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2021/07/20

中国の本性を見た豪州: 対中強硬姿勢へ覚悟の転換

 オーストラリアが「親中」的だった外交姿勢を、近年では「是々非々」から更に「対中強硬派」に変えたなぁ、という程度の認識をしていましたが、2021年7月16日付ニューズウィーク日本版記事「経済依存してきた中国に、真っ向から歯向かうオーストラリアの勝算は?」で背景が分かりました。
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オーストラリアは国防費を大幅に増やしている ERNESTO SNACHEZーROYAL AUSTRALIAN NAVY (前掲ニューズウィーク記事より)

キッカケは豪州の政治家への賄賂報道
 2017年のテレビの報道番組にて、中国がオーストラリアの政治家達に政治献金等で懐柔し、対中国政策を有利に導こうとしていることを明らかににたことで、オーストラリア人の中国に対する認識を一変させた模様です。

中国の本性を見た豪州: 対中強硬姿勢へ転換
 確かに、⒑年一昔前のオーストラリアの政治・外交・安全保障の担当者には「割と親中派が多いな」という印象がありました。 
 丁度、自衛隊正面では、「日米豪のトライラテラル(trilateral)」という方向性があり(ちなみにこの後「印」を加えたクアッド(quad)に発展)、日米豪の幹部で今後の共同訓練についてコンセプトを話し合われ、私はその末席を汚していました。アジア太平洋地域の安全保障という前提で、何が我々にとって脅威になっていて、それにどのように日米豪でスクラムを組んで対抗していくか、という議論になりましたが、日米豪の制服組は明確に台頭する中国を念頭に話が合い、日米豪でこのような共同訓練を、という具体論に至りましたが、それぞれ本国に持ち帰ると豪州国防省のキャリア組や政治家の猛反発に遭いました。日米豪のミリタリー同士の連携をすること自体はよいのですが、中国を敵と見做すことに猛反対なのでした。曰く「中国は貿易におけるパートナーであって、貿易上袂を分かつことのできない友人なのだ」と。恐らく、それは日米も経済的には貿易相手であって、必ずしも「敵」ではないのです。要は、安全保障上の脅威として見るか見ないかの視座の問題でした。豪州の政治レベルの判断として、「No! 中国を脅威として認識していない」というものでした。

 それもそのはずで、実際、中国は資源大国オーストラリアの原材料の3分の1以上の輸出国であり、いまだ1940億$もの最大の貿易相手国です。その経済的な繋がりを背景に、オーストラリアの政財界に懐柔・浸透した中国に、豪州は徐々に疑念を持つようになりました。分水嶺的には、親中派で知られたターンブル政権の際に、ダーウィン港を中国企業に99年間租借(2016年)する怪しい協定を結んだ頃を頂点に、2017年の報道番組以降、中国熱が冷めていきます。この「親中」から「疑中」を経て、一挙に「反中・嫌中」的に舵を切ることになったのは、中国の豪州に対する貿易おける報復措置です。2018年にオーストラリア政府が、5G通信網から中国のファーウェイ社の製品を拒否したのを皮切りに、中国に物申すようになった際、中国は豪州製品の輸入に対し反ダンピング関税を発動するなど、異常なほど過激な対抗措置を取りました。この対抗策に対し、豪州内では中国に対して事を構えたことに対する後悔ではなく、「本性を見た」というレベルの強い反発心が醸成されました。この流れの帰結が、2020年のコロナ禍です。新型コロナウイルスの起源の問題について、まず病気の発祥の地であった武漢に対する国際的な調査の必要性を豪州政府が言及した際に、中国は殊更にオーストラリアに対して反発。これまた様々な対豪経済制裁に出ました。「掌替えし」はお互い様なのかも知れませんが、つい先日までの蜜月から一挙に関係は冷却化しました。2021年に至っては、4月5月頃には過去最低レベルの関係悪化になり、中国は、これまで豪中外交の成果でもあった二国間の戦略経済対話の活動をすべて停止する、という対抗措置に出ました。これに対し、豪軍将官や政府高官から、台湾有事の際には中国との戦争の可能性にも言及があったほどです。英語の方のNewsweek誌のバックナンバーで、2021年5月6日付記事「Why Australia-China War Talk is Rising Between the Two Nations」(=「豪州で対中戦争論が持ち上がる理由」)と題したものまで出るほどです。

豪州の覚悟
 前掲のニューズウィーク誌日本版の2021年7月16日付記事「経済依存してきた中国に、真っ向から歯向かうオーストラリアの勝算は?」の一説の言葉を借りれば、「資源大国オーストラリアにとって、最大の貿易相手国である中国への強硬姿勢には当然ながら不安もある」というのが、オーストラリアの偽らざる気持ちでしょう。
 しかし、・・・私見ながら、結局、豪州は腹をくくったのでしょう。覚悟を決めたんですよ。
 貿易相手としては、今でさえお得意様である中国に対し、政治・安全保障の世界においては明確に一線を引いたわけです。日米だって同様ですが、平時の経済活動として、貿易においてはお互いにお得意様ですが、いざ死活的国益のフィールドの話になったら、まなじりを決して対決するぞ!という意味において、腹をくくったんですよ。立派、あっぱれ!
 日本もかくあるべし。

(了)


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