
着上陸演習中のロシア軍(This frame from a video released on April 23, 2021, by the Russian Defense Ministry Press Service shows Russian troops boarding landing vessels after drills in Crimea. Ukrainian and Western officials are worried that a Russian military buildup near Ukraine could signal plans by Moscow to invade its ex-Soviet neighbor.)(2021年12月9日付VOA記事「Biden Seeks to Allay Ukraine’s Concerns of Possible Russian Invasion」より)
ロシアのウクライナ侵攻:年明けにもあり得る ロシア軍がウクライナとの国境付近に9万もの部隊を動員し、年明けにもウクライナ侵攻が開始されるのではないかと懸念されています。いくらなんでも現代でそんな時代錯誤な話は起きないだろう、・・・と思うことなかれ。ロシアには前科があります。
確かに、第一次・第二次両世界大戦後、隣国を侵攻して自国領土を拡大するような帝国主義的な図式は影を潜めました。そんな中、1990年のイラクのクウェート侵攻のような例外がありました。侵攻後、イラクはクウェート侵攻後すぐに国際的な批判に晒され、米国主導の多国籍軍による湾岸戦争によって力づくでクウェートは解放されました。しかし、ほんの数年前、ロシアには前科があります。2014年のロシアのクリミア併合です。その際、勿論ロシアは国際的な批判に晒されましたが、ロシアは「クリミアはロシアの死活的国益である」として一歩も引かず、経済制裁を受けながらも併合された状況が半ば黙認された形となり、現在に至ります。
そのロシアが、今またウクライナの隣接親ロシア派がほぼ実効支配している地域などと呼応してウクライナ侵攻が行われるのではないか、と懸念される状況になっています。
ロシアのウクライナ侵攻の目的・狙い 基本的にはクリミア侵攻時と同様に、元々ソビエト連邦時代から権益のあったドンバスなどのウクライナの主要都市などに根差すロシア系住民の「分離独立意思に呼応したもの」及び「ウクライナ政府軍から弾圧を受けるロシア系住民の保護」という大義名分が建前で、本音はソビエト時代からの権益の奪還です。加えてもう一つ重要な目的は、旧ソ連時代のワルシャワ条約機構加盟国であった東欧諸国やソビエト連邦の共和国だった現独立国が次々とEUやNATOという西欧の同盟国にドミノ倒し的に加盟していくことに対する安保上の脅威観から来る防波堤意識です。ワルシャワ条約機構加盟国だったチェコ、ハンガリー、ポーランド、エストニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、アルバニア、クロアチア、モンテネグロ、北マケドニア…等々は既に西欧の軍門に下っており、プーチン大統領は気が気じゃない心境。焦眉の急がウクライナです。ウクライナはクリミアを併合され、西欧への同盟思考が強まっており、ウクライナの現ゼレンスキー政権はNATO加盟を標榜しています。プーチンはこれを阻みたい。よって、ウクライナ侵攻危機でゼレンスキー政権を揺さぶっているわけです。揺さぶるどころか、あわよくば、ドンバスはじめロシアとの隣接地域を併合しかねない勢いの国境へのロシア軍の大軍動員が行われています。
ロシアの強気の源泉:中国との協調態勢 ロシアが、というよりプーチン大統領が国際社会では反則行為である隣国への侵攻まで企てるほどの「強気」の源泉は、中国の習近平主席との協調態勢です。
この辺の経緯は、2021年12月7日付 現代ビジネス 「ロシア「ウクライナ侵攻計画」プーチンの強気の背景にある中国との“準同盟”関係」に詳述されています。同記事の孫引きですが、中国の王海運少将(中国駐モスクワ駐在武官)の「新世紀の中露関係」(上海大学出版社、2015年)という回顧録にいわく、「プーチン氏が2000年3月27日の大統領選挙で当選した時、当時の江沢民主席が、真っ先にプーチン氏に祝福の電話をかけた。26歳年上の中国国家主席から祝福されたプーチン氏は、こう述べた。『初めて外国の国家元首から祝福をもらい、感激している。今後は『四不政策』(※台湾独立を支持しない、『二つの中国』もしくは『一中一台』を支持しない、台湾の主権国家としての国際組織参加を認めない、台湾に武器を売却しない、という親中政策)を貫く』と。さらに、1991年12月にソ連が崩壊した後、新生ロシアは当初、『欧米的民主国家』を目指したが、(プーチン大統領は)それでは『欧米の下につく二流国家』に過ぎなくなると悟り、中国との関係も重視し始めた。中国とロシアは、1992年に「相互に友好国家とみなす」約束を交わした。1994年に「21世紀に向けた建設的パートナーシップ関係」を結び、1996年に「21世紀に向けた戦略的協力パートナーシップ関係」を結んだ。1999年10月には、初の合同軍事演習を行った。そうした下地の上に、プーチン時代になった2001年7月16日、中露はモスクワで中露善隣友好協力条約を結んだ。同年6月15日には、両国が中心となり、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンを加えて、上海協力機構(SCO)を結成している。つまりは、旧ソ連圏だった中央アジア地域を、『アメリカの触手から守る』ための組織だ。2004年10月、中露は長年の懸案事項だった両国の国境を完全に画定させた。・・・」、という流れだそうです。
こうした流れのもとで、米国がトランプ政権下が「米中新冷戦」路線を売り出した際、中国はロシアとの協調路線でlこれに対抗を試みました。この頃、トランプ大統領もプーチン大統領に協調態勢をとるアプローチをしていましたが、米国の政治的風土がそれを許さず。一方のプーチン大統領は中国のラブコールに乗るような乗らないような是々非々的態度で、トランプ米大統領を値踏みしていたのではないかと思います。2020年の大統領選挙でトランプ政権が破れ、明けた2021年1月にバイデン大統領の時代となり、対中姿勢を明確にし、ロシアに対しても「専制国家」と敵対視してきたため、この米国の対決姿勢に対するロシアと中国の姿勢も中ロ協調態勢が深まりつつある状態です。この記事は、ロシアと中国は確定した国境を背中合わせにして、東西の敵と相対しています。西はロシアが対西欧・NATOに対して、東は中国が米国・日本・豪州・インドを相手に、「準同盟的関係を築きつつある」(同上記事)状態である、と見ています。
私見ながら、同上記事はいささか中国の御用学者・御用軍人の考え方に寄り過ぎている、と見ています。プーチンは、習近平におだてられたくらいで親中派になるようなタマじゃありませんよ。世界随一のしたたかさを有する策士です。プーチンにとっては、ロシアの国益に照らして協調路線をとるべきところは協調し、それでいて国益に反するところは中国の意思を意に介さず、是々非々ですよ。この記事の偏った見方はともかくとして、国益の適う正面では中ロ協調態勢であることは間違いありません。
侵攻抑止に動く米国、しかしパンチ力が弱い ロシアのウクライナ侵攻の可能性が高まる状況で、国連や米欧の西側諸国はこれを懸念しています。国連やEUやNATOという枠組みでの懸念表明やロシアへの外交交渉は、いつもそうであるようにほぼ無力。結局、実効性の伴わない外交交渉や懸念のPRだけでは、効果が出ない、というか、ロシアに響きません。クリミア併合への抗議を込めた経済制裁も、決然たるプーチンの黙殺にあい、効き目が表れず、結局「無力」としか言いようがありません。頼みの綱は、米国ですが、バイデン米大統領は伝統的な「普通の」米大統領なので、構えがソフトだから、いろいろ緊張緩和努力を講じていますが、今のところ効果が出ませんね。先週7日に、ロシアのプーチン大統領と電話会談をしたようですが、「もしウクライナを侵攻するようなことがあれば深刻な結果を招く」と言明したと報道されていますが、経済制裁の話なので、プーチンに足元を見られたようです。結局米ロ頂上会談は平行線のまま。先週末にウクライナのゼレンスキー大統領ともバイデン大統領は電話会談した模様ですが、ゼレンスキー大統領の「米軍の関与」の懇願をにべもなく拒絶し、あくまで経済制裁の構えのようです。バイデン大統領はまとも過ぎて、この辺が甘い。逆説的に、トランプ大統領だったら、「米軍介入も辞さない」と爆弾発言をしたでしょうから、プーチンもトランプの腹が読み切れず、何をしでかすかわからない怖さがある分、効き目があったはずです。ロシアのクリミア侵攻・併合の当時は、トランプさんの前のオバマさんが政権にいましたが、常識的かつ紳士的な対応で経済制裁でプーチンに向き合ったため、プーチンに押し切られ、クリミアの併合は既成事実化されました。オバマ政権男副大統領だったバイデン大統領もまともな常識人であるがゆえに、危機に際してパンチ力が弱いですね。(参照:2021年12月9日付VOA記事「Biden Seeks to Allay Ukraine’s Concerns of Possible Russian Invasion」ほか)
私見ながら、実効性ある国際的措置(米軍やNATO軍の展開など)で「侵攻は許さない」国際的規範を 中国の台湾進攻などの懸念も含み置いて、このロシアのウクライナ侵攻前夜のような状況下に必要なのは、実効性ある国際的措置(米軍やNATO軍の展開など)を決然と取ること、だと思います。そうした「侵攻は許さない」国際的規範を作らないと、軍事的な優勢さえあれば隣国への侵攻で国土拡大ができるなどという前時代的な帝国主義思考を助長することになります。ロシアといえども、「米軍主導のNATO軍が軍事介入する!」などと決然たる姿勢を示されたら、さすがに二の足を踏むでしょう。こうした侵攻の危機は、軍事介入を辞さない姿勢で本気で臨まないと実効性を伴いません。その上で、ロシア側の安保上の脅威観をどのように落ち着かせるか、ウクライナに住むロシア系住民の分離独立意思をどのように落ち着かせ、ウクライナの国内問題を安定化していくか、国際的なウォッチや支援を入れて緊張を緩和していくべきでしょう。そうした落ち着いた議論にするために必要なのが、「軍事侵攻による併合なんて国際社会が許さない」という当たり前のルールを決然たる実効性ある手段をもって具現化することです。
軍事侵攻が起きて併合させてしまってから経済制裁をしたところで、併合されてしまったらもはや既成事実になってしまいます。だから、侵攻が起きる前に、「いいか?侵攻したら米軍主導の有志連合軍で軍事介入するぞ!」と宣言し、米軍主導の有志連合軍で臨戦態勢をとることですよ。力なき正義はただの無力なのです。
(了)

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