イスラエル・ガザ紛争にロシアの陰: 新たな要支援ネタと複雑化で西側のウクライナ支援を脅かす

イスラエルのネタ二エフ首相に電話を掛けた件を国民に説明するゼレンスキー大統領 (画像:2023年10月12日付Newsweek記事「Israel War Could Hinder Kyiv Aid in One Scenario: Ukraine's Intel Chief」より)
降って湧いたようなパレスチナのハマスによるイスラエルへの攻撃でイスラエルはガザ侵攻寸前に
2023年10月8日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム過激派ハマスの戦闘員がイスラエルの街を急襲し、イスラエル住民に銃撃して死傷者を出すとともに、外国人を含む住民を拉致しガザ地区へ連れ去り、人質にしています。イスラエルは同日、すぐさま空爆により報復し、ガザ地区のパレスチナ住民に多くの死傷者が出ています。これに対しハマスは、9日再びイスラエルのあちらこちらの街に対し同様の攻撃で報復、これに対し再びイスラエル側が空爆で報復し、双方に数千名を超える死傷者が出ています。ハマスは、イスラエルの更なる攻撃や地上侵攻があれば、人質を殺すと宣言。イスラエル側は、「ハマスを全滅させる」と表明し、ガザの北側からの市民の避難を要求するとともに、ガザ周辺に地上侵攻準備のため部隊を集結させています。(参照: 2023年10月14日付BBC記事「Could an Israeli ground invasion of Gaza meet its aims?」ほか)
私見ながら、イスラエルは必ず地上侵攻をし、ガザ地区のハマスの現指導者ヤヒヤ・シンワル氏をはじめハマスを根絶やしにするため、ガザの市街地で掃討作戦を展開するでしょう。
このハマスのイスラエル攻撃の陰にイラン、更にバックにロシアあり
今回のハマスの対イスラエル攻撃について、米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙は8日付の紙面にて、イスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部の話として、イランの革命防衛隊が計画の立案及び実行に深く関与している旨の報道をしています。イラン政府は当然のようにハマスのイスラエル攻撃作戦への関与は全面否定していますが、他方でハマスの攻撃に対してはハマスの自衛手段として支持を表明しています。ハマスの後ろ盾にイランが関与していることは周知の事実ですけどね。
他方、ロシアのウクライナ侵攻の戦況分析で定評のある米国の研究機関「戦争研究所(ISW)」の7日付の分析では、「ロシアは、米国をはじめとする西側諸国のウクライナ支援を弱体化させるため、今回のイスラエル・ハマスの紛争について我田引水の情報作戦を展開している」と評しています。実際、ロシア外務省のザハロワ報道官は「今回の紛争は、国連や安保理決議が無視されてきた結果である」と国連や西側を批判、更に、ロシア前大統領で安全保障会議副議長のメドベージェフ氏は米国はじめ西側諸国がウクライナに手厚く軍事支援をしてロシアを脅かし、その一方でパレスチナ問題など中東を軽視してきた結果である、と主張し、今回のハマスのイスラエル攻撃に端を発した紛争の激化を、米国をはじめとした西側諸国の責任と批判しています。要するに。情報作戦で揺さぶってきているわけです。
では、情報作戦はともかくとして、ロシアは今回のハマスのイスラエル攻撃に関与しているのでしょうか?
ウクライナのゼレンスキー大統領は、今回のハマスのイスラエル攻撃に起因する紛争激化に伴い、イスラエルのネタニヤフ首相に電話をし、「我々両国が直面している脅威は関連しているのです(the threats to us are related)」と背景にロシアがいることを訴えています。また、ウクライナ国防情報局長のブダノフ少将は、今回のイスラエルとハマスの間の紛争激化が長引く場合、米国をはじめとする西側諸国のウクライナへの軍事支援は足並みが乱れ、減少化する可能性がある、と懸念を表明しています。実際、米国では今回のイスラエル・ハマス間の紛争激化について、ほぼ足並み揃えて対イスラエル軍事支援についてはコンセンサスが得られるものの、その分だけ米国の財政に負担が増えるわけですから、対ウクライナ支援に対する賛否については更に分裂してしまう傾向にあります。(参照: 2023年10月12日付Newsweek記事「「Israel War Could Hinder Kyiv Aid in One Scenario: Ukraine's Intel Chief」、同日付Newsweek記事「With Democrats Divided on Israel and GOP on Ukraine, What's Next for US?」)
今回、ハマスに人質に取られている外国人には、フランスや英国などの西欧諸国の国民もいますので、対イスラエル支援ないし今回の紛争への関心は西側諸国にとって「我がこと」なのです。これに対して、まだまだ長引きそうなウクライナ戦争への軍事支援に関しては、ただでさえ西側諸国の「ウクライナ支援疲れ」が指摘されているわけですから、これは間違いなく各国の足並みが乱れます。
私見ながら、この足並みの乱れこそ、ロシアにとってはまたとない好機。これは棚から落ちてきたボタモチではなく、初めからロシアが仕組んだのだ、ロシアが背景にいてイランを動かしてハマスに攻撃をさせたのだ、というのがゼレンスキー大統領やブダノフ国防情報局長の読みというわけです。
イスラエルのガザ地区への地上侵攻の対ウクライナ戦争への影響の展望
現役自衛官時代、イスラエルを含む中東地域には少なからず縁がありました。その知見から推察して、イスラエルは間違いなくガザ地区に対する地上侵攻を開始します。勿論、国際社会が懸念するように、避難できなかったパレスチナ市民には少なからず犠牲が出ます。イスラエルはそうした犠牲には全く目もくれず、ひたすら人質解放とハマスの根絶のための掃討戦を繰り広げるでしょう。勿論のこと、ハマスは報復として人質を惨たらしく殺害し、その映像が世界に拡散されるでしょう。それでもイスラエルは国際社会の様々な制止を求める声なんかには耳を貸しません。米国が仲介に入っても、中途半端には終わらせないでしょう。一方のハマスは、軍事的には全く勝負にならない戦いですが、非対称戦のゲリラ戦術で、ガザ地区に張り巡らされたトンネル網を駆使して、神出鬼没の攻撃を繰り返し、ガザ市街地の中でイスラエル軍部隊を泥沼の戦闘に引きずり込むでしょう。イスラエル軍は短期決戦で、一挙に軍事的制圧はできるでしょうが、肝心の人質とハマスの戦闘員たちがガザの市街にまみれて判別つかず、捜索できず。要するに、これがハマスの、否イラン、ロシアの腹だったわけですが、泥沼の長期戦に持ち込むわけですよ。イスラエルは、間違いなく米国から、「やるんだったら短期で(数日程度)ケリをつけてくれよ。長引かせるんじゃないぞ」と釘を刺されていると思います。しかし、そうはさせじと、ハマスは初めから人質も取って、市街地の泥沼の掃討戦対ゲリラ戦で長期化させるつもりなんですから。このイスラエル・ハマス間の紛争の長期化こそ、ロシアの思うつぼです。西側諸国の対ウクライナ軍事支援は、まず米国が賛否両論で分裂し、西側各国もそれぞれの思惑が違い、かくして足並みは乱れ、ウクライナへの軍事支援は減少化してしまう可能性が高いと思います。
しかし、イスラエルっていう国は、こと対パレスチナ戦闘に関しては徹底して一切の妥協をしない周到さとしつこさと冷血さと鉄壁の情報戦能力がありますから、地上戦闘が電撃的に短期決戦で勝負がつく可能性もあります。ミュンヘンオリンピック時のパレスチナゲリラによるイスラエル選手団人質事件を想起してください。電撃解決、しかもかかわったパレスチナゲリラは、情報機関モサドが十数年かかって一人ひとり暗殺し、最終的には全員殺害した国なんですよ、イスラエルは。ますは、電撃的にガザ地区全土を制圧し、指導者の首を取り、人質を解放し、その上でガザ地区を数年かけて実効支配してハマスを根絶やしするかもしれません。いかに国際社会から苦言を呈されようとも、国連決議で早期のガザ地区占領解除を勧告されようが、一切耳を貸さずに。そんな国ですから。
ロシアも弱ってきている証拠だ!頑張れ!負けるなウクライナ!
イスラエル・ハマスの紛争には目もくれず、ひたすらトクマク奪取を目指せ!
(了)


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