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2019/12/28

北朝鮮のXマスギフトの行方

  クリスマスギフトと言うからには、本来イブ12月24日か当日25日なのに、誰も楽しみにはしていなかったものの、音沙汰ないと「あれ?」と勘ぐり始めるものです。
  そう。北朝鮮が米朝交渉の進展の一方的な期限をこの年末とし、「進展がなないならXマスギフトを送るぞ」と恐喝していたのですから。
  2019年12月26日付VOA記事「No North Korean ‘Christmas Gift’ Yet, But Deadline Looms」では、その「あれ?」を記事にしています。

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North Korean leader Kim Jong Un speaks during the Third Enlarged Meeting of the Seventh Central Military Commission of the Workers' Party of Korea in this undated photo released Dec. 22, 2019, by North Korea's Korean Central News Agency.
(2019年12月26日付VOA記事「No North Korean ‘Christmas Gift’ Yet, But Deadline Looms」より)

<私見ながら>
  米国政府も米軍も、公算大と思われていたのはICBMの発射。私見ながら、日本列島越しでハワイ近海や日本越しせずともグアム島近海に落下、さもなくば潜水艦発射弾道ミサイルであるのではないか思っていました。今のところないですね。このまま撃たないでしょうね。24日や25日に撃たずにどん詰まりの30日/31日にあるとも思えません。しかし、発言したからには実行するオプションはあったのだと思います。しかし、その後の国連での対北朝鮮決議の動きなどを見て、再考したのでしょうか・・・。

○ 年内に撃つか、もう撃たないか、で何が分かるか
  「年内に撃つ」とすれば、本来はクリスマスに撃つつもりだったが、国内でも議論があって結論が出ず。或いは、実は米国と水面下で交渉をしていてクリスマスを持ち越したが、結局決裂したので、やはり撃つ。・・・というところでしょうか。
  もし前者なら、まだ北朝鮮にもスタッフが議論するというシステムが残っているという朗報。金正恩の独裁と言いつつも、議論は存在するということ。或いは、部下の議論ではなく金正恩自身が決断を迷って機を逸し、しかしやはり撃つということです。何を迷ったか?が撃ったことで返って悪影響大で利益がないかも、と迷ったのだとしたら「初めから言うな」って話ですよね。
  後者だとすれば、12月中も米国のビーガン北朝鮮政策特別代表(つい最近国務副長官に昇進)が交渉を追求していましたから、実はアンダーで調整を進めていたのかも。世に出ていないそれなりの交渉があって、クリスマス前には判断できず、しかしやはり決裂して、それで撃つことに…。なくはないでしょうが、ちょっと無理がありますね。

  「もう撃たない」とすれば、スタッフの議論なのか、金自身の判断なのかで撃たないことに決めたのか、或いは、本当に対米交渉が進展したから撃たなかったのか、です。
  議論にせよ、金正恩自身の迷いにせよ、対米交渉で進捗がないのに結局撃たなかったっていうのは中々興味深いですね。これまた「初めから言うなよ」という話。これまでも、北朝鮮は「ソウルを火の海にしてやる」とよく言ってきました。ソウルのみならず日本や米国も火の海って言ってましたが、それは脅しだけでした。あの頃、そう言われてもどの国もどうせ口だけだと思っていましたが・・・。だから今回もそうなのでしょうか。もう北朝鮮にもかなりの力がありますから、今回が口だけだったというのは、少し考えづらいですね。でも、今回も口だけだったというのなら、それはそれでホッとしますけどね。
  或いは、既述のビーガン北朝鮮特別代表とのアンダーの交渉で一応の進捗、すなわちアンダーで経済制裁の一部解除とか事実上の支援策を獲得したので、だから撃たない、ということ。もし、そうだとすれば、その進捗はトランプが金正恩の脅しに屈したことになるので、世の中には伏せている、ということです。しかし、もし制裁解除などの進捗があれば北朝鮮は喧伝すると思いますが・・・。それが全くないので、米側から「内緒にしてね」と言われて了解してるってことですが。あれ?そう言えばビーガンが12月20日付で国務副長官に昇進しました。アンダーの交渉のご褒美?そうなの? ・・・いやぁ、それも考えづらいですね。

  まだ数日ありますし、ハッピーニューイヤーでお年玉ってこともあるかもしれませんが・・・。
  まぁ、トランプがよく言う言葉で言えば、We’ll see. じっくり見てみましょうか。

(了)

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2019/12/26

習発言「香港よ、マカオは一国二制度の成功モデル」

 2019年12月20日、中国の習主席はマカオ特別行政区の20周年記念式典にて「マカオは一国二制度の成功モデル。制度導入が不十分な香港の模範となる。」と賞賛した(※)。この発言に香港は反発。更に総統選挙を控える台湾の反発を招き、総統選挙にも親中派に向い風、反中独立派に追い風となろう。
(※ 2019年12月24日付VOA記事「Analysts: Xi's Praise of Loyal Macau Won’t Appeal to Hong Kong, Taiwan」)

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Chinese President Xi Jinping, front left, and his wife Peng Liyuan, front right, wave after arriving at Macao Airport, Dec. 18, 2019.((※ 2019年12月24日付VOA記事「Analysts: Xi's Praise of Loyal Macau Won’t Appeal to Hong Kong, Taiwan」より)

<状況>
  習首席はマカオ特別行政区の20周年式典に出席、「“The people in Macau have whole-heartedly embraced the ‘one country, two systems.’ Let’s recognize that the ‘one country, two systems’ is the best system for Hong Kong [sic] to maintain its long-term prosperity and stability,” マカオ市民は一国二制度について心温かく迎い入れてくれた。香港にとっても、一国二制度は長期的に安定し繁栄しうる最高のシステムであることを認めよう。」と述べた。

<私見ながら>
◯ マカオは一国二制度の優等生か?
  確かに、マカオは習主席の目から見ればそうかも知れません。香港と同様、以前は他国の植民地とされ、後に中国に返還されたものの、香港とはだいぶ違う形で発展を遂げました。マカオはポルトガル領時代から東洋のラスベガスと称されるようなカジノの街として発展し、ポルトガル領時代から親中派の実業家何賢(別名スタンリー・ホー)がマカオのカジノ王・影の総督だったこともあり、返還前から中国との関係は比較的親密で、返還後も何賢の息子が初代行政長官となり、中国政府とは密接に協力しつつ一国二制度を実践してきました。裕福になった中国から非常に沢山の富裕層がカジノ客として訪れて金を落とし、中国資本が相当入り、半ば中国直轄領的な国営のカジノ街になっています。(もちろんカジノですから、米国などの外国資本も相当入っています。)香港と同様「特別行政区」ながら、中国本国に飲み込まれた形です。名目GDPは非常に高く(香港より)、カジノで潤う人々とそうでない人々の貧富の差は著しい状況。中国福建省などからの新移民も多く、香港のような市民の自己主張やデモはない代わりに、市民の顔が見えない街。文字通り中国に飲み込まれつつあります。
  香港の人々から見れば、これが一国二制度?だとしたら、香港にとってちっとも魅力的ではない一国二制度であり、別にマカオになりたいとか成功例とは思っていないのです。何より「制度」そのものについて、返還前の自由や民主的な統治体制を引き続き認めることだったはずなのです。
  習主席の発言は香港人には全くアピールしないでしょう。

◯ 台湾総統選挙にも影響あり
  今回の習主席発言は、現職の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統にとって何よりの追い風でしょうね。この発言により、台湾国民は一段と中国への警戒感を強めることになるでしょう。投票日は正月明け、もう目の前に総統選挙が迫っており、この最後の追い込みの時期にこの発言ですから、現職の蔡英文総統(反中国派)には何よりのクリスマスプレゼントだったでしょう。対抗馬の国民党の韓国瑜(ハン・グオユー)(親中派)氏には最悪の向い風。習主席にしてみれば、マカオを引き合いに出して香港の方向性を善導したつもりが、期せずして敵に塩を送った形ではないでしょうか。

(了)

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2019/12/20

北朝鮮はX’マスギフト=ドッキリ発射をするか?

 12月20日付VOA記事(※)によれば、米国政府は北朝鮮がクリスマスギフト(ミサイル発射実験など)をするのではないか?と北朝鮮の動向を注視している模様。あり得る話であり、先般のエンジン燃焼実験で自信を深めた北朝鮮が勇み足をすることは十分考えられる。
 しかし、その勇み足がトランプの逆鱗に触れて取り返しのつかない事態になることも。北朝鮮の自重を祈るしかない。
※ 2019年12月20日付VOA記事「US Watching North Korea for 'Christmas Gift' Missile Launch」

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VOA 2019年12月13日付記事「Pentagon Tests Long-Banned Ballistic Missile Over Pacific」より

<状況>
  米国は、北朝鮮が先般の固体燃料によるエンジン燃焼テストで核ミサイル開発成功に自信を深めたものと見ている。北朝鮮は、自ら一方的に設定した「今年中」という交渉期限が切れることを米国政府に対して警告してきた。何もせずに期限切れを見過ごすとも思えない。米国本土に直接届く大陸間弾道ミサイルICBMをすでに開発し、動きに気付かれずに発射できる固体燃料でのエンジン燃焼実験にも成功。加えて、北朝鮮は既に、どこかの海の底に隠れて報復第2撃を担保する潜水艦発射弾道ミサイルSLBMも開発成功した、と主張している。まだ不確かではあるものの、これは北朝鮮が戦略核抑止力をすでに持ったことを意味する。

<私見ながら>
◯  十分考えられること
   期限切れを警告していた北朝鮮が、米国や関係国に対し期限切れを戒めるペナルティーとして何らかの行動をとることは十分に考えられる。これが、いつもの日本海の域を出ないものなら(日本の経済専管水域に入ろうが)大事に至りませんが、これが本当にドッキリ・ビックリの発射であったら、これは大事(おおごと)です。例えば、固体燃料満載で、日本列島越しの大気圏越えロフテッド軌道で長射程の弾道ミサイル発射実験をするとか、グアム島の近海に弾頭部が到達落下するとか、或いは、潜水艦発射弾道ミサイルを発射し太平洋上に到達・落下させるとか。悲しいかな、これは十分に考えられるオプションです。
   北朝鮮の行動も、まだ開発途上の数年前までは、実は米国への言葉の挑発はあっても、実は割と慎重でした。これも12月7日のエンジン燃焼実験で自信を深めたことで、大きく出てくるかもしれない、それも十分あり得る、と懸念しています。

◯ 勇み足は限度が過ぎると命取り
   もし、こんなドッキリ発射があったら、米国政府も日本政府も防衛省もマスコミも、蜂の巣を突つく大騒ぎになるでしょう。トランプ大統領は面目をつぶされて、さすがに今回は激怒するでしょう。なぜなら、これまでトランプ大統領にしては上出来なほど、北朝鮮の挑発的なミサイル発射実験などに寛大なコメントをし、何とか非核化を進めようと根気よくやってきたつもりだと思います。それがなめられたとあっては、これまで腹では怒っていても表面上は我慢してきたトランプ大統領も、堪忍袋の緒が切れるでしょう。しかし、怒ったとしても、例えば日本列島越えくらいなら、日本人にとっては大騒ぎであっても、米国民が脅かされない限り、トランプの怒りは想定内であり、怒ったポーズであろうと思います。ところが、もし、グアム島やハワイなどの近海に落下するなど、米国民が住む土地を脅かすような場合は、激怒どころか逆鱗に触れます。それこそ「Fire and Fury」の世界。本当に怒ったら何をするかわからない男ですから。ご本人の性格はともかく、軍の態勢は恐らく一触即発の臨戦態勢に入るでしょう。在韓米軍は最高度の臨戦態勢、沖縄、三沢は勿論、グアムやハワイの海空軍や、果ては本土の戦闘機や爆撃機がオンアラートへ。空母も極東正面へ集まって来る。恐らく、サイバー攻撃もやるでしょうね。来年の選挙への「強い大統領」アピールもありますし、本当に実力行使に出るかもしれません。

まだ、いつもの短射程のロケットを発射し日本海に到達・落下というものなら「やりやがったな」とニガ笑いで済みます。祈っても効き目はないでしょうが、北朝鮮の自重を祈るばかりです。

(了)

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2019/12/17

首が繋がった香港長官は’切りしろ’


2019年12月16日、香港の林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は、年次報告のため中国の李克強首相と会談。香港情勢を報告し指導を受けたが、李首相は林長官と香港政庁の施政に引き続き支持を表明、「一国二制度」についても変化はなしと強調した模様。一部で更迭が囁かれていた林長官は首が繋がった形となった。

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In this photo provided by Hong Kong Government Information ServicesChinese President Xi Jinping, right, speaks with Hong Kong Chief Executive Carrie Lam, during their meeting, in Beijing, China, Dec. 16, 2019.
BEIJING

私見ながら、これは首が繋がったのではなく執行猶予、やがて来る情勢緊迫の際の大弾圧・鎮圧の際に全ての責任を背負わされる「切りしろ」と推察します。いずれ香港情勢が民主化デモにより更に緊迫化した際に、国家の危急に際した緊急措置として中国政府が香港政庁をオーバーライドし、治安回復の大義名分の下で人民解放軍による徹底的な暴徒鎮圧、戒厳令が敷かれ、香港市民は踏み絵にかけられ、民主派は一掃されるでしょう。まさにそのキッカケに、首を切らずに残した林長官の歴史的役割があるのです。香港長官による中国政府への介入要請です。まさにそのために残したのです。歴史的にもこういう人って何名もいましたよ。1950年代のチェコやハンガリーで、民衆のデモをソ連軍の軍事介入で鎮圧するキッカケにしたのは、チェコやハンガリー政府によるソビエトへの介入要請でした。もっとも、ソ連は介入要請があったというものの、本当に介入要請があったのかは定かに非ず。そういう役割のために「切りしろ」として生かしておく人っているわけです。

報道は表面を伝えますが、背景や思惑を様々な角度から論評するところにジャーナリズムの真価があります。各紙の真価が問われます。そのツッコミや関心の高さが香港の民主派への最大のサポートになると思います。

(了)

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2019/12/12

北朝鮮:ミサイル実験で自信深め挑発攻勢

2019年12月になって5日に短距離ミサイル発射実験、7日にもエンジンの燃焼実験を実施した模様。弾道ミサイル開発の自信を公言するとともに、交渉の行き詰まりを見せる米国に対して苛立ちと挑発をぶちかましています。
しかし、この挑発攻勢は危険きわまりない。遂にはトランプの逆鱗に触れ、一触即発の事態になる可能性も……。


◯エンジン燃焼実験で自信深めたか
カギは12月7日のエンジン燃焼実験。今回のエンジン燃焼実験というのは、発射前に注入する必要がある液体燃料ではなく、セットすればいつでも即発射できる固体燃料によるエンジンの燃焼状況のテストだったと推測されています。
北朝鮮は、既に固体燃料は開発していたものの、米国に届くICBM(大陸間弾道弾)のような長射程は開発途上だったようです。
ご承知のように、弾道ミサイルというものは遠投と同様、推進力は初めだけで、あとは放物線を描いて落ちていくものです。遠くに投げるためには高く投げる必要があります。弾道ミサイルでは、大気圏を越えるまでロケットエンジンは噴射し、大気圏を出て頂点に達して推進力だったロケット部分を切り離し、弾頭部分だけに軽くなって目標に向けて落下していきます。目標に正確に命中させるためには、まだロケットエンジンで推進している段階で、衛星によるナビゲーションにて、数個の噴射口の微妙な調整で方向を微調整します。液体燃料は発射前の注入が必要なため、偵察衛生等で発射前の注入作業で兆候を気付かれてしまう欠点がありますが、その反面、液体ゆえにミサイルの方向制御がしやすいことが長所です。固体燃料は発射前に発射準備を察知されることはないことが長所ですが、実は方向制御が固体ゆえに難しく、長射程で正確に目標の方向に制御することが非常に難しい技術となります。それを今回の燃焼実験で技術的にクリアしたようで、今回の実験で真に自信を深めた模様です。よほどの技術的ブレイクスルーができたようで、その成功の高揚感が、今回の一連の挑発攻勢から見え隠れしています。

◯挑発攻勢の危険性
よほど嬉しかったのでしょう、相当な自信が起爆剤となったのか、相当な勢いで挑発攻勢をかけています。実験の翌日12月7日に、北朝鮮の国連大使は「米国との長い協議はもはや必要ない。非核化は既に交渉のテーブルには乗っていない」とまで発言。今回の実験で得た戦略核戦力のほじについての自信を誇示しています。米国との非核化交渉についても、「(米国自身の)内政課題のために朝米対話を利用する時間稼ぎの策略」とまで言って朝米交渉自体を否定する始末。
しかし、この挑発はいかにも危なっかしい。トランプ米大統領が今のところ珍しく大人の対応をしていますが、さすがにカチンときているようです。トランプ米大統領のツイッター発言にも、その苛立ちが現れています。
Kim Jong Un is too smart and has far too much to lose, everything actually, if he acts in a hostile way. He signed a strong Denuclearization Agreement with me in Singapore. He does not want to void his special relationship with the President of the United States ......
「苛立ち」で済んでいるうちに、つばぜり合いを超えないうちに、笑顔で交渉に入ってもらいたいところです。米国が本気で激怒すると、イラク・アフガニスタンのような徹底的な撲滅に至ります。

(了)

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2019/12/07

イラン経済断末魔。遂に軟化か?

イラン経済断末魔。遂に軟化か?

イランでは、ガソリン値上げに伴って各地で過激な反政府デモが起き、政府は抑え込みに大わらわ。透けて見えるのは、トランプ米大統領が始めた対イラン経済制裁によって、イラン経済はもうかなり逼迫した状況になってきていることです。そんな中、12月3日、ロウハニ大統領の訪日打診があった模様。これまで強気一辺倒だったイラン政府の中で、日本に制裁解除の仲介を求めてきている模様。変化の兆しが見えてきました。
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In this photo released by the official website of the Office of the Iranian Presidency, President Hassan Rouhani speaks in a meeting in Tehran, Iran, Dec. 4, 2019.

<状況>
①イラン政府のガソリン3倍値上げ決定に反発し、イランでは極めて稀な反政府デモが2019年11月15日頃からイラン各地で始まった。これに対する警察や革命防衛隊による実弾射撃を含む暴力的かつ苛烈な鎮圧ぶりがネットで伝わり、反政府デモは更に各地に飛び火。イラン政府はネットを8日間遮断する措置を取り、更に鎮圧作戦を強化し、鎮火に大わらわ状態。

②国際人権団体アムネスティー・インターナショナルや外国メディアがイラン政府のデモ鎮圧の残虐さを報じる中、イラン政府はそれら報道を否定し「外国勢力にそそのかされた反政府分子の仕業」と説明し、政府の暴徒鎮圧対応を正当化。

③ しかし、そんなイランにも変化の兆しが見え始めた。政府は死者が出ていることを認めるとともに、ロウハニ大統領は12月4日のテレビ演説の中で、米国が制裁を解くなら米国との交渉を始める可能性を示唆する旨の発言をした。また、同じ4日の日本のマスコミ各社が報道したところでは、ロウハニ大統領は12月中旬に訪日を熱望している模様。トランプ大統領との仲介を安倍首相に依頼する可能性も。

④そんな折も折、一部報道では、トランプ米大統領は侵略的な行動を示す兆候があるイランの脅威に対抗するため、中東に1万4千もの兵力と艦艇等の増派を検討している模様。

<私見ながら>
◯ よもや、こんな状況になっていようとは、思いもよりませんでした。
イラン革命以来、やらせ的な反米デモは有っても反政府デモ自体が滅多にないイランにおいてこうなったということは、市民の生活はいよいよギリギリの状態だということを示す証左ですね。経済逼迫の原因は、明らかに米国の対イラン経済制裁の影響です。米国は、イランが核合意の傘に隠れて核開発を進めていると見ており、核合意から離脱し、イランに対する徹底的な経済制裁を課しています。イランの稼ぎ頭の原油輸出をターゲットに、相手国に対して米国は制裁を課す(その国は米国との貿易ができなくなる)ので、イランの原油は輸出先を失っています。その他の貿易も米国の制裁が怖くて相手がいない状態。経済的な鎖国を強いている状態です。国家財政の主力財源を失って、イラン経済は自転車操業。もはや市民生活がギリギリのところに来ている由縁です。
◯ 今回の反政府デモは、元々は突然のガソリン値上げに対する反発でした。しかし、政府の鎮圧の仕方が実弾射撃を含むあまりの残虐さだったため、これをネットで見た各地の市民に飛び火。鎮圧側の警察や革命防衛隊の暴力への反発からデモ側も過激化し、鎮圧側は輪をかけて暴力的に鎮圧する。‥‥この繰り返しで、かつてないほどの国家的騒擾状態になっています。
これまでイランは、宗教的国家元首とも言えるハメネイ師は神聖不可侵の存在の筈でしたが、今回のデモではロウハニ首相のみならずハメネイ師まで糾弾の対象になっていることにはビックリ。遂に、市民の声なき声が噴出した状態、といったところでしょうか。

◯ これまでイラン政府は、米国とはいかなる交渉もするつもりはないという強硬姿勢でした。核合意への復帰を求めて、フランスをはじめ核合意締結国がイランに外交アプローチをしましたが、イランの姿勢は強硬一辺倒でした。
そんなイランに変化の兆しが見られ、頑な姿勢から柔軟な姿勢に切り替えたかも知れないのは吉報ですね。しかも、安倍さんにトランプとの仲介を求めているかも知れない。‥‥いい展開ですね。今や、世界広しとはいえトランプとサシで親しく懇談できる首脳は安倍さんしかいません。イランも四面楚歌の中、日本だけは古くからの友人として良好な関係があります。これまた世界広しとは言えハメネイ師と会談したのは安倍さんだけです。安倍さんのお父さんが外相の頃、ハメネイ師は会っていることもあり、一定の信頼を得ています。

◯ 日本としては、丁度ペルシャ湾・ホルムズ海峡の海路の安全航行のための海自艦艇中東派遣を控え、脅威の素であるイランと信頼関係を確保することは必要条件です。ロウハニ・安倍会談を、是非とも成功裡に進めてもらいたいですね。目標は、イランにも一定の譲歩を約束させ、核開発をしない前提で核合意へ復帰させる。他方、安倍さんはトランプに米国の対イラン経済制裁を解くことを約束させねばならないでしょう。大体揉めるのは、どっちが先か問題なんですよね。世界のリーダー達ともあろう者が子供の喧嘩状態ですよ。だったら、「いっせーのせ」というのはどうでしょう。期日を決めてお互いに経済制裁解除、核合意復帰。これができたら、トランプも危機を回避した外交指導力を大統領選挙でピーアールできるのに。‥‥まぁ、現実はそう上手くいかないでしょうけどね。

(了)

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2019/12/02

香港デモよ落ち着け、中国の大弾圧に注意せよ

香港デモよ落ち着け、中国の大弾圧に注意せよ

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A protester wearing a mask depicting U.S. President Donald Trump gestures during a "March of Gratitude to the US" event near the U.S. Consulate in Hong Kong, China December 1, 2019. (2019年12月1日付VOA記事「China Retaliates After US Legislation Supports Hong Kong Pro-Democracy Movement」より)

  2019年11月24日(日)の香港の選挙の結果、あに図らんや民主派の完全勝利。大学に立て籠った学生には苦い思い出になったかもしれないが、選挙において大多数の香港市民は民主派を支持した、という形で中国政府にサイレントマジョリティの力を見せつける結果となりました。これが民主選挙の恐ろしさだよ、共産党一党独裁の中国よ。中国政府にとってみれば、さぞや憤懣やるかたないことでしょう。

  しかしながら、選挙結果の出た週末、11月29日金曜のデモあたりからデモの傾向はまたも一部で過激化。土日のデモではデモ参加者も増え、米国の「香港人権・民主主義法」へのトランプ大統領の署名へのラブコールから、さながら親米デモ。「Make HongKong great again!」とトランプ大統領のスローガンを使う始末。過激化した若者が火炎ビンを投げ、対する香港警察も、催涙弾をふんだんに使用。

  ちょっと待って香港、選挙でサイレントマジョリティの力を見せたまでは良かったが、デモの過激化や親米デモ化はまずい。落ち着こう。さもないと、中国政府の大弾圧エックスデーにgoサインをかけてしまう。

  私見ながら、一番注意すべきは中国政府が読みが大外れして焦っていること。焦るどころか狼狽しています。香港の選挙結果も大ハズレ、更に追い討ちをかけてトランプ米大統領が香港人権・民主主義法を是認したことで、中国政府は激怒の前にさぞや狼狽したことでしょう。折しも米中通商交渉も詰めの段階。中国政府の読みとしては、トランプ大統領は交渉妥結したいわけだから、よもや中国の意に反することはすまいと踏んでいたでしょう。中国政府は、米国の決定を知るや、すぐに在中国米国大使を呼びつけて詰問の上、「内政干渉」への対抗措置を取る旨厳しく伝達しています。対抗措置といっても、中々妙案もないらしく、12月2日現在では米海軍艦艇の中国への寄港を禁じたくらいでしょうか。大した対抗措置ではなく、冷静さを失っています。

  中国政府にとって主たる問題は、米国のこの法律による「内政干渉」よりも、5大要求を訴える香港デモがあろうことか星条旗を振って親米デモ化していることでしょうね。中国政府にとって、これはもはや許せない状況です。ガバナンスの問題です。今の香港の状況を黙認していると、もはや中国本土にも燎原の火が付いてしまう。もはや死活的国益が侵されつつある。勿論このニュースは本土に流れません。とはいうものの、ネット社会の10億もの中国人民にもはや隠し通せるのか、時間の問題でしょう。

  今回のデモで、一部過激化した学生?が警察隊に火炎ビンを投げたり、中国政府寄りとみられるレストランを焼き討ちするなどの行為があったようです。対する香港警察は相変わらずの催涙弾対応。一部では警察側も過激に警察力という名の暴力を振るっているでしょうが、中国政府から見ると生温い対応です。狼狽しているだけに、案外簡単なキッカケでgoをかけてしまうかも。既に大弾圧の準備は出来ている。このデモとほぼ同時期に中国政府は軍と警察隊に訓練をさせているのです。

  だからこそ言う。香港デモよ、落ち着こう。貴兄らの趣旨は警察との抗争や親米アピールじゃないはずだ。調子に乗りすぎると中国政府に間違ったシグナルを送ってしまうことになる。奴らに「もはや香港警察には任せられない」「デモ参加者ではなくテロリストだ」と言わせる様な事はすべきでない。林鄭月娥行政長官は貴兄らの要求に全く譲歩していないかもしれないが、どうせ彼女はそのうち中国政府からクビにされよう。要求が通らずとも、国際世論は追い風なのだからこそ、過激にならず冷静に、民主的手段で運動すべきだ。ここは我慢しよう。

(了)


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