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2021/11/30

プーチンの謀略:EU移民流入問題とウクライナ国境ロシア軍大動員

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プーチン恐るべし

 日本のマスコミはあまり取り上げていませんが、今欧州では表題のような二つの危機に直面しています。一つは、ベラルーシ経由で中東からEU入国を目指す難民がポーランド国境を超えて流入している件、もう一つはロシア軍がウクライナ国境に集結し侵攻作戦開始するのではないかと懸念されている件です。
(参照:2021年11月27日付VOA記事「We're Ready, Ukrainian Soldiers Say on Frontier With Rebels」、同22日付VOA記事「Is Putin Saber-Rattling or Preparing for War?」、同20日付東洋経済記事「ベラルーシから欧州へ『移民殺到』人道的な大問題、英国はロシアとの偶発的な戦争リスクに言及」ほか)

EU移民流入の問題点: ベラルーシの陰謀
 中東やアフリカからEUへ流入する難民の問題は以前から存在していました。今回の問題の特質は、中東(ほとんどがシリアのクルド人)でベラルーシがEUへの移民を斡旋し、ツアーを組んでベラルーシ航空でベラルーシに入国させ、ベラルーシ軍が半ば随伴・誘導して数千人もの移民たちをポーランド国境の森林から密入国させようとしていることです。移民たちはポーランドを経て移民受入れに寛容なドイツを目指しています。しかし、ポーランドも軍を動員して密入国を拒んでおり、結果的にこの人たちが難民化しています。もはやポーランドの問題ではなく、EUの問題になっています。

 EUはベラルーシ側に猛抗議していますが、ベラルーシのルカシェンコ大統領は「元々欧米西側諸国がイラク戦争等で難民を作り、それをドイツ等EU諸国が歓待するから難民流入が起きた。」と逆ギレする始末。ルカシェンコ大統領自身が、旧ソ連共産党一党独裁の最後の生き残りで先制君主状態のため、国内では民主化を求める国民への弾圧著しく、西側諸国からの非難を浴びています。海外に逃れた政府批判のオピニオンリーダーを「テロの恐れあり」という口実で航空機ごとベラルーシに着陸させ逮捕・収監した事件も記憶に新しいところです。ルカシェンコ大統領は、国際的な非難と経済制裁に対しての外交カードに使う腹づもりで、政策として難民流入を画策している模様です。

クリミアの悪夢再燃?: ウクライナ国境へのロシア軍の臨戦態勢
 もう一方の問題は、ロシア軍のウクライナ国境付近への大動員(特殊作戦部隊含む9万2千名もの大軍)による軍事的緊張です。2014年のウクライナのクリミアへの軍事介入と同地の併合という悪夢が、またすぐそこまで来ている状況です。
ウクライナ軍の情報当局のチーフは、1月下旬にも侵攻開始を準備していると読んでいます。元々、ウクライナ東部のロシア国境が近い地域やロシア系住民の多い地域には親ロシア派の武装組織がおり、併合を希望させ政情不安を煽ります。侵攻前には、ウクライナ国内を更に政情不安に陥れるため、マスコミやネットで偽情報による世論操作やサイバー攻撃によるネットワーク障害をあちこちで生起させるなど、あの手この手を駆使し、政情不安を高めます。「ウクライナ軍から挑発された」との口実で奇襲的に開戦。陸海空の通常戦力とサイバー攻撃などのマルチドメインの攻撃により、短期間にウクライナの一部を占領します。その地のロシア系住民の保護の目的で、占領を続け、後に併合する、という流れです。クリミアもそうして併合され、国際的な非難や制裁もありましたが、結果的に併合が既成事実化しています。
 EUも米国もロシアに警告していますが、プーチン大統領はどこ吹く風状態。国境付近に大軍を配置したとて、それ自体は「演習」という口実で何とでも言い逃れできるわけです。

いずれもプーチンの謀略
 これらは、いずれもロシアのプーチン大統領の謀略だと推察されます。プーチンは意図的に西側諸国を揺さぶっているのです。ウクライナ国境へのロシア軍の大動員のみならず、ベラルーシからポーランドに不法侵入する難民問題もベラルーシのルカシェンコ大統領を操っているのはプーチンです。その直接の狙いは、難民問題を外交カードに使って圧政を敷くベラルーシのルカシェンコ大統領の権力維持すること、及び、国境への大動員などの政情不安を煽ってウクライナの現政権(反ロシア)を倒し親ロシア化すること、であろうと推察されます。間接的な狙いとしては、欧州の国々の不安を煽って疑心暗鬼にさせることにより、ロシアと西欧の中間にある旧ソ連だったバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やウクライナ、ジョージアなどの国々(特にウクライナ)で多少の小紛争が起きてロシア軍の介入などが起きたとしても、「さもありなん」と既成事実化する(欧州における)世論の土壌を作っているものと思われます。
 
 日本からは遠い国の日本とは関係のない出来事と思うことなかれ。ロシアの東の隣人は日本ですよ。海を介して国境の島や町が北海道にはあります。北方領土のような係争地もあります。北の漁場では、我が国の漁船が拿捕もされる漁場なのです。これが国際情勢の厳しい現実です。

(了)

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2021/11/20

気がつけばソ連再興?プーチン恐るべし

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気が付けば旧ソ連の元共和国だった国々にロシア軍駐留
 2021年11月18日付産経新聞「プーチン氏帝国再興の謀略」(斎藤勉のソ連崩壊と今)によれば、ロシアは欧州正面の旧ソビエト連邦当時の共和国(バルト三国除く)だった国々の国内に軍の拠点や駐留軍を保持しており、その国々が西側諸国のNATOに加盟せず旧ソ連(ロシア側)に残るよう無言の圧力をかけ、あたかも旧ソ連帝国の再興を謀っている模様、とのこと。

旧ソ連の失地回復か?
 同記事では、ロシアがソ連時代の旧共和国(現独立国)の国々や自治州に、同地の紛争を煽って衝突させ、そこに「同胞救出」(その地に根付いた純ロシア系住民の救出)だの「民族紛争の平和維持」だのという大義名分を掲げてはロシア軍を駐留させて睨みを利かせている状況をまとめています。具体的には、

・1991年12月ソ連崩壊、
・1992年南オセアチア自治州及び沿ドニエストルでそれぞれ紛争・停戦、
・1994年ナゴルノカラバフ自治州及びアブハジア自治共和国でそれぞれ紛争・停戦、
・2000年プーチン大統領就任、
・2008年ロシアとジョージア(グルジア)が南オセアチアをめぐり紛争、アブハジアと南オセアチアが独立
・2014年ロシアが南部クリミア半島を併合、東部でも親ロシア民兵勢力を支援、
・2020年ナゴルノカラバフ紛争再燃・停戦、

といった状況で、上記の「紛争」はロシア系住民が火種であることが多く、その紛争にロシアが介入して力づくで「停戦」し、そこに「平和維持」名目でロシア軍が入る形で、紛争地にロシア軍を駐留させています。結果的に、バルト3国を除いてロシアの西縁の欧州との接際部のほとんどの旧共和国にはロシア軍が睨みを利かせている状況です。

 プーチンの口癖に「ソ連崩壊は20世紀最大の惨事だ」というのがあります。ソ連時代に、ソビエトの連邦制の下でスラブ系を中心とした多民族国家であり、各民族の「共和国」(という名のほとんどロシア領土内の民族自治区)がロシアの周辺にありました。ソ連崩壊に伴い、そうした共和国は民族自決的に独立国になり、西側への接近をしました。事実上、ソ連崩壊でそうした共和国が離反していき、ロシアは国土を失ったわけです。そうした流れからすると、プーチン大統領のロシア軍駐留作戦は、見方によっては、「既に旧ソ連の失地を回復しつつある」と言えます。.....まさにプーチンの深謀遠慮、恐るべし。

Putin set to send Russian military into Ukraine
ロシアの標識をつけずにウクライナのセバストポリに進駐するロシア軍部隊(Troops in unmarked uniforms stand guard in Balaklava on the outskirts of Sevastopol, Ukraine, March 1, 2014) (2014年3月1日付TIME誌「Putin Set To Send Russian Military Into Ukraine」より)

そんな事になっていたとは...
 そんな事になっていたとは...。制服を脱いで以来、興味関心から国際情勢を追うだけになって、どうやらアンテナが錆びついてしまったようです。停戦から1年経過したナゴルノカラバフに、ロシア軍が「平和維持軍」として駐留していることについてはニュースを通じて承知していました。しかし、旧ソ連の共和国だった他の国々に対し、ロシアが何だかんだと理由を設けてロシア軍を駐留させていたという状況に気付きませんでした。ナゴルノカラバフ紛争の際に、既に他の旧共和国はロシアの駐留を受けていた状況だったのでしょうが、それに気付かずにいました。この記事で教えてもらいましたよ。不覚!この記事にビンタを張られた気がします。国際情勢のアンテナを磨いておくよう、肝に命じます。

 まさに記事の表題通り、ロシアのプーチン大統領の深謀遠慮が透けて見える状況のようです。いやー、プーチン恐るべし、ですね。コイツはただ者じゃありませんね。

(了)

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2021/11/15

台湾問題で米欧はじめ各国が台湾支援へ動く理由

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2021年10月27日、チェコ外務報道官ミロス・ヴィストリシル氏が台湾外務大臣ウー氏にチェコ国会の銀の記念メダルを授与(Czech Senate speaker Milos Vystrcil gives Taiwan Foreign Minister Joseph Wu the Silver Commemorative Medal of the Senate of the Parliament of the Czech Republic, in Prague, Czech Republic, Oct. 27, 2021.(2021年11月11日付VOA記事「New Czech Government Expected to Take Tougher Line on China, Russia」より)

 2021年11月14日付VOA記事「Why Western Countries Back Taiwan Despite Their Pro-China Policies」に、 中国と台湾の緊張を巡り、EUはじめ各国が台湾支援へ動いており、その背景についてカバーしていました。記事の内容を紹介しつつ、私見を述べたいと思います。

各国が台湾支援に回る動き
 台湾を正規に外交承認している国は、世界で15カ国しかないにも関わらず、外交承認していない国々でも台湾の支持に回る国々が増えてきました。
 7月以降のこの4カ月で、米国、EU議会をはじめヨーロッパ東部の2カ国、アジア諸国等が、台湾支援に回る動きを見せています。
 ・米国: トランプ前政権からバイデン現政権も台湾への経済連携、戦闘機輸出をはじめ軍事顧問団派遣など軍事面での支援も加速。
 ・EU議会: 本年10月に台湾との経済・外交面での関係強化を決定。更に、報告書において、中国が台湾に対し軍事的圧力をかけつつあることについて懸念を表明。
 ・リトアニア: 本年7月にリトアニア国内に台湾の駐在員事務所を設立することを承認。
 ・チェコ: 本年8月にチェコの上院議長が代表団89名(チェコの各界リーダー)を連れて台湾を訪問。
 ・インドやベトナム等: ここ数年、中国が領土・領海の主権を巡る拡大主義に反対意思を表明。

背景
 VOAの分析では、中国への反発と台湾支援に回る主な要因は、中国の国内の香港や少数民族及び周辺国への強圧的な政策に対する嫌悪感である、と見ています。
 この嫌悪感を表明するにあたり、米国はともかくとして、EUはじめアジアを含む中小国は、やはり中国の逆鱗に触れることを避けるため、一国としてではなく有志国間で一致協力して中国に意思表示することで、外交的影響力を発揮するとともに、中国から外交・経済的な報復を受けた際の緩衝と相互補完による影響の最小限化を図っている模様です。

私見ながら
 興味深いのは、中国の強圧的政策に反対する一方、その手法は「みんなで渡れば怖くない」と「被害を受けた場合は相互扶助しようね」という弱者の論理なところです。
 また、更に興味深いのは、これらの国々の共通した思いは、懸案の台湾問題を例に取ると、中国の台湾侵攻のような最悪事態を避けるのが最大の目的であって、中国の主張する「一つの中国」政策については「支持」を継続し、「台湾の独立」も「中国による台湾の武力統一」も「支持しない」というのが基本姿勢であることです。

 いずれにせよ、米国のみならずこうした世界の各国の意志表明として中国の強圧的(特に実力行使を伴うもの)な政策に対して「NO!」と叫ぶことは意義あることだと思います。日本もその旗手たるべし。中国という国は、相手が「NO」と拒否することで相手に反発されたことを学習します。相手が反発して来なければ自分が正しいと認識します。中国に反発することは勇気のいることであり、中国からも反発して逆襲してきますが、中国自身も「NO」と拒まれたことを自覚しますから、少なからず効果があります。あちこちの各国の「NO」をチームアップすることで、国際的世論化する動きに持ち込みたいですね。是非、岸田新首相や林外務大臣には、国際的世論化運動の旗手になっていただきたい。
 まぁ、やらねぇだろうな。

(了)

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2021/11/07

中国が核戦力を急増:核で米に対抗?バカじゃないの?

Chinese Balistic Missile
軍事パレードで中国の弾道ミサイルの行進に旗を振る中国国民 (Onlookers wave Chinese flags as military vehicles carrying DF-41 ballistic missiles roll during a parade in Beijing, China, Oct. 1, 2019. China has been expanding its nuclear force much faster than U.S. officials had predicted.) (2021年11月3日付VOA記事「China Nuclear Arsenal Growing Faster Than Previously Thought, Pentagon Says」より)

 2021年11月3日に米国防省が公表した中国の核戦力に係る報告書によれば、中国は核戦力を以前考えられていたよりも速く増強しており、米国が憂慮する域に達しました。(参照:2021年11月3日付VOA記事「China Nuclear Arsenal Growing Faster Than Previously Thought, Pentagon Says」)

中国の核戦力の増強ぶり
 報道されている所によれば、中国は2027年までに最大700発の核弾頭を有し、2030年までに少なくとも1,000発の核弾頭を保有することを目標とする、とのこと。2・3年前までは、装備の近代化・最新化に取り組む一方、核弾頭の数的には増強は見られず、一定数のまま推移していました。それがこの1年で急増に転じ、米国が昨年の見積りを遥かに超えた増強となっています。
 質・量ともに圧倒的な核戦力を有する米国(核弾頭数で約3800個が常時operationalな状態)からすれば、核弾頭数が百〜数百のオーダーなら局地的、戦域レベルの脅威だったのに、千のオーダーに入ればグローバルな戦略レベルの脅威です。核の運搬手段も、中国は以前から大陸間弾道弾、戦略爆撃機、潜水艦発射弾道弾という、いわゆるトライアッド(Triad)と言われる核戦力の3つの運搬手段を揃えています。先日の極超音速飛翔体の実験成功の話題と相まって、名実ともに、米国にとってロシアに次ぐ戦略的脅威となったわけです。

私見ながら
 常識的感覚として、中国の核戦力増強を憂慮します。世界の核抑止は一応均衡して安定いるのに、中国の軍備拡大、特に核抑止力の増強は、その均衡を意味もなく脅かし、核戦力積み上げ競争を惹起するだけとなり、深く憂慮します。
 はっきり言って、何がしたいのか理解できない。米露で安定していて、マイナーな局地的核抑止力として中国の核戦力はあり得た話なのに、敢えてグローバルな核戦力増強に打って出た、その企図を諮りかねます。均衡しているがゆえに戦略的に安定しているのに、何でまた核戦力を増強しているのか?バカじゃないの?と思います。

余談ながら笑って済ませられない話
 2021年7月15日付yahooニュース記事「中国軍事評論家、日本を『核の先制不使用』の例外にせよと主張──いったん削除された動画が再浮上」‪によれば、冗談じゃ済まない話がありました。「‬日本が台湾問題に首を突っ込むなら日本を核攻撃すべし」というタカ派の動画(実際に日本を核攻撃する衝撃画像がある模様)がアップされ、地方当局が一回削除し、のちに当局判断で再アップされました。丁度、麻生さんが「台湾有事あらば日本にとっても有事であり、自衛隊の対応もありうる」という発言があった後というタイミングで、意図的に再アップした模様です。これは、核保有していない国に対する先制核攻撃を意味し、国際常識としてあり得ない話。それを意図的に出す神経が普通ではない国ですね。
 およそ核武装をする国は、核使用は自国にとって生きるか死ぬかの最後の手段で保有するわけですから、軽々な判断やいわんや外交や恫喝の手段に物を言わすなどあってはならない話です。
 せめて核のボタンを握る国家中枢の人間はまともな考えでいていただきたい。

(了)

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