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2023/10/14

イスラエル・ガザ紛争にロシアの陰: 新たな要支援ネタと複雑化で西側のウクライナ支援を脅かす

Zelenski Israel
イスラエルのネタ二エフ首相に電話を掛けた件を国民に説明するゼレンスキー大統領 (画像:2023年10月12日付Newsweek記事「Israel War Could Hinder Kyiv Aid in One Scenario: Ukraine's Intel Chief」より)

降って湧いたようなパレスチナのハマスによるイスラエルへの攻撃でイスラエルはガザ侵攻寸前に
 2023年10月8日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム過激派ハマスの戦闘員がイスラエルの街を急襲し、イスラエル住民に銃撃して死傷者を出すとともに、外国人を含む住民を拉致しガザ地区へ連れ去り、人質にしています。イスラエルは同日、すぐさま空爆により報復し、ガザ地区のパレスチナ住民に多くの死傷者が出ています。これに対しハマスは、9日再びイスラエルのあちらこちらの街に対し同様の攻撃で報復、これに対し再びイスラエル側が空爆で報復し、双方に数千名を超える死傷者が出ています。ハマスは、イスラエルの更なる攻撃や地上侵攻があれば、人質を殺すと宣言。イスラエル側は、「ハマスを全滅させる」と表明し、ガザの北側からの市民の避難を要求するとともに、ガザ周辺に地上侵攻準備のため部隊を集結させています。(参照: 2023年10月14日付BBC記事「Could an Israeli ground invasion of Gaza meet its aims?」ほか)
 私見ながら、イスラエルは必ず地上侵攻をし、ガザ地区のハマスの現指導者ヤヒヤ・シンワル氏をはじめハマスを根絶やしにするため、ガザの市街地で掃討作戦を展開するでしょう。

このハマスのイスラエル攻撃の陰にイラン、更にバックにロシアあり
 今回のハマスの対イスラエル攻撃について、米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙は8日付の紙面にて、イスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部の話として、イランの革命防衛隊が計画の立案及び実行に深く関与している旨の報道をしています。イラン政府は当然のようにハマスのイスラエル攻撃作戦への関与は全面否定していますが、他方でハマスの攻撃に対してはハマスの自衛手段として支持を表明しています。ハマスの後ろ盾にイランが関与していることは周知の事実ですけどね。

 他方、ロシアのウクライナ侵攻の戦況分析で定評のある米国の研究機関「戦争研究所(ISW)」の7日付の分析では、「ロシアは、米国をはじめとする西側諸国のウクライナ支援を弱体化させるため、今回のイスラエル・ハマスの紛争について我田引水の情報作戦を展開している」と評しています。実際、ロシア外務省のザハロワ報道官は「今回の紛争は、国連や安保理決議が無視されてきた結果である」と国連や西側を批判、更に、ロシア前大統領で安全保障会議副議長のメドベージェフ氏は米国はじめ西側諸国がウクライナに手厚く軍事支援をしてロシアを脅かし、その一方でパレスチナ問題など中東を軽視してきた結果である、と主張し、今回のハマスのイスラエル攻撃に端を発した紛争の激化を、米国をはじめとした西側諸国の責任と批判しています。要するに。情報作戦で揺さぶってきているわけです。

 では、情報作戦はともかくとして、ロシアは今回のハマスのイスラエル攻撃に関与しているのでしょうか?
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、今回のハマスのイスラエル攻撃に起因する紛争激化に伴い、イスラエルのネタニヤフ首相に電話をし、「我々両国が直面している脅威は関連しているのです(the threats to us are related)」と背景にロシアがいることを訴えています。また、ウクライナ国防情報局長のブダノフ少将は、今回のイスラエルとハマスの間の紛争激化が長引く場合、米国をはじめとする西側諸国のウクライナへの軍事支援は足並みが乱れ、減少化する可能性がある、と懸念を表明しています。実際、米国では今回のイスラエル・ハマス間の紛争激化について、ほぼ足並み揃えて対イスラエル軍事支援についてはコンセンサスが得られるものの、その分だけ米国の財政に負担が増えるわけですから、対ウクライナ支援に対する賛否については更に分裂してしまう傾向にあります。(参照: 2023年10月12日付Newsweek記事「「Israel War Could Hinder Kyiv Aid in One Scenario: Ukraine's Intel Chief」、同日付Newsweek記事「With Democrats Divided on Israel and GOP on Ukraine, What's Next for US?」)

 今回、ハマスに人質に取られている外国人には、フランスや英国などの西欧諸国の国民もいますので、対イスラエル支援ないし今回の紛争への関心は西側諸国にとって「我がこと」なのです。これに対して、まだまだ長引きそうなウクライナ戦争への軍事支援に関しては、ただでさえ西側諸国の「ウクライナ支援疲れ」が指摘されているわけですから、これは間違いなく各国の足並みが乱れます。

 私見ながら、この足並みの乱れこそ、ロシアにとってはまたとない好機。これは棚から落ちてきたボタモチではなく、初めからロシアが仕組んだのだ、ロシアが背景にいてイランを動かしてハマスに攻撃をさせたのだ、というのがゼレンスキー大統領やブダノフ国防情報局長の読みというわけです。

イスラエルのガザ地区への地上侵攻の対ウクライナ戦争への影響の展望
 現役自衛官時代、イスラエルを含む中東地域には少なからず縁がありました。その知見から推察して、イスラエルは間違いなくガザ地区に対する地上侵攻を開始します。勿論、国際社会が懸念するように、避難できなかったパレスチナ市民には少なからず犠牲が出ます。イスラエルはそうした犠牲には全く目もくれず、ひたすら人質解放とハマスの根絶のための掃討戦を繰り広げるでしょう。勿論のこと、ハマスは報復として人質を惨たらしく殺害し、その映像が世界に拡散されるでしょう。それでもイスラエルは国際社会の様々な制止を求める声なんかには耳を貸しません。米国が仲介に入っても、中途半端には終わらせないでしょう。一方のハマスは、軍事的には全く勝負にならない戦いですが、非対称戦のゲリラ戦術で、ガザ地区に張り巡らされたトンネル網を駆使して、神出鬼没の攻撃を繰り返し、ガザ市街地の中でイスラエル軍部隊を泥沼の戦闘に引きずり込むでしょう。イスラエル軍は短期決戦で、一挙に軍事的制圧はできるでしょうが、肝心の人質とハマスの戦闘員たちがガザの市街にまみれて判別つかず、捜索できず。要するに、これがハマスの、否イラン、ロシアの腹だったわけですが、泥沼の長期戦に持ち込むわけですよ。イスラエルは、間違いなく米国から、「やるんだったら短期で(数日程度)ケリをつけてくれよ。長引かせるんじゃないぞ」と釘を刺されていると思います。しかし、そうはさせじと、ハマスは初めから人質も取って、市街地の泥沼の掃討戦対ゲリラ戦で長期化させるつもりなんですから。このイスラエル・ハマス間の紛争の長期化こそ、ロシアの思うつぼです。西側諸国の対ウクライナ軍事支援は、まず米国が賛否両論で分裂し、西側各国もそれぞれの思惑が違い、かくして足並みは乱れ、ウクライナへの軍事支援は減少化してしまう可能性が高いと思います。

 しかし、イスラエルっていう国は、こと対パレスチナ戦闘に関しては徹底して一切の妥協をしない周到さとしつこさと冷血さと鉄壁の情報戦能力がありますから、地上戦闘が電撃的に短期決戦で勝負がつく可能性もあります。ミュンヘンオリンピック時のパレスチナゲリラによるイスラエル選手団人質事件を想起してください。電撃解決、しかもかかわったパレスチナゲリラは、情報機関モサドが十数年かかって一人ひとり暗殺し、最終的には全員殺害した国なんですよ、イスラエルは。ますは、電撃的にガザ地区全土を制圧し、指導者の首を取り、人質を解放し、その上でガザ地区を数年かけて実効支配してハマスを根絶やしするかもしれません。いかに国際社会から苦言を呈されようとも、国連決議で早期のガザ地区占領解除を勧告されようが、一切耳を貸さずに。そんな国ですから。


 ロシアも弱ってきている証拠だ!頑張れ!負けるなウクライナ!
 イスラエル・ハマスの紛争には目もくれず、ひたすらトクマク奪取を目指せ!

(了)

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2023/10/04

今後のウクライナ情勢は2024年米大統領選挙戦日程に先駆けて好転させることがキモ

ゼレンスキー国連演説
先月の国連での演説では以前ほどの共感や支持を受けなくなりつつあるゼレンスキー大統領。国連加盟国の関心はグローバルサウスに移ろいつつある模様 (画像: 2023年10月2日付BBC記事「Electoral politics begin to bite into Ukraine support」より)

「ウクライナ疲れ」で逆風が吹く中、米国は支え続ける構図: 米大統領選でウクライナ支援が焦点になる気配
 これまでウクライナ支援を続けてきたEU加盟国の中で、ウクライナ支援継続への疲弊や不満が高まり、ポーランド、スロヴァキア、ハンガリーらがウクライナ支援継続に公然と異を唱え始めました。いわゆる「ウクライナ疲れ」です。こうした中、米国バイデン政権は、国内にウクライナ支援継続反対派がいて議会も紛糾する中で追加支援を重ね、ウクライナ支援の継続を約束しています。ウクライナのゼレンスキー大統領にとっては力強いパートナーですが、来年には米大統領選挙があり、バイデン政権の明確なウクライナ支援は、来るべき大統領選挙戦で「ウクライナ支援継続」問題がヤリ玉に上がり、民主党内は勿論、返り咲きを狙う共和党トランプ前大統領やデサンティス州知事などに舌戦のネタを提供することになるでしょう。(参照: 2023年10月2日付BBC記事「Electoral politics begin to bite into Ukraine support」、同月3日付BBC記事「Biden vows to stand by Ukraine, despite budget fiasco」、Ukraine war: Russia warned EU not weary over war support」、同日付Newsweek記事「「Biden vows to stand by Ukraine, despite budget fiasco」、「Biden vows to stand by Ukraine, despite budget fiasco」、同日付Newsweek記事「Pro-Russian Win In Slovakia Elections a Red Flag for Ukraine」、同月1日付Newsweek記事「Ukraine Gets Bad News From Two NATO Allies」、同日付Newsweek記事「Putin gets good news from European election」、ほか)

西側諸国からのウクライナ支援が下降するとウクライナの命運も下降する
 ロシアのウクライナ侵攻は何が何でも失敗に終わらせ、ウクライナに失地を回復させねばなりません。その観点からは、西側諸国のウクライナ支援の継続は命脈を握っており、これが下降線をたどればウクライナの命運も下降線をたどります。最悪、ロシアのウクライナ侵攻が達成してしまうとか、停戦協議がもたれその当時の接触線が国境になってしまいロシアが有利な形で停戦となるなど、そんなことがあってはなりません。隣国への侵攻など力による国境の書き換えが成り立ってしまっては、国際秩序な崩れます。
 何とか、西側諸国のウクライナ支援が継続し、その間にウクライナ軍がロシア軍を突破し、トクマクやメリトポリなどの枢要な地線まで確保し、もはやロシアが撤退せざるを得ない戦況に追い込みたいところです。

今後のウクライナ情勢は2024年米大統領選挙戦日程に先駆けて好転させることがキモ
 となると、2024年の米大統領選挙との追いかけっこになるかもしれませんね。現在のような膠着状態(一部でロシア第一線陣地を突破したものの、鳥瞰すると「膠着」と言わざるを得ません)のままでは、前述したように、大統領選挙戦ではバイデン現大統領を責める格好のヤリ玉ネタです。そうなると、大統領選の舌戦の中で、指摘や公約が挑発的になってしまい、ウクライナ支援どころか「即時停戦」などの強硬な路線が現地の心情や戦場の現実とは全くかけ離れた米国の選挙戦舌戦の中で命運が決まってしまいます。
 ウクライナがこれをうまくかわすには、米大統領選挙戦の日程に先駆けて、戦況を好転させ、そもそも大統領選挙戦の舌戦ネタにならないよう、作戦テンポを早めねばならない、と推察します。

 2024年の米大統領選挙日程は以下の通りです。
・ 1月15日: 共和党党員集会(アイオワ州から)
・ 2月3日:  民主党予備選挙(サウスカロライナ州から)
・ 3月5日:  スーパー・チューズデー(予備選挙・党員集会が集中する日)
・ 7月15日-18日: 共和党全国大会(共和党大統領候補決定)
・ 8月19日-22日: 民主党全国大会(民主党大統領候補決定)
・ 11月5日: 一般有権者投開票(事実上の大統領選挙結果が判明)
・ 12月16日: 選挙人による投票
(参照: Wikipedia「2024年アメリカ合衆国大統領選挙」に筆者が加筆)

 ということは、今年中の早期の戦況好転を目指すのは勿論ですが、3月のスーパーチューズデーまでには好転させたいですね。スーパーチューズデー以降まで膠着が長引くと、前述のようにバイデン大統領の進めるウクライナ支援は必ずヤリ玉にあがります。「米国民にとっては、米国から遠い対岸の火事への莫大な税金投入は共感・支持を得られず、むしろ国境を渡って入ってくる不法移民の流入問題などの国内問題の方が選挙では受けが良いネタです。選挙戦の中でウクライナ支援の継続について期限や上限額などの各種条件を譲歩させられるかもしれませんし、対立候補が当選した場合は、ウクライナ支援は根底から覆されるでしょう。
 そうならないためには、努めて早く、選挙戦の推移に先駆けて戦況を好転させて、ウクライナ支援問題を選挙戦の焦点にさせないことが何よりの「転ばぬ先の杖」です。

 つい最新のニュースで拾った朗報では、10月3日付VOA記事によれば、ウクライナ、ポーランド、リトアニアは、ウクライナの穀物輸出を促進する計画に合意したと当局者は10月3日に発表、アフリカ・中東・南米などの貧しい国々へ穀物が届くようになる模様です。つい先日、ウクライナの穀物がロシアが握る黒海経由では海上輸送できないため、ヨーロッパ経由の陸路で運ばれることになりますが、経由国のポーランドが自国の農民への配慮から穀物禁輸措置をとり、ウクライナともめているところです。しかし、今回の合意では、ポーランドを経由するが穀物貨車を封印して素通りし、リトアニアの港湾から海外へ運ばれるというものです。知恵ですネ。ポーランドのウクライナ支援への難色は、ポーランドの総選挙に関連した国内の不満への配慮から来たものです。こうした知恵で、問題点がスルー出来れば、ポーランドも対ロシア脅威感は骨身にしみた防衛問題ですから、ウクライナ支援への回帰が十分に期待できます。(参照: 2023年10月3日付VOA記事「Deal to Expedite Grain Exports Has Been Reached Between Ukraine, Poland and Lithuania」)
 またもう一つの朗報は、ウクライナもロシアもドローンが大きな戦力となる中、ウクライナに提供されているトルコのバイラクタル社の優秀なドローン、バイラクタルTB2の後継ドローンが開発され、巡航ミサイルも発射可能となり、これが提供されれば、先日のクリミアの黒海艦隊の根拠地セバストポリ軍港に壊滅的打撃を与えたような攻撃が可能になり、使い道によってゲームチェンジャーになる可能性もあります。(参照: 2023年10月3日付Newsweek記事 「Ukraine Eyes Cruise Missile Upgrade on Turkey's Bayraktar Drones」)

 このような知恵で政治的懸案をスルーしつつ、肝心の戦場での結果を出して、西側諸国のウクライナ支援継続の懸念を払しょくするクリーンヒットを打ってもらいたいものです。

 頑張れウクライナ!
 目指せトクマクの奪取!
 米大統領選挙戦に先駆けて結果を出すべし!
 夜明けはもうそこまで来ている!

(了)

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2023/09/30

海軍力のないウクライナがロシア黒海艦隊をコテンパンにしたゲリラ戦法

黒海艦隊
クリミヤ半島セバストポリの黒海艦隊司令部 (画像: 2023年9月24日付BBC記事「Ukraine claims Sevastopol strike hit navy commanders」より)

機能不全に陥るほどコテンパンにされた黒海艦隊
 つい数日前、9月22日、ウクライナがクリミア半島セバストポリにあるロシアの黒海艦隊司令部に対してミサイル攻撃を行い、黒海艦隊司令官を含む黒海艦隊司令部の枢要な要員が死傷したことがニュースになりました。この司令官が死んだというウクライナ側の報道に、ロシア側は「否、生きている」と反論して、生きて動いている司令官の映像を大放出しています。

 それはさておき、この報道からも分かるように、8月下旬から9月下旬にかけてウクライナのロシア黒海艦隊へのこうした飛び道具的攻撃がし烈に行われたことにより、クリミア半島セバストポリに根拠地のあった黒海艦隊はもはや艦隊機能を失っています。黒海艦隊の根拠地としての「母屋」ともいえる司令部機能や停泊・補給・整備等の後方機能は使えなくなりました。これは8月下旬にウクライナの特殊作戦部隊がクリミア半島に設置していた黒海海域全体の空域をカバーしていたロシアの防空ミサイルシステムの施設に対して、ミサイルやドローン攻撃で徹底的に破壊したことにより、ウクライナ空軍が黒海上空の一定空域まで侵入でき、英軍供与の空中発射ミサイルストームシャドウによるセバストポリに対する徹底攻撃を可能にしたことによります。黒海艦隊根拠地への徹底艇な攻撃により、黒海沿岸のロシア本土の別の軍港へ機能を移転したり、もはや黒海から避難している艦艇もあるほどです。結果的に、ロシア黒海艦隊そのものはもはや「艦隊」として機能できない状態となりました。
(参照: 2023年9月24日付BBC記事「Ukraine claims Sevastopol strike hit navy commanders」、9月26日付European Daily Monitor記事「Ukraine Using Asymmetric Countermeasures to Russian Power in the Black Sea」ほか) ※私の過去ログ、2023年8月26日付「「プリゴージン暗殺」報道に隠れたウクライナの快挙: 独立記念日にクリミア上陸作戦成功」、同9月18日付「ウクライナがクリミアを奪回する?: 狙いは主攻撃ザポリージャ正面の進展のための兵力転用阻止と兵站基盤の破壊」をご参照ください。

これまでのロシア黒海艦隊による黒海海域・空域の支配
 これまで、ロシア黒海艦隊は黒海海域及びその上空の空域において、圧倒的な支配力を有していました。
 特に、ロシアのウクライナ侵攻開始以来、黒海上に浮かぶ不沈空母クリミア半島の天然の良港セバストポリを根拠地としたロシア黒海艦隊は、黒海海域及び空域のほとんどを制海・制空を有してきました。黒海沿岸に西側に組する国を含む他国も存在するわけですが、黒海上の船舶の航行や航空機の航行はロシアの監視下にありました。よって、ウクライナは海上封鎖され、穀物輸送の商船を含め、ロシアに生殺与奪の権を握られていたわけです。この制海・制空を基に、ウクライナの陸上作戦に対する海上・航空からの攻撃や戦力投入はロシアの思うがままの状態でした。

 この一見して絶対的存在だった黒海艦隊の存在が、今やガラガラと音を立てて崩れています。ウクライナ軍の8月下旬以来ここ1ケ月のクリミアへの攻撃により、この黒海の絶対的支配の状況が大きく変わったわけです。

注目すべきゲリラ戦法=非対称戦
 ここで注目すべきことは、このウクライナの攻撃は海軍対海軍の「海戦」によってもたらされたのではなく、海軍力のないウクライナ軍が海上作戦ではなく、ゲリラ戦法で飛び道具を駆使してロシア黒海艦隊の海上・空域の警戒の網の目を破って、その奥深くのクリミア半島の防空基地や軍港、司令部に対する「飛び道具」による攻撃ができたことです。これは、軍事作戦のプロたちからすると、信じられないゲリラ作戦の成功です。通常、軍事というものは「優勝劣敗」といって、戦力優勢な者が戦力劣勢なものに勝つのが絶対的な原則です。勿論、「戦力」の構成要素は物理的な戦闘力のみならず、作戦の優秀さ狡猾さも戦力の構成要素ですから、ゲリラ作戦が優秀だったのでしょう。あの警戒厳重なクリミア半島に、その目をかいくぐって、よくぞゲリラ作戦を敢行できたものです。これはいわゆる正規軍対正規軍の作戦戦闘の原理原則では語れない、もはやディメンジョンの違う「非対称戦」の戦闘と言った方が正確なのだと思います。要するに、圧倒的に物理的戦力の違うロシア黒海艦隊に対して、正面からの軍事作戦を取らず、ゲリラないしテロ攻撃の反復により、ロシア黒海艦隊の圧倒的な物理的戦闘力の格差・優位性を突き崩す弱者の戦いを成功裏に遂行しているわけです。

ゲリラ戦法の具体論
 ウクライナ軍のクリミアへの攻撃は、主として水上無人艇を基盤としています。これに加え、9月下旬のクリミア半島オレニフカに基盤を置くロシアのS-400防空ミサイル・レーダーのシステムに対する攻撃で機能不十分にさせました。また、ウクライナのオデッサと現在ロシアが実効支配しているクリミア半島の間に、蛇島と呼ばれる島やガス掘削プラントの海上タワーが数個ありました。これらがウクライナ侵攻以降ロシアに実効支配されていましたが、ウクライナの特殊作戦部隊が急襲、奪還し、この島やタワーを黒海上の拠点として使えるようになりました。これらを根拠地とし、一定時間の局所的なロシアの警戒監視網を遮断できるようになりました。これらによって、ウクライナ空軍爆撃機が黒海に一時的な侵入ルートを確保でき、英軍供与のストームシャドウミサイル等の空対地ミサイルがその性能を最大限に発揮できるようになり、水上無人艇のカミカゼ攻撃や、同艇からのカミカゼ無人機の発射など、様々な手段で攻撃しています。これらの神出鬼没の大活躍により、セバストポリの軍港のみならず、クリミア半島のあちこちでロシア軍の軍事基地や兵站基盤の破壊、及びロシア本土とクリミア半島を直接つなぐケルチ海峡のケルチ大橋の爆破などの大戦果を挙げているわけです。

しかし所詮ゲリラ戦法。黒海正面の劣勢を緩和したに過ぎず、この隙に陸上作戦で勝つべし!
 しかし、これらのゲリラ戦法が戦果を挙げていると言えども、これにより黒海の制海・制空を獲得できたわけでも、クリミア半島の上陸作戦に繋がるわけでもありません。これらは、所詮は弱者が一矢報いて、一時的にロシアの制海・制空に機能不十分な穴を開けたに過ぎません。ロシアも当然、対抗策を取って来るし、当然のように壊れた機能を復旧しますので、一時的な機能不十分は時間の経過とともに復旧してしまいます。

 要するに、これらのゲリラ攻撃の主眼は、黒海艦隊及びロシア軍クリミア駐屯部隊に対する一時的ないし一定期間の麻痺を起こすことで、黒海正面からのロシア海軍艦艇・空軍機による南部戦線のロシア陸軍の防御戦闘への航空支援やミサイル攻撃などを一定期間実施困難にさせ、ウクライナ軍の主攻撃である南部戦線ザポリージャ州ロボタイン正面の陸上作戦に、思う存分戦ってもらえるように助攻撃として寄与する、というものです。
 やはり結局は、陸上作戦、特に「主攻撃である南部戦線ザポリージャ州ロボタイン主面において、当面のロシアの要塞陣地を突破し、トクマクを奪取する」ということが現在のウクライナ軍の統一的な「必ず達成すべき目標」ということですね。

 頑張れ!ウクライナ
 クリミア攻撃を継続して、黒海正面からの脅威を払しょくし、この間に主攻撃を進展させよ!
 目指すはトクマク!トクマクを奪取せよ!
 さすれば、西側諸国の「ウクライナ疲れ」も「払拭する。
 夜明けはもうすぐそこまで来ている。

(了)

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2023/09/27

西側諸国の「ウクライナ疲れ」と戦うゼレンスキー大統領

戦うゼレンスキー カナダにて
9月22日、カナダで熱弁するゼレンスキー大統領(画像: 2023年9月25日付BBC記事「Ukraine war: How Zelensky is grappling with Western war fatigue」より)

 先週から今週と、ウクライナのゼレンスキー大統領は9月19日の国連演説、21日米バイデン大統領との会談、22日カナダのトルドー首相との会談、23日にはポーランド訪問など、西側支援の確実な維持・確保のため、精力的に動いています。特に一部の西側諸国に見られ始めた「ウクライナ疲れ」の払しょくには、時に感情的・挑発的な言葉も応酬しながらも、何とかソフトランディングさせながら、西側諸国からの引き続いての支援の確保のため、兵士達とは別の戦線で戦っています。
(参照: 2023年9月22日付BBC記事「A shadow of 'Ukraine fatigue' hangs over Polish politics」、同年9月25日付BBC記事「Ukraine war: How Zelensky is grappling with Western war fatigue」、ほか)

西側諸国に「ウクライナ疲れ」が散見
 西側諸国の「ウクライナ疲れ」の急先鋒は、ウクライナの隣国でこれまで一番親身で手厚い物心の支援を提供してくれたポーランドでした。キッカケは、ロシアに黒海経由での輸出が制限されているウクライナの穀物について、ポーランドが自国にはウクライナの穀物を輸入禁止の措置をとったことが発端です。これにゼレンスキー大統領は「ポーランドはロシアを助けている」と噛みつきました。これに対しポーランドのドゥダ大統領がウクライナを「助けようとする者を引きずり込んでしまう溺れている者("drowning person who could pull you down with it")」と称したことで、一時両国の関係は非常に懸念されました。実際、ポーランド国内では国家財政からのウクライナ支援・軍事支援に加えて、相互の市民が直接触れ合う避難民の受け入れなども進んでいますが、ポーランド高官から「ならばポーランドは今後ウクライナに対する軍事支援は中止すべし」とか、ポーランド市民から「ポーランドはここまで財政支援や社会サービスで支えてやっているのに、ウクライナ側は感謝の心が足らない!」、という言葉まで出ています。こういう国家間の言葉のボクシングが始まるとロクなことはなくて、ともすると、聞かずにいればいいものを聞いた以上は許せなくなってしまう感情の迷宮に入ってしまいます。

 こうした「ウクライナ疲れ」の症状が見られるのはポーランドのみではありません。各国の自国国家財政から相当な対ウクライナ支援を提供して足掛け2年となると、野党は選挙を見越して現政権への攻撃材料にウクライナ支援の問題を提起してきます。具体的には、近々で選挙を控えるポーランド(10月に総選挙)、米国、スロヴァキアなどで顕著に見られます。特に、最大の支援国であり来年大統領選挙を控える米国では、野党共和党が国民の支持獲得のため、現民主党バイデン政権の対ウクライナ支援を攻撃目標にしています。今回のゼレンスキー大統領の訪米に際し、ゼレンスキー大統領は米国から240億ドルもの支援を得ようと目論んでいましたが、バイデン米大統領から得られたのは3億2500万ドルでした。これは共和党がこれを許さず、予算をむぐって議会が紛糾しているからです。共和党議員は口々に「これは米国市民の血税だ!米国民のために使われるべきだ!」と。

戦うゼレンスキー大統領
 ゼレンスキー大統領も人の子なので、ポーランドとの一件のように一部感情的に「ロシアを助けているだけだ」というような言葉を発してしまったりしますが、元コメディアンなだけに基本的に「人たらし」がうまく、今回の「ウクライナ疲れ」への対応も、何とかソフトランディングするよう精力的に戦っています。

 一番行く末が懸念されたポーランドとの関係については、一時双方きつい言葉の応酬がありながらも、問題の渦中ですかさず訪米の帰途にポーランドに乗り込み、「これほど強い隣国があることを誇りに思う」と内外に良好な関係をPRしました。これに伴い、ポーランド側も既に発せられた厳しい言葉をわすれたかのように、ウクライナ支援に関する基本路線は変わらないことを明らかにし、矛先を収め始めています。しかし、元々ぎくしゃくした関係の発端となった穀物禁輸の件はそのままです。選挙戦の最中なので、またウクライナ支援が政争の攻撃目標とされることも十分あり得ます。

 他方、もう一つの「ウクライナ疲れ」の焦点である、最大支援国の米国ですが、ゼレンスキー大統領は、本訪米間に国連演説、バイデン大統領との会談に加え、米共和党のウクライナ支援の擁護派の有力者とも会談しており、何とか共感を得て共和党内のウクライナ支援懐疑派を懐柔してもらうよう要請しています。

 こうしたゼレンスキー大統領の大車輪的な外交活動をみると、先週の国連への出席・演説行の目的は、「国際社会へのロシアのウクライナ侵攻に対抗するウクライナへの理解・支援の獲得」、というよりも、「『ウクライナ疲れ』が見られる支援国に対する支援継続のお願い、或いはスキンシップによるフォロー」というものだったとも推察できます。まさに「戦うゼレンスキー大統領」でした。

展望: 「ウクライナ疲れ」の原因は?今後の行方は?支援を失ってロシアに敗れるのか?
 ウクライナの現在の対ロシア戦線での戦闘継続の源泉は間違いなく西側諸国からの軍事支援に全面的に負うています。西側諸国からの軍事支援なかりせば、継戦能力を失い、ジリ貧状態となってロシアに接触線を逐次に押されて、国土の大半をロシアに占領されてしまうでしょう。さて、このまま「ウクライナ疲れ」が西側諸国に蔓延して、ウクライナ支援から各国が歯が抜けるように脱落していくのでしょうか?

 私見ながら、そうはならない、と推察します。
 この「ウクライナ疲れ」は、本質的な各国の財政問題からの悲鳴ではなく、各国の「選挙」のシーズンにおけるっ区内政治的な政争の具とされている「ウクライナ疲れ」問題なのです。
 その典型的な例が先ほど触れたポーランドと米国です。
 ポーランドは10月に総選挙を控え、政権与党の「法と正義」党は支持基盤が弱く、10月の選挙前にウクライナからの安価な穀物が流入してくることに猛反対しているポーランドの農民の支持を得たいため、ウクライナ穀物の禁輸という措置を取らざるを得ませんでした。ウクライナの穀物は、本来なら黒海経由で中東やアフリカに出荷されるはずが、ロシアの黒海での海上封鎖及び出荷港湾へのドローン・ミサイル等による攻撃で行き場を失っています。その安価なウクライナ穀物がポーランドに輸入されると、競争力のないポーランド農家は大打撃を受ける状況です。野党もそこを突いてきています。選挙戦の一つの政争の焦点としてウクライナ支援問題を持ち出し、はや足掛け2年の支援をまだずっと続けるつもりか?多くの避難民もポーランド国内に受け入れて、これ以上更に支えるのか?と。政権与党も苦し紛れに禁輸措置をとったわけです。されど、多くのポーランド国民はウクライナが侵攻されている脅威を我が脅威(ロシアに対する)として肌で感じているため、基本路線はウクライナ支援は変わらないでしょう。事実、ベラルーシとポーランド国境近傍にワグネル部隊が集結したり、ポロポロと残党が国境越しに侵入してきている直接の脅威を受けています。従って、選挙の争点のネタとして「ウクライナ疲れ」問題が取りざたされ、支援の規模や供与の内容が見直されることはあっても、基本方針としてのウクライナへの手厚い支援という方向性は変わらない、と推察します。

 問題なのはポーランドより米国ですね。選挙の一争点のはずが、事実上の大転換になりかねません。
 米国の場合、現政権与党民主党から共和党に政権が変わった場合、というより、現バイデン政権から例えばトランプ前大統領が返り咲くようなことがあれば、世の中がひっくり返ります。米国の場合、大統領選挙で争点になった問題は、選挙公約の履行として圧し掛かるため、大統領の交代の機会に政策がガラッと一変します。日本がらみではTPPがそうだったですよね。ウクライナ支援に関しては、トランプ大統領になった場合、西側全体の支援の方向性が下方修正され、併せて、停戦の圧力をかけられ、むしろ停戦の手打ちを急ぐあまりロシアが納得するロシア寄りの解決に舵を切るでしょう。それはそれで、比較的短期に停戦となり、国際社会、特に国際経済の復興を早める効果はあるでしょう。しかし、そうした近視眼的な成果が出る反面、「力による国境のシフトは可能なのだ」、「国際社会は国際秩序・法の支配と協調よりも、力の支配や経済を回す方が優先されるのだ」という誤ったシグナルをロシアや中国・北朝鮮に発してしまいます。すいません、少し脱線しました。
 米国の大統領選の争点として、必ずやウクライナ支援の問題は出てくると思いますが、願わくば最大の争点とはならず、大統領候補が変な公約を掲げないように祈ります。

結局、「ウクライナ疲れ」の今後を占う最大の要因は前線における戦果です! 
 私見ながら、前述のような「ウクライナ疲れ」の問題が取り沙汰されることになるのは、ロシア対ウクライナの戦場における戦況がかんばしくないから、と言えましょう。例えば、今年の攻勢が昨年の反転攻勢のように、攻勢開始から戦況を覆して押せ押せで進んでいたら、「ウクライナ疲れ」という状況にはなっていないことでしょう。昨年の反転攻勢では、ロシアの突然の侵攻から1・2ケ月で、一時はウクライナの首都キーウにも北からあと数十キロまで迫り、北部戦線から東部戦線、南部戦線まで相当の地域をロシアに侵され占領されていたものを、ここから文字通り「反転」攻勢を開始し、形勢を巻き返してキーウ北方からは北部戦線まで一掃し、東部戦線もほぼ現在の接触線まで押しまくり、南部戦線も一度盗られたへルソン市を奪還しドネツ川の線まで押し戻しました。ウクライナ支援を開始してから1年近くにもなろうという頃、いわゆる「支援疲れ」的な議論は、昨年も米国はじめ各国でチラホラとは出ていました。しかし、ウクライナの善戦と思いのほかロシアが劣勢を挽回できないことで、西側諸国は越冬後の更なる反転攻勢作戦への全面的供与へと足並みを揃えました。ところが、今年の攻勢は今か今かと待たれる中、攻勢開始が6月下旬までずれ込み、加えて、開始したもののロシアの地雷原などの対戦車障害と要塞陣地に身動きが取れず、2ケ月かかってやっと8月下旬から、ロシアの何枚もある殻のうちの1枚目の殻である第一線陣地を突破口が開けられました。そして9月下旬までのひと月、じわじわと突破口形成からその突破口を拡大し、後続部隊を投入して、更にじわじわと奪還地域を増やしつつある状況です。しかし、とにかくスピードが遅くて成果が地味。戦況図的には一見4月・5月の頃の接触線とあまり変わらないように見えてしまう程じわじわとしか進まない戦況です。戦地からは遠く、脅威は薄く、いつもと変わらぬ安全な日々を送っている西側諸国からすれば、焦燥感にかられますよね。

 要するに、戦場における結果を出さなければ、換言すれば、ウクライナに有利な戦況進展がビジュアルに見えないことには、この「ウクライナ疲れ」は流行る一方でしょう。口で言うのは簡単ですが、ロシアの地雷原と要塞陣地を突破するのは容易なことではありません。この戦況を打開するには、…「卵と鶏ではどっちが先か?」というの話になりますが・・・、西側諸国からの更なる軍事援助を、戦場を打開する長射程砲、主力戦車、ATACMS(敵戦車を砲弾自らが捜索して発見・識別したら天井に命中して装甲を貫徹して撃破する無敵の対戦車するミサイル)、F-16等の主力戦闘機、等々の供与を、という話になります。西側諸国からの更なる軍事支援が先か戦況進展が先か?・・・。ここは、議論ではなく、支援をしてもらっているウクライナ軍が戦場で結果を出すことでしょうね。

 では、戦況進展が進まないのは、ウクライナの戦争指導がうまく行っていないのでしょうか?
 いえいえ、決してそんなことはありません。
 ロシアのウクライナ侵攻の日々の戦況分析を客観的かつ緻密に提供している米国のシンクタンク「戦争研究所」(ISW)の最近の総括レポートでは、「It’s Time for the West to Embrace Ukraine’s Way of War, Not Doubt It(西側がウクライナの戦闘要領について(疑わずに)受け入れるべき時である」と題して、ウクライナの戦闘の仕方は確かに遅いが着実に戦果を上げ適切である、と西側諸国も認めるべきだと主張しています。(2023年9月25日付ISW記事)
 例えば、米軍はウクライナの主攻撃であるザポリージャ州西部ロボタイン正面について、米国からは他の正面はさておき、主攻撃に全戦力を集中しての1点突破をすべし、との横槍がよく入るそうです。しかし、ウクライナは主攻撃進展のためにも、東部戦線バハムートをはじめ他の接触線の全正面での配備を怠らず、バハムート正面やドネツク州・ザポリージャ州の境界正面でも攻撃を仕掛けています。これにより、全正面でロシア軍を緊張させ、ウクライナの主攻撃ロボタイン正面へのロシア軍の増援・転用を許さない作戦です。

 ウクライナ軍にしてみれば、まだ泥濘化していなこの数週間が正念場です。ぬかるまないうちに、今回の攻勢の主攻撃目標であるトクマクまで近迫してもらいたいところです。

 頑張れ!ウクライナ!
 西側諸国の「ウクライナ疲れ」を戦場で結果を出して払しょくしろ!
 夜明けはもうそこまで来ている!

(了)

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2023/09/23

激戦ウクライナ: 地雷処理の痕跡に見るウクライナの国土回復の執念

craters.jpg
(画像: 2023年9月18日付BBC記事「War in Ukraine: Is the counter-offensive making progress?」より)

まずは、上の左右の画像をとくとご覧ください。
 左画像が8月21日の状況、右画像がほぼ同じ場所を地雷原の処理を終えた景況となっています。
 右画像の草原上のプツプツは地雷は発見した地雷を爆破処理し、クレーター状になった爆破処理の痕跡です。
 この画像は、2023年9月18日付BBC記事「War in Ukraine: Is the counter-offensive making progress?」に掲載されていたものです。全般状況の解説記事でしたが、私はこの画像に釘付けになりました。
 今回は、この1枚の画像から透かして見える激戦の状況、特にウクライナ軍の国土回復への執念について私見を述べたいと存じます。

地雷処理の痕跡から言えること
 重複を厭わず、前掲の画像について所見を述べます。
 左図と右図は時期が違えど、ほぼ同じ場所の地面の衛星画像です。場所は、現在ウクライナ軍が主攻撃方向として全力を挙げて攻撃をしている、南部戦線ザポリージャ州ロボタイン正面のヴェルボーブ付近の草原です。左図と比して右図の画像の景況の違いは、地面に開いたクレーターです。要するに、左図も右図も、この地域一帯にはロシア軍が敷設(地雷を仕掛けて埋設することを軍事用語で「敷設(ふせつ)」といいます)した縦深数百メートルx幅数キロに及ぶ広大な地雷原が広がっています。左右の画像の違いは、地雷処理の前後です。すなわち、左図は敷設した地雷が埋まっているが表面上は分からないただの草原に見える状態、右図はウクライナ軍が一つ一つの地雷を見つけ、一つ一つ爆破処理した痕跡がクレーター状になっていて、それが一面に無数に広がる黒い点に見える、というわけです。

 この画像を見て、曲がりなりにも陸上自衛隊の幹部として教育・訓練を受けた知見と、PKO等の海外勤務で他国軍と起居を共にした経験等からの所見として、2点ほど強く感じました。①この地雷原を処理したウクライナ軍の国土回復への執念、及び②ロシア軍の無責任な地雷敷設への反感、です。
 
①この地雷原を処理したウクライナ軍の国土回復への執念
 ロシアの防御陣地の構成は下の図のようになっています。
ロシアの防御陣地
(前掲BBC記事の画像に筆者が加工)

 「ウクライナの攻勢の攻撃進展が遅い」とよく指摘されています。この遅れの原因は、上の図のようなロシア軍の堅固な防御陣地に対する攻撃が難航しているためです。ロシア軍は防御陣地の陣前に、数百メートルに及ぶ地雷原、対戦車壕、対戦車障害物を多重に構成しており、ウクライナ軍がその対戦車障害帯を破る処理作業をするのを、ロシア軍は防御陣地から狙い撃ちで強靭な防御戦闘を展開しています。特に厄介なのが、正面幅数キロx縦深数百メートルに及ぶ広大な地雷原への対応です。ロシア軍は1平米当たり2~5個とも言われる密度でヤケクソのように不規則に地雷を埋めているため、この地雷原を克服するため、ウクライナ軍は少しでもロシア兵の目が届かなくなる夜間に、歩兵が暗闇の中を地面を這って地雷を捜索しながら前進し、見つけると1個1個、丁寧に爆破処理している、とBBC記事にありました。
 (ちなみに、私の6月3日付ブログにロシア軍の防御陣地について、当時の認識で書いていますので、細部はそちらをご確認ください。(2023/06/03付 「ウクライナ攻勢に備えたロシアの周到な防御陣地、恐るべし!」 http://fogofwar.blog.fc2.com/blog-entry-285.html ))

 地雷原の処理は、一般先進諸国軍の場合は、戦車に地雷処理用のローラーや処理鋤(潮干狩りの引っ掻き棒の大きい奴)を付けて、押し出していきながら触雷させ爆発させて処理します。しかし、地雷処理をしている戦車をロシア軍に狙い撃ちされて大破して戦車がそこに止まってしまうと、それ自体が攻撃側にとっては大きな障害物になり、負傷した兵士を後送するにも一苦労です。ウクライナ軍は、その処理法として、いろいろ試した揚げ句に前述のような歩兵による人力で地雷捜索・爆破処理をしている模様です。地雷の処理とは、地雷に手榴弾等の爆発物を添い寝させて、その爆発物を電気式の導火線で爆破させ、地雷を誘爆させるやり方と、射撃によって誘爆させるやり方があります。それを兵士が這って行ってやっているのですから、驚きと尊敬の念を禁じ得ません。這って行く兵士の身になっても見てください。そもそも敵陣地前で狙い撃ちされる場所ですよ。どこに地雷があるか分からない草むらに這って行って、捜索用の棒で地面を斜め前を刺しながら捜索するのです。対戦車地雷は一応100kgくらいの荷重がかからないと触雷・爆発しませんが、ロシアのことですから、禁止されている対人用地雷も混用しているでしょう。これまで何名の歩兵が狙い撃ちや地雷触雷で死傷したことでしょうか。その倒れた兵士を引きずって後方に下げて救護処置をしながら、次なる歩兵が撃たれた兵士を乗り越えて更に地雷の処理を続行しているわけです。こんな危険が待っている草むらへ這って行くのですから、ウクライナ兵士達は見上げたド根性です。この努力の積み重ねで、冒頭の画像のようにあそこまで処理したのですから、全く脱帽です。

 これは、我が国土、自分の家族の住む町や村の土地の回復のためだから、かくも危険な作業を丁寧にやっているのでしょうね。同じような作業を訓練で実施したことがあり、PKO等の現場で本物の地雷原で現地住民が触雷して足を飛ばされたりしたのを見ましたから、この地雷処理作業して自分の部隊の攻撃の礎にしているウクライナ兵士の心情は痛いほど身に沁みます。全く、見上げたものです。

②ロシア軍の無責任な地雷敷設への反感
 もう一つの所見として、ロシア軍の地雷原敷設に対して、そのあまりの無責任ぶりに強い反感を抱きました。
 世界の軍隊の常識として、地雷を敷設する際には、後にその地雷の位置を確認でき、安全に処理できるように、しっかり測量し地雷の位置一つ一つを図上にプロットする記録を残します。日本の自衛隊のように我が国土で戦う前提の軍隊は勿論のこと、米軍のように外地で戦う外征軍であれ、キチンとした軍隊はそうするのが暗黙の紳士協定です。地雷は表面上はどこに埋めたか分からないように敷設するため、戦後の国土の再生、地域住民の安全確保のため、地雷を敷設した軍隊が責任を持って地雷の敷設位置について申し送ることになっています。戦後、その土地が自国の領土になれば敷設した軍隊が自ら地雷を処理しますし、敵国が敷設した地雷であっても、敷設した敵国軍から地雷の位置をプロットした測量データをもらって国軍が地雷を処理します。もし、地雷を敷設した土地が停戦協定にて紛争国間の緩衝地帯とされたら、その地雷原はそのまま残されることになるでしょう。まぁ、今はまだ戦闘の最中ですから、敵に地雷の位置を教えるわけがありませんが、ロシア軍は伝統的に地雷の記録データをとらない模様です。

 その観点で言うと、ロシアの地雷の敷設の仕方は一級国の軍が敷設した地雷とは思えないほど雑然とし、地雷密度が濃かったり薄かったり、およそ無手勝流であり、地雷敷設が計画に基づき測量データに記録しているものとは思えません。恐らく、手あたり次第に適当に急場しのぎで埋設したもののようです。要するに無責任な地雷の敷設をし、埋めっぱなし。後でフォローするつもりなんか初めからなし。ロシアは(当時はソ連)、古くはベトナム戦争時の北ベトナムへの地雷敷設の教育訓練にて、後で処理が極めて難しい汚い地雷の敷設の仕方を編み出し、北ベトナム軍に伝授しています。対戦車地雷と対人地雷の混用に、更に汚い工夫を加えて、ワナ線等を用いたり、地図や無線器材など、思わず敵兵が持ち上げてしまう物をトリガーとして誘爆させるものなど、ありとあらゆる汚い手を使う地雷原の構成の仕方を北ベトナムは発展させました。それがベトナム戦争で米軍を泥沼に引きずり込みました。アフガニスタンへの軍事介入時でも同様でしたが、やがてアフガニスタン側がロシア(当時のソ連)に対して反抗し、紛争となり、アフガニスタンから最終的に手を引きますが、紛争間に敷設した地雷はやりっ放しで、前述のような責任を持った対応はしませんでした。全く同様なことが近年介入したシリアなどでも起きています。要するに、ロシアには地雷敷設に当たっての、主権国家として本来果たすべき責任に一切関知しない、自分の土地ではないので極めて無責任な「やりっぱなし」の状態です。
 であるがゆえに、ウクライナ軍は地雷処理に苦労しているわけです。

陸上自衛隊の地雷原爆破装置という手が使えれば
 ウクライナ軍が歩兵に夜間に地面を這わせて実施している地雷の捜索・処理を、敵の目の前であっても線的に地雷を爆破処理できる装備が自衛隊にあります。これなんか実際の戦場で非常に有効に使えると思うんですけどね。攻撃兵器ではないし殺傷兵器ではないの規則に抵触しなのではないかと思いますが、どうなんでしょう。今、ウクライナ軍が喉から手が出るほど欲しい装備だと思うんですけどね。
 陸自の地雷原爆破装置は、欧米の地雷処理と一線を画す方式です。地上発射のロケットに数百メートルもの長いロープがついていて、ロケットの弾道の方向にロープが引っ張られ、ロケットが地面に落ちる寸前に、ビヨヨーンと蛇行しているロープを発射機に括り付けたゴムが引っ張ると、蛇行していたロープがロケットの弾道方向にまっすぐに引っ張られて緊張します。このまま一直線にロープが地面に落ちます。この落ちた瞬間にロープは「爆索(ばくさく)」と言って、ロープ自体が爆破薬になっていてこのロープごと爆発します。このロープの爆破でロープの左右数十センチの幅でもし地雷があったなら、一緒に誘爆します。よって、数十センチの幅の数百メートルに及ぶ一直線の道ができるわけです。70式地雷原爆破装置という歩兵が手搬送できる軽易なものから、92式地雷原処理車という装甲車タイプのものもあり、前者は人員用の数十センチ幅の道ができ、後者はさらに強力なロケットで爆策に加えて26個の爆薬が数珠つなぎでついていて、この爆薬の爆発に伴って戦車が通れる幅の道が一挙にできます。

 こういう日本の装備がウクライナの戦場で貢献できるといいのですが、今のところ供与していません。攻撃装備に位置付けられているんでしょうか?こういうところは日本の防衛行政は固いんですよね。

頑張れウクライナ!
ウクライナの国土回復への執念を見させてもらった!
攻勢作戦の進展を心より祈る!

(了)

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