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2023/04/26

スーダン邦人退避:まずは無事で何より、今後は柔軟対応すべく見直しを!

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(2023年4月25日 21時14分NHKニュースより)

スーダン邦人退避:まずは無事で何より、今後は柔軟対応すべく見直しを!
まずは無事で何より
 スーダンの政情悪化に伴う邦人退避が、昨日2023年4月25日までの間に国外退避を希望する在スーダン邦人全員の無事の退避ができました。現地にの緊迫した状況の中、無事に退避できましたことの幸運を喜びますとともに、国内外の関係者のご努力に心から感謝申し上げます。

 無事に退避できた認定NPOロシナンテス川原尚行さんの話によれば、退避の直接のキッカケは「国軍が来て、危険な情報を察知したからすぐここを立ち去るか、すぐ車に乗れって。それはもう緊張が走りました。」、というスーダン国軍の突然の来訪と通告だったようで、川原さん一行は仕方なくマイカーに乗り込んで、取るものもとりあえず国軍の誘導で退避を開始した模様です。国連の車列に加入する形で、首都ハルツームから遥か遠方のポートスーダンまでて、陸路800㎞以上のスーダンを横断を敢行して爆走したそうです。特に、国軍と敵対するRSFとの支配地域が交錯する長距離を、先導が国軍だったり、交渉ののちRSFに代わったりと、ところどころ停止させられながら、断続的に爆走したそうです。ポート・スーダンで自衛隊はじめ政府関係者の日の丸を見た時にはホッと胸を撫で下ろしたようです。(参照:2023年4月26日05:51テレ朝news「スーダン退避の日本人『夜通し800㎞を車で』」

今後は在外邦人等の退避については柔軟対応できるよう見直すべし!
 本当に無事で何よりでした。無事ですまないことの可能性の方が高かったわけですから、これが当たり前と認識してはいけません。
〇「在外邦人等の輸送(TJNO:Transportation of Japanese Nationals Oversea)」の自縄自縛
 今回の在外邦人等の退避も、前回の一昨年8月のアフガニスタンでもそうでしたが、自衛隊派遣は「在外邦人等輸送」という自衛隊法84条の4に基づく「輸送」に限定された任務でした。海外の国々はいわゆる「NEO(非戦闘員退避作戦)」という自国軍を当該国で柔軟に運用して在外自国民等の退避を安全確保しつつ実施する枠組みがあって自軍を「迅速に」かつ「効果的に」かつ「非交戦で」遂行していますが、我が国はとどのつまり「在外邦人等の輸送」というガンジガラメの自縄自縛の規定により非常に融通性のない退避活動しかできません。生命又は身体の保護を要する在外邦人等を安全な地域に「輸送」する、というものです。端的に言えば、自衛隊員は「輸送」活動しか認められておらず、この作戦での武器使用は隊員及び隊員の管理下で行動を共にする避難者らの防護に限られ、自己保存 のための必要最小限の武器使用(「自己保存型」)、すなわち正当防衛の範囲でしか敵対者への危害射撃は認められていません。

〇枠組みができたのに適用できない「在外邦人等の保護措置(RJNO:Rescue of Japanese Nationals Oversea)」
 一応、2016 年3月の安保関連法の施行に伴い、この「在外邦人等の輸送」に加えて、「在外邦人等の保護措置」という邦人の 警護、救出、保護、等の活動ができ、武器使用についても、例えば陸 上輸送に伴う隊員及び隊員の管理下で行動を共にする避難者らの保護措置のために、「任務の遂行のため実力をもって妨げる企てに対抗するための 武器使用(任務遂行型」)ができる法的枠組みがあります。ところが、防衛ネタによくあるあることですが、越えるべき「高い国内制約のハードル」があって、逆説的にこの「在外邦人等の保護措置」が実施できるための条件が非常にクリア困難になっています。

・ 手続: 外務大臣からの依頼を受け、外務大臣と協議し、内閣総理大臣の承認を得て、防衛大臣の命令により実施
・ 実施要件:次の全てを満たす場合に保護措置を行うことが可能
 ① 保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること
 ② 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国など10の同意があること
 ③ 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること
 (参照:「令和2年版防衛白書」)

 非常に矛盾している話ですが、当該国は政情不安で在外邦人を退避させようとしているはずなのに、その国が①「当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがない」、②「自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国などの同意がある」、③「(当該保護措置を)当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保」、等の条件を満たさねばなりません。これは論理的に矛盾していて現実的にあり得ませんよね。
 もって、今回の在外邦人の退避に当たっても、結果的に「在外邦人等の保護措置:RJNO」は条件を満たさず、「在外邦人等の輸送:TJNO」しかGoをかけられなかったわけです。かくして、一昨年8月のアフガン退避と同様に、自衛隊員は輸送限定の活動しかできなかったわけです。

 これを自縄自縛と言わずして何でしょうか?
 別に武器使用をさせたいわけではないのです。他国と同様のNEOができるよう、柔軟な運用が必要だ、というのが趣旨です。要するに、実施要件を「輸送」並みに緩和し、必要であれば避難者の保護のため必要な行動ができる担保を与えるべきだと思います。
 さもなくば、いつまで経っても米欧等の諸外国に依存したままの在外邦人の退避しかできないまま、世界の笑いもののままでしょう。実際、現役自衛官時代、何度かこの作戦の矢面に立ちましたが、現行法制上の国内的制約の中でしか活動はできませんので、諸外国軍との調整では失笑を買っていました。別に自衛隊が笑い物になるのは構いませんが、現場の避難者(在外邦人のみならず他の避難者も)に申し訳が立ちません。

 政治家の皆さんは、現場の在外邦人をはじめ避難者の保護について、国家として為すべき活動を真剣に考えていただきたいものです。前時代のような帝国主義的な軍の暴走?なんて、現代の自衛隊の在外邦人等保護措置の現場ではありえません。他国の地で武力をもってやりたい放題なんて、ありえませんから。極めて正当防衛的にしか武器使用しないように徹底的にしつけられていますので。国民の皆様のご理解を得て、柔軟な運用に変えていただきたいものです。

(了)

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