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2021/05/30

米国の緊張緩和外交への回帰はパレスチナ問題に朗報

米国の緊張緩和外交への回帰はパレスチナ問題に朗報
 2021年5月24~27日の4日間、米国のブリンケン国務長官がヨルダン、エジプト、イスラエル及びパレスチナの西岸地区を歴訪しました。この中東歴訪は、今回のイスラエルvsパレスチナ・ガザ地区間の爆撃戦の停戦の維持のみをアジェンダとした、久々の米国の緊張緩和外交でした。今回のブリンケン国務長官の中東歴訪は、劇的でも大ニュースでもない地味で目立たないものでしたが、前トランプ政権がぶち壊しにした米国本来の中東外交への回帰について、私見ながら大いに評価したいと思います。
Blinken Netanyahu
Blinken Abbas
上の画像:ブリンケン米国務長官とイスラエルのネタニヤフ首相、下の画像:ブリンケン米国務長官とパレスチナ自治政府アッバース議長(2021年5月「27日付VOAニュースVTR「Blinken Works to Build More Lasting Bridges as Israeli Palestinian Cease-fire Takes Hold」より)

危うい停戦
 現在停戦から10日あまりが過ぎ、今のところ大きな再衝突はありませんが、外野から軋みが聞こえてきました。
 国連の人権委員会の調査団がイスラエルとパレスチナのガザ地区に現地調査に入り、被害状況を確認するとともに、人権上の調査をしています。イスラエルの被害は比較的少ないのに対してガザ地区の被害は壊滅的であり、比較にならない状況でした。国連人権高等弁務官ミシェル・バチェレは、市民の犠牲を承知で精密な航空攻撃をしたイスラエルに対して「戦争犯罪」という言葉を使って糾弾しています。国連の場では、米欧及び日本など西側諸国を除くほとんどのイスラム教諸国やロシア、中国、北朝鮮を含む諸国がイスラエルを糾弾し、イスラエルを罰せよ、との大合唱。これに対しイスラエルは「(国連は)反イスラエルに執着している」(ネタニヤフ首相)と聞く耳持たない状況です。(参照: 2021年5月27日付VOA記事「UN Human Rights Chief Suggests Israeli Strikes in Gaza May Amount to  War Crimes 」)

 前回5月23日付の私のブログにも書きましたが、パレスチナ情勢は理屈やそろばん勘定通りにはいかない「感情」の世界があります。
パレスチナはずっとイスラエルに封じ込められている閉塞感の中で鬱屈した感情があり、何かの拍子に暴発する状態にあります。今回の紛争のキッカケはエルサレムのイスラム教聖地への立入りをイスラエル官憲に制約されたり東エルサレムのパレスチナ人の土地を裁判でユダヤ人に取り上げられたことへの反抗でした。何度かのパレスチナ人のイスラエルの政策への反抗デモが強圧的に鎮圧されたことへの抗議の意を示すため、ガザのハマスがロケット弾攻撃をしたことから始まりました。

 イスラエルは、いやユダヤ人は、やっと手に入れた父祖の地を守るため、周囲を敵に回しても、自らを傷つけようとする敵には容赦なく苛烈な報復をする。だから、ガザのハマスがイスラエルの人口集中地域に鉄パイプ製ロケットで攻撃してきたら、徹底して報復する。今ハマスの拠点かも?という情報を掴んだら、その同じ場所に無垢の市民もいるのを知っていても、その市民の犠牲を承知の上で苛烈な空爆で報復する。やられたガザのハマスは懲りずに報復攻撃をする。これに対し、イスラエルはまた報復する。

 今回、米国はイスラエルを、エジプトやヨルダンはパレスチナ(ガザのハマス)を、それぞれ首に鈴をつけて、何とか停戦にこぎつけました。イスラエル、パレスチナの双方が「勝利」と自らの市民に向けて説明していますが、停戦はまだまだ先行きが危うく、いつパレスチナの鉄砲玉的な過激な一派の暴走が起こって、それにイスラエルが過剰な報復を再開するとも限らない状況です。実際、ガザのハマスに限らず、パレスチナ人は押しなべて、幕末の長州の浪士の「攘夷」思想と似て、頑なまでの反イスラエル感情が根付いています。これは、半世紀以上も自分たちの土地を奪われ自由すら奪われ、塀に囲われた監獄のような生活を強いられているので仕方がないことです。

米国の中東外交の正常化は一条の光
 しかし、そんな閉塞感の中、一条の光が差した感があるのが、このブリンケン米国務長官の中東歴訪でした。恐らく、米国の出方を様子を見ていたガザのハマス指導者たちでさえ、「これまでの米国とは違う」というパラダイムシフトを感じたものと思います。米国がそういう対応で来たのなら、米国や国連の経済的支援を得て、当面は停戦の恩賞として破壊されたガザのインフラや市民の生活の復旧・復興に専念できる。ゆえに、過激な一派の抜け駆け的な暴発を自制させるでしょう。これはイスラエルとの和解ではありません。長い戦いのための、一時停戦の間の羽繕いです。パレスチナ問題の根本的解決では全くありませんが、かりそめの平和であっても、パレスチナの市民にとっては有難い「平和」です。

 前後しますが、今回のブリンケン米国務長官の中東歴訪について評価したいのは、その愚直なまでの中立的な緊張緩和外交の姿勢です。今回、ヨルダン、エジプト、イスラエル、パレスチナにてそれぞれ国家指導者等と直接の会談を実施してきていますが、内容的には今回のイスラエル・パレスチナ間の停戦の維持と復旧・復興についてのみ、米国の関与の姿勢と面倒見態勢を明確にしています。ヨルダンとエジプトにはhonest broker(正直な調停者・仲介者)の役割を果たしてくれたことの感謝を示し、イスラエルには引き続きイスラエルの自国防衛に対する米国の支持と物理的援助(アイアンドームのミサイル等の供給など)を約束し、他方でパレスチナ自治政府にはガザ地区の復旧・復興への支援について約束しています。特に、イスラエル・パレスチナの両国には停戦の維持について念を押しているはずです。彼は愚直にこれだけのために今回の中東歴訪をし、さっさと帰りました。歴代の米政権の中東外交、特にパレスチナ対応だったら、これが当たり前といえば当たり前ですが、トランプ政権がぶち壊した後ですから、これを地味に目立たずに元に戻して帰ってきたことが立派だった、と私は見ています。例えば、トランプ政権では前政権の政策をボロカスにこき下ろしたり、前政権の政策を覆す政策を、マスコミへのPRも劇的にやったことでしょう。この辺、ブリンケンはシレーっと音なしの構えでやってのけました。例えば、在イスラエル米国大使館の件は、前トランプ政権がエルサレムに移設したので、前政権の政策を覆してテルアビブに戻すというオプションもあったろうに、そうしませんでした。前政権の政策に反対であったとしても、法的に正当な政権の政策である限り、国家としては政権交代があっても前政権の政策を引き継がねばなりません。それが国家というものです。ブリンケンは、そこはそのままで「パレスチナへの支援等について、今回の紛争で一旦退避した大使館の要員を復帰させて米国大使館の機能を再開する」と言及したのみで、所在はエルサレムのままです。また、せっかくの初の中東歴訪なので、バイデン新政権の様々な中東政策のアジェンダもあろうに、他のことには一切係わることなく、前述のように、今回の停戦維持と復旧・復興のみでした。天晴れです。トランプ前政権だったら、ついでにあちこちと米国の兵器の売り込みをしてきたり、トランプ前大統領の言うbig dealを外交成果として米国の有権者にPRしたことでしょう。

 また、何かのキッカケで紛争が再燃するかもしれない危うい停戦ですが、このかりそめの「平和」を享受して、いち早く破壊されたガザの市民生活を復旧・復興されんことを祈るばかりです。

(了)

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