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2019/06/28

G20でホルムズ海峡安全確保策出るか


G20の主要アジェンダは既に目一杯だと思いますが、ホルムズ海峡の緊張はもう一つの焦点と言って過言ではありません。そんな動きがあるという情報があるわけではありませんが、専ら希望的観測として、イランをめぐる緊張を和らげ商船の航行の安全確保のため、ソマリア沖・アデン湾の海賊対処のための国際的な取り組み=多国籍軍の海上警戒監視・護衛作戦を、ホルムズ海峡の状況に合わせて所要の修正を加えて実施する方策が話し合われることに期待したいと思います。

ソマリア沖・アデン湾の海賊対処行動は、この海域に出没する「海賊」から商船を護衛する目的の多国籍部隊の海上作戦です。日本の海上自衛隊も哨戒機と護衛艦を供出していますが、空からの哨戒機の警戒と海域を数個の警戒区域に分けての艦艇による警戒で構え、海賊と思しき船を発見するや、この海域を航行する商船に情報共有して注意喚起するとともに、哨戒機や艦艇が海賊と思しき船に近づいて確認、状況により臨検をします。商船とは国際的な連絡用の周波数の無線で連絡を蜜に取り、商船側からの情報や緊急通報にも対応しています。一時期この海域で多くの身代金目的の海賊事件が起きましたが、この国際的な取り組みにより激減しました。

勿論、海賊と今回の緊張は本質的に異なります。しかし、米国、イラン及び湾岸諸国以外のEUNAVFOR (
EU海軍部隊)や日本の海上自衛隊、中国海軍、インド海軍などの第三国の多国籍部隊の商船護衛作戦なら中立が保て、商船の航行安全確保の枠組みができるのではないか、と思います。加えて、国際的な監視の目があることで、イラン、米国、サウジ等の間に入って湾岸の軍事的な動きはモニターされることとなるので、紛争抑止及び緊張緩和の一助になることが期待できます。

しかし、テロや紛争に巻き込まれる可能性はあります。経費の問題もあります。されど、国際的な仲介が難しい状況なので、少なくとも商船の航行の安全確保、そしてこの地域での紛争の回避は各国共通の国益ではないでしょうか。

せっかく世界の主要国の首脳が集まるので、こんな夢物語もアジェンダに加えてもらいたいものです。

(了)

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2019/06/25

風雲急を告げるイラン情勢

 6月21日(金)、トランプ米大統領は先日のホルムズ海峡における米無人偵察機撃墜の報復攻撃の断念を発表しましたが、そのサイドストーリーとして訪英した際に米国寄りの態度を取るように英国とアンダーでしっかりと握ってきたこと、イランにサイバー攻撃をしていたこと、週が明けてイランへの最後通牒ともとれる厳しい追加制裁を打ったこと、などなど、風雲急を告げてきましたね。加えて、米国の報復攻撃断念を受けてのサウジの苛立ちについて、お伝えします。
ap_saudi_arabia_pompeo_24June19.jpg
U.S. Secretary of State Mike Pompeo greets Saudi Arabia's King at Al-Salam Palace in Jeddah, June 24, 2019. (2019年6月24日(月)VOA記事「Pompeo Meets Saudi King, Crown Prince on Iran」より)

<ポイント>
① 6/20(木)に米国のサイバー部隊がイラン軍のコンピュータシステムに対しサイバー攻撃を実施。攻撃は大統領命令により、攻撃目標はイラン革命防衛隊のミサイルやロケットの射撃統制の指揮統制システムであった模様
(2019年6月24日(月)付VOA記事「Sources: US struck Iranian Military Computers This Week」より)

② 英国は、6月中旬のトランプ米大統領の訪英及びイランの最近の攻撃的な態度を受け、対イラン強硬路線を取る米国の立場に理解を示し、より米国に近い態度を取るように軌道修正した模様。英国民の大多数が、昨年(2018年)の米国の核合意からの離脱決定に批判的であったが、昨今のイランのホルムズ海峡での敵対的態度や核武装への飽くなき野望、等の情勢に鑑み、姿勢を取り直したものと思われる。
(2019年6月24日(月)付VOA記事「Britain Sharpens Tone Towards Iran」より)

③ 米国が6月24日(月)に明らかにしたイランに対する追加制裁は、イランの最高権力者ハメネイ師をはじめ軍部指揮官を狙い撃ちに。イラン外務省のスポークスマン曰く、高まる緊張を緩和するための外交的方向性を全て封じる最後通牒のよう、と酷評。
(2019年6月24日(月)付VOA記事「Trump Imposes New Iran Sanctions, Targeting its Supreme Leader」より)

④ 6月24日(月)、ポンペイオ米国務長官はサウジを訪問し、サルマン国王やムハンマド皇太子と接見。しかし、会食の場所が王宮ではなく地方のレストランであったこと、また、皇太子との接見では国務長官が待たされた場面も。これが意味するものは、先日の米無人偵察機がイランにより撃墜されたことへの報復攻撃をトランプ米大統領が断念したに対し、サウジが苛立ちを露わにしている模様。ポンペイオ国務長官がサウジ訪問の直前に訪問した地UAEでは、これと対照的な歓待を受けている。UAEはイランに対してもことを構えず、むしろビジネス重視の外交を進めており、これらサウジ以外の湾岸諸国が対イランで寛容な姿勢をとり、なおかつ米国の報復断念にも理解を示す現実的路線をとっていることが、余計にサウジの苛立ちを掻き立てている模様。
(2019年6月24日(月)VOA記事「Pompeo Meets Saudi King, Crown Prince on Iran」より)

<私見ながら>
○ トランプ大統領は、決して戦争は望んでいないと私も思いますが、外交的に求める終着点が見えませんね。腹の中ではイランの弱体化が目標だとは思いますが、イランに対して「弱くなれ」とは要求しませんよね。具体的な要求は、「核兵器(ミサイル含む)の開発の放棄」と「国外のシーア派テロ勢力への支援の放棄」になりますか。国連で臨時の安保理を招集して協議するようですが、もともと国連を信用していない人なので、これは国際社会と協議した結果こういう姿勢で行くのだ、というポーズです。話し合おうとしているにしては、話す気のない制裁の課し方ですよね。この辺が、この人のこれまでの常識的大統領達と根本的に違うところです。何がしたいんですかね。本当は戦争がしたいというなら、もっと分かり易いのですが。(それはそれで馬鹿野郎ですけど)
  こんな状況では仲介しづらいですが、仲介できるのは日本の安倍さんしかいないかもしれませんよ。ここまで来たら、イランは絶対米国とは2国間交渉はしないでしょうね。欧州という手もありますが、米国と近すぎて英国は無理でしょうね。仏か独かならあり得ますが、今のレイムダックになったメルケルさんには無理でしょう。仏のマクロン大統領くらいですかね。或いは中国の習総書記。でも米国・イラン両者に信を置かれているのは日本でしょう。別に安倍さんをよいしょするつもりは毛頭なく、真剣に誰かが仲介しないと本当に行くところまで行ってしまいますよ。

(了)

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2019/06/21

米国-イランの緊迫の行方

  6月13日、安倍首相がイランの最高指導者ハメネイ師と会見している折も折に、米国の主張ではイランが仕掛けたテロにより、日本国籍を含むタンカーがホルムズ海峡で攻撃を受けました。米国は、これが証拠だという映像を示し、イラン革命防衛隊のボートがタンカーから不発だった爆発物を取り除く作業をした、と説明。ホルムズ海峡におけるイランの脅威に対する国際的な取り組みの必要性を訴える米国。他方、ハメネイ師もトランプ大統領とは交渉すらしないと、一歩も退かない状況。ホルムズ海峡は世界の原油輸送の30%はここを通るという原油銀座なのに、今や世界で一番緊迫した海となっています。この一触即発の状況下、米国はイランと戦争になるのでしょうか?
  ある友人からのオーダーにて、今回は、①そもそもイラン核合意とは?、②米国トランプ大統領が離脱したのはなぜか?、③トランプ大統領の真の狙いは何か?、④今後の展望は?、というお話しを。
tanker attacked
ホルムズ海峡で攻撃され炎上するタンカー(Before It's News, 2019年6月13日付、”Live Streaming: False Flag Pretext for War? Oil Tankers Attacked in Strait of Hormuz - Drone Footage”より)


<ポイント>
① そもそもイラン核合意とは?
  イランが2002年に核開発発覚して以降、10年以上かかって2015年にやっと常任安保理国等6ケ国と合意。イランに核(兵器)開発を諦めさせIAEA査察を受けさせる代わりに、経済制裁を解除した。

② トランプ米国大統領はなぜ核合意から離脱?
  実はイランは核合意に違反はしていないため、今回の米国の離脱に他の合意国は米国に同意できない。米国は一方的に離脱した形だが、トランプ大統領は核合意以降のイランのホルムズ海峡での敵対行為やシリア、イエメン等でのシーア派過激グループの黒幕としての暗躍が地域の脅威となっており許せない。しかしその考えの背景には、トランプとサウジ皇太子のトップセールスやイスラエルの影が。

③ トランプ大統領の離脱の狙いは?
  トランプの狙いは、イランの核開発の断念ではなく、イランの弱体化。他方で、このまま現在の緊張から戦争へ突入することを望んではいない。地域の脅威にならない弱体化こそが望ましい。

④ 今後の展望は?
  米国もイランもお互い戦争を望んでいない。では戦争になるようなことはないか、というとそこが霧の中fog of war。偶発、暴発はあり得る。双方に何ならやるぞ!というタカ派が存在。米国とイランの戦争を目論む者は相互に存在し、米国には戦って勝つ議論も存在。しかし、イランは底力のある国なので、もし戦争になればベトナム、アフガン、イラクのように泥沼化は必至。これが原油銀座なので影響大。安倍さんの努力は決して茶番ではない。

<説明>
① イラン核合意
  現在懸案となっているホルムズ海峡の緊張は、最近始まったわけではなく1970年代のイランのパーレビ国王の油田国有化の頃からこれまでに数度も緊張化。それこそ、10数年前の2002年イランの核開発発覚の頃、緊張~制裁~反発~交渉~決裂の繰り返しで相当の緊張度でした。それが10年余りの歳月を経てやっと核合意がなったわけです。この間、イラン版トランプのようなアフマディネジャド政権は、似ても焼いても食えない言説を繰り返し、核開発を秘匿しつつ推進。米欧との緊張は相当なものでした。この頃、まさにイランは北朝鮮に核技術を供与したものと考えられています。しかし、経済制裁も10年越しでイランを苦しめ、一応話の通じるロウハニ政権に移行して2年の交渉を経て、2015年7月常任安保理事国5ケ国+ドイツ(P5+1と呼ばれる)と核協議が合意し、制裁を解除されます。
  問題の焦点は、イランの自称「平和利用の核開発」=米欧の懸念する「核兵器開発」で、本質的にはイランのウラン濃縮・再処理技術の開発です。イランは「医療用アイソトープ生産のための電力確保」と言いつつ、原子炉用なら低濃縮で十分なのに、20%までの高濃縮技術を開発し、更に自称80%まで可能だったそうです。ちなみに90%もの高濃縮ウランは核弾頭にしか使えません。どう考えても核兵器開発だったのだろうと思われますが、イラン革命時の宗教上の絶対権力者ホメイニ師は核兵器はイスラム法の教義から「悪」と判断、イラン革命の時点での核開発チームは解散したほどです。アフマディネジャド大統領も、核兵器を作らない旨度々発言していました。口では開発していないと言いつつ、国内の開発現場は米欧イスラエルの情報機関から開発の証拠が指摘されました。イスラエルはsurgical-airstrike外科手術的航空攻撃を主張し、米国に止められています。その代り米国が業を煮やして秘密裏に遂行したのが、サイバー攻撃によるウラン濃縮施設の機能破壊でした。

  私のブログの2019年3月25日付「東京五輪を狙ったサイバー戦は始まっている」でお話しした内容を再録しますと以下の通り。
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  2000年代ヒトケタの頃、イランの核開発問題がイスラエルにとって焦眉の急の問題であった。イスラエルは米国に空爆の了承を求めたが米国は首を縦に振らず。その代わりがこのサイバー攻撃だった、と言われている。米国・イスラエルの共同作戦、コードネーム「オリンピックゲーム」の始まり。一説によると、・・・ある日、イランの核施設の職員がUSBメモリーを見つける。研究者のものらしい表示もあったので、エクスプロラーでショートカットファイルの閲覧によりファイルの名前だけでも確認しようと、USBを施設内のPCに差し込む。実はここにはwindowsの当時未知の脆弱性があり、USBを差し込んだだけで自動的にプログラム実行となり、マルウェアは侵入に成功した。このマルウェアはウラン濃縮のための遠心分離機を制御するドイツのシーメンス社製の小さな器材を探し、身を隠して感染に気付かせない。この器材に至って初めて器材を冒すプログラムを書き換える。そして、モニターには正常な運転状況であることを示す信号を再生しつつ、実は速くなったり遅くなったりのギリギリの異常を引き起こす。これにより2009年後半~2010年初頭に1000台もの遠心分離機が破壊され、イランの核開発を大幅に遅延させる状況に至らせた(※このマルウェアの凄いところは、決して核物質満載の遠心分離器を爆発させるような破滅的破壊をさせず、コントロールされた節度ある暴走でウラン濃縮ができなくしてしまうというシロモノだったこと)。イランの研究者達は何が起きたのかすら気づかなかった、と言われるほどの巧妙さだった。このマルウェアはStuxnetという米国国家安全保障局NSA(及びイスラエル当局)が作成した傑作マルウェアだった。イランの核施設のPCがOSとして使っているwindowsのまだ未知の脆弱性の情報を使い、そこを突いたエクスプロイトコードが浸透した。しかも遠心分離機の制御装置がドイツシーメンス社製の特定機種の器材と知っていて、それのみを狙い撃ちに、その器材の未知の脆弱性を突いた。
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  当時のオバマ政権もイランには業を煮やし、実にイランも曲者ぶりを発揮、苦心惨憺の挙句に合意に至ります。その内容は、イランは核濃縮施設の縮小、軍事施設を含むIAEA査察を受け入れることで核高濃縮の開発を断念、代わりに経済制裁を解除、更に平和利用の核開発、ミサイルを含む兵器開発や武器輸出などは禁じていない、という合意でした。ロウハニ大統領はハメネイ氏から核開発を守ったことを慰労されたと言います。

② トランプ大統領、核合意からの離脱へ
  まさにこの核合意がトランプ大統領はじめボルトンらネオコン連中が許せないオバマの「失政」だったわけです。合意してはいけないレベルで合意した、これが故にイランは国力を回復し、ドイツをはじめ欧州各国はイランと経済の結びつきを強め、イランは背後で動乱中のイラクやシリアのシーア派を支援して影響力を伸ばし、イエメンでも反政府フーシ派を全面支援し、サウジとの代理戦争を演じ、レバノン、パレスチナではヒズボラはじめシーア派系を支援して地域の脅威を高める、・・・しかもホルムズ海峡において軍事的脅威を顕在化させる、しかもタンカーの航行を攻撃してくるのではないかという脅威まで・・・。トランプ大統領からはこのように見えるのです。ゆえに合意離脱を宣言するに至りました。
  しかし、欧州各国やロシアからすれば、イランは何も核合意違反をしておらず、いくら米側の政権交代があったとはいえ、トランプ大統領の核合意からの離脱は余りに一方的で理不尽に映ります。安倍さんのイラン訪問時のタンカー攻撃にしても、証拠映像を示して国際的対応を呼びかけても、さすがに乗れる話ではありませんね。
  以下は私の私見ですが、トランプ大統領の対イラク政策の背景には、やたらと関係の密接なサウジアラビアの実権を握るモハメド皇太子と、そしてもう一人イスラエルのネタニエフ大統領の影があって、トランプさんはそれぞれと対イランで握っているのでしょう。それが証拠には、2019年初めに、カショーギ氏暗殺事件関与の懸念から米議会が与野党が超党派で決議したサウジ主導のイエメンでの軍事作戦への支援の中止に対し、トランプ大統領は拒否権を発動。更に、2018年(昨年)3月の核合意離脱以来のホルムズ海峡の緊張やイランの地域的脅威を理由に、サウジの防衛力強化のための81億ドルもの武器供与を実施。この淵源は2018年3月のムハンマド皇太子訪米時のトランプ大統領との武器と原発のトップセールスです。(※私のブログ2019年2月23日付「サウジへ原発を売るトランプの危うさ」参照)握ってやがるんですよ。イランの地域的脅威や核合意離脱後のホルムズ海峡の緊張?それに対応するためにサウジ防衛力強化をする?トランプさん、その緊張って貴方が作り上げたし、そこで武器供与するんじゃ「マッチ・ポンプ」ではないですか?自分で火をつけておいて、サウジに武器を売って火を消させるの?って話ですよね。ムハンマド皇太子は強力な武器と原発を手にする訳です。もう一つ、イスラエルの対イラン政策に同調するするのは、米大統領選挙のためのユダヤ票の確保でしょう。トランプさんは、米国のユダヤ系の心を鷲掴みする布石も打ってきましたよ。在イスラエル米大使館のエルサレム移転、これは係争地エルサレムをイスラエルの首都として公認することになります。世界各国、国連も非難しましたが…。

③ 核合意離脱の狙い
  ここまでお話しすると、ほぼ②と被る内容かも知れませんが、トランプ大統領の核合意離脱の狙いはイランの核開発の断念ではありません。イランの弱体化です。イランが、中東地域でもはや脅威にならない程に弱体化させることが狙いです。核開発断念?非核化?政権交代?いえいえ、下手に政権交代してまた反米一辺倒の過激派政権ができては何の意味もない。あるべき姿は弱いイランです。もう国外のシーア派勢力を支援できない、何の影響力も及ぼせない、そんなイランです。それこそがサウジやイスラエルも望むもの。戦争も望んでいません。弱体化するまで、イランの石油を米国は買わず、他国にも買わせず(買ったら米国がその国を制裁)、イランを支援させず、弱らせる。・・・なんと極悪非道なやり方でしょうか。
  しかし、トランプ大統領という男は結構切れ者ですよ。この核合意に対して、なぜ「破棄」ではなく「離脱」なのか?この辺が実に深謀遠慮なのです。破棄だったら、イランも合意を守る必要はなくなりますよね。しかし、離脱ですから、他のP5+1国とは合意が生きています。もって、イランは引き続き合意を守ることが求められます。米国だけ抜けたのです。イランが核合意を反故にした場合、米国に対イラン包囲網の大義名分を与えることになります。こんな妙案を考えるスタッフがまだトランプの周囲に残っていたのが驚きです。イランも大人しい国ではないので、強気に核濃縮技術の凍結を解除するぞと言い出しています。英仏独は、建前上の核合意は維持の構えながら、事実上米国に追従するのかどうか、米国とイランの狭間でどう身を処すか悩んでいます。

④ 今後の展望
  トランプ大統領の目論みはともかく、一寸先はfog of warなのが国際情勢・安全保障の世界です。米国は戦争を望まず、イランも戦争を望んではいません。であれば、戦争は起こり得ず沈静化?トランプ大統領の望む弱体化したイランが実現して幕が下りる?そうは簡単に行きません。「展望」といいつつ、展望を困難にする要因をお話します。

  まず、他の要因を考慮しない白紙的な軍事的緊張状態を想定してみましょう。しかも、ホルムズ海峡のような比較的狭い正面で、相互に敵視する彼我が対峙する状況です。軍事的に睨み合うような緊迫の海峡では、偶発や暴発による軍事衝突は十分起こり得ます。相互に緊張下で構えていますから、それが何かの間違いであっても、敵の攻撃か?と思えるような動きがあった瞬間、疑心暗鬼から衝突に至ることは緊張が高いほどありえます。6月20日の米軍グローバルホークが「イランの領空に入った」としてイラン革命防衛隊から撃墜されたのも当然の話。無人機だからよかったのですが、これが生命を含むとお互いに引っ込みがつかなくなるでしょう。今のところトランプさんも大人の対応をしています。

  偶発や暴発のリスクを下げるには、そうならないように無用の緊張を上げないことが肝要です。昨年までは無用の緊張を上げない歯止めとなるスタッフがトランプの下にいました。
  2018年3月まではマティス国防長官、ティラーソン国務長官、マクマスター大統領補佐官のトランプ政権内のバランサーとして機能していましたが、トランプはやりたいようにやらせてくれないティラーソン、マクマスターの両氏を事実上の更迭をし、核合意から離脱。以降、歯止めにならないどころか、歯止めの代りに入ったのがイケイケだったのです。まぁ、トランプさんが自分のやりたいことをやりたいようにやるための道具として、頭の悪いただのタカ派のネオコンの生き残りボルトンが大統領補佐官に、同じくネオコンのポンペイオが国務長官に据え、大統領はトランプ体制を布陣しました。2018年12月まではマティス国防長官が在任でしたので、唯一の良心として、トランプに最後の歯止めを掛けてきました。これも2018年末に事実上の解任となり、今やネオコンコンビが活躍していますが、ボルトン大統領補佐官はイランとの戦争を厭わない、否戦争を望んでいる馬鹿野郎です。戦って勝つから結果オーライなのだと考えるほど馬鹿野郎です。まだマティス国防長官の在任間、ボルトンはホルムズ海峡の緊張を理由に空母を送る際、追加の陸上戦闘要員を万単位で要求しマティス国防長官にコテンパンに怒られ、増員は1500名まで切り詰められた経緯があるほどです。その政権内の良心も去り、今や歯止め役がいません。国防長官代行のシャナハン氏はただの気の弱い官僚なので、トランプの下でイエスマンでいられても、国防長官の重責が果たせないし本人も自分の力量を自覚してならないでしょう。
  今は体を張ってトランプを引きとどめるようなスタッフはいません。むしろボルトン大統領補佐官のように、勇ましい発言や挑発をすることこそあれ、今のトランプ政権にはその歯止めが存在しないのは怖い状況です。危ないですね。

  更に、双方に「何ならやるぞ!」という過激派、タカ派、戦争で利することを目論む連中が存在すること。困ったことに、米国には戦って勝つ議論すら存在していることには閉口ですね。
  中東・アラブには大人の話には全くのらない、道理の効かない、戦争をも厭わない過激なグループが、イラン(シーア派)にもサウジ(スンニー派)にも存在します。今回の安倍首相イラン訪問間のタンカー攻撃にしても、これが米国のマッチポンプならあまりに子供だましですので、いくらなんでも米国政府でもイラン政府でもないと考えています。両政府ではないと仮定したら、考えられる犯人は、イランかサウジの過激グループでしょう。米国の提供映像が本当にイラン革命防衛隊だとすれば、イラン国家の指示ではなく反米・憂国の思いに決起した青年将校らのテロであった可能性は十分考えられます。イラン軍を装ったサウジの反イラン・反シーア派の過激グループが、安倍首相の仲介を台なしにすることを企図した犯行というのも十分考えられます。彼らは、それが元で軍同士の衝突になってしまったとしても、むしろジハード・聖戦なのでwelcomeなのです。
  また、いつの世でもどの国にも、超愛国的に好戦的な勇ましいことを主張するタカ派っていうのはいるものです。彼らは声高に相手国を悪し様に口汚く批判し、強硬な政策を主張します。ボルトン大統領補佐官がその典型です。ボルトンは、大した根拠もなく彼の曲がった信念で行動してますが、米国の国会議員にもイランに戦って勝てるのだから開戦すべしという論調(※6月13日のFOXニュースにてイリノイ州選出のアダム・キンジンガー下院議員)があることには閉口です。他方、イランにはこのタカ派の勢力がかなりの%を占めて存在します。時に、この声なき声が時代のうねりを作ることがあり、国家を転覆させたり戦争へぐいぐい牽引したりするのも事実。イラン革命とはまさにその典型でしたから。
  
  では、もし戦端が開かれてしまったらどうなるか?戦って勝つ議論をする頭の悪い奴が米国にもいますが、イラン対米国の軍事衝突が始まると、局地的では済まなくなるのは間違いないでしょう。1990年のイラクのクウェート侵攻に対する湾岸戦争の時のような、欧米アラブ連合軍対イラクのような大同団結にはなりません。米国対イラン、せいぜい米国・サウジ対イランの戦い。軍事常識から言えば、局地的に戦力を集中して短期決戦で、決定的な緊要地形を奪取するとか、敵の戦力の中心的存在となる部隊や指揮官を撃破するとか、所謂center of gravity(戦力重心)を落とすことが肝要です。しかし、ここ中東、なかんづくイランが相手では、イラク・アフガン戦争以上の苦戦を強いられるでしょう。
  米軍の戦い方としては、努めて陸上戦闘を避け、あるとしても特殊部隊による限定的なもののみにして、海戦・空戦主体でイラン海軍・空軍の槍先部隊・施設だけ撃破して数カ月はまともに戦えないようにして勝利宣言を一方的にして離脱することです。地上戦なんかに持ち込むと泥沼になります。イランは底力のある国で、教育水準も民度もプライドも高く、もし地上戦になればベトナム、アフガン、イラクのように頑強に抵抗し、米軍が駐留して安定下作戦なんかしようものなら泥沼化は必至です。
  他方、イラン軍も相当な一矢も二矢も報いるでしょう。イランは戦争をホルムズ海峡局地戦から中東地域全体の戦域レベルに引き上げるでしょう。具体的にはサウジやイスラエルをミサイル攻撃で巻き込むでしょう。中東のあちこちのシーア派過激派勢力がわざと戦線を拡大するためのテロを起こすでしょう。ここで、やられたら必ずやりかえすイスラエルが参戦すると、イランの思う壷。サウジも当然参戦しますが、サウジがイスラエルと共同戦線を張ることになると、他のアラブ国はイスラエルとは共同宣戦しないどころか、共に天を戴かずという許されざる敵ですから、反サウジの国際的な動きやテロも始まり、状況は混沌化。
  世界経済への影響も甚大でしょうね。場所が場所ですよね。狭くてホルムズ海峡、広がればペルシャ湾どころか地中海東部スエズ運河~アデン湾~ソマリア沖は巻き込むでしょう。原油の話にとどまらず世界の貿易の海上輸送航路の大きな基幹航路が断たれます。状況は混沌、カオスですよ。だからいわんことじゃない、やらなきゃよかった・・・と米国は後悔することになります。
 
  ホルムズ海峡での戦争は、避けるべき事態であることに間違いありません。だから、トランプ政権には、無用の緊張を高めないよう慎重にやってもらいたいですね。その意味では、安倍さんのイラン訪問は日本外交久々のヒットですよ。日本のアホなマスコミはやっかみ半分で評価しませんが、曲者イランの超堅物ハメネイ師が「安倍首相(日本)とは話をする」と言ったことの意義は実は大きいのです。「トランプ大統領(米国)とは何も話すことはない」の一方でそう言ったのですから、日本を仲介として交渉しても良いと言ったに等しいのです。まぁ、勿論のことイランも曲者ですから、仲介の任はトランプにもハメネイ師にも苦汁を飲まされることでしょう。道は険しいですが、努めて軍事衝突に至らない形で事態を打開したいものです。ドローン撃墜事件のように何かをキッカケにオッ始まってしまう前に。

(了) 


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2019/06/12

「米国の対中関税は新冷戦の経済制裁?」への反論

「米国の対中関税は新冷戦の経済制裁?」への反論

 米中の貿易をめぐる対立が混迷を深めていますが、こんな見方もありますよとある方からご紹介された大変ユニークな記事があります。現代ビジネス 2019年5月24日付記事「米中貿易戦争は『本物の冷戦』なのだから、結局、世界経済を救う…?」(大原 浩 著)(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64724 )です。米中の貿易摩擦を「冷戦」と捉えて斬新な持論を展開されており、非常に鋭い洞察で脅威深い視点で解説されています。一方、大原氏の記事の冷戦や核兵器に対する認識には違和感を感じました。
 以下、大原氏の記事の概要をご紹介するとともに、私の感じた違和感についてお話ししたいと思います。
米中貿易戦争
G20での米中首脳会談で「一時休戦」も…(写真/AFP=時事)

<大原氏の記事のポイント>
◯ 米国にとり、米中貿易戦争は貿易をめぐる交渉ではなく「冷戦」と認識すべし。関税の引き上げは、経済合理性ではなく冷戦の論理における経済制裁。ファーウェイ社の締め出しなどの直接的措置も講じ、中国の屈服を企図。

◯ 中国との冷戦は、核戦力、サイバー戦、経済力の3つ要素から成る。この内、中国の核戦力は米国と比較にならないほど貧弱であり、焦点にならず。今回の核心はサイバー。中国のルール無視のサイバー戦から米国の通信・軍事技術の絶対的優位=安全保障を守るため、米国は中国に関税という経済制裁を課し、経済で屈服させてサイバー戦を断念させる、そして中国をロシア(旧ソ連)のような核大国になる前に潰しておく、という考え。

◯ いずれにせよ、米国にとり、中国=「悪の帝国」を叩き潰すことが目的。米国は、中国との貿易断絶も厭わず。断交しても国際的な供給過剰の今日、供給先の担い手には困らない。むしろ供給過剰で疲弊した世界経済にとって救世主かも。

<所見>
 読み物として面白く読ませていただきました。
米国の米中貿易問題への関税引き上げ政策について、「冷戦」になぞらえて「これは経済制裁である!」と捉えた洞察の鋭さは、まさしく言い得て妙な分析であり、トランプ大統領ならさもありなんと合点のいく説明の仕方として高く評価させていただきます。しかしながら、国際経済や投資の展望には明るい方なのでしょうが、安全保障や軍事戦略の正面については歴史的事実を誤認しておられます。恐らくは、こうだと断定的かつ単純化して割り切る物の見方ゆえに、返って歴史的事実から乖離してしまっているのではないでしょうか。似顔絵マンガと一緒で、特徴ある部分を強調すると確かに本人らしく見えるものですが、単純化や強調し過ぎると笑えるかもしれませんが、肝心の本人とは程遠くなってしまう。そういう懸念があります。

 このような観点から、安全保障や危機管理を学ぶ者として、大原氏の記事について、①冷戦を誤解、②核戦力を誤解、③サイバーを潰す決定打が経済制裁という考えは的外れ、という3点で私見ながら反論を述べさせていただきます。

● まず、「冷戦」についての認識の問題から。
大原氏は、「冷戦」とは共産主義を叩き潰すことが目的であり、直接的に軍事衝突を避ける一方、経済制裁で中国が自滅・崩壊するまで徹底され、その結果は目に見えており、早晩共産中国は滅びる、と考えておられるようです。
しかし、冷戦とはそういうものではないと思います。
  米ソ(東西)冷戦は、米国を盟主とする「自由」と 「資本主義」の陣営とソ連を盟主とする「統制」と「社会主義」の陣営とのホットでない間接的な敵対状態でした。元々はイデオロギーや経済体制の対立でしたが、ソ連の核開発と核戦力の進展に伴い、相互の核が抑止力となる「恐怖の均衡」が冷戦の大黒柱となりました。この核という一兵器に過ぎないものが、大戦後の現代史の鬼っ子として君臨し、この恐怖の均衡が米ソ間の直接的軍事衝突を回避させました。

  冷戦とは、超大国間のホットでない間接的な敵対状態という状態や形態であって、決して「社会主義国という悪の帝国を叩き潰す」ということを目的とした戦略ではないのです。歴史的経緯で言えば、第二次大戦終了後に破竹の勢いで東欧を共産化し、同様にアジアでも中東でもラテンアメリカでも(後にはアフリカでも)、次々と旧帝国主義時代に西欧列強の植民地や強い影響下にいた国々が共産化していったことに恐怖し、されど再々度の世界大戦はどうしても避けたかったため、苦肉の策としてとったのがcontainment=封じ込め政策です。この対立の有り様を「冷たい戦争」と形容した人がいて、流行語としてこう呼ばれたのです。決して「冷戦」という戦略やドクトリンがあったわけではありません。「冷戦」は、短期的な完全勝利(「叩き潰す」など)を企図したものではなく、長い期間をかけて直接衝突を避けながらも向かうべきでない方向を封じてきた「封じ込め」を実施したのです。結果、硬直したソビエト共産党の一党支配による諸制度により自己改革できなかったソ連が失速し、一党支配を辞め改革・解放せざるを得なくなったのです。東西冷戦の間、米国は軍事技術に転用可能な製品の禁輸(COCOM)やアフガニスタン侵攻への制裁は実施したものの、ソ連や東欧を「叩き潰す」なんてあからさまな経済制裁などしていません。

  余談ながら、キューバミサイル危機についての大原氏の見方も、特徴を捉えたおつもりが事実と乖離してしまっています。
大原氏は、キューバミサイル危機を描いた映画「サーティーンデイズ」について、「どちらが先に核ミサイルのボタンを押すか」と表現されました。キューバ危機の経緯を知らずに初めて読まれた方は事実と誤認していまいそうですが、明らかに事実とは違います。

  米国は「キューバへのロシア製ミサイルの設置は断固容認しない」と明言し、キューバを海上封鎖する構えをとる。ソ連は硬軟相矛盾するメッセージを出してきた。水面下で交渉し妥協案を提示するも真意を測りかねる神経戦。そうした中キューバに供与するミサイルを載せたソ連船がキューバ近海まで前進中。このままだと米ソが軍事衝突、核戦争に至るかもしれない‥‥。という緊迫でした。核ボタンをどっちが先に押すか?ということではありません。敢えて「どちらか?」という短文で言うなら、「相互妥協案に応じるか?それとも核戦争も辞さずに突っ込むか、どっちか?」という
緊迫でした。

  また、「(冷戦では)核兵器の恐怖に恐れおののいたものの、実際に銃で殺し合う現実の戦争はむしろ抑制された。」とのコメントにも注文があります。米ソが直接対決するようなホットな戦争はありませんでしたが、相互がバックにいる冷戦構造下の「実際に銃で殺し合う現実の戦争」は、むしろ多くの場合、紛争の種のある場所で米ソの代理戦争の形で起きていました。朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争など、代理戦争・制限戦争とは言いながら、十分にホットでしたよ。大原氏の言わんとする所は「米ソ」の直接的なホットな軍事衝突がなかったという点だとは思いますが、米中を米ソ冷戦になぞらえるなら、冷戦間の影響下の国の代理戦争や制限戦争に何ら言及がないままでこのように言い切るのは片手落ちでしょう。

● 核戦力について
  大原氏は、中国の核戦力について、未だ貧弱で米国との冷戦において焦点になっていないが、米国は中国がソ連(ロシア)のような強大な核大国になる前に叩きのめしたいのだ、という見方をしています。
しかし、「貧弱」や「核大国」という言葉を通常兵器と同じ次元で使っておられること自体、核戦力というものを分かっておられないと思います。
  核兵器というものは、通常兵器と根本的に次元の異なる強大な威力を有するが故に、戦力として保持する有り様が通常戦力のそれとは次元が異なります。まず、第一段階として核兵器を保有しているかどうかの段階。核を開発し核実験に成功しただけで、このステータスを有します。次いで運搬手段の残存性、即ち敵国に先制第一撃を核攻撃されても生き残って報復核攻撃できる運搬手段を持っているかの第二段階。北朝鮮の発表が本当であれば、大陸間弾道弾や潜水艦発射弾道弾や移動式ミサイル発射装置を有し、残存性の高い報復能力を有していると言えましょう。そして更に、弾頭のMIRV化、多様な運搬手段、命中精度の高さなどの高次の第三段階があり、最後に米ロのような数量と質ともに相互にoverkill状態にある程の核大国の第四段階があると言えます。核保有国は全て核大国を目指しているかというと、さにあらず。自国の抱えている脅威の態様によって、核保有国になっただけで敵国に対する戦略的優位或いは武力攻撃を抑止しうるステータスで満足できる国もあります。更に残存性の高い報復能力を保有できれば、相手が米ロであっても十分な抑止力を有すことになります。ほとんどの核保有国はここまででOKです。米ロの場合は、冷戦間に相互に核開発競争や核戦力の拡充を競った歴史的結果として過剰な核戦力になりました。中国はおそらくは第三段階にあり、核戦力としては必要十分ではないでしょうか。米ロと競う核大国化する必要はない、と言えましょう。

● 最後に、「サイバーを潰す決定打が経済制裁」という件について。
  中国のサイバー脅威は、大原氏のご指摘のように、確かに国家がバックについている国家的テロないし国家的スパイの様相を呈しています。中国は人民解放軍の中にサイバー戦部隊が存在し、更に軍や政府が賛助している中国の大学やファーウェイ等のIT企業やハッカー集団、更に大勢の愛国ハッカー達が裾野を形成し、巨大なサイバー帝国となっています。これまで、中国が仕掛けたと思われるサイバー攻撃や軍事科学技術やハイテク商品の新技術などのスパイ事案は枚挙に暇がありません。大原氏が特に注目しているのは、中国のルール無視のサイバー戦による米国の通信・軍事技術の絶対的優位を中国に奪われること。これはもはや安全保障の問題である、と大原氏は指摘します。ここまでは私も同意します。
  大原氏は、中国のサイバー戦から米国の通信・軍事技術の絶対的優位=安全保障を守るため、米国は中国に関税という経済制裁を課し、経済で屈服させてサイバー戦を断念させるつもりである、というユニークな説を説きます。これは、いささか理解困難。「はぁ?」というリアクションになってしまいます。ちょっと「風が吹くと桶屋が儲かる」の言葉を想起させます。大原氏も言っているように、経済制裁はボディーブローのような遅効性のため、効き目が出るまで、要するに中国が関税に耐えかねて経済的に疲弊するまで、数年の期間を要するものです。だって、イランに対する制裁だって、北鮮に対する制裁だって、過去何年も続けているのに(効いてはいると思いますが)、未だ音を上げてきませんよね。中国は対米の貿易で関税に苦しんだとして、世界各国から経済制裁を課されるわけでもなく、大原氏の言うように叩き潰せますか?しかも、制裁の真の狙いは中国経済を叩き潰して、共産主義中国を叩き潰して、もってサイバー攻撃を諦めさせる?というのですからなんと遠回しなこと。遠まわしであることに加えて、中国のサイバー戦をバックアップしているのは確かに国家ですが、ここで軽視してはいけないのが中国のハッカーの裾野が広大なことです。ティーンエージャーがハッカー予備軍として、高校・大学で本格的にトレーニングを受け、一市民の愛国ハッカーたちというのが相当数います。彼らは、時に国家の思惑を超えて倒すべき敵に牙をむきます。米国が関税という経済制裁で時間をかけて中国を窒息させようとしているとしたら、愛国ハッカーたちは米国の政府機関や企業などをターゲットに、死に物狂いで愛国サイバー攻撃をかけるのではないでしょうか?もし、大原氏の言うように、共産主義中国が制裁に耐えかねて倒れたとして、国家をバックとするサイバー攻撃は枯渇するかもしれませんが、愛国ハッカー達は大人しくサイバー攻撃を放棄すると思いますか?米国に対する恨みをゲリラ戦のように執拗に続けるのでは?このハッカーの裾野が広いのは米国もロシアも同様。国家が仕掛けるサイバー戦もありますが、軽視できないのが名もなき市民ハッカーたちなのです。特に米国なんか、ハッカーを国家・社会にとって仇なすブラックハッカーから善良なホワイトハッカーにしようと手縄づける施策・事業をやってるほどですから。従って、経済制裁で共産中国を倒すのは長期間かけて功を奏するかもしれませんが、その真の目的がサイバー攻撃を諦めさせるというのは、ちょっと理解に苦しむところです。

 (了)

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2019/06/04

米中国防相の会談は物別れに

  2019年5月31日シンガポールで行われたASEAN国防相会議の幕間に、米シャナハン国防長官代行と中国の魏鳳和国防大臣が会談し、メディアの注目を集めました。
  VOA 6月1日付記事「US, China defense leaders meet amid increased tensions (米中国防トップ、緊張下で会談)」の概要です。
south-china-sea-draft-code-conduct_2018-05-03_11-06-43.jpg
In this April 21, 2017, file photo, Chinese structures and an airstrip on the man-made Subi Reef at the Spratly group of islands in the South China Sea are seen from a Philippine Air Force C-130. CSIS AMTI via DigitalGlobe, File (Philstar.com 2018年5月3日付「China's missile system on Philippine-claimed reefs a step closer to airspace control」 より ) (https://www.philstar.com/headlines/2018/05/03/1811793/chinas-missile-system-philippine-claimed-reefs-step-closer-airspace-control)

<ポイント>
① 米シャナハン国防長官代行と中国魏国防相は、米中の偶発的な軍事衝突を回避するための枠組み等、軍事協力について建設的に取り組む一方、それぞれの主張を交わした。
② シャナハン長官代行は、米中の軍事協力について建設的に取り組む一方、中国の南シナ海でのあからさまな覇権行為について苦言を呈した。「中国は防衛的性格と説明するがいささか過剰( it's a bit overkill.)である。」
② 魏国防相は、南シナ海での中国の取り組みはあくまで防衛的性格のものであり、中国からの先制的な行動は一切ない旨を強調した。

<寸評>
◯ 南シナ海の係争中の島々での中国の軍事拠点化については、中国が言うようなシロモノではありません。中国は、このブログ冒頭の写真(フィリピン空軍の輸送機C-130から撮影)=南沙群島のスービ岩礁のように、岩礁を埋め立てて人工島化し、軍事施設や滑走路を設置しています。更に、逐次に拠点化は進められ、地対空ミサイルが装備され、中国空軍の輸送機のみならず、戦闘機、支援戦闘機、早期警戒機、等々の作戦機が離発着できる滑走路の延伸がなされています。もはや、明白な事実として軍事要塞化しているわけで、シャナハン国防長官代行が「overkill(過剰)」と言ったのも言い過ぎではありません。

◯ しかし、中国の魏国防相は、(日本のメディアにも報道されていましたが、)会議でも記者会見でも自国の立場を強硬に擁護するタカ派的発言が目立ちました。南シナ海問題も台湾問題も、いずれも自国の領域・領土の問題であって、特に台湾について全てを犠牲にしてでも自国の一部として不可分である、と一歩も引かない姿勢を示したようです。更に、記者会見の場で、記者から天安門事件について質問された際、一国の国防相の発言とは思えない、一昔前の独裁国家のよう態度で次のように言いました。
  「軍の行動は正しかった。国家の危機を人民解放軍が救った。軍が外国勢力からそそのかされた暴徒の反国家的行動をコントロールした。」
  こういう場で馬脚を現すってことですね。まだまだ中国は垢が抜けていない。およそ国際的な場に出る高官には、メディア対応の訓練ぐらいしっかりやっておくべきでしたね。これじゃただの田舎オヤジ。国際的な会議に参加をする一国の高官たる者は、同じ趣旨のことを言うにしても、メディアを通じて世界に発信されることを考えて、バランスのとれた抑制的なコメントができなければ。

◯ ただ、情状酌量の余地があって、それは昨年のこの拡大ASEAN 国防相会議に中国は出席しておらず、そこで当時のマチス米国防長官に南シナ海問題について中国の覇権行為が糾弾された経緯がありました 。マチス国防長官は、中国の南シナ海の軍事拠点化が続く場合、「必要なら断固とした措置をとる」とまで発言し、中国に気兼ねして及び腰だったASEAN各国の溜飲を下げたのです。前年にそんなことがあったこの会議に数年ぶりに参加する中国としては、出席する魏国防相に対し、「一矢報いよ」と相当ネジを巻いたのではないでしょうか。ネジを巻かれたボルテージの高さのままに、いかにも冷戦時代の社会主義国家のタカ派将軍が言いそうなガチガチの発言になったと言うのが背景だろうと推察します。

◯ 当面、この正面の動向に注視が必要なようです。

(了)

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