香港、大学占拠は風前の灯だが戦略的退却だ!
2019年11月21日の時点で、香港の民主化デモは、大学占拠の態勢が香港警察に包囲され、大学構内にいた学生ら反対派のほとんどが投降か逮捕され、残る徹底抗戦組は200名足らず、今や風前の灯火状態になりました。(※1)

私見ながら、これは決して民主化運動の哀れな末路ではなく、長い戦いの一区切り、一局面であり、戦略的退却ですよ。大学占拠により、一時的に「徹底抗戦だ!」と、高揚感も上がったかもしれないものの、状況を見て諦めたわけですよ。このまま籠城していても勝ち目はないな、と。しかも、香港警察なので未成年者は逮捕せずに身柄を確認したらリリースしてくれていたし。逮捕されてもまだ、香港警察だからましですよ。籠城戦を止めて、ここはひとまず退こう、と。元々組織的な防御をしていたわけじゃないんだから、それぞれの考えで三々五々に抜けていった。それはここで終わりにするのではなく、「次のために」。だから、戦略的退却なんですよ。恥でも何でもない。これはこれでいいんです。にも関わらず、日本のマスコミの報道では、この大学占拠の攻防戦の状況を報じる際に、あたかも民主化運動の惨敗のような表現をするのが我慢なりません。本質が分かってない。
私は、三々五々に撤退してくれて本当に良かったと思っています。もし、彼らが徹底抗戦策をとって、ほとんどの者が大学に立てこもり、警察と正面衝突をしていたらどうなるか?TVに出ていたように、事前に準備した火炎瓶やボウガンを使って警察官を殺傷していたら、・・・・。当然警察は数にものを言わせて徹底的につぶしにかかるでしょう。死人も出たでしょう。そして、大学占拠側が首尾よく防御戦闘ができてしまったら、警察が退却してしまったら、・・・もっとずっと厄介な結末が待っていました。中国政府が香港警察に見切りをつけて、介入。人民解放軍の圧倒的な制圧、鎮圧。そして次に来るのは香港全土に治安回復と称して戒厳令を敷く。…そんなことになったらますます大変。
香港の民主化運動は、特に、(逮捕者を中国本土へ送還することを認める香港政庁の決定に対する反対運動を端緒とした)2019年6月以降のデモ戦術は、誠にもって神出鬼没にして柔軟機敏。彼らは数年前の雨傘革命の挫折を教訓にデモ戦術を改善しました。雨傘革命の失敗はバリケードを築き拠点を占拠して長期戦をしようとしたこと。そこで彼らは、リーダーや固定的な組織を持たずに、そこかと思えばまたあちらというゲリラ的デモを敢行。AIを駆使して個人を特定して取り締まろうとする中国政府や香港政庁をケムに巻いて、散々脅されてもあちこちでデモを敢行して勇敢に戦ってきました。香港警察はまさに翻弄されていました。
彼らのすばしこいデモ戦術の勝因は、神出鬼没・柔軟機敏な流動的な戦いです。言ってみれば、イラクで地上最強の米軍を苦しめたイラクの反米武装グループの「非対称戦」です。正規軍と「通常戦」をせず、ヒットアンドアウェイで戦う弱者の戦法。勿論デモですから様相は全く違いますよ。しかし正規軍が組織的戦力を発揮して戦う戦い方に対して、相手と真面目に戦わずに、神出鬼没に政治的主張をPRしては衆参離合するというデモ戦術だった訳なので、「非対称戦」であることには間違いない。2019年の香港デモも香港警察と通常戦闘を避けて神出鬼没に戦ってきました。にも関わらず、その彼らが結局は大学占拠という固定的かつ組織的な通常戦闘をしようとした。通常戦闘なら正規の準軍隊である警察は組織的にその力を発揮します。世界の軍隊が学ぶ「戦術」ではこうした組織的な通常戦闘の戦理を「優勝劣敗」といいます。組織的戦闘力の優勢なものが勝ち、劣るものは敗れる。但し、それは「組織的な通常戦闘をしたら」の話。だから、組織的に戦おうとせず、デモで政治的主張をPRしたらさっさと解散していいんですよ。戦闘力で戦うのではなくて、世界の報道に載せてもらって、TVやYoutubeで世界の皆さんに見てもらって、国際的な支持や賛同や声援・応援を得られればその方がいいんですよ。こんなところで腹を切る必要はないんですから。
確かに、大学占拠は風前の灯ですが、香港民主化デモそのものには追い風も吹き始めました。
在香港英国領事館に勤務していた香港人の方が、中国の秘密警察に拉致・監禁・拷問を受けて、民主化デモに英国がバックにいることや民主化運動に加担している中国本土の者について詰問された、というニュースが出てきました。2019年10月下旬、英国外務省は在英中国大使に対して抗議しています。(※2)
また、2019年11月19日、米国上院議会で香港の人権を及び民主化運動を支持する「香港の人権及び民主化の法案」が可決しました。(※3)
香港の皆さん、こうした追い風も吹いていますよ。今回の一時的な退却をトラウマにすることなく、早く立ち直ってください。大学占拠のような固定的組織的な戦術はもうやめて、また神出鬼没型で流動的にデモを続けてもらいたいものです。
※1: VOA記事「Hong Kong Protesters Increasingly Desperate as Campus Standoff Continues」(November 19, 2019 08:23 AM)より
※2: VOA記事「Ex-British Consulate Staff Says Chinese Police Tortured Him」(November 20, 2019 03:38 PM)より
※3: VOA記事「Senate Passes Bill to Support Human Rights in Hong Kong」(November 19, 2019 08:12 PM)より
(了)


にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
スポンサーサイト