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2020/02/15

北朝鮮:新型コロナ拡大の危険性

<北朝鮮は新型コロナを水際阻止に自信?>
猛威を振るう新型コロナに対し、目下鎖国中の北朝鮮は、自信を持ってシャットアウトしていると豪語しています。発症例はゼロであり、空路も陸路も国外からの旅客を拒否し、既に北朝鮮に入国した人員に対しても30日間の缶詰め期間を実施。確かに、表面上水際で阻止しているように見えます。

<既に感染拡大かも>
しかし、韓国メディアは、北朝鮮では実際には新型コロナウイルスの感染例が出ていると報じています。医療技術レベルや感染症対策が不十分であるにも関わらず、「自己完結で防護できる」として外部の援助を拒否する北朝鮮。実際に既に新型コロナの感染患者が出ているとすれば、満足な医療は平壌のみ、感染の検査キットもないため、感染の拡大が懸念されています。
WHOや米国も、北朝鮮でのパンデミックの危険性を懸念して、感染症対策の技術的援助の受け入れを呼びかけています。(VOA2020年2月14日付記事「US ‘Deeply Concerned’ North Koreans Vulnerable to Coronavirus」及び「WHO: North Korea Able to Test for Coronavirus, But No Cases Reported」参照。下の写真も同記事より。)
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労働に勤しむ北朝鮮労働者はマスク生産中
FILE - Workers produce masks for protection against the new coronavirus, at the Songyo Knitwear Factory in Pyongyang, Feb. 6, 2020.

<私見ながら>
◯ 私見ながら、北朝鮮は感染症対策の技術援助は受け入れないでしょう。自国の表面上の自己完結性を誇示し、余計なことはするなと拒否するでしょう。特に、米国からの支援では尚更拒否(非核化をめぐる米朝交渉の行き詰まりから)するでしょう。もし、実は感染患者が既にいたとしても、感染検査ができないので、怪しき者は秘密裡に隔離し、死亡例があっても闇に葬り、公表はしないでしょう。1918年1月頃の平昌五輪の際の新型インフルエンザの流行の際も、北朝鮮の医療体制の未整備、ワクチンや医薬品・器材の貧弱さから何十万名もの罹患者を出しながらも公表はしていない実例があります。

◯ パンデミックが起きると、ウイルスは生き延びるために進化し、更に感染力を増し感染源を多様化したり、薬やワクチンへの耐性を上げたり、更に手強い未知の新型ウイルス化するので、早期に抑え込んで撲滅するに越したことはありません。抑え込んでおいてそのウイルスを調査研究して「予防ができ治せる既知のウイルス」にしていくことが何より。北朝鮮が温床にならないように、少なくともWHOとの連携・協力は進めてもらいたいですね。

(了)

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2020/02/13

フィリピンが米軍駐留拒否を発表

フィリピンが米軍駐留拒否を発表

フィリピンのドゥテルテ大統領が、2月10日(月)に在比米軍基地協定の撤回を公式に発表、米国にも伝達しました。同大統領が政権についてから何回もこうした動きはあったため、またかよという感はありますが今回は「公式」であり「米国より中国やロシアとの連携を望む」と同大統領の発言があり、エスパー米国防長官が批判的なコメントをするなど内外に波紋を呼んでいます。よく指摘されることですが、フィリピンという太平洋及び南シナ海上の戦略的重要性のある位置に在比米軍が撤退すると、必ずや中国の進出が不可避になります。ドゥテルテ大統領ことですから、カマをかけているのかも知れませんが、アジア太平洋地域の戦略環境が変わってしまうかもしれない大問題です。
(VOA2020年2月11日付記事「Philippines Breaks Major Security Agreement with US」及び「US Defense Secretary: Dissolving Philippines Military Pact a Move in 'Wrong Direction'」参照。下の写真も同記事から)
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Philippine President Rodrigo Duterte delivers a speech during the 11th Biennial National Convention and 22nd founding anniversary of the Chinese Filipino Business Club, Inc. in Manila, Philippines, Feb. 10, 2020.


<状況>
①2020年2月10日(月)、ドゥテルテ比大統領は在比華僑ビジネスクラブでのスピーチにて、在比米軍の地位協定である在比米軍駐留協定を撤回すると発言。これを裏付けるようにフィリピンの外相がツイッターにて正式に在比米国大使館に同趣旨の書簡を送付したことを明らかにした。

②同日、ブリュッセルにてNATOの会議にだ参加中のエスパー米国防長官は、「書簡が来たばかりなのでよく消化しないといけない。」と前置きしつつ、「間違った方向へ進んでいる」と不満を明らかにした。

<私見ながら>
◯ ドゥテルテとトランプは似ている
思うに、この二人は思考・行動パターンが似ていると思います。自国ファーストの考え方、過去の外交実績や経緯や外交習慣には捉われない非常識にも見える外交姿勢、時にブラフを使って大風呂敷を広げ高くふっかけ、時に相手国をボロカスに酷評し、舌の根も乾かないうちに賞賛したり、…。
今回の協定撤回も、国際情勢・戦略論的にはあり得ない非常識な話です。まだ発効中の協定を破棄するわけですから。またブラフか?とも思いますが、腹が読めないですね。

◯ 他方、今回の協定撤回発言の前に、トランプ米大統領と本件について内々で交渉が持たれたものの、結局折り合いつかず。ドゥテルテ大統領はそれについてトランプは信用ならないという発言をしています。しかし、米朝交渉よりは複雑ではないので、フィリピンを失うことの意義をトランプ大統領が理解していれば、交渉再開〜一転継続へ、ということも考えられます。

◯米軍がフィリピンから撤退すると中国を利するだけ
ドゥテルテ大統領の先のスピーチが為された場所が在比華僑の経済界の集いです。ドゥテルテ大統領は華僑を通じて中国に色目を使い、中国からも利を得ようという深謀遠慮でしょうね。しかし、それは危険。中国はウェルカムでしょうけど、米軍に代わって中国が南シナ海を挟んでフィリピンに軍港を貸与されたりしたら、戦略地図がガラッと変わります。南シナ海は中国の内海になってしまい、東沙・西沙・南沙各諸島は中国の事実上の軍事基地に変わっていくでしょう。フィリピンは短期的に中国から色々と支援を得れるでしょうが、中長期的には必ず後悔することになります。日本にとっても、多くのエネルギー含む戦略的重要性を持つ物資の海上輸送は中国に握られることを意味します。
何とか避けたいものです。
(了)


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2019/04/27

初の金−プーチン会談 プーチン技あり!

初の金−プーチン会談が2019年4月25日(木)につつがなく終了しました。 2019年4月26日付VOA記事「Kim Jong Un leaves Russia after summit with Putin」がその概要を伝えていますので、ポイントを整理しました。やはりプーチンは、一応のリップサービスはするものの、本件で北朝鮮問題で大きく勝負に出るようなことはなかったですね。
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Russian President Vladimir Putin, right, toasts with North Korea's leader Kim Jong Un after their talks in Vladivostok, Russia, April 25, 2019. (VOA, April 26, 2019, "Kim Jong Un Leaves Russia After Summit with Putin" より)

<ポイント>
① 2019年4月25日(木)、北朝鮮の金委員長-ロシアのプーチン大統領間の首脳会談がウラジオストクで持たれ、短時間ながら概ね成功裡に無事終了し
た。

② 会談後、プーチン大統領は、北朝鮮の非核化をめぐって手詰まり状態の米朝交渉の打開と北朝鮮が望む経済制裁の解除の問題について、じ後は大きな役割を果たす所存、とコメント。また、金委員長との会談について米国とも情報共有したいと語り、金委員長は核開発を断念することについて前向きであるが、それは多国間の合意の下で北朝鮮の安全保障の明確な保証が得られることが前提条件である、と金委員長の考えを代弁した。

③ 金委員長は会談の中で、米朝会談で米側が示した一方的な交渉態度が交渉を閉塞状態にし、朝鮮半島を切迫した状況に追い込んでおり、今後の米国の交渉態度に全てがかかっている、と米側を批判した。

④ 今回のロ鮮首脳会談の結果として具体的な措置などはない。プーチン大統領は金委員長の立場に理解と支持を示し、都合のいい時期に今度はプーチン大統領が北朝鮮を訪問することを快諾した。

<寸評>
− 4月19日にアップした「金−プーチン会談の動きと両者の思惑」でそれぞれの思惑についての分析記事の要約を書きましたが、記事の読み通りでしたね。
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金委員長はプーチン大統領を米朝交渉の行き詰り及び経済制裁による経済の逼迫の打開の糸口をロシアに求め、対米交渉の自由度を確保を期待。
他方、プーチン大統領は、北朝鮮に対する影響力の増大及び核開発問題の重要なステークホルダーとしてのロシアの地位の強調に期待
周辺関係国にとり、会談によりロシアが北朝鮮問題の掻き回し役になるのことは懸念材料
しかし、プーチン大統領は金委員長の思惑に反し、「朝鮮半島の現状維持と非核化」がロシアの国益であり、米国の立場と認識を共有。その理由としては、北朝鮮は引き続きロシアにとって在韓米軍、在日米軍のバッファゾーンとして現状維持が望ましいこと、また、韓国はロシアの重要な貿易相手であり、今や北朝鮮に肩入れしつつある韓国を動揺させることは国益に反すること、などが挙げられる。
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− 会談の成果について、金委員長は自らの思惑を概ね達成できたという印象を持ったことでしょう。しかし、プーチン大統領は何ら具体的な成果物を与えていません。金委員長を満足せしむる理解や支持を表明したものの、他方でプーチン大統領は米側と情報共有すると言っているので、トランプ米大統領にとっても「掻き回し役」とは映らず、むしろ北朝鮮の危うい核開発への懸念を共有する有志国という見え方ではないでしょうか。むしろ、今後はロシアの意見も一応聞いてやる必要が出てくるかも。

やはりプーチンは抜かりのない奴、只者ではないですね。技あり!と言えましょう。
(了)


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2019/03/17

米軍事予算の目玉マルチドメインオペレーションとは

米軍事予算の目玉マルチドメインオペレーションとは

 2019年3月11日に米国の2020年度の予算教書が発表され、翌12日に国防省がブリーフィングを開き国防予算案が明らかにされました。この予算教書にはそこかしこに米国の財政問題が滲み出ており、今後米議会内で喧々諤々の議論を呼ぶ波乱含みのもののようです。しかしながら、ここでは国防予算案の重視ポイントにのみ注目し、その中でも目玉となったMulti-Domain Operationsに焦点を当てたいと思います。(予算教書の細部の分析は、ウォールストリートジャーナル紙2019年3月14日付に詳しい記述があります。 参照:Diamond onlineから https://diamond.jp/articles/-/196866 )

<ポイント>
① 2020年度の米国防予算案が明らかに
  今回の国防予算は、トランプ大統領の大盤振る舞いで国防予算は7500億ドル。これは、前年度7160億ドルの5%増。破格の優遇予算編成となった。まぁ、民主党が強い米議会では大もめすること間違いなし。ひょっとしたら、トランプお得意のハッタリかまして議会でもめた時のキリシロにするつもりかも。
② 国防予算の重視ポイントは3つ
  今回の国防予算案の重視ポイントは3つ。軍事大国との競争、宇宙とサイバー、そしてマルチドメインオペレーション。目を引くのは宇宙とサイバーの重視だが、その何がしたいかと言うと「マルチドメインオペレーション」。これが中心課題となろう。
③ マルチドメインオペレーションとは
  陸海空のこれまでの戦いの領域(ドメイン)に加え、宇宙空間、サイバー空間も戦いの領域に想定し、全領域を通じて作戦を展開し勝利を獲得する、というもの。ポイントは、宇宙とサイバーをも戦闘の領域として考え、むしろ大気圏外や宇宙空間の活用や、サイバー攻撃とサイバー防護により、ロシアや中国の作戦を敵に先んじて潰し、陸海空の作戦環境を我が有利に展開するというもの。
④ 日本の新防衛計画の大綱の多次元統合防衛力との関係
  昨年末に日本の新防衛大綱が閣議決定されたが、ここで新たに打ち出した「多次元統合防衛力」とは米国のマルチドメインオペレーションの日本版。しかし、日本は国内法制・政治的制約から、宇宙とサイバーにおいては攻撃はせずに専ら防御能力の向上に努めるだろう。しかし、米国との相互運用性を確保して日米共同作戦で負けない戦いをするしかない。

1 2020年度の米国防予算案
  国防予算は、2期8年のオバマ政権下で長期にわたり縮減に耐えてきましたが、その反動とも言うべき大盤振る舞いをトランプ大統領から受けている。2020年度の国防予算は7500億ドル。これは、前年度7160億ドルの5%増。トランプ大統領は、国防予算以外はどの省庁も5%カットで予算編成させたというのだから、国防予算に対する優遇ぶりが伺い知れる。細部は、2項の重視ポイントの説明の中で国防予算案の内容を述べる。

2 2020年度の米国防予算案の重視ポイント
  今回の国防予算案の重視ポイントは3つ。 ①軍事大国との競争、②宇宙とサイバー、そして③マルチドメインオペレーション。
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US Army TRADOC "US Army Multi-Domain Battle" 

① 軍事大国との競争に勝つこと
  軍事大国(Great-Power)とは紛れもなくロシアと中国を指す。米国は、長期に及んだテロとの戦いの中、オバマ政権下で国防費を押さえ込まれたため、テロとの戦いで枯渇しつつある弾薬の在庫補充や部隊の即応性維持に対して軍事資源の多くを費やしてきた。この間、ロシアや中国は米国を凌駕する新装備システムを開発してきた。最新の精密誘導打撃ミサイル、統合防空システム、巡航及び弾道ミサイル、サイバー戦能力、対人工衛星能力、など米国の既存のウェポンシステムでは対抗しえないのではないか、との深刻な懸念を抱えている。これは2018年のNational Defense Strategyにも「米国は今や軍事大国化したロシアや中国に対抗する軍事的先端優位性を失いつつあるリスクに瀕している」と表現していることでも読み取れる。
  今回の国防予算案では、この軍事大国との競争に負ける訳には行かない、勝たねばならない、との意識を改めて強調していると言えよう。早い話が、軍事産業とタイアップして米国の軍事先端優位性を維持するぞ(もって純国内の需要拡大、雇用拡大、経済成長につながる)、というトランプ大統領の意志なのだろう。

② 宇宙とサイバーに焦点を当てる
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(Pars Today 2017年11月19日付 アメリカ前国防長官、「アメリカは、サイバー戦争に対処しきれない」 より ( http://parstoday.com/ja/news/world-i36823 ))

  上記とも関連して、具体的な重視事項として名指ししているのが「宇宙」と「サイバー」の領域であり、「宇宙」に141億ドル(昨年度比10%増)、「サイバー」に96億ドル(昨年度比15%増)を配分している。
  「宇宙」では、宇宙軍創設、宇宙での通信システム、宇宙ベースの警報システム、宇宙への打ち上げ能力、GPS、ナビ等の施策が盛り込まれている。「宇宙」の予算項目に入れていないが、前述のとおりロシアや中国が「最新の精密誘導打撃ミサイル、統合防空システム、巡航及び弾道ミサイル、サイバー戦能力、対人工衛星能力」等を開発しているため、これに対抗する米国の新装備等の開発にも資源配分される。ちなみに、トランプ大統領はマチス前国防長官の反対を押し切って「宇宙軍Space Force」という新たな軍種を作ると表明している。陸軍・海軍・空軍・海兵隊に加えて宇宙軍としたいらしい。(但し、海兵隊が海軍省の下にいるように、あくまで空軍省の下の組織という形)というのも、中国はいわゆる対人工衛星キラー衛星やキラー兵器を開発・実験してきており、いざと言う時に米軍のウェポンシステムの自己位置評定やナビ機能を麻痺させる準備を着々と実施。また、月の裏側に基地を作る準備をし、宇宙空間を作戦の一部にしつつある。これに後れを取ってはならない、との意志であろう。
  「サイバー」では、攻撃・防御両面のサイバースペース運用、サイバーセキュリティ機能の強化、国防省のネットワーク・システム・情報へのリスク軽減、国防省の汎用クラウド環境の近代化、などの施策が盛り込まれている。誤解のないように補足すると、これは一般企業の「情報セキュリティ」とは次元の違うものであり、米国や世界に展開している米軍に対するサイバー攻撃やサイバーテロに対する防御のみならず、米軍が作戦をする際には米軍の作戦の一翼にサイバー攻撃も実施する、というものである。明示的には記載されていないが、いわゆる電磁波Electro-magnetic攻撃・防御も含まれているものと思われる。「サイバー」を重視しているのは、これまたロシア・中国の軍事先端優位性が関連する。クリミヤ危機の際、ロシアはウクライナにサイバー攻撃をかけ、サイバー空間を通じたスパイ、偽情報、情報錯綜、システムの分断・破壊を作為してウクライナの軍事作戦を麻痺させ、ロシア軍が優勢に作戦を遂行した。中国は、正規軍内にサイバー部隊を擁するほか、愛国的ハッカーの組織的運用を行って、恒常的に米国、西欧諸国、日本などに対するサイバー攻撃やサイバー空間でのスパイ活動を仕掛けている。サイバー攻撃に関しては、物理的被害が目に見えづらいこと、犯人が特定しづらいことも手伝って、やったもん勝ちの攻め手市場になっている。もはや、サイバー領域は軍事作戦の一分野になっていると言っても過言ではない。米国はサイバー正面で元々底力のある国であり、市民ハッカーの層の厚さ、幅広さ、深さは他を圧倒しているが、ロシアや中国は国家が意図を持って主体的に攻撃防御両面で駆使してくる点で、米国は先端優位性を失いつつあると言える。従って、負けてはならないとの意志が表明されたもの。

③ マルチドメインオペレーション
  これまで陸、海、空それぞれの戦いから陸海空の統合へと作戦概念が進化発展してきた。この更なる発展形態として位置づけられたのが「マルチドメインオペレーション」である。これは、将来の戦いは陸上、海上、空中、宇宙そしてサイバー空間で戦われ、敵を倒すためこの5つの領域全てにわたって統合した作戦を展開して勝利する、というもの。前述の宇宙やサイバーを重視する項で述べたような「宇宙やサイバー」の作戦の重要性も、これまでの陸海空の統合作戦に加味した総合的な作戦概念である。これは、予算要求の個別的な項目を見ても理解できるものではなく、米軍4軍種の統一した作戦概念として合意された新たな考え方「マルチドメインオペレーション」の腹の部分を読み解かないと理解できないと思う。日本の昨年末(2018年12月)に閣議決定された「多次元統合防衛力」はマルチドメインオペレーションの日本バージョンであり、日米の相互運用性(interoperavility)の観点からも当然の流れといえる。作戦概念の細部、特にその「腹の部分」は後述する。

3 マルチドメインオペレーションとは
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薬師寺克行「今月の外交ニュースの読み方」2018.11.9 vol.32 「サイバー攻撃、ドローン…戦争が「目に見えない」時代に突入した」より ( https://courrier.jp/columns/141929/ )

 マルチドメインオペレーションとは、陸・海・空・宇宙・サイバーの全ての領域(domain)において、同時並行かつ一斉に作戦展開する概念であり、全ての領域で敵の先手を打って敵に対応の暇を与えず、我が優勢なうちに敵に劣勢なまま敵の鼻ずらを引きずり回し、戦勝を獲得することを目指すもの。何を言っているのか分かりづらいかもしれないので、ザックリ言うと、これまで同様に陸海空の作戦を我が優勢に進めるため、宇宙やサイバー空間での先制攻撃により、作戦環境を我が優位な状況に作為する、ということ。具体的には、宇宙空間では、敵の軍事衛星やキラー衛星・キラー兵器の破壊、我が軍事衛星の防護、宇宙空間(大気圏外)も使った軌道のミサイルなどを駆使した作戦を展開。サイバー空間では、平素のうちにサイバー戦により敵のシステム中にバックドアを作っておき、いざ作戦開始すればバックドアからサイバー攻撃を開始し、敵の軍事インフラ、指揮通信システム、各種ネットワーク、ウェポンシステム等の妨害・誤動作・無効化・破壊、加えて敵国の政治経済中枢や国民生活基盤インフラを麻痺させる。映画で見たことがあるかもしれないこれらの攻撃は、既にロシアや中国が現実化しているのだ。実は米国も既に実際に運用している。
  (この辺が非常に恐ろしい部分で、またの機会にこの辺の話を書きます。)
   (※参考まで 米陸軍のTRADOCの MultiDomainBattle: Evolution of Combined Arms for the 21st Century というyoutubeのビデオクリップがヴィジュアルに解説しています。勿論、腹の部分の話なんてしていませんけど。( https://youtu.be/nfOgPayfATo ))

4 日本の多次元統合防衛力について
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防衛大綱・多次元統合防衛力のイメージ (時事ドットコムニュース 【図解・行政】防衛大綱・多次元統合防衛力のイメージ(2018年12月)より ( https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-anpoboei20181218j-01-w510 )

  前述したように、日本の新防衛大綱で謳っている「多次元統合防衛力」とは、米国のマルチドメインオペレーションの日本バージョンである。しかし・・・・。残念ながら、日本に米国のようなマルチドメインオペレーションを遂行する力はなく、また憲法はじめ国内法上の制約や国民的理解が得られない等の法律的・政治的課題から、日本が実施する多次元的統合防衛力とは、米軍のマルチドメインオペレーションのうちの攻撃的部分を禁じ手とした防御的なものにならざるを得ないだろう。だって、そうでしょ?日本がサイバー攻撃で、相手国の政経中枢や国民生活インフラを破壊できますか?やるとしても相手国の軍事施設に限定かな。いや、それすら「ダメだ!」と国会で大もめするだろうな。結局は防御的な手段方法のみになるのだろう。ただし、既にマスコミが報じているように、護衛艦いずもをF35B(垂直離発着化:VSTOL)の空母化改修をすること、主力戦闘機としてF35Aを導入することなど、この辺もこの「多次元統合防衛力」の一環である。
  私見ながら、多次元統合防衛力の採用、F35の導入やいずもの空母化など、この辺については、米軍との相互運用性の重視であって、日本の自衛隊単独の作戦としてではなく、いざと言う時の米軍の攻撃的手段を期待しての作戦構想ではないかと推察する。日米共同作戦をする上で、米軍と同様の作戦が遂行できる陸海空宇宙サイバーのアセットを持ち、米軍との共同作戦遂行の基盤とする。他方、役割分担として、自衛隊のできない攻撃的部分は米軍の攻撃手段に依存する。結構高い買い物を米国からすることになるが、保険金なのだろう。

○ 結言
  前項の最後に述べた日本の多次元統合防衛の腹の部分、これを非難しなじる方々もいると思いますよ。しかし、現実的には賢い自己防衛策ではないか、と私は思います。現代の作戦環境は、ここまで科学技術が発展、特にサイバー攻撃などがここまで進化すると、こうでもしないと日本は守れないのです。そんなところに来てしまったんだな、と痛感しています。私らが自衛官の時分に、核兵器はともかくとして、陸海空のアセットで戦う通常戦争の世界で「エイ、ヤー」と訓練していた当時はまだまだ平和なもんだったと思いますよ。今の時代は、サイバー戦だって?なんだそりゃ?ですよね。しかし、現実問題、次にどこかでロシア・中国・米国などが絡む戦争・紛争があるとしたら、確実にサイバーから始まるでしょう。(インド・パキスタン紛争では起きませんが・・)開戦劈頭で、相手国はシステムダウン。何がどうなっているかわからないうちにsurgical airstrike外科手術的航空攻撃を受けて自国の攻撃手段は壊滅状態にされるでしょうね。
  次回から、サイバー戦について勉強したいと思います。読んでいただける皆さんと、ぜひサイバーの恐ろしさを共有させていただきたいと思っています。

 了」


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2019/03/09

印パ衝突に日本が学ぶこと

印パ衝突に日本が学ぶこと

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カシミールでの印パ住民間の衝突(Pars Today 2016年10月01日付より)

   2019年2月に再燃した印パの衝突は、3月になってようやく落ち着いてきた模様ですね。何よりです。それにしても、インド・パキスタンが英国植民地から独立して以来もう70年も経つというのに、今だに両国民は相互に嫌悪し、競って核武装するまで軍事対立し、カシミール地方は係争地として平素から緊張下にあり続けています。今回の衝突は、自爆テロを契機に憎悪が再燃、報復の応酬、戦闘機の領空侵犯・撃墜などに発展してしまいました。まぁ、治まりつつあるようなので何よりですが、「歴史は繰り返す」論からすれば、緊張は続くし又いずれ衝突は起き得るでしょう。
   私見ながら、今回の衝突を通じ、日韓(朝)がこのようにならないように、と心配 になりました。

○ ポイント
① 印パ紛争の経緯
   英国植民地からの分離独立、ヒンズー教徒とイスラム教徒は相容れ難く、インドとパキスタンに分立。独立後もカシミール地方の帰属や両教徒の間の対立・衝突が続く。
② 対立の構図
   民族・宗教的な差異からの抑圧・被抑圧の関係という史的経緯を経て、生理的反発・DNA的な憎悪へと発展。その憎悪が些細な対立を契機にテロや暴動の形で現れ、それが悲劇を生んで報復の応酬に至る。
③ 日本が学べること
   印パのようなことが日韓(朝)で起きないように、我々は注意しなければいけない。これまではなかったが、一度日韓(朝)の間で衝突やテロが起これば、印パのように報復の応酬にならないとも限らない。特に、マスコミやインターネット投稿者は、徒に緊張や憎悪を煽らないよう、自制し慎重に行動すべきである。自分は見てもいない事件を無責任に煽る行為は、世の怒りを無秩序に拡大し、コントロールの効かない魔物を生みだしかねない。同じアジアの悲劇から学ぶべきである。

1 印パ紛争の経緯
   英国植民地からの分離独立運動が難産ながら功を奏したが、ガンジー師の努力むなしく、ヒンズー教徒とイスラム教徒(ムスリム)は相容れ難く、1947年に英国の調整案でインドからムスリムが多い地域(東西パキスタン)を分離して独立へ。この際、カシミール地方はほとんどの住民がムスリムだがマハラジャ(藩王)はヒンズー教徒という構図であったため、マハラジャはインドに帰属を希望。これがカシミールの悲劇の始まり。帰属をめぐる係争地や相互の地に残る両教徒の衝突が続き、3次にわたる軍事紛争が勃発。第1次印パ戦争は1947年に既述の構図の下で勃発。インドが優勢、国連の調停で治まる。1962年に同じくカシミール地方に国境を接する中国とインドの間で国境紛争があり、中国に事実上押されて停戦。(余談ながら、その悔しさをバネにインドは核開発に走る。これを受けてパキスタンも核開発開始。)カシミール地方の中のインドが実効支配していた地域の統合宣言をしたことがキッカケにパキスタンが猛反発、第2次戦争に。この際の停戦ラインがカシミールを分割し、それぞれ実効支配しつつ、お互いにカシミール全域の帰属を主張。第3次は、インドが東パキスタン(現バングラディシュ)のパキスタンからの分離独立を支援したために印パ間で軍事衝突。結局、インドが優勢のうちに停戦となり、概ね休火山状態に。
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カシミール地方(時事ドットコムニュース 2019年2月15日付より)

   しかし、両国民の相互の憎悪が潜在化し、対立・緊張は今も根強く、時折顕在化してこうして衝突している。21世紀に入っても、2001年にインドの国会議事堂襲撃事件、2008年にムンバイ同時多発テロ(日本人を含む180人もの犠牲者を出す)があった。最近の趨勢は、パキスタンのイスラム過激派がインド側でテロを起こす形が多く、その都度、インドはパキスタンを非難。両国民の憎悪のボルテージは上がった。しかし、今回ほどの直接衝突ではなかった。

   今回の衝突は、2019年2月14日にインドのスリナガルで自爆テロが契機となった。パキスタンから越境してきたイスラム過激派組織が自爆テロを起こし、インドの警察関係者40人以上が犠牲となった。インドはすぐさま非難するとともに、26日にはインド空軍機がパキスタン領内のイスラム過激派組織の訓練基地を空爆で報復。27日、これに対しパキスタン軍がカシミール地方の停戦ライン?上空でインド空軍機を2機撃墜。これに対しインド軍もすぐさまパキスタン空軍機1機を撃墜させた。パキスタンは撃墜した航空機から脱出したインド空軍パイロットを捕虜にとったが、インドに対し対話による緊張緩和をもちかけ、解放すると声明を出した。しかしインド側の激昂治まらず、「どんな代償を払っても、私たちを止めることはできない。」とモディ首相が発表する状況に。
一時は「第4次印パ戦争勃発か?」とか、「印パ間の核戦争の脅威」とまで懸念されたが、3月1日に既述のインド空軍パイロットがパキスタン側からインドへと無事に帰還。3月4日付のVOA記事では、「US: Gulf Countries Helped Ease India-Pakistan Tensions(米国: 湾岸諸国が印パ間の緊張を緩和させた」との報道もなされ、目に見えた緊張緩和へと落ち着きを取り戻した模様。記事によれば、米国トランプ大統領が中東諸国に呼びかけ、特に、これを受けてサウジアラビアのムハンマド皇太子が印パの慰留に努めたらしい。この辺も深堀りするといろいろ面白そうだが、今回の趣旨ではないので割愛する。

2 対立の構図
   対立の原点は宗教及びこれに根差す風俗風習。インドの場合、土着のヒンズー教が土台にあって、カースト制で生来の階層が決められ階級差別があり、外来のイスラム教が抑圧を受け虐げられる低階層に浸透する素地があった。支配・抑圧的なヒンズー教徒を主とするインド一般の勢力と被支配・被抑圧的なムスリム、という対立軸が存在した。本来独立はインドとして他宗教を包含して独立するはずだったが、独立以前に両派の対立と暴力が横行し、死傷者も多数でため、もはや分離せざるを得ず。ムスリムが多かった地域がパキスタンとしてインドから分離独立となったもの。
   鳥瞰すると、民族・宗教的な差異から抑圧・被抑圧の関係という構図があり、長い歴史の中で、両派は相互に対して生理的反発・DNA的な憎悪が脈打つ状態へと発展した、と言えよう。であるがゆえに、平素平穏であっても、両派のお互いへの反発のボルテージは高く、些細な出来事でもエネルギーが蓄積され、ひとたび契機があるとスイッチが押されて一挙に落雷し、じ後は憎悪や怨嗟の応酬となり、しばらく治まらなくなってしまう。
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印・パキスタンが、カシミール停戦ラインで軍事衝突 (Pars Today 2019年2月27日付より)

3 日本が学べること
   印パの対立が生む悲劇は、他人ごとではない。印パのようなことが日韓(朝)で起きないように、とつくづく思う。しかし、「願い」や「思い」ではなく、そこには注意しなければいけないこと、慎重、熟慮、忍耐、などの「努力」が必要なのだと思う。
幸いなことに、日韓(朝)間に印パの例のような宗教的・風俗風習的な対立の構図はない。しかし、民族的な歴史的経緯はどうだろう。日本人の認識と韓国・北朝鮮から見た認識は絶対に格段の違いがあるだろうことは容易に推察できる。我々からすると言われなきほどに、彼らは我々に憎悪感を持っているようだ。恐らく、最近の文韓国大統領の徹底的な反日路線の淵源はそこにある。そしてこれが一定の勢力の韓国人の支持を得ているということがその証左である。
   これまではなかったが、一度日韓(朝)の間で過激グループの衝突やテロが起これば、印パのように報復の応酬にならないとも限らない。例えば、韓国観光中の日本人が反日暴動に暴行される事件が起き、それを背景に、日本観光中の韓国人が嫌韓グループに暴行される事件が起きたとか。そんなことが起きようものなら、お互いのマスコミやネットはさぞ喧伝し扇動することだろう。北朝鮮も喧伝・扇動に参戦してこよう。どのテレビをかけても朝から晩まで日韓(朝)の緊張ネタばかり。ネットは炎上。相互の国民のボルテージは高まり、そんな憎悪や怒りが制御不能なレベルまで高まれば、印パのような報復の応酬に至ってしまうだろう。
   上記の例え話は脇に置くとして、現実の世界で考えていただきたい。現在の両者の関係は、いまだ物理的衝突でなく議論の上だが、それでも緊張のボルテージはこれまでになく高まっているのは間違いない。いわんや南北宥和の進捗や中国寄りに進展していくと、彼らが何かうまくいかなくなった時の怒りや非難の槍先には日本が標的にされよう。そんな時、暴動やテロで日本人が犠牲になったとしても、日本側の一部の過激なグループが相手側に対し短慮な報復に及ばないよう、警察の皆さんにはご努力いただきたい。また、マスコミもネット投稿者も事実報道以上に喧伝することは控え、間違っても国民世論を煽るような論調や論陣を張らないよう、慎重な対応をしてもらいたい。
   そうでなくても、特にネット上に嫌韓ネタを書く方が多いことには正直言って辟易する。確かに、最近の韓国の対日姿勢には腹に据えかねるものがあり、そうした嫌韓ネタが世にうけるのは理解できなくはない。しかし、それと単に民族的憎悪をかき立てることとは違う。憎悪や怨嗟の行きつく先に明るい未来は開けないのだから。


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