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2021/01/20

金正恩から就任前のバイデン氏へ先制パンチ:その真意

就任前のバイデン氏に先制パンチをお見舞いした金正恩総書記
 2020年1月6日、異例の党大会にて亡き祖父及び父親に対する敬意を表して自ら永久欠番にしていたはずの「総書記」ポストに就任した北朝鮮の金正恩総書記は、「最大の主敵である米国を制圧、屈服させる」などと米国をやり玉に上げ、戦略核戦力の開発を継続する方針を明示しました。党大会の直後の14日夜には、これまた異例の季節外れの軍事パレードをナイターで敢行し、開発した(?:張りぼてとの噂も)戦略兵器をデモ行進させました。これは明らかに、間もなく就任式を迎えるバイデン次期米国大統領へのメッセージですね。
(参照:2020年1月15日付 VOA記事「North Korea Shows Off New Submarine-Launched Missile at Military Parade」、及び2020年1月11日付 BBC記事「'Your move, Mr President': North Korea sets the stage for Biden」)
NK Military parade Jan14,2021
1月14日夜の軍事パレード(Military equipment is seen during a military parade to commemorate the 8th Congress of the Workers' Party in Pyongyang, North Korea, Jan. 14, 2021 in this photo supplied by North Korea's Central News Agency (KCNA))(同上VOA記事より)

先制パンチで金正恩がバイデン氏に伝えたかったメッセージは?
 私見ながら、今回の演説で金正恩総書記は、トランプ大統領と3回も首脳会談をしたのに、結局頓挫してしまった米朝交渉を白紙に戻し、いやいや、白紙に戻すどころか、来るべきバイデン政権との米朝交渉では、「優位に立っているのは俺だぞ!」と先制パンチをかましたのだ、と見ています。トランプ大統領との米朝交渉の焦点は、米側が「非核化」、すなわち「北朝鮮は核開発を断念し、廃棄せよ」とトランプに迫られ、「我が国(北朝鮮)は一定の非核化に向けた措置をしているのだから、米国は経済制裁を解け!」という論点でのぶつかり合いで、結局頓挫していました。金正恩にしてみれば、その後も粛々と核開発を続行し、もはやトランプ大統領と交渉していた頃より戦略核の開発が進んでいる、という自負があるのです。従って、金正恩にしてみれば、既にかなり核開発が進んでいるため、今更米国が北朝鮮に核開発の放棄を迫っても遅いのだ、北朝鮮は既に米国本土を直接狙える大陸間弾道弾を保有し、仮に米国が先制核攻撃などを仕掛けようものなら居場所不明の移動式弾道ミサイルや潜水艦発射弾道弾などの報復第2撃能力を保有している、米国ですら侮れない戦略核戦力を持っているのだぞ!という意味で、米国に対し「優位に立っている」との姿勢を見せつけたわけです。さぁ、戦略核を保有する国同士で大人の交渉をしようぜ、という一歩も退かない姿勢を見せたかったのでしょう。
 ちなみに、金正恩は、今後保有する戦略核戦力のラインナップを列挙しています。
 longer-range missiles(更に長距離のミサイル)
 better missiles(更に高性能なミサイル)
 hypersonic missile(超音速ミサイル)
 military reconnaissance satellites(軍事偵察衛星)
 solid-fuel intercontinental ballistic missiles(固体燃料の大陸間弾道弾)
 new unmanned aerial vehicle(新型ドローン)
 new nuclear warheads(新型核弾頭)
 tactical nuclear weapons(戦術核兵器)、 ・・・・
 勿論、これらは開発中もしくは目指しているものであって、ないものねだりに過ぎません。しかしながら、確かに侮れない開発力を持っているのは間違いありません。

しかし、これらは精一杯の背伸び:猫(北朝鮮)が虎(米国)に精一杯の威嚇
 私見ながら、先制パンチはかましたものの、金正恩としてはこれは精一杯の背伸びでしょう。猫が虎に対して「フーッ」と威嚇姿勢を示しているだけで、虎に本気になられたら喧嘩にならないことは金正恩自身が一番理解しているところです。
 まず、北朝鮮の経済は今やガタガタです。長年の米国による経済封鎖で限界まで疲弊しており、更に昨年来のコロナウイルス対策のための中国との国境の封鎖でダブルパンチ。もはや経済はガタガタのヨロヨロ。今回、異例の党大会を開催したのも、冒頭の金正恩演説にてこれまで威勢よく推進してきたはずだった5ケ年計画経済政策が、実は壊滅的に進捗しておらず、「失敗であった」と異例の自己批判と謝罪をしています。そんな中での核開発や「先軍」主義の軍備拡大で、経済疲弊に拍車をかけました。なけなしの国力を戦略核兵器の開発につぎ込んでいるため、様々な経済政策は名ばかりで実なく、北朝鮮軍の末端の部隊には車両のガソリンもなく兵士の給料も差止め、況や庶民の暮らしをや、の状態。今回の軍事パレードも、コロナ罹患者はいないことになっているから海外メディアに出すような映像には3密会費や人々のマスク姿など写っていませんが、海外メディアの目に触れない現場では、党大会ですらソーシャルディスタンスとマスク姿だったようです。金ないのにあんな贅沢な軍事パレードを敢行してまで、バイデン次期大統領就任前に一発かましたかったわけです。
 金正恩の真意は、今後の米朝交渉で何とか米側の歩み寄りを引き出して、すなわち経済制裁の緩和という実質的な明るい道筋をつけたくてウズウズしているのでしょう。そのための方法論として、一発ハッタリをかましてきたのです。ハッタリと言っても、全くのウソ八百のハッタリではなく、瀬戸際政策としてギリギリの方のハッタリです。下手をしたら「死なばもろとも」という最後の手段を出してくるかもしれない危険なハッタリです。

 北朝鮮といい、イランといい(否、イスラエルと言った方が正確かも)、いやいや、その前に当面のコロナ対策といい、バイデンさんにとっては頭の痛い話ばかりですね。

(了)

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2019/12/28

北朝鮮のXマスギフトの行方

  クリスマスギフトと言うからには、本来イブ12月24日か当日25日なのに、誰も楽しみにはしていなかったものの、音沙汰ないと「あれ?」と勘ぐり始めるものです。
  そう。北朝鮮が米朝交渉の進展の一方的な期限をこの年末とし、「進展がなないならXマスギフトを送るぞ」と恐喝していたのですから。
  2019年12月26日付VOA記事「No North Korean ‘Christmas Gift’ Yet, But Deadline Looms」では、その「あれ?」を記事にしています。

RTS2VT77.jpg
North Korean leader Kim Jong Un speaks during the Third Enlarged Meeting of the Seventh Central Military Commission of the Workers' Party of Korea in this undated photo released Dec. 22, 2019, by North Korea's Korean Central News Agency.
(2019年12月26日付VOA記事「No North Korean ‘Christmas Gift’ Yet, But Deadline Looms」より)

<私見ながら>
  米国政府も米軍も、公算大と思われていたのはICBMの発射。私見ながら、日本列島越しでハワイ近海や日本越しせずともグアム島近海に落下、さもなくば潜水艦発射弾道ミサイルであるのではないか思っていました。今のところないですね。このまま撃たないでしょうね。24日や25日に撃たずにどん詰まりの30日/31日にあるとも思えません。しかし、発言したからには実行するオプションはあったのだと思います。しかし、その後の国連での対北朝鮮決議の動きなどを見て、再考したのでしょうか・・・。

○ 年内に撃つか、もう撃たないか、で何が分かるか
  「年内に撃つ」とすれば、本来はクリスマスに撃つつもりだったが、国内でも議論があって結論が出ず。或いは、実は米国と水面下で交渉をしていてクリスマスを持ち越したが、結局決裂したので、やはり撃つ。・・・というところでしょうか。
  もし前者なら、まだ北朝鮮にもスタッフが議論するというシステムが残っているという朗報。金正恩の独裁と言いつつも、議論は存在するということ。或いは、部下の議論ではなく金正恩自身が決断を迷って機を逸し、しかしやはり撃つということです。何を迷ったか?が撃ったことで返って悪影響大で利益がないかも、と迷ったのだとしたら「初めから言うな」って話ですよね。
  後者だとすれば、12月中も米国のビーガン北朝鮮政策特別代表(つい最近国務副長官に昇進)が交渉を追求していましたから、実はアンダーで調整を進めていたのかも。世に出ていないそれなりの交渉があって、クリスマス前には判断できず、しかしやはり決裂して、それで撃つことに…。なくはないでしょうが、ちょっと無理がありますね。

  「もう撃たない」とすれば、スタッフの議論なのか、金自身の判断なのかで撃たないことに決めたのか、或いは、本当に対米交渉が進展したから撃たなかったのか、です。
  議論にせよ、金正恩自身の迷いにせよ、対米交渉で進捗がないのに結局撃たなかったっていうのは中々興味深いですね。これまた「初めから言うなよ」という話。これまでも、北朝鮮は「ソウルを火の海にしてやる」とよく言ってきました。ソウルのみならず日本や米国も火の海って言ってましたが、それは脅しだけでした。あの頃、そう言われてもどの国もどうせ口だけだと思っていましたが・・・。だから今回もそうなのでしょうか。もう北朝鮮にもかなりの力がありますから、今回が口だけだったというのは、少し考えづらいですね。でも、今回も口だけだったというのなら、それはそれでホッとしますけどね。
  或いは、既述のビーガン北朝鮮特別代表とのアンダーの交渉で一応の進捗、すなわちアンダーで経済制裁の一部解除とか事実上の支援策を獲得したので、だから撃たない、ということ。もし、そうだとすれば、その進捗はトランプが金正恩の脅しに屈したことになるので、世の中には伏せている、ということです。しかし、もし制裁解除などの進捗があれば北朝鮮は喧伝すると思いますが・・・。それが全くないので、米側から「内緒にしてね」と言われて了解してるってことですが。あれ?そう言えばビーガンが12月20日付で国務副長官に昇進しました。アンダーの交渉のご褒美?そうなの? ・・・いやぁ、それも考えづらいですね。

  まだ数日ありますし、ハッピーニューイヤーでお年玉ってこともあるかもしれませんが・・・。
  まぁ、トランプがよく言う言葉で言えば、We’ll see. じっくり見てみましょうか。

(了)

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2019/12/20

北朝鮮はX’マスギフト=ドッキリ発射をするか?

 12月20日付VOA記事(※)によれば、米国政府は北朝鮮がクリスマスギフト(ミサイル発射実験など)をするのではないか?と北朝鮮の動向を注視している模様。あり得る話であり、先般のエンジン燃焼実験で自信を深めた北朝鮮が勇み足をすることは十分考えられる。
 しかし、その勇み足がトランプの逆鱗に触れて取り返しのつかない事態になることも。北朝鮮の自重を祈るしかない。
※ 2019年12月20日付VOA記事「US Watching North Korea for 'Christmas Gift' Missile Launch」

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VOA 2019年12月13日付記事「Pentagon Tests Long-Banned Ballistic Missile Over Pacific」より

<状況>
  米国は、北朝鮮が先般の固体燃料によるエンジン燃焼テストで核ミサイル開発成功に自信を深めたものと見ている。北朝鮮は、自ら一方的に設定した「今年中」という交渉期限が切れることを米国政府に対して警告してきた。何もせずに期限切れを見過ごすとも思えない。米国本土に直接届く大陸間弾道ミサイルICBMをすでに開発し、動きに気付かれずに発射できる固体燃料でのエンジン燃焼実験にも成功。加えて、北朝鮮は既に、どこかの海の底に隠れて報復第2撃を担保する潜水艦発射弾道ミサイルSLBMも開発成功した、と主張している。まだ不確かではあるものの、これは北朝鮮が戦略核抑止力をすでに持ったことを意味する。

<私見ながら>
◯  十分考えられること
   期限切れを警告していた北朝鮮が、米国や関係国に対し期限切れを戒めるペナルティーとして何らかの行動をとることは十分に考えられる。これが、いつもの日本海の域を出ないものなら(日本の経済専管水域に入ろうが)大事に至りませんが、これが本当にドッキリ・ビックリの発射であったら、これは大事(おおごと)です。例えば、固体燃料満載で、日本列島越しの大気圏越えロフテッド軌道で長射程の弾道ミサイル発射実験をするとか、グアム島の近海に弾頭部が到達落下するとか、或いは、潜水艦発射弾道ミサイルを発射し太平洋上に到達・落下させるとか。悲しいかな、これは十分に考えられるオプションです。
   北朝鮮の行動も、まだ開発途上の数年前までは、実は米国への言葉の挑発はあっても、実は割と慎重でした。これも12月7日のエンジン燃焼実験で自信を深めたことで、大きく出てくるかもしれない、それも十分あり得る、と懸念しています。

◯ 勇み足は限度が過ぎると命取り
   もし、こんなドッキリ発射があったら、米国政府も日本政府も防衛省もマスコミも、蜂の巣を突つく大騒ぎになるでしょう。トランプ大統領は面目をつぶされて、さすがに今回は激怒するでしょう。なぜなら、これまでトランプ大統領にしては上出来なほど、北朝鮮の挑発的なミサイル発射実験などに寛大なコメントをし、何とか非核化を進めようと根気よくやってきたつもりだと思います。それがなめられたとあっては、これまで腹では怒っていても表面上は我慢してきたトランプ大統領も、堪忍袋の緒が切れるでしょう。しかし、怒ったとしても、例えば日本列島越えくらいなら、日本人にとっては大騒ぎであっても、米国民が脅かされない限り、トランプの怒りは想定内であり、怒ったポーズであろうと思います。ところが、もし、グアム島やハワイなどの近海に落下するなど、米国民が住む土地を脅かすような場合は、激怒どころか逆鱗に触れます。それこそ「Fire and Fury」の世界。本当に怒ったら何をするかわからない男ですから。ご本人の性格はともかく、軍の態勢は恐らく一触即発の臨戦態勢に入るでしょう。在韓米軍は最高度の臨戦態勢、沖縄、三沢は勿論、グアムやハワイの海空軍や、果ては本土の戦闘機や爆撃機がオンアラートへ。空母も極東正面へ集まって来る。恐らく、サイバー攻撃もやるでしょうね。来年の選挙への「強い大統領」アピールもありますし、本当に実力行使に出るかもしれません。

まだ、いつもの短射程のロケットを発射し日本海に到達・落下というものなら「やりやがったな」とニガ笑いで済みます。祈っても効き目はないでしょうが、北朝鮮の自重を祈るばかりです。

(了)

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2019/11/03

焦れる北鮮、トランプは塩対応

焦れる北鮮、トランプは塩対応

 2019年10月31日(木)、北朝鮮はまたもミサイル発射。これに対し、相変わらず、米国トランプ大統領は全く音無しの構え。今回の発射は、北朝鮮が一向に進展しない米国との交渉に苛立ちを見せているものと思われます。
 朝鮮側の複雑な思惑の交錯について、2019年11月1日付VOA記事「Eyeing Impeachment Inquiry, North Korea Pushes US on Denuclearization Deadline」が報じています。
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FILE - President Donald Trump reacts to the crowd after speaking during his reelection kickoff rally at the Amway Center, June 18, 2019, in Orlando, Fla. 本年6月に再選に向けてのフロリダ州でのキックオフにて(上記VOA記事より)

<状況>
① 10月31日(木)、北朝鮮は再びミサイルを発射、ミサイルは日本海の日本の排他的経済水域内に落下。北朝鮮は、米朝交渉が本年末に期限を迎える前に、非核化と引き換えの経済制裁の先行的緩和などの一定の進展を促すため、これらの一連の段階的に高いプレッシャーをかけているものと思われる。事実、北鮮政府は発射前に同趣旨の声明を出している。

② 本年(2019年)2月のハノイでの米朝首脳会談の後、特段の進展なく、10月のストックホルムでの事務レベル交渉でも進展なく、北朝鮮高官は期限を無視するのは米側にとって「重大な誤り」であり、いつでも交戦に至る可能がある旨、警告している。

③ これらの背景として、北朝鮮では複雑な思惑が交錯。北朝鮮にとって弾劾審査は左程重視しておらず、むしろ来年の次期大統領選を最重要視。北朝鮮は、来年の選挙を見越して本年末の交渉進展期限を設定。トランプの再選なき場合、米朝関係は逆戻りの可能性もある。よって、現トランプ政権のうちに交渉を進め制裁緩和を獲得したい、と企図。他方、金正恩にとり、歴代の米大統領は北朝鮮との直後交渉を拒んでおり、首脳会談まで実施できたのはトランプ大統領のみであり、実は再選が望ましい。交渉の足踏み状態への焦れあるものの、トランプを国内的窮地に追いやることは避けたい。複雑な思いで状況を見極めている模様。

④ 他方、トランプ米大統領は、9月以来弾劾問題(※)への対応に全力投入、現在下院において弾劾審査の手続きの渦中。北朝鮮との非核化交渉で米側が先行的に譲歩し、経済制裁を緩和するような政治的にリスクが高いことは何もしないであろう、と見られている。(※次期大統領選の有力候補バイデン氏の子息のウクライナ国内での問題の捜査をめぐり、トランプ米大統領が同国への援助をテコに恣意的に関与した、との疑惑)

<私見ながら>
◯ 北朝鮮が、米朝交渉の暗礁乗り上げ状態に対して、焦れに焦れていることは明白ですね。これまでもミサイル発射は数度に及んでありましたが、もはや「テスト(=発射実験)」や「データ収集のため」の段階のものではなく、必要ないのに政治的メッセージの発信という手段になっています。これまでも、政治的メッセージとして国営放送で相手を口汚く罵ったり、国連や交渉後のぶら下がり会見で北朝鮮高官が不快感や要求などのコメントを発することがありました。また、ワザと米本土に届く長射程化や潜水艦発射化、弾頭の多弾頭同時多目的攻撃可能化などをPRしたこともありました。今回のは、PRすべきほどの驚愕のものはなく、発射時間もこれまで早朝だったのに今回は夕暮れ時。結局、焦れや不快感をPRしているとしか、今回の発射理由の解釈の仕様がない感じです。
   他方で、金正恩のトランプに対する愛憎合わせ持つ複雑な心境は、十分に理解できます。

◯ では、その気持ちはトランプに伝わっているのか? 全く伝わらないないでしょうね。状況④の通り、トランプさんは今、バイデン氏の息子をウクライナ政府に不当な圧力をかけて捜査させたとの疑惑でてんやわんや。大統領としても本来の内政政策や外交政策を脇において、この問題への対応のために報道官を新たに採用したり、CMを作ったり、共和党議員と次々に会ったり、・・・。なぜなら、つい2ケ月前くらいまでは弾劾はないだろうと言われていたこの案件が下院で可決され、上院で審査となるのはほぼ確実。歴史上この境遇になった人はトランプさん以前には、南北戦争時代のアンドリュー・ジャクソンとクリントン、そして上院の弾劾の前に辞任したニクソンの3人しかいないのですから。何とか、そんなことで歴史に名を残すことがないように、とトランプ大統領の頭にはこれしかありませんよ。

   自分のケツに火の粉がかかった状態ですから、恐らく北朝鮮への対応などout of 眼中。トランプ米大統領は、北朝鮮のミサイル発射の報を受け、まず初めは「この忙しい時になんてバカなことを・・・」と内心激怒し、それでも落ち着いて側近の説明や分析を聞き、言いたいことはグッと丸呑みして、マスコミの前では大人の対応。いやー、トランプさんも成長しましたね。結果的に、焦れったくてミサイル発射し、「期限」を振りかざして米国の譲歩=制裁緩和〜解除を期待したって、トランプ米大統領は相変わらず塩対応なのです。
   実質的な対応は何もしないでしょう。北朝鮮のいう「期限」とは、米国が一方的に制裁を解除することが非核化のスタート、とでも考えているようです。その一方で、米国の考えでは、まず北朝鮮が非核化の具体的なプロセスとして実質的な核実験施設や核の濃縮技術などの核開発施設の廃棄を進めるとか、そういった非核化の実質的推進の証拠を見せない限り、制裁は解かないと終始明言しています。 よって、「期限」を振りかざしたところで何も動かない。結局、北朝鮮の「片思い」ないし「一方的な思い込み」の強い瀬戸際外交としか言いようがありません。

   怖いのは、北朝鮮が更に焦れて、「おい!期限を無視すんじゃないよ!」とばかり、例えばグアム島やハワイ諸島の近所にミサイルを撃つとか、そんな状況を見誤ったことをしたら、さぁ大変。トランプ大統領は必ず実力行使に出るでしょう。むしろ、直接軍事衝突の一歩手前を演出して、弾劾が吹き飛ぶような危機を作り、対北朝鮮で米国の国論を統一するかも・・・・。北朝鮮がそうした愚挙に出なければいいのですが。

(了)


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2019/07/01

トランプにいい所を持って行かれた!

いやー、隠し玉でやられましたね。土曜に板門店で金正恩とのランデブーをツイッターで呼びかけた時に、これは別動隊の外交チームがG20の裏で動いていて、平壌とのアンダーの呼びかけをしているな、と思いました。恐らくは、G20以前の先週のトランプと金の間の書簡の交換の時点で、アンダーの話し合いで概ねG20後の板門店で頂上会談てのはどう?という世界へのサプライズが用意されていたのでしょうね。してやられました。クソー、トランプにいい所を持っていかれました。
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President Trump makes history, sets foot in North Korea (Fox News, Jun. 30, 2019より)


今回の両首脳の会合の評価は分かれると思いますが、私見ながら大いに評価したいと思います。
「評価しない」というのは、トランプ+金の両首脳の会合自体は、「歴史的」であってもセレモニアル乃至サプライズなだけで、実質は1時間くらいの会談で何も具体的なことは話されておらず、ただ協議を再開すると決めただけではないか、という論点だと思います。ただのパフォーマンスと見る見方でしょう。
しかしながら、二人が揃って握手した後、双方が国境線を超えて見せたこと、そして韓国サイドの建物で1時間に及ぶ首脳会談をしたってことは、トランプ-金両首脳が相互に話をしたいと個人的に思ったからです。勿論、両首脳とも大好物の、世界に対するサプライズやパフォーマンスもあるとは思います。それでも認めねばならないのは、この二人が二人とも暴君であるが故に、どうやら相互に一応の信頼関係がある、ということは評価すべきポイントでしょう。
普通の民主国家の首脳は、しっかりしたスタッフが脇をしっかりと固めていて、ともすると、もはや首脳の意見はスタッフが台本を作って双方のスタッフ間で握っていて、その台本の域を逸脱しない場合が多いくらいですから。この二人には台本がないのでは?基本的なキャラが似てるのだと思います。トランプさんが北の地を踏むということについて、米国大統領が北朝鮮の土を踏むということの意味を難しく議論する専門家がいて、さぞや嘆いていることと存じますが、恐らくトランプさんにはそんな深読みや堅い考えはどうでもいいことなんですよ。知らねえよバカ!と思っていて、そんなものは屁とも思わず、むしろ常識論をぶち壊しにすることに快感を感じていることでしょう。金委員長もそういう思考でしょうね。まぁ勿論、北朝鮮の場合は金委員長を批判する者は皆無でしょうけど。

今後の数週間のうちに、双方のスタッフが本格的に協議を開始し、数ヶ月後には首脳会談をどこかでやることになるでしょう。勿論、課題は山積みですし、交渉の行方は険しいものだと思います。私は現実主義者なのでこれで北朝鮮が非核化したり南北和平が実現するなんて夢想していません。しかし、前に進んだことは間違いありません。イランとの緊張のような疑心暗鬼よりはよっぽどましです。

トランプさんの常套句を使わせてもらえば、「We’ll see.= まぁ、様子を見てやろうじゃないか。」ってところですね。
(了)


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