金正恩から就任前のバイデン氏へ先制パンチ:その真意
就任前のバイデン氏に先制パンチをお見舞いした金正恩総書記
2020年1月6日、異例の党大会にて亡き祖父及び父親に対する敬意を表して自ら永久欠番にしていたはずの「総書記」ポストに就任した北朝鮮の金正恩総書記は、「最大の主敵である米国を制圧、屈服させる」などと米国をやり玉に上げ、戦略核戦力の開発を継続する方針を明示しました。党大会の直後の14日夜には、これまた異例の季節外れの軍事パレードをナイターで敢行し、開発した(?:張りぼてとの噂も)戦略兵器をデモ行進させました。これは明らかに、間もなく就任式を迎えるバイデン次期米国大統領へのメッセージですね。
(参照:2020年1月15日付 VOA記事「North Korea Shows Off New Submarine-Launched Missile at Military Parade」、及び2020年1月11日付 BBC記事「'Your move, Mr President': North Korea sets the stage for Biden」)

1月14日夜の軍事パレード(Military equipment is seen during a military parade to commemorate the 8th Congress of the Workers' Party in Pyongyang, North Korea, Jan. 14, 2021 in this photo supplied by North Korea's Central News Agency (KCNA))(同上VOA記事より)
先制パンチで金正恩がバイデン氏に伝えたかったメッセージは?
私見ながら、今回の演説で金正恩総書記は、トランプ大統領と3回も首脳会談をしたのに、結局頓挫してしまった米朝交渉を白紙に戻し、いやいや、白紙に戻すどころか、来るべきバイデン政権との米朝交渉では、「優位に立っているのは俺だぞ!」と先制パンチをかましたのだ、と見ています。トランプ大統領との米朝交渉の焦点は、米側が「非核化」、すなわち「北朝鮮は核開発を断念し、廃棄せよ」とトランプに迫られ、「我が国(北朝鮮)は一定の非核化に向けた措置をしているのだから、米国は経済制裁を解け!」という論点でのぶつかり合いで、結局頓挫していました。金正恩にしてみれば、その後も粛々と核開発を続行し、もはやトランプ大統領と交渉していた頃より戦略核の開発が進んでいる、という自負があるのです。従って、金正恩にしてみれば、既にかなり核開発が進んでいるため、今更米国が北朝鮮に核開発の放棄を迫っても遅いのだ、北朝鮮は既に米国本土を直接狙える大陸間弾道弾を保有し、仮に米国が先制核攻撃などを仕掛けようものなら居場所不明の移動式弾道ミサイルや潜水艦発射弾道弾などの報復第2撃能力を保有している、米国ですら侮れない戦略核戦力を持っているのだぞ!という意味で、米国に対し「優位に立っている」との姿勢を見せつけたわけです。さぁ、戦略核を保有する国同士で大人の交渉をしようぜ、という一歩も退かない姿勢を見せたかったのでしょう。
ちなみに、金正恩は、今後保有する戦略核戦力のラインナップを列挙しています。
longer-range missiles(更に長距離のミサイル)
better missiles(更に高性能なミサイル)
hypersonic missile(超音速ミサイル)
military reconnaissance satellites(軍事偵察衛星)
solid-fuel intercontinental ballistic missiles(固体燃料の大陸間弾道弾)
new unmanned aerial vehicle(新型ドローン)
new nuclear warheads(新型核弾頭)
tactical nuclear weapons(戦術核兵器)、 ・・・・
勿論、これらは開発中もしくは目指しているものであって、ないものねだりに過ぎません。しかしながら、確かに侮れない開発力を持っているのは間違いありません。
しかし、これらは精一杯の背伸び:猫(北朝鮮)が虎(米国)に精一杯の威嚇
私見ながら、先制パンチはかましたものの、金正恩としてはこれは精一杯の背伸びでしょう。猫が虎に対して「フーッ」と威嚇姿勢を示しているだけで、虎に本気になられたら喧嘩にならないことは金正恩自身が一番理解しているところです。
まず、北朝鮮の経済は今やガタガタです。長年の米国による経済封鎖で限界まで疲弊しており、更に昨年来のコロナウイルス対策のための中国との国境の封鎖でダブルパンチ。もはや経済はガタガタのヨロヨロ。今回、異例の党大会を開催したのも、冒頭の金正恩演説にてこれまで威勢よく推進してきたはずだった5ケ年計画経済政策が、実は壊滅的に進捗しておらず、「失敗であった」と異例の自己批判と謝罪をしています。そんな中での核開発や「先軍」主義の軍備拡大で、経済疲弊に拍車をかけました。なけなしの国力を戦略核兵器の開発につぎ込んでいるため、様々な経済政策は名ばかりで実なく、北朝鮮軍の末端の部隊には車両のガソリンもなく兵士の給料も差止め、況や庶民の暮らしをや、の状態。今回の軍事パレードも、コロナ罹患者はいないことになっているから海外メディアに出すような映像には3密会費や人々のマスク姿など写っていませんが、海外メディアの目に触れない現場では、党大会ですらソーシャルディスタンスとマスク姿だったようです。金ないのにあんな贅沢な軍事パレードを敢行してまで、バイデン次期大統領就任前に一発かましたかったわけです。
金正恩の真意は、今後の米朝交渉で何とか米側の歩み寄りを引き出して、すなわち経済制裁の緩和という実質的な明るい道筋をつけたくてウズウズしているのでしょう。そのための方法論として、一発ハッタリをかましてきたのです。ハッタリと言っても、全くのウソ八百のハッタリではなく、瀬戸際政策としてギリギリの方のハッタリです。下手をしたら「死なばもろとも」という最後の手段を出してくるかもしれない危険なハッタリです。
北朝鮮といい、イランといい(否、イスラエルと言った方が正確かも)、いやいや、その前に当面のコロナ対策といい、バイデンさんにとっては頭の痛い話ばかりですね。
(了)


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2020年1月6日、異例の党大会にて亡き祖父及び父親に対する敬意を表して自ら永久欠番にしていたはずの「総書記」ポストに就任した北朝鮮の金正恩総書記は、「最大の主敵である米国を制圧、屈服させる」などと米国をやり玉に上げ、戦略核戦力の開発を継続する方針を明示しました。党大会の直後の14日夜には、これまた異例の季節外れの軍事パレードをナイターで敢行し、開発した(?:張りぼてとの噂も)戦略兵器をデモ行進させました。これは明らかに、間もなく就任式を迎えるバイデン次期米国大統領へのメッセージですね。
(参照:2020年1月15日付 VOA記事「North Korea Shows Off New Submarine-Launched Missile at Military Parade」、及び2020年1月11日付 BBC記事「'Your move, Mr President': North Korea sets the stage for Biden」)

1月14日夜の軍事パレード(Military equipment is seen during a military parade to commemorate the 8th Congress of the Workers' Party in Pyongyang, North Korea, Jan. 14, 2021 in this photo supplied by North Korea's Central News Agency (KCNA))(同上VOA記事より)
先制パンチで金正恩がバイデン氏に伝えたかったメッセージは?
私見ながら、今回の演説で金正恩総書記は、トランプ大統領と3回も首脳会談をしたのに、結局頓挫してしまった米朝交渉を白紙に戻し、いやいや、白紙に戻すどころか、来るべきバイデン政権との米朝交渉では、「優位に立っているのは俺だぞ!」と先制パンチをかましたのだ、と見ています。トランプ大統領との米朝交渉の焦点は、米側が「非核化」、すなわち「北朝鮮は核開発を断念し、廃棄せよ」とトランプに迫られ、「我が国(北朝鮮)は一定の非核化に向けた措置をしているのだから、米国は経済制裁を解け!」という論点でのぶつかり合いで、結局頓挫していました。金正恩にしてみれば、その後も粛々と核開発を続行し、もはやトランプ大統領と交渉していた頃より戦略核の開発が進んでいる、という自負があるのです。従って、金正恩にしてみれば、既にかなり核開発が進んでいるため、今更米国が北朝鮮に核開発の放棄を迫っても遅いのだ、北朝鮮は既に米国本土を直接狙える大陸間弾道弾を保有し、仮に米国が先制核攻撃などを仕掛けようものなら居場所不明の移動式弾道ミサイルや潜水艦発射弾道弾などの報復第2撃能力を保有している、米国ですら侮れない戦略核戦力を持っているのだぞ!という意味で、米国に対し「優位に立っている」との姿勢を見せつけたわけです。さぁ、戦略核を保有する国同士で大人の交渉をしようぜ、という一歩も退かない姿勢を見せたかったのでしょう。
ちなみに、金正恩は、今後保有する戦略核戦力のラインナップを列挙しています。
longer-range missiles(更に長距離のミサイル)
better missiles(更に高性能なミサイル)
hypersonic missile(超音速ミサイル)
military reconnaissance satellites(軍事偵察衛星)
solid-fuel intercontinental ballistic missiles(固体燃料の大陸間弾道弾)
new unmanned aerial vehicle(新型ドローン)
new nuclear warheads(新型核弾頭)
tactical nuclear weapons(戦術核兵器)、 ・・・・
勿論、これらは開発中もしくは目指しているものであって、ないものねだりに過ぎません。しかしながら、確かに侮れない開発力を持っているのは間違いありません。
しかし、これらは精一杯の背伸び:猫(北朝鮮)が虎(米国)に精一杯の威嚇
私見ながら、先制パンチはかましたものの、金正恩としてはこれは精一杯の背伸びでしょう。猫が虎に対して「フーッ」と威嚇姿勢を示しているだけで、虎に本気になられたら喧嘩にならないことは金正恩自身が一番理解しているところです。
まず、北朝鮮の経済は今やガタガタです。長年の米国による経済封鎖で限界まで疲弊しており、更に昨年来のコロナウイルス対策のための中国との国境の封鎖でダブルパンチ。もはや経済はガタガタのヨロヨロ。今回、異例の党大会を開催したのも、冒頭の金正恩演説にてこれまで威勢よく推進してきたはずだった5ケ年計画経済政策が、実は壊滅的に進捗しておらず、「失敗であった」と異例の自己批判と謝罪をしています。そんな中での核開発や「先軍」主義の軍備拡大で、経済疲弊に拍車をかけました。なけなしの国力を戦略核兵器の開発につぎ込んでいるため、様々な経済政策は名ばかりで実なく、北朝鮮軍の末端の部隊には車両のガソリンもなく兵士の給料も差止め、況や庶民の暮らしをや、の状態。今回の軍事パレードも、コロナ罹患者はいないことになっているから海外メディアに出すような映像には3密会費や人々のマスク姿など写っていませんが、海外メディアの目に触れない現場では、党大会ですらソーシャルディスタンスとマスク姿だったようです。金ないのにあんな贅沢な軍事パレードを敢行してまで、バイデン次期大統領就任前に一発かましたかったわけです。
金正恩の真意は、今後の米朝交渉で何とか米側の歩み寄りを引き出して、すなわち経済制裁の緩和という実質的な明るい道筋をつけたくてウズウズしているのでしょう。そのための方法論として、一発ハッタリをかましてきたのです。ハッタリと言っても、全くのウソ八百のハッタリではなく、瀬戸際政策としてギリギリの方のハッタリです。下手をしたら「死なばもろとも」という最後の手段を出してくるかもしれない危険なハッタリです。
北朝鮮といい、イランといい(否、イスラエルと言った方が正確かも)、いやいや、その前に当面のコロナ対策といい、バイデンさんにとっては頭の痛い話ばかりですね。
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