中国:政府に挑んだ企業家に懲役18年の見せしめ判決

大午集団の創業者 孫大午氏 (2021年7月29日付BBC記事「Outspoken billionaire Sun Dawu jailed for 18 years in China」より)
2021年7月29日、裁判中だった中国河北省の小さな村を国内最大の農業グループに育てた「大午集団」創業者の孫大午氏に、懲役18年の判決が下りました。貧乏な家に生まれ、クズ拾いから養鶏・養豚を始め、一代で巨大農業グループを立ち上げた孫氏。持ち前の反骨と正義感から、当局の賄賂要求を断り、当局に対しあけすけに正論を主張して抗い、これまで逮捕や裁判も数回ありましたが、昨年8月にグループ本社そのものへの一斉捜索・一斉逮捕があり、当局に従順には従わず抗った孫氏及びその家族やグループ幹部が20数名も逮捕・拘束され、2021年7月14日から公判が開始され、29日に孫氏に懲役18年、及び巨額(1億5000万ドル)の返済金、他の逮捕者に1年から12年の懲役刑が科されました。
(参照: 2021年7月29日付VOA記事「Chinese Farmer Who Praised Lawyers Sentenced to 18 Years」、同日付前掲BBC記事「Outspoken billionaire Sun Dawu jailed for 18 years in China」、2021年7月14日付日テレニュース「中国著名企業グループ創業者の初公判」、及び2020年11月25日付東京新聞記事「標的にされた異色の中国企業家 当局にこびない孫大午氏」)
孫氏に懲役18年という重い判決、アリババ創業者馬氏の行方不明
いやー、どうなるのかな、と思っていたのですが、18年の懲役とは非常に厳しい判決でしたね。個人的に注目していたし、こういう豪傑ビジネスマンが中国にゴロゴロ出てくると、日本は敵わないなぁ、と思っていたんですが。日本にとってありがたいことに、中国政府自身がこういう国家の宝のような傑物を潰してしまうんですね。この人、前述のように、裸一貫から、農業企業を起こして成功させ、「大午集団」なる大企業に育て、なんと生まれ故郷の村全体をユートピアのような企業村にしました。村内に農業をはじめとした商業施設や観光施設を作り、更に9000名近い従業員を家族丸抱えで、村ごと学校から病院まで面倒を見る共同体のような村を作って、中国中の関心を引いていました。しかし、今回で完全に潰されてしまいましたね。
孫氏と同様に政府や当局に抗って干されたアリババのジャック・マーこと馬雲氏もしばらく行方不明になっていましたから。馬氏の場合は、「時代錯誤な政府規制が中国のイノベーションを窒息死させる」と中国政府の施策を痛烈批判したことで、習近平国家主席の激怒を買い、拘束されていたと伝えられ、今年1月に数カ月ぶりにネットイベントに姿を現したようですが、もはや完全に牙を折られ恭順の姿勢を取らされているようですね。
大午集団・孫氏の当局への抵抗
おそらく、馬氏と孫氏の違いは、政府や当局への反抗姿勢の徹底ぶりです。馬氏は、政府の政策への批判により、「こっぴどく叱られた」感じですが、孫氏の場合は地元の当局とのかなり長い抗争と逆転勝利などがあって、ネット等を通じて中国国民の中にも孫氏を応援する人たちも出てきたことに対し、政府が「これは芽のうちに徹底的に潰しておかないと偉いムーブメントになる」と危機感を持たせたことではないかと思います。
前掲の4つの記事に孫氏の大午集団の地元当局との抗争歴が書かれていましたので、バラバラの記事内容を要約しますと、以下のような流れです。
・ 2003年、当局の指示で銀行が民間企業への融資を渋ったため、苦肉の策として自己企業の従業員や村民等から相当額の資本を集めたことが当局から「違法」として咎められ、懲役3年、執行猶予4年の判決を受けた。一説には、この一件の引金は孫氏が政府の農政について批判したことに対する報復、と言われている。
・ 同年、この「違法な資金調達」の懲役刑について、ネットで炎上し一般市民からの支援という追い風が起き、撤回となり名誉が回復される。
・ 2019年、中国に豚インフルが流行し、大午集団の農場も中国の農業も大打撃。この際、孫氏は「政府が豚インフル発生を隠蔽した」と公然と政府批判を展開。
・ 2020年2月、2003年の一件の裁判の際の大午集団側の著名な弁護士が謎の失踪。当局に反逆罪で逮捕・拘束された模様。
・ 2020年6月、大午集団と国有企業の間で係争があり、当局の一方的な措置で大午集団の建物の破壊の強制執行が行われた際に、大午集団従業員が抵抗したが、これが暴力行為とされ、8月11日に大量の武装警官が動員されての一斉捜索・一斉逮捕。孫氏を始め数十名が逮捕・拘束された。罪状は、社会秩序騒乱などの容疑。

大午集団への一斉捜索・逮捕・拘束 (前掲日テレニュースより)
孫氏には一罰百戒どころか見せしめに企業ごと壊滅へ
上の画像のように、この2020年8月の一斉捜索・逮捕・拘束の際、まるで暴力団かテロ集団の摘発か、というほどの鳴り物入りで、数十台の警察車両、数十名もの武装警官、警察犬などが動員されて村内に突入し、建物のドアを蹴破ってしらみつぶしにするような大捜査線になった模様です。
だから、これはただの暴力事案に対する警察の逮捕なんて話ではなくて、政府の指示による政府・当局に歯向かうものに対する「見せしめ」としての逮捕劇でしょう。そして、鳴り物入りで暗黒裁判をし、法の名のもとに「見せしめ」のために創業者ごと企業グループごと(村ごと)潰したんですよ。中国政府は、こうした見せしめにより企業への統制を強め、「いいか、政府に抗うものは潰したるぞ!」とマインドコントロールをしているわけです。これで、政府の企業や一般市民に対するグリップは確たるものになるでしょうけど、他方で、もはや企業のクリエイティビティとか自由かつ柔軟な発想とか切磋琢磨とか、そういった企業の進展性や伸びしろまで潰してしまっていますよね。
まぁ、そんな中国の方が日本にとっても好都合かもしれませんね。
(了)


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