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2018/12/09

「習近平の野望」とは?

「防衛白書」をザックリ解説: ⑦中国に対する情勢認識(後編)
「習近平の野望」とは?


○ 前回からの続き、後編です。
  前後編のくせに後編が遅くなりましてスミマセン。
  後編では白書とは違った観点から中国情勢を斬新にまとめられた「中国人民解放軍の全貌 - 習近平 野望実現の切り札 -」の内容をザックリ紹介します。元陸自東部方面総監渡部悦和元陸将が今年5月に出版された本ですが、同氏が米国のハーバード大学アジアセンターでシニアフェローとして研究をされていた際の、米国内の研究者・専門家の分析や議論、彼らとの意見交換等を通じてご自身の考えをまとめており、大変参考になります。
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<「中国人民解放軍の全貌」のポイント>
 ① 習近平の野望は「偉大なる中華民族の復興」=世界一の大国になること。
   人民解放軍はそのための主要な手段。
 ② 人民解放軍はここ20年で近代化と増強が顕著。
   特に、海空軍をはじめロケット軍、サイバー、電子戦、宇宙戦など
   幅広い分野で軍備増強。
 ③ ハイテク装備の開発・生産・運用の進展著しく、AI、スーパーコンピュータ、
   無人化兵器などの分野で一部は米軍をも凌駕。
 ④ 但し、統合作戦能力等の戦闘力の総合的な発揮において米軍に遠く及ばず。
   また、開発兵器も他国のコピーであって質的に劣る。
   されど日々その差を縮めているを忘れるべからず。
 ⑤ 野望の阻害要因(国内)
   習近平の政策推進のための独裁や国内統制の強化は、
   国家国民の力を衰えさせ没落させる可能性あり
 ⑥ 野望の阻害要因(対世界)
   中国が経済力と軍事力をタイアップさせて覇権を強めることは
   必然的に米中衝突の危険性を高める。
   また、中国が国際社会に対する大国としての責任(国際秩序に対する
   公共財の提供など)を果たさずに自国国益のみ追求する利己的行動に
   終始することは、各国の利己的行動を助長し国際秩序が崩れ混沌化
   する危険性を高める。

<解説>
 ① 習近平の野望
   「偉大なる中華民族の復興」とは、清朝最盛期の版図を念頭に置いた大中華帝国の再興を意味するらしく、具体的には、北東から東南へのラインはハバロフスク地方(ロシア)、サハリン、沿海州、朝鮮半島、琉球、台湾、東沙・南沙群島、インドシナ半島(シンガポールまで)、南から北西のラインはビルマ、アッサム地方、ブータン、ネパール、パミール高原(タジキスタン)、アルマータ(キルギス)、セミパラチンスク(カザフスタン)、モンゴル、に至るまでの広大な大帝国です。但し、現実的には、これらを全て自国領土とするというのではなく、直接的影響下、覇権下に置く、ということだと思います。その有力な手段として、世界第二位の経済力と米軍に迫る勢いで軍備拡大を続ける人民解放軍というツールを駆使する、というのが中国共産党の党大会での習近平の演説から読み取れます。
   渡部元総監が注目しているのは、中国の現実的かつしたたかな覇権思考です。中国は、決してイケイケの軍事的侵略行為をしたり、冷戦期の米ソ対決のようなグローバルな米国との対決を望んでおらず、前述の広大な大中華帝国の範囲での影響力確保のための、情報優勢下における局地的戦争に勝利できる「強い人民解放軍」を実現し保持することを追求しているのだ、と渡部元総監は見ています。こうした世界に冠たる覇権態勢を保持できれば、イコール世界一の大国の実現である、という現実的な野望なのです。

 ② 人民解放軍の近代化と軍備増強
   渡部元総監の見立てでは、中国は1990年の湾岸戦争における米軍主導の戦争遂行により、軍事における情報革命(RMA)というものの圧倒的な威力と中国人民解放軍との歴然たる格差に愕然とし、これが人民解放軍の徹底的な立て直しの契機になった、ということです。当時の人民解放軍は、改革開放政策の影響で軍備縮小も行われ、軍の士気が落ちていた時期でもあり、近代軍と言うには甚だお粗末な状況であったことを猛省した、といいます。習近平は、C4ISR能力と指揮通信に着目して近代化するとともに、軍管区制度に着目。陸軍の方面軍の境界としての「軍区」から、陸海空の統合軍の作戦責任区分としての「戦区」へと大変革し、軍としての指揮統制も近代統合軍としてのそれに構造改革しました。独裁者習近平ならではのトップダウンでの大改革であり、決して現場の意見を汲上げるようなボトムアップではできない徹底的な構造改革ですね。自衛隊の場合、後者のボトムアップに近く、さまざまな意見が交錯して陸海空の統合化すら道半ばですからね。逆に羨ましい。
   加えて、習近平は海空軍をはじめロケット軍、サイバー、電子戦、宇宙戦など幅広い分野で軍備増強を進めました。語りだすと非常に長くなるので細部は割愛しますが、最新鋭装備を装備した幅広い分野のバランスが取れた総合的な近代軍になりつつあることは間違いありません。この際、コピー装備が多いので質的には見劣りするところがありますが、数的(量的)優勢は馬鹿にできません。今や、所謂A2D2、「第2列島線の接近阻止・領域拒否」の能力を持ちつつあるのです。ここで、注目すべきは、火を吹いて戦う勇ましい戦闘能力のみならず、戦略支援部隊として、宇宙戦、情報戦、サイバー戦などの「目にはさやかに見えねども現代戦において確実に戦勝を支配する基盤となる分野」について幅広く増強していることです。実は、この領域において自衛隊は大きく差をつけられ、米軍さえ部分的に凌駕する勢いです。宇宙戦においては、ASAT(Anti-Satellite Weapon)、すなわち米国の軍事衛星を先制攻撃で無効化する作戦能力を米軍を凌ぐ世界最高水準で保有しています。2007年には自国の人工衛生をミサイルで撃破する実験に成功。この際、大量の宇宙デブリを出して世界から非難されたので最近は低軌道での実験や非破壊の実験に変更しています。また、情報戦、サイバー戦においては、作戦初期の段階での電磁スペクトラム(Electro-magnetic Spectrum)ドメインの支配が戦勝の基盤であると位置付け、これを統合ネットワーク電子戦(INEW)と名付けて最重視しています。電磁スペクトラムドメインを巡る戦い、あまり聞き馴れない言葉だと思いますが、今や米軍が最も力をいれている分野でもあり、我が自衛隊でもようやく今年の白書から今後力をいれて取り組む分野として謳い始めました。電磁スペクトラムとは、超低周波から赤外線、可視光線、更に高周波のガンマ線に至るまでの全周波数帯を駆使して、通信、レーダー、電子戦などで敵の活動の妨害・破壊を図るとともに我が情報優越を図るというものです。中でも、中国のサイバー戦能力は、ロシア同様米国にとって強敵となっています。中国のサイバー戦のえげつなさは、軍レベルというよりも国家レベルで、本来自由な空間であるはずのサイバー空間において自国民・企業をも徹底的な管理・統制下に置いている点です。この国家ぐるみのサイバー戦において、中国のサイバー空間に仇なす敵、要するに侵入してきたサイバー攻撃に対して徹底的に反撃してボコボコにする積極防御と、更に敵となるであろう目標に対して先制サイバー攻撃をかけることが特徴です。数千人のサイバー戦部隊が、サイバー戦防護のみならず、指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察、スパイ行為、サイバー攻撃などに従事しています。国家ぐるみというからには軍のみならず、主として軍から民間企業に鞍替えしたテクノクラートの存在も大きいものがあります。例えば、先頃米国からの要請でカナダで副社長を逮捕された中国の大手通信機器会社ファーウェイ社の創業者かつ経営者は軍OBです。ファーウェイ社のシステムを採用している国家や企業も多いですが、米国はファーウェイ社が自社製品を通じてシステム情報のバックドアを仕掛けている、と警戒しています。怖いですね。コストの安さで抜きん出ている中国のハイテク製品ですが、国家ぐるみのサイバー戦を遂行している懸念は拭えませんね。ちなみに私は絶対に情報通信機材に中国製は使いません。ちょっぴりコストが張りますが日本製が何よりです。
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電磁スペクトラムの概念図

 ③ ハイテク装備の開発・生産・運用
   中国は各国の最新鋭装備の機密情報を盗んでコピー装備を作っている、としばしば指摘されます。例えば、中国自慢の最新鋭戦闘機J-20「殲-20」は米空軍のF-22やF-35の機密情報をスパイ活動やサイバー戦で窃取したとしか思えない技術を駆使しています。この背景について一言。
J-20 wiki
J-20
   習近平は「軍民融合」を提唱し、民間高度技術を軍用に活用するスピンインと、軍事先端技術を民用に活用するスピンオフの、軍産複合体的なウィンウィン関係を国家ぐるみで形成しています。特に、AI、スーパーコンピュータ、無人化兵器などの分野では、一部は米軍をも凌駕するとまで言われる域に達しています。このため、前述したようなスパイ活動やサイバー戦を駆使した情報収集を、あの手この手で手段を選ばぬ死に物狂いで獲得しようとしています。
   しかし、そうした盗用のみならず、実力も付いてきていることも語らないと片手落ちでしょう。我が文部省の科学技術振興機構の調査では、科学技術の学術論文においてはまさに米中2強時代。世界の学者に引用された回数で言えば、中国は数学、コンピュータ、化学、材料科学の分野において、米国が物理、環境・地球科学、臨床医学、基礎生命科学の分野において首位を分けた、ということです。これに加え、今やIT産業の世界では、アリババ、バイドゥ、テンセント等の中国企業が世界のITの覇権を競っており、彼らの持つビックデータでのアクセスメリットを背景にして、中国の最新鋭装備の開発・生産・運用に国家ぐるみで軍産一体化して協力しているわけです。

 ④ 統合作戦能力やコピー装備など、総合戦闘力においての質的に見劣り
   しかしながら、コピー装備の例のように、外見上や基礎的な性能としてコピー元に近い性能を持ったとしても、そこは所詮コピー装備なので、コピー元の装備が開発の中で試行錯誤を経てここに至った経験値や精密製造ノウハウや材料の精度の差が、如実に性能差に現れます。端的な例では、戦闘機のエンジンですね。なんぼコピーしても逆立ちしてもコピー元が有する出力が出せません。結局、戦闘機のエンジンはロシアの戦闘機Su-27やSu-30のエンジンであるAL-31を輸入して賄っている模様です。
   ことほど斯様に、作戦能力においても、例えば海軍の空母もそうですが、ロシアから購入して空母を持ったら空母として戦えるのか、というと現実は甘くありません。中国は空母を持ってから、空母として戦える勉強と訓練を重ねています。まだ道半ば。装備のアセットだけでなく、それを運用する人の経験や練度、運用ノウハウなどのソフトウェアの分野も運用できるレベルにならないと戦えません。これは、陸海空の統合作戦能力においても同様。まだまだ総合的に見て米国には遠く及びません。
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大連に停泊中の遼寧

   しかし、なめてはいけないのが、中国は米国にグローバルな対立で勝とうと思っていないこと、すなわち、標榜しているのは「情報優越下の局地戦における勝利」ですから。例えば、南沙群島で、局地的かつ一時的に情報優越を確保し、そのもとでフィリピンやベトナムなどに対し有利に戦闘を展開し、局地的に既成事実を作ってしまえば既得権益的な強い影響力を確保できるわけです。
   今見てきたような人民解放軍の最新鋭装備や軍備増強は米国には見劣りするとしても、中国周辺という地の利を得て、十分に局地的優勢を確保できるし、かつ、その差も日々縮めつつあるのです。ここが中国の怖いところですね。

 ⑤ 野望の阻害要因(国内)
   習近平の野望の障害となる、或いはその実現を挫く要因にはどのようなものがあるか、という課題について、渡部元総監は対国内と対世界とに区分して強調しています。

   まず国内から。
   習近平は、自己の政策を推進するため、ここ数年では特に顕著に独裁色を強め、国家政府のみならず企業や国民に対してその監視・管理下に置き、統制を強化しています。これについて、渡部元総監は、この統制強化は中国の国家国民の力を衰えさせ没落させる可能性あり、と指摘しています。
   これは、もともと米国のイアン・ブレマー氏が、サダム・フせインを取り除いた後のイラクについて、開放度が高まったが社会は不安定化していることを説明する際のJカーブ理論を背景としています。社会の開放度を横軸に左に低~右に高とし、社会の安定度を縦軸に下が不安定~上に安定とした場合、各国の状況により「J」の字のように表現できる、というものです。J字カーブの右上には、米国や日本などの先進国・成熟した民主主義国があり、社会の開放度は高く安定度も高い状態です。他方、J字の左端には北朝鮮や崩壊前のイラクのように社会は国家の強い管理統制下に置かれているが、社会は逆説的に安定している状態です。J字の底の部分には、サダム・フせイン政権が取り除かれた後のイラクのように、サダム・フせインの独裁的管理統制が解かれて幾分開放的になったものの、逆説的にサダムなき後の社会はタガがはずれて不安定になりました。問題は、中国です。イラクよりは右に位置していますが、米国や日本ほど右にありませんので、J字の右側のように、右肩上がりに上がって行くカーブを描いたどこかに居るわけです。解放度を上げれば社会安定へ右肩上がりするものの、開放度を下げれば、すなわち管理統制を強めれば社会の安定度も発展度も下がることになります。習近平は、ここ数年で独裁色を高め社会を管理統制下に置こうとしています。よって、開放度が下がることで社会一般は不安定化し国力は衰える、というわけです。
   理論はともかく、実態で考えてみましょう。中国人は今や経済アニマルと化し、お金を求めて事業をしたり海外旅行をしたり国際的なビジネスをしたり、という状況です。ところが近年、習近平の野望実現に向け、以前と比し統制強化の方向です。インターネットへのアクセスしかり、今後益々統制が強められると、自由な企業活動、海外旅行、国際ビジネス等は困難になり、右肩上がりの経済発展を続けてきた中国の勢いは、習近平の思いと反して勢いが陰るでしょう。こういうことですね。

 ⑥ 野望の阻害要因(対世界)
   次いで、対外の要因です。
   渡部元総監は、米国の著名な学者グレアム・アリソン氏とジョセフ・ナイ氏の主張を根拠に二つの警鐘を鳴らしています。まず、第一に「中国が経済力と軍事力をタイアップさせて覇権を強めることは必然的に米中衝突の危険性を高める」ということ。また、第二に「中国が国際社会に対する大国としての責任(国際秩序に対する公共財の提供など)を果たさずに自国国益のみ追求する利己的行動に終始することは、各国の利己的行動を助長し国際秩序が崩れ混沌化する危険性を高める」ということです。
   前者は十分に考えられることですね。米中危機をテーマにした本や議論は皆さんの関心も非常に高いところです。アリソン氏は、台頭する新興覇権国と既存の覇権国は不可避的に戦争に至る危険性がある、という論者です。ペロポネソス戦争の太古から現代まで、それを歴史が示しているという議論です。
   他方、後者は「へぇー・・・」という分かったような分からないような話です。ナイ氏によれば、「第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期に、英国から大国としての地位を引き継いだはずの米国が、国際社会に対する大国としての責任ある立場を避け、自国の内政に専念し、国際社会に国際秩序維持のための公共財を提供しなかったことが、傲慢なナチの台頭を許し、宥和政策でなだめようとして機を逸し、世界大戦の惨禍を招いた」という考えが中国にも適用できるのではないか、という指摘です。複雑な理論ですが、現在の中国が利己的に振る舞い、大国としての責任を果たしていないというのは当たっているかも知れません。あれ?トランプも十分利己的ですが・・・。

<まとめ>
  渡部元総監の言わんとしていることは、お分かりいただけたでしょうか?
  要するに、
 ・中国は猛烈な勢いで軍事力を増強しつつある。
 ・中国の軍事力は、未だ米国には勝らないものの、日々力をつけているので、決して侮るべからず。
 ・中国は、中国周辺における局地的優勢を積み上げて既得権益も積み上げ、じわじわ影響力を広げている。
 ・中国の新興覇権国としての台頭は米中衝突に至る危険性あり。また、大国としての責任を果たさない利己的行動は国際秩序を乱す危険性がある。
  というのが渡部元総監の警鐘です。

  これらの警鐘を耳に残しつつ、他の方々のご指摘にも耳を傾け、国際情勢をウォッチする際の参考にしていただければ幸いです。
  (了)

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2018/11/23

防衛白書は中国をどう見るか?

「防衛白書」をザックリ解説: ⑥中国に対する情勢認識(前編)
防衛白書は中国をどう見るか?


 本年度防衛白書から、第1部「我が国を取り巻く安全保障環境」の主要ポイントである「中国」に対する情勢認識についてザックリとした概説を試みます。
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<「中国」情勢認識のポイント>
 まず結論から言うと以下の3点です。
①核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に軍事力を急速に近代化
 特に、「A2/AD」(接近阻止・領域拒否)能力を強化
②尖閣諸島等わが国周辺での活動の一方的なエスカレーション
 海洋プラットフォームに係る中国の今後の動向に注目
③力を背景とした現状変更の試み
 南沙西沙諸島の埋め立て、軍事拠点化で既成事実化
 米国の「航行の自由作戦」に対抗するも、不測事態回避の取組も
 「一帯一路」構想の下、インド洋・太平洋での活動促進に注目

(※ ちなみに、白書には主要ポイント以外にもいろいろ詳しい記述がありますが、ここ10年くらい巻頭にダイジェストが付けられており、ここにその年の白書の特色がまとめられています。白書の発表の際も、先生方への説明もこのダイジェストを使って説明しておりますし、マスコミ各社もここを見てコメントしています。このブログの主要ポイントも、白書の第Ⅰ部「我が国を取り巻く安全保障環境」のダイジェストを要約しています。)
  
<白書における書きっぷり>
 今年度の白書では、中国情勢について34ぺージという最大の紙面を割いて費やしており、米国に10ページ、北朝鮮に20ページ、韓国・在韓米軍に4ページと比しても、記述すべき情勢認識の気合いの入れようが知れます。しかも、3部構成34ページのうち、全般1.5ページ、軍事25ページ、対外関係8ページと、大半を費やして国防政策や軍事態勢等について丁寧かつ詳しく、囲み記事や図を使いながら説明しています。白書の論調としては、中国国内の社会全般に触れながら、急速な軍事力強化や中国周辺への軍事的脅威の高まりを強調した形です。
 これに対し、中国の外務省に当たる中国外交部の華報道官(よくニュースに出てくる中国政府のスポークスマンのような女性)は、「『拡張』や『野心』というレッテルを中国に貼ることはできない。中国の正常な国防建設と軍事活動に対する白書の非難に言及されたが、中国側の正常な海洋活動に対してとやかく言うのは全く根拠がなく、極めて無責任。(日本は)自らの軍備拡充のために様々な口実を探し求めている。」、とコメント(8月29日)しました。

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では、前述の中国に対する白書の情勢認識の主要ポイント3点について概説します。
<①核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に軍事力を急速に近代化>
○ 核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心とした急速な軍備強化
  特に、「A2/AD」(接近阻止・領域拒否)能力を強化
○ 電子戦・サイバー・宇宙空間等の運用能力も向上
○ 実戦的な運用能力強化を目的とした軍近代化
  中央軍事委員会主席としての習近平氏の強い意向
○ 目標は、2035年までに軍近代化し、21世紀半ばには世界一流の軍隊に。

<②尖閣諸島等わが国周辺での活動の活発化・エスカレーション>
○ 尖閣諸島周辺をはじめ活動範囲を一層拡大
○ 日本近海や太平洋進出を伴う海空戦力の訓練増大
  訓練は質的に向上。実戦的な統合運用能力の構築を企図か
○ 海洋プラットフォームをめぐる動向に要注意

<③南シナ海での力を背景とした現状変更の試み>
○ 南シナ海の利害対立について力を背景とした現状変更を企図
○ 南沙・西沙諸島等で埋め立てや軍事拠点化により既成事実化
  南沙の7地点で急速・大規模な埋め立て、軍事拠点整備を推進
  西沙で爆撃機の離発着訓練等、軍事拠点化を推進。
  南シナ海での海空活動を拡大・活発化  
○ 米国は、中国の行き過ぎた海洋権益の主張を牽制
  南シナ海で「航行の自由作戦」を実施
○ これに対し、中国も海空における不測の事態を回避・防止のため、平成30年5月に「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」の運用開始に合意するなど、一定の努力も見られる
○ 上記に加え、インド洋・太平洋でも「一帯一路」構想の後ろ盾としてシーレーン防衛やインフラ・拠点整備を推進し海空の活動活発化の可能性にも要注意
○ これらを踏まえた白書の中国に関する総括的評価
  「中国の急速な軍事力近代化や運用能力の向上、わが国周辺での活動の一方的なエスカレーションなどは、透明性の不足とあいまって、わが国を含む地域・国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心 を持って注視していく必要がある。」

 次回、後編では白書とは違った観点から中国情勢を斬新にまとめられた「中国人民解放軍の全貌 - 習近平 野望実現の切り札 -」の内容をザックリ紹介させていただこうと思っています。元陸自東部方面総監渡部悦和元陸将が、今年5月に出版された本ですが、同氏が米国のハーバード大学アジアセンターでシニアフェローとして研究をされていた際の、米国内の研究者・専門家の分析や議論、彼らとの意見交換等を通じて考えをまとめられたものなので、大変参考になります。

(つづく)
2018/11/16

続 「イージスアショア」ボロクソ論に反論します(EMP脅威)

「防衛白書」をザックリ解説: ⑦イージス・アショアの逆襲(後編)

前編に引き続き、「イージスアショア」ボロクソ論に反論します。

<市川元将補のイージスアショア批判のポイント>
  市川元将補のご批判の要旨は次の5点です。①~③までを前半でカバーしました。
 ① 速度と精度の観点から迎撃困難
 ② SM3の射高上迎撃困難
 ③ 北朝鮮のミサイル数による飽和攻撃を踏まえ現実性欠如

 後編では、ここから先の④と⑤の部分をカバーします。
 ④ 高高度核爆発による電磁パルス攻撃で我が弾道ミサイル防衛は無効化
   仮にイージスアショアも含めた弾道ミサイル防衛の体制を整備したとしても、北朝鮮に高度30キロ以上での高高度で核爆発をされたら、遍く電子機器は使用不能に。対象物を導電性の金属で覆うことでシールドする手はあるが、レーダーの機能上さもできず、電磁パルス攻撃から守ることは不可能。
 ⑤ 取得経費に加え、イージスアショア部隊の維持運用、教育訓練等、予算上非現実的
   取得経費は2基で2,679億円。部隊の維持運用と教育訓練費を踏まえ4,664億円。これらは低めの見積であり、故障修理、バージョンアップ費、基地の施設整備費、更に更に、実はミサイル本体は別計算なので更なる高額の予算が必要になろう。
 以上を総じて、核攻撃の企図を持つ北朝鮮に対して、我が方がどれほどお金をかけても「至難の業」とのご指摘です。

<続 反論させていただきます> 
 ④と⑤について反芻しながら考察したいと思います。

 ④ 電磁パルス攻撃に対して対応不能か?
   まず、高高度の核爆発による電磁パルス攻撃とはどんなものか、考えてみたいと思います。
   「電磁パルス」とはElectro-Magnetic Pulse 、「コトバンク」(出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)( https://kotobank.jp/word/%E9%9B%BB%E7%A3%81%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%B9-161564 )によれば、「核爆発による電磁放射。核装置の材質または周囲の媒体中に散乱している光子から出るコンプトン反射の電子と光電子によって引き起こされる。その結果から生じる強力な電場と磁場は,電気的・電子的システムに有害な大電流と大電圧の渦巻きを引き起こし,システム内部の回路網を破壊する。」なんだか難しいですね。ザックリと言えば、核爆発による電磁「嵐」ないし「雷」が瞬間的に広域にわたって落ちる、という感じです。そこにある通信機、PC、TV、スマホ、などの電化製品や電気・電子回路を使用している自動車も含め、ありとあらゆる電気を使った機械は、瞬間的な電磁パルスの雷が通電してしまうので、その瞬間的電撃により破壊され使用不能に陥る、と言われています。また、社会的影響として、大停電が起きることをはじめ、いまや情報通信システムが世の中を動かしている時代ですので、そうした社会インフラが当分の間は使用不能になるため、東京なんかがやられたら、日本全体の動きが「停電」のような状態になるのでは・・・、と言われています。米国の元CIA長官だったウールジー氏は、北朝鮮が米国の上空高高度で核爆発を起こせば、その電磁パルスにより米国の様々な機能は停止し、国民の2/3、最悪9割がたが死亡する旨、議会で証言(2014年)したことがあります。(関連記事 https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20170331-00069358/ )えっ、本当?という驚愕の証言です。しかし、脱線ながら、このウールジーって人はクセ者で、ほかにもケネディ大統領暗殺の真相(?)ネタをはじめ、トランプさんの選挙参謀でしたが追放されるなど、かなり発言が怪しいことで有名です。
   怪しい話はともかく、もう少し、精度の高い説明をします。電磁パルスで怖いのは、高高度核爆発による電磁波ガンマー線の爆発的拡散により、大気中の空気の分子に衝突して猛烈なエネルギーの電子となって大放射します(コンプトン効果)。この遊離した電子たちが光の90%の速さで地上にぶちまかれ、あらゆる電子回路は落雷したような状況になるわけです。
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   図は、アメリカに対する電磁パルス攻撃を想定したイメージ図です。上のポンチ絵が電磁パルスが生じるしくみです。赤い線は高高度核爆発によるガンマー線の放射、それが大気圏内の20~40km上空の大気(点線)に激突します。地磁気の特性により、磁力線は北極と南極のような高緯度な地域では直下向きになりますが、アメリカあたりの中緯度では青線のように大地と並行するような横たわり方をしつつ湾曲してやや下向きです。この磁力線にガンマー線の束がぶち当たると、磁力線の周りをらせんを描きながら広がって減耗しますが、この際強烈な電磁パルスが発出されます。下の北米大陸の地図の絵をご覧ください。円のまん中あたりの緑の△のすぐ下(南)の黒丸が爆心、北半球のため、緑の黒丸は爆心北側なのに電磁パルス最小エリア、爆心の下(南)に笑っているような南の楕円が最大エリア、その周囲の青い楕円がかなり強力なエリアです。このような景況で電磁パルスの影響が出るであろう、との科学的な計算になります。

   しかしながら、電磁パルスの実際について考えてみると、疑問符がつくのです。電磁パルスの効果というのは、瞬間的、かつ、距離と効果は相反する関係にあります。影響範囲の逆二乗で減耗します。要するに、落雷のような瞬間的な打撃だということ。そして、高高度核爆発ならアメリカ全土や日本全土のような(日本はそれほど大きくないですけど)広域をカバーする電磁パルスの覆域が望めますが、距離とともに効果は薄くなります。他方、低高度で核爆発させた場合、電磁パルスのカバーする地域は限定されますが、強烈な効果が望めるわけです。では、具体的にどのくらいの効果があるのでしょうか? 過去の事実として、過去、米国とソ連(当時)が核実験の中で電磁パルスの影響を確認したことがありますが、かなりの遠隔地まで停電があったりはしましたが、それで「あらゆる電気・電子回路が使用不能になったか?」と言われると、そうでもないのです。例えば、1962年の米国の実験では、太平洋上の高度400kmでメガトン級の水爆を爆発させましたが、数百キロ先のハワイで停電や電話への障害が確認されたくらいで、ハワイの社会インフラが壊滅したわけでもなく、電気もハワイの経済活動もいつものように復旧されました。そう言えば、ハワイに行ったことのある方も多いと思いますが、1962年にこんなことがあったんだ、とか、あの時はハワイは大変だったんだよ、とか現地で見たり聞いたりしたことありますか?ないでしょ? ソ連も核実験において広域にわたる通信の障害が確認されていますが、社会インフラが壊滅したりしていません。(もっともソ連が実験するような不毛の大地だから人間もいない、ということかもしれませんが・・・)その後、部分的核実験禁止条約が結ばれ、それまでのような高層大気圏での核実験はできなくなりましたので、実証データがないのです。わずかに、2008年に電磁パルスの効果を確認する非核の実験で、数十台の車両で実証実験したところ、数両が影響を受けた程度で、これらもエンジンをかけ直したらかかったらしいのです。 えぇ?じゃあ実際の効果ってどうなの??? 科学者のデータ上の理論では大変なことになるというのですが、実は「大変なことになるぞ」という噂の方が勝手に先行している状況であって、実際のところはやってみないと分からないのが実情です。

   更に、日本より電磁パルスについて脅威論派もそうでもない派も喧々諤々の議論をする米国の論調でみてみますと、さっきの元CIA長官ウールジー氏のような脅威論派もいる半面、そうでもない派も元気で、そもそも北朝鮮が高高度核爆発による電磁パルス攻撃なんかしてこないだろう、という論者が多いですね。電磁パルスが目的であっても、米国の上空で核攻撃をしてきた? 次の瞬間、米国は徹底的かつ完膚なきまでの報復攻撃をするでしょうね。そんなくらいなら、真面目な直接的核攻撃をするのではないか、と。むしろ、電磁パルス攻撃の脅威をブラフで焚き付けて、北朝鮮脅威認識を煽り、外交交渉の交渉材料にしたろぅ、って腹ではないのか?といぶかっているわけです。日本でも同様なことが言えると思います。電磁パルス攻撃脅威論を声高に語っても、得をするのは北朝鮮だけかもしれませんね。

   さて、市川元将補のご指摘のポイントに戻ります。北朝鮮が日本に高高度核爆発による電磁パルス攻撃をしてきたら、日本の弾道ミサイル防衛は無効化してしまうではないか、だからイージスアショアなんか導入する意味はないのだ。ウーム・・・市川さんの指摘は理解するんですが、私の考えとしては、これも②と③のところで述べたようなものになりますね。もし、科学者の理論のように、電磁パルス攻撃により日本の政治経済の中枢がストップするし、弾道ミサイル防衛の各アセットが使用不能化してしまう、とすればこれにどう対抗するというのか? と問われるのであれば、 ⇒回答します。そりゃ打つ手はないし、イージスアショアなんか導入しても意味ないですよ。しかし、そもそも高高度核爆発による電磁パルス攻撃って、やはりついに伝家の宝刀の核使用ですよね。北朝鮮が、日本に対して虎の子のロフテッド軌道のミサイルを使って、まず電磁パルス攻撃をし、日本の弾道ミサイル防衛を無効化してから本格核攻撃に移るのですか? そりゃ、そこまで日本だけのために腹をくくって心中するつもりならあり得るかもしれませんが、現実的じゃないんじゃないのでしょうか? その話と全く別に、電磁パルスに対する対抗策・防衛策は考える必要はあると思いますよ。しかし、核カードを切る場合は、北朝鮮と日本だけの話ではすまず、米国が必ず出てきますから。
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(SM-3ブロック2Aの発射実験)

 ⑤ 経費問題
   経費の問題については、全くご指摘の通り。否定しません。私も実は、「トランプに買わされるようで、どうにも癪に触るなぁ」と思っています。ただし、北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威がここまでの水準にきたからには、日本は日本としての有効な弾道ミサイル防衛の体制・態勢が必要であり、それが米国にとってもアジア太平洋正面の同盟国として頼りになる存在となり、米国にとっての掛け替えのない戦略的パートナー=同盟国として彼らもコミットしてくれる、ということだと考えます。確かに高いですよ。たまったものではないですよ。しかし、戦車や火砲などの他の装備体系と一線を画し、弾道ミサイル防衛は戦略核抑止の一環なのだ、と考えます。
   私の邪推かも知れませんが・・・、市川さんは本当は弾道ミサイル防衛の重要性やイージスアショアの有用性などは十分承知の上で、陸上自衛隊へのイージスアショア導入による経費上の「痛さ」が痛烈であるがゆえに、わざとボロクソ論をぶち上げて潰しにかかっているのではありませんか?
   陸上自衛隊の予算は海空に比しても冷や飯を食わされており、その中でイージスアショアなんて陸自の装備体系に全くなかったものを任される。予算だって初度的な面倒は省としてみてくれるかもしれないものの、じ後は陸自の財布の中でやっていかねばならない。ただでさえ、「たまに撃つ、たまがないのが、たまにキズ」と自嘲していた陸自にとって、イージスアショア導入は強烈なお荷物ですよね。元武器学校長であった市川さんにしてみれば痛恨でしょう。お気持ち、十分分かります。
   しかし、こと核・弾道ミサイルに関して、実オペレーションを担って対応してきた海空と比べると、陸自はのんびり構えていられたかもしれませんが、これからはそうはいかない。統合運用体制になって10年以上経ち、いよいよ「陸海空あげて核・弾道ミサイルの脅威=国難に対応していく」という観点に立てば、苦しいながら、背に腹は代えられないのではないでしょうか?

(了)

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2018/11/14

「イージスアショア」ボロクソ論に反論します

「防衛白書」をザックリ解説: ⑥イージス・アショアの逆襲(前編)

「イージスアショア」ボロクソ論に反論します


○ 前回、核・弾道弾防衛の話を書かせていただいた直後に、陸自OB市川元将補が週刊新潮11月8日号に「イージス・アショアの不都合な真実」と題して、イージスアショアを防衛省が導入を検討していることについてボロクソに批評されたことを知りました。論旨は理解しますが、核・弾道ミサイルについて意見が大きく異なりますので、反論させていただきたいと思います。
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<市川元将補のイージスアショア批判のポイント>
  市川元将補のご批判の要旨は次の5点です。
①速度と精度の観点から迎撃困難
 「速度」: ミサイル防衛の難しさは「敵がライフルを発砲した瞬間、こちらも銃を発砲し、弾丸で敵の弾丸を撃ち落とす」ようなもの。弾道ミサイルの最大速度は秒速5,000メートル、マッハ15であり、迎撃は困難。
 「精度」: 地対空ミサイルなら敵航空機の近傍で破裂すれば破片効果で撃墜可能。しかし、核弾頭に対しては破片では迎撃できず。核弾頭に直撃を要し、迎撃は困難。
②SM3の射高上迎撃困難
 「射高」: イージス艦のSM3ブロック1Aで最大高度は500キロ、イージス・アショアのブロック2Aでも1,000キロ。これでは届かない。特に、北朝鮮が17年に実施した火星シリーズの発射実験においてロフテッド軌道の最大高度2,000キロ~4,000キロ越えするものまで打ち上げたとの情報があり、もはやSM3では届かない。更に、北朝鮮が多弾頭化している可能性(17年5月の実験)があり、迎撃すべき目標が分裂してくる条件も加わり、SM3では迎撃できない。
③北朝鮮のミサイル数による飽和攻撃を踏まえ現実性欠如
 ブロック2Aで1発40億円、1Aでさえ16億円と高額なため、イージス艦へ装備は8発が精一杯(本来米軍イージス艦には各種ミサイルを90~96発を装備)。北朝鮮がミサイル100発を発射し、うち10発に核弾頭を装着させたとして、ブロック2Aの命中率を90%と仮定しても、我が方は300発は必要な計算。我がミサイル代は1兆円も要することとなり、現実的でない。
④高高度核爆発による電磁パルス攻撃で我が弾道ミサイル防衛は無効化
 仮にイージスアショアも含めた弾道ミサイル防衛の体制を整備したとしても、北朝鮮に高度30キロ以上での高高度で核爆発をされたら、遍く電子機器は使用不能に。対象物を導電性の金属で覆うことでシールドする手はあるが、レーダーの機能上さもできず、電磁パルス攻撃から守ることは不可能。
⑤取得経費に加え、イージスアショア部隊の維持運用、教育訓練等、予算上非現実的
 取得経費は2基で2,679億円。部隊の維持運用と教育訓練費を踏まえ4,664億円。これらは低めの見積であり、故障修理、バージョンアップ費、基地の施設整備費、更に更に、実はミサイル本体は別計算なので更なる高額の予算が必要になろう。
 以上を総じて、核攻撃の企図を持つ北朝鮮に対して、我が方がどれほどお金をかけても「至難の業」とのご指摘。

<反論させていただきます> 
 まず、私も自衛隊出身ですので結論から行きましょう。
 イージス艦SM3、陸上配備イージスアショアSM3、+ペトリPAC3での北朝鮮弾道ミサイルの迎撃体制及び態勢は、非常に有効な弾道ミサイル防衛の体制・態勢だと思います。
 市川元陸将補のご指摘のポイントを反芻しながら、反論させていただきます。

①速度と精度上迎撃困難か?
 「敵にライフルで撃たれた弾丸を撃ち返して命中させる」という表現は、それを読んだ方々に技術的困難性を理解させる上では言い得て妙ですね。しかし、例え話が与える困難性のインパクトが強すぎませんか?今や、弾道ミサイル防衛の技術的水準は速度も精度も克服しつつありますよ。今や、SM3ブロック2Aの開発や実験を日米協力してやっていますが、ハワイ沖での実験も迎撃成功していますよ。今や、我が国の共同開発チームはSM3ブロック2Aのノーズコーン部や第2及び第3弾ブースターを担当するほどアメちゃんチームにも頼りにされています。昔、レーガン大統領が「スターウォーズ計画」なんてぶち上げた頃は、掛け声ばかりで技術的には本当に先の見えない開発でした。湾岸戦争の頃、イラクのイスラエルに対するスカッドミサイル攻撃に対し、ペトリオットで迎撃態勢を取りましたが、果たして迎撃率は1割以下だったと酷評されました。しかし、弾道ミサイル防衛の検討は、徐々に成果を上げ進化していきます。TMD(Theater Missile Defense)開発を経て、今やイージススタンダードミサイル開発は確たる成果を収めつつありますよ。勿論、開発は順風満帆ではなく、開発系の皆さんにとっては実証実験をしては改良に改良を重ね、血と汗と涙の努力の結果で何とかここまで技術的に克服してきています。敵の撃ったライフルの弾丸を撃墜できる段階まできていますよ。詰めの段階として、本年(2018年)2月のハワイ沖での実験では、概ね成功しつつも一部に不十分な点があり、9月の実験では「成功」したようです。これらの概要(細部ではないですが)は防衛省や米海軍のしかるべきHP等で一般に公開されています。およそ開発とは、いわゆるイタチごっこ、敵も進化するので我も進化を続けねばなりません。しかし、市川元将補ご指摘のような「迎撃困難」というのは言い過ぎではないでしょうか。
 論より証拠、下のHPにビデオクリップがありますので、ご覧あれ。まず、もはや当たる段階の技術的領域ではありますから。
(2018年10月26日のハワイ沖でのUSSジョン・フィン(DGG113)からのSM-3ブロック2Aの実証実験)
 https://thedefensepost.com/2018/10/26/us-successfully-conducts-ballistic-missile-interception-test-mda-says/

②SM3の射高上迎撃困難か? 及び ③飽和攻撃に対応可能か?
 標記の②と③は、私の反論の要点部分が被るので、併せてご説明します。 
まず、②の射高の話から。ブロック1Aは確かに高度500kmまでです。2Aであっても高度1000kmのオーダーです。ご指摘の通り。また、例えば火星12号がロフテッド軌道で日本を攻撃してきたとしたら、その最高高度にSM-3ブロック1Aでも2Aでも届かない、というのもご指摘の通り。なぜ最高高度が重要かと申しますと、弾道ミサイルを迎撃するなら、努めて早い段階の方が得策であり、弾道=放物線を描いて落下してくるわけですから、弾道・放物線の頂点=最高高度を過ぎると、あとは重力で落ちてくるので、加速度もついて超高速で落ちてくることになり、更に、この最高高度以降に多弾頭化している場合はカバーがパカッと外れて、多弾頭に分かれて落ちてくるので、目標が増えてしまうわけです。要するに、最高高度までに迎撃しないと迎撃しづらくなるわけです。この、多弾頭化の話が絡んでくると、多種類かつ多数のミサイルで攻撃される話と合わせて、いわゆる「飽和攻撃」の話にシフトしてきます。高度もしかり、要するに飽和攻撃に対応できないでしょう?ということです。
大前提である、北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威について、彼らの開発した、彼らが有する多種多彩な弾道ミサイルを、高さも含め、いろいろな形で同時多数発射して攻撃してきた場合、対応できますか?と問われたのであれば、 ⇒回答します。そりゃ対応できません。勿論、我が方も、できる限り対応しますよ。努めて多くのミサイルを迎撃し、努めて多くの国民の命を守ろうとするでしょう。しかし、迎撃できなかったミサイルの攻撃(最悪の場合核攻撃)を、受けることになるでしょう。そこは全て迎撃できる!なんて無責任なことは言えません。
 しかし、その話って仮定の話では理解できますが、「核兵器」であるからには、現実的には「核抑止」を前提に考えなければいけないと思います。核兵器は、これまで人類が開発してきた殺傷兵器の中で、根本的に次元の違う無差別的かつ破滅的な威力を持った最終兵器です。それが故に、これまでの人類の歴史の中で、偶発や事故によるものも含め、核兵器を持つ国も最高度の管理をし、最高度の意思決定を持って取り扱っているものであります。ゆえに、これまで一触即発の危機を迎えたこともありますが、広島・長崎以降はついぞ使われることなく過ぎてきました。核兵器を持てる国も、持たざる国も、「抑止」を前提にしてきたわけです。よーく考えなければいけないと思うんですけど、なぜ北朝鮮が、その持てる核兵器の全てのアセットを日本への核攻撃に使うんでしょうか?そんなことはありえない。北朝鮮が核兵器の使用を意思決定するとすれば、主正面は米国との関係においてであって、その対米戦の一環として、支作戦正面として対日作戦があるのではありませんか?藪から棒に、対日核戦争をするというのは非現実的ですよ。もし、日本に対して飽和攻撃してきたとしたら、日本は壊滅的なダメージを受けますが、その瞬間、北朝鮮は世界を敵に回し、米国主導にて核の使用を含めた徹底した報復を受けますよ。自殺行為ですよ。ですから、ある日北朝鮮が突如として全ての各アセットを日本を目標とした飽和攻撃をかけてくる、という想定は現実的ではありません。
 もっと、現実的な戦い方、すなわち具体的な各種弾道ミサイルの運用の観点から言うと、北朝鮮の開発する/保有する各種の弾道ミサイルには、それぞれの射程(短射程~長射程まで)、燃料(液体か固体か)、発射形態(発射のプラットホームとして、固定式発射台/発射台付き車両/潜水艦発射)などの特性を最大限に生かすよう、運用の用途があります。例えば、北朝鮮が開発の最終目標としてきたのは、とりもなおさず米国の主要都市を直接狙える大陸間弾道弾(ICBM)です。射程、射高、弾頭の核爆弾量、多弾頭化など軍事科学技術の粋を極めて開発し、必然的に大型です。しかも、最大の敵=米国は、最強の核戦力を有する国でもあるので、米国から先制第一撃を受けないように、そんなことしたら生き残った核兵器で第二撃で報復できるぞ、という能力を保持できる潜水艦発射弾道弾(SLBM)、発射台付き車両等を多種多様に装備しているわけです。これらの残存性を担保する核兵器は、大型の大陸間弾道弾には射程や搭載する弾頭においては小型化するために、射程、射高、弾頭の核爆弾量、多弾頭化等において縮小せざるを得ないものになります。各種の弾道ミサイルには、それぞれの特性に応じた、発射の時期、目標(都市人口等のソフトターゲットか、軍事施設(敵の大陸間弾道弾の発射基地、司令部など)等の特定のハードターゲットか)、発射の形態、等を幅広くかつ懐深く、かつ柔軟に確保することが核抑止力を高めるのです。この際、対米作戦を前提に持てる核兵器をいかに運用するかを考えるわけで、その中で支作戦正面たる対日作戦があるわけです。虎の子の最新最強装備を日本にいきなり使いますか?使いませんよね。支作戦正面の日本に使うマイナーなものに対して、日本の弾道ミサイル防衛の態勢で非常に有効に機能すると思いますよ。そして、これこそが、アジア太平洋正面の同盟国日本がしっかりと守りを固めておくことで、同盟国米国は日本を頼りにし、かつ、日本の防衛を同盟国として果たしてくれるわけではないでしょうか。そして、こうした盤石の態勢をとっておくことが、核抑止をより確かなものにするのです。
 イージス艦SM-3とイージスアショアのSM-3とで大気圏外のミッドコースフェイズにおける弾道ミサイルの迎撃を、それでも撃ち漏らした最終段階のターミナルフェイズの迎撃をペトリ部隊のPAC3で迎撃する。ほとんどの弾道ミサイルはロフテッド軌道なんてできません。この弾道ミサイル防衛の構えはかなり強敵ですよ。この態勢がどれだけ北朝鮮にとって手ごわい防御体制か、って言う話だと思います。

(後編につづく)

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2018/11/03

続 核・弾道ミサイルをザックリ解説

「防衛白書」をザックリ解説: ⑤核・弾道ミサイルを解説(後編)

○ 前回からの続き、後編です。

20170204.jpg
弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル発射試験(平成29年2月4日(日本時間) 於:米国ハワイ沖)
( http://www.mod.go.jp/j/approach/defense/bmd/ より ) ※ イージスSM-3ブロックⅡAだと思います

<④弾道ミサイルの脅威: 核以外の大量破壊兵器も弾頭に>
  これまで述べてきたように、弾道ミサイルは敵の主要都市を直接狙えるわけですから、弾頭が核兵器であれば極めて脅威が高いわけですが、当然のように、普通の爆薬の通常弾頭でもいいわけですし、化学兵器、生物兵器、などの大量破壊兵器が弾頭でも搭載可能です。
  弾道ミサイルによる大量破壊兵器の脅威の実例として、湾岸危機・湾岸戦争を見てみましょう。1990年8月のイラクのクウェート侵攻により生起した1990年から翌91年にかけての湾岸危機及び湾岸戦争の際、イラクはこの戦争を「アラブ対親イスラエル」の戦いであるかのように策謀して、湾岸戦争間にイスラエルに対して弾道ミサイルであるスカッドミサイルで攻撃しました。イスラエルがこれに報復してイラクに対しsurgical air-strike(外科手術的航空攻撃)などをした場合、他のアラブ諸国はイラク側に回る可能性も十分ありました。いつものイスラエルなら報復しそうなものでしたが、米国が必死に隠忍持久を説得したこともあって、実際にはイスラエル政府は珍しく我慢しました。イラクのスカッド攻撃は18回にわたり39発撃ちこみ、一部はパトリオットミサイル等により迎撃されましたが、一部はイスラエルの市街に命中、200名を越える負傷者、直撃及び関連で10数名の死傷者が出ました。この時、イラクのスカッドミサイルの弾頭は全て通常爆弾でした。しかし、イラクは自国内のクルド人に対する制圧に化学剤(毒ガス)を使用したことがあったため、イスラエルに対して化学兵器を弾頭にしたガス攻撃をするのではないか、という脅威が取りざたされました。実際にイスラエル政府は国民にガスマスクを配布し、マスクを装着してシェルターへの避難などの訓練も実施していました。当時イラクは核開発が成功していませんので核など持っておらず、核弾頭の可能性はなかったのですが、生物化学兵器は十分可能性がありました。
  弾道ミサイルの脅威というのは、大量破壊兵器を弾頭に載せて攻撃されるかもしれない、という恐怖、脅威感なのでしょうね。核爆弾は勿論ですが、化学剤であっても生物兵器であっても、自国の主要都市がその脅威にさらされているとあれば、パニックになるであろうことは容易に想像できます。化学剤は第一次大戦にて実戦で使用されたことがありました。しかし、凄惨な被害の状況や自国の作戦そのものへの影響もあって、諸国間で条約も作り、諸国間の戦争においてはそれが破られることなく使用されずに現在まで来ています。しかしながら、これが理性ある合理的な状況判断のできそうもない国、いわゆる「ならず者国家」やテロ組織などの非国家主体にあっては、実際に使用した例もあるし、使用しそうな場合もありえます。
更に、数年前の北朝鮮のように、弾道ミサイル開発中で実証実験をしているような場合、その弾道ミサイル自体が計算通りに発射され予定の弾道を描くかどうかも信頼できないわけです。日本をまたいで発射されたこともありました。失敗して堕ちてくるのでは?というのは杞憂ではないかもしれなかったのです。落下した残骸のロケット燃料には、人体に非常に有害な物質が含まれています。北朝鮮のミサイル実験の度に、海空の自衛隊が弾道弾対処で迎撃しうる態勢を取るとともに、陸上自衛隊の特殊武器防護部隊等が落下してきた場合の対処のための待機をしていたこともありました。

<⑤守る側の弾道ミサイル防衛の必要性>
  これまで核・弾道ミサイルについて解説をして参りましたが、守る側の態勢についても語らないと片手落ちになります。弾道ミサイルの脅威に対する防衛とは、これを迎撃する態勢、すなわち弾道ミサイル防衛(BMD: Ballistic Missile Defense)です。撃たせないための事前の外交努力というのは勿論ですが、ここでは弾道ミサイル攻撃のまさに脅威の水際にスポットライトを当て、いかに弾道ミサイルから国民や国土を守るかについて考えたいと思います。この際、防衛白書の自衛隊の弾道ミサイル防衛システムにロックオンせず、一般論としての弾道ミサイルに対する迎撃態勢、弾道ミサイル防衛についてお話しします。

○ 弾道ミサイル防衛の仕組み
  弾道ミサイル防衛は、突き詰めると次のようになります。
  まず、敵の弾道ミサイルの発射情報を早期に補足し見極める。
  次いで、我への攻撃と判断したら努めて早期にこれを迎撃する。
  単純明快な仕組みながら、これを具現化するのは非常に難しいものがあります。しかも、持ち時間の問題が大きく横たわります。何千キロという長距離ならリードタイムも何十分かありますが、北朝鮮の弾道弾攻撃を日本が防衛する、となると10分しかかからずに落ちてくるので、迅速に対応しなければならないのです。
  上記の2点を現実の部隊や装備に具体化すると、次の3つの機能になります。
(1)  発射を探知/識別/追尾する警戒監視体制
(2)  弾道の各段階で迎撃する広域多重の迎撃ミサイル
(3)  弾道ミサイル防衛をコントロールする管制システム
  実際的には、(1)と(3)は分けずに警戒管制としたりしますが、あくまで機能で分けました。

プレゼンテーション1
日本の弾道ミサイル防衛システムの整備・運用のイメージ

○ 迎撃態勢
  では、迎撃態勢の一般的なイメージを説明いたします。
(1)  発射を探知/識別/追尾する早期警戒監視体制
   敵の弾道ミサイルの発射の兆候を見つけ(探知)、それが弾道ミサイルであるのか、概ねどこを目標としているのか等を判定し(識別)、その弾道の軌道を見失わないようにリアルタイムで捕捉する(追尾)することが肝心です。
   いつどこでいかに発射されるか分からない弾道ミサイルを、探知し、識別し、追尾するための早期警戒監視体制を構成する必要があります。対象国の弾道ミサイル発射があるかもしれない広域(海面も含め)をカバーするため、広域多重の警戒監視の目が求められます。
   具体的には、
 * 偵察衛星: 平素から情報収集
 * 早期警戒衛星: 発射されたミサイルを早期に探知
 * 地上レーダー、海上配備レーダー  
 * 早期警戒機
 * これらの早期警戒監視のネットワーク構成
 等で早期警戒監視態勢を取らねばなりません。

(2)  弾道の各段階で迎撃する広域多重の迎撃ミサイル
   早期警戒監視態勢により探知/識別/追尾した結果、この弾道ミサイル発射が我を攻撃目標としていると判断できた場合、直ちにこれを迎撃しなければなりません。このため、予め広域多重に配備した弾道ミサイル迎撃ミサイルにより、弾道ミサイルの弾道の努めて早期の段階でこれを撃ち落とすことが求められます。撃ち落とすなら、まだロケットで重力に逆らってミサイルを推進させている弾道の登坂途上のスピードが遅い初期段階(ブースト段階)が一番のチャンスです。次いで大気圏を突破し(空気抵抗なし、重力小さい)上り切ってロケットを切り離す前の中間段階(ミッドコース段階)。ここまでで迎撃できないと、弾頭のみ、しかも複数に分かれて大気圏を再突入して高速で落下してくる最後の終末段階(ターミナル段階)です。
   迎撃手段としては、
 * ブースト段階: 航空機搭載レーザー
 * ミッドコース段階: 海上配備型迎撃ミサイル(例:イージス艦SM-3)、陸上配備型迎撃ミサイル(例:イージスアショア) 
 * ターミナル段階: 陸上配備型迎撃ミサイル(例: THAAD、ペトリオット等)
ですが、自衛隊の装備では、中間(ミッドコース)段階にイージス艦SM-3、終末(ターミナル)段階でペトリオットPAC-3のみなので、非常に心もとないところがあります。日本はこの持ち駒で戦わなければならないので、中間(ミッドコース)段階で迎撃するイージスアショアは日本の弾道ミサイル防衛の補強としては頼りになることは間違いありません。THAADもあった方がいいかもしれませんが、むしろイージスアショアの方がより頼りになります。THAADはペトリより高高度まで届きますが、いずれにせよ終末(ターミナル)段階で数個に分かれ大気圏に再突入し高速で落下する小さい弾頭が目標なのです。24時間365日、常続的に対応可能な陸上からのイージスにより、海上のイージスと相まって、まだ大気圏外で弾頭を切り離していない的の大きい段階で撃ち落とす方が、地上への影響も局限できます。しかし、ちょっと癪なのが、トランプに買わされる感も否めないところではあり、高い買い物ながら、・・・。背に腹は代えられない、というところでしょうかね。
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湾岸戦争時のペトリオットの発射の景況
300px-Mda_aegis.jpg
イージス・アショア・サイト

(3)  弾道ミサイル防衛をコントロールする管制システム
   これまで見てきたような警戒監視の目を迎撃手段と、ウェポンシステムとして有機的に機能するように、ネットワークで結んでコントロールしなければいけません。しかも、持ち時間が限られた中で。特に、日本の場合、北朝鮮が発射したミサイルは10分くらいの持ち時間しかないのです。仮に、北朝鮮が米国に対して大陸間弾道弾(ICBM)を撃つとしたら30分のオーダーです。日本には落達まで10分しか時間がないのです。発射直後に米軍からの早期警戒衛星情報を得たとして、識別、追尾、そして我が国への攻撃を見極めて、ネットワークでつないだ迎撃手段を管制して撃ち落とすまで、10分しかないのですよ。くどいようですが、努めて早期に迎撃した方がいいので、更に持ち時間は限られます。勝負は、弾道ミサイル防衛の各端末をネットワークで結んでコントロールするシステム化ですね。
   自衛隊では、弾道ミサイル防衛統合任務部隊指揮官(航空総隊司令官)の指揮のもと、米軍とも密接に連携しながら、自動警戒管制システム(JADGE)、海自イージス艦、空自警戒管制レーダー、空自ペトリオット、(導入すれば陸自イージスアショアも)等をネットワークでリンクし、何とか時間に間に合うようにほぼ自動的に、システマティックに対応するようになっています。

   いかがでしたでしょうか?
   えっ?「迎撃ミサイルって当たるの?」って私に聞いてるの?ウーン、確かに実証実験では当たるようになってきましたが、・・・。
   既述の通り、まず時間がないですね。リードタイムがもっとあればいいんですが。そして撃ち漏らしが怖いこと。初期のブースト段階で撃ち取れればそれが一番ですが、まだ判定できないでしょうね。あ、手段もないのか。中間段階のイージスが頼りですね。ここでイージスが撃ち漏らすと、終末段階では複数の弾頭に分かれて超高速で落ちてくるんですよ。なんぼペトリが頑張っても、何発か撃ち漏らしたら、それが日本の国土に落達するわけですから。怖いですよね。・・・
   でも、そんなことにならないように祈ってますが。

  (了)

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