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2021/10/05

米軍トップがアフガン撤退を戦略的失敗と断罪:発言に違和感

Gen Milly
9月28日、米上院軍事委員会の公聴会で証言するミリー大将(Chairman of the Joint Chiefs of Staff Gen. Mark Milley attends a Senate Armed Services Committee hearing on the conclusion of military operations in Afghanistan and plans for future counterterrorism operations, on Capitol Hill, Sept. 28, 2021.)(2021年9月28日付VOA記事「US Military Admits Afghan War Was 'Strategic Failure'」より)

米軍トップがアフガン撤退を戦略的失敗と断罪:発言に違和感 
 2021年9月28日に米上院、29日に下院の軍事委員会にて、ミリー米軍統合参謀本部議長とアフガン作戦全般の指揮官だったマッケンジー米中央軍司令官の二人の米軍トップが、アフガン撤収に当たりバイデン大統領に2500名の残留部隊を残すべきだと進言していたこと、アフガン撤収は戦略的失敗だったこと、等を公聴会で証言しました。この発言は、バイデン米大統領が事前協議において反対意見を聞いたことがなかったと発言していることと大きく食い違うため、今後米議会での大統領への追求が厳しくなる模様です。 (参照: 2021年9月28日付VOA記事「US Military Admits Afghan War Was 'Strategic Failure'」、同年9月30日付AFP記事「Generals advised Biden against Afghan pull-out」ほか)
 しかし、・・・私見ながら、現職の軍トップが大統領との不協和音を発したことに対し、軍の高級幹部としての姿勢として「あり得ない」との思いがあり、いわんやアフガン撤収を「戦略的失敗」と発言したことについて違和感を拭えません。 違和感の焦点は、①残留部隊の進言の件と②アフガン撤収を「戦略的失敗」と断罪したこと、の2点です。

「2500名の残留部隊の進言」
まず、①残留部隊の進言について。8月一杯の撤収の際に、2500名からなる残留部隊を置くべきだと、バイデン大統領に進言したとのこと。この残留部隊によって、アフガン政府(当時の)及び政府軍がタリバンの首都侵攻を食い止めるために空爆や情報等でバックアップをしつつ、国際機関や各国大使館及びその活動を支援したアフガン人等の国外退避を安全に実施するためのサポートをすべきだった、という主張です。残留部隊を置くということがオプションとして可能なら、それはもっともな進言だとは思います。しかし、バイデン大統領が撤収の際に発言したように、9月以降にも残留部隊が残るとそこで新たな戦闘になることは明らかでした。それはミリー統参議長も公聴会で認めていて、「(残留部隊を置いた場合)9月1日にはタリバンと戦闘になっただろう。」と証言しています。残留部隊がタリバンと戦闘になった後、いつどのように撤収できるのかが問題です。アフガン撤退という政治決心をしたにも拘らず、国外退避の安全確保という大義名分を口実に、アフガン政府軍の作戦をバックアップし続けることになります。結局、残留部隊を残すということは、アフガンへの軍事介入を存続するということに他なりません。元々、アフガンへの介入の断念の本質は、いつまで経っても自分の足で立って国家運営をしようとしない、そして自己犠牲を払ってでも守ろうとしないアフガン政府と政府軍を見限ったということです。政治決心がくだる前に思うところを進言したならば、例え大統領が自分の進言を聞き入れてくれなかったとしても、政治決心がくだった後は、大統領の決心に従ってその具現化に邁進すべきであって、議会で突っ込まれたとしても進言の内容や経緯や自分の所感については沈黙を貫くのが軍人のあり方です。いわんや、米軍トップの地位に就く者が、あたかも大統領の発言や判断に不服があるような発言をするなど、あり得ない話=言語道断です。

「アフガン撤退は戦略的失敗」
ミリー統参議長は、アフガン撤退について、"It was a logistical success but a strategic failure," =「ロジスティックとしては成功(各種制約の中で12万4千名もの国外退避空輸作戦をしたことを指す)だが、戦略的に失敗だった。」と発言しました。ミリー統参議長によれば、昨年末の段階で、アフガンからの撤退を早めればタリバンの侵攻を早め、アフガン政府及び政府軍の崩壊を早める、との見方を進言。9.11前に撤退することが決まり、早期の撤退が進む中では前述の残留部隊も進言。この進言が受け入れられず、思いの外侵攻速度が速かったタリバンと戦う気のない政府及び政府軍により、タリバンが首都カブールを陥落。8月下旬には空港内で国外退避のための駐留部隊のみとなった頃、国際機関や各国大使館や国外退避を望むアフガン市民で空港周辺が混乱、そんな中、8月26日に空港ゲート付近で自爆テロが起き、米軍関係者13人をはじめ少なくとも169人が死亡。今後のアフガンについて、「タリバンは以前も現在もテロ組織であり、アルカイダとの関係もいまだに断っていない」と見ており、今後アフガンはアルカイダやISなどのテロリストの温床になり、「今後12~36カ月で活動条件がそろう恐れ」があると証言しています。総じて「戦略的失敗」と断罪しています。
 私見ながら、6月~7月及び最終コーナーを回った8月の撤収の際の部隊の退げ方として、もっと効果的な撤退要領があったかもしれない、という「戦術的失敗」を語っているなら適切かつ穏当な証言だと思います。しかし、「戦略的失敗」と断じるからには、純軍事的な戦術的妥当性の話ではなく、大統領の政治判断が道を誤ったと言っていることになります。この発言がテレビ番組の軍事アナリストの発言なら構いませんが、当事者中の当事者の米軍トップ統参議長の口から発せられたというのが信じられません。だって、お前が指揮したんだろ?大統領に進言して受け入れてもらえなかったとしても、腹の中ではそう思っていたとしても、そのポストにいる以上は絶対言ってはならない。言うのなら職を辞すべきです。

(了)

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2021/08/23

アフガン自衛隊機派遣決定に物申す:「在外邦人等保護措置」のはず!

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2021年8月23日付時事ドットコムニュース「自衛隊機、アフガンに出発 邦人・現地スタッフ退避へ―外国人輸送は初」より

 2021年8月23日付(19:03)NHKニュース「アフガン退避で自衛隊機を派遣邦人や大使館外国人スタッフも」によれば、情勢が混沌とするアフガンに在外邦人等輸送の枠組みで自衛隊を派遣し、大使館関係者やJICA職員等及び現地スタッフを退避する任務を実施させる、とのことで、出発は本夕以降明日にも主力が出発する模様です。

私見ながら、予期できたし1週間遅いし「輸送」じゃなくて在外邦人等「保護」任務でしょ
 確かにタリバンのカブール侵攻は予測より早かったかも知れませんが、米軍完全撤退は昨年トランプ政権時代から明言していたので分かっていた訳ですし、実際に今年の米軍の逐次撤退に伴ってタリバンが逐次に地方都市を奪取していくのも見て取れたわけです。現地の大使館や米軍からの情報でアフガン情勢が8月下旬に向けてタリバンのカブール侵攻が緊迫化していたのは読めていたはずです。8月末に向けて各国がカブール陥落=アフガン現政権の崩壊=タリバンの統治下という日が来ることを予期して、NEO(Non-Combatant Evacuation Operation)非戦闘員の国外退避作戦を準備していたはずです。思ったより早かったかもしれませんが、日本政府も検討していたはずです。8月初旬までは機能していた前アフガニスタン政府と、カブール陥落するような場合はその前に、退避できるように調整していたはずなのです。あろうことか、ガニ前大統領ほかの高官が先に逃げてしまい、もろくもカブールが早期に陥落した8月中旬、調整相手は急遽タリバンになりますが、間違いなく、米国はじめ西欧列国は昨年の米国とタリバンの協定以来タリバンとも調整系統を維持していたはずです。「国外へ退避する各国・各機関の駐在員や大使館関係者の空路の国外退避には手を出さないでくれ、各国軍も自国の要員の国外退避の警護のみしかしない、タリバンに危害を与えない、大使館等から空港までの輸送については空港の外だからタリバンに時間や経路や車両など予め了解を取るからタリバン側も危害を与えるな、その代りに今後のタリバン統治下のアフガン政府にこういう支援を約束する・・・」、などという密約を交わしているはずです。各国軍は、早まりそうなXデーを念頭に、着々とNEOの準備をしていたはずです。今までどこでもそうでした。撤収とはそういうものなのです。だから、各国の軍用機や旅客機を使ったアフガン空港からの国外退避作戦はアフガン陥落を前後して、8月中旬からバンバンやっていましたよ。思ったよりカブール陥落が早く、アフガン人の国外退避を求めた空港への殺到があったため大変混乱しましたが、・・・。

 では、下調整をやっていたとして、なぜ日本政府の在外邦人保護任務は1週間以上もずれ込んだのか?・・・間違いなく官邸がGoを出さず、いろいろ注文を付けたからでしょう。1週間以上も遅れて、なおかつこの期に及んで「在外邦人等保護」の枠組みを使わず、より安全な場合の方のはずの「在外邦人等輸送」の枠組みでGoを出すとは、呆れてものが言えません。
 現役の頃、何度こういった政治判断の煮え切らなさに舌打ちしたか数え切れません。しかし現役自衛官は、命令が出れば、出た命令に奥歯をかみしめながら黙って任務を遂行します。退官したので、言えます。菅さん、遅いし姑息ですよ。現地の状況を見てくださいよ、危険ですよ。押し寄せるアフガン人数万が空港を取り囲んでいるんですよ。危険だから自衛隊派遣しないんじゃなくて、やれる枠組みがあるんだから、今回は「在外邦人等保護」で固め打ちで邦人等を退避させるんじゃないですか?間違っても、安全な方の「輸送」じゃない。政治的な安全パイをとって彼らの手を縛り、現地の作戦は自衛隊員に丸投げですか?せっかく平和安保法制で枠組みを整理したんですよ。これまで、日本は国際社会における役割遂行において、およそ軍事については、常に奥手もいいとこで、米国はじめ列国にお願いして守っていただき輸送していただいていました。今回この1週間以上、同様に外国軍に輸送してもらっていたんでしょ。やっとこさ、明日8月24日以降、自ら自衛隊派遣による「在外邦人等輸送」をするんですって。「輸送」ですよ。違いは明確です。「任務遂行のための武器使用」というジョーカーを使いたくなかったんでしょ。選挙もあるし。金玉ちいせぇな。今回も米国はじめ、周囲の列国に守っていただいて、その囲みの中で自衛隊機だけ輸送に使うんですか?現場じゃそうはいきませんよ。現場に行く中央即応連隊+αの部隊は現場の米軍はじめ列国軍と現場調整をして、役割分担をするでしょう。そして「守っていただく」調整を恥を忍んでするでしょう。枠組み上、任務は「輸送」しか許されていませんから、銃は持っていても純粋にもしものための正当防衛にしか使えません。「在外邦人等輸送」という枠組みは「安全な地域」(のはず)での作戦なので、自縄自縛しているわけです。
 そして、もうひとつの懸念は、今回の「在外邦人等」の「等」の部分は、現地アフガン人等の外国人を含むのです。一応現地で大使館や各機関が活動する際に協力してくれた人々とその家族等ですが、イマイチ完全に本人の身元などセキュリティが100%でないところがあるので、いろいろ危険な状況も起きることが考えられます。その際にも「任務遂行のための武器使用」ができないのです。
 更に、国外退避作戦は8月中に終わらないと、タリバンは米軍が完全撤退を約束した8月一杯までは待つでしょうが、8月末を過ぎて9月にずれ込んだら、統制の効かないタリバン兵はそろそろ手を出してきます。しかも奴らの手にはアフガン政府軍から奪い取った米軍譲りの携帯対空ミサイルなどの航空機を的にする武器を手にしています。退避作戦は、何度も何度もはできません。次期が遅くなるほど、状況は間違いなく混迷化し、作戦遂行は時間と共に難しくなります。だから遅いんだってば。・・・心配したらきりがないですが・・・。

 余計なことを言って現地に行く隊員さんたちの作戦をやりづらくしてしまっては何にもなりませんので、年寄りの冷や水はこの辺にしておきます。
 彼らは十分訓練してきたので、自縄自縛の枠組みの中でも、きっと任務達成してくれることでしょう。 
 在外邦人等の無事の帰国、無事の任務達成を心から祈っています。

(了)

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2021/08/18

タリバンがアフガン掌握:米軍撤退を責められない

スクリーンショット (47)
(2021年8月17日テレビ朝日ニュースより)
 何とか国外へ逃れようと、動き出す米軍機に滑走路からしがみつくアフガン市民の群れ、・・・このシーンは衝撃的ですね。まさにベトナム戦争のラストシーン=サイゴン陥落時の在サイゴン米国大使館の屋上から最後のヘリが離陸する際にヘリにしがみつく南ベトナム市民の群れ(1975年4月28日:下の画像参照)のデジャブ―ですね。
Fall of Saigon, April 28 1975

カブール陥落、タリバンの国盗り達成
 私の7月14日付のブログ「アフガンの行方:米軍撤退、タリバン全土制圧、ロシア/中国/トルコの思惑」で予想した通りの展開になりました。
 バイデン米大統領が1ケ月前の7月8日に米軍が8月中に全面撤退する旨の発表をし、逐次駐留していたキャンプを撤収し政府軍に引き渡し始めてて以来、・・・本当にあれよあれよの間に、イスラム過激勢力タリバンは地方都市を次々に制圧し、先週末のの土曜・日曜には、首都カブールに迫っている、との報があったと思ったら、8月16日月曜にはついにカブール陥落となりました。これをもって、ガニ大統領のアフガニスタン政府は完全に消滅、タリバンが再び国を奪取しました。タリバンは近く新政権を発足する模様です。(参照:後述の各社社説等)

新聞各社の社説:異口同音に米軍撤退を責める
 アフガニスタンのカブール陥落が目前となった先週末2021年8月14日(土)・15日(日)から報道活発になり、16日(月)は新聞休刊日でしたので、17日(火)に新聞各社は社説にてこのアフガン情勢に論評しています。そのほとんどが、異口同音にバイデン米大統領の米軍撤退の責任を追及し、それぞれの主張を展開しています。

 2021年㋇17日付、読売新聞社説「タリバン復権 アフガンを見捨ててはならぬ」では、「タリバンの電撃的な攻勢の背景に、アフガン駐留米軍の拙速な撤収があったのは明白」、とし「バイデン大統領は先月の段階でも、アフガン政府軍がカブールを防衛できるという楽観的な見方」、「米国世論に配慮し、8月撤収に固執したバイデン氏の責任は重い」とバイデン大統領の判断を糾弾しています。結論として、「アフガンが非民主的な体制に逆戻りし、再びテロリストや過激派の温床となれば、20年間の国際社会の努力は無に帰す」、「アフガンの混乱は国際テロの危険を増大させる」という点を国際社会の課題と位置づけ、「国連を中心に、関係国が暴力の自制と安定を求め、アフガンへの関与を話し合う枠組みを構築する必要がある」、「中国とロシアはタリバン支持に傾くのではなく、日米欧と足並みをそろえるべきだ」と主張しています。

  同日付、毎日新聞社説「アフガン民主化の崩壊 米国の過信が招いた敗北」では、この状況を「最長戦争の無残な終幕」と表現し、これまた責任問題について「またたく間にタリバン支配の復活を許すきっかけとなったのが、バイデン米大統領が進めた駐留米軍の撤収だ」と断じています。そして、結論として、今後の喫緊の課題は「最も懸念されるのが、アフガンが再びテロの温床となることだ」とし、「国際社会の監視が欠かせない」としている。もう一つの結論として、次のように米国を厳しく糾弾しています。「(米国は)アフガンだけで約880億ドル(約9兆6800億円)を投じ、米兵約2400人を犠牲にした米国の疲弊は著しい。一方で、この間に中国は台頭し、米国を脅かす存在になった」、「国際社会における米国の威信低下を加速する」

 同日付、朝日新聞社説「アフガンと米国 『最長の戦争』何だった」では、責任問題について「このような無秩序な形で米軍の撤退を急いだのは、大国のご都合主義以外の何物でもない」と朝日新聞らしい高飛車なご高説で断じています。結論としては、次のような米国の敗北論で結んでいます。「タリバーンは90年代、音楽や映画などを禁じ、女性を学校教育から排除した。人権と平等を認めない統治をまた許せば、米国が唱える自由と民主の価値を誰も信用しなくなるだろう。 それこそが、米国にとっての「敗北」と心得るべきだ」

私見ながら、米軍撤退を責めるべきではない
 前述のように、各社の社説はバイデン大統領の米軍撤退を責めていますが、私見ながら、今日のアフガン情勢の責任を米軍撤退に帰し、米国や米軍、及び多国籍軍で加わった各国軍の努力が足らなかったかのように評されるのは納得がいきません。アフガン戦争の始まりから議論して「正しかったか」について論じるつもりはありませんが、少なくとも、当初のアフガン政府からタリバンを排し、法による統治とか選挙による議会制民主主義による政治などの国家作りに、国際社会として取り組んだ努力については評価すべきです。だって20年ですよ、20年。結構な資金をかけて、米国のみならず国連をはじめとした国際機関が20年間努力を積み上げてきた訳ですよ。にもかかわらず、結局、アフガニスタンに内在する様々な要因がそうした努力の実を結ばせなかったのです。その中でも、一部は実を結びつつあった分野もありました。タリバン時代の行き過ぎたイスラム法(タリバン的解釈による)の支配から、曲がりなりにも法治国家としての法体系を作ったり、女性蔑視や虐待の慣習の撤廃のための啓蒙活動や、女性の社会進出・地位向上とか女性への教育の普及とか、新制アフガン国家にあって幾つかの改善点はあったのです。しかし、結果的に新制アフガン政府の議員や官僚や商習慣などにおいて、土着的な慣習や考え方は一向に改まらず、ただただ古い因習、民族・部族間の軋轢、血縁の重視、汚職や賄賂などが幅を利かす状況が拭えませんでした。特に、政府軍の自立を助長しようと、米軍は教育訓練に相当な努力をしましたが、多民族・多部族の政府軍に「国家への忠誠」とか「軍人精神」とか「軍の正当性」というものを根付かせることが非常に困難でした。米軍が共に戦う場面では、「勝てる」戦闘では虎の威を借りて政府軍も軍隊っぽく行動しますが、米軍が戦列に入らず、あくまで無人機空爆や情報支援や後方支援に回ると、途端に政府軍の戦意が落ち、単独作戦ではタリバン相手には逃げてしまう有り様でした。私見ながら、言葉は悪いですが「自らの足で立つ」気のない国民性・民度が問題なのです。20年努力してきた米軍をはじめとする多国籍軍は、もはや歴史的役割を終えて、それぞれの国に引き揚げたのであって、この責任はアフガン自身が負うべきでしょう。

 おそらく、私の意見に対し異論のある方は大勢いらっしゃると思います。米国の肩を持つなと。アフガン戦争の始まりからして、全て米国のご都合主義なのだ、全て米国の無責任さのせいなのだと。アフガニスタンにアメリカ流の民主主義や考え方を押し付けてもダメなのだと。勿論、私もその考え方は半分正しい、と思います。
 しかしながら、これはアフガンだけではなく、世界の各地に良くある話ですが、いわゆる先進西側諸国が常識的に享受している「民主主義」や「自由」や「人権」などというものは、原則論であって、実体論は各国・各地域の土着の考え方・慣習・歴史的経緯・民族性などでいろいろ受け止め方があるわけです。先進諸国から見て「常識」だったり「当たり前」だったりすることは、その地・その人々にあっては常識や当たり前ではないのです。 
 例えば、ハイチ。10年前に大地震があって日本も緊急援助隊やPKOで支援に行きました。PKOは2年続けて、日本は離脱しました。例えば南スーダン。これまた10年前に搾取され続けたスーダンから独立した一番新しい国の国作りの支援のため、PKOを派遣し、これも約2年続けた後、ジュバ騒乱があって、日本は離脱しました。いずれの国も、国際的な努力で国作りを支えたのですが、結局国家としてのそうした基盤は根付きませんでした。国際的な努力が足らないからでしょうか?日本は中途で離脱しましたがもっと派遣継続すべきだったでしょうか?両PKOからの離脱は、(後者の場合は、ジュバ騒乱のような戦争・内戦状態に近いから、といった事情もありましたけど)日本国として、「一定の役割・成果は果たした」という建前の下に「当事国に見切りをつけた」というのが正直なところです。「いくら国際的な努力を積み上げても、なかなか根付かない。日本としては十分に役割・成果は終えた、と位置づけ、ここで離脱しましょう。」、という話です。
 今回のアフガンについて、同じことが言えると思います。米国はこの地に20年駐留し、多くの若者がこの地で命を落としました。撤退論は、バイデン大統領が就任してから言いだしたことではなく、前任者のトランプ政権時代から、かなり長い議論と調整と交渉の下で、今年の5月には撤退する予定でした。しかし、タリバンが逐次息を吹き返してきたアフガン情勢の中で、結構前から計画的に、慎重に進めてきた話です。だから、他の多国籍軍の反発もなく、整斉円滑と逐次のアフガン政府軍への業務移管と撤退を進めてきたわけです。こうしたニュースは、米国内でも議論になってましたから、性急な撤退ではないのです。

 というわけで、今回は、日本の新聞各社がこれまでアフガン情勢についてあまり関心を払ってこなかったくせに、いざタリバンの侵攻速度が速くてカブール陥落となったら、猫も杓子も同じ論調で米軍撤退を責め始めたので、反発して異論を述べさせていただきました。

(了)

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2021/07/14

アフガンの行方:米軍撤退、タリバン全土制圧、ロシア/中国/トルコの思惑

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米国建国記念日を前にした7月2日の会見にてバイデン大統領は明々白々にアフガン撤退についての記者の質問を嫌がった。
(2021年7月3日付BBC記事「Bagram: Last US and Nato forces leave key Afghanistan base」より)
 
「米軍が遂にアフガンから完全撤退…」 
 あれ?このニュース、いつか見た光景のような気がします。
 そう、1975年4月下旬、南ベトナム政府を見限ってサイゴンから米軍が全軍撤退したベトナム戦争の末期のデジャブを見ているようです。撤退直後の南ベトナムの首都サイゴン陥落のように、アフガンのカブール陥落も時間の問題かもしれません。

米軍のアフガン撤退完了は目前に
 2021年7月8日、米国のバイデン大統領は、アフガニスタンにおける米軍の活動について同年‪8月31日に終了する予定、と発表。これに先立つ7月2日には、在アフガン最大の軍事基地で空港機能を持ったバグラム基地から撤退。この日の会見では、米国建国記念日を目前にした会見ということもあり、バイデン大統領は明々白々にアフガン撤退についての記者の質問を嫌がりました。(参照:冒頭写真ののBBC記事)米軍以外の外国軍もほとんどが米軍以前に撤退。今後、650名の米軍が米国大使館などの警備のために残留するのみとなりました。これにて20年近く続いた米国主導の多国籍軍によるアフガンでの作戦行動は全て終了し、名実ともに、外国軍がアフガンから撤退します。‬

 一方、勢力を盛り返しつつあるタリバンは、米軍の逐次撤退に伴い地方から中央に向け、各地でアフガン政府軍を潰走させ、失地を回復して捲土重来を果たしつつあります。‬(2021年7月5日付BBC記事「Afghanistan: Soldiers flee to Tajikistan after Taliban clashes」
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6月のタリバン民兵との戦闘で敗れタジキスタンに逃げ込んだアフガン政府軍兵士(More than 1,000 Afghan soldiers have fled to neighbouring Tajikistan after clashing with Taliban militants, officials have said.)(前掲BBC記事より)

アフガンの行方
‪ 現地をよく知る英‬国防軍参謀長のサー・ニック・カーター陸軍大将はBBCの報道番組「Today」で、アフガンの今後について、公算大なシナリオ2つと望ましいシナリオ1つを説明しました。 公算大な①「アフガン政府が踏みとどまり全州都を維持」、及び②「‪タリバンが国の一部を支配、国が分裂」。加えて、望ましいシナリオ③「(政府とタリバンが)‬具体的な政治的譲歩と協議が実現する展開」です。
 私見ながら、これは英国防軍参謀長という立場からの、いささか政治的なコメントでしょうね。現地をよく知る方ですので、腹の中ではもっと深刻に受け止めているはずです。最も公算大なのは、「‪タリバンによる全土制圧・統一」でしょう。政府軍も踏ん張ったとしても、優勢なタリバン支配地域と劣勢なアフガン政府支配地域に二つに分裂し、事実上アフガンという国家は崩壊し、国際社会にアフガン国家・政府を代表する正当な主体は存在しなくなるでしょう。それも時間の問題で、結局はタリバンは全土制圧するでしょうね。いわんや、③の「(政府とタリバンが)‬具体的な政治的譲歩と協議が実現する展開」はありえないでしょう。タリバンはアフガン政府を米国の傀儡と見ているので、政治的妥協なんかしませんよ。現政府要人は殺し尽くすでしょう。英国防軍参謀長の①のシナリオが成り立つのは、撤退後も米軍が政府軍の作戦を航空攻撃によって全面的にバックアップする場合のみです。しかし、それはもはやバイデン米大統領にその気がないのです。事実、バイデン大統領は会見の際に、「これまでと違う結果達成の合理的な期待がないまま、新世代のアメリカ人をまたアフガニスタンの戦争に送り込むつもりはない」と発言しています。(参照:2021年7月3日付BBC記事「Bagram: Last US and Nato forces leave key Afghanistan base」)
 
 アフガン政府は、引き続き米軍のバックアップがあることをタリバンはじめ内外に示したいため、今月2日、アフガンのガニ大統領と駐留米軍司令官ミラー大将が会談し、「米国の継続的な支援と協力」を協議したと発表していますが、これは焦りの証左でしょう。恐らく、アフガン政府にしてみれば、在アフガン米国大使館(及び同盟国大使館)の警備のための650名の米軍を人質に、相応の(マイナーな)非軍事支援を得るくらいでしょう。米軍にとっては、それにより外郭の警備と安全の保障を得る程度でしょうね。やがて来るタリバンと政府軍の戦いが、首都カブールに及ぶ際は、米国は大使館を引き揚げるでしょうね。じ後は中立的立場を貫き、アフガン政府軍への軍事的支援はしないでしょう。だって、腐敗した政府と戦う団結力がなく戦っては潰走する政府軍を米軍は既に見限っているのです。
 
米軍が去って虎視眈々のタリバン、ロシア、中国、そしてトルコ
 タリバンはもはや全土統一しか頭にないでしょう。これまで最強の米軍がいたので山岳地帯に逃げ、地方からジワジワと勢力伸長しては米軍に叩かれてきました。トランプ前大統領がアフガン撤退のためにタリバンとネゴり、2021年5月には完全撤退することを条件に、米軍撤退までの間は米軍に手を出さないことに同意したのです。米国はこの協議にアフガン政府を交渉のテーブルにすらつけませんでした。見限ってますから。タリバンの現在の焦眉の急の戦略目標は米軍が去ったバグラム基地。ここには米軍の残置した武器弾薬や物資があり、基地自体は今後の重要な戦力基盤です。当然、現在はアフガン政府軍が我が物としています。これが攻略された時がアフガン政府軍の事実上の壊滅の時期でしょう。

 ロシアの思惑は少し複雑。過去タリバンと泥沼の紛争が長く続いた挙句にアフガン撤退をした経験から、タリバンとは手を結べません。アフガン近隣国トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタンなどと連携して、対タリバン防波堤を講じ、アフガン政府とも連携の模様。でも、ロシアもアフガン政府と政府軍の実力の低さを知っており、痛い目に遭っているので深入りは避けるでしょう。

 中国の思惑について、2021年7月9日付産経新聞記事「中国、アフガン関与狙う」によれば、中国内の新疆ウイグルの安定のため、アフガンをイスラムテロの温床化させないよう、米軍撤退後のアフガン安定化に関与する姿勢を見せ、アフガン政府とも連携しつつ、パキスタンを通じてタリバン支援もしている模様。しかし、私見ながらタリバンとは手を組めまいと見ています。タリバンは根っからのイスラム原理主義ですから、中国と手を結ぶ要素は共通の敵がいるときだけでしょう。米軍が去った今、共通の敵は不在です。中国が対アフガン関与政策を進めるなら、めでたいことだと思います。やがて必ずや思惑通りに運ばずに破綻するでしょう。むしろ、新疆ウイグル自治区で虐げられたウイグル人とタリバンが連携して、対中国の戦力基盤に育てたいですね。

 トルコもアフガン関与を狙っている模様です。2021年7月9日付読売新聞記事「トルコ、アフガン積極関与」によれば、トルコ軍はNATO加盟国として現在も500名ほどアフガン駐留をしており、これをカブール空港警備のために残す模様です。これにより、バグラム基地を撤退した後のカブール空港の戦略的重要性を認識する米国に恩を売り、ロシア製の防空システムS400を米国に内緒で買って米国の激怒を買っている問題の解消を図っている、とのこと。トルコに関しては、タリバンもイスラム教徒なので敵視していないという他のアフガン駐留国とは違う要素があります。それでも、カブール空港警備となると、空港を掌握したいタリバンと利害衝突し、やがて攻撃対象とされるかもしれません。

私見ながら
 思うに、アフガニスタンという国は特別に御し難い民族性を持つ国でして、古くはイスラム帝国、モンゴル帝国、チムール帝国、オスマン帝国、近代でも大英帝国、現代に入ってソ連、そして今回の米国と、いかなる最強軍事大国と雖も、草の根レベルで抵抗されコントロールできず、最後はホッポリ投げられてきた国なのです。ベトナム戦争に勝った北ベトナムを想起させる不屈の反発心を持つアフガンの民族性は、世界最強かもしれません。ですから、中国には是非深入りしてもらいたいですね。

(了)

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2021/04/25

米軍 アフガン撤退へ: 国際テロ復活が懸念されるがやむなし!

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(2021年4月22日付VOA記事「US General Warns Afghan Forces Facing Possible Failure」より)

米軍 アフガン撤退へ: 国際テロ復活が懸念されるがやむなし!
 日本のマスコミはあまり関心のないネタですが、筆者も現役時代に少なからず関わった9.11に始まるイラク・アフガン戦争の遅い幕引きの話題です。
 2021年4月14日バイデン米大統領は9月11日までにアフガ二スタンから現在2500~3500名の勢力の米軍を完全撤退する旨を発表。これに対し、タリバンはトランプ前大統領が約束した「5月1日までの撤退」を果たせないなら攻撃すると警告を発しています。現地の状況をよく知る米軍の主要指揮官や、CIAなどの情報機関は異口同音に、アフガンからの米軍及び多国籍軍の撤退について懸念を示し、米軍撤退後すぐにタリバンがアフガン政府軍を駆逐し、タリバンによる暴力的な人権蹂躙が再開することや、弱体化したアルカイダやISがアフガンを避難所にして再活性化して再び国際テロが息を吹き返し、やがて米国はじめ西側諸国にテロ脅威を与える重大なリスクになる、と予測しています。(参照:2021年4月22日付VOA記事「US General Warns Afghan Forces Facing Possible Failure」及び同年4月14日付VOA記事「Afghanistan Withdrawal Could Pose ‘Significant Risk’ to US, Intelligence Officials Say」)
 私見ながら、これらの懸念はほとんどが的中するでしょう。しかし、それでも、米国をはじめとする多国籍軍のアフガ二スタンからの撤退はやむを得ないと考えます。9.11後のアフガン戦争開始以降はや20年近くも経過、米国にとって最長の軍事介入となりました。これまでもこうした撤退論が持ち上がる度に、軍や国防省や情報機関、及び安全保障の専門家や有力議員は撤退に反対し、条件を付け、結局ズルズルと引き伸ばされてはや足掛け20年になります。それでも結果的にアフガンの状況は全く好転せずに今に至っています。撤退はもはや止むを得ないと思います。

アフガンの現状と米軍や情報機関、専門家たちの懸念
 アフガンの現状は、まだ実力も国民の支持も不足なのに背伸びするアフガン政府、都市部以外はほぼ支配下におさめる反政府勢力タリバン、そして駐留米軍が主要なアクターであり、2020年2月にトランプ政権下で米国とタリバンが和平協定し、タリバンはアルカイダと手を切る代わり米軍はじめ外国軍は撤退することを決めました。この性急な交渉にアフガン政府は席を立っています。微妙な三角関係の中、いよいよトランプの決めた5月1日という撤退の締め切りを前に、バイデン政権が9月11日まで引き延ばした形になっています。(正確には、バイデン大統領は「引き延ばした」のではなく、トランプ前大統領の撤退計画がムリムリだったため、現実的な計画として9月11日までとした、というのが本当のところです。)タリバンは激怒し、トランプが約束した5月1日の撤退を迫り、以後は攻撃する所存。アフガン政府は「大丈夫だ。米軍が撤退しても、今までそうだったようにアフガン政府軍がアフガンを守っている」とガニ大統領は豪語しています。
 こうした現状を踏まえて、米軍や米情報機関、安全保障の専門家は懸念しているわけです。
まず間違いなく、①5月1日以降も残っている米軍はじめ外国軍に対してタリバンのテロ攻撃があるでしょう。次いで、②米軍の後ろ盾と軍事支援を失った政府軍に対して、タリバンの国盗り作戦が開始されるでしょう。タリバンは支配下に置いた地域で、親米派はじめ外国勢力に迎合した者たちを見せしめ的に拷問したりリンチにしたりしますから、支配下に陥った地域のあちこちで暴力的な人権蹂躙が起きます。③そして、タリバンを頼ってISやらアルカイダやら、世界各地で落ち武者となった国際テロ組織の残党が逃げて来る避難所化し、訓練場となり、息を吹き返した国際テロ組織が、再び世界各地で西側諸国への国際テロを起こす可能性が出てきます。(既に、現在のアフガンには数百名のアルカイダ、千名を越えるISの残党がいると米情報機関は見ています。)

それでもなお撤退が得策だという理由
 まず第一に、そうした懸念が思いとどまらせてはや20年も続いたわけですから、もう潮時でしょう。バイデン大統領が「今年の9月11日まで」と拘ったのは、節目として「20年を越えるわけにはいかない」という思いでしょう。既にアフガニスタン紛争で、米軍を含む3,500人以上の多国籍軍人が犠牲になりました。米軍だけでも死者は2200名以上、負傷者は2万名を越えます。費やした費用は1兆ドルを越えます。この政治的にも経済的にも派遣国の国益がありそうに思えない不毛の地に、米国のみならず英国その他のNATO軍の軍人を引き続き派遣継続する意義があるのだろうか、という本質的な命題の問題です。もはや、従来の意味での軍事行動の「勝利」は望めず、平和をもたらし民主的な国家を樹立するという理想など夢の夢。ただ、今より悪くしないためだけのために?米国はじめNATO軍の若者を危険に晒し続けるのか?っていう話でしょう。20年と言ったら、もはや初期の戦闘を経験している兵隊さんと、現在のアフガン政府軍の治安維持を「教育訓練支援」という名で実質的に治安維持任務を実施している米兵とでは世代も違い、置かれた状況も違います。明るい展望が見えるならともかく、見えないわけですから。終わりにしましょう。


(了)

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