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2019/07/29

英国独自でホルムズ護衛開始!さて日本は?



米国のホルムズ海峡有志連合への参加呼びかけを受け、日本としては只今検討中 。そんな折も折、英国は独自の英国商船の護衛を開始しました。(VOA記事 2019年7月25日付「 Britain Begins Escorting All UK Vessels Through Strait of Hormuz」)
他方、日本の対応について、金沢工業大学虎ノ門大学院教授・元海将の伊藤俊幸氏はFNN PRIME(2019年7月27日付、https://www.fnn.jp/posts/00047434HDK/201907271200_ToshiyukiIto_HDKより)「日本はすでに『有志連合』に参加している 米側の次なる要求はパトロール増強と商船護衛」にて表題通りの持論を展開しています。
これらを踏まえて、私見を述べたいと思います。

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英国籍商船を護衛する英海軍艦FILE - Britain'sHMS Montrose escorts a ship off the coast of Cyprus in February 2014. Britain has started sending a warship to accompany all British-flagged vessels through the Strait of Hormuz; the Montrose was the first to do so, on July 24, 2019.
(VOA記事2019年7月25日付「Britain Begins Escorting All UK Vessels Through Strait of Hormuz」より)



<ポイント>
VOA記事のポイントは以下の2点
① 英国は2019年7月25日(木)から、ホルムズ海峡にフリゲート艦モンテローズを派遣し、英国船籍の商船を直接護衛する作戦を開始した。これまで英国は直接護衛をするのは実行可能性から困難と主張していた。しかし、この政策の転換はボリス・ジョンソン新首相のイニシアチブということではなく、既定の計画だった模様。

② 英国の貿易所掌官庁や貿易・商船関係者からは高評価。他方、護衛作戦を実施しても、イラン革命防衛隊の商船の航路妨害や拿捕を抑止出来ず、交戦に至ることも十分考えられる。課題は交戦規定、と英国海兵隊出身の専門家は指摘。

伊藤元海将のご指摘は以下の3点
③ まず事実認識として誤解のないように。我が国が実施中の海賊対処行動は、既に米国の主張する有志連合の一部(CTF151:海賊対処行動)に参加している。また、米国が提唱する有志連合(coalitions)とは、各国それぞれの参加形態であり、指揮官も各国軍持ち回りという自主的かつ自由度の高い合同部隊である。多国籍軍とは違う。

④ 米国の今回の有志連合の構想は、既存の有志連合(CTF-152)を拡大・増強して、作戦地域をペルシャ湾〜ホルムズ海峡から更にバブエルマンデブ海峡海域まで延長し、米海軍は海域全般を警戒監視し、各国海軍が商船護衛をするイメージ。

⑤ 我が国としては、海賊対処行動の護衛艦の任務の付加、哨戒機の警戒監視情報の提供で貢献可能。法的には、正当防衛・緊急避難に加え、「近接阻止射撃」や「武器等防護」が可能なよう法的整理が課題。また、政治・外交上では、米国及びイランとの関係維持のため自衛隊の有志連合参加のあり方をどのようにするかが課題。

<私見ながら>
◯ 英国の英国籍商船の護衛作戦開始は、必要に迫られたこともありますが、国家として決然たる政策を断行しており立派です。悲しいかな、この国家としての決然たる態度が、今のところ我が国政府には見られない。

◯ 伊藤元海将のお説ご尤もですが、私見ながら反論が2点あります。
まず第一は、日本は既に有志連合(CTF152)に参加しているのか?=今回の米国提唱の有志連合が、既存のCTF152の増強(+各国の商船護衛作戦)という枠組みなのか?という問題。中東湾岸地域で米軍がここ十数年実施中のCTFという枠組みの作戦について、一般の方々にはあまり知られていない話ですから、それを説明してくださるのは良いのですが、同氏は本質論として今回の米軍の言う有志連合が=CTF152の拡大版である、と仰っている模様。私には異論があります。ダンフォース統合参謀議長はCTF152を前提にはされていないのではないかと思います。今回の作戦が、対イラン連合ではなく、あくまで商船護衛のための新しい概念のcoalitionなのだ、と説明していると私は解釈しています。CTF152の拡大版であるなら、CTF152に既に英、伊、豪、サウジ、バハレーン、ヨルダン、カタール、クウェート、UAEが参加しているので、既存の枠組みの拡大だと説明した方が話が通り易いと思います。そうは説明しておらず、ポンペイオ国務長官は「海洋安全保障構想を新たに提唱する。今その計画の初期段階であり、是非とも参加国を募る」と言っているわけですから。違いますよ、これは新規coalitionでしょう。それが証拠に、英国は商船護衛作戦を開始しましたが、米国提唱の有志連合に参加とは言ってませんよね。CTF152拡大版説であれば、英国は米国提唱の有志連合に既に参加中であり、かつ、今回そのCTF152の各国枠組みの商船護衛に参加していることになります。やはり別物ですよ。

◯ 第2に決定的な問題として、基本的に米国提唱作戦への参加とイランとの良好な関係維持は両立できるか?という問題。米国の有志連合の旗の下で海自艦艇を派遣したら、イランにとっては「敵」側についたと理解されます。両立はできませんよ。同氏は、米国提唱の作戦に参加することとイランと日本の良好な関係維持という問題を「どう扱うか」という程度のご認識をされておられますが、いかがなものかと首を傾げます。やり方によっては両立する、とお考えのようですが、基本的には両立は無理ですって。

◯ ただし、最終的な日本政府の方針として、イランに敵視されるわけにはいかないが、米国の考えを無碍にはできない、という政治的判断は十分考えられます。先程伊藤氏の持論を批判しておいて、私自身も自己矛盾になりますが、以下の3点を三立させねばならないのが我が国の命題だと思います。①米国に配慮していずれかの形で有志連合に参加するし、②日本関連船舶の護衛=安全確保は我が国のエネルギー安保の問題であり必須、その一方、③イランとの良好な関係維持も我が国のエネルギー安保上必須の問題、この三方両立が求められています。
  手前味噌ながら、私の持論を言わせていただきます。(ここ最近の過去ログも参照ください。)日本としては、主たる力は英国提唱の欧州海軍部隊に海自護衛艦を参加させてホルムズ海峡の安全確保と緊張緩和に運用し、従たる力で米国提唱の有志連合に海自海賊対処部隊の哨戒機によりバブエルマンデブ海峡海域の警戒監視情報の提供という形で協力すること、だと思います。恐らく米国は不満でしょう。米国とも協調するものの、イランとはことを構えず、自国関連船舶を守る。じゃあ、どっちにつくのだ?と問われれば、「少なくとも米軍主導の有志連合の旗の下で海自艦艇は派遣しない」ことは明確にすべきです。それでは海域の軍事的緊張を高めるだけです。筋は立てるべきだと思います。今回の危機をもたらしたのは米国自身ですから、筋を通すところは国家として決然たる態度を示すべきではないでしょうか?
  英国と歩調を合わせましょうよ。英国だって、日本と同様、米国とは特別な関係にある。しかし、元の核合意体制に回帰しようという考えをイランに対しても言い、米国とは協調しつつも米国主導の有志連合には加担せず、他方で自国船籍への航海の安全確保は自らの海軍艦艇で確保する、英国は英国としての正論を貫いているのではありませんか。

  (了)


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2019/07/24

ホルムズ有志連合に参加すべきか?

ホルムズ有志連合に参加すべきか?

<風雲急を告げるホルムズ情勢: ポイント>
① 2019年7月19日(金)に英国籍タンカーがイラン革命防衛隊に拿捕された。イラン側は同タンカーが漁船と衝突し、漁船からの無線に応えず逃走したためとしているが、英国側は「国家的海賊行為」と反発。

② その数時間後の同日、米国が米主導の有志連合海軍部隊の構想について説明会を実施し、日本を含む約60カ国が参集した模様。日本政府は現在検討中。

③ 同月22日(月)に英国ハント外相が英国議会にて、米主導ではない欧州海軍部隊によるホルムズ海峡の航路の安全確保を提唱。BBCによれば、既にハント外相は独仏の外相から基本合意を得ているとのこと。

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Embassy of the Republic of Yemen in JapanのHPより「中東地図」 (http://www.yemen.jp/about_j.php)

<私見ながら>
◯ 湾岸情勢波高し
  今ホルムズ海峡で起きていることは、4月〜6月の頃から比べると明らかに変調が見られるようになりました。あの頃は、正体不明の商船へのテロ的攻撃でした。7月現在の脅威は、正体不明の攻撃ではなく、明確にイラン革命防衛隊による商船の拿捕です。多分に、ジブラルタルでの英軍によるイラン籍タンカーの拿捕を契機とした、イラン革命防衛隊による主として英国籍商船に対する報復拿捕という脅威です。あれ?正体不明の攻撃って誰が犯人だったの?米国の言うようにイラン革命防衛隊だったのでしょうか?真相は闇の中となりました。ホルムズ海峡の現在の緊迫からすれば、当然かもしれません。米海軍、イラン革命防衛隊、英国海軍らが警戒態勢をとっていますので正体不明の攻撃はさすがに困難でしょうね。よって、ホルムズ海峡ではイラン革命防衛隊が脅威対象となっています。
  他方、実は脅威があって情勢が緊迫しているのはホルムズ海峡だけではないのです。アラビア半島を右(東)向きの長靴に例えるとすれば、長靴の前側の足から甲の部分とイランに挟まれた袋小路の海域がペルシャ湾、そこからグッとチョークポイントになるつま先の尖った部分とイランに「へ」の字型に挟まれた海域がホルムズ海峡、そこから先の太平洋への出口にあたる海域がオマーン湾。まず、このペルシャ湾筋の海域全体が第一の緊迫の海域。次いで、長靴の後ろ側の足からかかとの部分とアフリカに挟まれた海域が紅海、かかとの部分とアフリカの角の付け根に「L」字型に挟まれたチョークポイントになる海域がバブエルマンデブ海峡、長靴の底とアフリカの角に挟まれた海域がアデン湾。この地中海〜スエズ運河を通って紅海筋の海域が第二の緊迫の海域です。勿論、双方ともチョークポイントの海峡が緊迫の焦点です。日本のマスコミがあまり報じないことですが、ペルシャ湾筋のホルムズ海峡のみならず、紅海筋のバブエルマンデブ海峡も非常に緊迫しています。前者はイラン革命防衛隊が脅威。後者はイエメンの反政府武装組織フーシ派です。サウジや米国は、フーシ派はイランが背後で操っていると見ています。サウジは紅海筋からの原油輸出タンカーが、このフーシ派の攻撃に晒されており、現在は出航していない状態で、サウジは日額35億ドルもの損失が続いています。
  今世界の経済が直面している事態は、この二つのチョークポイント海峡が脅威に晒され、タンカーを中心とする商船の船主達が攻撃や拿捕を恐れて船を出すのに腰が引けるという状態なのです。

◯ 日本は米国主導の有志連合に加わるべきか?
  結論から言うと「否」ですね。まず正論をかますと、米国主導では「反イラン」同盟とイランから目され、イランとの軍事的緊張は必ずや高まります。日本にとって、有力な原油輸入元であるイランとの関係を損ねるのは、避けたい。他方、米国との強固な同盟関係にある関係上、現実路線としては米国の呼びかけを無碍には袖に出来ないかもしれません。その場合は、今既に実施中の海賊対処行動の枠組みの範囲で可能な、バブエルマンデブ海峡の海域上空の哨戒機による警戒監視の情報を共有することで参加可能です。海自として特別な哨戒機の艤装等も必要なく、特措法等の必要もなく、現行の海賊対処行動の任務の一環として直ぐに実行できるものです。日本は、バブエルマンデブ海峡とは目と鼻の先のジブチに海賊対処行動の拠点を持っていますから。米軍もジブチにキャンプ・レモニエ基地があり、日米間の密接な連携も可能です。地域的にホルムズ海峡とは隔絶しており、イランと直接対峙することもなく、イランへの刺激も最低限でしょう。

◯ むしろ英国提唱の欧州海軍部隊に参加すべし!
  むしろ参加すべきは、英国が提唱した欧州海軍部隊によるホルムズ海峡の安全確保でしょう。私見ながら、日本が言い出しっぺになった方が丸く収まったと思います。だって、英国はイランと相互にタンカー拿捕問題を抱えている状況ですから。加えて、英国政権がメイ首相からボリス・ジョンソン新首相に移行します。こいつは英国版トランプで、奇行や暴言・失言で有名な政治家であり、EU離脱の急先鋒なのでまずEU離脱は時間の問題。外交手腕も先行き不安なところがあります。イランからの見え方は、米国と一心同体ではないかと訝られ、英国が中立を守って海域の安全確保するようには映らないでしょうね。しかしながら、英国の問題はあるものの、イランにとって、この欧州海軍部隊構想と米国の有志連合海軍部隊とでは決定的な違いがあります。それは、イランにとって、前者は「核合意体制への復帰」を願う国々、後者は「核合意の否定/イランの危険性の除去」を主張する米国に同調する国々、となることです。イランの思いも前者です。後者に与する国々は、イランにとっては敵に見えるでしょう。

◯ 結論: 「英国提唱のホルムズ海峡安全確保に参加」を主とし、「米国主導有志連合に海賊対処の哨戒機による情報提供にて協力」を従とすべし。
  正論を主とし、現実路線を従とする。これでいかがでしょうか。既に10年近い実績のある海賊対処行動は、極めて中立的で実効性のある実施中の作戦です。この海賊対処作戦を通じ、海上自衛隊は欧州海軍部隊とも非常に密接な協調関係を築いています。英国提唱の作戦により、イランも一定の尊重を示す中で、徐々に海域の緊張を緩和していくべきです。そしてそれこそが海域を航行する商船の安心に繋がります。米国主導の有志連合では逆に緊張を高め、一触即発状態になるでしょう。
  国民の皆さん、海自は大丈夫!欧州部隊と密接に連携しつつ、海域の安定に寄与してくれますよ。
  政府さん、選挙終わったんだから、待った無しですよ!
(了)


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2019/07/17

イランへの欧州の一途な努力


  当ブログの7月10日付「イラン問題で欧州が緊急会議」の続報です。相変わらず英仏独をはじめとする欧州諸国は、イランを核合意に復帰させるために一途な努力を続けています。VOA記事2019年7月15日付「EU Announces Strides in Iran Trade Mechanism Amid Nuclear Deal Scramble」のポイントは以下の通りです。
ナタンツ
2008年4月、イラン中部のウラン濃縮施設で遠心分離器を視察するアフマドネジャド・イラン大統領(当時)
「USBでウイルス感染 イラン核施設攻撃の手口」(毎日新聞経済プレミア 2018年7月26日 松原実穂子 / NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト: https://mainichi.jp/premier/business/articles/20180724/biz/00m/010/002000c より)

<ポイント>
① EUは米国とイランの緊張緩和に努力中のところ、米国によるイランへの制裁に対する負担軽減策INSTEX(主として人道的必需品を対象としたイランとのバーター貿易を可能にする制度)について、今後は第3国にも門戸開放する予定であり、更にこの制度に原油も含められないかを検討中である旨、明らかにした。

② 欧州各国の外相級高官は期待感を述べる。
  英国のジェレミー・ハント外務長官:「イランの核兵器保有まで急いでも1年の猶予はあり、まだ核合意体制に復帰する可能性はある。」
  フランスのイアン-イブス・ラドリアン外相:「米国の核合意からの離脱という間違った決定、及びそれに起因するイランの核濃縮の核合意上限破りという間違った決定、そのいずれも非難する。欧州は一体でいなければならない。」

③ 他方イラン側は、欧州は米国の強硬な制裁による負担を十分に補償していない、と主張。また、専門家もINSTEXのインパクトについて懐疑的な見解。

④ それでもEUの外交政策主任のモーゲリーニ女史は、INSTEXは欧州が当初期待した以上にメカニズムが複雑であり、十分な効果は挙げていないかもしれないが、「それでも欧州はイランに対して最善を尽くす。このことがイランの世論に訴え、政権を感化し、核合意の枠内に完全復帰することを望んでいる。核合意締結国は、イランの重大な合意不履行もイランの核合意復帰への動きも、いずれも未だ確認していない。イランは、イランの核開発は平和利用であることを終始主張している。」と希望を捨てていない。

<私見ながら>
◯ 欧州のイランをかばう一途なまでのめげない努力は、誠に立派。賞賛に値すると思います。一体、そこまでする原動力は何なのかと、不思議なくらいです。他方、イランへの同情心からか、イラン寄りな希望的観測や平和主義者的な宥和政策志向が見え隠れする思いを持たざるを得ません。
  私見ながら、欧州の外相級高官の皆さんはいささか能天気に過ぎる。自国の国家やEUという諸国の共同体の外交を担っているのだから、現実主義の視点は外相級の必須の資質ではなかろうか?と余計なお世話を焼きたくなります。
  EU外交政策主任モーゲリーニ女史曰く、「イランが主張する通りイランの核開発は平和利用である、欧州の最善を尽くす姿勢がイランを合意への復帰へと動かす・・・。」
  英国のハント外務長官曰く、「イランの核兵器保有まで急いでもあと1年の猶予があり、まだ核合意体制に復帰する可能性はある・・・。」
  この方々は能天気過ぎますよ。例えばイランの核開発、平和利用ならなぜ「高濃縮するぞ!」と脅すのでしょうか?高濃縮が何を意味するのか一番知っているのはイランでしょうね。イランが技術的に80%まで可能と言及していますが、そんな高濃縮ウランは核兵器にしか用途はないですよ。平和利用なら核合意で上限とされた3.67%で十分なのです。平和利用なら300kgという上限で十分なのです。明らかに、イランは核開発技術を外交カードに使うという「火遊び」を始めたわけです。
  そのイランの企図、核兵器開発をチラつかせて西側の譲歩を得ようという危険な瀬戸際外交のハラを読んだ上で、現実的な交渉をしないといけません。

◯ 一方、今回のイラン情勢の緊迫化は、間違いなく米国トランプ大統領の一方的な核合意離脱と一方的な経済制裁によるものです。緊張の緩和の緒ためには、この問題の核心、トランプの石頭を柔らかくしなければなりません。問題の解決、緊張の緩和には、イランだけでなく米国に対しても、両者へのアプローチが必要です。アプローチには、外交による米国-イラン双方の核合意復帰を目指した政治・経済的な交渉が大事。更にもう一つ、ペルシャ湾-ホルムズ海峡の商船航行の安全確保という物理的な安全保障の問題の解決もお忘れなく。
  今の日本の立ち位置で、イラン-米国双方の首脳と直接フランクに話せる首脳を有し、緊迫するホルムズ海峡の海上作戦の国際的な協調態勢をリードできると思います。二の足踏まずに、是非踏み込んでもらいたい。
  あれ?能天気は私の方ですか?

  (了)

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2019/07/15

米国の有志国連合案の反響は?

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  緊迫するホルムズ海峡の続報として、米国の提唱する多国籍海軍部隊による海域の安全確保策について、VOA記事2019年7月12日付「US Builds Global Coalition to Protect Gulf Shipping」が報じていますので、ポイントをご紹介します。

<ポイント>
① 米国政府は、多国籍軍の連合作戦により、イラン-イエメンの周辺海域のペルシャ湾を出入する商船航路を安全確保する計画を発表した。この海域では先月(2019年6月)にタンカーが攻撃を受け、米軍の無人機が撃墜され、最近では英国籍タンカーがイラン革命防衛隊から進路を妨害される等の事案が続いている。この状況が続くと、原油その他の貿易、ひいては世界の経済への影響が懸念されるため、貿易関係者や専門家らはこの米国の提案を歓迎している。

② 世界最大の海運組織であるBIMCO(バルチック国際海運協議会)の警備担当者ヤコブ・ラーセン氏は、世界の貿易関係者がこの海域の情勢に多大な関心を持って注視していると述べ、期待感を隠さない。同氏によれば、ホルムズ海峡はペルシャ湾のチョークポイントであり、ここでの商船航行の深刻な脅威は、船主達は商船航行を控え、原油価格を上げ、世界全体の貿易も低調になり世界経済全体に悪影響を及ぼすと懸念する。「この状況を何ら有効な対応をせずに座視していては、必ずや商船攻撃事案がまた再発し、同じことの繰り返しとなろう。積極的な海域の安全確保対策が必要である。」と主張。

③ ロンドンに拠点のあるリスクマネジメントコンサル会社ラッセルグループのスキ・バシ氏も米国の提案を歓迎。同氏によれば、「ホルムズ海峡を通過する貿易は、原油やガスなどを主に年間5240億ドルもの規模であり、サウジに至っては日額で35億ドルもの損益を被り、アジア諸国にも悪影響を及ぼしている。ホルムズ海峡は非常に狭隘で二航路しか取れないほど。商船は、イランの海岸線のすぐそばを横っ腹を見せながら通過しなければならない緊張にさらされている。」とのこと。

④ 更にバシ氏はこの海域への海軍部隊派遣に次のような期待を語る。「多国籍軍部隊がこの海域を警戒監視することにより、海域の全般状況を常時把握でき、もし不審な行動があれば現場に急行する等の対応も担保でき、また、不審な行動を追跡調査・確認記録もできることから、攻撃事案を阻止し更に未然に抑止できるであろう。」

<私見ながら>
◯ 米国の「ホルムズ海峡有志連合案」に、海運関係者や貿易や経済の専門家が期待感をもって熱視線を送るのは十分理解できる話ですね。そりゃあ、海運関係者は何でもいいから商船の安全航行を担保してもらえるのだったら歓迎するでしょう。しかし、提案された各国の反応は聞こえて来ませんね。

◯ 米国から有志国連合の提案を受けた各国にとっては、「米国主導」であることがネックでしょうね。米国主導であることで対イラン色が付いてますから、イランから見れば対イラン海軍同盟軍ですよ。海域の警戒監視のはずが、気がついたら米国の対イラン戦争に巻き込まれる?どころか戦争に参戦している形になりますから。
  各国からすれば、ホルムズ海峡航行の安全確保には協力したいけれど、米国主導じゃあ・・・、という懸念で二の足を踏んでいると思います。

◯ ゆえに、米国抜きの海賊対処方式が得策なのだと私は思うのです。我田引水ですみませんが。ソマリア沖アデン湾の海賊対処は各国ごとの枠組みで情報共有によって密接に協力する形の多国籍軍だって、皆さん知ってます?日本やEU海軍部隊らと協議して設定した枠組みなんですよ。日本の法的制約から、初動は「海上警備行動」の枠組みで日本関係商船のみを直接護衛する形で始めました。じ後、海賊対処法を成立させて満を持して 米軍やEU海軍部隊と手を携えて海域を守った実績があるのです。ちなみに後から中国海軍も海賊対処に加わりましたし、その後日本も米軍のCTF151という海賊対処の枠組みに参加しました。自国独自のやり方でもOKで、相互に情報を共有して協力した実績があります。
  「米抜き」を日本が提唱することで、トランプの逆鱗に触れることを懸念する向きがあろうと思います。既にあの海域で米軍は米軍の作戦を展開しているのだから(あまり詳述できませんがCTF150代の各種作戦を現に遂行中)、むしろ米軍抜きでないと中立が保てません。イランの無用の警戒を煽ることなく、むしろ一定の信用を得て海域の緊張を下げるには米軍抜きの有志連合しかない、これは道理論です。

  安倍さんには、是非トランプとハメネイ師と別々に話してもらい、まず海域の商船の安全確保を担保する枠組みを取り持ってもらいたいものです。是非、市ケ谷の官僚・制服組諸兄の奮闘を期待いたします。
(了)


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2019/07/12

ホルムズ海峡は米抜きの海賊対処方式で!

ホルムズ海峡は米抜きの海賊対処方式で!
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◯ 米国が有志国連合を呼びかけ
米国のダンフォース統合参謀本部議長が、ホルムズ海峡の緊張に対応するための有志連合の海上作戦を提唱し、日本にも声を掛けている、との報道が昨日(2019年7月11日(木))の各紙の一面を飾りました。やはり来ましたね。私はG20の時にこの話が出てもおかしくないと思っていました。

◯ 各紙が報道「日本にはムリ」?
しかし、不満なことに、各紙とも「日本は法的枠組み上ムリ」との判で押したようにしたり顏で論じていたこと。ペルシャ湾-ホルムズ海峡の危機は、日本は勿論のこと世界の原油価格を揺るがす経済の大問題であり、それをどう対応すべきかという観点の話をすべきであるのに、天下の大新聞やテレビ局が日本の島国的お家の事情を論じていたことです。真剣に考える時期ですよ。

◯ 米国抜きの海賊対処方式ならやれる!
私見ながら、「できる。いや既に実施している!」と考えています。要は、現在実施中のソマリア沖アデン湾の海賊対処行動の枠組みを、そのままホルムズ海峡に持って来れば良いのです。但し、ダンフォース統参議長が言っているような米国主導ではなく、米国抜きの有志国連合による海域の警戒及び商船の護衛を実施すべきです。ここでは、米国抜きのであることが肝要です。米国主導では「対イラン」の構図が濃厚になりイランの反発を買い、かえって海峡の緊張を高めてしまいます。米国抜きで、日本やEUの海軍部隊が基幹となった有志国連合の中立的な海域の警戒であることを鮮明にすることが肝要です。それならイランも反発しません。あくまで正体不明の商船へのテロ攻撃を抑止するため、有志国連合の海軍部隊による警戒及び商船の護衛をするのです。

◯ 具体論
ソマリア沖アデン湾で実施している要領の応用でできますよ。上空をP3Cのような哨戒機がパトロールして不審船の行動を警戒するとともに、海域のあちこちに艦船がパトロールし、商船とも国際無線で情報を共有する。何か不審な動きあらば艦船が直接現場に急行する。近郊の港湾に臨検用の特殊部隊をヘリで待機させて、必要により投入する。今だってソマリア沖アデン湾で実施しており、これで航行する世界の商船に安心して安全航行できる基盤を提供しているわけですから。
勿論、「法的枠組み上ムリ」論者が懸念するように、海賊対処法そのものの適用は難しいでしょう。なら、海賊対処法の対象の改正か、新法(但し時間がかかる)か。そこは当面の処置をしつつ、じ後の法的枠組みの対応が必要でしょう。まず国際的な視野に立って、日本も主体的に国際的協調態勢に参画し、国際的な海軍部隊による警戒と護衛の作戦の枠組みを作ることが肝要であり、次いで日本としていかなる形で参加貢献するのか、これを実施する上で日本にはできない部分を考慮して、国際的な役割分担すればいいのです。日本はできる部分で貢献すればいい。哨戒機による上空からの警戒監視情報の提供のみ、という手だってある。肝心なことは、この海域を航行する世界の商船に安心安全を提供すること。日本にできますよ。だって既にやっているんだから。攻撃してくる相手はイランなんですか?イランは否定しているんでしょ?このような海域の警戒で、物理的な抑止になることは間違いなしです。アホな野党が戦争に巻き込まれる論を展開すると思いますが、これは集団防衛の話じゃない、あくまで海域の警戒です。国家間の戦闘になるのであれば予め留保をとって有志国連合から離脱すれば良い。

◯ 官僚や制服組は脳漿を絞れ!
こういった話があると、すぐに法的枠組みや前例がないことを理由に「ムリ」と言いますが、政治を支える官僚や制服組がしっかり補佐しなければなりません。アホな法律家やコメンテーターに煙に巻かれるべからず。やれる!10年前に海賊対処行動を可能にした時のように、やればできる!頭の固い官僚達は、脳漿を絞れ!市ケ谷の制服組も実行可能たらしめるべく脳漿を絞れ!政治家に説明してサポートしろ!
(了)

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2019/07/10

イラン問題で欧州が緊急会議

 核合意から離脱し厳しい経済制裁を課して一歩も退かない米国、核合意の基準を意図的に破って「何とかしろよ!欧州!」と欧州に下駄を回すイラン。 ジブラルタル海峡ではイランの密輸タンカーが英国に拿捕され、報復にイランはペルシャ湾の西側タンカーを脅かす・・・。 緊迫するイランをめぐる情勢は益々混迷を深めています。
 「何とかしろよ!」とイランに無茶振りされた欧州が、何とかしようとしている努力について、VOAの記事2019年7月9日付「European Leaders Call for Urgent Meeting on Iran」を軸にお話しします。
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ホルムズ海峡 (VOA記事 2019年6月16日付「US Guarantees Hormuz Shipping Passage」より)

<記事のポイント>
① 7月9日(火)に、イラン核合意締結国の英仏独とEUは、前日の国連の原子力機関(IAEA)のイランの核合意違反の確認を受けて、緊急の会議を開催。 会議は「イランの核合意からの数点の逸脱に対し、深刻に憂慮する」との共同声明を発出。欧州の指導者たちに対してイランは、遅滞なく核合意の枠内に復帰したいが、核合意の枠組み自体が元の完全な規定の遵守の体制に復帰しなければならないことを強調した。

② 欧州の指導者の中でも、マクロン仏大統領の外交努力は顕著。テヘランに大統領の外交スタッフを派遣するとともに、自らはイランのロウハニ大統領と電話で交渉し、7月15日までの間に核濃縮問題について解決を目指すことについて同意を得た。

③ 7月8日(月)IAEAは、イランが核合意のウラン濃縮3.67%までという基準を超えたことを確認したと発表。同日、イランの原子力エネルギー機関のスポークスマンは、上限値3.67%を超え4.5%程度にまで濃縮度を上げたこと、更なる20%以上の高濃縮の可能性にも言及した。米国の核合意離脱以降、イランは既に部分的に核合意違反をしているが、核合意締結国が米国の離脱や制裁の埋め合わせの支援をイランにしない場合は、更なる深刻な核合意違反に至る可能性を示唆して恫喝している。

④ 今回のイランの濃縮ウランの保管量増と高濃縮化の動きの脅威度については、2つの見方がある。オバマ政権時の交渉チームの一員でもあったコロンビア大学の研究者リチャード・ネヒュー氏は、今回の動きはイランの核開発の意図を示しており、数%の高濃縮化により核開発への道のりの数日から数週間の短期化を目指しているものの、核兵器保有に至るまではまだ一年ほどの期間がかかる、との楽観的認識。他方、保守ヘリテイジ財団の米海兵隊元中佐のダコタ・ウッド氏は、イラン核合意では既設の各施設の廃棄を課していなかったため、イランが300kg超の量と4.5%の濃縮ウランを宣言したからには、20%へ、そして更に90%への核兵器開発への道へひた走る実行可能性を示している、と深刻に認識。 両者とも見解が一致しているのは、イランは核合意違反という手段を、西側からの外交的譲歩を引き出すテコ入れに使っている、ということ。

<私見ながら>
○ トランプ米大統領に同意したくはありませんが、確かにイランが今していることは「危ない火遊び」です。トランプ米大統領が「気を付けるべきだ」というコメントをtwitterで発したのは親切心ではなくして、「コラッ!調子に乗っていると親軍事行動に出るぞ!」と言う恫喝です。

○ イランの身になって考えてみますと・・・。核合意を守っていたのに、昨年、米国からいわれのない中傷を受け、更に勝手に核合意から離脱され、厳しい経済制裁を受けました。特に、イランから原油を買わないように各国に呼びかけ、制裁やぶりをするなら米国市場から締め出すぞ、という恫喝までセットになっています。死活的国益である原油を各国に輸出できないイランは、1年経ってかなり制裁が効いて経済がひっ迫してきました。同じ核合意の締結国である英仏独中ロに「何とかしてよ!」と呼びかけます。これに対し、中国・ロシアは、米国の一方的離脱について米国を批判しています。実質的に中国は原油の密輸でイランを助けています。ロシアは戦略的沈黙を保っています。ゆえに、頼みの綱は大口輸出国でもあった英仏独と、加えてEUに対し、「何とかしてよ欧州さん!」と経済的支援を求めました。欧州はINSTEXという枠組みで、バーターなど米国ドルを介さずに欧州企業がイランと取引できるようにしました。しかし、原油が売れない損失の補填には程遠い状況。しかも、欧州企業は米国の制裁やぶりの企業への報復が怖くて腰が引けています。ついに、イランも堪忍袋の緒が切れて、伝家の宝刀「核開発に走っちゃうぞ」作戦に出ました。効き目は確かにあります。欧州も対応の目の色が変わりました。しかしながら、イランもレッドラインは守っているのではないかと考えられます。これ以上は、本当に米国が軍事行動に出る、そのラインは越えないようにしているのではないでしょうか。先日、米国のUAVを撃墜しましたが、あれは本当に空域に入ったのか不明ながら、緊迫した海空域にはよくある偶発的錯誤だと思います。しかし、あれが有人機だったら、イランももっと慎重だったのではないでしょうか。今回のウラン濃縮の高濃度化の件、3.67%越えとか4.5%とかはまだまだ十分に線を越えていません。さすがに今は可能性に言及している程度の20%に本当に達したら、それはラインを越えているでしょうね。結論、イランは、今はまだ欧州に頼みをつないでいるのでしょう。可愛げのない頼り方ですけどね。

○ 欧州の努力はどうでしょうか。欧州、と言っても各国それぞれの思惑は違うでしょうが、英仏独あたりの身になってみましょう。「おいおい、止めろよ。核合意に戻れって・・・」というのが正直なところで、さぞ憂慮しているでしょう。仕方ないので、欧州で知恵を絞ってINSTEXというあまり決定打ではないものの、何とかイランにも必需品が市場からなくならない程度の貿易枠組みを提示し、「我慢してくれ、大人しくしろって・・・」と心配しているところに、今回のイランの核合意破り宣言。これまた仕方がないので、欧州で集まって対応策を協議。しかし手詰まり・・・。何も決定打、イランへの効果的支援策がない。協議をしましたが、結局何ら具体的な対応策なし。それぞれの国を見てみても、英国もドイツももはや首相は任期も影響力も終末段階。フランスのマクロンさんくらいしか動ける人はいないのでしょうね。フランスとイランは以前から関係が深いこともあり、また、マクロン大統領のトランプ米大統領との関係も、言うべきことは言う姿勢を崩していないので、イランにとって「話せる相手」でしょう。しかし、それにしても決定打にならない・・。何よりの決定打は、トランプ米大統領に意見をして核合意に復帰させるとか、少なくとも各国にイランの原油を輸入することを禁ずるという制裁を止めることでしょうが、それは無理ですね。欧州はどうしたらいいのでしょうか?
  そんな折も折、7月4日(木)ジブラルタル海峡でイランの超大型タンカーがシリアへの密輸の疑いで英国の海兵隊に拿捕されました。英領ジブラルタル政府は14日間の差し押さえを認める決定をし、当然イランは猛抗議。タンカーの密輸について全面否定するとともに、「そう来るならホルムズ海峡で同様にお前らの船を拿捕するぞ!」とイランは恫喝。実際に、英国船籍のタンカーが一時拘束されたり、ホルムズ海峡を通れずに引き返すタンカーが出たりしています。原油を中東に依存する欧州にとっても、イラン情勢が正常化しないと、欧州の経済すら不安定化する状況なのです。

○ 私見ながら、当面の展望ですが、米国、イラン、欧州の首脳陣の合理的判断の観点では、まだレッドラインを越えていません。当面は緊張したまま推移するのではないでしょうか。他方で、経済的にきついのはイランですから、瀬戸際戦略をとる一方、アンダーで握る妥協案を模索し始めるでしょう。仲介は仏か日本か。仏の方が一歩先んじています。日本だって資格はあるのですが。選挙終わってからですかね。日本外交久々のヒットに期待しています。1980年代に安倍さんのお父さんが外相時代にイラン・イラク戦争の際に効果は左程でもないものの仲介しました。安倍さんは絶対意識していると思います。
  他方、怖いのは緊張下のホルムズ海峡での偶発的軍事衝突、或いは過激派のテロ。先日の英国タンカー一時拘束の際も、あれが米国タンカーだったら米国は特殊部隊による奇襲的奪還をするでしょうね。そしてそれは米国が限定的な作戦のつもりでも、イランにとっては宣戦布告になってしまいます。それが怖い。
  北朝鮮情勢より、今はこっちの正面の方が怖い正面です。

 (了)

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2019/07/04

イランはまた火遊びを始めたのか?

  イラン情勢を報じる記事は数あれど、断片的かつ漠然としたものが多いですね。紙面の問題か、記者や編集者のセンスの問題でしょうか。しかし、中にはいいのもあります。

  以下はVOA記事7月2日付「Bid to Bypass American Sanctions on Iran Met With Wariness in Europe」のポイントです。非常に問題の核心を突いた鋭い指摘をしています。
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Iran's top nuclear negotiator Abbas Araqchi and Secretary-General of the European External Action Service (EEAS) Helga Schmit attend a meeting of the JCPOA Joint Commission in Vienna, Austria, June 28, 2019. (Reuters) (VOA記事7月2日付「Bid to Bypass American Sanctions on Iran Met With Wariness in Europe」より)

<ポイント>
① 米国の核合意離脱に伴うイランに対する経済制裁が再開され、欧州の核合意締結国は制裁の影響を緩和し、イランが核合意に留まるよう試みているが、先行きは危ぶまれる。

② 厳格なトランプ米国大統領の制裁の目をくぐってイランを支えようとする欧州締結国の試みに、欧州のビジネス界は警戒心を隠さない。

③ 折も折、以前から指摘されていたイランの核合意の上限を超える濃縮ウランの保有問題に対し、イラン自身が開き直ってこれを認め、更に核兵器製造レベルの90%に迫る高濃度な濃縮の再開まで認めた。

④ 米国以外の核合意締結国、米独仏中ロとEUは、INSTEX(貿易取引支援機構)というイランと貿易取引ができる(米ドルや米国の金融システムが関わらない取引の枠組み。バーターなど)枠組みを設定し、イランに対する米国の制裁の影響を抑えて核合意に留まらせようと企図している。しかし、制裁破りのような取引がトランプ米政権の逆鱗に触れて強烈な制裁を課されるのではないかとの懸念に怯え、欧州のビジネス界は二の足を踏まざるを得ない状況。危険を冒すほどイランとの取引は魅力的でもない。むしろ米国との取引の方が大きいので、米国市場から締め出されるようなことは絶対避けたい。また、イラン側の取引相手の企業の背後にイラン国家がいることも多く、米国の制裁対象にされる懸念も。その一方で、今回の米国の一方的な離脱や制裁に批判的だった中国は、イランとの瀬どりの疑いが指摘されている。

⑤ イランの濃縮ウランの貯蔵量超過と高濃縮発言は、大きな波紋を呼んでいる。トランプ米大統領はこれを「火遊び」と一蹴。確かに、2つの意味で火遊びかもしれない。この発言により、イランは欧州に対して米国かイランか選ばせようとしている。他方で、この発言により北朝鮮のように瀬戸際政策をとって、米国にイランとの交渉のテーブルにつかせるトリガーにしようとしている、いうもの。
⑥欧州の国々の立場は、英国の外務長官ジェレミー・ハントの言葉に象徴される。「英国はイランの動きを危なっかしく思っており、これ以上の核をめぐる余計なステップを踏むべきではないと強く戒め、イランは核合意に留まることを強く望んでいる。」 ちなみに、英国は、最近、イランに対する厳しい発言が目立つようになってきた。これはトランプ米大統領の訪英で念を押されたことと、最近のホルムズ海峡で続発しているタンカーへの攻撃が、イランが背後にいることが指摘されていることが影響していると思われる。

<私見ながら>
○ 今回の記事が端緒となって、私もINSTEXの枠組みを勉強してみました。経済には疎いので、難しかったですが、欧州の企業がなかなか乗れないのもうなずけます。

○ 現在のホルムズ海峡の緊張は、米国トランプ大統領が仕掛け人であることは間違いないと思います。7割がたはトランプのマッチポンプですよ。しかし、・・・3割がたは確かにイランも悪い。私もここ最近、少し再考しています。冒頭の写真はウィーン(ヴィエンナ)での核合意の会議の一場面ですが、イラン側の煮ても焼いても食えない交渉姿勢に欧州側も閉口しているようですね。今回のイランの濃縮ウランの上限超過問題やあろうことか高濃縮化の開始への言及は、2000年代の核合意前の煮ても焼いても食えない頃のイランに戻っていますね。3割がた、確かにイランも悪い。恐らくは、真に核兵器開発への野望があるのでしょう。核開発を振りかざして瀬戸際政策を取り、当時も湾岸危機を作為しました。そして欧米を翻弄したあげく、欧米にひざを折らして核合意に至りました。トランプにしてみれば、このオバマの弱腰の妥協が許せなかったのでしょう。結局、イランは核開発を放棄せずに、合意は守って平和利用の核開発を装い、実は核開発をしている、との指摘がよくありました。しかし合意は守っていたので、米国やイスラエルやサウジ以外の国は余り目くじらを立てなかった。しかし、今回のことで、確かにイランは十数年前と変わらずに、飽くなき核開発への努力を継続していたんだ、ということが明らかになりました。なぜなら、平和利用であるなら、数%の濃縮ウランで十分なはずなんですよ。それを、なぜ90%に近づけようと努力するのか?、また、そうできる技術を欧米に隠れて持っていたではないか、ということが証左ですね。

 引き続き、イラン情勢は目が離せませんね。

(了)

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2019/07/01

トランプにいい所を持って行かれた!

いやー、隠し玉でやられましたね。土曜に板門店で金正恩とのランデブーをツイッターで呼びかけた時に、これは別動隊の外交チームがG20の裏で動いていて、平壌とのアンダーの呼びかけをしているな、と思いました。恐らくは、G20以前の先週のトランプと金の間の書簡の交換の時点で、アンダーの話し合いで概ねG20後の板門店で頂上会談てのはどう?という世界へのサプライズが用意されていたのでしょうね。してやられました。クソー、トランプにいい所を持っていかれました。
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President Trump makes history, sets foot in North Korea (Fox News, Jun. 30, 2019より)


今回の両首脳の会合の評価は分かれると思いますが、私見ながら大いに評価したいと思います。
「評価しない」というのは、トランプ+金の両首脳の会合自体は、「歴史的」であってもセレモニアル乃至サプライズなだけで、実質は1時間くらいの会談で何も具体的なことは話されておらず、ただ協議を再開すると決めただけではないか、という論点だと思います。ただのパフォーマンスと見る見方でしょう。
しかしながら、二人が揃って握手した後、双方が国境線を超えて見せたこと、そして韓国サイドの建物で1時間に及ぶ首脳会談をしたってことは、トランプ-金両首脳が相互に話をしたいと個人的に思ったからです。勿論、両首脳とも大好物の、世界に対するサプライズやパフォーマンスもあるとは思います。それでも認めねばならないのは、この二人が二人とも暴君であるが故に、どうやら相互に一応の信頼関係がある、ということは評価すべきポイントでしょう。
普通の民主国家の首脳は、しっかりしたスタッフが脇をしっかりと固めていて、ともすると、もはや首脳の意見はスタッフが台本を作って双方のスタッフ間で握っていて、その台本の域を逸脱しない場合が多いくらいですから。この二人には台本がないのでは?基本的なキャラが似てるのだと思います。トランプさんが北の地を踏むということについて、米国大統領が北朝鮮の土を踏むということの意味を難しく議論する専門家がいて、さぞや嘆いていることと存じますが、恐らくトランプさんにはそんな深読みや堅い考えはどうでもいいことなんですよ。知らねえよバカ!と思っていて、そんなものは屁とも思わず、むしろ常識論をぶち壊しにすることに快感を感じていることでしょう。金委員長もそういう思考でしょうね。まぁ勿論、北朝鮮の場合は金委員長を批判する者は皆無でしょうけど。

今後の数週間のうちに、双方のスタッフが本格的に協議を開始し、数ヶ月後には首脳会談をどこかでやることになるでしょう。勿論、課題は山積みですし、交渉の行方は険しいものだと思います。私は現実主義者なのでこれで北朝鮮が非核化したり南北和平が実現するなんて夢想していません。しかし、前に進んだことは間違いありません。イランとの緊張のような疑心暗鬼よりはよっぽどましです。

トランプさんの常套句を使わせてもらえば、「We’ll see.= まぁ、様子を見てやろうじゃないか。」ってところですね。
(了)


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