米軍トップがアフガン撤退を戦略的失敗と断罪:発言に違和感

9月28日、米上院軍事委員会の公聴会で証言するミリー大将(Chairman of the Joint Chiefs of Staff Gen. Mark Milley attends a Senate Armed Services Committee hearing on the conclusion of military operations in Afghanistan and plans for future counterterrorism operations, on Capitol Hill, Sept. 28, 2021.)(2021年9月28日付VOA記事「US Military Admits Afghan War Was 'Strategic Failure'」より)
米軍トップがアフガン撤退を戦略的失敗と断罪:発言に違和感
2021年9月28日に米上院、29日に下院の軍事委員会にて、ミリー米軍統合参謀本部議長とアフガン作戦全般の指揮官だったマッケンジー米中央軍司令官の二人の米軍トップが、アフガン撤収に当たりバイデン大統領に2500名の残留部隊を残すべきだと進言していたこと、アフガン撤収は戦略的失敗だったこと、等を公聴会で証言しました。この発言は、バイデン米大統領が事前協議において反対意見を聞いたことがなかったと発言していることと大きく食い違うため、今後米議会での大統領への追求が厳しくなる模様です。 (参照: 2021年9月28日付VOA記事「US Military Admits Afghan War Was 'Strategic Failure'」、同年9月30日付AFP記事「Generals advised Biden against Afghan pull-out」ほか)
しかし、・・・私見ながら、現職の軍トップが大統領との不協和音を発したことに対し、軍の高級幹部としての姿勢として「あり得ない」との思いがあり、いわんやアフガン撤収を「戦略的失敗」と発言したことについて違和感を拭えません。 違和感の焦点は、①残留部隊の進言の件と②アフガン撤収を「戦略的失敗」と断罪したこと、の2点です。
「2500名の残留部隊の進言」
まず、①残留部隊の進言について。8月一杯の撤収の際に、2500名からなる残留部隊を置くべきだと、バイデン大統領に進言したとのこと。この残留部隊によって、アフガン政府(当時の)及び政府軍がタリバンの首都侵攻を食い止めるために空爆や情報等でバックアップをしつつ、国際機関や各国大使館及びその活動を支援したアフガン人等の国外退避を安全に実施するためのサポートをすべきだった、という主張です。残留部隊を置くということがオプションとして可能なら、それはもっともな進言だとは思います。しかし、バイデン大統領が撤収の際に発言したように、9月以降にも残留部隊が残るとそこで新たな戦闘になることは明らかでした。それはミリー統参議長も公聴会で認めていて、「(残留部隊を置いた場合)9月1日にはタリバンと戦闘になっただろう。」と証言しています。残留部隊がタリバンと戦闘になった後、いつどのように撤収できるのかが問題です。アフガン撤退という政治決心をしたにも拘らず、国外退避の安全確保という大義名分を口実に、アフガン政府軍の作戦をバックアップし続けることになります。結局、残留部隊を残すということは、アフガンへの軍事介入を存続するということに他なりません。元々、アフガンへの介入の断念の本質は、いつまで経っても自分の足で立って国家運営をしようとしない、そして自己犠牲を払ってでも守ろうとしないアフガン政府と政府軍を見限ったということです。政治決心がくだる前に思うところを進言したならば、例え大統領が自分の進言を聞き入れてくれなかったとしても、政治決心がくだった後は、大統領の決心に従ってその具現化に邁進すべきであって、議会で突っ込まれたとしても進言の内容や経緯や自分の所感については沈黙を貫くのが軍人のあり方です。いわんや、米軍トップの地位に就く者が、あたかも大統領の発言や判断に不服があるような発言をするなど、あり得ない話=言語道断です。
「アフガン撤退は戦略的失敗」
ミリー統参議長は、アフガン撤退について、"It was a logistical success but a strategic failure," =「ロジスティックとしては成功(各種制約の中で12万4千名もの国外退避空輸作戦をしたことを指す)だが、戦略的に失敗だった。」と発言しました。ミリー統参議長によれば、昨年末の段階で、アフガンからの撤退を早めればタリバンの侵攻を早め、アフガン政府及び政府軍の崩壊を早める、との見方を進言。9.11前に撤退することが決まり、早期の撤退が進む中では前述の残留部隊も進言。この進言が受け入れられず、思いの外侵攻速度が速かったタリバンと戦う気のない政府及び政府軍により、タリバンが首都カブールを陥落。8月下旬には空港内で国外退避のための駐留部隊のみとなった頃、国際機関や各国大使館や国外退避を望むアフガン市民で空港周辺が混乱、そんな中、8月26日に空港ゲート付近で自爆テロが起き、米軍関係者13人をはじめ少なくとも169人が死亡。今後のアフガンについて、「タリバンは以前も現在もテロ組織であり、アルカイダとの関係もいまだに断っていない」と見ており、今後アフガンはアルカイダやISなどのテロリストの温床になり、「今後12~36カ月で活動条件がそろう恐れ」があると証言しています。総じて「戦略的失敗」と断罪しています。
私見ながら、6月~7月及び最終コーナーを回った8月の撤収の際の部隊の退げ方として、もっと効果的な撤退要領があったかもしれない、という「戦術的失敗」を語っているなら適切かつ穏当な証言だと思います。しかし、「戦略的失敗」と断じるからには、純軍事的な戦術的妥当性の話ではなく、大統領の政治判断が道を誤ったと言っていることになります。この発言がテレビ番組の軍事アナリストの発言なら構いませんが、当事者中の当事者の米軍トップ統参議長の口から発せられたというのが信じられません。だって、お前が指揮したんだろ?大統領に進言して受け入れてもらえなかったとしても、腹の中ではそう思っていたとしても、そのポストにいる以上は絶対言ってはならない。言うのなら職を辞すべきです。
(了)


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