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2019/09/21

サウジ油田炎上、イランは遂に一線を越えたか

恐れていたことが起きました。イランは越えてはいけない一線を越えてしまったかもしれません。
2019年9月14日(土)、イエメンの反政府組織フーシ派によ攻撃がサウジのアブカイクにあるアラムコ社の油田に壊滅的な損害を与え、サウジの石油生産能力が半減する状態にまでダメージが深刻化しました。トランプ米大統領は、このミサイルとドローン攻撃の真犯人はイランであるという確信があると明言し、イランへの開戦かと危ぶまれる状況になっています。
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(2019年9月16日 ANNニュースより)

<状況>
2019年9月18日付VOA記事「Trump: 'Many Options' to Respond to Iranian Attacks on Saudi Oil Fields」によれば、
① 9月18日のトランプ大統領の発言では、米国がこの攻撃はイランが為した戦争行為と位置づけ、48時間以内に相当の新たな経済制裁を課すとともに、「軍事行動に加え、米国には多くの選択肢がある。」と述べた。

② サウジは、攻撃はイランによるものとの「動かぬ証拠」を報道に供し、イランを非難している。イラン製のデルタ型ドローンの破片と巡航ミサイルを証拠物件として報道公開するとともに、それらは「北」すなわちイランから明白に飛来した、と主張。

③ イラン国営ニュースは、直ちに攻撃への関与を否定し、もしイランへの行動があった場合には直ちに対応行動を取る、と警告した。他方、イランが背後にいると言われているイエメンの反政府組織フーシ派の報道官は、イエメン国内でサウジ主導の軍事作戦を支援しているアラブ首長国連邦に対して、攻撃目標にする旨の恫喝を行った。

④ 米国とサウジは、今回のサウジの油田攻撃の起点はイエメンでもイラクでない、とイランの関与を主張。これに関連して、9月18日にイランのロウハニ大統領は、イエメンでの非人道的なサウジ主導の軍事作戦への「警告」と公言してはばからない。また、ロウハニ大統領は、フーシ派は学校や病院や市場等を攻撃目標にしたことはない、と擁護。

<私見ながら>
◯ イランは一線を越えた
8月のG7にて、米国とサウジの交渉の可能性が見えてきたにも拘わらず、イランは自ら「米国と直接交渉することはない」と現状打開の道を断ちました。それに加えて今回のサウジ油田攻撃により、「遂に一線を越えた」と私見ながら思えてなりません。サウジはサウジの国家収入の大黒柱である石油生産能力を半減させられ、もはや我慢の限界。ボルトン前国家安全保障補佐官がいたらもう外科手術的航空攻撃をしているでしょう。米国は、イラン国内からの発射であることの証拠をつかんでいる、と公表しています。イランは、イラン国家・政府の関与を否定していますが、何者かが自国から巡航ミサイルを発射して他国を攻撃していることを黙認しているという状態。認めようとしないでしょうが、そんなガバナンスのない国であるはずがありません。

◯ 開戦のシナリオ
誰もが望んでいないことですが、今後、何らかのトリガーで、米国は事前にサイバー攻撃をかけてイランの防空、警戒管制、指揮通信、電力インフラ等を無力化・無効化し、ミサイル攻撃やドローン攻撃(まずは飛び道具で)が始まるかもしれません。可能性が高いのは、サウジによるイランへの報復のミサイルかドローン攻撃で、まずイラン-サウジ間で戦争が始まり、米国が影に日向に支援し、イランが米海軍艦艇を攻撃する。これにより戦闘状態に移行する 、などのシナリオです。
これに対しイランは、目の見えない耳も聞こえない状態ながら、世界経済にインパクトの大きいホルムズ海峡の封鎖で対抗します。具体的にはヤケクソ的な機雷敷設。海峡のあちこちに、無差別的に機雷を撒くのでしょう。米国もペルシャ湾〜ホルムズ海峡〜オマーン湾での海上及び航空作戦で対抗。特に、イランの海軍も空軍基地も防空網も開戦間もなく壊滅。イラン国土の基地や軍事工場、核開発施設など、二度と立ち上がれない程の壊滅的打撃を与えて、一方的勝利宣言をする。この際、陸上部隊は投入せず、特殊戦部隊のみ潜入させ、情報収集、破壊工作、レーザーJDAMによる重要目標の航空攻撃の誘導など。米国の描くシナリオはそういった感じでしょう。

◯ 新たな泥沼の始まりかも
ところが、米国の思惑通りいかないのがイランの強かさ。通常戦力の戦いでは米国の圧倒的な軍事力には歯が立たないのは間違いないところですが、ここからがイランの底力。中東各地のシーア派武装組織が、あちらこちらで反米テロののろしを上げ、反米、反イスラエルの抗争をあちこちで起こすでしょう。中東は再び荒れすさぶでしょう。イラン国内でも反米国民感情に火がつき、勝利宣言をしても米国はイラン本土にはいかない方が良いでしょう。従順な日本人とは決定的な差があり、イラン人を御するのは厄介な仕事でしょうね。まかり間違って、イランに陸上部隊を大挙進駐させ、イラクやアフガンで目指したような、米国の悪い癖「民主的な政治体制を作り上げる」なんて絵空事を描いたら、手ひどいしっぺ返しを食らうでしょう。イラン人は決して米国に精神的な屈服はしないでしょう。徹底的に抵抗する。イラク、アフガンの二の舞です。新たな泥沼が始まってしまいます・・・。

○ イランは我が強すぎる、時を待つべし
   対米国となると、徹底的に反発するイラン。もっと利口になるべきです。トランプ後のオバマのような穏健政権になるのを待って、今は耐えるべきを耐えるべき時。 しかし、「やむにやまれぬイラン魂」なのでしょう。

 (了)

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2019/09/10

マチス元米国防長官「米国は香港の側に立て」

マチス元米国防長官「米国は香港の側に立て」

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Former U.S. Secretary of Defense General Jim Mattis speaks at a Reuters Newsmaker event in New York, September 9, 2019.  (2019年9月9日付VOA記事「Former Pentagon Chief Mattis: US Should Side With Hong Kong Protesters」より)

  久々に衆目の前に立ったマチス元米国防長官が、「香港問題は内政問題にあらず。米国は、中国政府に人権の尊重を求める香港の人々の側に立つべし。」と発言したニュースが話題になっています。
(2019年9月9日付VOA記事「Former Pentagon Chief Mattis: US Should Side With Hong Kong Protesters」より)

<状況>
① マチス元米国防長官は、9月9日(月)のロイター社のイベントにて、香港の反政府デモを念頭に「人権のために立ち上がった人々に対し、米国はそばに寄り添って立つべきであり、少なくともモラル上の支持を与えるべきだ。」と述べた。

② 中国は、香港問題に対してデモ側の暴動行為を糾弾し、米英がデモを扇動していると訴えている。同氏が「これは(香港問題)は国内問題ではない。」と述べたことは、中国政府を刺激することになりそうだ。

③ マチス氏は、中国政府が進めようとしている逃亡犯条例改正案は、香港が中国に返還された際の「一国二制度」という原則に違反している、と非難している。

④ トランプ大統領は、デモ参加者を「暴徒」と表現したことがある一方、中国政府に人道にもとる対応を慎むよう求め、もし徹底弾圧のようなことがあれば米中相互にダメージのある貿易問題を沈静化する努力は非常に困難になる、と釘を刺している。

⑤ 逃亡犯条例改正案は、数ヶ月に渡る反対運動による社会不安の末に、先週取り下げとなった。にも関わらず、香港中の道路や公共場所での大勢の反対デモは勢い衰えず。むしろ、中国政府への反感を示すより広い民主化運動に成長してきた。先週末のアメリカ領事館を囲んだデモでは、反対デモ参加者は米国に香港を平定・解放してくれとまで促す有り様。

⑥ マチス氏は次のように踏み込んだ発言をした。「米国は慎重に対応しなければならない。香港に米国陸軍第82空挺師団を降着させたいとは思わない。しかし、道徳的観点からはどうだろう?我々米国は香港の側に立つべきだと私は思う。」

<私見ながら>
◯ 今や公的立場を離れているので、今更マチス氏がいかなる発言をしようが、大きな外交上のインパクトはないでしょう。しかし、控えめながらも言うべきことは言うマチス氏らしい発言で、お変わりなくて嬉しい限りです。

◯ マチス氏の発言は、マチス氏が人権、人道主義、民主主義の信奉者という訳ではありません。彼は生粋の軍人で、米国に対する熱い愛国心と冷徹な現実主義に基づく分析から、「対中国」の戦い方として香港問題への米国の取るべき態度は「人権や民主化を標榜して中国政府に対抗しようとしている香港の人々の側に寄り添って立つべし」と主張しているのです。人権や民主化ひいては自由と独立という米国の建国の精神と同じなので、マチス氏は中国への強力な外交上のカードとしても、これは香港の反政府運動を支援するべきだ、と発言しているのです。その意味において、中国政府が香港問題は米英による陰謀のように非難しているのは、あながち的外れではないかもしれません。

◯ マチス氏はトランプ大統領の常識破りのキテレツな外交・安保政策に対し、持論を主張し軌道修正してもらい、時に妥協してきました。最後には、アフガン、イラク、シリア等からの撤収時期を巡ってトランプ大統領と対立し、事実上の更迭となりました。しかし、辞職後もトランプ政権の批判をしたり、内情をリークしたり暴露本を出したりせず、ただ黙ったまま静かに表舞台から去りました。Old soldiers never die, just fade away.(老兵は死なず、ただ消え去るのみ。) この辺が軍人ですね。私見ながら、今回の発言もトランプ政権への批判ではなく「エール」と理解しています。つくづく、惜しい人を米国政府は失ったものだと、虎を野に逸した思いがいたします。
(了)


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2019/09/04

緊張緩和のハードルを自ら上げるイランと米国

緊張緩和のハードルを自ら上げる米イラン

  2019年8月下旬のG7で、やっとのことで米国とイランの交渉の可能性が出てきたことで、欧州諸国はじめ関係国は祈るような思いで先行きを注視していたことと思います。しかし、またしてもイランの煮ても焼いても食えないお国柄が、自らそのハードルを引き上げる態度を取っています。「米国は経済制裁を取り下げよ!」、「欧州諸国がイランの原油輸出及び代価獲得の保証をしろ。さもなくば、核合意からの更なる強力な後退をするぞ!」と要求しています。出口への光明が射したのも束の間、イランには妥協の余地がないようです。
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In this photo released by the official website of the office of the Iranian Presidency, President Hassan Rouhani speaks in a ceremony in Tehran, Iran, Tuesday, Aug. 27, 2019. (2019年9月3日付VOA記事「Rouhani Rules Out Bilateral US Talks」より)

<状況>
① 2019年9月3日付VOA記事「Rouhani Rules Out Bilateral US Talks」によれば、イランのロウハニ大統領は8月27日(火)に、米国が核合意離脱以降にイランに課してきた全ての経済制裁を取り下げない限り、米国との交渉はしない、との方針を明らかにした。

② 同じく2019年9月2日付VOA記事「Iran Pledges 'Strong Step' Back From Nuclear Deal Unless Europe Helps」によれば、イランのアリ・ラビエイ報道官は9月2日(月)、欧州諸国は米国の経済制裁を回避するイランの原油輸出を確保せよ、さもなくば更なる核合意からの強力なステップに踏み切る、と今週金曜を期限に要求した。

③ 同じく2019年9月3日付VOA記事「US Imposes Sanctions on Iran Space Agencies」によれば、ポンペイオ米国務長官は、米国はイラン当局の弾道弾開発の進展を助長するイランの民間宇宙機関に対し制裁を課す、旨の発表した。

<私見ながら>
◯ せっかく、緊張緩和の光明が見えた、と思ったのに、やっぱり米国-イランともに「バカの壁」があって、まだまだ直接交渉の道は先が見えない状況ですね。イランも頑なな姿勢を崩さないし、米国も強硬姿勢を崩さない状況ですね。イランのアル・ラビエイ報道官の「Iran's oil should be bought and its money should be accessible to return to Iran.(イランの原油は買われなければならず、その代価はイランに戻ってくるよう入手可能でなければならない。)」という口調を見ると、「日暮れなんとして、道尚遠し」の感慨にたそがれてしまいそうです。

◯ トランプは、イラン政権をなきものにするまで本気でやる気なのかもしれませんね。イランも一言居士なので、米国が一歩も退く気がないのなら売られたケンカは買うお国柄です。誰も望んではいませんが、この調子では戦争は不可避なのかもしれません。
  そうなると、バカ同志のケンカは「止めてもムダならもう勝手にしろよ!」という形にならざるを得ません。そこから先は、日本にとってのエネルギー安保の懸念を如何に局限するか、我が身を守ることを考えねばなりません。
  2019年8月31日付産経新聞に「エネルギーミックスで中東リスクに備えを」という記事が載り、輸入原油の87%、液化天然ガス(LNG)の22%を中東に依存する日本のエネルギー安保を憂い、原子力の早期再稼働の必要性を論じていました。再生エネルギーが、まだまだ安定的なベース電源たり得ない以上、そして日本国民がもはや電気なしでは生活できない電化生活になっている以上、単に原子力に対する情緒的反発ではなく、自分の問題として真剣に考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。

(了)


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