fc2ブログ
2021/09/26

アフガンは中国のアキレス腱: 新疆ウイグル泥沼化の可能性

中国とアフガン
2021年7月28日、中国の天津にて、王毅中国外相はタリバンの政治責任者ムラアブドゥルガニバラダールと会談(Chinese State Councilor and Foreign Minister Wang Yi meets with Mullah Abdul Ghani Baradar, political chief of Afghanistan's Taliban, in Tianjin, China, July 28, 2021.)(2021年9月23日付VOA記事「How Uyghurs, Taliban View Each Other — and Why It Matters」より)
 
中国のアフガンへの肩入れ
 2021年8月の米軍撤退、タリバンの破竹の進撃、カブール陥落以来、中国は一貫して政権に返り咲いたタリバンへの支持を表明し、食料、ワクチンをはじめ様々な大型支援を提供し、中国のアフガンへの肩入れが顕著です。タリバンの思惑としては、これまでの超強硬派で強圧的な統治政策を軟化した包括的な政権運営をすること、国際社会が懸念するようなテロの巣窟にはならないこと、という二枚看板の「公約」で国際社会にアピールして、タリバン政権下のアフガニスタンの国際的認知を得ようとしており、その上で国際的な経済的支援を得たい、という腹です。その意味では、中国のタリバンに対する支持・支援は力強い味方・もはやパートナーになっています。中国の思惑としては、これを好機に、米国のアフガン侵攻やアフガン政策、及び今回の米軍撤退について、「アフガンの混乱を見よ!米国は自国の価値観を押し付けた挙句に自国の利益を優先して最後には裏切ってトンズラしてしまう、信頼できないパートナーなのだ。」という厳しい対米批判を展開するとともに、この中央アジア地域から米国を排除した一帯一路政策の一環とした経済回廊を構築して関係強化を図る、というイケイケの攻めの側面があります。他方、中国にとっての守りの側面となる、中国の急所である新疆ウイグル地区からアフガンに亡命した反中グループの動きを覆滅したい、これを絶対に問題化したくない、という思惑があります。 (参照: 2021年9月9日付BBC記事「China offers $31m in emergency aid to Afghanistan」、同年9月23日付 Yahoo Japanニュース「中国・ロシアは味方した…タリバン内閣、国連の舞台に立てるのか」、ほか)
 その中国にとって今後のアキレス腱となる、アフガンとの関係強化の副作用としての新疆ウイグル問題の泥沼化の可能性について検討したいと思います。

スライド1
2021年6月2日、トルコに亡命したウイグル人組織が中国領事館前で中国政府に抗議(Members of Uyghur community living in Turkey stage a protest outside the Chinese consulate in Istanbul, June 2, 2021. They protest agains alleged oppression by the Chinese government to Muslim Uyghurs in far-western Xinjiang province.)(最上段の写真と同じ前掲VOA記事より)

中国がアフガン政策で懸念する新疆ウイグル問題の顕在化
 実は中国は、2021年8月18日から数日に亘り、タジキスタン国内にて中国人民解放軍とタジキスタン軍との共同訓練を実施しています。その主要な演習目的は「アフガンからのテロリストの潜入・侵入の阻止」という対テロ訓練だったのです。というのも、国連の6月及び7月の発表によれば、アフガン国内に中央アジア、ロシアの北コーカサス地域、パキスタン、中国新疆ウイグル地区の人々を含む約8,000名から10,000名の亡命反政府組織の戦闘員が存在する、とのこと。これを踏まえての、アフガンと国境を接した隣国としての事前の備え、と考えられます。

 アフガンから中国にテロリストが侵入?って何?とお思いになるかもしれませんが、そもそもタリバンもつい先日まで反政府組織でしたが、アフガン国内にはタリバン同様、中央アジアや中東の自国内では活動できない反政府組織=テロリスト達の絶好の潜入場所なわけです。勿論、これまでは米軍が駐留していたため、動けずに潜伏している程度でしたが、その漬物石がなくなり、各組織とも活発化が予想されます。そんなテロリストが中国に入って来るなんてことがあるのか?とお思いでしょう。これはアフガンから中国(タジキスタン)への一方通行に非ず、中国からアフガンへの侵入もある訳です。現実問題として、後者とは、新疆ウイグル地区で徹底的な弾圧・迫害・洗脳を受けているイスラム教徒のウイグル人がアフガンへと逃げています。中国にとって、逃げられるだけなら厄介者が出ていく話ですから問題ないのですが、問題は、アフガンで反中テロリストとしての亡命ウイグル人の組織が立ちあがり、訓練を受け、一部はシリアで実戦経験を積んでおり、虎視眈々と中国への帰還を心待ちしていることなのです。
 アフガンでは、ETIM(東トルキスタン・イスラム運動: East Turkistan Islamic Movement)という、亡命ウイグル人を主体とした反中武装組織がアフガンで訓練を受け、活動中です。このETIMは、本家のアフガンのタリバンよりもむしろ、より過激なパキスタンのタリバンでTTP(Tehrik-i-Taliban Pakistan)という反政府武装組織があり、このTTPに庇護されています。
 このTTPがクセモノなので、少々補足いたします。前述の国連の7月の発表の詳細部分によれば、アフガンに所在する外国からの戦闘員とは、その8,000~10,000名のうちの6,000人~6,500人はパキスタン出身と言われ、その武装組織の大半はこのTTPと連携している、と指摘されています。要するに、TTPはパキスタンとアフガンの国境地帯に潜伏し、両国を比較的自由に行ったり来たりの活動、潜伏、支援の獲得等をしています。TTPはパキスタン政府軍と抗争しながらも、実はパキスタン政府も黙認しつつ、たまにこうなる前のアフガンのタリバン支援や対米・対インドを始め対外的な鉄砲玉として上手く使っているフシがあります。要するに、このTTPがアフガンにおける外人テロリスト達のパトロンだったり、一宿一飯の避難場所や訓練場所や実戦経験の場を提供する親玉組織なわけです。
 中国は、ETIMを新疆ウイグル地区における「最も危険で過激なテロ集団」と位置付けて、徹底的に警戒しています。中国政府が恐れているのは、新疆ウイグル自治区のウイグル人が国外に逃げたのち、ETIMの戦闘員となり、反中テロリストとして再入国し、新疆ウイグルの若者たちをリクルートし、あちこちで反政府テロを起こすような事態です。そして、新疆ウイグルでのイスラム教徒の同胞がこんな惨状にある、と国際社会のイスラム同胞にに訴え、中東をはじめイスラム教の諸国から国際的に糾弾される・・・、そんな事態になったら最悪です。ゆえに、新疆ウイグル自治区のウイグル人を収容・洗脳施設に監禁して再教育し、このETIMのような組織のリクルートに乗らない中国人化を図っているわけです。また、中国はアフガン国境に他国国境以上の警備体制をとっています。また、アフガンのタリバン政権に対して、中国にとって脅威となるETIMの取り締まりや新疆ウイグルからの亡命者の出入の阻止などを要求しています。
(参照: 2021年9月20日付VOA記事「Regional Extremists ‘Energized’ by Taliban’s Takeover Could Pose Threat to Pakistan, China Interests, Expert Says」、同年9月23日付VOA記事「How Uyghurs, Taliban View Each Other — and Why It Matters」、ほか)

 注目すべき事件がありました。8月に、中国とパキスタンとの一帯一路政策の一環である「中国パキスタン経済回廊(CPEC)プロジェクト」のパキスタン北部のダム建設計画で、現場に向かうバスへの自爆テロ攻撃があり、中国人技術者9名を含む計13名人が死亡するテロが起きました。パキスタン当局は、「TTPの犯行」と指摘しました。TTPが狙ったのは、パキスタン政府への一撃として、中国との経済振興の旗艦プロジェクトです。TTPにとって、今や戦う相手として地域の主要な敵は、米国なきあと中国なのです。中国にとっては全く迷惑な話だと思いますが、この地域に影響力を持とうとし、政権を取っている政府に肩入れする様々な政治・経済的な支援というものは、反政府組織にとっては「倒すべき敵」に違いありません。・・・そして、全くの私見ながら、私はこのTTPのテロの陰にETIMも加わっているのではないか、と推察しております。さらに言えば、米国のCIAが巧妙に関わっているのではないか、と見ています。穿った見方で恐縮ですが、私見ながら米国のCIAがバックアップしているものと推察します。これまでは極めて水面下でETIMを支援していたと思いますが、米軍完全撤退後のタリバン下のアフガンやそもそもユルユルのパキスタンにあっては、米軍を支援する活動ではなく、親タリバンのイスラム聖戦思考の組織であるTTPやETIMに対する支援ですから、 CIAも逆説的に活動しやすくなったのではないかと思います。当然CIAだとは名乗らず、TTPやETIMの心情的支援者の一組織として軍資金や情報の提供をしている体での巧妙・狡猾な工作だと思いますが・・・。
 上記と関連して、現在タリバンは中国に対し、推定1兆ドルから3兆ドル相当の鉱物採掘プロジェクトを立ち上げを要望しているそうです。このプロジェクトに中国が相当の経費をかけて中国資本の技術者も大挙して関わるとすれば、ETIMにとって格好の目標です。まず、中国国内でのテロは難しかろうが、アフガン国内での中国の影響力行使を攻撃目標にすることは非常に容易です。中国政府はタリバンに徹底的なセキュリティを求めるでしょうが、もともとタリバンは攻めの武装組織で、得意技は百姓一揆的な無手勝流の各自の勝手気ままな武力行使ですから、命令・指示に基づく一糸乱れぬ部隊行動や抜け・漏れのない警戒行動、なんて不得意です。テロリストから見れば隙だらけのユルユル警備。ETIMは神出鬼没の対中目標のテロを起こしては国際社会に新疆ウイグル地区の中国政府のウイグル人に対する弾圧の惨状をアピールできるわけです。中国国内に侵入したETIMと呼応して中国国内でもテロを起こすことも十分考えられます。
 ・・・中国にとっては、古くは英国が、80年代にソ連が、そしてこの20年米国がハマっていた泥沼に、今度は中国自身が足を取られることになるかもしれません。

 (了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング

スポンサーサイト



2021/09/18

北朝鮮の新型変則軌道ミサイルは迎撃困難?:やれることはある

2021年9月15日新型弾道ミサイル
2021年9月15日北朝鮮の新型弾道ミサイル発射(2021年9月16日付NHKテレビ「北朝鮮国営テレビ 列車から発射したミサイルの映像公開」より)

北朝鮮の新型変則軌道ミサイルは迎撃困難?!
 2021年9月15日、北朝鮮がまた短距離弾道ミサイルを発射し、「100キロ未満の低い高度を、変則的な軌道でおよそ750キロ飛しょうし、(我が国の)排他的経済水域の内側の日本海に落下」(NHK報道)したことを、同日防衛省が発表しました。しかも、今回の弾道ミサイルでセンセーショナルに報道があったのは、今回の北朝鮮の新型弾道ミサイルを24時間監視している我が国及び韓国のレーダーが正確に捉えられなかったこと、特に弾道ミサイルながら比較的低空を滑空する変則軌道をとるため、この新型ミサイルに対し我が国の現有弾道ミサイル防衛装備では対抗できない、との報道がなされ、注目を集めています。
(参照:2021年9月16日付NHK「北朝鮮 弾道ミサイル その後の分析でEEZ内側に落下と推定」ほか各紙)

私見ながら、対抗策がないわけではない
 ほとんどのマスコミが、今回の北朝鮮の新型弾道ミサイルについて、判で押したように「迎撃困難」とか「対抗策なし」と喧伝していますが、決して舐めてはいけませんが、無用の恐怖心を煽るのも間違いです。私見ながら、少々異論があります。

①まずこのタイプのミサイルは2年前から発射実験している
 まず、「新型」と称されていますが、これは元々ロシアが開発し20年近くあちこちに武器輸出しているイスカンデル型ミサイルで、2年前から北朝鮮は射ってますよ。2019年7月26日付 日経新聞「迎撃困難、ロシア製模倣か 北朝鮮の新型ミサイル 在日米軍も射程に、韓国軍が分析」にもあるように、我が国内でも報道されています。
 ロシアが開発したイスカンデル型ミサイルは、高度50キロ、射程500キロほどですが、輸出用のは280キロ程度しか届かないようになっていました。売りは、敵国の防空システムをかいくぐれるよう、弾道ミサイルの特性である「放物線」軌道を部分的に変速軌道にし、狙われやすい段階では敵の対空ミサイルを誤爆させるデコイを撃ったり、滑空して飛距離を伸ばしたあげくに慣性誘導に加え衛星誘導や光学誘導も駆使して目標に命中させるというシロモノです。ロシアは国内外のロシア軍に配備のほか、グルジアやシリアで実戦運用し、ナゴルノカラバフ戦争ではアルメニアが使用するなど、実戦経験も豊富です。北朝鮮は、この輸出型のプロトタイプに、北朝鮮なりに改良を施しては実験をして実用化・実戦配備化を目指して研究開発したのでしょうね。   
2年前の2019年7月の発射の際が、高度50キロ射程600キロでしたから、高度を上げて100キロ以下で滑空させ射程を伸ばして750キロに。戦術弾道弾ミサイルながら、750キロ射程があるので戦域レベルのカテゴリーと言えましょう。元のイスカンデル型ミサイルは高さ7.2m、直径0.9mくらいなので、ニュース映像の発射シーンを見る限り、通常の列車用の電柱が5m位ですから高さ10mx直径1m強くらいに大型化しているように見えます。装輪車両発射から列車発射に改良していますね。敵ながらあっぱれなミサイル開発ですよ。

②しかし、ナゴルノカラバフの実戦成果では「使えない」ミサイルだった
 つい昨年の話、ナゴルノカラバフ戦争でアルメニアがアゼルバイジャンに対して実戦でこの型のミサイルを使用していますが、そもそも不発射やら、発射できても迎撃されるやら、到達しても目標を外すは弾頭が不発するは弾頭爆発の威力がないは、アルメニアの大統領自身が酷評した、という逸話があります。当然ロシアは猛反発。「そもそもアルメニアはイスカンデルミサイルを発射していない」と主張していますが、実際にミサイル発射のシーンがSNSで発信されて残っているし、アゼルバイジャン国内にそのミサイルの弾頭の残骸が証拠として残っているし、・・・。実際には役に立たなかった模様です。(ちなみに、アゼルバイジャンに落ちたそのミサイルの残骸は、必ずや西側、特に米軍の手中に入り徹底的に分析されているものと思われます。)
 ただ、これはロシア軍用純正ミサイルではなく、量産輸出用の方ですから品質管理が悪いバッタ品をロシアがアルメニアに売りつけた、という話かもしれませんが…。

 この話をもって、この型のミサイルをプロトタイプにして改良した北朝鮮の今回の新型ミサイルが「使えない」ということにはなりません。しかし、そもそも「弾道ミサイル」というものは、、発射前後のロケット噴射エンジンの推進力で高高度まで上がり、放物線を描いて目標に落ちて行き(目標に当てるために少々の終末誘導はするものの)、長射程の目標に弾頭が命中するように作ったものです。それを迎撃されないように、本来の放物線的な弾道軌道を外れて変速軌道にしたり、デコイを撃ったり、と改良したがゆえに、いろいろ無理がある装備体系になっています。北朝鮮は、今回の実験で目標に命中した、と喧伝していますが、アルメニアの悲劇のように、実戦運用において所望の精度が発揮できるかは、全くもって未知数なわけです。
(参照: 2020年12月8日付Missile Threat「The Air and Missile War in Nagorno-Karabakh: Lessons for the Future of Strike and Defense」)

③イスカンデル型ミサイルの迎撃は、難しいが対抗策がないわけではない
 そして、前述のアルメニアの話で私が注目したのは、アゼルバイジャン軍のイスラエル製の迎撃ミサイルシステムにレーダーで捕捉され、その迎撃ミサイルで撃ち落とされていることです。あれ?迎撃困難じゃなかったの?
 これは、そもそもロシアと友好国であるはずのアルメニアが、敗戦の腹立ちまぎれにこのミサイルが使えなかった話を暴露したため西側諸国の耳目に入った話ですが、そもそも、アルメニアのように量産型輸出用のものではなく本チャンのロシア製イスカンデル型ミサイルもグルジア、クリミア、シリア等でも実戦で使われてきました。そしてそのミサイルの使用による戦果が、戦場を支配するゲームチェンジャーになったか?というとなっていません。戦史において目を引くのは、第2次世界大戦のドイツの電撃戦における主力戦車の戦場の席巻、真珠湾奇襲の際の日本帝国海軍の空母からの艦載機による打撃力、等々のように、その当時の戦場の常識をぶち破るゲームチェンジャーとなる武器が出現し、戦略地図や装備体系に激震が起きるものです。そういう意味では、迎撃困難なはずのイスカンデルは装備化・実戦運用されてからはや20年近くですが、全くゲームチェンジャーにはなっていません。例えば、シリアにロシア軍がイスカンデル型ミサイルを装備して駐留・加勢していますが、この存在がシリアの内戦状態を一変させるような戦果を出していません。同様に、グルジアやクリミアの紛争でも実戦運用していますが、これまた同様に、この存在がグルジアやクリミヤの戦況を一変させるような戦果を出していません。ミサイル以外の総合戦闘力や外交において紛争自体には勝っています。要するに、このミサイルで敵国主要都市や敵軍の戦力の中枢部を叩けるのであれば叩いているはずで、このミサイルの存在により、敵軍は手も足も出ない状況になったか?なっていないのです。また、ロシアもそうは使っていないのです。要するに、グルジア軍やウクライナ軍(クリミア)の防空システムをかいくぐる無敵のミサイルではないのです。

自衛隊のミサイル防衛
日本の弾道ミサイル防衛の体制(防衛省・自衛隊HP 防衛省の取り組み「ミサイル防衛について」より)

 少々話を整理すると、「全く使えないミサイルだ」と言っているわけではなく、イスカンデル型が迎撃が難しいことは間違いないのです。しかし、決して迎撃不可能なわけではなく、「今自衛隊が装備している防空システムを駆使することで、対抗策はある」ということを言いたいのです。
 自衛隊の弾道ミサイル防衛は、航空自衛隊の警戒管制レーダー、海上自衛隊イージス艦のSM-3ミサイル、及び航空自衛隊のペトリオットミサイル(PAC-3 )です。(ここに陸上自衛隊のイージスアショアが導入される計画がありましたが中止されました。)
 レーダーで捕捉できないか?: もともと、弾道弾ミサイル防衛において、北朝鮮から発射された時点からウォッチされその軌道が予測され継続的にレーダーが監視しているわけですが、軌道が変則的なため、これまでの変速軌道でないものを前提としていた予測軌道を取らないために捕捉しきれなかったのかも知れません。弾道軌道の中のどのあたりの段階で変速軌道になるのか、滑空がどう違ってくるのか、終末誘導がどうなっているのか、この辺のデーターを揃えて監視態勢をとれば、「補足できなくはない」といえます。
 SM-3やPAC-3で迎撃できないのか?: できます。イスカンデル型は、高度が50キロなので、「SM-3は最低迎撃高度が70kmなのでイスカンデル型の迎撃は困難」と目されていましたが、今回の新型は射程を伸ばす改良をしたがゆえに高度は100キロに。よって捕捉が可能になりました。また、PAC-3は、射程高度は防衛秘密なので明確にできませんが、捕捉は十分に可能です。「捕捉」とは、空自のレーダーが捉えたミサイルの軌道の情報からSM-3やPAC-3の固有のレーダーが直接ミサイルを捉え、その捉えたミサイルの軌道にミサイルが命中するように誘導・迎撃する、その一連の行動を「捕捉」という言葉を使いました。要するに、迎撃可能なのです。勿論、確率論の問題ですよ。100発100中で迎撃できるわけじゃありません。外したら我が国国土に落ちるわけですから大変なことです。しかし、逆説的に「迎撃不可能」とか「対抗策なし」というわけではないのです。

 勿論、この新型ミサイルが迎撃が難しいことは間違いないのです。更に防空を強化するために「あれが欲しい」「これがあったら」は当然あります。それは、今後の防衛省の検討課題でしょう。
 しかし、もう一度、声を大にして言いたいのは、これをもって北朝鮮のミサイル能力に対して恐怖心を煽るのはあるべき姿ではなく、「今ある手段で対抗策がないわけじゃない」ということです。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
2021/09/12

北朝鮮 異例づくめのパレード敢行: その虚像と実像

金正恩総書記
スリムになって血色の良い金正恩総書記(2021年9月9日付VOA記事「North Korea Shows Off Horses, Dogs but No Missiles at Anniversary Parade」より)

2021年9月9日未明、北朝鮮は国家をあげて朝鮮人民民主共和国の創立73周年を祝う軍事パレード「民間・安全武力閲兵式」を金日成広場で開催しました。

異例づくめのいつもと違うパレード
 このパレードがいろいろ異例だったことが話題になっています。この1年だけでもこうした大パレードを3回も深夜(未明)に実施していますが、これまでのパレードではこれ見よがしに北朝鮮正規軍の特殊部隊の徒歩行進、戦車、装甲車、火砲、核ミサイル発射車両、等々を走らせ、国民と国際社会に北朝鮮の軍事的脅威を見せつける威圧的なものでした。今回のパレードは、従来と打って変って、馬に乗った部隊、犬の部隊、サイドカーをつけたオートバイ隊、ガスマスクをつけたオレンジ色の防護服部隊、消防車、トラクターが牽引する多連装ロケット、等々といったパレードでした。要するに、正規の軍隊ではなく、「労農赤衛隊」といういわば予備役や消防等を使った民間防衛組織オンリーのパレードだったのです。バイデン大統領になってからの米朝交渉の再開が期待される中、焦点となる核ミサイル系の参加はありませんでした。(参照:2021年9月9日付VOA記事「North Korea Shows Off Horses, Dogs but No Missiles at Anniversary Parade」)
騎馬隊
バイク隊
騎馬隊、バイク隊の景況(前掲VOA記事より)

目を引く金正恩総書記の元気な姿
 目を引いたことの2つ目は、金正恩総書記の久々の人前への登場です。しかも、ダイエットしたらしい健康そうな姿で。白っぽいスーツに日焼けした笑顔、確かに以前よりスリムで健康を回復した感じに見えます。以前は、濃紺のパンパンの人民服姿で見た目にもメタボ、内臓疾患っぽいくすんだ笑顔、しかも片足を引きずっていました。また、国家にとって大イベントのはずの金日成誕生祝賀会に姿を見せず、内外から安否が懸念されていたところでした。北朝鮮の官制メディアの朝鮮中央通信は金総書記の久々の元気な姿と減量ぶりに平壌の市民の喜びの評判などまで伝える異例の報道ぶりも海外マスコミの注目を集めました。ちなみに、同メディアは、100枚以上の今回のパレードの写真を掲載して国内世論を鼓舞した模様です。

総参謀長の異例の大抜擢
 更に、1月のパレ―ドで総参謀長朴正天大将の大将昇任のお披露目と晴れ姿をパレードデビューさせましたが、今回のパレードの直前に正規に朝鮮労働党の政治局の常務委員・書記に昇格させるという異例の大抜擢の発表もありました。今回のパレードでは金総書記の右腕としてひな壇入りです。朴大将は現在の金総書記のお気に入りのようで、まるで金総書記同様に、聖なる白頭山で部下将兵を従えて馬に跨った英雄風の姿の写真まで出回っているそうです。朴大将は、2018年に米朝交渉の進展に伴い、それまでの長距離核ミサイル開発から短距離核ミサイル開発に舵を切ったあたりで、それまでの核開発で大活躍した李炳鉄大将に代わって頭角を現したと言われています。
(参照:2021年9月6日付VOA記事「North Korea Promotes General to Ruling Party's Presidium, State Media Says」
スライド1
総参謀長 朴正天大将(前掲VOA記事より)

北朝鮮の思惑
 今回のパレードについて、西側メディアや専門家も北朝鮮の思惑を書きたてています。
まず今回のパレードの民間防衛的な国民大動員という手法から。北朝鮮政府としては、北朝鮮は公には新型コロナ感染者ゼロということになっていますが、世界でも類を見ない徹底的なロックアウトで、事実上の鎖国状況で新型コロナウイルスの水際阻止を2年近く続けている中、「コロナ禍の中でもいざとなればこれだけの軍・民ともの大動員ができるのだぞ!」という国家の姿勢を内外に見せる意図があったと推察されます。国内的にも、国民大動員を契機に、市民の目標をこの大パレードの成功という喫緊の課題に向かせ、国家のあちこちに転がる閉塞感を打破する姿勢を示したかったのではないか、と推察されています。
 また、前回までのパレードで目を引く焦点だった「核ミサイル開発」の新型装備等という色を全く出さなかったことについては、核ミサイル開発が焦点となる米国との交渉の進展に向けた意図的なトーンダウンであろう、という見方をされています。敢えて、米朝交渉を再開する前に「値を吊り上げる」意味で、核ミサイル開発系の新装備をバンバン走らせるという手もあったと思いますが。そうしなかったのは、バイデン新大統領にはまず交渉のテーブルについてもらう作法として、軍事的挑発を避けたのかも知れません。
(参照:2021年9月9日付産経新聞、読売新聞、NHK報道、等)

裏読み的に、実像を探ると・・・
 私見ながら、そうした今回の大パレードから垣間見られる北朝鮮の「今」の実像を考察してみます。
 従来のパレードなら、正規の軍隊による数カ月前からの予行練習に次ぐ予行練習で、一糸乱れぬ軍の精強なパレードを演出していました。軍隊の場合は、数カ月前からパレード本番まで、軍隊にとってはそれが達成すべき任務ですから、徹底的に練成する形になります。他方、今回は国民を動員しているため、昼はそれぞれの仕事や学校でのパレード以外の仕事や勉強に精励しているため、自ずと予行練習の期間も濃密度も反復演練の回数も違ったでしょう。また、パレード参加は17歳~60歳までの開きのある労農赤衛隊という予備役が主体ですから、男女も年齢もいろいろありの混成でした。異例づくめのパレードでしたが、パレードとしての兵士一人ひとりまで身長・体格・歩調、部隊の線、敬礼の腕の角度や目線、等々、部隊の精強さを示す「一糸乱れぬ」バリバリの練度ではなく、玄人目に見れば不揃いが目につき、「市民の部隊行進にしては予行をよくやったんだぁ」という感じ。従来のパレードとは格段の差がありました。 

 なぜ、軍隊でなく民間防衛組織のパレードにしたか?
 前述の西側メディアの推察のように、軍事的挑発を避けて国内の団結・結束を示す形としたのは内外へのPRだ、というのが大方の見方ですが、裏読みすると、そうせざるを得ない状況ではないか?とも考えられます。国内の団結・結束を目標として示し、国民に団結や結束の維持を訴えないとならないくらい、国内的に厳しい状況に追い込まれている状況なのではないか、と。よく指摘される状況として、北朝鮮は昨年に度々風水害に見舞われ、農業は大打撃を受け大飢饉に陥っている、と言われています。9月2日には、金正恩総書記が、党政治局の拡大会議の中で、自然災害、異常気象への対応強化と感染症対策の強化について国家全体として取り組むよう、異例の指示をしています。(参照:2021年9月3日付ロイター「北朝鮮の金総書記、自然災害・コロナ対策の強化指示」)要するに、昨年の自然災害の被害のダメージから立ち直れておらず、今年も風水害のシーズンを迎えて、防災努力を国家全力でやれという状況なわけです。感染症対策についても、公称「感染者ゼロ」ですが、かなり感染症の蔓延が進み、防疫に国家挙げて努力をしなければならない状況ということが考えられます。
 また、北朝鮮の核開発については、IAEAが恒常的に衛星画像等でウォッチしていますが、2018年以来しばらく止まっていた寧辺の核開発施設(原子炉)の稼働が、最近再開されたとの報道がありましたが(参照:2021年8月30日付ロイター「北朝鮮、寧辺の原子炉再稼働のもよう=IAEA報告書」)、これまた裏読みすると、北朝鮮をウォッチしている米国の機関「38North」によれば2018年の風水害でその核開発施設が被害を受け、原子炉を冷却する装置が使用不能になったとのこと。ということは、以来未復旧の状況で、最近やっと復旧し、原子炉を再稼働でき、もって冷却水を排出している状況がIAEAにウォッチされた、という状況が考えられます。それが真相だったのではないでしょうか。
 要するに、北朝鮮は虚像的には強いままですが、その実態はかなり経済が疲弊し、自然災害がそれに拍車をかけて国民生活を打撃しており、当面の国家の目標は自然災害に打ち勝ち、感染症の更なる蔓延を局限して、何とか国民が一致団結・結束して難局に当たろう、という苦しい局面に置かれている、というのが実情ではないでしょうか。
 その意味で、国家国民にとって朗報は、金正恩総書記のダイエット成功・健康の回復ってところではないか、と私見ながら裏読みしています。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
2021/09/04

無念!アフガン退避作戦

82nd Airborne Div, Commanding General
米軍の最終便に全米軍最後に搭乗する第82空挺師団長ダナヒュー少将(U.S. Army Major General Chris Donahue, commander of the 82nd Airborne Division, steps on board a C-17 transport plane as the last U.S. service member to leave Hamid Karzai International Airport in Kabul, Afghanistan August 30, 2021 in a photograph taken using night vision optics. XVIII Airborne Corps/Handout via REUTERS)ロイターより

無念!アフガン退避作戦
 当たらない方が良かったのに、予想通りになってしまいました。
 結局、自衛隊の在外邦人等輸送の作戦は、イスラマバードで待機しつつも時間切れで終了となりました。残念無念。
 現地には、日本の大使館はじめ我が国機関の活動に協力していた現地アフガン人のスタッフ及びその家族など、タリバンからの迫害を恐れて国外退避を希望する500名近い方々を現地に残したまま、となりました。

 各国の退避作戦の状況(後述)を見ると、やはり8月26日のテロ以前に退避を終えているものがほとんどです。前回のブログで言及しましたように、韓国の場合はテロ以前に避難者が空港に到着していたのでセーフだったようです。日本の作戦は、テロの起きた26日にまさに避難者をバスで空港へ輸送中、空港に着く前にテロが起きて、そこからてんやわんやの騒ぎとタリバンの厳戒態勢で空港への移動を断念しています。
 もう1週間、動きが早かったなら・・・。いや、26日以降も27日中ならやり方があったのではないか、などとも思いますが、もはや仕方ないですね。

各国のアフガニスタンからの避難作戦の状況
 2021年8月30日付ロイター「Factbox: Evacuations from Afghanistan by country」に、各国の自国民及びその協力者及び家族(アフガニスタン人)の退避が総括されています。8月30日時点の情報ながらそれ以後の退避作戦は事実上米軍の撤収のみだったので、この情報が各国の退避作戦の成果が整理されたものになっています。米国政府の8月28日(金)の発表では、米国と同盟国はカブール陥落前日の8月14日~28日までの間で計約113,500人を避難した、とのことです。
 これを見ると、やはり26日のテロが起きる前に空港まで避難者が着いていた国はセーフ、間に合わなかったら、あとはもう困難、という分水嶺だと分かります。ちなみに、「27日までの間」と書いてある国も、自国に到着したのが27日等であって、現地発最終便はテロ以前に避難者が空港についていたものがほとんどです。

米国: 8月14日~28日の間、約5,400人の米国市民を避難。(筆者追記:協力アフガン人等も外数で相当数いるはずだが、ロイター記事では言及なし。30日夜に米軍は撤収。)残る米国市民のうち350人の退避を検討中。
英国: 8月14日~28日の間、約15,000人(アフガン人含む)を避難。28日夜に英軍は撤収。
カナダ: 8月26日までの間、約3,700人(アフガン人含む)を避難。
ドイツ: 8月26日までの間、約4,100人以上のアフガン人を含む5,347人を避難。残るドイツ市民約300人、協力アフガン人等約10,000人の退避を検討中。。
フランス: 8月27日までの間、2,600人以上のアフガニスタン人を含む約3,000人を避難。
イタリア: 8月27日までの間、4,890人のアフガン人を含む5,011人を避難。
スウェーデン: 8月27日までの間(現地発最終便は26日?)、約1,100人(アフガン人含む)を避難。
ベルギー: 8月26日までの間(最終便は25日夜)、約1,400人を避難。 
アイルランド: 8月26日までの間、36人のアイルランド市民を避難。残る約60人のアイルランド市民、15人のアフガン人の退避を検討中。
ポーランド: 8月26日までの間、約900人(アフガン人を含む)を避難。
ハンガリー: 8月26日までの間、約540人(アフガン人を含む)を避難。
デンマーク: 8月25日までの間、約1,000人(同盟国人含む、アフガン人に言及なし)を避難。
ウクライナ: 8月28日までの間、約600人(外国人含む、アフガン人含むか言及なし)を避難。
オーストリア: 8月25日までの間、ドイツほかの他国に依頼し89人の自国民を避難。残る2・30人のアフガン人の退避を検討中。
スイス: 8月24日までの間、ドイツと米国に依頼し292人(アフガン人含む)を避難。残る15人の自国市民の避難を検討中。
オランダ: 8月26日までの間、2,500人(アフガン人含む)を避難。
スペイン: 8月27日までの間、1,898人のアフガン人含む約2,000人(欧州連合国人を含む)を避難。
トルコ: 8月27日までの間、1,000人の自国市民を含む少なくとも1,400人(アフガン人を含む)を避難。
カタール: 8月26日までの実績で、ドーハへの4万人以上の避難を支援。今後も支援を継続。
アラブ首長国連邦: 26日木曜までの実績で、約36,500人の難を支援。
インド: 8月27日までの間、565人(アフガン人を含む)を避難。
オーストラリア: 8月27日までの間(最終便は26日)、約4,100人(アフガン人を含む)を避難。残る約3,000人の避難を検討中。
ニュージーランド: 26日までの間(最終便は26日のテロ以前)、276人以上(アフガン人を含む)を避難。

8月26日のISによる自爆テロが分水嶺、28日以降は米軍も完全撤退態勢に
 我が国の作戦は、26日は前述のようにテロで断念。自衛隊機はカブール空港から一旦イスラマバードへ戻って待機し、27日に1名の邦人及び10数名のアフガン人(他国からの依頼で自衛隊機に搭乗したとの情報あり)を自衛隊機で退避でき、これが作戦の最終便となりました。
 やはり結果論ながら、26日の空港周辺でのISの自爆テロがデッドラインになったようですね。今回の日本の退避作戦は、26日に数台のバスで空港に前進していましたが、テロが起きてタリバンの厳重警戒が敷かれ、空港周辺に入れなくなり、やむなく断念。結局、これ以降はタリバンが首都カブール内、特に空港周辺を厳戒態勢にしたため、空港周辺はタリバンの警備、その外郭は空港へ入りたいアフガン人群衆により、バスをチャーターしても容易に入れない状態になったようです。
 後から言っても仕方のないことながら、あと1週間早く活動開始していたら・・・、と今更ながら政府の読みの悪さと動きの遅さとGoを出すのが遅いことが悔やまれます。よしんば、1週間遅れで今回の活動開始の通りとなったとしても、テロは運が悪かったにしても、作戦を開始したからには、テロの後でも27日のワンチャンスを狙ってやれたことがあったのではないか、とも思います。
 カブール陥落以降、事実上タリバンが実効支配しているわけですから、タリバン幹部と折衝をして、タリバンに今後の日本からの具体的な支援を条件に日本の退避作戦への理解と協力をお願いし、タリバン警備車両の先導でバスにタリバン兵も乗せて辻々のタリバンの検問を通過して空港へ入構する・・・という手は追求できたように思います。日本政府としてタリバンを正統な政府として認める云々という話はややこしい問題になるので、人畜無害な緊急食糧支援とか医薬品や医療資機材の緊急援助という話なら後付けでできたはず。アフガンに引き続き残る日本人がいる以上、日本大使館も完全撤収せずに、最低限の要員を残すので、今後ともタリバンと調整する話は絶対にあるわけですから、タリバンとの調整系統を設定するはずです。今回の退避作戦の機会に、大使館の要員がタリバンとしっかり握れば、上記のような話もできたはず。だって、空港のゲートまで行けば、事前の調整により米軍がゲートを開けて中にバスは入れるわけで、バスによる空港入構作戦が成功すれば後は自衛隊機による空輸だけだったはずです。
 恐らくは、大使館の要員は「タリバンを正統な政府として認めていない」とか「国を代表する組織・機関が存在しない状態」だとか頭の堅いアホな理屈で、「折衝をしない」という方針だったのかも知れません。外務省にありがちなことです。表向きはそうでしょうけど、危機における緊急措置ってのは、在外邦人保護の責務のある大使館の領事部門の方々は裏方の仕事として、アフガン人のコネクションを使ってあの手この手の方策をとっていたはずです。ただ、後でそうした話が出た際に、政府として説明ができないようなことを避けたがる大使とか本省の許可のレベルでGoが出ないということはよくある話です。或いはリスクが高くて(タリバンが信頼できない、など)Goがなかなか出ない、とか。いろいろやったと思いますよ。ただ、結局はGoが出なかった、遅かった、ということでしょう。結局は、前回の私のブログで申し上げたように、「時間切れ」終了。もはや、27日までが退避作戦の可能な期間で、28日以降は頼りの米軍が撤収モードに入りました。特に、26日のテロ以降、米軍は他国軍からの退避作戦の支援はほとんど終了し、ガチガチに警備のレベルを上げて、撤収に向けて持ち帰るのは最低限の資機材だけで、その他現地に残置するブラックホークなどのヘリや装甲車両などは操縦や無線機の主要な部分を爆破して無力化して破棄しました。そうなりそうだという情報も耳に入っていたのでしょう、27日の段階で岸防衛大臣が「事実上27日までかも」という退避作戦の期限を明らかにしていましたから。あれは官僚の下書きはなく、大臣がご自分の考えで言うべきと捉えて記者に答えたものだと推察します。お言葉通り、27日が退避作戦のデッドラインだったのでしょう。
いずれにせよ、米軍は表向き「31日まで」としつつ、30日夜に最終便で全ての米軍部隊を撤収しました。31日朝、もぬけの空の状態であることに気づいたタリバンが、逐次に空港内に浸食し、やがて米軍は既に去ったことを理解したわけです。タリバンは31日の夜に祝砲として空港上空に向けて銃や砲を撃って喜んでいましたね。あれって、放物線を描いて実弾がどこかに落ちているんですよ。ケガ人も出たはず。バカな奴らですね。

現地に大使館機能を維持して残留協力者を保護し国外退避を追求する責任あり
 何はともあれ、まだ現地に残る国外退避希望の協力者については、現地に日本大使館を維持して責任をもって国外退避の機会を追求してやるべきでしょう。「カタールに在アフガン日本大使館の機能を移す」なんて官僚らしい安全パイな方策を取ったようですが、一部の機能をカタールに移すのはいいですが、現地のカブールに大使館機能は断固維持すべきです。タリバンだって、在外公館の安全を保障してますよ。怖いでしょうけど、現地に日本人が残っている以上、大使館がここで逃げてはいけない。正規ビザ発給と出国手続きへのアテンドなど、タリバンに国外退避希望者がボコられないように、日本の大使館員等がアテンドして保護してやらないといけません。勿論、タリバン側がこいつはダメと許可してくれない人もいるでしょう。それは仕方がない。それでも、一定数の国外退避希望者は救えるはずです。少なくとも、協力してくれたアフガン人たちの保護をするのは我が国の責務ですよ。

(了)

にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村

国際政治・外交ランキング