自衛隊アフガン退避作戦の行方:イスラマバードで状況好転待って待機、時間切れか

飛行機に向かうカブール空港の避難民(FILE - Families walk towards their flight during evacuations at Hamid Karzai International Airport, in Kabul, Afghanistan, Aug. 24, 2021, in this photo provided by the U.S. Marine Corps. (Sgt. Samuel Ruiz/U.S. Marine Corps via AP)(2021年8月27日付VOA記事「UN Preparing for Exodus of Half-Million Afghan Refugees」より)
あくまで2021年8月29日(日)1800の認識で書いています。今後、状況が動き、メディアの報道で新たな情報が入るでしょうが、とりあえず今知り得る情報での、自衛隊アフガン退避作戦の行方について考察したいと思います。
自衛隊アフガン退避作戦の行方:イスラマバードで状況好転待って待機、時間切れか
結論から言うと、タイトル通り、「イスラマバードで状況好転待って待機、時間切れ」となるのではないか、と推察します。アフガニスタンに所在する在外邦人等の同国退避のための自衛隊の在外邦人等輸送の活動は、現状の通り、当面の輸送活動が困難な状況が好転するのを待って、隣国パキスタンのイスラマバードの空港で待機し、今後そのまま「8月末まで」とされていた米軍はじめ多国籍軍部隊の撤退期限を過ぎて、状況の好転どころかテロが頻発し更なる状況悪化となり、それでも9月初めまで待機を続け、国内にももはや活動継続が困難であることが明白に理解された頃、政府が「活動終了」を発表する、といういわゆる「時間切れ」で幕切れとなる、・・・と推察します。
勝負はカブール空港の空港機能が維持されるか否か
活動継続が困難になる、ということについて補足いたします。これまでの各国の退避作戦の前提は、米軍主導の多国籍軍がカブール空港内のセキュリティと空港機能の維持を徹底していたので、とりあえず空港まで在外邦人等がたどり着けば、そこから先の航空機による退避が可能でした。しかし、米大統領自身が声明しているように、米軍が8月一杯で撤退するという場合、米軍主導の空港のセキュリティーや空港機能の維持・管理はもはや終了します。タリバン側も米軍はじめ各国軍に全権限の移管を求めています。米軍はじめ多国籍軍の撤退後の態勢、特に空港機能の維持については現在協議中のようですが、難航している模様です。事実上、カブール空港はタリバンの手に渡るので、もはやセキュリティーも空港機能もこれまでのように「通常」の機能は困難になるでしょう。それを前提とすれば、8月31日2400(或いは、それ以前に米軍の展開部隊の帰国のための活動終了の時点で、その空白をタリバン部隊の浸食によって事実上逐次に機能不全化という経過かもしれません)で権限移譲をするでしょうから、もはやそれ以降は空港機能、すなわち搭乗者塔乗のための各種手続き・チェック、搭乗者の航空機内への誘導、搭乗者の荷物の搭載、航空機の誘導、航空管制、等々の欠くべからざる機能は、タリバン兵の空港内への浸食に伴って失われます。ここで、「外国のもの」を憎悪する統制の効かないタリバン兵が空港施設内にある空港各種機能に必要な各種資器材の破壊や略奪をし始めたら、・・・後になってタリバン首脳陣が空港の重要性を再認識して復旧をしようと努力しとしても、なんとかまともな空港機能を取り戻すまでは、少なくとも数週間かかるのではないでしょうか。空港機能は最低限の話で、空港の外はもっともっと酷い状況です。それを読んでいたがゆえに、米軍以外の各国も、8月中旬からNEO(非戦闘員の退避作戦)を実施していたし、8月末に向けNEOの終了を既に声明したわけです。
従って、8月末の米軍撤退をもって、もはや退避作戦は継続困難にならざるを得ないのです。
ちょっとだけ違う幕切れとして考えられるのは、「岸防衛大臣が早めに国民に説明すべきと考えて、8月31日もしくはそれ以前に(本日8月29日夕ですが、今日中にも)、米軍の活動終了、撤退に伴い、空港周辺のテロ頻発等に伴い、事実上活動継続が困難ため、自衛隊の在外邦人等輸送の活動を終了することを発表する」というパターン。「27日の活動が最後となろう」というようなことを既に会見で話されているので、官僚の筋書き通りではなく、ご本人のお考えで早めにお話しされるかもしれません。立派なことですよ。官僚の筋書きは、法的には間違ってないかもしれない代わりに、政治的インパクトや国民受けとしてはとにかく遅いし間違っていますから。「活動終了」の発表の後、どっちみち国民やマスコミの作戦への酷評は避けられないのだから、正直ベースで悪い話ほど早めに米軍がリリースした方が、リスクマネージメントとして利口です。
望ましいシナリオ
願望も入っていますが、望ましいシナリオとして考えられるのは、「『8月末の米軍撤退』後にも空港機能が維持される」というシナリオです。というのも、タリバンも昔と違って何にでも「外国のものを憎悪する『攘夷』」思想を改めて、少なくとも外国とも話をする気のある首脳陣は、外交なり国際協調なりを考慮して、柔軟な新思考を持っており、空港機能の重要性を認識し、空港機能の維持を模索している模様です。2021年8月28日付AFP記事「アフガン空港、米軍撤退後の運営主体めぐり協議混迷」によれば、カブール空港機能の維持・運営に関し、タリバンがカブールでアラブ系の企業やトルコ政府関係者(軍関係者?)が参加した会議を実施しており、トルコのエルドアン大統領の発言によれば、「タリバンは空港のセキュリティーの権限を握り、トルコに対して物流部門の機能を委託したい意向」とのこと。この情報が真実であることを願います。タリバンが、自前ではできない空港機能の維持管理について、アラブ系企業やトルコ等の周辺関係国に協力を求め、事前に役割分担を求め、デマーケーションを調整し、実際にそのデマケ通りに整斉円滑な権限移譲ができるならうれしい限りです。そうなれば、米軍はじめ各国軍部隊の展開部隊の引き上げの際に、その場で引き継ぐタリバン部隊やアラブ系の民間業者や物流を預かるトルコの機関(どうせなら実力部隊であるトルコ軍が望ましい)等がしっかりと権限移譲の手続きをとり、空港機能がしっかり維持されて引き継がれることが可能になります。・・・・いやぁー、しかしそれは難しい。タリバンは一般的な軍隊と違って、民兵の集まりなので、指揮命令系統に従った部隊行動は全く得意ではないので、「命令・指示の徹底」という軍隊としての「当たり前」は通用しないと推察します。仮に、事前の話し合いができていたとしても、現場では整斉円滑な権限移譲とはかけ離れた、統制の効かないイケイケのタリバン兵の抜け駆け的な暴走がありそうです。
・・・しかし、もし、空港機能が米軍撤退後も維持できるのであれば、自衛隊の退避作戦に「イスラマバードでの待機」に「状況好転」の可能性も出てきます。米軍等の撤退後、完全に(一応)アフガニスタンを掌握したタリバンが、「タリバン政権は、各国のアフガニスタンへの大使館機能を引き続き維持することを要望する。各国の大使館要員や機能の安全は責任をもって確保する。」と宣言し、残った要員の国外退避に一応の理解を表明するようなことも考えられます。その場合、日本大使館や在外邦人等輸送活動の担当職員、自衛隊員などがタリバン政権側と事前の調整をして了解を得て、在アフガン邦人やその協力者でアフガン出国を願うアフガン人(タリバンが出国を了解した方々のみですが)が、空港周辺の様々なタリバン検問を通って空港へ到着し、手続きを経て自衛隊機で出国する・・・という法律通りの在外邦人等輸送ができる、という運びです。しかし、この話のようにうまくはいかないでしょうね。 しかし、いずれにせよ、こうしたことが可能な場合は、8月末から9月初旬にかけて、希望を失わず、タリバン側との調整系統を維持して水面下の調整を、現在やっていることと思います。現地の大使館では、政府から「活動の終了」について命じられるまでは、希望を失わずにあらゆる調整系統を使って、金も使って、下調整をやっていることでしょう。
作戦の推移を見守りましょう
我々、日本国民のできることとしては、現在も作戦遂行中の我が国の在外邦人等輸送の作戦の推移を見守りましょう。これしかないですね。
韓国が「ミラクル」作戦と称して退避作戦を敢行・成功させたそうですね。立派なことです。それを韓国メディアが、日本の退避作戦がうまく行っていないことを鬼の首を取ったように自国の作戦と比較して喧伝しているらしいですね。ここで、嫌韓な方々はさぞご立腹とは存じますが、まぁ、いいじゃないですか。実際、韓国の作戦成功は大したもんですよ。空港までの移動にバスをチャーターし(バスのチャーターでも各国の取り合いだったようですが)、タリバン検問に何度も止められ、10数時間もの拘束を受け、それでもやっとのこと約370名もの在アフガン韓国人、協力者を退避させたわけですから。素直に褒めましょうよ。
それとは別に、現在も作戦遂行中の我が国の在外邦人等輸送の作戦の推移を見守りましょう。現地では、空港周辺で米軍やタリバンを狙って避難民を巻き込んでIS地方組織による自爆テロが起き、すぐさま米軍が犯行組織と思しきアジトに報復ドローン空爆を実施、恐らくISもこれにすぐさま報復するでしょう。現地情勢は益々混迷。そんな中、現地の大使館員や今回の活動関係職員、自衛隊員は固唾をのみつつチャンスを待って、命を削って活動しているのですから。
(了)


にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
スポンサーサイト