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2021/03/17

実はミャンマーの軍事政権も市民も反中の模様

実はミャンマーの軍事政権も市民も反中の模様
 今、注目を集めているミャンマー。報道されているイメージでは、軍事政権は親中派で中国にバックアップされていると見られています。しかし、軍事政権も、軍事政権に真っ向から対立している一般市民も、実のところ、中国に対してその影響力のミャンマーへの浸透を嫌い、軍も距離を置こうと試み、一般市民はミャンマー国内を縦断する中国資本の天然ガスのパイプラインに対してテロ攻撃を公言してはばからない状況のようです。
(参照: 2021年3月12日付VOA記事「Leaked Documents Suggest Fraying of China-Myanmar Ties」)

ミャンマーのクーデターに対する国際社会と中国の反応
 今回の軍部クーデターによる軍事政権の復活に対して、一般市民の反発が根強く、老若男女を問わず路上でデモを実施して軍事政権への「NO」を国際社会へアピールしているのは周知の通り。国際社会のほとんどが、軍事政権の民主派議員に対する不当な逮捕・拘束や非暴力の一般市民のデモに対する暴力的な鎮圧に対して厳しい批判を浴びせている。

 他方、ミャンマーの歴代の政権とも関係が深く、国連安保理事会の常任理事国でもある中国は、今回のミャンマーの軍事クーデターもデモへの暴力的鎮圧も、ミャンマー国内の内政問題であるため「内政不干渉」の原則を貫くべき、という主張をしている。

 このことからして、マスメディアの一般的な見方は、中国はミャンマー軍事政権の庇護者であり、ミャンマー軍部は中国と密接な関係、というものだった。(クーデター前に、最高司令官が中国にクーデターのGOサインをとりつける密約をした、との報道まであったほど。)

軍事政権は中国からのパイプライン警備の要請を断った模様
 しかし、事実は小説より奇なり。どうやらずっと複雑なようです。
 前掲のVOA記事によれば、VOAが入手した文書により、次のような事実が明るみになった。2月23日に中国政府がミャンマーの軍事政権に対して、軍事政権への反対派の暴挙の可能性があることから、ミャンマーの港湾から国内を縦断して中国の昆明に結ぶパイプラインの警備強化を要請し、更に、中国に関するマスメディアの好意的な報道を促進するよう要請した。しかし、ミャンマー軍事政権はこれに応えず、外国人ロビイストを使って、中国と距離を取る政策を画策している。

市民はパイプラインへのテロ攻撃を公言
 軍事政権に反発している一般市民も、対中国においては軍事政権と足並みを揃えて反中の姿勢を見せている。

 論より証拠として、市民のツイートを2例見ていただきたい。
Myanmar twitter

 このツイートで面白いのは、中国が「今ミャンマーで起きていることはミャンマーの国内問題である」という内政不干渉の論理を使っていることを逆手にとっていることだ。
「Hello China, if you are still concerning what's currently happening in Myanmar is internal affair, to blow up the natural gas pipeline that passes through Myanmar is also an internal affair for us as well. Let's see what can u say huh. 」(=中国よ、貴国が引き続き「今ミャンマーで起きていることは国内問題なのだ」と心配し続けているのならば、ミャンマーを縦断する天然ガスパイプラインが吹き飛ぶことも、これも我々にとって国内問題なのだ。さぁ、何か言い返せるかい?)

 また、もう一方のツイートでは更に踏みこみます。
「Dear UN, We need R2P reather(ratherの誤り?) than statements.
Dear China  We can no longer supply natural gas that's why we agreed to blow up the pipe line. This is our internal affairs please don't mind us.」 (= 国連よ、我々は言葉だけの声明などではなく、自国の国民を保護しない国で市民が弾圧に合っているならば、むしろ国際社会が「市民を保護する責任」を果たすことを必要としているのだ。中国よ、我々はもはや貴国に天然ガスを供給しない。なぜならパイプラインを吹き飛ばすことに合意したのだ。これはあくまで我々の国内問題なので気にするな。)

「国際社会がミャンマーの市民を守るべし、これは内政不干渉に優先する」という国際理念
 2つ目のツイートでは、「R2P」という言葉を使っているところが渋いですね。
 R2Pとは、「Responsibilities to protection=国民・市民を保護すべき責任」という意味で、本来、国家は自国の国民を保護する責任を有しますが、その国が自国の国民を保護しない場合は、国際社会が代わってその国の国民の保護をするのだ、という国連安保理でも認められている国際的な基本理念です。そして、この理念は、国際社会がその国の市民を守る責任については、「内政不干渉の原則に優先する」という決定打まで認められているのです。  

 但し、結局は「理念」なので、国際社会、例えば国連安保理がこの基本理念を根拠に行動に起こせるか、というと安保理事国に中国がいますから、拒否されますけどね。
しかし、国際的な理念としては十分正当な主張です。


 ミャンマーの状況に対し、我々日本人はマスメディアを通じてみているしかない状況なのが歯がゆいところですね。
 他方、軍にも市民にも反中感情を持たれているというのは、ミャンマー国内で幅を利かせている中国人の平素の行いが余程悪いのか、それとも歴史的に相当痛い目に会っていて中国にはいい感情を持てないのか、・・・。
 引き続き、ミャンマー情勢から目が離せません。

(了)

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2021/03/01

米国がサウジ皇太子を断罪:米の中東政策の転換点になったら大変

米国がサウジ皇太子を断罪:米の中東政策の転換点になったら大変
 2018年に起きたサウジ国籍の記者カショギ氏殺害事件について、前トランプ政権はサウジとの関係緊密化の中、皇太子の関与については敢えて追及を避けていましたが、バイデン新政権は国家情報長官室の発表という形で「カショギ氏の拘束もしくは殺害についてムハンマド皇太子が承認した可能性が高い」旨の報告書を出しました。
バイデン新政権がスタートして以来、トランプ前政権の執っていた政策を覆す処置を次々と展開しています。ある種、新政権の姿勢てして「トランプ前政権の悪弊を廃し善政に転換してます」アピールをするのは従来の政権交代でもよく見られたことです。バイデンさんとしては、トランプ前政権が壊したアメリカ外交の大義や正義、国際協調を取り戻す政策で、大統領選挙で自分を支持してくれた支持者へのリップサービスや国際社会へのアピールなのでしょう。しかし、サウジの金的を蹴り上げることなる発表ですから、今後のサウジとの関係が気になるところです。私見ながら、サウジの皇太子を断罪した今回の処置は米国の中東政策の転換点になる危険もはらんでいると思われます。
Khashoggi.jpg
昨年10月、殺害されてから1年となるカショギ氏の肖像画の前で(FILE - A Turkish police officer walks past a picture of slain Saudi journalist Jamal Khashoggi prior to a ceremony, near the Saudi Consulate in Istanbul, marking the one-year anniversary of his death, Oct. 2, 2019.: 2021年2月27日付VOA記事「Biden Promises Announcement Soon on Saudi Arabia」より)

直接的には、米国はサウジとの関係を再調整
 2021年2月26日付VOA記事「US Intelligence Report Singles Out Saudi Crown Prince in Khashoggi Killing」によれば、同日米国のブリンケン国務長官は次のようなコメントをしています。
“While the United States remains invested in its relationship with Saudi Arabia, President (Joe) Biden has made clear that partnership must reflect U.S. values,” Secretary of State Antony Blinken said in a statement.
「米国は、引き続きサウジアラビアとの関係に投資を続けているが、バイデン大統領は両国のパートナーシップには米国の価値観が反映されなければならないことを明確にした。」
“To that end, we have made absolutely clear that extraterritorial threats and assaults by Saudi Arabia against activists, dissidents, and journalists must end. They will not be tolerated by the United States,” Blinken added. 
「そのため、我々バイデン政権は、活動家や反対派やジャーナリストに対するサウジ政府による領域外の脅迫と暴力は終わりにしなければならないことを極めて明確にしたのだ。米国はそのような行為は看過しないであろう。」

 この報告書の発表に関連して、米国はサウジ国籍の事件関係者76名に対するビザ制限を行い、また財務省の制裁として、サウジの元総情報局長と拘束・殺害の実行部隊と思しきサウジの迅速介入部隊(Rapid Intervention Force)に対する資産凍結や取引禁止などの制裁措置を発表しました。

 更に、同年2月27日付のVOA記事「Biden Promises Announcement Soon on Saudi Arabia」によれば、バイデン大統領が3月1日(月)には、今回の件に対するサウジアラビアとの関係について新たな発表をする模様です。何を言うとは明らかにされていませんが、予測できるところでは、既に発表されている制裁以上の更なる制裁措置を発表するのか、トランプ前政権下で進められた武器輸出のキャンセル(とはいえ全面ではないでしょうが)などですかね。何を発表するのか、お楽しみ(恐怖)というところです。

米国の「サウジとの関係の再調整」は中東政策そのものの基盤を揺るがす
 何といっても、これまでの米国の中東政策は、政治の話も経済の話も、サウジとの強固な友好関係が基盤だったわけですから、この根幹に亀裂が入る大変動になるかもしれないのです。
 米国とサウジの政治及び安全保障上の強固な結束という基盤、そして経済上の安定的石油供給とその決済手段としての米ドルという基盤、この卵が先か鶏が先かの関係に似た持ちつ持たれつ態勢=崩れるように見えなかった関係を、「再調整」するのか?っていう話ですよ。決して簡単な話ではない。

 経済の話で言えば、ペトロダラー体制の基盤がまさにそうでしょ。米国とサウジの強固な密約関係があって国際石油取引の決済手段は米ドルが国際決算通貨の役割を担ってきたわけです。勿論最近の趨勢では、石油自体の地盤沈下もありますし、仮想通貨やらデジタル人民元やら、様々な変化要因はありますけどね。これを崩すつもりなのか?っていう話ですよ。
 政治・安全保障の話で言えば、米国はこれまでアラブ諸国との関係では、湾岸危機・湾岸戦争の時も、その後のイラク戦争の時も、常にサウジアラビアとの良好かつ強固な関係が基盤となって中東戦略・中東政策を推進してきたわけです。現在の中東の地政学的な展開で言えば、不安定なイラク・シリア、そこに浸透しつつあるイラン、しかもイランは核開発再開を外交カードに使って経済制裁を解かせようとしている状況で、ペルシャ湾での対米敵対状況は一触即発なテンションです。これまで米国はサウジとの良好な関係を基軸に、他のペルシャ湾岸諸国やヨルダンとも協調してきました。トランプ前政権で、米国はサウジほか湾岸諸国にイスラエルとの緊張緩和や協調関係の開始をプロモートしていました。他方で、イランの息のかかったシーア派系の過激派組織の連携でイエメンやパレスチナとはもう修復の余地のない対決態勢になっています。この状態でサウジと仲たがいできるのかっていう話ですよ。それはできない。だって、米国がイランとの協調態勢っていうのは、水と油の融合のようにあり得ないですから。現在のイランが、イラン革命で米国とベッタリだったパーレビ国王を草の根のイスラム革命で倒して建国した歴史的経緯は変えられません。「反米」というのはイランの国是ですから。

サウジとの「再調整」の決め手は対イラン政策との適切なバランス
バイデン政権は、オバマ政権時代のような対イランでの核合意体制への復帰など対イラン政策では「交渉の余地があるよ」アピールをしています。しかし、それはサウジとの友好関係を切ってイランに乗り換えるというような単純な話ではあり得ません。バイデン政権の考えは、米国がイランとの完全な対決・敵対状態を望むものではなく、「米国とイランは対立する状態が基軸であっても、決定的対決を避け、お互いに分を守って是々非々で行こうよ」という志向です。

勿論、この思考は危険をはらんでいます。クリントン政権やオバマ政権もそうでいたが、このリベラル的楽観主義・お気楽思考が災いして、過去にイラン・イラク・北朝鮮などにまんまと裏をかかれて秘密裏の核開発などを許してしまうこともあったわけです。そして、このお気楽思考に対する反発が、トランプ政権のタカ派思考へと米国を導いたことも事実です。

大事なことは、トランプ前政権の政策に対する単なるちゃぶ台返し政策ではなく、国際政治のリアリティを踏まえた現実主義感覚を忘れずにいることです。
サウジとの関係では、米国として、サウジとの強固な政治経済上の結びつきは維持するべきです。今回、サウジが絶対に触れてもらいたくなかった問題の核心を突くわけですから、突く以上はしっかりとフォローが必要です。米国は、今後ともサウジとは良好な関係を維持するつもりだ、しかし国際的な常識的規範=normとして、民主的な国家体制の有するべき法治国家としての正義に照らして、国家としてやっていいこととやってはならないことがあるのだ(どうせやるんならもっとうまくやれよ、今回のは証拠を遺し過ぎてるぞ)、と念押しすべきです。
実際、一部報道によれば、既にバイデン大統領は今回の発表前にサルマン国王に直接電話をしている模様です。この辺の話はしたのではないかと思います。

 イランとの関係では、領域やルールを守っている限り直接的衝突はすまい、だからそこは守れよ(具体的には核開発につながるコレとコレはだめだぞ、他の中東国にイスラム革命やテロの輸出もダメだぞ)、という禁止事項を明確にする形とし、これに加えて裏をかかれないよう担保として、しっかりウォッチするとともに約束不履行の場合の手痛いペナルティーを必ず課すこと。

 このサウジとイランとの関係のバランスをしっかりとることが大事で、ここを誤ると中東情勢のバランスが崩れて不安定化してしまうと推察します。

(了)

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