大午氏」)

孫氏に懲役18年という重い判決、アリババ創業者馬氏の行方不明
 いやー、どうなるのかな、と思っていたのですが、18年の懲役とは非常に厳しい判決でしたね。個人的に注目していたし、こういう豪傑ビジネスマンが中国にゴロゴロ出てくると、日本は敵わないなぁ、と思っていたんですが。日本にとってありがたいことに、中国政府自身がこういう国家の宝のような傑物を潰してしまうんですね。この人、前述のように、裸一貫から、農業企業を起こして成功させ、「大午集団」なる大企業に育て、なんと生まれ故郷の村全体をユートピアのような企業村にしました。村内に農業をはじめとした商業施設や観光施設を作り、更に9000名近い従業員を家族丸抱えで、村ごと学校から病院まで面倒を見る共同体のような村を作って、中国中の関心を引いていました。しかし、今回で完全に潰されてしまいましたね。

 孫氏と同様に政府や当局に抗って干されたアリババのジャック・マーこと馬雲氏もしばらく行方不明になっていましたから。馬氏の場合は、「時代錯誤な政府規制が中国のイノベーションを窒息死させる」と中国政府の施策を痛烈批判したことで、習近平国家主席の激怒を買い、拘束されていたと伝えられ、今年1月に数カ月ぶりにネットイベントに姿を現したようですが、もはや完全に牙を折られ恭順の姿勢を取らされているようですね。

大午集団・孫氏の当局への抵抗
 おそらく、馬氏と孫氏の違いは、政府や当局への反抗姿勢の徹底ぶりです。馬氏は、政府の政策への批判により、「こっぴどく叱られた」感じですが、孫氏の場合は地元の当局とのかなり長い抗争と逆転勝利などがあって、ネット等を通じて中国国民の中にも孫氏を応援する人たちも出てきたことに対し、政府が「これは芽のうちに徹底的に潰しておかないと偉いムーブメントになる」と危機感を持たせたことではないかと思います。

 前掲の4つの記事に孫氏の大午集団の地元当局との抗争歴が書かれていましたので、バラバラの記事内容を要約しますと、以下のような流れです。
 ・ 2003年、当局の指示で銀行が民間企業への融資を渋ったため、苦肉の策として自己企業の従業員や村民等から相当額の資本を集めたことが当局から「違法」として咎められ、懲役3年、執行猶予4年の判決を受けた。一説には、この一件の引金は孫氏が政府の農政について批判したことに対する報復、と言われている。
 ・ 同年、この「違法な資金調達」の懲役刑について、ネットで炎上し一般市民からの支援という追い風が起き、撤回となり名誉が回復される。
 ・ 2019年、中国に豚インフルが流行し、大午集団の農場も中国の農業も大打撃。この際、孫氏は「政府が豚インフル発生を隠蔽した」と公然と政府批判を展開。
 ・ 2020年2月、2003年の一件の裁判の際の大午集団側の著名な弁護士が謎の失踪。当局に反逆罪で逮捕・拘束された模様。
 ・ 2020年6月、大午集団と国有企業の間で係争があり、当局の一方的な措置で大午集団の建物の破壊の強制執行が行われた際に、大午集団従業員が抵抗したが、これが暴力行為とされ、8月11日に大量の武装警官が動員されての一斉捜索・一斉逮捕。孫氏を始め数十名が逮捕・拘束された。罪状は、社会秩序騒乱などの容疑。

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大午集団への一斉捜索・逮捕・拘束 (前掲日テレニュースより)

孫氏には一罰百戒どころか見せしめに企業ごと壊滅へ
 上の画像のように、この2020年8月の一斉捜索・逮捕・拘束の際、まるで暴力団かテロ集団の摘発か、というほどの鳴り物入りで、数十台の警察車両、数十名もの武装警官、警察犬などが動員されて村内に突入し、建物のドアを蹴破ってしらみつぶしにするような大捜査線になった模様です。

 だから、これはただの暴力事案に対する警察の逮捕なんて話ではなくて、政府の指示による政府・当局に歯向かうものに対する「見せしめ」としての逮捕劇でしょう。そして、鳴り物入りで暗黒裁判をし、法の名のもとに「見せしめ」のために創業者ごと企業グループごと(村ごと)潰したんですよ。中国政府は、こうした見せしめにより企業への統制を強め、「いいか、政府に抗うものは潰したるぞ!」とマインドコントロールをしているわけです。これで、政府の企業や一般市民に対するグリップは確たるものになるでしょうけど、他方で、もはや企業のクリエイティビティとか自由かつ柔軟な発想とか切磋琢磨とか、そういった企業の進展性や伸びしろまで潰してしまっていますよね。

 まぁ、そんな中国の方が日本にとっても好都合かもしれませんね。

(了)

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2021/07/02

中国共産党100周年:奢れる中国、ただ春の夜の夢の如し 

President Xi and Mao
手を振る人民服の習近平国家主席 Chinese President Xi Jinping, center, waves above a large portrait of the late leader Mao Zedong during a ceremony to mark the 100th anniversary of the founding of the ruling Chinese Communist Party at Tiananmen Gate in Beijing, July 1, 2021. (2021年7月1日付VOA記事「The Chinese Communist Party at 100: Hopes and Disappointments」 より)

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ。 

この世の春を謳歌する習近平
 中国の中国共産党100周年記念式典の報道を見ていて、ふと平家物語の有名な冒頭部分を思い起こしました。

 「中国共産党がなければ新中国はない。歴史と人民が党を選択した」と高らかに語った習近平国家主席。アレ?他の高官がセビロとネクタイ姿の中、一人だけ習国家主席だけグレーの人民服。と思ったら、もう一人人民服姿がいました。大看板に描かれた毛沢東。習近平は毛沢東に並んだのだ、というイメージ戦略でしたか。

 各種報道がなされているので詳述しませんが、習国家主席は祝辞の中で語った内容及びこのイベントの趣旨そのものは、中国共産党礼賛、富国強兵、習近平への個人崇拝、台湾の統一、そして排他(反米)主義でした。

President Xi
中国首脳陣を率いる習国家主席(前夜祭?) Chinese President Xi Jinping is seen leading other top officials pledging their vows to the party on screen during a gala show ahead of the 100th anniversary of the founding of the Chinese Communist Party in Beijing on June 28, 2021. (2021年6月28日付VOA記事「At 100, China's Communist Party Looks to Cement Its Future」より)
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2021年7月1日付BBC記事「CCP 100: Xi warns China will not be 'oppressed' in anniversary speech」より

奢れる平家の春の夜の夢
 まさに、この世の春を謳歌する中国共産党、習近平体制の栄華極まれり、一大歴史イベントの展開でした。ヒトラー率いるナチスドイツの記念式典、東西冷戦華やかななりし頃のソ連のモスクワ赤の広場での壮大な軍事パレードを髣髴とさせました。デジャブ状態ですね。

 そんな中国は強気一辺倒とは裏腹に、内外ともに多事多難です。国内の香港及びウイグルへの締め付けは、国際的な中国への非難を呼び、香港やウイグルの市民の表面上の静かな受け止め方は、国家への忠誠や信頼ではなく、諦め的沈黙であってもはや民心は国家や共産党から離反しています。

 そう言えば、習国家主席は祝辞の中で「人民」という言葉をあちらこちらで多用していました。本当に民心を得ているのか、官憲の統制による恐怖でのみ表面上服従しているだけで本当は腹背しているのか、不安の裏返しなのかもしれません。
絶好調だった経済も失速し始め、経済を先導していた民間企業グループのトップが逮捕されたり(大午集団など)、およそクリエイティブな企業が伸びて行けそうな国家や社会の柔軟性や伸び代は期待できない状況です。
国際的な評価も、新型コロナへの対応や香港、ウイグルでの人権蹂躙ぶりを見てダダ下がりに。もはや、中国に夢や期待を持つ国はいません。

 中国はまだまだ経済も強く、軍事力の増強ぶりも著しいところですが、ピークは過ぎ、翳りが見えてきました。自ら祝辞の中で「今後は『小康国家』を目指す」と下方修正したことが印象的でした。「ややゆとりのある社会」を意味するんだそうですが、他の場面ではイケイケな強気な言葉が踊っていただけに、翳りを自覚しているのかも。

 ピークを過ぎたものの、100周年記念という大きな結節のお祭りですから、せいぜい自画自賛し、この世の春を謳歌してくださいよ。春の夜の夢のごとし。It won’t be long.

(了)

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2021/06/14

周庭さん釈放: インスタ真っ黒に見る心中

agnes chow
Agnes Chow (centre) has been dubbed the "goddess of democracy" by her supporters(2021年6月13日付BBC記事「Hong Kong activist Agnes Chow released from prison 」より)

周庭さん釈放
 2021年6月12日、香港の民主活動家周庭(アグネス・チョウ)さんが中国の香港国家安全維持法による実刑の刑期を終えて釈放されました。釈放後の一言を待っていた報道陣に取り囲まれ、周庭さんはやつれた表情を強張らせたまま、一言も残さずに支援者に付き添われて車で立ち去りました。その後、周庭さんはインスタにて、真っ黒な画像を載せ「苦しい半年と20日がようやく終わった。痩せて弱々しくなってしまったので、これからゆっくり体を休めたい」などとコメントを添えています。(参照:2021年6月13日付BBC記事「Hong Kong activist Agnes Chow released from prison 」)

周庭さんのインスタ
周庭さんのインスタグラム

インスタ真っ黒画像
 インスタに真っ黒な画像を投稿した周庭さん、私見ながら、心中察するに余りありますね。まさに真っ黒な画像が、周庭さんの気持ちを象徴しているように思えてなりません。
 
 今回の釈放は、12月の判決以来の周庭さんの刑務所内での行動が模範的であったため、本来判決通り10ヶ月のところ、刑期が短縮されたということですが、釈放後の顔を見れば論より証拠、決して晴れ晴れしい嬉しい釈放の日ではなかったようです。

 それというのも、釈放後も引き続き官憲は四六時中周庭さんをウォッチし続けます。周庭さんの行動や発言や電話連絡やネットアクセスは徹底的にチェックされ、本人のみならず連絡相手にも中国の香港国家安全維持法に基づく処罰の脅威が今後の生活に影を落としています。また、釈放前には刑務所にて「おまえ、分かっているだろうな?」と脅されていることは間違いないでしょう。もしかして、釈放に当たって取り引きがあったかも知れません。周庭さんは、仲間の民主活動家を売るようなことは絶対にしない代わりに、「釈放によって以前のように民主活動家のヒロイン・カリスマにならないよう大人しくしておけよ!また活動を再開して民主デモを扇動するようなら、いつでも逮捕・監禁して、今度はシャバに帰らさず、痛い目に合わせるぞ!お前だけじゃない、既に収監しているお前の仲間が苦しい立場になるんだぞ!」と脅されているのではないか、と推察しています。

 周庭さんが収監されていたのは「大欖女子懲教所」という殺人犯から麻薬常習犯などの重大犯罪で服役している受刑者が大勢いる場所でした。この刑務所内で洗濯作業に従事していたといいます。そこで模範囚であったから、というのが刑期短縮の理由とされています。周庭さんと同時期に収監された民主活動家らは53名いました。高名な黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんは刑期13ヶ月半、林朗彦(アイヴァン・ラム)さんは刑期7ヶ月にて、それぞれ収監中です。周庭さんは刑期短縮で釈放されましたが、他の民主活動家らはほとんどがまだ刑務所に留め置かれ、どのような状態に置かれているのか不明です。中国では、収監中に何をされるか分からない国です。薬物を飲ませて廃人にした例もあります。新疆ウイグルの「教育施設?」という名の強制収監・洗脳施設で行われていることもしかり。(細部は私のブログ2020年12月30日付及び2021年2月17日付をご覧ください)それを見せられたのか、聞かせられたのか、周庭さんは言い聞かされて釈放されたのでしょう。

 中国政府は、まだ若い女性であり、香港の若者から民主の女神と人望の高く、国際的にも注目されているインフルエンサーの周庭さんを刑期短縮で釈放しました。「中国政府も話が分かるじゃないか・・・」との好感度アップを狙ったのかも。しかし、釈放する周庭さんには言って聞かせたでしょうね。

 万感の思いで釈放の日を迎えた周庭さん、釈放の場面では衰弱・憔悴した表情で記者たちに一切コメントをしなかった周庭さん、そしてインスタでの真っ黒な画像の投稿でした。釈放されても監視の目が常にある中、香港の民主活動家に明るい方向性は見えません。まだ24歳の彼女には背負いきれないプレッシャーではないでしょうか。今の気持ちを色にしたら「真っ黒」だったのかも知れないし、中国政府・香港政府に対する抗議の意味で「真っ黒」だったのかも知れないし、それらのないまぜな気持ちの象徴として「真っ黒」なのかも知れません。

 周庭さん、まずはゆっくりご静養ください。

(了)

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2021/04/03

中国が一帯一路をテコに反米外交攻勢?:その強みと弱み

中国が一帯一路をテコに反米外交攻勢?:その強みと弱み
 2021年3月31日付読売新聞記事「中国『対米』で中東接近」によれば、3月30日、中国の王毅外相は中東6ケ国歴訪を終えて大きな成果をあげて帰途についた。サウジ、トルコ、イラン、UAE、オマーン、バーレーンを歴訪し中東実施し、一帯一路に基づく中国マネーによる恩恵をテコに中国との関係強化を推進するとともに、米国バイデン新政権の人権外交への反対について認識共有を得た。読売をはじめ多くのマスコミは、同じく米国と対立するイランとの「包括的戦略パートナーシップ協定」の締結という関係強化に注目した。

 私見ながら、既述の前半部分について、中国を含め歴訪された6ケ国はいずれの国も国内に人権問題についてスネに傷のある国々なので、「自国内の問題は自国が責任を持って対応する。内政問題に他国が口を出すべきではない」という論理が賛意を得たのは当然と言える。他方、後半のイランとの関係強化については中国とイランが反米同盟を結んだわけではなく、それ自体のインパクトは限定的。むしろ、インパクトは後述する港湾使用権を得たことだろう。
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(日本経済新聞2020年3月27日付記事「中国・イラン、反米で接近 米欧は一帯一路に対抗」より)

真の成果: 「ウイグル問題」と「軍港」
 私見ながら、今回の王毅外相の中東歴訪の成果で読売が見落としている真の成果は2つ。
 第一は、中国国内のウイグル人の駆け込み寺的存在だったトルコを中国側に引き寄せたこと。これにより、中国のアキレス腱である新疆ウイグル問題について、ウイグル人と血が濃く敵に回すと厄介なトルコを友好国とし、本件に関する発信源となることを抑え込む効果が得られる。

 第二は、中東ペルシャ湾とアデン湾〜紅海という国際的海上輸送路の大動脈に中国海軍の根城となる軍港が確保できたことである。今回歴訪したオマーン、UAE、イラン等から港湾使用権の協定を得ている。この意味は、単なる中国船籍の商用船の寄港地ではない。東西冷戦の頃のスタンスで言えば、ソ連が北ベトナムのカムラン湾をソ連太平洋艦隊の常駐の軍港としていたことを思い出していただきたい。今回の港湾使用権の獲得により、中国はこの世界で最も重要な2本の海上交通路に中国海軍の活動拠点が得られた戦略的意義が大きい。事実、既にアデン湾~紅海の海上ルート上にジブチに「軍港」を保有している。今回はペルシャ湾のアラビア半島側にもユーラシア大陸側にも活動拠点として利用できる港湾を得たのだ。
 とは言え、ペルシャ湾においては、当初は中国海軍艦船の一時的な寄港にとどめ、「常駐」や「軍港化」は避けるだろう。インパクトが強すぎるからだ。新たなペルシャ湾危機になってしまう。そのくらいインパクトのある外交成果と言える。

一帯一路と中東の海上輸送路の確保の実質的な強み・弱み
 今回の中東歴訪と一帯一路の掛け合わせについては、「強み」と見る目と、むしろ「弱み」と見る目の両方の見方がある。
 まず「強み」と見る方では、Yahoo Japanニュースの3月31日付「王毅中東歴訪の狙いは『エネルギー安全保障』と『ドル基軸崩し』」(遠藤誉)が面白い。同記事では、今回の中東歴訪の真の狙いは「エネルギー安全保障」と「石油人民元の構築」と見ている。やはり中東の石油が引き続き重要なのだ、という視点でイランやサウジとの関係強化によるエネルギー安定供給を高く評価。また、米ドルの牙城をデジタル人民元で崩すのだという見方をしている。後者について同様な見解として、2020年2月3日付nippon.com記事「デジタル人民元の恐るべき野望と未来」(田村秀夫)では、中国は2022年(北京冬季五輪の年)にデジタル人民元の完成を目指し、企業ではなく中国中央政府主導のデジタル通貨の流通で米ドル基軸を崩す目論見があるのだ、と見る。なるほど、この記事と前述の記事を合わせ読むとそんな気もしてくる。

 「弱み」と見る見方では、Newsweek日本版2021年03月25日付記事「退潮する中国の一帯一路が元の姿で復活することはない」(河東哲夫)は、中国の「一帯一路」について看板と実像の落差を辛辣に低評価している。もともと、一帯一路政策は日本のODAのような国外援助でも何でもなく、むしろ中国国内の素材・建設企業に対する需要拡大なのだと見る。一帯一路に引っ掛けた一帯一路の6つのルート沿いの発展途上国での事業拡大で国外需要で先ほどの素材・建設企業を潤した。一帯一路周辺国のみならず、関係なさそうなアフリカや南米にもばら撒き、2013年からの5年間で融資総額900億ドルに及ぶ。しかし、元々あまり採算や当該国のためになる事業を育てていないので、当該国はその事業で潤わず返済に苦しみ、選挙で政権交代が起きるとボロカスに責められ、その事業自体も中国との関係も覆される。加えて、中国の経済状況も激変した。中国の内需拡大政策がうまくいかず、結局は一帯一路で膨らんだ不良債権は悪化するばかり。鳴り物入りだったアジアインフラ投資銀行も、2019年末の融資残高は22億ドルと小さい。結果的に、「一帯一路」という政策はただの大風呂敷だった、と酷評している。

 私見ながら、前述のデジタル人民元の野望という話も一帯一路と同様に大風呂敷ではないか?構想自体は立派だが、「竜頭蛇尾」、「羊頭狗肉」ないし「大山鳴動、鼠一匹」ではなかろうか。
 
イランと中国の関係強化というジョーカーの使い道
 これまた私見ながら、多くの報道が注目したイランとの関係強化のインパクトについては限定的ではないかと見ている。
確かに、中国とイランが米国との対立という認識共有は連帯の原動力であったろう。中国は新疆ウイグルの人権問題で、イランは米国の核合意離脱や経済制裁で、共通の敵は米国であり、基本的な利害は一致しており、今回の王毅外相のイラン訪問で、25年もの長期の協力関係を結んだ。

 しかし、イランの思惑はそれほど単純ではない。片方の手で当面の友として中国との協力関係を約しつつも、もう片方に手で米国主導の経済制裁を解かせること=核合意への米国の復帰を模索していることは間違いない。バイデン新政権の誕生に伴い、米国の核合意の枠組みへの復帰と経済封鎖の緩和という期待感は隠せない。とは言え、まだ今のところ、イランも米国も相互に自分の主張を前面に出している状況ではあるが...。イランは「まず経済制裁の緩和が先だ!」と主張し、米国は「まず核開発の放棄が先だ!」と、相互に一歩も退かない。それでも、トランプ時代よりは好転の可能性もあるだけでもましな状態には違いない。従って、反米一辺倒で中国と反米同盟を組むわけには行かない。反米同盟で行くなら、イランの港湾に中国海軍を常駐させるなんて手を打つだろう。さすれば、もはやペルシャ湾は緊張最高潮になろう。世界の商船は新たなペルシャ湾危機に怯える状況となってしまう。しかし、そうはすまい。それはイランが国際協調を大事にしているとか、そんな話ではない。そうすることで得られることと失われるものの損得勘定として、割に合わないことが分かっているからだ。

 イランにとって、中国との関係強化というカードの使い道は、反米同盟という戦略的・軍事的なカードとしてではなく、「そういう手を切ることもできるんだぞ」という今後の対米交渉で米側の譲歩を引き出すための外交カードとしてではないだろうか。

(了)

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2021/02/17

ウイグル報道をめぐり中国が英国BBCと激突

China vs BBC
BBCの新疆ウイグル報道に抗議する中国外交部報道官(2021年2月4日付CGTN「China refutes BBC report on women's rights abuses in Xinjiang」より)

中国が英国営放送BBCを放送禁止に
 2021年2月12日、中国政府は、英国国営放送BBC(ワールドニュース)の中国国内での放送禁止を公表しました。理由は、同放送が中国の国益と民族の団結を損ない、「ニュースは真実かつ公正でなければならない」という中国の放送ガイドラインに反する、とのことでした。但し、中国国内で中国の一般国民がBBCワールドニュースを見られるわけではなく、大都市の外資系ホテルや在中国大使館等でしか見られませんけどね。要するに、これで中国国内での取材も大きく制約されるので、BBCの報道に対し国家としての嫌悪感を示し、かつこの件でのBBCのこれ以上の追加報道を他国に見せたくない、との意思の表れでしょうね。

 これを受け、BBCは「決定は残念」との声明を発表し、「BBCは・・・(中略)…引き続き世界で最も信用されている国際報道放送局として、世界各地のニュースを公正公平に、誰にひるむことも肩入れすることもなく伝える」との姿勢を示しました。
 (参照: 2021年2月12日BBC記事「中国、BBCワールドニュースの国内放送を禁止 ウイグル報道など受け」)

BBCの新疆ウイグル報道が中国の激怒の理由
 これまでも、中国は自国に仇なす報道を、何度となくやり玉に上げてきました。既に米国のマスコミの数社が禁足処分となっています。今回の、BBCの中国国内での放送禁止という一件は、昨年来の新型コロナウイルス関連報道もありますが、決定打は新疆ウイグル地区の少数民族ウイグル族への弾圧報道をめぐって、中国とBBCとの間で熱い論戦があった上の出来事でした。

 特に、2月12日の発表に至る決定打は、2021年2月初旬のBBCの報道で、新疆ウイグルの中国政府が設置した「再教育」収容施設にて、ウイグル族の女性達がレイプや拷問を受けているとのインタビューを報じ、中国政府は大激怒。すぐに中国外交部の会見で、BBCの報道は虚偽だ反論しました。この際、中国外交部の汪文倵(ワン・ウエンビン)報道官が、BBCの報道でウイグル族の女性なる者が実しやかに証言しているが、「彼女は役者で話している内容は大嘘だと判明した」と写真をかざして指摘しています。しかし、この女性はもっと前の昨年2020年7月のBBCの報道に出てきたのであって、今回の2月初めの報道で証言している女性ではないですけどね。

 その2月初めのBBCの報道と中国の反論がyoutubeに出ているので、以下の動画をご確認いただければ面白いです。(但し、日本語字幕はありません。)
① BBCの報道: 2021年2月5日付BBC News「Claims of rape and torture of Uighur women in China provoke global condemnation」


② 中国政府の反論: 2021年2月4日付CGTN「China refutes BBC report on women's rights abuses in Xinjiang」


中国がなぜ新疆ウイグルのウイグル族問題に敏感か?
 中国のウイグル族に対する「民族浄化」問題は、いまや国連が問題視している国際問題です。中国にとっては、チベット問題と同様に、国策として少数民族の中国化を図っている最中。このやり方が、普通の民主国家からすると考えられないほど「弾圧」的なのです。テロ対策の名のもとに、少数民族の若者を収容所に入れて「再教育」の名目で漢民族主流の中国語や中国文化の洗脳教育をしています。ひどいものです。下記③の動画をぜひ見てください。ウイグル族の青年たちが収容所で中国語で教育され、中国の法律やらウイグル族のではなく漢民族の踊りを踊らされたりしています。ある者は無表情に、ある者は嬉しそうに踊っているウイグル青年たちを見ていると、空しくて悲しくなります。収容所の様子も、刑務所並み厳重な塀とカメラで囲まれ、この生活はどう見ても洗脳するための収容所ですよ。自分がもしウイグル人に生まれていて、ここに入れられていたらと思うと、見ていて血が逆流します。中国政府はこの問題には他国に触れられたくないのです。「内政干渉」という大義名分をかざして「口出し無用」との姿勢です。偉いのがBBC。BBCはこの問題を数年前から丹念に取材して、非常に核心を突く報道を繰り返し問題提起をしています。これまたぜひ見ていただきたい動画をご紹介します。
③ ウイグル族の再教育収容所へのBBC記者の直撃取材: 2019年6月18日付BBC News「Inside China's 'thought transformation' camps」


BBCの戦う姿勢に感動すら覚える:NHKは見習え!
 今回、中国政府にバツをつけられたBBCですが、その報道姿勢は素晴らしいと思います。また動画で恐縮ですが、下記の④⑤を見てみてください。その不屈の戦う姿勢には感動すら覚えますよ。
 ④では、一昨年11月に在英中国大使の記者会見にてBBC記者がウイグル問題について執拗に突いています。次いで、⑤では、昨年6月~7月のBBC本国での報道番組の中で、在英中国大使との討論をしています。特に、⑤は日本語字幕付きですので、是非見てみてください。この動画では、報道特集のアンカーのアンドリュー・マー氏が、新疆ウイグルの一場面の動画を見せながら中国大使に非常に鋭く回答を求めています。官憲と思しき人々に統制された、ウイグル族と思しき人々が、髪を刈られて並んでひざまずかされ状況で、列車に乗せられるような場面です。中国の大使も負けておらず、明言を避けながらも失言をしないように言い逃れています。

 この辺の骨太なジャーナリズムの信念が我が国のNHKとは違いますね。こんな番組をNHKでついぞ見たことがないですね。悔しかったらこのくらいやってみろ、と言いたくなります。BBCの報道姿勢は本当に骨太。素晴らしい。
④ 在英中国大使の記者会見にてBBC記者がウイグル問題を突く場面: ・2019年11月26日付BBC Panorama「China's 'Brainwashing' Camps」


⑤ 報道番組で中国大使とウイグル問題で討論: 2020年7月20日付BBC「駐英中国大使、BBC番組でウイグル人の強制収容否定 ビデオを見せられ」

 ⑤の映像の中で、BBCのアンカーと中国大使がウイグルの人口に関して意見が分かれる議論になりますが、中国大使が微妙に言葉遣いでごまかしているのが分かります?中国大使は、ウイグル問題で西側は「民族浄化」なんて言っているが、ウイグルの人口は近年倍増しているのだと主張します。BBCのアンカーは、いやいや統計では新疆ウイグルの「ウイグル族」の人口は減っている、と主張します。中国大使は、自分は中国政府を代表して確かな数字を言っている、と主張しています。しかし、大使が倍増したと言っているのは、「新疆ウイグルの人口」であって、その中の「ウイグル族」の人口ではないのです。大使が言う通り、新疆ウイグルの人口は倍増しているかもしれませんが、それは新疆ウイグルに移住してきた漢民族なんですよ。こいつは、その総人口を言っていて、「ウイグル族」とは言っていないのです。とんだタヌキ野郎ですね。
(了)

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