fc2ブログ
2022/01/12

カザフとウクライナ: まるでジャイアンなロシア



putin images
カザフスタンの反政府デモをテロとみなして徹底鎮圧
 2022年1月初旬、カザフスタンで燃料値上げ等に抗議する反政府デモに対し、政府は彼らをテロとみなして徹底鎮圧の姿勢で臨み、ロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)に加勢を要請し、直ちにロシア軍が来援、治安維持に当たる状況となりました。政府側の苛烈な鎮圧により、デモ側の人的被害は9日の発表で死亡164名、逮捕・拘束者6千名に上る模様です。
 ロシアのプーチン大統領は、旧ソ連圏の親ロシア国家・政権に対して、盟主ロシアの圧倒的軍事力を後ろ盾とし、親ロシア政権の体制を強力にバックアップする姿勢を示しました。

ロシアのウクライナ侵攻阻止をめぐるロシアと米国はじめ西側諸国の外交の行き詰まり
 ロシアの侵攻開始が懸念されるウクライナ情勢をめぐり、米国のバイデン政権は、1月10日にスイスのジュネーブにて米ロ間の高官協議、続いて12日に北大西洋条約機構(NATO)ロシア理事会、13日に欧州安保協力機構(OSCE)の会議を持って、ウクライナ情勢の緊張緩和やロシア側の安全保障の保証要求などについて協議を予定しております。
 しかし、一連の会議の前から、ロシアも米欧も異口同音に「緊張緩和」や「懸念の払拭」に至る会議の成果に期待していない旨のコメントを発しています。それは、ロシア側が無理を承知の要求(※)を米欧にかまし、その要求の達成を追求してガンとして妥協・交渉の余地を見せないことに起因しています。(※ロシア側の「安全保障上の保証」3条件: ①今後NATOはロシア近隣の東ヨーロッパ諸国へと加盟国拡大をしないこと、②NATO軍はロシア近隣のバルト諸国等における活動〈NATO部隊の配置や訓練の実施、NATO製のミサイル配備などを含む〉を中止し同地から撤退すること、③(最重要)NATOはウクライナを決して加盟国としないこと。)
 結局、ロシアは外交交渉をアリバイのように続けるものの、外交交渉で解決する気はないようです。

「旧ソ連圏を絶対手放さないぞ」と時代の空気を読まずに主張するロシア
 本来、ロシアも中国も北朝鮮も、曲がりなりにも近代国家としての常識的な「国際協調」や「民主」や「自由」の尊重などを体裁だけでも整えるものです。「体裁だけでも常識的・良識的であろうとする」ことが国際社会の社会規範であり、時代の空気だったはずなのに、なにか最近のロシア・中国を見ていると、そうした時代の空気はかなぐり捨てて、自己中心で悪ぶることなく自己の立場の正当性を主張し自己のエゴを臆面もなく貫き通す、人気漫画「ドラえもん」のジャイアン化してきているなぁ、とつくづく思うところがあります。今ロシアがやっていることは、1950~60年代の米ソ冷戦構造下のソ連の衛星国に対する態度ですよね。ハンガリーやチェコでのソ連に対する離反の動きが出た際に、ワルシャワ条約機構の枠組みを盾に、ソ連軍が治安維持の名目で完全にその動きを圧殺。今回のカザフスタンやウクライナに対するロシアの態度は、旧ソ連圏の親ロシア国家・政権は力づくで守り抜き、ロシアの望まない民主化推進やいわんやNATO加盟などは絶対許さない、という「自己中心で悪ぶることなく自己の立場の正当性を主張し自己のエゴを臆面もなく貫き通す」、まさにジャイアン状態です。これでは、冷戦期のソ連の態度と同じです。

第2次世界大戦前夜の英国チェンバレン首相の宥和政策の轍を踏むべからず
 惜しむらくは、これを諫めるべき米国バイデン政権の態度が紳士的・良識的すぎること。ジャイアンに対し、「できすぎ君」の態度で臨んでいることです。ジャイアンに対しては、相手の良識や国際協調の精神などに期待することなく、危機に臨んでは「ジャイアン」返しで臨むこと。第2次大戦勃発前の英国のチェンバレン首相のドイツに対する宥和政策の轍を踏んではいけない。すなわち、西側も軍事力で事を構える態度で、「レッドラインを越えるんじゃないぞ!越えたら我々も腕づくでねじ伏せるぞ!」という意を決した態度で対応することです。
 私がこの件に拘るのは、ロシアを見て自分の意を強くする日本の困った隣人、中国と北朝鮮がこれに続くからです。奴らが「自己中心で悪ぶることなく自己の立場の正当性を主張し自己のエゴを臆面もなく貫き通す」ジャイアンとして、日本及び周辺諸国に必ずや災厄を巻き起こすことになるからです。火事は対岸のうちに消しましょう。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
スポンサーサイト



2022/01/03

ウクライナ侵攻前夜:プーチンの「危機」ゲームかも

putin images

 新春早々、暗い話で恐縮ですが、ウクライナがロシアから侵攻される危機に立たされていることにご注目を。ヨーロッパの話ながら、ロシアのウクライナ侵攻を黙認してしまうと、中国の台湾侵攻の敷居を低くし、民主国家台湾の存亡の危機につながります。しばらく、この話にお付き合いください。

年末の米ソ首脳会談も平行線        
 ロシアのウクライナ侵攻が「年明けにも開始されるのでは」と懸念されているウクライナ危機について、年も押し迫った2021年12月30日に電話での米ソ首脳会談がありました。バイデン米大統領はロシアのプーチン大統領に、ロシア=ウクライナ国境沿いの緊張緩和を求めるとともに、よもやロシア軍がウクライナに侵攻するようなことがあれば「重い代償を払うことになる」と再度強調した模様です。対するプーチン大統領は、既に公表したロシア側の「安全保障上の保証」3条件を念押しして返しました。①今後NATOはロシア近隣の東ヨーロッパ諸国へと加盟国拡大をしないこと、②NATO軍はロシア近隣のバルト諸国等における活動を中止し同地から撤退すること、③(最重要)NATOはウクライナを決して加盟国としないこと、というロシアの「安全保障の保証」3条件は、バイデン大統領にとって了承しかねる要求であり、バイデン米大統領はこれに「No」と回答しました。他方、全くの平行線のままでは何ら打開の糸口がなくなるため、「それでも今後予定されているロシアとの交渉の進展に期待する」と今後に期待をつなげるコメントを残した、とのことです。(参照:2021年12月30日VOA記事「Biden Urges Putin to De-escalate Ukraine Tensions」)

President Joe Biden speaks with Russian President Vladimir Putin
2021年12月30日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談中のバイデン米大統領 In this image provided by the White House, President Joe Biden speaks with Russian President Vladimir Putin on the phone from his private residence in Wilmington, Del., Dec. 30, 2021. (Adam Schultz/The White House via AP)(前述のVOA記事より)

 この話だけだと、なーんだ大丈夫そうだね、というお正月気分ののどかな話ですが、現地はトンデモない状況なのです。

ロシア=ウクライナ国境は「侵攻前夜」のド緊張               
 今やロシア=ウクライナ国境では、あたかもロシアのウクライナ侵攻前夜のような極度の緊張で覆われています。10万を越す兵力を国境沿いに展開するロシア。それに呼応してウクライナ国内の親ロシア武装勢力が、ロシア製の新兵器で武装してロシア側ではなくウクライナ政府軍に銃口を向けて臨戦態勢を取っています。ウクライナ側は、ウクライナ政府軍が親ロシア武装勢力と圧倒的優勢なロシア軍に対峙しています。

 旧帝国陸軍が犯した満州事変という日中戦争の泥沼の契機となった事件(陰謀)は、兵士の1発の銃声だった、と言われています。前述のような敵/味方が対峙するド緊張の正面では、ウクライナ軍であれ、親ロシア武装勢力であれロシア軍であれ、全くの偶発であろうが、陰謀で計画的な発砲であろうが、どっちかが敵に対して発砲した瞬間、全軍の戦闘開始になります。今、ロシアはその瞬間を待っているのです。

2022年1月5日付読売新聞記事「ウクライナ対露警戒加速」にウクライナの緊迫感を伝える丁度良い記事が出ました。同記事によれば、ウクライナはロシアの侵攻に備えて国家総動員態勢の自衛に努めており、昨年12月中の措置として、女性の軍務従事のための登録制度を開始、米軍供与の対戦車ミサイルを導入した演習開始、キエフ市で首都防衛対策本部が設置、ロシアの情報戦に対抗するための情報安全保障戦略の発効などに取り組み、年明け早々の元日には一般国民のレジスタンス(抵抗運動)の法律施行、ロシア船舶の国内の河川運行禁止の法律施行など、国を挙げての対ロシア徹底抗戦態勢に入っている模様です。正月気分の日本の皆さんにはにわかに理解いただけないとは存じますが、死に物狂いでロシアの侵攻に徹底抗戦する世情になっているのです。

私見ながら:全く進展なし       
 そんなド緊張状態の緩和を企図してバイデン米大統領がセッティングした年末の米ロ首脳会談は、残念ながら上記のように全くの平行線でした。今回の会談内容は、12月中旬に双方が交わした主張の繰り返し以上のものはない状況でした。唯一の解決の糸口として、年明けに3回ほど事務レベルの米・NATOとロシアとの協議の場が設けられました。双方の大統領はお出ましにならず、事務レベルの協議なので、いろいろ幅広い議論はするにしても双方の主張が繰り返されるだけで、結論は出ないでしょうね。事務レベルで結論が出るわけがない。

 ということは、もしロシアがやる気であれば、ただの時間稼ぎ。協議中であっても、前述のように、偶発的もしくは計画的なキッカケ(例えば「敵に向けた銃声1発」など)が起きれば、「ウクライナ側から許されざる挑発があった」という大義名分の下にロシアは一機に侵攻を開始するでしょう。しかしながら、最近読んだ記事で、「ナルホド、そういう考え方もありうるな・・・」という説に触れました。

プーチンの「危機」ゲーム説
 American Enterprise Instituteの研究者レオン・アーロン氏の説では、プーチン大統領はリスクを承知でブラフをかましているかも知れない、というのです。「本気で侵攻するつもり」で国境沿いに軍隊を大動員し、国内外を危機に置く。それによりウクライナのような当事国は勿論、まだNATOに正式加盟していない旧ワルシャワ条約機構の国々も戦々恐々でしょう。米国をはじめNATO加盟国の西欧諸国も身近な戦争の危機に晒されます。更に、ロシア国内において、ここ十数年権力の座にいるプーチンでさえ、一応民主制なので2024年の大統領選挙でもう一度勝たなければいけません。およそ国家というものは、自国が生きるか死ぬかの戦争の是非を問われる状況にあっては、小異を捨てて大同につき、国家国民は大統領を核心として一致団結して危機にあたろうとするものです。アーロン氏は、プーチンは本当に戦争になるかもしれないリスクを承知したうえで、「危機」を作為して国内外を自分の思い通りに動かす、非常に危険なゲームをやっているのではないか?というのです。英文のVOA記事に明確にそう書いているわけではありませんが、私はそう理解しました。そして、「それはプーチンならナルホドあり得るな」と合点がいきました。ただし、私個人はいまだにプーチンは「本気でやる気だ」と思っていますが・・・。

 ともあれ、日本は正月気分で、興味関心は新たなコロナ陽性者の急増やオミクロン株の急増でしょうが、ヨーロッパでは、特にウクライナでは、国家が生きるか死ぬかの存亡の危機に立つほどの緊迫状況にあることをお忘れなく。(一部、1月5日に補足しました。)

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
2021/12/22

ロシアはウクライナ侵攻を「やる気」と見た:NATOとの交渉座礁

putin images

ロシアの米欧との秘密交渉の座礁
 2021年12月17日(金)、ロシアは、ウクライナ国境付近に軍を集結させてウクライナ侵攻が懸念されている問題について、米国・NATOと交渉中の内容を公表しました。米欧にとっては寝耳に水の外交上の反則行為。なぜなら、2日前の15日(水)にロシア側が米欧に提示したばかりのロシアにとって都合の良い「ロシアからの要求」の公表だったからです。

 その内容とは、米国とその同盟国が、NATOの更なる(東欧への)拡大や東欧での軍事活動の停止などの「安全保障上の保証」をロシアに対して履行する、というものでした。裏を返せば、こうした安全保障上の保証があれば、ロシアはウクライナ侵攻をしないであろう、ということです。

 ロシアのこ外交上の反則に対し、米欧はこのロシア提案を呑む気は全くない模様です。なぜなら、ロシア側は何らの譲歩もなく、米国やNATOの制約のみ課す形のロシアにとって都合のいい提案であり、おまけに外交上の信頼を裏切り行為をシャーシャーとしたからです。

 しかし、それでも米欧は「ロシアがウクライナ侵攻準備が如く国境付近に大動員した部隊を下げて緊張緩和することに同意した場合は交渉を開始してもよい」という交渉の余地を残しました。
(参照: 2021年12月17日付VOA記事「Experts: US,Allies Not Likely to Agree to Russian 'Security Guarantees' 」)

私見ながら、ロシアは「やる気」と推察
 ロシアはなぜ交渉中の内容を公表したのか?そのココロは、私見ながらロシアは侵攻する気マンマンと推察します。ロシアの腹は、意図的に西側が呑めなそうな要求を突きつけて、更に内密なはずの交渉内容を公表することにより西側を交渉決裂に誘致導入している、と見積もられます。「ロシアとしては真剣に緊張緩和のための交渉努力をしたが、西側との交渉は先方から拒否的対応をされたのだ。」という「緊張緩和・危機回避へのロシアの努力」というアリバイを作りたかっただけでしょう。その狙い・目的とするところは、ウクライナ侵攻でウクライナ東部の有力都市・有力地区をロシアに併合し、おまけにウクライナの世情を動揺させて親欧米のゼレンスキー政権を倒し、親ロシア政権を立ててウクライナをロシアの衛星国に復帰させることでしょう。これはロシアというより、プーチンの信念でしょうね。プーチンは「ソ連の崩壊は20世紀最大の悲劇」と心底思っていて、旧ソ連の頃のような世界に影響力のある栄光のロシア、否、ソビエト帝国を復活させたい、復権させたい、という執念を持っています。しかし、時世上、民主国家となったロシアの大統領として、現代世界ではそういうことは無理である、と半分諦めていたプーチンが、旧ソ連の自治国だった現独立国のベラルーシ、グルジアを影響下に置くことができ、2016年には念願のクリミア半島を侵攻してロシアに併合することに成功し、厳しい国際世論や経済制裁はいまだに続くものの、黙殺することで乗り切ってしまいました。プーチンは「しめた!」と思ったに違いありません。建前上の大義名分を錦の御旗に、ロシアの影響下にある隣国への侵攻は、西側も実力行使には及び腰になるので、「乗り切れる」と踏んだのでしょう。今回も、米ロトップ会談までやって観測気球を上げてみたら、バイデンの回答は「経済制裁を前提とした『深刻な結果を招く』」だったのです。「これはいける、乗り切れる」と思っているの違いありません。

バイデン米大統領と第2次世界大戦勃発直前のチェンバレン英首相のアナロジー
 2021年12月21日付産経新聞記事に、米紙ワシントンポストが12月10日付記事にて、バイデン米大統領のウクライナ危機対応について酷評し、「チェンバレン英首相がヒトラーとのミュンヘン会議にて、ナチスドイツに強気に出れずに宥和政策を取ったが故にポーランド侵攻を許した」ことになぞらた話が載っていました。いやぁ、うまい例えです。私の前回のブログでも述べましたが、バイデンは常識的かつ慎重な大統領なので、プーチンに強気には出ず、クリミアの際に強気に出なかったオバマ政権と同様、相手の常識的・良識的判断を願い、ことが穏便に過ぎていくことを願います。トランプだったら、ロシアの侵攻企図を砕くため、「進攻しようものなら米軍が軍事介入するぞ!」とかましたでしょう。常識的なバイデンはそんな野蛮で非常識なことはできないのです。この辺が、第2次世界大戦前夜のチェンバレン英首相とダブります。

ロシアの侵攻企図を砕くには、西側が結束して軍事介入を突きつけるしかない!
 今回、米欧はまだプーチンと交渉することで緊張緩和の可能性を追っている模様です。しかし、経済制裁くらいじゃ効き目がありませんよ。やはり「軍事介入をするぞ!」という、米欧の決然たる姿勢を見せないと、プーチンには響かないでしょう。私はトランプの再登場なんか期待していません。しかし、第2次世界大戦前夜のイギリスのチャーチルのような決然たる意志をもって、西側の団結と方向性を指し示すような傑物が欲しいですね。まぁ、日本の岸田首相ではムリだろうな…。常識的で慎重すぎる。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
2021/12/07

ロシアのウクライナ侵攻危機から台湾有事を考える

ロシアのウクライナ侵攻危機から台湾有事を考える
2021年12月2日に米ロ外相会談がストックホルムで行われ、軍事的緊張が高まるロシア・ウクライナ国境をめぐって双方が激しく舌戦を繰り広げた模様。特に、ブリンケン米国務長官がロシアのラブロフ外相に対し、ロシアがウクライナ侵攻を実施するようなことがあれば、米国は必要な処置を取り、深刻な結果を招くことになる、と警告したことが大きなニュースとなっています。(参照:2021年12月2日付VOA記事「Blinken Warns Russia of ‘Serious Consequences’ if Russia Invades Ukraine」、同年同月3日付Bloomberg記事「U.S. Warns of Consequences as Russia Cites Ukraine War Risk 」ほか)
ロシアは在ウクライナのロシア系親ロ武装組織を使ってウクライナからの分離・ロシアへの併合を唱えさせ、それを鎮めるウクライナを牽制して大軍を国境に動員し、まさに侵攻前夜のような政情不安をウクライナ国内に煽っています。
私見ながら、このロシアのウクライナ侵攻危機は、台湾有事がどういった形になるかを考える際の一つの雛型になろうと考えます。すなわち、台湾国内の親中派に台湾の中国への併合を唱えさせ、その求めに応じて対岸に人民解放軍を大動員して台湾国内侵攻前夜のような政情不安を与える。....同様のやり口で台湾危機があり得ます。

ロシアの言い分
ロシアの言い分は、「①ウクライナ国内の親ロシア派グループにウクライナ軍からの攻撃の脅威が高まっており、ロシアに取っても脅威であり、見過ごせない」というものです。また、「②ウクライナ支援を名目としたNATOの更なる東方(ロシアのすぐ西側)への影響力拡大はロシアにとって脅威だ」という観点も付け加えています。

①のロシアの論理を噛み砕いてイメージ化すると、次のようなことです。
今回の軍事的緊張はウクライナに責任がある。ウクライナ国内、特にウクライナ東部にはロシア系住民がいて、ウクライナから分離しロシアへの帰属を希望する親ロシアグループがいる。こうした分離志向を許さないウクライナが軍事力で弾圧・挑発してくるため、親ロシアの分離派グループは抵抗せざるを得ない。親ロシア分離派グループからの切なるSOS発信に対し、ロシアは軍を動員してウクライナ軍の過剰な軍事的弾圧や挑発をさせないよう牽制しているのだ。ロシア軍の動員に対抗してウクライナ軍も大動員し、親ロシア派どころかロシア軍に対しても挑発的な行動を取っている。軍事的緊張を挑発的に高めているのはウクライナの方である。....という感じでしょうか。

台湾有事も同じシナリオがあり得る
ロシアのウクライナ侵攻危機を参考例として、中国の台湾侵攻危機について考察してみます。
前述のロシアのやり口は、ほぼ同様に中国の台湾への軍事的威圧に当てはめることができます。......在台湾の親中派に中国との併合を提唱させ、デモや過激な政府批判行動をさせ、台湾官憲との衝突をさせ、中国へ半ば公然とSOSを発信させ、中国は人道的及び「一つの中国論」からの台湾国内の問題への内政干渉と対岸への大動員で軍事的威圧。これに対して国際社会は厳しい中国批判を展開します。そうした土俵の上で、ロシアと同様の言い分を語るでしょう。「市民に弾圧を加え、中国に軍事的挑発行為をしかけて軍事的緊張を高めているのは台湾だ。この事態の責任は台湾にある。中国の対応は正当かつ適切であり、今後の台湾側の危険な軍事的挑発によっては、やむなく偶発的な軍事衝突もあり得る」と近い将来の自国の軍事行動を正当化するでしょう。

こうした軍事侵攻を許すべからず
ロシアにしても中国にしても、こうした軍事侵攻を国際社会が黙認・容認してはなりません。他に同様の新たな侵攻を引き起こさせないためにも、国連はじめ国際社会として「絶対に許さない」という姿勢を示さなければなりません。事実、わずか数年前にクリミアはそうしてロシアに併合されたのですから。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
2021/11/30

プーチンの謀略:EU移民流入問題とウクライナ国境ロシア軍大動員

putin images
プーチン恐るべし

 日本のマスコミはあまり取り上げていませんが、今欧州では表題のような二つの危機に直面しています。一つは、ベラルーシ経由で中東からEU入国を目指す難民がポーランド国境を超えて流入している件、もう一つはロシア軍がウクライナ国境に集結し侵攻作戦開始するのではないかと懸念されている件です。
(参照:2021年11月27日付VOA記事「We're Ready, Ukrainian Soldiers Say on Frontier With Rebels」、同22日付VOA記事「Is Putin Saber-Rattling or Preparing for War?」、同20日付東洋経済記事「ベラルーシから欧州へ『移民殺到』人道的な大問題、英国はロシアとの偶発的な戦争リスクに言及」ほか)

EU移民流入の問題点: ベラルーシの陰謀
 中東やアフリカからEUへ流入する難民の問題は以前から存在していました。今回の問題の特質は、中東(ほとんどがシリアのクルド人)でベラルーシがEUへの移民を斡旋し、ツアーを組んでベラルーシ航空でベラルーシに入国させ、ベラルーシ軍が半ば随伴・誘導して数千人もの移民たちをポーランド国境の森林から密入国させようとしていることです。移民たちはポーランドを経て移民受入れに寛容なドイツを目指しています。しかし、ポーランドも軍を動員して密入国を拒んでおり、結果的にこの人たちが難民化しています。もはやポーランドの問題ではなく、EUの問題になっています。

 EUはベラルーシ側に猛抗議していますが、ベラルーシのルカシェンコ大統領は「元々欧米西側諸国がイラク戦争等で難民を作り、それをドイツ等EU諸国が歓待するから難民流入が起きた。」と逆ギレする始末。ルカシェンコ大統領自身が、旧ソ連共産党一党独裁の最後の生き残りで先制君主状態のため、国内では民主化を求める国民への弾圧著しく、西側諸国からの非難を浴びています。海外に逃れた政府批判のオピニオンリーダーを「テロの恐れあり」という口実で航空機ごとベラルーシに着陸させ逮捕・収監した事件も記憶に新しいところです。ルカシェンコ大統領は、国際的な非難と経済制裁に対しての外交カードに使う腹づもりで、政策として難民流入を画策している模様です。

クリミアの悪夢再燃?: ウクライナ国境へのロシア軍の臨戦態勢
 もう一方の問題は、ロシア軍のウクライナ国境付近への大動員(特殊作戦部隊含む9万2千名もの大軍)による軍事的緊張です。2014年のウクライナのクリミアへの軍事介入と同地の併合という悪夢が、またすぐそこまで来ている状況です。
ウクライナ軍の情報当局のチーフは、1月下旬にも侵攻開始を準備していると読んでいます。元々、ウクライナ東部のロシア国境が近い地域やロシア系住民の多い地域には親ロシア派の武装組織がおり、併合を希望させ政情不安を煽ります。侵攻前には、ウクライナ国内を更に政情不安に陥れるため、マスコミやネットで偽情報による世論操作やサイバー攻撃によるネットワーク障害をあちこちで生起させるなど、あの手この手を駆使し、政情不安を高めます。「ウクライナ軍から挑発された」との口実で奇襲的に開戦。陸海空の通常戦力とサイバー攻撃などのマルチドメインの攻撃により、短期間にウクライナの一部を占領します。その地のロシア系住民の保護の目的で、占領を続け、後に併合する、という流れです。クリミアもそうして併合され、国際的な非難や制裁もありましたが、結果的に併合が既成事実化しています。
 EUも米国もロシアに警告していますが、プーチン大統領はどこ吹く風状態。国境付近に大軍を配置したとて、それ自体は「演習」という口実で何とでも言い逃れできるわけです。

いずれもプーチンの謀略
 これらは、いずれもロシアのプーチン大統領の謀略だと推察されます。プーチンは意図的に西側諸国を揺さぶっているのです。ウクライナ国境へのロシア軍の大動員のみならず、ベラルーシからポーランドに不法侵入する難民問題もベラルーシのルカシェンコ大統領を操っているのはプーチンです。その直接の狙いは、難民問題を外交カードに使って圧政を敷くベラルーシのルカシェンコ大統領の権力維持すること、及び、国境への大動員などの政情不安を煽ってウクライナの現政権(反ロシア)を倒し親ロシア化すること、であろうと推察されます。間接的な狙いとしては、欧州の国々の不安を煽って疑心暗鬼にさせることにより、ロシアと西欧の中間にある旧ソ連だったバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やウクライナ、ジョージアなどの国々(特にウクライナ)で多少の小紛争が起きてロシア軍の介入などが起きたとしても、「さもありなん」と既成事実化する(欧州における)世論の土壌を作っているものと思われます。
 
 日本からは遠い国の日本とは関係のない出来事と思うことなかれ。ロシアの東の隣人は日本ですよ。海を介して国境の島や町が北海道にはあります。北方領土のような係争地もあります。北の漁場では、我が国の漁船が拿捕もされる漁場なのです。これが国際情勢の厳しい現実です。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング