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2020/02/21

トランプ: 中国メディアを宣伝機関扱いに


トランプ政権は、中国政営メディアを報道機関の位置付けから「中国政府の強い統制を受けるプロパガンダ機関に過ぎない」として在米の外国大使館・領事館と同等の扱いに変更。これにより中国国営メディアは全職員の名簿提出や米国での保有資産状況の報告などが義務付けられる。中国がこれに反発することは必至であり、今後在中国の米国メディアが報復措置で強い統制を受けることを懸念する声も。
(VOA記事2020年2月18日(火)付「US Imposes New Rules on State-Owned Chinese Media Over Propaganda Concerns」参照。下の写真も同記事から)
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英字紙チャイナ・デイリーを読む人民解放軍将校

<状況>
① 2月18日(火)、トランプ政権は中国国営メディア5社(the Xinhua News Agency新華社通信、China Global Television Network中国国際テレビ、China Radio International中国国際放送、China Daily Distribution Corp.英字紙チャイナ・デイリー、Hai Tian Development USA, Inc.米国海天発展)を大使館や領事館と同等のランクに位置付ける措置を発表。これにより、これらのメディアは全職員の名簿(雇用も解雇も)を提出し、米国での保有資産(賃貸も保有も)を米国務省に提出することが義務付けられる。

② 今回の措置の理由は、これらの中国国営メディアが、中国政府の強い統制を受け中国共産党のプロパガンダ機関となっており、もはや報道機関ではない、との米国政府の判断。ある高官によれば、これは習近平主席がその地位についてから一層統制が強まっているとのこと。

③ VOA記事では中国政府の反発について具体的言及はないが、この記事の翌日2月19日の中国外務省の記者会見にて、すぐさま激しく反論。しかし、いかなる報復を考えているかとの質問には、報復する権利があると言うにとどめた。

<私見ながら>
○ しかしトランプって人は・・・
  無茶苦茶な大統領ですよね。普通の米国大統領なら、ここまであからさまに好ましく思っていない国に対してあの手この手で攻撃しません。ファーウェイへの狙い撃ち攻撃もそうですが、今度はメディアが攻撃目標になりましたね。今回の中国のメディアの格下げ的扱い、冷戦華やかなりし頃のソ連の国営メディアもプロパガンダでしたが、今回のような扱いはしていませんでした。確かに中国国営メディアの偏向報道や政治宣伝は凄いけれども、今に始まったことではなく、およそ共産国や独裁国家というものは、大方偏向報道だし政治宣伝ばかりでしょう。加えて、確かに習近平が権力中枢に上ってから、強力にメディアを統制しているかもしれませんが、トランプの米メディアへのケチの付け方も悪名高いですよね。CNNの名物記者を「フェイクニュース!」と言って罵倒したのも記憶に新しいところです。その反面、自分を支持するFOXニュースをべた褒めしたりヒイキするんだから、それも一種のメディア統制だし、偏向報道だし、プロパガンダですよ。

しかし、実は「トランプもたまにはいいことやるじゃないか・・」と、心の中で今回の中国メディアへの措置に拍手している自分もいます。・・・おっと、こういうのがトランプを大統領にした米国民の支持層の思いなんでしょうね。米国社会は、第2次世界大戦後の世界を牽引し、優等生であろうとし、オピニオンリーダーたろうとしてきました。歴代大統領は自由や民主主義のリーダーであろうとしてきたし、言動は表面上高邁な言葉を説いてきました。グローバリズムを提唱し、各国のそれぞれのナショナリズムを局限し、保護主義や移民排斥主義を最小化しようと、米国自らが率先垂範しようとしてきました。そんな米国社会に、黙っているけどモヤモヤしたサイレントマジョリティー達がいたわけです。実は腹の中で何となく思っていても表立って言えないモヤモヤした愛国心や保護主義や移民排斥の気持ちを隠していました。米国社会が世界をグローバリズムでリードしてきた利益も大きかったと思いますが、同時にそれによって深刻な副作用もあったわけです。労働者は雇用を失い、多くの移民や難民は受入れて、米国社会のモヤモヤ感がもはや表面に出る出口を探した頃、トランプが登場。庶民の言うに言えないタブー的なモヤモヤの思いをあけすけに物を言い放つ男、トランプ。そう、そうなんだよ!いいこというじゃないか!庶民は拍手喝采を浴びせて大統領にしてしまいました。まさに、仇花ですよ。

○ 中国は報復措置を取るか?
  私は中国は報復措置まではとらないと思います。勿論、今回の措置が不当であることを主張し、米国を強烈に批判するでしょう。しかし、在中国の米国メディアに意地悪したところで、結果は返って米国内で中国政府の米国メディアの受けている不当な扱いを報じられ、米国内の世論を反中国にしてしまうだけで、報復しているようで自分の首を絞めることになります。VOA記事の最終段落辺りに面白い話が載っていました。
"These guys operate in a far more liberal environment here in the United States than any foreign press enjoy in the People's Republic of China," the official said.
今回の米国政府の措置で不利益を受けることになる中国メディアと、いま中国にいる外国メディアはどっちが統制を受けて報道の自由を束縛されているか?当然後者。在中国のメディアは日々、中国政府からの干渉や制約の中で報道の自由が脅かされています。他方、在米国の中国メディアは、今回の措置で名簿提出や保有資産の申告など、確かに不利益を被るかもしれませんが、中国よりはずっと米国内でリベラルな環境の中、報道の自由に関して米国政府は一切の制約を与えていません。

(了)

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2019/09/10

マチス元米国防長官「米国は香港の側に立て」

マチス元米国防長官「米国は香港の側に立て」

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Former U.S. Secretary of Defense General Jim Mattis speaks at a Reuters Newsmaker event in New York, September 9, 2019.  (2019年9月9日付VOA記事「Former Pentagon Chief Mattis: US Should Side With Hong Kong Protesters」より)

  久々に衆目の前に立ったマチス元米国防長官が、「香港問題は内政問題にあらず。米国は、中国政府に人権の尊重を求める香港の人々の側に立つべし。」と発言したニュースが話題になっています。
(2019年9月9日付VOA記事「Former Pentagon Chief Mattis: US Should Side With Hong Kong Protesters」より)

<状況>
① マチス元米国防長官は、9月9日(月)のロイター社のイベントにて、香港の反政府デモを念頭に「人権のために立ち上がった人々に対し、米国はそばに寄り添って立つべきであり、少なくともモラル上の支持を与えるべきだ。」と述べた。

② 中国は、香港問題に対してデモ側の暴動行為を糾弾し、米英がデモを扇動していると訴えている。同氏が「これは(香港問題)は国内問題ではない。」と述べたことは、中国政府を刺激することになりそうだ。

③ マチス氏は、中国政府が進めようとしている逃亡犯条例改正案は、香港が中国に返還された際の「一国二制度」という原則に違反している、と非難している。

④ トランプ大統領は、デモ参加者を「暴徒」と表現したことがある一方、中国政府に人道にもとる対応を慎むよう求め、もし徹底弾圧のようなことがあれば米中相互にダメージのある貿易問題を沈静化する努力は非常に困難になる、と釘を刺している。

⑤ 逃亡犯条例改正案は、数ヶ月に渡る反対運動による社会不安の末に、先週取り下げとなった。にも関わらず、香港中の道路や公共場所での大勢の反対デモは勢い衰えず。むしろ、中国政府への反感を示すより広い民主化運動に成長してきた。先週末のアメリカ領事館を囲んだデモでは、反対デモ参加者は米国に香港を平定・解放してくれとまで促す有り様。

⑥ マチス氏は次のように踏み込んだ発言をした。「米国は慎重に対応しなければならない。香港に米国陸軍第82空挺師団を降着させたいとは思わない。しかし、道徳的観点からはどうだろう?我々米国は香港の側に立つべきだと私は思う。」

<私見ながら>
◯ 今や公的立場を離れているので、今更マチス氏がいかなる発言をしようが、大きな外交上のインパクトはないでしょう。しかし、控えめながらも言うべきことは言うマチス氏らしい発言で、お変わりなくて嬉しい限りです。

◯ マチス氏の発言は、マチス氏が人権、人道主義、民主主義の信奉者という訳ではありません。彼は生粋の軍人で、米国に対する熱い愛国心と冷徹な現実主義に基づく分析から、「対中国」の戦い方として香港問題への米国の取るべき態度は「人権や民主化を標榜して中国政府に対抗しようとしている香港の人々の側に寄り添って立つべし」と主張しているのです。人権や民主化ひいては自由と独立という米国の建国の精神と同じなので、マチス氏は中国への強力な外交上のカードとしても、これは香港の反政府運動を支援するべきだ、と発言しているのです。その意味において、中国政府が香港問題は米英による陰謀のように非難しているのは、あながち的外れではないかもしれません。

◯ マチス氏はトランプ大統領の常識破りのキテレツな外交・安保政策に対し、持論を主張し軌道修正してもらい、時に妥協してきました。最後には、アフガン、イラク、シリア等からの撤収時期を巡ってトランプ大統領と対立し、事実上の更迭となりました。しかし、辞職後もトランプ政権の批判をしたり、内情をリークしたり暴露本を出したりせず、ただ黙ったまま静かに表舞台から去りました。Old soldiers never die, just fade away.(老兵は死なず、ただ消え去るのみ。) この辺が軍人ですね。私見ながら、今回の発言もトランプ政権への批判ではなく「エール」と理解しています。つくづく、惜しい人を米国政府は失ったものだと、虎を野に逸した思いがいたします。
(了)


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2019/06/12

「米国の対中関税は新冷戦の経済制裁?」への反論

「米国の対中関税は新冷戦の経済制裁?」への反論

 米中の貿易をめぐる対立が混迷を深めていますが、こんな見方もありますよとある方からご紹介された大変ユニークな記事があります。現代ビジネス 2019年5月24日付記事「米中貿易戦争は『本物の冷戦』なのだから、結局、世界経済を救う…?」(大原 浩 著)(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64724 )です。米中の貿易摩擦を「冷戦」と捉えて斬新な持論を展開されており、非常に鋭い洞察で脅威深い視点で解説されています。一方、大原氏の記事の冷戦や核兵器に対する認識には違和感を感じました。
 以下、大原氏の記事の概要をご紹介するとともに、私の感じた違和感についてお話ししたいと思います。
米中貿易戦争
G20での米中首脳会談で「一時休戦」も…(写真/AFP=時事)

<大原氏の記事のポイント>
◯ 米国にとり、米中貿易戦争は貿易をめぐる交渉ではなく「冷戦」と認識すべし。関税の引き上げは、経済合理性ではなく冷戦の論理における経済制裁。ファーウェイ社の締め出しなどの直接的措置も講じ、中国の屈服を企図。

◯ 中国との冷戦は、核戦力、サイバー戦、経済力の3つ要素から成る。この内、中国の核戦力は米国と比較にならないほど貧弱であり、焦点にならず。今回の核心はサイバー。中国のルール無視のサイバー戦から米国の通信・軍事技術の絶対的優位=安全保障を守るため、米国は中国に関税という経済制裁を課し、経済で屈服させてサイバー戦を断念させる、そして中国をロシア(旧ソ連)のような核大国になる前に潰しておく、という考え。

◯ いずれにせよ、米国にとり、中国=「悪の帝国」を叩き潰すことが目的。米国は、中国との貿易断絶も厭わず。断交しても国際的な供給過剰の今日、供給先の担い手には困らない。むしろ供給過剰で疲弊した世界経済にとって救世主かも。

<所見>
 読み物として面白く読ませていただきました。
米国の米中貿易問題への関税引き上げ政策について、「冷戦」になぞらえて「これは経済制裁である!」と捉えた洞察の鋭さは、まさしく言い得て妙な分析であり、トランプ大統領ならさもありなんと合点のいく説明の仕方として高く評価させていただきます。しかしながら、国際経済や投資の展望には明るい方なのでしょうが、安全保障や軍事戦略の正面については歴史的事実を誤認しておられます。恐らくは、こうだと断定的かつ単純化して割り切る物の見方ゆえに、返って歴史的事実から乖離してしまっているのではないでしょうか。似顔絵マンガと一緒で、特徴ある部分を強調すると確かに本人らしく見えるものですが、単純化や強調し過ぎると笑えるかもしれませんが、肝心の本人とは程遠くなってしまう。そういう懸念があります。

 このような観点から、安全保障や危機管理を学ぶ者として、大原氏の記事について、①冷戦を誤解、②核戦力を誤解、③サイバーを潰す決定打が経済制裁という考えは的外れ、という3点で私見ながら反論を述べさせていただきます。

● まず、「冷戦」についての認識の問題から。
大原氏は、「冷戦」とは共産主義を叩き潰すことが目的であり、直接的に軍事衝突を避ける一方、経済制裁で中国が自滅・崩壊するまで徹底され、その結果は目に見えており、早晩共産中国は滅びる、と考えておられるようです。
しかし、冷戦とはそういうものではないと思います。
  米ソ(東西)冷戦は、米国を盟主とする「自由」と 「資本主義」の陣営とソ連を盟主とする「統制」と「社会主義」の陣営とのホットでない間接的な敵対状態でした。元々はイデオロギーや経済体制の対立でしたが、ソ連の核開発と核戦力の進展に伴い、相互の核が抑止力となる「恐怖の均衡」が冷戦の大黒柱となりました。この核という一兵器に過ぎないものが、大戦後の現代史の鬼っ子として君臨し、この恐怖の均衡が米ソ間の直接的軍事衝突を回避させました。

  冷戦とは、超大国間のホットでない間接的な敵対状態という状態や形態であって、決して「社会主義国という悪の帝国を叩き潰す」ということを目的とした戦略ではないのです。歴史的経緯で言えば、第二次大戦終了後に破竹の勢いで東欧を共産化し、同様にアジアでも中東でもラテンアメリカでも(後にはアフリカでも)、次々と旧帝国主義時代に西欧列強の植民地や強い影響下にいた国々が共産化していったことに恐怖し、されど再々度の世界大戦はどうしても避けたかったため、苦肉の策としてとったのがcontainment=封じ込め政策です。この対立の有り様を「冷たい戦争」と形容した人がいて、流行語としてこう呼ばれたのです。決して「冷戦」という戦略やドクトリンがあったわけではありません。「冷戦」は、短期的な完全勝利(「叩き潰す」など)を企図したものではなく、長い期間をかけて直接衝突を避けながらも向かうべきでない方向を封じてきた「封じ込め」を実施したのです。結果、硬直したソビエト共産党の一党支配による諸制度により自己改革できなかったソ連が失速し、一党支配を辞め改革・解放せざるを得なくなったのです。東西冷戦の間、米国は軍事技術に転用可能な製品の禁輸(COCOM)やアフガニスタン侵攻への制裁は実施したものの、ソ連や東欧を「叩き潰す」なんてあからさまな経済制裁などしていません。

  余談ながら、キューバミサイル危機についての大原氏の見方も、特徴を捉えたおつもりが事実と乖離してしまっています。
大原氏は、キューバミサイル危機を描いた映画「サーティーンデイズ」について、「どちらが先に核ミサイルのボタンを押すか」と表現されました。キューバ危機の経緯を知らずに初めて読まれた方は事実と誤認していまいそうですが、明らかに事実とは違います。

  米国は「キューバへのロシア製ミサイルの設置は断固容認しない」と明言し、キューバを海上封鎖する構えをとる。ソ連は硬軟相矛盾するメッセージを出してきた。水面下で交渉し妥協案を提示するも真意を測りかねる神経戦。そうした中キューバに供与するミサイルを載せたソ連船がキューバ近海まで前進中。このままだと米ソが軍事衝突、核戦争に至るかもしれない‥‥。という緊迫でした。核ボタンをどっちが先に押すか?ということではありません。敢えて「どちらか?」という短文で言うなら、「相互妥協案に応じるか?それとも核戦争も辞さずに突っ込むか、どっちか?」という
緊迫でした。

  また、「(冷戦では)核兵器の恐怖に恐れおののいたものの、実際に銃で殺し合う現実の戦争はむしろ抑制された。」とのコメントにも注文があります。米ソが直接対決するようなホットな戦争はありませんでしたが、相互がバックにいる冷戦構造下の「実際に銃で殺し合う現実の戦争」は、むしろ多くの場合、紛争の種のある場所で米ソの代理戦争の形で起きていました。朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争など、代理戦争・制限戦争とは言いながら、十分にホットでしたよ。大原氏の言わんとする所は「米ソ」の直接的なホットな軍事衝突がなかったという点だとは思いますが、米中を米ソ冷戦になぞらえるなら、冷戦間の影響下の国の代理戦争や制限戦争に何ら言及がないままでこのように言い切るのは片手落ちでしょう。

● 核戦力について
  大原氏は、中国の核戦力について、未だ貧弱で米国との冷戦において焦点になっていないが、米国は中国がソ連(ロシア)のような強大な核大国になる前に叩きのめしたいのだ、という見方をしています。
しかし、「貧弱」や「核大国」という言葉を通常兵器と同じ次元で使っておられること自体、核戦力というものを分かっておられないと思います。
  核兵器というものは、通常兵器と根本的に次元の異なる強大な威力を有するが故に、戦力として保持する有り様が通常戦力のそれとは次元が異なります。まず、第一段階として核兵器を保有しているかどうかの段階。核を開発し核実験に成功しただけで、このステータスを有します。次いで運搬手段の残存性、即ち敵国に先制第一撃を核攻撃されても生き残って報復核攻撃できる運搬手段を持っているかの第二段階。北朝鮮の発表が本当であれば、大陸間弾道弾や潜水艦発射弾道弾や移動式ミサイル発射装置を有し、残存性の高い報復能力を有していると言えましょう。そして更に、弾頭のMIRV化、多様な運搬手段、命中精度の高さなどの高次の第三段階があり、最後に米ロのような数量と質ともに相互にoverkill状態にある程の核大国の第四段階があると言えます。核保有国は全て核大国を目指しているかというと、さにあらず。自国の抱えている脅威の態様によって、核保有国になっただけで敵国に対する戦略的優位或いは武力攻撃を抑止しうるステータスで満足できる国もあります。更に残存性の高い報復能力を保有できれば、相手が米ロであっても十分な抑止力を有すことになります。ほとんどの核保有国はここまででOKです。米ロの場合は、冷戦間に相互に核開発競争や核戦力の拡充を競った歴史的結果として過剰な核戦力になりました。中国はおそらくは第三段階にあり、核戦力としては必要十分ではないでしょうか。米ロと競う核大国化する必要はない、と言えましょう。

● 最後に、「サイバーを潰す決定打が経済制裁」という件について。
  中国のサイバー脅威は、大原氏のご指摘のように、確かに国家がバックについている国家的テロないし国家的スパイの様相を呈しています。中国は人民解放軍の中にサイバー戦部隊が存在し、更に軍や政府が賛助している中国の大学やファーウェイ等のIT企業やハッカー集団、更に大勢の愛国ハッカー達が裾野を形成し、巨大なサイバー帝国となっています。これまで、中国が仕掛けたと思われるサイバー攻撃や軍事科学技術やハイテク商品の新技術などのスパイ事案は枚挙に暇がありません。大原氏が特に注目しているのは、中国のルール無視のサイバー戦による米国の通信・軍事技術の絶対的優位を中国に奪われること。これはもはや安全保障の問題である、と大原氏は指摘します。ここまでは私も同意します。
  大原氏は、中国のサイバー戦から米国の通信・軍事技術の絶対的優位=安全保障を守るため、米国は中国に関税という経済制裁を課し、経済で屈服させてサイバー戦を断念させるつもりである、というユニークな説を説きます。これは、いささか理解困難。「はぁ?」というリアクションになってしまいます。ちょっと「風が吹くと桶屋が儲かる」の言葉を想起させます。大原氏も言っているように、経済制裁はボディーブローのような遅効性のため、効き目が出るまで、要するに中国が関税に耐えかねて経済的に疲弊するまで、数年の期間を要するものです。だって、イランに対する制裁だって、北鮮に対する制裁だって、過去何年も続けているのに(効いてはいると思いますが)、未だ音を上げてきませんよね。中国は対米の貿易で関税に苦しんだとして、世界各国から経済制裁を課されるわけでもなく、大原氏の言うように叩き潰せますか?しかも、制裁の真の狙いは中国経済を叩き潰して、共産主義中国を叩き潰して、もってサイバー攻撃を諦めさせる?というのですからなんと遠回しなこと。遠まわしであることに加えて、中国のサイバー戦をバックアップしているのは確かに国家ですが、ここで軽視してはいけないのが中国のハッカーの裾野が広大なことです。ティーンエージャーがハッカー予備軍として、高校・大学で本格的にトレーニングを受け、一市民の愛国ハッカーたちというのが相当数います。彼らは、時に国家の思惑を超えて倒すべき敵に牙をむきます。米国が関税という経済制裁で時間をかけて中国を窒息させようとしているとしたら、愛国ハッカーたちは米国の政府機関や企業などをターゲットに、死に物狂いで愛国サイバー攻撃をかけるのではないでしょうか?もし、大原氏の言うように、共産主義中国が制裁に耐えかねて倒れたとして、国家をバックとするサイバー攻撃は枯渇するかもしれませんが、愛国ハッカー達は大人しくサイバー攻撃を放棄すると思いますか?米国に対する恨みをゲリラ戦のように執拗に続けるのでは?このハッカーの裾野が広いのは米国もロシアも同様。国家が仕掛けるサイバー戦もありますが、軽視できないのが名もなき市民ハッカーたちなのです。特に米国なんか、ハッカーを国家・社会にとって仇なすブラックハッカーから善良なホワイトハッカーにしようと手縄づける施策・事業をやってるほどですから。従って、経済制裁で共産中国を倒すのは長期間かけて功を奏するかもしれませんが、その真の目的がサイバー攻撃を諦めさせるというのは、ちょっと理解に苦しむところです。

 (了)

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2019/06/04

米中国防相の会談は物別れに

  2019年5月31日シンガポールで行われたASEAN国防相会議の幕間に、米シャナハン国防長官代行と中国の魏鳳和国防大臣が会談し、メディアの注目を集めました。
  VOA 6月1日付記事「US, China defense leaders meet amid increased tensions (米中国防トップ、緊張下で会談)」の概要です。
south-china-sea-draft-code-conduct_2018-05-03_11-06-43.jpg
In this April 21, 2017, file photo, Chinese structures and an airstrip on the man-made Subi Reef at the Spratly group of islands in the South China Sea are seen from a Philippine Air Force C-130. CSIS AMTI via DigitalGlobe, File (Philstar.com 2018年5月3日付「China's missile system on Philippine-claimed reefs a step closer to airspace control」 より ) (https://www.philstar.com/headlines/2018/05/03/1811793/chinas-missile-system-philippine-claimed-reefs-step-closer-airspace-control)

<ポイント>
① 米シャナハン国防長官代行と中国魏国防相は、米中の偶発的な軍事衝突を回避するための枠組み等、軍事協力について建設的に取り組む一方、それぞれの主張を交わした。
② シャナハン長官代行は、米中の軍事協力について建設的に取り組む一方、中国の南シナ海でのあからさまな覇権行為について苦言を呈した。「中国は防衛的性格と説明するがいささか過剰( it's a bit overkill.)である。」
② 魏国防相は、南シナ海での中国の取り組みはあくまで防衛的性格のものであり、中国からの先制的な行動は一切ない旨を強調した。

<寸評>
◯ 南シナ海の係争中の島々での中国の軍事拠点化については、中国が言うようなシロモノではありません。中国は、このブログ冒頭の写真(フィリピン空軍の輸送機C-130から撮影)=南沙群島のスービ岩礁のように、岩礁を埋め立てて人工島化し、軍事施設や滑走路を設置しています。更に、逐次に拠点化は進められ、地対空ミサイルが装備され、中国空軍の輸送機のみならず、戦闘機、支援戦闘機、早期警戒機、等々の作戦機が離発着できる滑走路の延伸がなされています。もはや、明白な事実として軍事要塞化しているわけで、シャナハン国防長官代行が「overkill(過剰)」と言ったのも言い過ぎではありません。

◯ しかし、中国の魏国防相は、(日本のメディアにも報道されていましたが、)会議でも記者会見でも自国の立場を強硬に擁護するタカ派的発言が目立ちました。南シナ海問題も台湾問題も、いずれも自国の領域・領土の問題であって、特に台湾について全てを犠牲にしてでも自国の一部として不可分である、と一歩も引かない姿勢を示したようです。更に、記者会見の場で、記者から天安門事件について質問された際、一国の国防相の発言とは思えない、一昔前の独裁国家のよう態度で次のように言いました。
  「軍の行動は正しかった。国家の危機を人民解放軍が救った。軍が外国勢力からそそのかされた暴徒の反国家的行動をコントロールした。」
  こういう場で馬脚を現すってことですね。まだまだ中国は垢が抜けていない。およそ国際的な場に出る高官には、メディア対応の訓練ぐらいしっかりやっておくべきでしたね。これじゃただの田舎オヤジ。国際的な会議に参加をする一国の高官たる者は、同じ趣旨のことを言うにしても、メディアを通じて世界に発信されることを考えて、バランスのとれた抑制的なコメントができなければ。

◯ ただ、情状酌量の余地があって、それは昨年のこの拡大ASEAN 国防相会議に中国は出席しておらず、そこで当時のマチス米国防長官に南シナ海問題について中国の覇権行為が糾弾された経緯がありました 。マチス国防長官は、中国の南シナ海の軍事拠点化が続く場合、「必要なら断固とした措置をとる」とまで発言し、中国に気兼ねして及び腰だったASEAN各国の溜飲を下げたのです。前年にそんなことがあったこの会議に数年ぶりに参加する中国としては、出席する魏国防相に対し、「一矢報いよ」と相当ネジを巻いたのではないでしょうか。ネジを巻かれたボルテージの高さのままに、いかにも冷戦時代の社会主義国家のタカ派将軍が言いそうなガチガチの発言になったと言うのが背景だろうと推察します。

◯ 当面、この正面の動向に注視が必要なようです。

(了)

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