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2021/08/29

自衛隊アフガン退避作戦の行方:イスラマバードで状況好転待って待機、時間切れか

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飛行機に向かうカブール空港の避難民(FILE - Families walk towards their flight during evacuations at Hamid Karzai International Airport, in Kabul, Afghanistan, Aug. 24, 2021, in this photo provided by the U.S. Marine Corps. (Sgt. Samuel Ruiz/U.S. Marine Corps via AP)(2021年8月27日付VOA記事「UN Preparing for Exodus of Half-Million Afghan Refugees」より)

 あくまで2021年8月29日(日)1800の認識で書いています。今後、状況が動き、メディアの報道で新たな情報が入るでしょうが、とりあえず今知り得る情報での、自衛隊アフガン退避作戦の行方について考察したいと思います。

自衛隊アフガン退避作戦の行方:イスラマバードで状況好転待って待機、時間切れか
 結論から言うと、タイトル通り、「イスラマバードで状況好転待って待機、時間切れ」となるのではないか、と推察します。アフガニスタンに所在する在外邦人等の同国退避のための自衛隊の在外邦人等輸送の活動は、現状の通り、当面の輸送活動が困難な状況が好転するのを待って、隣国パキスタンのイスラマバードの空港で待機し、今後そのまま「8月末まで」とされていた米軍はじめ多国籍軍部隊の撤退期限を過ぎて、状況の好転どころかテロが頻発し更なる状況悪化となり、それでも9月初めまで待機を続け、国内にももはや活動継続が困難であることが明白に理解された頃、政府が「活動終了」を発表する、といういわゆる「時間切れ」で幕切れとなる、・・・と推察します。

勝負はカブール空港の空港機能が維持されるか否か
 活動継続が困難になる、ということについて補足いたします。これまでの各国の退避作戦の前提は、米軍主導の多国籍軍がカブール空港内のセキュリティと空港機能の維持を徹底していたので、とりあえず空港まで在外邦人等がたどり着けば、そこから先の航空機による退避が可能でした。しかし、米大統領自身が声明しているように、米軍が8月一杯で撤退するという場合、米軍主導の空港のセキュリティーや空港機能の維持・管理はもはや終了します。タリバン側も米軍はじめ各国軍に全権限の移管を求めています。米軍はじめ多国籍軍の撤退後の態勢、特に空港機能の維持については現在協議中のようですが、難航している模様です。事実上、カブール空港はタリバンの手に渡るので、もはやセキュリティーも空港機能もこれまでのように「通常」の機能は困難になるでしょう。それを前提とすれば、8月31日2400(或いは、それ以前に米軍の展開部隊の帰国のための活動終了の時点で、その空白をタリバン部隊の浸食によって事実上逐次に機能不全化という経過かもしれません)で権限移譲をするでしょうから、もはやそれ以降は空港機能、すなわち搭乗者塔乗のための各種手続き・チェック、搭乗者の航空機内への誘導、搭乗者の荷物の搭載、航空機の誘導、航空管制、等々の欠くべからざる機能は、タリバン兵の空港内への浸食に伴って失われます。ここで、「外国のもの」を憎悪する統制の効かないタリバン兵が空港施設内にある空港各種機能に必要な各種資器材の破壊や略奪をし始めたら、・・・後になってタリバン首脳陣が空港の重要性を再認識して復旧をしようと努力しとしても、なんとかまともな空港機能を取り戻すまでは、少なくとも数週間かかるのではないでしょうか。空港機能は最低限の話で、空港の外はもっともっと酷い状況です。それを読んでいたがゆえに、米軍以外の各国も、8月中旬からNEO(非戦闘員の退避作戦)を実施していたし、8月末に向けNEOの終了を既に声明したわけです。

 従って、8月末の米軍撤退をもって、もはや退避作戦は継続困難にならざるを得ないのです。
 ちょっとだけ違う幕切れとして考えられるのは、「岸防衛大臣が早めに国民に説明すべきと考えて、8月31日もしくはそれ以前に(本日8月29日夕ですが、今日中にも)、米軍の活動終了、撤退に伴い、空港周辺のテロ頻発等に伴い、事実上活動継続が困難ため、自衛隊の在外邦人等輸送の活動を終了することを発表する」というパターン。「27日の活動が最後となろう」というようなことを既に会見で話されているので、官僚の筋書き通りではなく、ご本人のお考えで早めにお話しされるかもしれません。立派なことですよ。官僚の筋書きは、法的には間違ってないかもしれない代わりに、政治的インパクトや国民受けとしてはとにかく遅いし間違っていますから。「活動終了」の発表の後、どっちみち国民やマスコミの作戦への酷評は避けられないのだから、正直ベースで悪い話ほど早めに米軍がリリースした方が、リスクマネージメントとして利口です。

望ましいシナリオ
 願望も入っていますが、望ましいシナリオとして考えられるのは、「『8月末の米軍撤退』後にも空港機能が維持される」というシナリオです。というのも、タリバンも昔と違って何にでも「外国のものを憎悪する『攘夷』」思想を改めて、少なくとも外国とも話をする気のある首脳陣は、外交なり国際協調なりを考慮して、柔軟な新思考を持っており、空港機能の重要性を認識し、空港機能の維持を模索している模様です。2021年8月28日付AFP記事「アフガン空港、米軍撤退後の運営主体めぐり協議混迷」によれば、カブール空港機能の維持・運営に関し、タリバンがカブールでアラブ系の企業やトルコ政府関係者(軍関係者?)が参加した会議を実施しており、トルコのエルドアン大統領の発言によれば、「タリバンは空港のセキュリティーの権限を握り、トルコに対して物流部門の機能を委託したい意向」とのこと。この情報が真実であることを願います。タリバンが、自前ではできない空港機能の維持管理について、アラブ系企業やトルコ等の周辺関係国に協力を求め、事前に役割分担を求め、デマーケーションを調整し、実際にそのデマケ通りに整斉円滑な権限移譲ができるならうれしい限りです。そうなれば、米軍はじめ各国軍部隊の展開部隊の引き上げの際に、その場で引き継ぐタリバン部隊やアラブ系の民間業者や物流を預かるトルコの機関(どうせなら実力部隊であるトルコ軍が望ましい)等がしっかりと権限移譲の手続きをとり、空港機能がしっかり維持されて引き継がれることが可能になります。・・・・いやぁー、しかしそれは難しい。タリバンは一般的な軍隊と違って、民兵の集まりなので、指揮命令系統に従った部隊行動は全く得意ではないので、「命令・指示の徹底」という軍隊としての「当たり前」は通用しないと推察します。仮に、事前の話し合いができていたとしても、現場では整斉円滑な権限移譲とはかけ離れた、統制の効かないイケイケのタリバン兵の抜け駆け的な暴走がありそうです。
 ・・・しかし、もし、空港機能が米軍撤退後も維持できるのであれば、自衛隊の退避作戦に「イスラマバードでの待機」に「状況好転」の可能性も出てきます。米軍等の撤退後、完全に(一応)アフガニスタンを掌握したタリバンが、「タリバン政権は、各国のアフガニスタンへの大使館機能を引き続き維持することを要望する。各国の大使館要員や機能の安全は責任をもって確保する。」と宣言し、残った要員の国外退避に一応の理解を表明するようなことも考えられます。その場合、日本大使館や在外邦人等輸送活動の担当職員、自衛隊員などがタリバン政権側と事前の調整をして了解を得て、在アフガン邦人やその協力者でアフガン出国を願うアフガン人(タリバンが出国を了解した方々のみですが)が、空港周辺の様々なタリバン検問を通って空港へ到着し、手続きを経て自衛隊機で出国する・・・という法律通りの在外邦人等輸送ができる、という運びです。しかし、この話のようにうまくはいかないでしょうね。 しかし、いずれにせよ、こうしたことが可能な場合は、8月末から9月初旬にかけて、希望を失わず、タリバン側との調整系統を維持して水面下の調整を、現在やっていることと思います。現地の大使館では、政府から「活動の終了」について命じられるまでは、希望を失わずにあらゆる調整系統を使って、金も使って、下調整をやっていることでしょう。

作戦の推移を見守りましょう
 我々、日本国民のできることとしては、現在も作戦遂行中の我が国の在外邦人等輸送の作戦の推移を見守りましょう。これしかないですね。
 韓国が「ミラクル」作戦と称して退避作戦を敢行・成功させたそうですね。立派なことです。それを韓国メディアが、日本の退避作戦がうまく行っていないことを鬼の首を取ったように自国の作戦と比較して喧伝しているらしいですね。ここで、嫌韓な方々はさぞご立腹とは存じますが、まぁ、いいじゃないですか。実際、韓国の作戦成功は大したもんですよ。空港までの移動にバスをチャーターし(バスのチャーターでも各国の取り合いだったようですが)、タリバン検問に何度も止められ、10数時間もの拘束を受け、それでもやっとのこと約370名もの在アフガン韓国人、協力者を退避させたわけですから。素直に褒めましょうよ。
 それとは別に、現在も作戦遂行中の我が国の在外邦人等輸送の作戦の推移を見守りましょう。現地では、空港周辺で米軍やタリバンを狙って避難民を巻き込んでIS地方組織による自爆テロが起き、すぐさま米軍が犯行組織と思しきアジトに報復ドローン空爆を実施、恐らくISもこれにすぐさま報復するでしょう。現地情勢は益々混迷。そんな中、現地の大使館員や今回の活動関係職員、自衛隊員は固唾をのみつつチャンスを待って、命を削って活動しているのですから。

(了)

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2021/08/23

アフガン自衛隊機派遣決定に物申す:「在外邦人等保護措置」のはず!

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2021年8月23日付時事ドットコムニュース「自衛隊機、アフガンに出発 邦人・現地スタッフ退避へ―外国人輸送は初」より

 2021年8月23日付(19:03)NHKニュース「アフガン退避で自衛隊機を派遣邦人や大使館外国人スタッフも」によれば、情勢が混沌とするアフガンに在外邦人等輸送の枠組みで自衛隊を派遣し、大使館関係者やJICA職員等及び現地スタッフを退避する任務を実施させる、とのことで、出発は本夕以降明日にも主力が出発する模様です。

私見ながら、予期できたし1週間遅いし「輸送」じゃなくて在外邦人等「保護」任務でしょ
 確かにタリバンのカブール侵攻は予測より早かったかも知れませんが、米軍完全撤退は昨年トランプ政権時代から明言していたので分かっていた訳ですし、実際に今年の米軍の逐次撤退に伴ってタリバンが逐次に地方都市を奪取していくのも見て取れたわけです。現地の大使館や米軍からの情報でアフガン情勢が8月下旬に向けてタリバンのカブール侵攻が緊迫化していたのは読めていたはずです。8月末に向けて各国がカブール陥落=アフガン現政権の崩壊=タリバンの統治下という日が来ることを予期して、NEO(Non-Combatant Evacuation Operation)非戦闘員の国外退避作戦を準備していたはずです。思ったより早かったかもしれませんが、日本政府も検討していたはずです。8月初旬までは機能していた前アフガニスタン政府と、カブール陥落するような場合はその前に、退避できるように調整していたはずなのです。あろうことか、ガニ前大統領ほかの高官が先に逃げてしまい、もろくもカブールが早期に陥落した8月中旬、調整相手は急遽タリバンになりますが、間違いなく、米国はじめ西欧列国は昨年の米国とタリバンの協定以来タリバンとも調整系統を維持していたはずです。「国外へ退避する各国・各機関の駐在員や大使館関係者の空路の国外退避には手を出さないでくれ、各国軍も自国の要員の国外退避の警護のみしかしない、タリバンに危害を与えない、大使館等から空港までの輸送については空港の外だからタリバンに時間や経路や車両など予め了解を取るからタリバン側も危害を与えるな、その代りに今後のタリバン統治下のアフガン政府にこういう支援を約束する・・・」、などという密約を交わしているはずです。各国軍は、早まりそうなXデーを念頭に、着々とNEOの準備をしていたはずです。今までどこでもそうでした。撤収とはそういうものなのです。だから、各国の軍用機や旅客機を使ったアフガン空港からの国外退避作戦はアフガン陥落を前後して、8月中旬からバンバンやっていましたよ。思ったよりカブール陥落が早く、アフガン人の国外退避を求めた空港への殺到があったため大変混乱しましたが、・・・。

 では、下調整をやっていたとして、なぜ日本政府の在外邦人保護任務は1週間以上もずれ込んだのか?・・・間違いなく官邸がGoを出さず、いろいろ注文を付けたからでしょう。1週間以上も遅れて、なおかつこの期に及んで「在外邦人等保護」の枠組みを使わず、より安全な場合の方のはずの「在外邦人等輸送」の枠組みでGoを出すとは、呆れてものが言えません。
 現役の頃、何度こういった政治判断の煮え切らなさに舌打ちしたか数え切れません。しかし現役自衛官は、命令が出れば、出た命令に奥歯をかみしめながら黙って任務を遂行します。退官したので、言えます。菅さん、遅いし姑息ですよ。現地の状況を見てくださいよ、危険ですよ。押し寄せるアフガン人数万が空港を取り囲んでいるんですよ。危険だから自衛隊派遣しないんじゃなくて、やれる枠組みがあるんだから、今回は「在外邦人等保護」で固め打ちで邦人等を退避させるんじゃないですか?間違っても、安全な方の「輸送」じゃない。政治的な安全パイをとって彼らの手を縛り、現地の作戦は自衛隊員に丸投げですか?せっかく平和安保法制で枠組みを整理したんですよ。これまで、日本は国際社会における役割遂行において、およそ軍事については、常に奥手もいいとこで、米国はじめ列国にお願いして守っていただき輸送していただいていました。今回この1週間以上、同様に外国軍に輸送してもらっていたんでしょ。やっとこさ、明日8月24日以降、自ら自衛隊派遣による「在外邦人等輸送」をするんですって。「輸送」ですよ。違いは明確です。「任務遂行のための武器使用」というジョーカーを使いたくなかったんでしょ。選挙もあるし。金玉ちいせぇな。今回も米国はじめ、周囲の列国に守っていただいて、その囲みの中で自衛隊機だけ輸送に使うんですか?現場じゃそうはいきませんよ。現場に行く中央即応連隊+αの部隊は現場の米軍はじめ列国軍と現場調整をして、役割分担をするでしょう。そして「守っていただく」調整を恥を忍んでするでしょう。枠組み上、任務は「輸送」しか許されていませんから、銃は持っていても純粋にもしものための正当防衛にしか使えません。「在外邦人等輸送」という枠組みは「安全な地域」(のはず)での作戦なので、自縄自縛しているわけです。
 そして、もうひとつの懸念は、今回の「在外邦人等」の「等」の部分は、現地アフガン人等の外国人を含むのです。一応現地で大使館や各機関が活動する際に協力してくれた人々とその家族等ですが、イマイチ完全に本人の身元などセキュリティが100%でないところがあるので、いろいろ危険な状況も起きることが考えられます。その際にも「任務遂行のための武器使用」ができないのです。
 更に、国外退避作戦は8月中に終わらないと、タリバンは米軍が完全撤退を約束した8月一杯までは待つでしょうが、8月末を過ぎて9月にずれ込んだら、統制の効かないタリバン兵はそろそろ手を出してきます。しかも奴らの手にはアフガン政府軍から奪い取った米軍譲りの携帯対空ミサイルなどの航空機を的にする武器を手にしています。退避作戦は、何度も何度もはできません。次期が遅くなるほど、状況は間違いなく混迷化し、作戦遂行は時間と共に難しくなります。だから遅いんだってば。・・・心配したらきりがないですが・・・。

 余計なことを言って現地に行く隊員さんたちの作戦をやりづらくしてしまっては何にもなりませんので、年寄りの冷や水はこの辺にしておきます。
 彼らは十分訓練してきたので、自縄自縛の枠組みの中でも、きっと任務達成してくれることでしょう。 
 在外邦人等の無事の帰国、無事の任務達成を心から祈っています。

(了)

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2021/08/18

タリバンがアフガン掌握:米軍撤退を責められない

スクリーンショット (47)
(2021年8月17日テレビ朝日ニュースより)
 何とか国外へ逃れようと、動き出す米軍機に滑走路からしがみつくアフガン市民の群れ、・・・このシーンは衝撃的ですね。まさにベトナム戦争のラストシーン=サイゴン陥落時の在サイゴン米国大使館の屋上から最後のヘリが離陸する際にヘリにしがみつく南ベトナム市民の群れ(1975年4月28日:下の画像参照)のデジャブ―ですね。
Fall of Saigon, April 28 1975

カブール陥落、タリバンの国盗り達成
 私の7月14日付のブログ「アフガンの行方:米軍撤退、タリバン全土制圧、ロシア/中国/トルコの思惑」で予想した通りの展開になりました。
 バイデン米大統領が1ケ月前の7月8日に米軍が8月中に全面撤退する旨の発表をし、逐次駐留していたキャンプを撤収し政府軍に引き渡し始めてて以来、・・・本当にあれよあれよの間に、イスラム過激勢力タリバンは地方都市を次々に制圧し、先週末のの土曜・日曜には、首都カブールに迫っている、との報があったと思ったら、8月16日月曜にはついにカブール陥落となりました。これをもって、ガニ大統領のアフガニスタン政府は完全に消滅、タリバンが再び国を奪取しました。タリバンは近く新政権を発足する模様です。(参照:後述の各社社説等)

新聞各社の社説:異口同音に米軍撤退を責める
 アフガニスタンのカブール陥落が目前となった先週末2021年8月14日(土)・15日(日)から報道活発になり、16日(月)は新聞休刊日でしたので、17日(火)に新聞各社は社説にてこのアフガン情勢に論評しています。そのほとんどが、異口同音にバイデン米大統領の米軍撤退の責任を追及し、それぞれの主張を展開しています。

 2021年㋇17日付、読売新聞社説「タリバン復権 アフガンを見捨ててはならぬ」では、「タリバンの電撃的な攻勢の背景に、アフガン駐留米軍の拙速な撤収があったのは明白」、とし「バイデン大統領は先月の段階でも、アフガン政府軍がカブールを防衛できるという楽観的な見方」、「米国世論に配慮し、8月撤収に固執したバイデン氏の責任は重い」とバイデン大統領の判断を糾弾しています。結論として、「アフガンが非民主的な体制に逆戻りし、再びテロリストや過激派の温床となれば、20年間の国際社会の努力は無に帰す」、「アフガンの混乱は国際テロの危険を増大させる」という点を国際社会の課題と位置づけ、「国連を中心に、関係国が暴力の自制と安定を求め、アフガンへの関与を話し合う枠組みを構築する必要がある」、「中国とロシアはタリバン支持に傾くのではなく、日米欧と足並みをそろえるべきだ」と主張しています。

  同日付、毎日新聞社説「アフガン民主化の崩壊 米国の過信が招いた敗北」では、この状況を「最長戦争の無残な終幕」と表現し、これまた責任問題について「またたく間にタリバン支配の復活を許すきっかけとなったのが、バイデン米大統領が進めた駐留米軍の撤収だ」と断じています。そして、結論として、今後の喫緊の課題は「最も懸念されるのが、アフガンが再びテロの温床となることだ」とし、「国際社会の監視が欠かせない」としている。もう一つの結論として、次のように米国を厳しく糾弾しています。「(米国は)アフガンだけで約880億ドル(約9兆6800億円)を投じ、米兵約2400人を犠牲にした米国の疲弊は著しい。一方で、この間に中国は台頭し、米国を脅かす存在になった」、「国際社会における米国の威信低下を加速する」

 同日付、朝日新聞社説「アフガンと米国 『最長の戦争』何だった」では、責任問題について「このような無秩序な形で米軍の撤退を急いだのは、大国のご都合主義以外の何物でもない」と朝日新聞らしい高飛車なご高説で断じています。結論としては、次のような米国の敗北論で結んでいます。「タリバーンは90年代、音楽や映画などを禁じ、女性を学校教育から排除した。人権と平等を認めない統治をまた許せば、米国が唱える自由と民主の価値を誰も信用しなくなるだろう。 それこそが、米国にとっての「敗北」と心得るべきだ」

私見ながら、米軍撤退を責めるべきではない
 前述のように、各社の社説はバイデン大統領の米軍撤退を責めていますが、私見ながら、今日のアフガン情勢の責任を米軍撤退に帰し、米国や米軍、及び多国籍軍で加わった各国軍の努力が足らなかったかのように評されるのは納得がいきません。アフガン戦争の始まりから議論して「正しかったか」について論じるつもりはありませんが、少なくとも、当初のアフガン政府からタリバンを排し、法による統治とか選挙による議会制民主主義による政治などの国家作りに、国際社会として取り組んだ努力については評価すべきです。だって20年ですよ、20年。結構な資金をかけて、米国のみならず国連をはじめとした国際機関が20年間努力を積み上げてきた訳ですよ。にもかかわらず、結局、アフガニスタンに内在する様々な要因がそうした努力の実を結ばせなかったのです。その中でも、一部は実を結びつつあった分野もありました。タリバン時代の行き過ぎたイスラム法(タリバン的解釈による)の支配から、曲がりなりにも法治国家としての法体系を作ったり、女性蔑視や虐待の慣習の撤廃のための啓蒙活動や、女性の社会進出・地位向上とか女性への教育の普及とか、新制アフガン国家にあって幾つかの改善点はあったのです。しかし、結果的に新制アフガン政府の議員や官僚や商習慣などにおいて、土着的な慣習や考え方は一向に改まらず、ただただ古い因習、民族・部族間の軋轢、血縁の重視、汚職や賄賂などが幅を利かす状況が拭えませんでした。特に、政府軍の自立を助長しようと、米軍は教育訓練に相当な努力をしましたが、多民族・多部族の政府軍に「国家への忠誠」とか「軍人精神」とか「軍の正当性」というものを根付かせることが非常に困難でした。米軍が共に戦う場面では、「勝てる」戦闘では虎の威を借りて政府軍も軍隊っぽく行動しますが、米軍が戦列に入らず、あくまで無人機空爆や情報支援や後方支援に回ると、途端に政府軍の戦意が落ち、単独作戦ではタリバン相手には逃げてしまう有り様でした。私見ながら、言葉は悪いですが「自らの足で立つ」気のない国民性・民度が問題なのです。20年努力してきた米軍をはじめとする多国籍軍は、もはや歴史的役割を終えて、それぞれの国に引き揚げたのであって、この責任はアフガン自身が負うべきでしょう。

 おそらく、私の意見に対し異論のある方は大勢いらっしゃると思います。米国の肩を持つなと。アフガン戦争の始まりからして、全て米国のご都合主義なのだ、全て米国の無責任さのせいなのだと。アフガニスタンにアメリカ流の民主主義や考え方を押し付けてもダメなのだと。勿論、私もその考え方は半分正しい、と思います。
 しかしながら、これはアフガンだけではなく、世界の各地に良くある話ですが、いわゆる先進西側諸国が常識的に享受している「民主主義」や「自由」や「人権」などというものは、原則論であって、実体論は各国・各地域の土着の考え方・慣習・歴史的経緯・民族性などでいろいろ受け止め方があるわけです。先進諸国から見て「常識」だったり「当たり前」だったりすることは、その地・その人々にあっては常識や当たり前ではないのです。 
 例えば、ハイチ。10年前に大地震があって日本も緊急援助隊やPKOで支援に行きました。PKOは2年続けて、日本は離脱しました。例えば南スーダン。これまた10年前に搾取され続けたスーダンから独立した一番新しい国の国作りの支援のため、PKOを派遣し、これも約2年続けた後、ジュバ騒乱があって、日本は離脱しました。いずれの国も、国際的な努力で国作りを支えたのですが、結局国家としてのそうした基盤は根付きませんでした。国際的な努力が足らないからでしょうか?日本は中途で離脱しましたがもっと派遣継続すべきだったでしょうか?両PKOからの離脱は、(後者の場合は、ジュバ騒乱のような戦争・内戦状態に近いから、といった事情もありましたけど)日本国として、「一定の役割・成果は果たした」という建前の下に「当事国に見切りをつけた」というのが正直なところです。「いくら国際的な努力を積み上げても、なかなか根付かない。日本としては十分に役割・成果は終えた、と位置づけ、ここで離脱しましょう。」、という話です。
 今回のアフガンについて、同じことが言えると思います。米国はこの地に20年駐留し、多くの若者がこの地で命を落としました。撤退論は、バイデン大統領が就任してから言いだしたことではなく、前任者のトランプ政権時代から、かなり長い議論と調整と交渉の下で、今年の5月には撤退する予定でした。しかし、タリバンが逐次息を吹き返してきたアフガン情勢の中で、結構前から計画的に、慎重に進めてきた話です。だから、他の多国籍軍の反発もなく、整斉円滑と逐次のアフガン政府軍への業務移管と撤退を進めてきたわけです。こうしたニュースは、米国内でも議論になってましたから、性急な撤退ではないのです。

 というわけで、今回は、日本の新聞各社がこれまでアフガン情勢についてあまり関心を払ってこなかったくせに、いざタリバンの侵攻速度が速くてカブール陥落となったら、猫も杓子も同じ論調で米軍撤退を責め始めたので、反発して異論を述べさせていただきました。

(了)

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2021/08/12

北朝鮮、米韓訓練に激怒し対立に回帰:いつものパターン

VOA20210811.jpg
TVニュースで南北関係改善の方向性の報を聞く韓国市民(7月27日の段階)(A TV shows a file image of North Korean leader Kim Jong Un, third from left, and South Korean President Moon Jae-in, second from left, during a news program at the Seoul Railway Station in Seoul, South Korea, July 27, 2021.)(2021年8月11日付VOA記事「N. Korea Returns to 'Old Playbook' of Confrontation, Dialogue」より)

北朝鮮、米韓訓練に激怒し対立に回帰
 2021年8月10日から一連の米韓合同訓練が開始されました。当初10日~13日まで特殊部隊間の対テロ対処訓練、16日~26日まで韓国陸海空軍、在韓米軍+本国含む米太平洋軍からの増援軍が対応する前提の半島有事対処の指揮所訓練を実施予定です。

 この動きを受け、北朝鮮が激怒。金正恩北朝鮮労働党総書記の妹で党副部長の金与正(キム・ヨジョン)が同月10日に、韓国を「perfidious(不誠実)」と呼び、この訓練の実施により北朝鮮に強力な先制攻撃能力を推進せざるを得なくなった旨、官制メディアを通じ声明しています。この翌日11日、金英哲(キム・ヨンチョル)北朝鮮労働党統一戦線部長は米韓は「間違った選択」のために「深刻な安全保障危機」に直面するだろうと警告しました。ついでながら、南北朝鮮のホットラインは現在北朝鮮側の応答が全くない状態、とのこと。まぁ、激怒モードに入っているので、ヘタしたらまた1年前のように回線は破壊され、関連施設が爆破される可能性もありますね。今懸念されていることとして、今回の軍事挑発にも言及していることから、韓国側としては「何をしてくるのか?」という疑心案疑に捉われています。
(参照: 2021年8月11日付VOA記事「N. Korea Returns to 'Old Playbook' of Confrontation, Dialogue」及び「N. Korea Warns of 'Security Crisis' Over US-South Korea Exercises」、同日付BBC記事「North Korea leaves hotline with South unanswered during military drills」)

 激怒したのには前振りがあって、韓国の文在寅大統領が残り1年の大統領任期を意識して、最優先課題として南北関係改善に努めており、やっとこさ南北ホットラインの復旧までこぎつけたのですが、この際、金与正から米韓合同訓練を中止しろと注文がついていたのです。米韓合同訓練を強行するなら南北関係の改善どころか、対立いやいや軍事オプションもあり得るぞ、と警告していたのです。韓国は、これを軽視する形で米韓合同訓練は毎年細々とやっているから例年並みの話だし、まぁまぁそんなに決裂までいかないだろう、とタカをくくったのでしょうか。結果的に北朝鮮は激怒してしまい、韓国文政権にしてみれば、南北関係改善の可能性すら国内に喧伝していたのに、結局決裂方向に北朝鮮は回帰してしまいました。

なぜ韓国は北朝鮮が警告したのに米韓合同訓練を強行したか?
 なぜ文大統領は、北朝鮮が警告したのに米韓合同訓練をGoサインを出したのでしょうか?それは、米側から、有事に米韓の軍事作戦を遂行する際の指揮権が、現行の態勢では韓国軍の作戦も含めた「米韓連合作戦」を遂行する際の作戦の統一指揮権は米軍司令官にあることになっており、韓国の長年の悲願として、この作戦の指揮権を取り戻したいのです。といっても、本来韓国は米韓の連合作戦の指揮を韓国軍司令官に統一指揮させたいかもしれませんが、米軍の作戦の指揮を執らせるようなことは米国が許しません。結局は韓国軍の指揮権を取り戻すのが関の山ってことです。一見当たり前のようで、あたりまえでない形になっているのです。これは、朝鮮戦争の際に、北朝鮮に奇襲を受けてあれよあれよの間に北朝鮮軍に攻め込まれ、韓国軍は敗走に次ぐ敗走のあげく釜山周辺のみに韓国そのものが追い落とされそうになって、それを米軍が仁川逆上陸作戦で大逆襲をしたことで、形勢を挽回した経緯があります。朝鮮戦争では、韓国軍の作戦を含め、作戦指揮を国連軍として米軍が全軍の指揮を執った流れから、現在の有事の韓国軍の連合作戦の指揮さえ、現行では米軍司令官が執ることになっているのです。(ちなみに、日本の場合は「日米共同訓練」という名称が示すように、「共同」ですから自衛隊の指揮権は日本が、米軍の指揮権は米軍が、というパラになっており、両軍の作戦の統一運用のため、「共同調整(Bilateral Coordination)」を両軍の指揮官・幕僚が密接にやります。ヘタしたら韓国のように米軍の指揮下で動く自衛隊ということもあり得たのですから、自衛隊創設当時の先人の知恵で、よくぞ共同作戦にしてくれました。有り難いことです。よく、「結局、米軍に仕切られてんじゃないの?」と言われますが、毎年実施している日米共同訓練ヤマサクラ演習にて、おそらくは世界一と言っていいほどの「共同調整」を毎年ミリミリと実施しており、米軍からも高い評価を受けています。・・・おっと余談でした。)韓国は、その指揮権を取り戻したいのですが、米軍から「そうしたいなら、米韓合同訓練で実績と信頼を積み上げないとね」と言われています。だから、文在寅大統領にしてみれば、米韓合同訓練は南北関係改善にとって邪魔な存在なので、本当はやりたくないのですが、他方で作戦指揮権問題を取り戻すために、「あと数年は毎年実施しなければ」と考えたのだと推察します。

あれ?既視感があると思ったら、いつものパターン
 私見ながら、「わぁ、大変なことになった・・・」、ではなく、いつかと同じ話ですよね。「いつか」というより、毎回こうでしょ。「南北融和か」なんてちょっとした関係改善の兆候が見えた後には必ず「結局決裂・対立へ回帰」にこれまでもなっていましたよね。いつものパターンですよ。前回のブログでも言及したように、であるがゆえに、米国は初めから冷めているのです。一喜一憂はしていません。想定内の話ですから。

 米国が冷めた目で見ているのには、もう一つ読みがあって、北朝鮮の今回の「対立路線回帰」は北朝鮮の国内向けの要素が見え隠れしている点です。北朝鮮は、現在本当に厳しい経済状況にあります。今懸念されている北朝鮮の次の一手ですが、そうたいしたことはできないのではないか、と推察されます。せいぜい1年くらい前にやった潜水艦発射弾道ミサイルの実験くらいじゃないですか。確かに戦略核兵器ですから、日本も含め色めき立つ話です。しかし、北朝鮮がそれ以上の手、例えば韓国に対する実力行使をするような余裕は、もはやないのではないか、と推察されます。

(了)

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2021/08/07

核開発を続ける北鮮、関係改善に一途な韓国、様子見の米国

NKs new guided missile、Mar26 2021
韓国ソウルの水西駅で北朝鮮の新型ミサイル発射のニュースを見る人々2021年3月26日)(FILE - People watch a TV showing an image of North Korea's new guided missile during a news program at the Suseo Railway Station in Seoul, South Korea, March 26, 2021.)(2021年8月6日付VOA記事「North Korea Developing Nuclear, Missile Programs in 2021, UN Says」より)

 最新の北朝鮮情報によれば、経済が過去最悪の経済困窮に喘ぐ中、それでも北朝鮮は核ミサイル開発プログラムを追求中の模様です。そんな中、これまで何度も北朝鮮に煮え湯を飲まされてきたはずの韓国は、一途なまでに北朝鮮との関係改善を進めたいと企図し、つい1年前に北朝鮮が自ら破壊した南北ホットラインの通信回線を復旧し、南北対話を復活を目指しています。これに対し、米国のバイデン新体制での対北朝鮮政策は、何を考えているのか分からない北朝鮮と関係改善に一途な韓国を冷ややかに見ながら、様子見を続けています。

最新北鮮情報:北鮮は経済に喘ぐ状況下でも本年度も核開発を継続の模様
 2021年8月6日付VOA記事「North Korea Developing Nuclear, Missile Programs in 2021, UN Says」によれば、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会への独立した制裁モニターのパネルによる報告が明らかにしたところでは、「2021年の上半期の間、北朝鮮は、国際社会からの核開発に対する制裁と悪化する経済的苦境にもかかわらず、核弾道ミサイルプログラムの維持と開発を継続中」であり、「海外でこれらのプログラムのための材料と技術を探し続けた」とのことでした。
 同制裁モニターによれば、北朝鮮が核開発プログラムへ資金をつぎ込むことを遮断するよう、国際社会が様々な制裁対象で経済制裁を強めたため、北朝鮮に与えた圧力は甚大だったことを確認しています。しかしながら、その一方で、それでも北朝鮮は開発を諦めず、北朝鮮の学者や大学と海外の科学機関との協力による大量破壊兵器技術の入手を継続するとともに、海外への北朝鮮市民の出稼ぎ部隊やグローバルなサイバー活動による資金の盗用や獲得により、核ミサイル開発プログラムを継続している、と結論付けています。

 北朝鮮の経済が危機的状況であることは、これまでも様々なメディアが指摘してきたことです。特に、核開発に対する国際社会からの経済制裁とCOVID-19の影響による海外との人やモノの流通の遮断の継続により、過去最低の経済状況の中、昨年来の飢饉で食料が底をつきつつある状況であることが伝えられてきました。(参照:2021年7月5日付VOA記事「North Korea Faces Worsening Economic Woes amid COVID Lockdown」)
 こうした経済的困窮の中で、北朝鮮の最高指導者金正恩自身が、経済苦境とCOVID-19 対策(北朝鮮にはコロナ患者がゼロということになっているので)の行き詰まりに激怒し、7月に北朝鮮指導部の大きな人事刷新があり、これまで側近的ポストに置いていた軍指導者を文民に挿げ替えており、最優先事項は軍事政策から経済対策に舵取りをシフトしたのではないか、との西側アナリストの分析がありました。(参照:2021年7月8日付VOA記事「North Korea Reshuffle Signals Military Policy Not Top Priority Now, Analysts Say」)

 私見ながら、上記を総合すると、経済的苦境の中で当然ながら経済政策にも力を注いでいるのでしょうが、それでも北朝鮮が北朝鮮としての主体性を維持して国家運営を続ける基盤として、やはり「核」というカードは捨てられず、引き続きこの苦境の打開のための交渉の切り札として、継続的に開発に努力を続けているということなのでしょう。

韓国は何度も北朝鮮に冷遇されようとも一途に関係改善に努力
 韓国文在寅政権は、これまで何度も北朝鮮には抜け駆けの核ミサイル発射実験やら外交交渉における罵倒やら、何度も何度も煮え湯を飲まされ続けているにも拘らず、一途なまでに南北朝鮮の関係改善に努めてきましたし、今回も改善を進めています。
 毎年夏に行われる米韓軍事演習に先立ち、2021年8月1日に北朝鮮側から「米韓軍事演習を強行するなら、南北の相互信頼を回復する努力を深刻に損なうだろう」という警告がありました。これに対し、韓国は軍事演習を中止するつもりはなく、その一方で、昨年北朝鮮に破壊された南北ホットラインを復旧して、南北関係改善の出発点とし、南北関係改善交渉を再開する、との方針を明らかにしました。
 南北朝鮮は、7月末に南北ホットライン(電話とファックスの回線)を13ケ月ぶりに復旧しました。南北ホットラインは、これまでも再開しては決裂または理由もなく突然に、北朝鮮側に破壊されてきました。そして今回再開されたわけです。南北朝鮮情勢に詳しい一部のアナリストによれば、北朝鮮は、停滞した米朝首脳外交が再開することを企図して、米国から譲歩を得るために韓国をうまく使うことを単に目的としている、このホットラインの件も今回の南北関係改善交渉の再開も同様、と指摘されています。(参照:2021年8月2日付VOA記事「South Korea Seeks to Improve Ties Despite North’s Threat」)

米国は様子見
 2021年8月3日、米国務長官のアンソニー・ブリンケンと韓国の鄭義溶外相は、対北朝鮮政策の取り組みについて協議しましたが、この米韓外交トップの会談後の米韓双方の声明の違いが見られます。
 韓国外務省は、「長官と大臣は、朝鮮半島の完全な非核化と永続的な平和の確立という目標に向けて実質的な進展を遂げるために、協調的な外交努力を継続することに合意した。」と声明しました。字ずら通り受け止めれば、米韓とも歩調を合わせて南北関係改善や対北朝鮮交渉を展開していくように理解できます。他方、米国務省は「ブリンケン米国務長官は、北朝鮮と韓国の間の対話と関与に対する米国の支持を確認した。」と声明しました。米側は、単に「南北間の対話と関与に対し、米国は支持する」と言っているだけです。要するに、米国からすれば「南北関係改善の交渉が再開することについて、支持する」と第三者的にコメントしただけなのです。要するに、南北交渉再開についての「静観/様子見」を表明しただけでした。

 私見ながら、韓国の南北関係改善に対する一途なまでの執着を見ていると、南北に別れようが「朝鮮民族」の血の濃さゆえの、血を分けた兄弟・同胞の一体化への思いの強さを感じます。何度煮え湯を飲まされ、裏切られ、罵詈雑言を浴びせられようとも、それでも血を分けた兄弟への一途なまでの愛情があり、何とか関係改善することにこだわり続ける、そんな感じがします。文在寅大統領が特にその傾向が強いようですが、これは文大統領の個人的な考えにとどまらず、広く韓国人一般に共通の心情ではないでしょうか。

(了)

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