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2021/10/30

中国が極超音速実験成功: ゲームチェンジャーの出現に米国が肝冷やす

スライド1
TVインタビューに答えるミリー統合参謀本部議長(2021年10月27日付MIlitary.Com記事「China's Hypersonic Weapons Test ‘Concerning’: Gen. Milley」より)

ミリー統合参謀本部議長の驚愕と焦り
 日本でも報道がありましたが、中国が今年の夏に実施した極超音速飛翔体の実験について、米軍トップのミリー統合参謀本部議長が27日に、米ソ冷戦時代にソ連が世界初の人工衛星に成功し、軍事科学技術の研究開発力に大きく水を開けられたスプートニク・ショックに近い衝撃と言及し、米国が中国の軍事分野での研究開発力の高さに驚愕と焦りを見せたことが話題となりました。
(参照: 2021年10月27日付VOA記事「China Hypersonic Test ‘Has All of Our Attention,’ US General Says」、10月25日付BBC記事「Does China’s hypersonic test signal a new arms race?」)

中国の極超音速飛翔体はゲームチェンジャーか?
 この段落の見出しは、言い換えれば、「ミリー統合参謀本部議長は、何に驚愕し焦りを見せたのか?」ということです。結論から言うと、今回の実験結果から、ロシアも米国も研究開発している「極超音速飛翔体」について、米国が驚愕し焦るようなゲームチェンジャーと言えるレベルの開発に成功した模様です。
 
 ミリー統合参謀本部議長は、TV番組のインタビューに次のように答えました。
 (スプートニク・ショックとの比較について言及しつつ)“I don’t know if it’s quite a Sputnik moment,but I think it’s very close to that,”(「スプートニクの時と同じかどうかは私にはわからないが、極めて近い衝撃だと思う。」)更に言葉を付け加え、“It has all of our attention.”(「現在、全力で注意を傾注しているところだ。」)

 恐らく部下の参謀から細部情報を耳にしていたのでしょうが、極めて正直に驚愕と焦りを言葉と顔で表しました。心底ショックを受けていることが、その言葉と表情でダダ漏れです。この人は先日のアフガン撤退をめぐる大統領批判とも取れる発言でもそうでしたが、思ったことを愚直に、バカ正直に出し過ぎです。米軍トップたるもの、如何なる状況でも、冷静かつ懐深くポーカーフェイスでいて貰いたいものです。いや、ひょっとして愚直を装った大ダヌキかも?

 それはともかく、中国の今回の実験について、それがゲームチェンジャーなのかという点について触れましょう。

 中国の極超音速飛翔体は、この夏(細部時期不明)2回の飛翔実験をし、この飛翔体は大気圏下層を滑空しながら地球をほぼ一周したあげく、目標からは40キロずれて落下したものの、マッハ5、音速の5倍を超える速度で飛翔することに成功した、と言います。先日、北朝鮮が似て非なる中途半端なミサイルを撃ちましたが、軍事科学技術のブレイクスルー度が段違いです。まず速度がマッハ5越え。次いで飛距離が地球1周越え。その高度が大気圏下層で地球の軌道に乗って滑空したこと。これがミサイルであれば、これまでの弾道弾対処が発射から目標への単純な放物線(弾道)の軌道でしたので、レーダーで捉えて直線的に数機の迎撃ミサイルで撃ち落とす弾道弾防衛が成り立ちました。しかし、この速度、飛距離、かつ高度で、地球を周回する弾道を取られると、レーダーの指向が取れない方向から極超音速で目標に弾着してくるので、もはや有効な防御手段はありません。もはやアメ公でも打つ手なし。完全なるゲームチェンジャーです。極超音速分野は、米国もロシアも(実は日本も)しのぎを削っていますが、いやー確かにやられましたわ。これまで中国を舐めていましたがビックリ仰天です。これはミリーさんも腰が抜けるワケです。

ではゲームは変わるのか?
 中国の極超音速飛翔体の実験は、確かに軍事科学技術のブレイクスルーながら、国際軍事情勢が一変するようなことは起きない、と私見ながら推察しています。言葉を変えると、迎撃が困難なミサイルの出現という一分野での戦術的なゲームチェンジャーであることには間違いありませんが、客観的に見て、これをもって世界の戦略地図が一変するような戦略的なゲームチェンジャーには至らない、という趣旨です。
 まず、極超音速の分野では、まず3年前にロシアが先駆しています。あの時も米軍はショックを受けていました。(時の米軍トップは、何食わぬ顔で済まし、ミリーさんのようにはあからさまではなかったですが。) ロシアを追って、米国も中国も研究開発しており、米国も同様な実験をしていましたが、今回のショックぶりを見ると中国に先を越されていることが分かります。
 次いで、大気圏下層を滑空する、というレーダー探知を掻い潜り長距離を飛ぶ弾道についても、実は冷戦時代のソ連が「部分軌道爆撃(FOB)」という装備体系として研究開発していたものの焼き直しです。決して目新しい発明ではありません。しかし、これを極超音速と組み合わせて成功したことがブレイクスルーです。ここに米軍は驚愕し、焦っているのだと思います。
 中国の今回の実験成功は確かに米軍が驚愕するように、軍事科学技術上のブレイクスルーなのですが、それでも戦略的なゲームチェンジャーというまでに至らないと思うのは、おおきく2つの要因があります。
 まず第一に、中国のこの極超音速の大気圏下層を滑空して超長距離まで飛ぶ飛翔体の「使いみち」の問題です。中国のこの極超音速飛翔体の開発目的は、核戦力において米国に質・量とも圧倒的に劣勢な中国の米国に対する脅威観の軽減、米国に対する核戦力における対抗と考えられます。中国の持つ大陸間弾道弾、潜水艦発射弾道弾を始めとする戦略核、戦域核、戦術核の質も量も米国には及ばず、仮に米国に撃ったとしても、米国はABM(弾道弾迎撃ミサイル制限)条約から脱退しておおり、弾道弾防衛が複合多重に組まれていて、「中国の核ミサイルは迎撃されてしまうだろう」という懸念を軽減したいのです。その網をかいくぐるのが極超音速技術。使いみちは核戦力と考えられます。核戦略は、米ソの時代がそうであったように、核戦力の均衡がむしろ安定的な状況となります。北朝鮮は核兵器のスイッチを持たせるには何をするかわからない怖さ(狂気)がありますが、中国は一応の安定性があります。米中相互の核戦力が拮抗するということが、逆説的に相互の抑止が効くわけです。この辺が「核」という超絶大量破壊兵器が故の皮肉ですね。
 第二に、これまた皮肉なことに、米国もこの軍事科学技術のギャップを埋めるべく、必死で研究開発に力を注ぎ、そのうち極超音速をクリアするでしょう。極超音速で大気圏下層の長距離滑空で来られると迎撃ができないので、対抗策は同じく極超音速による攻撃です。ここで、米国が中国と違うのは、米国は極超音速を核戦力に使うというよりは、より使う上で蓋然性が高く、使用する敷居の低い通常兵器として使う気満々なところです。「迎撃が難しいなら、攻撃力で対抗」という話で、少し遅れて欧州や日本も研究開発やライセンス生産等であとに続くでしょう。それだけの話。
 要するに、ある分野でのブレイクスルーがあったとしても、軍事情勢上の大変革が起こるほどの戦略的なゲームチェンジャーはそうは生まれないのです。
 真のゲームチェンジャーたる兵器とは、古くは封建制的な騎士団間の刀剣・騎馬の格闘戦の時代を一変させた、ナポレオンの徴兵国民軍による銃や砲弾による会戦の時代の近代戦化が典型例ですし、我が国が関わったゲームチェンジャーで言えば、大艦巨砲型の洋上海戦の時代を一変した真珠湾攻撃における日本海軍の空母を基盤とした艦載航空機による機動打撃でしょうね。

 ではなぜ、米軍トップのミリー統合参謀本部議長はかくも驚愕を隠せなかったのか?
私見ながら、ミリーさんはバカ正直だから、中国が極超音速でブレイクスルーをしたというニュースに対して、単に中国に軍事科学技術で負けたことが余程ショックだったんじゃないでしょうか。だとしたら、腹がなさ過ぎる。
 むしろ、腹芸でビックリした姿を演じ、中国を喜ばせ、もって中国が益々掛け金積み上げ競争にうつつを抜かし、国力を減耗し、ついにはソ連のように失速するのを待っているのかも。その方が安心できるというものです。

(了)

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2021/10/22

追悼パウエル将軍: 政軍関係のあるべき姿を実行した湾岸戦争の英雄 

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コリン・パウエル大将(1989当時:統合参謀本部議長)(public domain)

追悼:パウエル大将
 父ブッシュ政権時の湾岸戦争時の米軍トップ統合参謀本部議長、息子ブッシュ政権時の国務長官等を歴任したコリン・パウエル大将が、新型コロナ及びその合併症にて2021年10月18日にご逝去されました。享年84歳。 
 
 まさに巨星墜つ。軍でも国務省でも、そのご経歴の中で様々なご苦労をされましたが、いかなる困難な状況でも決して落胆・絶望せず、「更に最悪な事態よりまだマシかな」と客観的に楽観して腹をくくり、部下に打開の方向性を示して権限を与えて仕事を任せ、打開できたら自分は一歩引いて部下の手柄として賞賛する、まさに親分肌の仕事師でした。彼を知る人で彼を悪くいう人は誰もいない、温和で楽観的な軍人でした。 
心からご冥福をお祈りいたします。 
 
政軍関係のあるべき姿を追求する信念の人
 個人的所感ですが、防衛大学校で国際関係を学び、幹部自衛官になった後もそれなりに政治と軍事のあるべき関係を暗中模索していました。その生きた見本を見せてくれたのがパウエル大将でした。 
 元々米国には軍事力を外交の一手段として積極的に使用すべきと捉える、いわゆるネオコン系の政治家や官僚が多い中、パウエル将軍はレーガン政権の大統領補佐官の頃から、軍事力の使用という選択肢に踏み切ることには慎重の上にも慎重を期す姿勢を貫きました。パウエル大将にしてみれば、軍事を身をもって知るがゆえに軍事力の使用に慎重であったわけですが、その慎重さによりReluctant warrior (やる気のない戦士)とまで言われたほどでした。 
 具体的には、レーガン政権当時のワインバーガー国防長官のワインバーガー・ドクトリンを信奉し、後に自身の名を冠してパウエル・ドクトリンを軍事力使用の必要条件としました。「軍事力は最後の手段であるべし」、「軍事力を使用する場合は、その目的と目標を明確にし、その達成とともに終了すべし」、「軍事力使用について国民の理解を得るべし」、「軍事力を使用する際は決然と全力で作戦に当たるべし」など、これらの条件をクリアせずんば軍事オプションを取るべからず、というものでした。軍のトップが政治に対し、自縄自縛のルールを示した意義は示唆に富むものです。 
 更に、軍事作戦の実行に当たっては、政治指導者が細々と口を出す「マイクロマネージメント」に陥らないように釘を刺しました。政治は軍事行動に国家としての目的と目標、すなわち「何のため、何をする/達成する」を付与し、軍事はこれに具体的な達成目標に落とし込んで、この軍事行動のための編成・組織・指揮系統を定め、適任の指揮官に指揮を命じ、統合任務部隊指揮官とします。統合任務部隊指揮官は陸海空別の任務部隊に任務を示し、陸海空の指揮官はそれぞれの指揮下部隊に具体的な任務を示します。各部隊は、命じられた任務の達成を追及し、越権行為はしません。よって軍の独走・暴走もありません。この指揮系統に基づき、軍事行動の歯車が動き出します。 
 特に、湾岸危機から湾岸戦争に至る父ブッシュ政権での政治と軍事の関係は、前述のパウエル大将のあるべきと考えた姿を実践しました。これは父ブッシュ大統領の冷静かつ度量の大きさに、負うところ大でした。(息子ブッシュ政権の際は、文民であるネオコンが独走・暴走しました。)

その信念の淵源はベトナム戦争の泥沼の教訓 
 パウエル将軍が、この政治と軍事の明確な役割区分を追求したことやパウエル・ドクトリンの既述の条件を付けたことには、泥沼に陥ったベトナム戦争の反省教訓という深い事情があります。将軍自身もベトナム戦争で忘れ得ぬ泥沼の経験をされていますし、これはシュワルツコップ大将をはじめ湾岸戦争の主要な指揮官達も同様で、彼らが小・中隊長だった1960年代後期から1970年代前期は、まさにベトナム戦争の泥沼の中にありました。そのベトナム戦争では、国家としての明確な目的や目標も示されないまま政治主導で始められ、ズルズルと逐次に戦力が投入され、ズルズルと長引きました。また政治の軍事作戦への介入も著しく、空爆の目標やジャングルの中の掃討に至るまで、1コ1コの作戦は政治にマイクロマネージメントされ、作戦目標は数値目標としてして示され、それを数値で報告し、作戦成果の尺度にしていたほどでした。悪名高き「ボディカウント」がその例です。現場で殺した敵の死体の数を報告され、それが国防長官の記者会見で成果として報告される、という不毛な戦場に彼らはいたのです。パウエル大将はReluctant warriorとまで呼ばれましたが、やる気がないとか後ろ向きなわけではなく、軍人が命を賭ける価値のある国家としての目的・目標を示し、国民の理解・支援を得られのか?という大義名分へのこだわりです。その大義名分を旗頭に、部下隊員たちと共に全力で軍事作戦を敢行し、所期の目的・目標が達成されたらサッサと撤退する、という達観・透徹した信念だったのです。 
 
私見ながら
 パウエル大将の「軍事力の使用・行使」の条件設定の考え方は、「武士が刀を抜く」際の心構えと似ていると思います。 武士は、鞘の中の刀はいつでも戦えるよう研ぎ澄ましておきます。ただし、その刀を鞘から抜くことは一生に一度あるか、ないか。刀を抜くからには相手を斬り、自らも斬られる。それを承知で命を賭してでも刀を抜く、崇高な大義名分がなければなりません。軍にとっては、国運を賭けて戦う国家的な危機がそれに当たるわけです。

 パウエル大将のご功績は軍歴のみならず、息子ブッシュ政権の国務長官としてのご功績も素晴らしいものがありますが、ご自身にとっては拭えない汚点が心残りだったようです。9.11同時多発テロ後のイラク戦争の際に、ネオコンが推し進めたイラクの大量破壊兵器疑惑の際、半信半疑ながら国務長官として国連決議のために説明に立ち、結果的にパウエル・ドクトリンを満たすと理解し、息子ブッシュ政権のイラク戦争の先棒を担いでしまいました。後に担がれていたことに気づき、国務長官を辞職しました。まさに悔いの残る職務上の失策だったようです。

  ドミニカ共和国から米国にたどり着いた貧しい移民の子に生まれ、働きながらニューヨーク市立大に通い、学費減免と給料も貰える予備役将校制度にて陸軍将校となりました。若き日のパウエル大将にとって忘れ得ぬ経験となったのは、ベトナム戦争。義兄弟のような戦友の遺体を乗り越えて戦う日々を過ごしたと言います。だからこそ、パウエル・ドクトリンを掲げて時の大統領相手に一歩も引かずに諫言したのでしょう。
 亡くなられたのはウォルターリード陸軍病院と聞き、やはりパウエル大将は最後の最後まで軍人だったのだなぁ、と痛感しました。

 心からご冥福をお祈りいたします。
 
(了)

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2021/10/10

習主席が台湾統一実現を叫ぶ⁉︎:ご心配なく、掛け金積み上げ競争です


Xi Jinping has said that reunification with Taiwan must be fulfilled
2021年10月9日、辛亥革命110年記念大会にて演説する習国家主席(2021年10月9日付BBC記事「China-Taiwan tensions: Xi Jinping says 'reunification' must be fulfilled」より)

辛亥革命110年記念大会で習主席が台湾統一の意欲と自信を強調
 2021年10月9日、中国の習近平国家主席は、辛亥革命100年記念大会にて演説。辛亥革命を指導した孫文の功績を讃え、その遺志を受け継いでいるのが「中国共産党」と位置づけ、台湾統一を「歴史的な任務」として「必ず実現する」と意欲と自信を強調。この際、台湾政府の独立志向を厳しく批判するとともに、欧米の台湾支援の動きを「台湾問題は中国の内政であり、外部からのいかなる干渉も許さない」との姿勢を示しました。

とは言え、台湾有事は双方望まず、これは掛け金積み上げゲームです
 ここ最近、台湾海峡に中国軍機が防空識別圏を破って侵入する事案がケタ外れに急増し、他方で米軍を主軸とした米英豪日等のの周辺海域での台湾有事を想定した海上機動演習が増え、にわかに緊迫を増す状況に益々緊張感が走りました。
ただ、私見ながら、こういう動きがあるからと言って「すわ、台湾有事か?」などという話ではなく、中国と米欧日豪民主主義陣営(台湾含む)の冷戦的枠組みにおける抑止力競争=パワーゲームにおいて、例えばポーカーの掛け金のように、双方が「掛け金積み上げ」とでも言うべき抑止力を積み上げている状況です。この際、両者は決して自分のカードを見せて勝負に出ようとは思っていません。お互い、持ち札を見せないまま、無事にこの場のゲームが「流れてしまう」のを待っています。

願わくば、掛け金積み上げへの狂奔で中国が失速しますように
 こうした掛け金の積み上げは一触即発の緊迫を呼びますので、それはそれで、お互いの疑心暗鬼が無用の軍事衝突に陥らないように、机の下でのホットライン的な意思疎通は維持すべきです。実際の衝突を避ける努力をした上での話ですが、全くの私見ですが、米欧豪日の戦略的な思考として、米欧日豪が情勢緊迫を知っての上でこの掛け金積み上げ競争をしている目的は、この掛け金積み上げ競争の果てに望ましい未来を描いているのではないか、と推察しています。
 およそ専制国家というものは、リーダーが決めることが「正しい」前提で、議会の承認のような民主的手続きなしに、リーダーの指し示す方向に国家の全力を傾注します。自国の体制維持に執着するあまり、こうした自国の死活的国益がかかる掛け金積み上げ競争にまじめに取り組み、自国の経済を顧みずに掛け金の積み上げに奔走し、気づいた時には自国経済や民心が瓦解していきます。要するに、米ソ冷戦末期に米レーガン政権が「戦略防衛構想:スターウォーズ計画」をぶち上げ、仕方なく当時のソビエト連邦はこれに応じて戦略核戦力の優位に奔走し、ついに国家運営自体が紛糾し、自壊しました。あれと同様の競争を西側民主主義陣営が吹っ掛けているのです。中国は、当時のソ連と同様に、この掛け金積み上げに乗ってきました。願わくば、この掛け金積み上げ競争の過程で、実際の軍事衝突無しに、中国が自国経済の失速を招き、自国民の民心が離反し、中国共産党一党支配による体制が瓦解しますように。

(了)

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2021/10/05

米軍トップがアフガン撤退を戦略的失敗と断罪:発言に違和感

Gen Milly
9月28日、米上院軍事委員会の公聴会で証言するミリー大将(Chairman of the Joint Chiefs of Staff Gen. Mark Milley attends a Senate Armed Services Committee hearing on the conclusion of military operations in Afghanistan and plans for future counterterrorism operations, on Capitol Hill, Sept. 28, 2021.)(2021年9月28日付VOA記事「US Military Admits Afghan War Was 'Strategic Failure'」より)

米軍トップがアフガン撤退を戦略的失敗と断罪:発言に違和感 
 2021年9月28日に米上院、29日に下院の軍事委員会にて、ミリー米軍統合参謀本部議長とアフガン作戦全般の指揮官だったマッケンジー米中央軍司令官の二人の米軍トップが、アフガン撤収に当たりバイデン大統領に2500名の残留部隊を残すべきだと進言していたこと、アフガン撤収は戦略的失敗だったこと、等を公聴会で証言しました。この発言は、バイデン米大統領が事前協議において反対意見を聞いたことがなかったと発言していることと大きく食い違うため、今後米議会での大統領への追求が厳しくなる模様です。 (参照: 2021年9月28日付VOA記事「US Military Admits Afghan War Was 'Strategic Failure'」、同年9月30日付AFP記事「Generals advised Biden against Afghan pull-out」ほか)
 しかし、・・・私見ながら、現職の軍トップが大統領との不協和音を発したことに対し、軍の高級幹部としての姿勢として「あり得ない」との思いがあり、いわんやアフガン撤収を「戦略的失敗」と発言したことについて違和感を拭えません。 違和感の焦点は、①残留部隊の進言の件と②アフガン撤収を「戦略的失敗」と断罪したこと、の2点です。

「2500名の残留部隊の進言」
まず、①残留部隊の進言について。8月一杯の撤収の際に、2500名からなる残留部隊を置くべきだと、バイデン大統領に進言したとのこと。この残留部隊によって、アフガン政府(当時の)及び政府軍がタリバンの首都侵攻を食い止めるために空爆や情報等でバックアップをしつつ、国際機関や各国大使館及びその活動を支援したアフガン人等の国外退避を安全に実施するためのサポートをすべきだった、という主張です。残留部隊を置くということがオプションとして可能なら、それはもっともな進言だとは思います。しかし、バイデン大統領が撤収の際に発言したように、9月以降にも残留部隊が残るとそこで新たな戦闘になることは明らかでした。それはミリー統参議長も公聴会で認めていて、「(残留部隊を置いた場合)9月1日にはタリバンと戦闘になっただろう。」と証言しています。残留部隊がタリバンと戦闘になった後、いつどのように撤収できるのかが問題です。アフガン撤退という政治決心をしたにも拘らず、国外退避の安全確保という大義名分を口実に、アフガン政府軍の作戦をバックアップし続けることになります。結局、残留部隊を残すということは、アフガンへの軍事介入を存続するということに他なりません。元々、アフガンへの介入の断念の本質は、いつまで経っても自分の足で立って国家運営をしようとしない、そして自己犠牲を払ってでも守ろうとしないアフガン政府と政府軍を見限ったということです。政治決心がくだる前に思うところを進言したならば、例え大統領が自分の進言を聞き入れてくれなかったとしても、政治決心がくだった後は、大統領の決心に従ってその具現化に邁進すべきであって、議会で突っ込まれたとしても進言の内容や経緯や自分の所感については沈黙を貫くのが軍人のあり方です。いわんや、米軍トップの地位に就く者が、あたかも大統領の発言や判断に不服があるような発言をするなど、あり得ない話=言語道断です。

「アフガン撤退は戦略的失敗」
ミリー統参議長は、アフガン撤退について、"It was a logistical success but a strategic failure," =「ロジスティックとしては成功(各種制約の中で12万4千名もの国外退避空輸作戦をしたことを指す)だが、戦略的に失敗だった。」と発言しました。ミリー統参議長によれば、昨年末の段階で、アフガンからの撤退を早めればタリバンの侵攻を早め、アフガン政府及び政府軍の崩壊を早める、との見方を進言。9.11前に撤退することが決まり、早期の撤退が進む中では前述の残留部隊も進言。この進言が受け入れられず、思いの外侵攻速度が速かったタリバンと戦う気のない政府及び政府軍により、タリバンが首都カブールを陥落。8月下旬には空港内で国外退避のための駐留部隊のみとなった頃、国際機関や各国大使館や国外退避を望むアフガン市民で空港周辺が混乱、そんな中、8月26日に空港ゲート付近で自爆テロが起き、米軍関係者13人をはじめ少なくとも169人が死亡。今後のアフガンについて、「タリバンは以前も現在もテロ組織であり、アルカイダとの関係もいまだに断っていない」と見ており、今後アフガンはアルカイダやISなどのテロリストの温床になり、「今後12~36カ月で活動条件がそろう恐れ」があると証言しています。総じて「戦略的失敗」と断罪しています。
 私見ながら、6月~7月及び最終コーナーを回った8月の撤収の際の部隊の退げ方として、もっと効果的な撤退要領があったかもしれない、という「戦術的失敗」を語っているなら適切かつ穏当な証言だと思います。しかし、「戦略的失敗」と断じるからには、純軍事的な戦術的妥当性の話ではなく、大統領の政治判断が道を誤ったと言っていることになります。この発言がテレビ番組の軍事アナリストの発言なら構いませんが、当事者中の当事者の米軍トップ統参議長の口から発せられたというのが信じられません。だって、お前が指揮したんだろ?大統領に進言して受け入れてもらえなかったとしても、腹の中ではそう思っていたとしても、そのポストにいる以上は絶対言ってはならない。言うのなら職を辞すべきです。

(了)

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