○ イランは日本のエネルギー依存度90%を占める湾岸地域のチョークポイントを抑える国。日本としては上手く付き合わねばなりません。ただし、付き合う上で理解しておく必要があるイランの闇の部分についてお話しします。丁度、米国との間ではなり緊張している今、改めてアチコチでその端緒が見えています。

FILE - In this photo released by the Atomic Energy Organization of Iran, technicians work at the Arak heavy water reactor's secondary circuit as officials and media visit the site, near Arak., Dec. 23, 2019.
(2020年1月15日付VOA記事「Israel Warns Iran is Closer to Nuclear Bomb」より)
① イラン: 核開発の闇
米国が2018年5月にイラン核合意から離脱した原因の一つがこれ。イランは、米国を始め英仏独などとの核合意を表明上守っていたが、それは「核弾頭に使える核燃料の高濃縮はもうしない」という部分であって、濃縮技術や施設は事実上維持増進できたし弾道ミサイルの開発は続けた。更に、後述する周辺国のシーア派を使った工作による地域的脅威の渦となっている。米国が核合意から離脱するや、高濃度濃縮を再開し、最新の情報では年内には核弾頭化できる模様(※1)。すぐに核開発が再開できたということは、米国が懸念したようにアンダーでは核開発を続けていたことの証左と言える。
イランが核開発に力を入れる理由は、周辺国との宗教(宗派)的及び民族的な孤立感から専ら自国の防衛を目的とした身の安全の確証が欲しいものと推察するが、その手段において甚だ脅威となっている。核開発の場合は、決定的報復手段の確保が自国に仇なす国々への抑止力となることを企図しているものと推察する。しかし、自国はそのつもりでも、周辺国にとっては危険極まりない存在となる。
イランにとっては自己防衛が目的であっても、それに耐えられない脅威感を感じる国がある。「イランの核保有を絶対に許さない、核保有に至る前に開発拠点を叩き潰す!」と豪語し、本当に実行する国が存在する。それがイスラエル。イスラエルは、これまでもイランのみならず周辺国に対し、その国の核開発拠点への先制攻撃で現実に潰してきた。つい最近も、イスラエルのネタニエフ大統領は「イランは年内にも核保有に至る確証あり。核保有の前に叩き潰す。」と声明を発している(※1)。これが起きれば、新たな中東全体を巻き込む危機の始まりとなる。
(※1: 2020年1月15日付VOA記事「Israel Warns Iran is Closer to Nuclear Bomb」)
② イラン: 周辺国への工作の闇
米国をかばうつもりはないが、つい先日の2020年1月年頭の米軍によるイラン革命防衛隊スレイマニ司令官の無人機による攻撃・殺害の原因は、イランがシーア派過激派組織を使ってイラク、シリア、イエメン、レバノンにて各種工作を行い地域の脅威となっていることである。事実、これらの国々では長い間内戦となった。イエメンでは現在でも激しい内戦が続く。スレイマニ司令官は、その海外における特殊工作専任部隊コッズ部隊の司令官として辣腕を振るい、それらの国の市民の弾圧や米軍や米国人へのテロ行為をしていた。昨年末(2019年12月27日)にも米軍施設への攻撃により米軍人と米国人数名が死亡した事案も同司令官の命令によるもの。これが今回トランプ米大統領に作戦へのgoをかけさせた直接要因となったのだ。
コッズ部隊の工作について、最近の報道でその一端がうかがえるものがあった。このスレイマニ司令官の死去に伴い、新たにコッズ部隊の司令官にイスマイル・カーニ氏が着任したのだが、この報が同氏の写真付きでアフガニスタンにも伝わった際にザワメキが起きた。アフガン政府が言うには、この男は数年前に在アフガンのイラン大使館の副大使の肩書を詐称してアフガン国内のバーミヤン州をあちこち視察した模様。カーニ氏は実はコッズ部隊の副司令官だったらしい。イラク・シリア・イエメン等の主要作戦はスレイマニ司令官が、アフガン等のその他地域はカーニ副司令官が担当していたという。副大使と詐称してのアフガン視察では、バーミヤン州などのアフガン内でシーア派住民の多い地域をつぶさに見て回り、どうやらこの地域でシーア派民兵要員の募集やアフガン内での工作準備をしていたと見られる。これに不信感を持ってアフガン政府が調査しているとの報道(※2)があった。
(※2: 2020年1月9日付VOA記事「Afghan Officials: Iran’s New Quds Chief Likely Faked Identity in 2018」)
イランが周辺国に対してこうした工作をするのも、核開発の項で述べたように、専ら自国の防衛が目的であり、周辺国へのシーア派民兵等による工作については、自国周辺に自国防衛のためのバッファゾーンを築きたいものと推察される。
◯ イランとの付き合い方
日本は、湾岸地域にエネルギーの依存度が高いため、付き合わないようにするということは不可能。こうした闇の要因を抱える国であるということを十分に認識して付き合わねばならない。
米国には、この現体制を突き崩し、イランを親米民主主義国にすべきだと主張するバカがいる。しかし、この宗教的絶対王制だからこそイランは瓦解せずにまとまっていることを理解すべきである。およそアラブの春で圧政を敷いていた指導者が倒された国は、現在混迷の中にいるのが実情。耳障りの良い「アラブの春」とか「民主化」の現在の姿は、タガが外れた「パンドラの箱」だったというのが現実である。
イランは、イラン革命により王制を破棄して現在のイスラム共和制になり、イスラム教シーア派の教義に基づく政権運営体制になっている。選挙による民主主義的な政治体制になっているものの、現実はシーア派のイスラム法学者、最高指導者ハメネイ師をトップに頂き、最終的にハメネイ師の決定が全てを制する態勢。いわば宗教的独裁体制。市民の「自由」などは当然制約される。そこに宗教・宗派的な理屈はあるのだろうが、時として国際情勢の現実論は通用しない。ロウハニ大統領はまさにその狭間で奮闘している。時としてイラン政府は自国の市民に対しても弾圧するが、国民が選んだ体制である。国内に内戦もなく、国家としてまとまっていることは間違いない。
今のイランの姿を前提に、うまく付き合うしかない。海自艦艇及び哨戒機の中東派遣も、日本関連船舶の安全を確保することを目的として、米国の要求に応じながらもイランの理解を得て派遣している。今回の派遣への国内的な不協和音もあるかもしれないが、まさに現実的な策であったと評価する。
(了)

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