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2020/08/27

香港国家安全法の影響で米大学は匿名でディスカッション⁉

香港国家安全法の影響で米大学は匿名でディスカッション⁉

voa20200826 Hongkong
8月26日 香港にて、民主派の議員テッド・フイ氏が警察官に国家安全法に基づき逮捕された。Pro-democracy legislator Ted Hui is arrested by police officers in Hong Kong, Aug. 26, 2020.(2020年8月26日付VOA記事「Two Hong Kong Pro-Democracy Lawmakers Arrested」より)

<状況>
  コロナ対策で多くの大学がリモートで授業をしている中、香港や中国本土からの留学生を多く抱える米国の大学では、ある必要に迫られて一部の学生を匿名でクラスでのディスカッションに参加させることを検討しているという。その必要性とは、香港の国家安全法に基づく中国政府によるネット上の監視や検閲から、中国系の学生の身の安全を守るというもの。同法は、中国国内のみならず在外にあっても、中国国家の安全保障を脅かすものに対し訴追できる枠組みを持っている。米国のハーバード、プリンストン等の大学では、学生を守るために、既述の措置を準備している模様。
(2020年8月24日付VOA記事「Can Anonymous Classrooms Protect Students from Beijing Snooping?」より)

<私見ながら>
○ 中国の国家安全保障法の異常さ
  発端となったのが、ある香港出身の中国系アメリカ人が、米議会へのロビー活動により中国の香港への国家安全保障法の導入に反対する画策をしたが、これに対し中国当局は起訴する方向であり、逮捕される可能性があるという件。さすがに現在米国籍を持っている方だから、中国当局が直接逮捕するとか身柄引き渡しを米国に要求するとかは、いくら何でもないでしょうけど。
  信じ難い話しながら、この法律では、中国当局から見て中国の安全保障を脅かす「犯罪」行為を実施または関与した場合、外国を含めて場所に関わらず、中国国籍の人物・組織のみならず外国籍であっても、組織や個人を起訴できる、とのこと。
  信じ難いし、それって国際的に法的拘束力が認められる話なのか?と甚だ疑問符がつく話です。
  しかし、ことの是非に関わらず、中国当局は間違いなくネット上の検閲を行なっているため、米国の大学は中国系留学生の自己防衛の枠組みを提供するため、匿名でのクラス参加を導入する模様です。米国の大学では、あくまで授業の一環としてアカデミックな自由かつ活発なディスカッションが行われており、特に、文系の国際関係論や政治学など、国際情勢について自由に議論しますから。もし、中国からの留学生が、中国政府の政策に対し批判的な議論をしたとして、オンライン授業が中国当局に傍受され、本人が起訴されるとか、中国の留守宅が家宅捜索を受けたり、家族が参考人として取り調べを受けたり、・・。そんなことにならないように、匿名での参加でじえいさせようとの「親心」です。米国の大学が、が米国内で実施しているオンライン授業なのに、オープンにできず、自由に議論できないなんて、教授陣も米国人学生も、憤懣やるかたないでしょうね。罪のない留学生達は、匿名であっても疑いをかけられることもありそうなので、ヒヤヒヤしていることでしょう。いかにこの法律が異常か、改めて痛感します。

○ 「匿名で授業」という自衛措置の前に、そもそも抗議すべきだが・・・・
  大学のすべきこととして、片方の手で匿名討議で自衛する、とすればもう片方の手で、「オンライン授業を傍受して中国系学生を訴追するようなことはあってはならない」、と中国へ釘をさすべきではないか?と思います。
しかししない。なぜか?一説には、大学当局や教授個人が中国からいろいろな形で支援を受けていることが指摘されています。例えば、学校の施策や教授の研究にバックアップを受けていて、それを公にしていない、とのこと。日本人の想像を越えるほど隅々まで、中国の影響力は米国内に蔓延っているということの証左なのでしょう。

  以上、小ネタながらVOAニュースの気づきの点に言及しました。

(了)

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2020/08/16

イスラエルとUAEの和平合意: トランプの賭けはテロを招く

「イスラエルとUAEの和平合意:  トランプの賭けはテロを招く」

<要旨>
  私見ながら、トランプの賭けは裏目に出る、と読んでいます。
  今回のイスラエルとUAEの国交正常化へ動きは、米国内での票稼ぎにはなると思いますが、せっかく最近大人しくしていたイスラム過激派にテロの大義名分を与えてしまい、世界のあちらこちらでテロが起き、結果的にトランプの責任論が選挙戦の焦点になるのではないかと思います。
voa 20200813
大統領のオーバルオフィスにてクシュナー補佐官(女婿)とフリードマン在イスラエル米国大使を伴って得意満面で発表するトランプ大統領U.S. Ambassador to Israel David Melech Friedman and White House senior adviser Jared Kushner applaud after U.S. President Donald Trump announced a peace deal between Israel and the United Arab Emirates from the Oval Office of the White House.
(2020年8月13日付VOA記事「Trump Announces UAE to Open Diplomatic Ties with Israelより)

<状況>
① 2020年8月13日トランプ米大統領は、自ら仲介したイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化に「歴史的」を合意した旨、発表した。

② 合意のため、イスラエルはヨルダン川西岸の一部の併合計画を延期。但し、UAEは「併合断念」と理解、イスラエルはあくまで「延期」、という不協和音。

③ 国連事務総長は「和平進展に期待」と評価、一方パレスチナは「裏切り行為」と非難

<私見ながら>
○ トランプの賭けは裏目に出る
  結論から言うと、米国内での票稼ぎにはなると思いますが、せっかく治っていたイスラム過激派にテロの大義名分を与えてしまい、世界のあちらこちらでテロが起き、結果的にトランプの責任論が選挙戦の焦点になるのではないかと懸念します。

  多くの方がご指摘のように、トランプの狙いは大統領選挙の得点稼ぎです。大統領選の主たる正面は内政ですが、コロナ禍にあってもビジネスを継続するという手法を取りました。トランプ大統領自身がもともとコロナをなめてかかっていたこともありますが、コロナ対策をミニマイズする政策はリスキーながら経済を止めることはもっとリスキーなのだ、という考えです。賛否ありますし、実際相変わらず感染者が蔓延していることも事実。しかしトランプ大統領にとって、内政ではここは引き返せないでしょうね。他方、外交では、あちこちと反目する彼の外交手法において、目に見える得点が欲しい。それが親イスラエルの彼にとって、UAEという湾岸地域で経済も上々で割と穏健な国が、イスラエルと国交正常化できるなんて、願ってもない「中東和平への貢献」しているのだとPRできるポイントです。米国内のユダヤ票やトランプさんの支持母体であるキリスト教福音派のみならず、一般国民にもPRできる話ではあります。

  しかしながら、問題はトランプ大統領の中東和平の根幹は「親イスラエル」であって、問題の本質である「イスラエルとパレスチナの和解」は諦めていることです。むしろパレスチナとは交渉せず、力のあるアラブ諸国がイスラエルとなし崩し的に和解してしまえば、パレスチナも切り捨てられた現実を受け入れざるを得ないだろう、というのがトランプ大統領の考えです。なんたって、8月13日の得意満面の記者会見にて、「力があるほかの豊かな国が加われば、パレスチナも自然と追随するようになるだろう。」という発言に、その真意が如実に出ています。

  しかし、ここが問題なのです。こうした金持ちが札束で貧乏人の頬を叩くようなやり方は、イスラム原理主義者のテロリストみならず、幅広く一般庶民的なイスラム教徒の反発心をくすぐるものになり、新たな根強い怨嗟=反米テロの火種になるでしょう。恐らく米国は、UAE同様に、サウジやバーレーンなど、選挙に向けて、次々と湾岸のアラブ諸国を切り崩す外交攻勢をかけ、中東和平への貢献をPRするでしょう。しかし、湾岸アラブ諸国の国内で、あるいは米国や欧州で、必ずや反発があるでしょう。これに刺激された世界のあちこちのイスラム原理主義者や過激派は、組織的計画的なテロから思いつき的な自爆テロまで、せっかく治っていたテロ熱を再燃させてしまうことになりかねません。彼らも時期を心得ていて、やるなら11月の大統領選挙に向け、ここ2ケ月くらいの短期間にて短期決戦を仕掛けてくるでしょう。「トランプが仲介したイスラエルとアラブ諸国の国交正常化」に「反対」の意思表示を派手にやるのだろうと推察します。テロは国際的な動揺を与えて、大統領選にインパクトを与えるでしょう。特に、パレスチナを切り捨てる形のアラブ諸国切り崩しは良くないのだ、これがテロの再燃を招いているのだ、という反トランプやリベラルが喜びそうな話題を提供し、選挙戦の一つの焦点になるのではないかと推察しています。

○ サウジはUAEに続くか?
  UAEもサウジも、政府指導者=王様達の思惑として、今更パレスチナのアラブの大義を杓子定規に持ち出す堅物はおらず、そんなことより、目の前の経済や対イラン協調、換言すれば対イラン包囲網の方が大事なのです。そのため、米国の手厚い後ろ盾が欲しい。特に、米国の主要装備やサイバー戦能力、加えて、イスラエルの進んだ顔認識AI装備など国内の国民の監視用装備が欲しいのです。だから、米国の仲介で、イスラエルの対パレスチナ譲歩という条件を得られれば、パレスチナの大義に対する格好の言い訳的大義名分が国内説明用に得られるわけです。だから、UAEに続いて、サウジやバーレーンなどがなびいていっても全くおかしくありません。

  それでも、私見ながら、やはりボトルネックとなるのは、アラブ諸国の一般国民。政府とは違う庶民目線の市井のイスラム教徒の彼らは、政府の説明するイスラエルのパレスチナへの譲歩を、国交正常化の大義名分として素直に理解するでしょうか。だってイスラエルは併合を断念してませんから。「一時延期」しているだけですから。これじゃ全くパレスチナへの譲歩になっていない。パレスチナは浮かばれませんよ。だから、前項の話に行き着くと思うんですよ。普通のアラブ人にとって、同じアラブのパレスチナが置かれているイスラエルとの差別的待遇について、悔しくて悔しくて断腸の思いを共有していますから。これは、普通の市井のアラブ人でもそうなので、いわんやイスラム原理主義者をや。パレスチナのハマスを含め、彼らは逆上ものでしょう。テロの再燃は必須、と思います。

  まぁ、あくまで私見に過ぎません。その昔アラブに勤務し、アラブ人を友人に持ち、アラブ人の心情を垣間見た者としての「私見」に過ぎませんが、アホなトランプの今回の外交攻勢には一抹の不安を隠せません。

  (了)

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2020/08/05

追悼李登輝元総統:日本人の心を持った台湾の主権と民主化の巨星墜つ

 前回、韓国の救国の英雄白善燁将軍の話を書かせていただきました。今度は台湾の主権を守り民主化を達成した英雄李登輝元総統が2020年7月30日に97歳にてご逝去されました。
345px-總統李登輝先生玉照_(國民大會實錄)
(wikipediaより)

 惜しい方を失くしました。李登輝元総統なくして現在の台湾の繁栄いや存在はなかったでしょう。特に、中国からの再三再四に渡る軍事・外交的恫喝に一歩も退かず、されど決定的衝突を避けて、台湾の(「独立」と言えないまでも)「主権」を守りきったこと。民主化が極めて難しい中国4000年の歴史の中で、台湾人自らの手により、しかも血の粛清もなく民主的手段をもって民主化を成し遂げたこと。この二つの偉業は李登輝元総統なくして成し得なかったと言えます。しかも、李さんご本人は大陸から台湾に渡ってきた中国人ではなく、生粋の台湾人です。終戦後に中国大陸から共産党軍に敗れて台湾に逃げ込んできた国民党の中国人達が台湾を統治し、20%に満たない中国人が80%以上を占める台湾人を搾取する圧政を敷き、この間に2.28事件という大虐殺まで起きています。戦後、農業技術者として誠実真摯に歩んできた李さんが49才を過ぎて、蒋介石の後を継いだ息子の蒋経国に抜擢され、憎むべき国民党に入党し、その中で政府部内の要職や台北市長等を経て、副総統にまで上り詰め、蒋経国総統の死によって総統に就任。そして台湾では無理とまで言われた総統の民主選挙による選出を自ら達成します。普通の国の歴史なら、ここで血で血を洗う内戦や権力闘争がありそうなのに、李さんは全くの民主的かつ平和的な手段のみで、国民党独裁制の中で中国人たちを一人ひとり切り崩し、最後に民主選挙で国民党の独裁体制そのものを解体してしまいました。基本は「不屈の信念を腹に据えた誠実真摯な現実主義」という感じでしょうか。特に、与えられた職務に一生懸命、誠実に任務を果たし、その職務の中で常に国民のためになる何かを創意工夫し、献身的に努力する姿勢が、支配層の中国人をもってしても敬意を持たざるを得ないものだったと言います。

 他方、李さんは親日家としても有名でした。日本統治下の台湾に生まれ、日本の教育を受け、自ら「日本精神」や「武士道」を説き、ご自身がよく「私は22歳まで日本人だったのです。」とご発言されるほどの親日家でした。京都大学農学部に学ばれ、学徒出陣にて出征され、終戦時は陸軍少尉として終戦を名古屋で迎えており、戦死した実兄が靖国神社にお祀りされていることを名誉に思われ、靖国神社に参拝されたほどでした。また、日本語に関しては、「若い時代に日本統治下の教育を受けたから」という環境要因もあるでしょうが、「今でも難しいことを考える時の頭の中の言語は日本語です。」と言われるくらい。むしろ台湾語なまりが強いせいか、中国本土の標準語の北京語は一番の不得意だったと言います。
Lee_Teng-hui_younger.jpg
中学時代の李登輝さん(Wikipediaより)

 そんな李さんが、口癖のように仰っていた我々日本人に対する言葉は、「最後に、もう一度繰り返して申し上げておきたい。日本人よ自信を持て、日本人よ「武士道」を忘れるな、と。」でした。(李登輝著「『武士道』解題―ノーブレス・オブリージュとは」小学館、2003年)
 また、こうも仰っています。
・・・まことに残念なことには、1945(昭和20)年8月15日以降の日本においては、そのような「大和魂」や「武士道」といった、日本・日本人特有の指導理念や道徳規範が、根底から否定され、足蹴(あしげ)にされ続けてきたのです。・・・
・・・いま日本を震撼させつつある学校の荒廃や少年非行、凶悪犯罪の横行、官僚の腐敗、指導者層の責任回避と転嫁、失業率の増大、少子化など、これからの国家の存亡にもかかわりかねないさまざまなネガティブな現象も、「過去を否定する」日本人の自虐的価値観と決して無縁ではない、と私は憂慮しています。・・・
(前掲「『武士道』解題―ノーブレス・オブリージュとは」)

 いやー、ご指摘が痛いほど滲みますね。
 白善燁将軍、そして李登輝元台湾総統、お二人とも我々現代の日本人が見失ってしまった日本人本来のアイデンティティーをお持ちの方でした。心からご冥福をお祈りいたしますとともに、ご指摘のように「武士道」精神、道徳心を我々一人ひとりが日々自らに問わなければいけない、という思いを強くいたしました。
〈合掌〉

補追: 腹に据えかねることがあります。李登輝さんのご逝去に関連した記者の質問に対し、菅官房長官は「政府として誰も台湾での葬儀に行かない」旨の発言をいつものように淡々としました。中国政府を刺激しないように、という外務官僚の台本通りに回答したのでしょうが、お前は官僚か?バカ野郎もいいところです。中国の「南京大虐殺」や韓国の「従軍慰安婦」、更に「尖閣列島」などの問題で、ともすると中国や韓国に責められっぱなしの日本を、李登輝さんは明快に、かつ、キッパリと否定され、援護射撃をしてくれました。常に日本のことを親身に憂い、直言をして来てくれた大恩ある李登輝さんに、葬儀の参加により政府として誠意を見せるくらいの胆がないのか?せめて苦渋に満ちた顔で言えよ。聞くところによると、オリンピックが延期になった森元首相が行くと仰っているようです。森さんじゃなぁ・・・。習近平の鼻をあかして、歴代総理が数名並んで行くくらいの政治家としての胆力を見せてもらいたいものです。せめてもの救いは、安倍総理が李登輝さんのご逝去についてコメントを求められた際、涙ぐんでいたことです。
李登輝さんが繰り返し述べられた日本人への言葉を今一度記します。
「最後に、もう一度繰り返して申し上げておきたい。日本人よ自信を持て、日本人よ「武士道」を忘れるな、と。」

(了)


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