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2020/09/30

中国のチベット同化政策: 産経新聞が一面記事に

チベット問題が産経新聞の一面記事に
 私のブログとは何の関係もないでしょうが、2020年9月29日付の産経新聞の一面にチベット(及びウイグル)の中国化を危惧する記事が載りました。中国のチベット(及びウイグル)中国化政策により、本来のチベットの素朴な風俗風習、文化伝統、人々の暮らしぶりが失われつつある問題、そもそも深刻な人権問題であることなどについて、メジャーな新聞が一面で扱ってくれるとは有難い限りです。(もし、お時間のある方は、私の前回、前々回のチベットの話を読んでみてください。)

産経の記事
 一面トップに「中国少数民族の同化徹底」との見出しで、新疆ウイグル自治区で人権問題として悪名高い強制的な職業訓練所への収容というシステムをチベットにも導入し、チベット自治区の農民や牧畜民に軍隊式の職業訓練をさせている、という米豪の研究レポートの指摘を記事にしています。

ネタ元となった米国の研究機関の記事
 産経の記事のネタ元は、Jamestown Foundationという米国ワシントンD.C.の研究機関のHPに掲載された2020年9月22日付「Xinjiang’s System of Militarized Vocational Training Comes to Tibet」という記事です。
Tibet-2 vocational school
チャムドゥ地区の軍隊式職業訓練所におけるチベット人達への職業訓練風景(いずれも前述のJamestown Foundationの記事より) Image 1: Military-style training of “rural surplus laborers”in the Chamdo region of Tibet,June 2016. (Image source: Tibet’s Chamdo,June 30,2016). Examples of “military-style”vocational training for ethnic Tibetans in the Chamdo region. / Figure 2 (left): Tibetans dressed in military fatigues practice painting. (Image source: Tibet’s Chamdo,June 30,2016). / Figure 3 (right): Tibetan women in military fatigues are trained how to be restaurant waitresses. (Image source: Sina,July 27,2020) 

 その内容は、産経の記事では報じられていない驚愕の内容でした。端的にいえば、強制収容の軍隊式労働再教育、要するにジョージ・オーウェル著「Animal Firm動物農場」のチベット版です。これぞ共産主義の怖さですね。新疆ウイグル自治区で「対テロ」と「貧困対策」の大義名分の下、ウイグル人達を強制収容して「職業訓練」という名の再教育をして一定の成果を上げたやり方を、チベットにも導入したものです。中国政府は、建前としてチベット自治区の貧困緩和策のつもりであり、チベット人地域の農村部の余剰労働者の可処分所得を増やすため、職業訓練を施して中国企業に労働力を提供し、チベット人は見返りに給料を貰えるというものです。この職業訓練制度は、徹底した軍隊式の教育であり、職業訓練もしてくれるものの、中国政府にとって好ましい「中国人民」としての思想・思考、特に愛国心、法制、そして中国語を洗脳教育的に詰め込んでいます。卒業後、中国企業の労働者となって給与制で生活していくことを求められ、元々持っていた痩せた農地や牧畜で飼っていた家畜を売却することを推奨されます。さもなければ、チベットの村落の農業や牧畜ではなく、集団農場での労働を推奨されます。こうして、チベットの村落でチベット人たちが営々と続けてきた、高地ゆえの厳しい自然の中の質素倹約・貧しくものどかな生活様式は、今刻々と確実に変わりつつあります。

私見ながら、これは深刻な少数民族の弾圧、文化の破壊、人権問題だ
 既述の通り、これではジョージ・オーウェルのAnimal Firmですよ。チベット人はAnimal Firmの動物ではない。チベットの農民や牧畜民は「余剰労働者」ではないし、「貧困」に苦しんではいない。チベットの超高地の厳しい自然・風土及びチベット仏教の信奉をベースにした、小さな村落のお寺を拠り所とした、質素倹約ながら無駄やゴミが一切出ない自給自足的な素朴な人々に暮らしなのです。外見上、確かに服装や食事や暮らし向きは「貧困」のように受け止められるかもしれません。しかし、彼らはお寺の僧侶に搾取されている封建的な農奴ではありません。彼らは貧しい中でも幸せに生きています。このチベット人の貧しくも自給自足で満ち足りた素朴な暮らしぶりを、「貧困」と位置付け、中央政府の統制で政策として力を持って生活様式から変えよう、という考えが間違っています。

 問題の本質は、中央政府の政策として少数民族を恣意的に中国に同化させようという計画的民族浄化です。これがチベット人たち自身の自然の成り行きで、少数民族らしいさが時代とともに失われていくのなら仕方のないことだと思います。チベット自治区内に漢民族の入植者が増えたり、外国人や中国内の観光客がチベットの地を訪れ、彼らの服装や持ち物や振る舞いを目にすることが増えてきたでしょうから、チベットの若者たちが来訪者達の先進性に憧れを感じ始め、「チベットの若者たちがチベットを離れて逐次に都会に出ていくようになった」とか、生活に電化や情報化の流れが入り込んで「古き伝統の生活様式が逐次に様変わりしつつある」とか、そういうことなら仕方のない時代の流れだと思います。しかし、中国のこの政策はそうじゃない。恣意的、強制的に国家の政策としてこんなことをしていることが許せません。チベットの若者たちを収容所に入れて、戦闘服を着せて、朝から晩まで軍隊的な教育で洗脳しているわけですから。

 なお、産経の記事によれば、10月1日にチベット・ウイグル支援団体により世界で一斉に抗議行動がある模様です。と言っても、きっと「ささやかながら」の規模や行動なんだろうと思います。マスコミの報道も大きくはないでしょうし。しかし、ささやかながら応援したいですね。

(了)

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2020/09/25

中印国境緊張に垣間見えるチベット問題

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チベット寺院の前で対峙するチベット人と人民解放軍(Troops facing pilgrims at the Monlam Chenmo prayer festival in Kumbum, Qinghai, one of the largest Tibetan monasteries, in March 2015.)(2020年4月22日付The Diplomat誌「China’s Hidden Crackdown in Tibet」より)

<亡命チベット兵が対中最前線に立つ>
 前回のブログで、緊張下の中印国境で亡命チベット人部隊がインド陸軍として戦っている件に触れました。この件を通じ、中印国境の緊張の一要因として、否、その底流にチベット問題もあることを痛感しました。
 1950年代から一貫して行われている中国によるチベット自治区への実行支配・収奪・中国化政策により、15万人ものチベット人が故郷から追いやられました。チベットの地を後にせざるを得なくなった亡命チベット人の一部が、いつの日かチベットの地に帰ることを夢見て、亡命先のインドで対中国国境警戒の最前線に立っています。そんな亡命チベット兵士がパトロール任務中に中国側が仕掛けた地雷で殉職した話。
 彼への追悼、敬意、トリビュートとして、今回はその底流にあるチベット問題について取り上げ、ザックリと考察してみました。
death of a tibetan commando soldier2
亡命チベット兵士の葬儀

<底流にある「チベット問題」とは>
 「チベット問題」とは、1950年代からの中国のチベット自治区への実行支配・収奪・中国化政策が、チベットの消滅の危機を招いている問題であり、中国政府はこれを全面否定し、チベット地区の封建農奴制からの「解放」であると主張しています。

チベット
 元々、チベットはヒマラヤ山脈の北側の4500m級の超高地の広大な高原に住み、牧畜・農耕を生業とする温厚にしてチベット仏教を厚く信仰するチベット人の、人口600万人程ののどかな独立国でした。(正確には、モンゴル帝国などに制服されたことがありますが)皆さんも、テレビで見たことがあると思うのですが、山がちの集落の中心にとんがりコーンのようなチベット仏教の寺院があり、昔の日本人によく似た素朴な人々が牧畜を中心とした生活を営み、お寺の僧侶が集落の歳時記や教育や道徳の常に中心にある、それが伝統的なチベットの集落。中国政府は、これを「封建的農奴制」と位置づけ、こののどかな生活を「解放」の名のもとに切り崩していっています。
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中国のチベットへの介入
 他方、中華思想を持つ漢民族からすれば、歴史的に「チベットは辺境の地で漢民族の国家に属する蛮族に過ぎない」との認識でした。第2次世界大戦終了後、国共内戦に勝利した中国共産党が1949年に中華人民共和国の成立を宣言した時も、毛沢東の頭の中ではチベットは中華人民共和国の領土内の属国でした。一応の交渉の下、チベットは1951年に17条からの条件を飲む代わり、自治区において信仰や自治が認められ、チベットとしての主体性を存続する筈でした。ところが、中国共産党政府は「チベット解放」の名の下にチベットに介入。チベットに根付いたチベット仏教と密接不離の社会構造や庶民の文化や価値観を破壊し、チベットに多くの漢民族を入植しました。

チベット蜂起、中国による鎮圧、難民化
 さすがに温厚なチベット人も逐次に反発。更に、解放の名の下の文化の破壊がチベット仏教そのものに及び、僧侶の弾圧・追放や寺院の破壊(なんと寺院の9割までもが破壊された)が始まるや、チベット人の怒りが爆発。各地で抵抗運動が起きました。これが1959年の「チベット蜂起」です。
 これに対し、中国共産党政府は鎮圧のために人民解放軍をチベットに展開・侵攻し、多くのチベット人が犠牲になりました。この時、チベット仏教の頂点にいてチベット人にも非暴力による抵抗を訴えていたダライ・ラマ14世は、インドに亡命。15万ものチベット人が難民化し、仕方なくチベットを去りインド、ネパールなどに身を寄せました。

freetibet org
(freetibet.orgより)
その後のチベットの中国化
 その後も中国政府は、数次に渡りチベット人への弾圧を加え120万人ものチベット人が死亡または行方不明との情報もあるほどです。また、おびただしい漢民族の入植をし、残留チベット人はもはや少数民族化しています。自治区とは名ばかりで、言語、ビジネスや就職、学校教育が中国語で行われ、元来のチベット独自の文化は風前の灯になりつつあります。チベットらしさの残るチベットは漢民族が経営する観光の見世物として生き残っている、というのが実情です。
 (似たような環境にあるのが、新疆ウイグルのウイグル人の敬虔なイスラム教の信仰とそれに根付いた文化です。中国政府は、テロ対策の大義名分の下、徹底的なウイグル人の中国化を行なっており、国際的な人権問題となっています。)

<私見ながら: チベット問題の展望>
 15万ものチベットからの難民がチベットを去って異郷の居留地にて生活をし、チベットに残留したチベット人も骨抜きにされ、こんな状況がかれこれ60年余りも経過しています。この60年間で何回か、2008年の抵抗運動の盛り上がりなど、チベット問題が国際的に認知される事象もありましたが、全て中国官憲の弾圧で鎮圧されています。いくら少数民族の濃い血脈でチベットの誇りを受け継ごうとも、さすがに60年の中国化政策の月日は長いものです。チベットの都市部?の若いチベット人には、もはやチベット語を話せず、チベット文化を知らない世代になってきたのです。年々歳々、時の流れの中でゆっくりとかつ着実に、チベットは消滅しつつあり、もはや不可逆の趨勢です。
 だからこそ、亡命チベット兵の中印国境での警備任務中の殉職のようなニュースの機会に、中国にはこういう悲しい少数民族の問題があるんだよ、と注意喚起することの重要性を感じます。
 皆さん、チベット問題に関心を持ちましょう。
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(了)

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2020/09/19

中印国境緊迫続く:チベットに帰る日を夢見たチベット兵の死

death of a tibetan commando soldier2
チベット出身のインドの特殊部隊兵士の部隊葬(2020年9月18日付VOA記事「Death of Tibetan Commando Offers Insight Into Little-Known Elite Indian Force」より)
death of a tibetan commando soldier1

<状況>
① 緊張の続くヒマラヤ山脈の中印国境にて、8月下旬にインド陸軍の一兵士が地雷に触雷して死亡、もう一名も重体となった。9月初旬にその兵士の葬儀がインド側の国境の町レーで行われたが、同じ部隊の隊員が参列する中、チベット仏教僧によるチベット仏教の礼式に基づく部隊葬が営まれた。

② この兵士の部隊は、インド陸軍所属の亡命チベット人の山岳コマンドー部隊(特殊部隊)で、部隊の存在も公表されていない。専門家の指摘によると、1960年代の中印国境紛争の際、一般のインド兵では山岳高地地域での作戦環境に不慣れで作戦行動が上手く取れなかった教訓に基づき、中国から亡命しこの国境の山岳高地地域に定住したチベット人たちを募って編成した山岳地域の特殊作戦部隊。1960年代から70年代初期までは米国のCIAが教育訓練に携わり、国境を越えて中国軍と戦闘をさせていたらしい。1972年の米中接近により、米国は対中政策を変更したため、この部隊の教育訓練から手を退き、じ後はインド陸軍が引き継ぐ。兵力は5000名~10000名の規模とも言われる。彼らの故郷チベットは、今は中国政府の支配下で残留チベット人の中国化が進み、年年歳歳、故郷が消滅しようとしている。彼らの夢は、いつの日か自らの手で故郷を開放し、チベットに帰還すること。

<私見ながら>
○ VOAの記事で上記の状況を知り、初めてその部隊の存在を知りました。インド陸軍所属で亡命チベット人部隊があったんですね。

  「中印国境が緊迫」ということからして、中国人とインド人の国境における領土をめぐる対峙、というイメージですから、当たり前のようにインド軍はインド人部隊と思っていました。勿論、国境に張り付いているインド軍の全部隊ではなく、一部の作戦をこの亡命チベット人特殊部隊にやらせているんでしょう。しかし、一番きつい山岳地域でのパトロール、特に中印ともに自分の土地だという両者が交錯しているド緊張した地域での作戦行動を、インド軍はチベット人部隊にやらせていたのですね。

  この兵士は、その緊迫した山岳地域でのパトロール中に中国軍の仕掛けた地雷に触雷して亡くなった模様です。元自衛隊員であった私にとって、彼らが「いつの日かチベットに帰りたい」という見果てぬ夢を胸に、インド陸軍に身をやつして中国軍と対峙する中印国境の係争地域=ヒマラヤの山岳地域にて作戦行動中であった、というのが何ともシンパシーを感じるところです。空気の薄い、風吹きすさぶ寒い荒涼としたこの地域で、敵部隊の偵察斥候と出くわしてしまうかもしれない一触即発の緊迫したパトロール任務に就いていたのでしょう。そんなある日のパトロール、ふとワナ線に足を引っかけ、しまった!と思うのも束の間、地雷が地面から⒑数センチのところにビヨ~ンと飛び出し、バン‼という破裂音とともに、何千という破片を周囲にぶちまけ、その破片を身体中に受ける!声も出ず意識が飛ぶ!手足が吹き飛び、胴体が大地にドッと倒れる・・・!。彼は間もなく死亡、彼の近傍にいたもう一人の隊員も重体に。そんな彼らの最期の光景が目に浮かぶようです。兵士というものの宿命ですが、何とも「もののあわれ」を感じます。

○ 最近、ネットで見かけたニュースによれば、国境に張り付いている中国軍も、慣れない山岳高地の作戦環境に適合が難しく、病気や心身の不調に陥っているそうです。さもありなん。命令だからやっているとは言いながら、山岳高地地域の厳しい自然環境の中で作戦行動をするのは、敵も味方もきついでしょうね。

  しかし、命令だけではなく、兵士たちの強い動機づけとして忘れてならないものが、前回の私のブログで述べたように「双方の国民のボルテージの高さ」です。もともと焚き付けたのはそれぞれの国家の政府やマスコミですけどね。双方の政治指導者達は割と冷静で、一歩も退かない姿勢は崩さないものの、本格的な軍事衝突に至らないように緊張緩和のためのテーブルにも就きます。しかし、一般大衆はそうはいきません。犠牲者は国家にとって英雄として奉られ、敵国に対する憎悪を募らせ、係争地域の兵士への国民達の異様な期待や異様なプレッシャーは高まるばかりです。

  前回のブログで、私が想定した視点は中国vsインド、ここにパキスタンや米国の思惑を踏まえて、中国・パキスタン組vsインド・米国組というお話をしましたが、今回の記事を通じてもう一つの視点が分かりました。中国内に今もあるチベット自治区、そこから亡命してきた在インドのチベット人、そんな思惑もあったわけです。勿論、国家という実体を持ったものではないので、一つのファクターではあるものの決定的な影響を持つものではないかもしれません。しかし、中国・インド両国軍兵士が一触即発の緊迫状況下でにらみ合っている現場の兵士達の心情に、強い動機付けを持つ亡命チベット人たちの望郷の思いがあること、厳しい環境下にあること、・・といった要因があることに気付きを得ました。

  これは益々もって、この地の緊張が下がることはまだまだなさそうです。冷却するまでもう半年以上かかるか・・・、或いは、ボルテージの高い電極に手を近づけた時のように、近づけた手に反応して電極から遂にビビビッと稲妻が延びて、遂に一触即発の衝突が起きてしてしまうのか・・・。まだまだ目が離せません。

(了)

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2020/09/10

中印国境の緊迫:一触即発、紛争再燃、拡大の危険性

中印国境の緊迫:一触即発、紛争再燃、拡大の危険性

voa20200907 China-India
2019年10月12日のインドのモディ首相と中国の習主席の会談(India's Prime Minister Narendra Modi (3rd R) and China's President Xi Jinping (3rd L) lead talks in Mamallapuram, on the outskirts of Chennai, India, Oct. 12, 2019.) (
2020年9月7日付VOA記事「Experts Warn China-India Standoff Risks Unintentional War」より)

<状況>
  2020年8月末、5月上旬の兵士間の殴り合いを契機に6月に対立が再燃したものの、一旦距離を取って収まって対峙していた中国・インド国境のヒマラヤ山脈西部の山岳地域の係争地で、再度双方が相手方の越境・動員を非難し合う緊迫した状況に戻った模様。
  双方とも政府指導者レベルは実質的な紛争再燃を望んでいないものの、専門家の指摘では、双方の国民のボルテージの高さを反映して偶発から一触即発の衝突事態になり、更に、近傍地域でインドと係争地を抱えるパキスタンの思惑も絡んだ紛争の拡大化が危ぶまれ、中印国境の緊迫への懸念が高まっています。
(参照:2020年9月7日付VOA記事「Experts Warn China-India Standoff Risks Unintentional War」、同日付Newsweek記事「China, India Accuse Each Other of Firing Shots at Border Ahead of Russia Meeting」及び「China, India Aim for Peace But Keep Edging Toward Conflict at Border」)

<私見ながら>
○ 中印の緊迫が危険な理由:「双方のナショナリズム」と「米国、パキスタンの要因」
  双方の政治指導者は軍事衝突を全く望まないと思いますが、怖いのは双方の国民世論のタカ派的な煽りによって、緊迫の国境地帯の中国とインドの兵士達が気を高ぶらせていることでしょう。5月上旬に起きた双方の兵士の「殴り合い」的な小衝突は、武器使用こそなかったものの、双方数十名の死者が出たほどです。双方のマスコミがナショナリズムを煽るため、国民世論としてイケイケムードが立ち込め、現場兵士も勿論のこと、現場を預かる小隊・中隊等の小部隊指揮官たちも異様な興奮の中にあって、双方の主張する国境がダブっている国境地帯で対峙をしているため、ちょっとした兵士の行動が「挑発行為」や「越境行為」に映るわけです。当然、作用に対して反作用が起き、今回双方が相手側の越境や発砲を非難する状況になっています。まだ銃撃戦に至っていないので緊迫のまま事態が推移していますが、一触即発であることに違いありません。
  ここにワイルドカードとして作用する大きな要因が2つあります。米国のインドへの肩入れ、及び中印の緊張の高まりに乗じたもう一つのインドの国境紛争の係争正面であるパキスタンの動向です。この2つの要因を単純な図式にすると、中国・パキスタン組vsインド・米国組、という対立軸になります。しかも、4ケ国とも核保有国。中国と米国は一応は核兵器の使用に関しては、合理的な政治的判断のコントロールが効いているので、紛争拡大したとしても核兵器の使用が取りざたされることはないと存じます。しかし、インドとパキスタンについては、相互に不倶戴天の敵、双方が「相手が核武装するならうちも自衛のために核開発せざるを得ない」との切迫感で核開発・保有に至っているので、いざという時にはエスカレーションの至る先に核兵器を控えさせているのが両国なのです。隣国同士でありながら、双方の国民の生命財産の潰し合いになることを辞さず、核の投げ合いに至る可能性があります。(同様の危険性があるのが、イランvsサウジなどの湾岸諸国です。)

○ タイミングの悪いことに米大統領選挙が迫る時期
  トランプ米国大統領の考えそうなこととして、選挙戦における現役大統領の大統領候補者としても強み・伝家の宝刀を使うかもしれないことが懸念されます。戦争に至るかもしれないという国家の危機に際して、大統領の強力なリーダーシップ発揮の場になり得ます。戦争になるかも?という非常時の大統領には国民の絶大なる支持が後押ししますから、トランプ大統領がこの誘惑にかられないとも限りません。中印の危機を米国が作為して火をつけておいて、自ら仲介役として火を鎮める、というマッチポンプです。緊迫する中印国境の状況下に、「米国が平和的な仲介に立つ」と建前を前面に出しつつ、インドに対する中国に劣る部分の直接的・間接的な絶大なる軍事力の支援やバックアップを提供し、インドに対する有事の全面支援を約束するなどの密約をした場合、インドが意を強くして冒険に出たり、国民世論的なイケイケムードが醸成されかねません。トランプ大統領は、自ら危機を煽り焚き付けておいて、自らが正直な仲介者(honest broker)を演じて危機を治める。世界の指導者を自作自演できるわけです。マスコミ論調は、選挙戦の対抗候補との論戦などはそっちのけで、中印国境紛争問題ばかりが世の注目を浴びることとなりましょう。絶好の選挙運動ですね。

  しばらくは中印国境に注目が必要です。

(了)

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