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2020/01/22

三菱電機サイバー被害: オリパラ前に再点検を

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マスコミが喧伝中の三菱電機がサイバー攻撃を受けていた件。マスコミ論調はいろいろですが、三菱電機は早く報告すべきだった等、例によってメディアリンチをする相手を見つけて袋叩きに興じています。そんなことより、より大事なことは、今回の事件で「セキュリティに強いと自負していた企業が実は既に穴を開けられていたこと」が露呈したため、ここから学ぶべき教訓は「三菱電機が入られているくらいだから、同様に政府各機関や他の企業も既にサイバー攻撃の種が潜在している可能性が高い」ということではないでしょうか。

時節柄、オリパラの準備もいよいよ大詰めを迎えています。オリパラという国家の威信をかけた国際的イベントでは、ここ最近のオリンピックではもう毎回やられてますが、必ずと言って良いほどサイバー攻撃を受けています。個人の愉快犯の程度なら、今準備中のセキュリティで対応可能な態勢であろうと思いますが、国家が背後にいる組織的かつ高度のサイバー攻撃の場合、既に入り込まれているのではないでしょうか。今回の三菱電機と同様に、ロシア、中国、北朝鮮など国家が背後にいるサイバー組織が、既にマルウェアを仕込んでいるのでは?奴らは、仕込んだマルウェアを遠隔操作でき、今の時期は気づかれないように潜んでいて日本の各機関・企業側に気づかれていないだけで、オリパラ当日に大混乱を起こす可能性がある、ということです。例えば、開会式での開会宣言の途中で大停電、世界が固唾を飲んで注目する100m決勝の先頭ゴールでタイムが出ない・写真判定ができない、等々。日本の国家の威信を貶めたい国々っていますからね。

ですから、今回の三菱電機サイバー攻撃受け事件を機に、絶対大丈夫と自信を持っているセキュリティこそ、再点検すべきだと思います。米軍の最新兵器を含む我が国の防衛装備品や原子力管理などにもかなりのシェアを持ち、セキュリティに自信を持ち、ビジネスにもしていた三菱電機がやられていたのですから。

(了)

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2019/04/22

中国の国策的AI推進

中国の国策的AI推進

中国のAI(人工知能)分野における躍進は目覚ましく、今や首位米国を脅かす存在です。VOA4月20日付「China’s political system help advance its Artificial Intelligence」という記事に、その背景に中国の政治制度や政府の方針があること等について、興味深い内容が載っていましたのでご紹介します。
china-facialrecognition.jpg
Visitors experience facial recognition technology at a Face++ booth during the China Public Security Expo in Shenzhen last fall. In China, facial recognition is being used by the government to help monitor the movements of the country's 1.4 billion people. (Bobby Yip/Reuters) (CBC News: Sep 18, 2018 4:00 AM ET 「Facial recognition is everywhere — here's why that's concerning
Social Sharing」(Ramona Pringle)より 


<ポイント>
① 中国のAI、5Gワイヤレス技術、自動運転車、ドローン等の分野における躍進は、欧米の先進技術のスパイ行為の批判を超越し、もはや自前で更なる発展をしている段階

② 特に、中国のAI分野においては、習書記長の「AI分野を中国の手中に」との明確な指示の下、国策として研究開発を推進

③ 中国のAI分野の進展には、勿論研究開発による世界をリードする先進AI技術が大きい。もう一つの要因は、警戒監視システムの顔認証機能の活用やデータ管理の技術において世界をリードしているが、欧米の先進民主主義国では個人情報保護や人権上の問題も絡むため許されない大胆なことができる中国ならでは土壌も大きい。

④ しかしながら、中国のAIには弱点も存在。スーパーコンピュータの学習機能のアプリケーション等に必要な先進半導体など、AIの主要な分野の技術やイノベーションにおいては首位米国に遠く及ばない。

⑤ 記事の結論として以下の専門家のコメントで締め括る。「米中は、政治的には競争するが、経済的ないし科学的にはむしろ協同の関係である。」

<寸評>
  ①〜④までは「なるほど」だったが、結論でズッコケた。専門家の見解は、所謂「専門バカ」ではなかろうか。トランプ大統領という重要な要因を逸している。政治的?否、経済的に米国が中国に負けるわけにいかないでしょう。それが故に、2月に大統領令でAI分野で米国の優位を中国に取られるべからず、という檄を飛ばしている。
  もう一つ私見を。AI分野において中国は米国に拮抗する程進んでいる。日本は気がついたら遅れていた、とは悔しい限り。中国はもはや日欧米のコピーではなく、自力で実力をつけていた。悔しいが現実を直視しなければなるまい。これは、安全保障・軍事的にも、特に第5の戦場「サイバー・電磁スペクトラム」の正面の実力差として認識しなければ・・・。是非とも挽回せねば!!

(了)

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2019/04/10

北朝鮮のEMP(電磁パルス)攻撃の脅威と対応

北朝鮮のEMP(電磁パルス)攻撃の脅威と対応

 前回までのサイバー戦及び電磁スペクトラム戦の続編として、今回は2017年9月頃に北朝鮮が「米国本土に対する電磁パルス(EMP)攻撃能力を持つに至った」と宣言し、日本でも俄に話題が急上昇した「電磁パルス(EMP)攻撃」を取り上げてみたいと思います。ちなみに、電磁パルス(EMP)は電磁スペクトラム戦の持つ幅広い作戦形態のうちの一手段です。電磁パルス(EMP)攻撃により、「社会インフラは壊滅」とか「国民の9割は餓死する」などとも言われていますが、その脅威と対応について考えてみたいと思います。
 ちなみに、2019年(平成31年)4月現在で、北朝鮮の弾道弾ミサイルの脅威論はEMP脅威論も含めかなり下火であり、話題としては旬な時期ではありません。それは承知の上で、電磁スペクトラム戦の一手段としてのEMP攻撃について、考察したいと思います。ともすると誤解が多い話題なので、この際ご理解の一助にお役立てできれば幸いです。
 
<ポイント>
① 電磁パルス(EMP)攻撃の脅威: 理論上は壊滅的影響あり。他方、実際の効果は未知数。
② 対応のあり方: 脅威として真摯に認識し、国家の重要インフラや基幹システムについては適切な防護策をとるとともに、高高度核爆発によるEMP攻撃については、国際社会として許容しない断固たる意志を示すなど、実効性のある堅実な対応策を!それが日本の国家としてのレジリエンスを強靭にすることになろう。 

 まず、高高度の核爆発による電磁パルス攻撃とはどんなものか、考えてみたいと思います。

1 電磁パルス(EMP)攻撃の脅威とは
  結論から言うと、EMP攻撃は理論上壊滅的影響を及ぼす最高度の脅威であるものの、他方でその実際の効果は未知数であり、爆発高度、成層圏の大気の状況、気象条件や地上の車両や器材のカバーの状況など、様々な諸要素の変数により理論通りではなく、どれ程の効果があるかについては実は何とも言えないのが実情、と言える。

(1)EMPの仕組み
   「電磁パルス」とはElectro-Magnetic Pulse (EMP) 、「コトバンク」(出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)    ( https://kotobank.jp/word/%E9%9B%BB%E7%A3%81%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%B9-161564 )によれば、「核爆発による電磁放射。核装置の材質または周囲の媒体中に散乱している光子から出るコンプトン反射の電子と光電子によって引き起こされる。その結果から生じる強力な電場と磁場は、電気的・電子的システムに有害な大電流と大電圧の渦巻きを引き起こし,システム内部の回路網を破壊する。」との説明がある。ザックリと言えば、核爆発による電磁「嵐」ないし「雷」が瞬間的に広域にわたって落ちる、と言える。

500px-EMP_mechanism.png
「Nuclear electromagnetic pulse」 (https://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_electromagnetic_pulse)より

   上の図を参照しながら、もう少し精度の高い説明をする。図は、アメリカに対する電磁パルス攻撃を想定したイメージ図である。上段のポンチ絵と下段のアメリカの地図がバックのものがあるが、まず上のポンチ絵にご注目を。このポンチ絵が電磁パルスが生じるしくみ。右上が爆心点として、赤い線は高高度核爆発によるガンマー線の放射を示す。このガンマー線が大気圏内20~40km上空の大気(点線)が濃くなってきた層に激突する。この大気にガンマー線の束がぶち当たると、弾き出された猛烈なエネルギーの電子たちが大放射される(コンプトン効果)。この際、遊離し弾き出された電子たちが地球の磁力線の周りをらせんを描きながら光の90%の速さで拡散しながら減耗する。(ちなみに、昔、小学生の頃にやった、I型の磁石の上に紙を置いて砂鉄をぶちまけると、磁石の磁力線に沿って砂鉄がN極とS極の間を放物線的につないでいたのを想起していただきたい。地球の磁力線は北極と南極のような高緯度な地域では直下向きになるが、アメリカあたりの中緯度では青線のように大地と並行するような横たわり方をしつつやや地面(下)向きに湾曲しながら走っている。)この電子たちが磁力線の周りをらせん回転しながら拡散する際に、強烈な幅広い周波数の電磁パルスが発出されるのである。

   次に上の図の下段、北米大陸の地図の絵を参照されたい。北米上空400kmで高高度核爆発を起こし、アメリカ全体を電磁パルスの影響を及ぼす攻撃を受けた場合の概念図だ。円のまん中あたりの緑の△のすぐ下(南)の黒丸が爆心直下。円や楕円の色は電磁パルスの強さを表わしている。北半球のため、爆心より北側が小さく、南側が大きくなる傾向がある。爆心の下(南)に笑っているような赤い楕円が最大エリア、その周囲の笑っているような大きい青い楕円が2番目に強力なエリア。円の一番大きな青と緑の中間色の明るい色が3番目の電磁パルスの強さ。爆心に近いのに、爆心北側の緑の△が電磁パルスが最小になり、その緑の△の周囲の卵型楕円はそれより少し大きいがまだ小さい方。次いで外側の暗い緑の楕円、といった具合。科学的な計算では、このような景況で電磁パルスの影響が出るであろう、と言われている。
 
(2)EMPの理論上の効果
   高高度核爆発(High Altitude Nuclear Explosion: HANE)による電磁パルス=EMPはよくHigh-altitudeのHをつけてHEMPと略称される。この高高度核爆発による電磁パルスは、理論上広域にわたって電気系統をショートさせ機能不能な状態にできるため、ある国全体を麻痺させることが可能、と言われている。

   その理論上の効果・影響について、まずEMPを照射された手持ちのスマホのような身近な話から始め、逐次に社会全体の話に移行する。
   日本全体をカバーするEMP攻撃を受けたとする。日本上空の高高度で核爆発を起こされた。核爆発は強力なEMPを起こし、数100キロ平方の地域全体に対し面的或いは空間全体に対し立体的にEMPが照射される。雷なら触雷した点から地面に抜けるまでの電気の通る線的なショートだが、EMPの場合はカバーする地域全体に面的ないし立体的にショートが起きる。その空間の中にある電気機器の導体部分はアンテナのようにEMPを受け止める形で電磁誘導が起き、過大な電流が流れてしまうことになる。半導体などは焼き切れ、様々な精密機器のデリケートな部分などが破損することだろう。これは家庭の電気機器に限らず、この社会一般に存在するありとあらゆる電気系統にも起こる。平素は意識もしないことながら、今や日常生活のありとあらゆるところに電気系統があり、その恩恵で不自由なく暮らしている我々にとって、これは由々しき事態だ。スマホはもとより、朝起きる際の目覚まし時計も、今やゼンマイ起動ではあるまい。電池で動いていればアウト。同様にTVやスマホは当然アウト。家庭の電気は、そもそも発電所、送電線、変電所、電柱などが破損するので全てアウト。蛇口をひねれば出てくる水も、水道局の中央制御は電気系統なのでアウト。ガスも同様、生活インフラはアウトなのだ。車に乗ろうにも電気系統がアウト。これが地震なら数日~数週間で逐次復旧するが、数100km平方にわたるのなら、日本全体がこうなることも理論上有り得る。ということは、生活インフラから情報・通信インフラ、交通機関、物流インフラ、食料品生産インフラなど全てが、日本全体でアウトなのだ。政治経済はストップする。そもそも生活が継続できない。純日本で復
旧しようにもできないから、海外からの支援を待つしかない。当然、医療も行き届かずアウト。逐次餓死者もでる。しかも、全ての原発が電源喪失するため、福島第1原発の陥ったメルトダウンがあちこちの原発で始まる。・・・
  こんな絶望的状況が、理論上有り得るのだ。

(3)EMP脅威(恐怖)論とEMP非脅威論
   前述のような理論上の絶望的影響・効果が想定されるだけに、EMP脅威論は恐怖感を持って喧伝される。特に、2017年9月初旬の北朝鮮の弾道ミサイル実験後の北朝鮮当局の説明により、北朝鮮は遂に水爆を弾頭に載せたICBMを持つに至り、高高度核爆発によるEMP攻撃により米国本土全域を壊滅的打撃を与えることができる、とPRしたことが契機になった。マスコミは声高にEMP攻撃の脅威を喧伝した。

   マスコミ等がEMPの脅威を取り上げる際に、論理的根拠としてしばしば引用されたのが、元陸自化学学校長鬼塚隆志元将補の「国民も知っておくべき高高度電磁パルス(HEMP)の脅威 HEMP攻撃対応準備を急げ」( http://www.ssri-j.com/SSRC/oniduka/oniduka-5-20150121.pdf )という論文だった。鬼塚元将補の論文は2015年1月のもので、先見の明のある同氏は、当時まだ北朝鮮のミサイル実験もスカッドという距離の短いものだったが、いずれは開発するであろうことを念頭に、EMP攻撃への対応策を訴えたのだ。論文を出した当時の反響は不明だが、2017年9月の時点では多くの関心を呼んだ。同氏の論文の趣旨は明解そのもの。2015年1月当時、EMP攻撃の脅威が世間一般にあまり認知されていない状況を懸念し、EMPの効果について解説するとともに、それが国民生活、社会全体、政治・経済に与える影響について警鐘を鳴らし、国家としての対応策の必要性を訴えたものだ。同氏は決して喧伝も誇張もしていない。しかし、2017年9月の時点の世の関心の高さからすれば、同氏の論文は格好のネタ元となったと言える。

   これに対し、やや客観的かつ冷静にEMPをめぐる議論を俯瞰した形の論文があった。防衛研究所研究員の一政祐行氏の2016年2月の論文である。( http://www.nids.mod.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin18_2_1.pdf )これも2017年のフィーバー下のものでなく、その1年半も前の時点のもので、一政氏のそれはいかにも防衛研究所の研究員らしく、鬼塚元将補のやや理系的解析的アプローチとは対極の、文系的文献整理的な論文である。論旨は、様々な専門家の議論を整理した上で、徒に高高度で核爆発によるEMP攻撃の脅威にのみ脅えて防護策に狂奔するのではなく、むしろ高高度核爆発によるEMP攻撃をさせないための国際的協調、すなわち「核攻撃」と位置付けて国際社会として使わせない団結をすべきことを強調している。

   この二つの論文を、薄っぺらにしか理解せずにEMP脅威論と非脅威論であるかのように捉えてしまう見方もあった。NHKの2017年9月20日付のNHK政治マガジン 特集記事「“電磁パルス攻撃”ってなに?」( https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/6009.html )はその典型。天下のNHKともあろうものがこういう頭の悪い理解でこのように報道してしまうと、これを読んだ方々はEMP脅威論と非脅威論の論争と思ってしまうのが怖いところ。筆者の私見では。両者の論文に全く矛盾点はない。鬼塚元将補はEMP攻撃の効果・影響を認識し対応策が必要だと説き、一政氏はその際の留意として、高高度核爆発によるEMPの理論上の脅威のみに狂奔せず、冷静さを失わず、他にもあるブラックアウトの脅威全体を踏まえて、効果的なブラックアウト対策を講じることが重要であること。加えて、国際的な協調を図り「高高度核爆発によるEMP攻撃は核使用なのだ、使用させてはならないのだ」という高い敷居を構築すべし、と説く。ということが本来の読み方ではないかと思う。両者の意見に全く同意する。

(4)実際の効果の評価
   EMP攻撃による効果・影響については、実際の実験に基づく実証データが乏しいため確たることが言えない、のというのが事実である。むしろ、その乏しいデータから言えるのは、必ずしも理論上の壊滅的効果が出ていない、と言える。米国の実験でもソ連の実験でも、確かに停電、通信機や車両の機能不全は起きているが、では、EMPの降り注ぐエリアにあった全ての電気系統が再起不能なほどのショートが起きて破壊されたか、社会インフラが再起不能になったか、というとそうではない。数時間~数日後に停電は復旧し、通信機も全てが再起不能になった訳ではなく、一時的な機能不全であって復旧したものもあり、車両は再起不能もあればエンジンがかかったものもあった、という。実験室や理論上の計算とはかなり違う。効果・影響の出方にかなりのムラがあった。いかなる変数が考えられるかというと、結局は核爆発の強度、爆発高度、当日の大気や電離層の状況、上空の気流、気流、更に地表においては電気系統を有する機器、車両等の置かれた場所や状況、特にカバー・遮蔽物の状況、コンセント等の接続状況、等々の諸要素があったのだろう。ハッキリ言えるのは、必ずしも理論上の効果・影響はでなかった、ということだ。しかし、だからといって「実は、EMPが全く効果がでない、安心しろ。」ということでは全くない。EMPは恐ろしい効果・影響を及ぼすものであることに間違いはない。

   他方、実験のあった1960年代と現代とでは、明らかにシステムへの依存度が違うため、1960年代に顕著には出なかった障害が、現代ならではの深刻度(システム全体のダウンなど)で起きるかもしれない。但し、これは、防護策の効果についても言える訳で、ファラデーケージなどの対EMP策を講じたとして、それがどの程度有効なのか、これも何とも言えない。防護策の効果は、メーカーとしては実験データをもって有効性をPRすることと思うが、高高度核爆発によるEMP照射を受けて、その実験と同じ効果が出るのか、それはやってみなければ分からない。結局のところ、EMP攻撃の効果・影響も、防護策の効果・有効性も、「未知数」としか言いようがないのだ。

(5)補足:非核手段によるEMP兵器について
   EMPは非核の手段によっても発生でき、通常兵器としてのEMP兵器も開発されている。実際にイラク戦争でも使用されたようだが、効果のほどはあまり聞かないので、あまり効果がなかったのではないかと推察する。しかし、米軍が開発中のCHAMPという高出力マイクロ波を使ったミサイルなど、やがて装備化されるのではないかと言われている。Counter-electronics High-power Microwave Advanced Missile Projectで略してCHAMPと呼ばれるこの兵器は、巡航ミサイルに装着され、敵艦船であれ基地であれ、標的に対して指向性のある高出力マイクロ波を狙い撃ちで照射し、敵の電子機器やシステムを無力化するというシロモノだ。こういうEMP効果を狙い撃ちで図るなら、ミサイルでなくても、国家の重要インフラや基幹システムに対するテロなども考えられよう。テロリストがリュックやアタッシュケースのようなカバンで持ち込み、重要インフラや基幹システムの心臓部や頭脳に当たる急所に対し、高出力マイクロ波を標的に照射してシステムダウンさせてしまう。こんなこともあり得る。これも立派なEMPテロだ。

   既述の一政氏の論文では、高高度核爆発のEMPのみならず、前述のような非核のEMP兵器や、更に自然現象ながら太陽の磁気嵐によるEMP効果を実例で挙げて、EMPのいろいろな場合があり得ることを強調している。同氏は、高高度核爆発のEMPばかりに目が向けられるが、こうした非核のEMPについても想定する必要があり、重要インフラや基幹システムに対する防護手段の必要性を説く。全くもって賛成する。これを前振りとして結言に入りたい。
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2 電磁パルス(EMP)攻撃への対応のあり方 
  結論から言うと、まず、脅威としてEMP攻撃について適切に真摯に認識することが大事。その上で、防護策、特に親亀こけたら皆こけたにならないよう、電力インフラを始めとする国家にとっての重要インフラや基幹システムは、対EMPの坑堪性を高める必要がある。更に、そもそも「高高度核爆発によるEMP攻撃を許容しない」という断固たる意志を国際社会として示すことが重要である。これらの実効性のある堅実な対応策が求められ、こういう努力が日本の国家としての国土強靭化=レジリエンスを高めることになろう。
 
(1)脅威か非脅威か?ではなく適切に脅威を認識すること
   本当に脅威なのか、それとも眉唾物なのか?この2極対立的な議論はあまり意味がないと思う。この議論の結果として、脅威だったら対応策に青天井で資源投資をするのか?非脅威であれば笑い飛ばして一顧だにしないの?・・・どちらも正しくない。あえてどちらかと言えば、やはりEMPの脅威は恐ろしい「脅威」である、と冷静に認識することだと思う。しかし、「人類や文明が滅びる」とか「国民の90%が餓死する」というのは、あまりに誇張した議論であろう。

(2)未知数ながらEMP攻撃は脅威大と冷静に認識
   適切に冷静に脅威認識をし、必要な防護の手段はとるべきである。これまで見てきたように、確かに効果・影響は未知数である。だが、なめてかかって無為無策のままでいるのはあまりに愚かな行為。防護策の努力はしておくべきであろう。もし上空に雷雲があり、雷鳴轟き、付近に落雷があったら、当たり前のように回避行動を取るだろう。雷が自分に当たる確率が必ずしも高くなかろうが、当たり前のように雷を避ける行動をし、自己防護の措置をとるだろう。EMPの効果が理論上の影響でなかったとしても、電力、情報通信システム、交通機関、などなどの重要インフラや基幹システムが一時的であれ、機能不能になることも十分考えられる。太陽の磁気嵐によるEMP効果だって、実際に北米で大停電になったこともあるわけだから。

(3)念のため最低限の国家としての自己防護策を
   鬼塚元将補や一政氏は、具体的な防護策について提言している。ここでは、一政氏の論文から引用する。
   「・・・電子機器に対する侵入電磁波対策について取り纏めた電気学会電磁環境技術委員会による検討結果がある。・・(中略)・・HPM、太陽光、HEMPのいずれについても、電子機器への侵入電磁波対策が主たる防護策となる。具体的には電子機器に接続したケーブルからの侵入防止、電磁波遮蔽材による機器本体の防護対策、回路基板の小型化や部品配置・配線パターン最適化による被害局限、そして最終的には瞬間的な高電圧(大電流)サージに対応するための避雷針のような防護措置として、電流或いは、電圧制限器具やフィルタ装置の施工が有効であり、特に地表に到達する電磁界強度のピーク値がおよそ50kV/mに達するとされるHEMPについては、前述した電流・電圧制限器具やフィルタ施工が必要だとされている。」

   一政氏の非凡なところは、前述のような個別具体的な防護策に加えて、国家としての、或いは重要インフラ事業者としての一般的な危機管理として、「ブラックアウト事態に対しての社会の坑堪性/復元力の確保、そして各国間の連携の検討といった、間口を広く取ったアプローチが求められる。」と非常に重要なポイントを看破していることである。まさに国家としてのレジリエンスの強化。2020年のオリパラ対応もあって、政府として国土強靭化、レジリエンスに力を注いでいるが、まさにこうした努力が礎となろう。

(4)「核EMP攻撃は核使用であり絶対許さない」という国際社会の意志を示すべし 
   高高度核爆発によるEMP攻撃というのは、間違いなく核使用でありながら、いわゆる非殺傷兵器的な外見からして、これまで核兵器をめぐる軍縮や不拡散の対象から漏れていた。これまで核軍縮や軍備管理交渉において、HEMPが狙い撃ちで議論されたことはない。しかし、理論上の壊滅的な効果・影響でも分かるように、間違いなく多くの人命を損なう最高度の脅威である。従って、これを国際的協調で「高高度核爆発によるEMP攻撃は『核使用』であり、国際社会は許さないのだ!」という国際的規範を作るべきであろう。これも一政氏の論文で学んだ部分であり、大きく頷いたところだ。その上で、EMPによるブラックアウトのようなことが事態が起きた際に、国際的な協調態勢で相互に援助して早期に復旧できるよう連携していくことが重要である。そうした国際的な連携を進めていくべきであろう。

(了)

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2019/03/31

電磁スペクトラム戦能力を早急に向上せよ!

クリミアの二の舞を避けよ! 電磁スペクトラム戦能力を早急に向上せよ!

CBS news Ukraine mobilizes as Russian troops control Crimea
「Ukraine mobilizes as Russian troops control Crimea」CBS News より
( https://www.cbsnews.com/video/ukraine-mobilizes-as-russian-troops-control-crimea/ )


 前回のサイバー戦の脅威とこれへの対応の話の続編として、今回は電磁スペクトラムの脅威について考えてみたいと思います。以前は「電子戦」と呼ばれ、主として敵の通信機器に電波障害を起こさせる攻防でしたが、今や通信機にとどまらず各種装備が高度にシステム化・ネットワーク化するとともにUAVやら人工衛星まで広範多岐に亘る時代。電磁スペクトル戦とは、電子戦のみならず、それらの装備を無効化してしまう幅広い電磁波の幅域を駆使した作戦です。いわゆる電磁パルス(EMP)も電磁スペクトラム戦の一部です。今やこの電磁スペクトラム戦が脅威になってきました。しかも、電磁スペクトラム戦がサイバー戦とコンビで駆使されれば、開戦劈頭にして我の指揮通信やシステム化・ネットワーク化した装備がダウンしてしまう悪夢のようなブラックアウトが正夢になるかもしれません。

<ポイント>
① ロシアは電磁スペクトラム戦とサイバー戦でクリミアを無血併合
② ロシアの電磁スペクトラム戦能力の高さに米国が劣勢を自覚
③ 対応策は急務。サイバーや他の陸海空宇宙の領域と合わせて一本で対抗すべし。これがマルチドメインオペレーション。

1 ロシアは電磁スペクトラム戦とサイバー戦でクリミアを無血併合
  2014年、ウクライナのクリミアをめぐる不穏な情勢に世界の耳目が集中した。前年、親ロ派のヤヌコヴィッチ大統領が親西欧の国民の支持が得られず。親西欧の暫定政府ができ、ヤヌコヴィッチはロシアに逃亡。しかし、ロシア系住民の多いウクライナ東部やクリミアでは、元々ロシアへの併合を望む市民も多く、クリミア自治州はロシアに支援された民兵が州を閉鎖して、州議会でウクライナからの独立した共和国を宣言。ロシアは支援を表明。他方、ウクライナ暫定政権はこれを認めず。世界的な非難と注目がクリミアに集まった。リトルグリーンメンと名乗る民兵集団もロシア正規軍ではないかとの疑念もあり、ウクライナ国軍との衝突も懸念された。特に、クリミアは黒海の不凍の軍港としてロシアにとって死活的国益。歴史的にも、ロシアは容易にクリミアを手放さない。

  2月下旬、クリミアでついに軍事行動。この際、勢力で劣勢の親ロ民兵は優勢なウクライナ国軍に対し、企図を秘匿した迅速な行動と敵に対する正確な砲兵射撃により、軍事的には電撃的圧勝。ウクライナ軍の指揮通信が妨害され統制の取れた行動が取れず、敵の行動に対する情報収集は偽情報に混乱され、他方ウクライナ軍の行動は全て敵に掌握され、正確な砲兵射撃が襲ってくる状況だった。

  これを可能にしたのが、ロシア軍の電磁スペクトラム戦とサイバー戦のバックアップだった。ロシア軍は、ウクライナ軍の指揮通信システムやネットワークを狙い撃ちで電波妨害、米軍からウクライナ軍に供与された高度にシステム化・ネットワーク化された装備を役立たずにせしめた。ウクライナ軍の情報収集手段、UAV、レーダー、センサー、ミサイル誘導や衛星からのGPSなどを機能させず、ハッキングにより乗っ取るなど、ウクライナ軍に親ロシア民兵側の情報を取られずにむしろ偽情報で撹乱し、砲兵射撃やミサイルも誤作動や誤目標に弾着させた。他方、親ロ民兵やロシア軍の行動は秘匿しつつ、ウクライナ軍の行動はロシアから供与されたUAVが正確に位置を把握して効果甚大な射撃をした。これにより、敵味方ともに少ない損害で電撃的な勝利を得たのだ。ウクライナ東部でも同様の戦闘を展開。東部戦線では損害がかなり出た模様だが、軍事的には親ロ民兵側が勝利。結果的に、世界から非難される中、プーチンは不退転の意志を示し、既成事実としてクリミア及びウクライナ東部をロシアに併合した。(経緯はかなりザックリとまとめたので、あまり正確でない。ご容赦を。)

 ちなみに、前述したようなロシアの電磁スペクトラム戦(電子戦)の装備の細部の性能などは割愛するが、次の記事にロシアが発表したベスト5の装備が紹介されているので参考にされたい。 「Blind & conquer: Top 5 Russian radio electronic warfare systems」Russia Beyond 2015年2月16日付 ( https://www.rbth.com/economics/2015/02/16/blind_and_conquer_top_5_russian_radio_electronic_warfare_systems_41393#__scoop_post=31803c40-b63f-11e4-93b2-842b2b775358&__scoop_topic=3973209 )
スクリーンショット (2)
Krasukha-2(クラスカ-2)(Source: Press Photo 「Blind & conquer: Top 5 Russian radio electronic warfare systems」Russia Beyond 2015年2月16日付 より)

2 ロシアの電磁スペクトラム戦能力の高さに米国が劣勢を自覚
  クリミア及び東部の戦闘後も両者は睨み合いを続けたが、ウクライナ軍も戦闘の細部を分析検討し、米軍と情報共有した。そこで米軍が学んだことは、ロシア軍の電磁スペクトラム戦の分野におけるソフト・ハード両面の先進性は米軍を遥かに凌駕しており、もし両軍戦わば、米軍ですらウクライナ軍と同様に、ロシアの電磁スペクトラム戦とサイバー戦という非物理的攻撃及び物理的攻撃もハイテクからローテクまでハイローミックスでチャンポン攻撃をしかけてくることには、なすすべなく圧倒される、という現実だった。一つには、米軍はこの十数年の間、正規軍の強敵と対峙していないので、自軍の装備のシステムやネットワークに自信を持ちすぎて、よもや調子が悪いとか妨害で機能しないとか、そんな状況下を経験したり訓練したりしてこなかったために「対応ができない」、という状況なのだ。在欧州米陸軍司令官ホッジス中将は、このロシアの電磁スペクトラム分野の先進性を「涙が出る(eye-watering)」と表現したという。(ご参考まで 「Electronic Warfare: What US Army Can Learn From Ukraine (By: Joe Gould)」Defense News 2015年8月2日付( https://www.defensenews.com/home/2015/08/02/electronic-warfare-what-us-army-can-learn-from-ukraine/ ))

  米軍は、10数年に及ぶイラク・アフガン戦争やISIS等との非対象戦を戦ったがゆえに、強力な正規軍との戦闘を念頭に置いた装備体系、特に電磁スペクトラムのような分野は軍事予算の制約から後回しになった。当時、米軍兵の命を脅かせていた路上の即製爆弾IEDへの対応が目の前の問題であったため、対IEDの妨害電波発信機などは充実した。しかし、この空白の10数年の差は甚大だった。ロシアはこの間に、電磁スペクトラム戦分野で世界最高峰を独走し、サイバー戦とのコンビネーションの分野でも大きく水を開けられた。オバマ政権下では国防予算が厳しく制約されたが、トランプ政権になってやっと危機感を聞き入れてくれるようになったらしく、マルチドメインオペレーションの名の下に、今後急速に差を縮める努力をするであろう。その意味では、トランプ政権を少しだけ評価する。

3 日本も対応策を!(サイバーなど他の分野とともに多次元統合防衛力で挽回を!)
  これは決して他人事ではない。ロシア同様、中国の電磁スペクトラム戦分野での先進性も日本にとって脅威。この分野では、自衛隊は未だ従来の「電子戦」の域を出ていない。勿論、列国の軍事的趨勢を踏まえてキャッチアップすべく整備しているが、電磁スペクトラムのフルな幅域を駆使した電磁スペクトラム戦という観点では、ロシアや中国の充実ぶりに比して大きく後れを取っている。しかも、敵はサイバー戦とのコンビネーションでえげつない攻撃をしてくると思われる。自衛隊も今やシステム化・ネットワーク化している上に、既述の米軍の立ち遅れの話と同様、隊員たちは電子戦下の対応に習熟する訓練をしていない。いざ有事となれば、無線による指示信号を妨害されたり、無線やサイバー攻撃で自衛隊のシステムに入り込まれてダウンさせられたり、・・・ウクライナ軍の二の舞いは十分に想定しておかねばならない。よって、努めて早期にこの差を挽回しなければならない。
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陸自のネットワーク電子戦システム

  現在陸上幕僚監部の指揮通信システム・情報部長 廣恵将補は通信学校長時代から「電磁スペクトラム戦は喫緊の課題である」との問題意識を熱心に発信しており、筆者も注目していた。さぞや頭の固い陸幕防衛部や防衛省内局にもPRしたことと思う。結果的に、多次元統合防衛力の概念の説明や図の中に、明確に電磁スペクトラムを盛り込んでいるのを見て、よくぞ盛り込んだ!と驚きを禁じ得ない。米軍すらマルチドメインオペレーションの概念図に電磁スペクトラムは入れていない。米軍は、Cyber and Electro-Magnetic Activities (CEMA)という作戦概念なのでサイバーの領域(ドメイン)に含めていると考えられる。陸海空という従来の軍事作戦の領域、宇宙という新領域、これら物質的領域に加え非物質的なサイバーと電磁スペクトラムの領域、という理解のようだ。米軍は電磁スペクトラムは明示的に強調していないので、これの日本版を新概念として説明する際に、ともすればサイバーしか語らない形も十分あり得た。それを明示的に、「電磁スペクトラム」をわざわざサイバーと別の領域という形で強調したのだ。これは画期的と言える。地味な玄人ネタながら、筆者としてはこれを高く評価したい。
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  電磁スペクトラム戦を新防衛計画の大綱や中期防衛力整備計画に入れ込むことができたが、さてこれからが勝負。これから中期的に整備されるであろう電磁スペクトラム戦の装備はただのハードウェアであって、今後これら装備を駆使して、他の陸海空宇宙等の領域(ドメイン)と統合作戦により防衛力として「使える」ものにしていくソフトウェアも整備していかねばならない。現役諸兄の健闘に期待する。
  その際にネックとなるのが、またしても専守防衛の呪縛であろう。防御的な作戦行動は問題ないが、攻撃的となると・・・。恐らく電磁スペクトラムの領域においても、物質的損害を相手に与えるものでないが、サイバーと同様に問題になるのではなかろうか。
  結局のところ、前回のサイバー戦で述べたように、まず自ら防御はガッチリと固めた基盤の下、米軍との相互運用性を発揮した密接な日米共同作戦で「共同対処」する中で、攻撃部分は米軍に期待する、ということではなかろうか。当然、自衛隊が自らすべき部分、できる部分は頑強に責任を果たし、かつ、米軍の作戦を容易たらしめる支援をするのは言うまでもない。その上で、ロシア・中国を凌駕するまで能力を向上させた米軍に、サイバー戦と電磁スペクトラム戦をフルにコンビネーションを発揮してもらう。恐らく、少なからず「他力本願ではないか!」とお叱りを受けると思うが、筆者は賢明な策だと信じて止まない。

 了」

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2019/03/25

東京五輪を狙ったサイバー戦は始まっている

東京五輪を狙ったサイバー戦は始まっている
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 昨年11月のNewsweek日本版誌(2018年11月27日号(11月20日発売))に「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集が掲載されました。掲載記事によれば、中国が東京オリンピックを標的としたサイバー攻撃を企図しており、既にその準備攻撃が始まっている、とのこと。今回は、このショッキングな話題を皮切りに、企業の情報セキュリティとは一線を画した、国家が意図をもって他の国家をサイバー攻撃をする「サイバー戦」について勉強してみたいと思います。

<ポイント>
① 東京五輪を狙う中国のサイバー攻撃
  中国は東京五輪で日本の国家的威信を失墜させるため、既にサイバー攻撃を通じ攻撃準備を開始している
② 国家が背後にいるサイバー攻撃の実態
  実例には枚挙に暇なし:イランの核開発施設の破壊、ウクライナの重要インフラの停止、日本年金基金の個人情報流出さえサイバー戦の準備だったかも
③ サイバー戦時代のサバイバル
  次から次へと新手の攻撃、攻撃元が特定困難、抑止が効かない、IOTに依存するほど脆弱、などの厳しい環境に順応するしかない。防御を固め、被害があっても局限し、また防御を固める。
④ 日本のサイバー戦対処のあり方
  日本は基本的には防戦が関の山。ならば、自ら防御を固めて盾とし、米国との同盟で矛も保持し、日米共同の陸海空+宇宙+サイバーのマルチドメインオペレーションにより攻防揺るがない体制を。

1 東京五輪を狙う中国のサイバー攻撃
  中国は東京五輪で日本の国家的威信を失墜させるため、既にサイバー戦の攻撃準備を開始している・・・。そんなショッキングな記事がNewsweek日本版誌(2018年11月27日号)に掲載された。同誌「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集の記事によれば、現在、中国のハッカー集団が軍民共同戦線を張って、2020年の東京五輪の混乱を狙った日本に対するサイバー攻撃を活発化させている。記事は、インターネットの裏社会に世界中の闇ハッカー達が情報交換をしているダークウェブがあり、ここに出入りしているハッカーの情報として、今や東京五輪狙いのサイバー攻撃が話題の的になっており、「実際に金融機関や流通分野に対する攻撃が既に実施されており、五輪で使われそうな支払い処理システムのソースコード(ソフトの設計図)がまるまる盗み出されたケースも確認されていた。」(引用)としている。また同記事は、この中国のサイバー攻撃の目的は、東京五輪という晴れの舞台での日本の威信の失墜であり、世界から日本の情報セキュリティに対する信頼を失わせ、もって国際企業に日本へのビジネスにおける信頼を低下させ、相対的に中国に対する信頼性を高めることであると論じている。

  これらのサイバー攻撃は、東京五輪本番に向けた攻撃準備行為と考えられる。いわゆるフィッシングのようなメールを打ってきたりするが、それは小銭目当てではない。官民に幅広く攻撃し、幅広く情報を取る。その情報から固い壁に浸透する抜け穴を見つけて入り込む。入り込んだマルウェアは、当面は悪さをせず潜伏する種を植え付ける。やがて時期がくれば一挙に悪さをしでかす。例えば、東京五輪の開会式で世界中が聖火台への点火を見守っている時に、「あっ!真っ暗になった!」とブレーカーが落ちたような大停電。あるいは、100m走の決勝で停電しタイムが表示されない!等々、こんなことになったら大変だというネタは切りがない。しかし、起き得るのだ。ロンドンもリオもピョンチャンも、五輪はいつもサイバー攻撃の的になっていたのだから不思議はない。

  特に、中国は人民解放軍の中にサイバー戦部隊が存在し、更に軍や政府が賛助している中国の大学やIT企業(例:ファーウェイ)やハッカー集団、更に大勢の愛国ハッカー達が裾野を形成し、巨大なサイバー帝国となっている。彼らが官民一体となって東京五輪の失敗を図ってきたら、・・・そら恐ろしいばかりである。
 
  ※ 実は、私の今回のブログの目的は、中国による東京五輪に向けたサイバー攻撃の脅威をお話しすることではありません。この逸話を「つかみ」に使用し、国家が他国に対する意志の強要の一手段としてサイバー攻撃を仕掛けることが当たり前の世の中なのだ、ということをお話ししたいのです。と言うわけで、次項では国家的サイバー攻撃=サイバー戦について、事例をご紹介したいと思います。

2 国家が背後にいるサイバー攻撃の実態
  国家が背後にいるサイバー攻撃の実例には枚挙に暇がない。
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上記は、大澤 淳氏の「Society5.0時代のサイバーセキュリティを検討する」(21PPI NEWSLETTER No.61 MAY,2018 http://www.21ppi.org/newsletter/pdf/61.pdf )から引用させてもらった「国家が関与したとみられる主なサイバー攻撃事案」の列挙である。よく見ると、どの国が関与したのか断定できないものは書いていないので今一つピンとこないかもしれないが、一つ一つに仕掛けた国の狙いがあって成果もそれぞれあって、特定は難しいものの恐らくこの国が仕掛けたであろうという推定がある。被害を受けた国がウクライナの例が幾つかあるが、下手人はロシアと言われている。両国間には、2014年以降にクリミヤとウクライナ東部のロシアへの分離独立問題があり、紛争が冷めやらない2015年と2016年の年末の寒い時期にウクライナで2年連続して電力がダウンした。
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「ウクライナにおける制御系システムへのサイバー攻撃」石井 延幸 (Cisco Japan Blog セキュリティ 2016年3月28日付 https://gblogs.cisco.com/jp/2016/03/syber-attack-in-ukraine/ より)

  しかし、これもまだましな方かもしれない。最も狡猾で、計画的周到さ、大規模で多くの要員を要し、多くの費用がかけられていることから、国家が関与しているに違いないと言われる重大なサイバー攻撃事例だったのが、イランの核開発施設の破壊事案である。(なぜか大澤氏の表にはない。)2000年代ヒトケタの頃、イランの核開発問題がイスラエルにとって焦眉の急の問題であった。イスラエルは米国に空爆の了承を求めたが米国は首を縦に振らず。その代わりがこのサイバー攻撃だった、と言われている。米国・イスラエルの共同作戦、コードネーム「オリンピックゲーム」の始まり。一説によると、・・・ある日、イランの核施設の職員がUSBメモリーを見つける。研究者のものらしい表示もあったので、エクスプロラーでショートカットファイルの閲覧によりファイルの名前だけでも確認しようと、USBを施設内のPCに差し込む。実はここにはwindowsの当時未知の脆弱性があり、USBを差し込んだだけで自動的にプログラム実行となり、マルウエアは侵入に成功した。このマルウェアはウラン濃縮のための遠心分離機を制御するドイツのシーメンス社製の小さな器材を探し、身を隠して感染に気付かせない。この器材に至って初めて器材を冒すプログラムを書き換える。そして、モニターには正常な運転状況であることを示す信号を再生しつつ、実は速くなったり遅くなったりのギリギリの異常を引き起こす。これにより2009年後半~2010年初頭に1000台もの遠心分離機が破壊され、イランの核開発を大幅に遅延させる状況に至らせた(※このマルウェアの凄いところは、決して核物質満載の遠心分離器を爆発させるような破滅的破壊をさせず、コントロールされた節度ある暴走でウラン濃縮ができなくしてしまうというシロモノだったこと)。イランの研究者達は何が起きたのかすら気づかなかった、と言われるほどの巧妙さだった。このマルウェアはStuxnetという米国国家安全保障局NSA(及びイスラエル当局)が作成した傑作マルウェアだった。イランの核施設のPCがOSとして使っているwindowsのまだ未知の脆弱性の情報を使い、そこを突いたエクスプロイトコードが浸透した。しかも遠心分離機の制御装置がドイツシーメンス社製の特定機種の器材と知っていて、それのみを狙い撃ちに、その器材の未知の脆弱性を突いた。これらの未知のセキュリティーホールは、前述のダークウェブで超高額で情報が売り買いされていると言う。これはもはや「サイバー兵器」と言えよう。こんなことを市井のハッカーができるとは思えない。やはり国家が背後に、いや、主導的に開発しない限り、こんな化け物のようなサイバー兵器は開発できない。(ちなみに、David E. Sanger著の「Confront and Conceal: Obama’s Secret Wars and Surprising Use of American Power 」(Crown Publishers)という本に、オバマ政権下のこのイラン核開発施設へのサイバー攻撃を含む裏話が克明に描かれている。まだ読破しておらず、Stuxnetのあたりを読んだ程度なので、そのうち読破したい。)
ナタンツ

2008年4月、イラン中部のウラン濃縮施設で遠心分離器を視察するアフマドネジャド・イラン大統領(当時)
「USBでウイルス感染 イラン核施設攻撃の手口」(毎日新聞経済プレミア 2018年7月26日 松原実穂子 / NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト: https://mainichi.jp/premier/business/articles/20180724/biz/00m/010/002000c より)


  しかし、「天網恢々、疎にして漏らさず」「人を呪わば穴二つ」という諺のように、このStuxnetは予期せぬことからネットに出回り、やがてThe New York Times紙が特ダネとして報じることになる。米国のNSAも、攻撃を了承したオバマ大統領もさぞ痛恨だったに違いない。イランの研究者が、自宅のPCに職場のファイルをUSBで持ち帰り私物のPCに繋いだのだ。これにより、Stuxnetは期せずしてインターネットを通じ世界に拡散した。拡散とともに世界のサイバー専門家の研究対象となり、その精密な全貌が明らかになった。これが世界に認知された国家によるサイバー兵器使用の最初の例と言える。ちなみに、この後、イランもサイバー攻撃により米国の電力インフラなどに対し報復と思われるサイバー戦を仕掛け、成功している。

  ついでに、2015年の日本年金基金の個人情報流出。これは某国が日本の官公庁を幅広く情報収集するものであったようだが、国内的には個人情報を流出させたのが年金機構だっただけに問題が炎上した。これは本格攻撃のための情報収集なので、そこで取った情報から本格攻撃の端緒や付け込みどころを既に押さえられたかもしれないのが怖いところ。ちなみに、2017年のWannacryランサムウェアの被害拡大事案は、金銭搾取目的のサイバー攻撃だったが、関係国の調査で「北朝鮮の犯行と断定」とされている。金銭搾取を国家が主導するという目的からして、これはサイバー攻撃ではあるがサイバー戦とは言えない。それはそれで問題だが・・。

  しかし、これら事例からもわかるように、国家によるサイバー攻撃、サイバー戦と言うのが現実問題としてあることについて認識をしていただけたことと思う。

3 サイバー戦時代のサバイバル
  国家が背後にいるサイバー戦でなくとも、一般的なサイバー攻撃の脅威は、もはや一般的に認識が広まっている。その一般論として、多くの方々が既に理解していることとして、サイバー攻撃への自衛策としては次のようなことが言える。
① OSやソフトの最新化
② 信頼できるセキュリティ対策ソフトを入れる
③ 怪しいサイト、ソフト、メールの添付文書には手を出さない

  この一般論の話でも裏を突かれるのがサイバーの世界だ。まず、①のOSにはどんなに脆弱性がないように作っても、必ず後で脆弱性が見つかる。見つかればすぐそこを修復するパッチを当てるよう促して脆弱性を塞ぐことに努めるが、塞ぐまでの間は脆弱。加えて、既述したStuxnetのように、まだ作った企業すら気づいていない未知の脆弱性を突いてくることもあり得る。②のセキュリティ対策ソフトについても、既知のマルウェアのリストと照合・検知・対処しているだけなので、未知のマルウェアの攻撃には気づかない。マルウェアは、次から次へ手を変え品を変えて新手の攻撃が出てくるのが現実。③についても、怪しければ手を出さないが、怪しまれない形で攻めて来るのでついつい手を出してしまうのだ。よく知っている信頼できる相手から、信頼できそうな添付文書が来ても開かないで済むだろうか?本人に電話する?毎回?ウイルススキャンする手はあるが、これも未知のマルウェアだったらOKしてしまうことになる。

  一般論でさえ安全確保が難しいのに、これが国家がバックアップしたサイバー攻撃だったら、対応は更に難しい。国家が国家に対するサイバー攻撃を想定すると、相手国の国家運営そのものの政府の重要システムや、国民生活の基盤となる電気・水道・ガスなどの重要インフラや金融も目標たり得る。今や、国家も重要インフラも、ほとんどシステム化。恐らく、平素システム化が進んでいるが故に、もはやマニュアル操作に習熟した要員が残っていないのではないだろうか。時代はIoTの時代なため、逆説的に脆弱なのだろう。  また、新手のマルウェアも勿論だが、そんな高度なマルウェアを開発しなくても、分散型サービス妨害攻撃いわゆる「DDoS攻撃」という一挙大量のアクセス要求が来たら、これだけで目標となるシステムの窓口はパンクし処理不能となる。しかも、攻撃元は特定が困難なのだ。自分の発信元を明らかにしないよう、偽装するソフトまである時代なのだ。しかも、不特定多数の踏み台(本人は自分のPCが踏み台にされているとは気づいていない)も使用される。攻撃元が断定できなければ抑止が効かない。

  結局、・・・これらの厳しい環境に順応するしかない。こうした厳しい環境を踏まえた上で、防御を固める。感染に気付き被害があっても、努めて損害を局限する。そして、また防御を固める。こんな地味な防御しかないのだろう。このように、サイバー攻撃に対するサバイバルというのは非常に難しい。これが現実なのだ。

4 日本のサイバー戦対処のあり方
  日本は基本的には防戦一辺倒が関の山であろうと思われる。米国のように、特定国へのサイバー攻撃を企図して秘密裏にサイバー兵器を作り、秘密裏に任務達成するようなことはできない。あるいは、サイバー攻撃を受けた場合、自衛権を発動して攻撃元に対して自衛隊による物理的攻撃をするぞ、という抑止が効くだろうか?いやぁー、それは無理、話にならない。そもそも攻撃元の特定は困難だし、サイバー攻撃に対して自衛権発動できるかの問題は、日本では政治的に無理だろう。余程の明白な急迫不正の侵害であっても、政治的に大もめし、判断に時間がかかるだろう。

  ならば、まず自ら防御を固めるところは厳重にやるしかない。これを盾とした上で、米国との強固な同盟を活用させてもらうのはいかがだろうか。サイバー戦に関し、米国と密接な連携を図り、米国の強大なサイバー戦能力の傘の下に入る。遠巻きな表現をしたが、早い話が、攻撃部門は米国に依存する。もって盾と矛の両者を保持し、攻防揺るがない体制を取るしかないのではないだろうか。

  前回のブログで書いた話に戻って申し訳ない。最近、米国が陸・海・空に加えて宇宙空間とサイバー空間も新たな戦場とするマルチドメインオペレーションというドクトリンに変えた。これに日本も同調し、新防衛計画の大綱にて多次元統合防衛力というドクトリンに移行し、米軍との運用相互運用性を高く維持する。様々な分野で、特に防御的な正面で米国を支える。その一方、サイバーを含め攻撃部門は米国の傘の下に入ることで、もって日本を敵にするということは米国を敵にすることになる、という戦略的抑止を効かせる。こういうことではなかろうか。
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多次元統合防衛力

  例えとして適切でないかもしれないが、誤解を恐れずに分かりやすく言うと、サイバー対処は核兵器対処になぞらえて考えると説明し易い。日本は決して核兵器を保有して攻撃に使うなどということはない。しかしながら、アジア太平洋地域の厳しい国際情勢からすれば、日本は弾道ミサイル等の核の脅威下にあるのが現実。従って、弾道ミサイル対処等の防御は固める。もし急迫不正の弾道ミサイル攻撃を受けた場合、米軍との密接な連携の下、日米の弾道ミサイル迎撃体制で対応する。我が国の領土領海領空に関わる侵害に対しては、日米共同作戦により断固として実力を行使して対処する。万が一、損害が出れば最小限に局限する。他方、米軍との密接な連携の下、この攻撃の策源地に対する攻撃を含めた広範な作戦を米軍は実施する。日本は、直接的な攻撃分野には支援できないが、米軍の作戦の後方支援の分野で強力にバックアップする。・・・この「弾道ミサイル対処」の部分を「サイバー攻撃対処」に置き換えれば、ご理解いただけるのではないだろうか。
  
  サイバー空間(及び宇宙空間)が第5の戦場と呼ばれる時代になったんですね。全く複雑怪奇な時代になりました。しかし、現実にそうなった以上、何とかこれに適応しなければなりません。日本の政治的及び国民の理解の範囲で対応するには、上記のような考えも有力な一案だと思いますが、いかがでしょうか。
  
  さて、次回の予告です。実は、この「第5の戦場」について、重大な脅威となる課題がもう一つあります。「電磁スペクトラム」といいます。実は防衛省の新防衛大綱の説明ではサラっと語っています。恐らく、この重大性について日本のマスコミさん達もまだ気付いていないかも知れません。この話をしないと、今やこんな攻撃に晒される時代になったのだ、という恐ろしさがご理解していただけないと思います。てなわけで、次回はそんな話を勉強させていただきます。

了」

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