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2022/04/30

ドンバスの戦いが勝敗を決す!膠着戦に持ち込みロシアに勝て!

ドンバスの戦いが勝敗を決す!膠着戦に持ち込みロシアに勝て!
 2022年4月29日現在、ロシア軍は侵攻作戦を仕切り直し、指揮系統や編成を立て直して戦闘力を結集して、ドンバス地域と呼ばれる東部2州からクリミアまでの完全掌握のための攻勢を開始した模様。・・・ところが、ロシアが得意とするはずの平原・開豁(かいかつ)地での徹底的な攻撃準備射撃の後のロシア戦車の蹂躙が始まる・・・思いきや、ウクライナの塹壕陣地線を容易に突破できず、ロシア制圧地域は予想された程広がっていません。ロシアは、未だに兵站・後方補給線の確保がおぼつかず、指揮・通信の維持確保も解決しておらず、指揮官が命じても兵士の士気・モラルにも問題を抱え、等々、我々が警戒している程には精強・強靭な戦闘ができていないようです。ウーム、どうやら西側の軍事関係者はロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価していたようです。2014年のクリミア侵攻当時のロシア軍の最先端ハイブリッド作戦を世界に知らしめた姿、全くしてやられたウクライナ軍の無力な姿が脳裏にあるために、その後のそれぞれの国軍の、無努力による没落と臥薪嘗胆的努力による国軍のみならず市民レベルの不屈・精強・強靭化を見誤っていました。
 そうであるならば、西側連合は大同団結して全面的にウクライナをバックアップし、ウクライナがドンバスの戦いを守りきり、戦線を膠着させることで、莫大な戦費と戦力の損耗をロシアに課し、ロシアを枯渇・弱体化させ、もって停戦させることを目指すべきだと思います。結果的に、米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官が提唱した「もはや2度と戦争を起こさせないようロシアを弱体化する」ことができます。核心的には、ロシアのプーチン大統領を失脚させることが早道だと思いますが。
ドンバス平原
ドンバス平原(2022年4月28日付BBC「War in Ukraine」を加工)

ドンバスの戦いの重要性
 ロシアは、明らかに侵攻当初の「侵攻目的・目標」を下方修正した模様です。当初は、ウクライナをロシアの影響下の衛星国に戻そうと企図し、電撃侵攻で主要都市を落とし、もってゼレンスキー政権を駆逐し、親ロ政権を打ち立てて、その目的・目標を達成できると考えていたと思います。ロシアにしてみれば、ウクライナの国民達は、突然の戦乱に右往左往するだけで、ロシア様に抗戦意志を示すことなどないだろうと、タカをくくっていたことでしょう。しかし、開戦してみたら、電撃侵攻などできず、各正面でウクライナ軍に猛烈な抵抗に遭い、更にウクライナの市民たちも強烈に抵抗し、戦線は膠着。そこで、戦線を整理して、ロシア軍の態勢の立て直し。この際に、状況を総合的に整理し、当初の侵攻目的とそのための達成目標を大幅に縮小し、「東部2州及びクリミアの線の確保」に下方修正しています。 
 その新たな侵攻目的「東部2州及びクリミアの線の確保」からすれば、ロシア軍の達成すべき目標は「ドンバス平原でウクライナの陣地線を突破し、ドンバス平原を確保すること」と推察します。ここでいうドンバス平原とは、東部2州のうちのまだロシアに制圧されていない地域、ハルキウ~イジューム~ドネツク~サボリージャの以西・以北の地域です。この地域は、開豁(かいかつ)しただだっ広い平原です。まさにロシア軍がその真価を発揮できる、慣れ親しんだ平原の戦車・装甲車の突進・蹂躙ができる地域です。しかも、ロシアの制圧地域からロシア本土からの兵站・後方補給を受けられるので、どう考えてもロシア軍に有利、ウクライナ軍にとっては不利。ウクライナ軍の主力部隊も、まさにこのドンバス平原に結集し、塹壕を掘って縦深の地域に陣地線を構成し、ロシアの突進を受け止めては潰す防御を敷いています。ロシアにとっては、この平原を突破してウクライナ主力部隊を撃破すれば、必然的に侵攻目的「東部2州及びクリミアの線の確保」が達成できます。ウクライナにとっては、ここを失えば、東部2州~クリミアの以東以南は2度と返ってこないロシアの占領地になってしまいます。従って、このドンバス平原の戦いの帰趨が、今回のロシア侵攻の決戦場と言っても差し支えないと思います。

ドンバスの戦いの展望
 4月初旬に戦線を立て直し始めたロシア軍のドンバス平原への総攻撃は4月中旬からヌルっと開始されました。この辺が今回のロシア軍の作戦の、軍事的合理性や戦術妥当性上からは理解のできない、おかしなところです。4月中旬から下旬に渡り、ハルキウ~イジューム~ドネツク~サボリージャの両軍の接触戦(前線)において、ロシア軍の突破攻撃が処々で見られました。ロシア軍が一部で突破をしては、ウクライナ軍に回り込まれて後退するなど、ウクライナ軍は概ね押されながらも線を維持しています。あれ?膠着してるじゃん!

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ドンバス平原のウクライナ軍の塹壕陣地。こうした陣地線と対戦車障害が数線に渡って構成されている。(2022年4月19日付inews.com.uk「Why is Russia targeting eastern Ukraine? Putin’s goals explained as ‘second phase’ of war begins in Donbas」より)

 これまでのところ、平原とはいいながら、4月下旬の大地の凍結からのぬかるみ状態が幸いして、ロシア軍は平原に展開して大戦車軍団の展開ができず、結局は道路に数珠つなぎになった縦隊の攻撃になっています。陣地線に横に展開したウクライナ軍は、ロシア軍の縦隊攻撃の先頭集団に集中砲火。一部でロシア戦車に突破されても、その突破されたフタを閉めて突破部隊の退路を断ってこれを殲滅。最強を誇ったロシア戦車軍団とガップリの四つ相撲を実施中です。実はウクライナ軍は、クリミア侵攻及び東部2州の親ロ派武装勢力との抗争で、当時からこのドンバス平原での陣地戦を想定した陣地構築をしていました。第1次・第2次世界大戦の頃と変わらず、地面に穴を掘って塹壕を作るという原始的で最も強靭な防御陣地です。(我が陸上自衛隊も今だに訓練で掘っていますよ。)ロシアが態勢を立て直して東部戦線に戦力を集中しているように、ウクライナ軍も主力部隊をここに配置しています。しかしながら、キーウ攻略の頃のロシア軍と違い、今回の攻勢では指揮・命令系統が大分是正され、突進部隊と後続部隊の連携が以前よりはできており(それでもウクライナの通信妨害により混乱している模様です)、一進一退の攻防となっています。
 展望としては、ここは我慢比べですね。ドンバス平原の戦いのどこかの正面で、例えばイジューム正面で深く突破されたりしたら、ロシア軍はその開いた突破口を開けたまま維持し(突破口の形成)、逐次にその開けた穴を拡大し(突破口の拡大)、更にその正面から後続部隊が続々と攻撃衝力を増して、縦深に突進部隊が展開し、もって戦果を拡張します。そうすると、陣地線で頑強に抵抗していたウクライナ軍は突進部隊に包囲され、陣地線は瓦解します。そうされないよう、ウクライナ軍はどこかで突破されたらすぐさまフタを閉め、後続部隊を阻止し、突破部隊を分断孤立させて殲滅します。こうして陣地線を維持しているわけです。まさに、今がその正念場。長い苦しい戦いをしています。
 ロシア軍の攻撃も、ウクライナ軍の防御も、その継戦能力を維持するために必要なのは兵站・後方補給の維持です。ゆえに、ウクライナのゼレンスキー大統領は西側各国に武器の供与をはじめとする兵站・後方補給支援を求めているわけです。特に、戦車、火砲、対戦車火器、対空火器。しかし西側の最新兵器をもらってもすぐに使いこなせないので、手っ取り早いのは旧ソ連製の兵器ですね。この辺は旧ワルシャワ条約機構軍仲間だった東欧諸国からの供与がありがたいところです。西側はここで大同団結してウクライナを支えましょう。
 他方のロシアは、有り難いことに莫大な戦費が日々かさみ、既に相当の人的・物的戦闘力を消耗しています。なのにバックアップしてくれる国がありません。中国なんかが全面バックアップしたら、また面倒な話になりますが、有り難いことにありませんね。
 ゆえに、西側の大同団結のウクライナへのバックアップを続け、ドンバス平原の戦いを膠着し続けてもらいましょう。この間、マリウポリに残されたウクライナ軍と市民を始め、様々な悲劇は続きます。苦しい、長い、暗い毎日でしょう。しかし、この我慢比べで長期持ちこたえれば、ロシアの方が先に音を上げるでしょう。枯渇していく経済力に耐えきれず、必ずロシアの方から停戦を呼び掛けてきます。だから、苦しい戦いを続けてもらうしかない。

 頑張れ!ウクライナ

(了)

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2022/04/22

兵糧攻めされるマリウポリの行く末とウクライナの徹底応戦の覚悟

プーチンの判断
 2022年4月19日現在、ロシアはマリウポリを概ね制圧下に置いているものの、旧ソ連時代からの製鉄所地下の要塞施設に身を寄せるウクライナのアゾフ大隊及びマリウポリ市民の存在が世界の注目を浴びています。ロシアがバンカーバスター(地下貫徹爆弾)を使って攻撃しつつ、度々「命は保証するから降伏せよ」と降伏勧告し、アゾフ大隊はこれを拒否していました。ロシアが製鉄所地下要塞に対する徹底的な攻撃を開始し、アゾフ大隊と市民を殲滅させるのではないか、と世界中が固唾を呑んでいました。
 そんな中、2022年4月21日、ロシアのプーチン大統領は、ショイグ国防相の「マリウポリは後2・3日で完全掌握します。」という報告に対して、「今の時点で攻撃を終了し、虫一匹通さぬよう包囲せよ。もってマリウポリの制圧を宣言せよ。」と指示したとのニュースがありました。(2022年4月22日付VOA記事「Putin Declares Victory in Mariupol, Mass Graves Discovered Outside City」、同日付NHKニュース、ほか)
the Mariupol Drama Theater
爆撃を受け荒廃したマリウポリの劇場( A view inside the Mariupol Drama Theater that was damaged during fighting in Mariupol, Ukraine, on April 4, 2022.)(前掲VPA記事より)

マリウポリを兵糧攻め
 私見ながら、敵ながら賢明だと思います。マリウポリの地下要塞に所在するアゾフ大隊と数百名の市民を全滅させるのは、国際的非難の的になるだけです。軍事的合理性と戦術的妥当性から言えば、むしろマリウポリは力攻めよりも包囲した上で気長に降伏を待つ方が得策でしょう。いわゆる兵糧攻めです。国際社会の注視の中で残忍な殲滅攻撃により非難の的となるよりも賢明な策だと思います。勿論、ウクライナ側にとってはより一層厳しい状況になります。日々弾薬も食料も尽きて行くアゾフ大隊と市民。勇猛果敢なアゾフ大隊も市民を見殺しにはできないので、備蓄が枯渇する前に子供や女性や高齢者投降させ、意思が固く壮健な市民とアゾフ大隊のみが残って最後まで踏ん張るでしょう。政府間の交渉や戦況の好転を祈りつつも、備蓄の底が見えた時点で、万歳突撃的に最期の攻撃を試みるか、抜け穴から離脱を図るか。或いは、威を正して投降するか。投降したら、ロシア軍の捕虜となり、拷問されてウクライナ軍の指揮命令系統や戦術・戦法・指揮通信システムなどについて喋らせられることでしょう。ただ、投降しても胸を張っていい。貴兄らの勇戦敢闘は世界が賞賛する英雄的活躍でした。誰も貴兄らを責めません。

停戦より徹底抗戦を選ばざるを得ないウクライナ
 停戦交渉は膠着状態。もはやロシアのプーチン大統領も全く停戦交渉をする気がない模様です。侵攻作戦初期の多正面同時攻撃が頓挫したことを認め、北部正面から兵を退いて態勢を立て直し、東部正面に戦闘力を集中した東部総攻撃の準備中と思われます。もしくは逐次戦闘展開を開始しているのかも知れません。他方、ウクライナのゼレンスキー大統領も、停戦交渉努力は続けつつも徹底抗戦の構えは変えていません。
 日本のマスコミ論調などで、ともすると「停戦」を第一義としてコメントがなされていますが、少し現実離れしていて無責任な感がします。これは停戦交渉が活発だった数週間前でも、現在でも同様ですが、「停戦」に双方が同意するとどうなるかを具体的に考えてみるべきです。
 「停戦」成立で、双方の軍事行動がとりあえずストップし、戦闘による兵士や市民の犠牲は起きなくなりますから、それ自体はあるべき姿です。しかし、停戦した時点でロシアが「ロシアの制圧地域」として占領しているウクライナの地域から、ロシアは既得権益として下がることはなく、半ば領土化されてしまいます。この地域におけるロシア側の権限など、ウクライナに政治的な譲歩を要求してくるでしょう。元々、ロシア側からウクライナ国土への一方的な侵攻でしたから、仮にウクライナ側がロシアを一定程度押し返すことができたとしても、ウクライナ側に領土的なプラスはなく、荒廃した国土を一定程度取り戻しただけです。それでも、努めてウクライナにとって優勢に、ロシアの既得権益を局限したいのがウクライナにとってのあるべき姿です。ロシアに対して徹底抗戦を続けることは、間違いなくウクライナの将兵や市民の犠牲が出ることになります。国土は一層荒廃します。それでも、ロシアに取られる地域を最小限に局限するため、ウクライナの国土、領土、主権を守るために、戦い続けなければいけないのです。その悲壮な現実論に基づく覚悟を是非報道してもらいたいものです。

(了)

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2022/04/13

ロシアは新司令官の指揮で東部で総攻撃をかけてくる

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新司令官ドゥボルニコフ将軍。先日のウクライナ東部ドネツク地域の駅への無差別攻撃の命令はこの新司令官、との報道も。(Western officials believe it was Dvornikov who gave the order for the attack, it is reported)(2022年4月9日付Mirror紙記事「Russian general behind monstrous attack on Ukrainian railway station named in reports」より)

「ロシアのウクライナ侵攻に新司令官」のニュース
 2022年4月9日頃から、欧米メディアがロシアのウクライナ侵攻の新司令官として、アレクサンドル・ドゥボルニコフ将軍をプーチン大統領が任命したことを報じ始め、同将軍の過去の戦歴でのシリアやチェチェンにおける一般市民の犠牲を意に介さない残虐行為や、そうした戦歴から「シリアの屠殺者」という異名で呼ばれることなどばかり報じられています。そして、今後のウクライナの戦況において、更なる一般市民への残虐行為が懸念されるというニュースばかりが報じられています。なるほど、確かに同将軍の指揮で行われる今後の作戦は、一般市民の犠牲を厭わない残虐な行為がそこここに見られるでしょう。

このニュースの見方:プーチンの腹を読むべし
 しかし、このニュースで、「今後は冷血で残虐な性格の指揮官が残虐なことをする」などという情緒的で短絡的な見方をすべきではありません。今回の新司令官の任命についての、プーチンの企図、目的・目標を見逃さないでいただきたい。
 同将軍が指揮した過去の残虐行為への拒否反応なんぞで見誤ってはいけない大事なことがあります。今後の戦線で起きうる残虐行為について懸念することよりも、もっと注目すべきことは、プーチンはこの新司令官を任命することで何を目的とし、いかなる達成目標をこの新司令官に課し、何をさせようとしているのか、それが大事なポイントです。

 では、プーチンの考えとは?
 2022年4月12日、プーチンはベラルーシの盟友ルカシェンコ大統領と会談後の記者会見で、ウクライナでの特別軍事作戦が現在までのところ所期の目標を達成しておらず膠着していること、この目標を達成するまで特別軍事作戦を続けることを初めて言明しました。(2022年4月13日付NHKニュース)
 勿論、記者会見でプーチンが話したことが常に本心であるとは限りません。ただ、私見ながら合点が入ったニュースが関連情報としてありました。ウクライナ侵攻の前後でプーチン大統領にウクライナの情勢や戦況を一元的に報告していたFSB(旧ソ連時代のKGB。プーチンの出身母体)の相当数の幹部に厳罰処分をした、とのこと(同NHKニュース)。プーチン自身が、自分が得ていた情報が事実に基づくものでなく、FSBのフィルターのかかった歪曲されたものであったことに気づき、断罪した模様です。プーチンは今、再度情報を整理し、ウクライナの情勢や戦況など全般状況を踏まえて腹を固めたものと推察されます。その上で、記者会見の発言「目標(成果)を達成するまで作戦を続ける/やめない」と言ったわけです。そして、その施策の一環として今回の新司令官任命です。プーチンは、この司令官に目標を達成せよと命じているはずです。そして、プーチンからの信任と命令を受け、ドゥボルニコフ将軍は必ずその目標を達成するでしょう。その目標達成とは、巷間報道されているところでは「ウクライナ東部2州の完全掌握」であり、加えて、既に事実上のロシア領のクリミア、その北のドニエプル川の南岸地域からメリトポリ、マリウポリを経て東部2州ドネツク及びルハンシクに至るアゾフ海を挟んでロシアと地続きで陸路で結ぶ回廊を作ることである、というものである可能性が高いようです。この目標を達成する上での軍事作戦上のネックは、東部2州についてはドネツク州の北半分の制圧、及びほぼ制圧しているのに未だウクライナ軍の生き残りが頑強に抵抗し、残留市民の抵抗も根強いマリウポリ地区の完全掌握でしょう。この目の前の課題を、この数週間に亘りロシア軍は膠着状態のまま改善できませんでした。そこで新司令官の着任です。

情け容赦なき総攻撃が始まる
 新司令官は、愚直に現状を打破する作戦を敢行するでしょう。要するに、ロシア軍の体制を立て直し、指揮命令系統を厳格かつ簡潔明瞭にし、使える部隊長を配し、指揮通信の確保のための通信の強靱化措置をとり、北部正面(キーウ攻略)の部隊の東部正面への転用は勿論のこと、全ロシア軍のアセットから必要な部隊や装備(武器)を編入し、勝つべくして勝つ必勝体制を組みでしょう。その上で周到に計画した総攻撃を開始するでしょう。この新司令官はシリアのアレッポやチェチェンのグロズヌイでそうであった様に、与えられた命令、達成目標を達成するためには手段を選ばず、愚直なまでに徹底した敵の殲滅を測ります。

 総攻撃の様相は次の様な物と考えられます。  
 事前に一応の避難勧告を実施。人道回廊の設置で一応の避難措置を取ります。これを逆手にとって、以降は「残留市民なし」とみなします。そして総攻撃開始。まず、攻撃目標地域に対し、事前に完膚なきまでの攻撃準備射撃をします。空爆、精密誘導ミサイル、クラスター弾、等々、効果のある砲爆撃による市街地の破壊の後、猫の子一匹いない状況になってから戦車・装甲車を先頭に歩兵部隊の掃討戦をする形で攻撃前進をします。一般市民もヘチマもない、見敵必殺、見たものは全て敵と見なして倒し、完全掌握を追求するでしょう。そこに人道に反する戦争犯罪だの憐憫の情などの要素は1ミリも入る余地なし。これがソ連軍仕込みのロシア流の軍事的合理性であり戦術的妥当性です。それを圧倒的な個性で徹底的に遂行する司令官をプーチンが任命したのですから。

 総攻撃が開始されたら、ロシア軍は今度という今度は、これまでと違って統制の取れた周到な攻撃にギアチェンジするでしょう。これまでウクライナ軍の妨害電波等の電子戦にやられて、ロシア軍の指揮通信は寸断されていましたが、恐らくは電子戦能力を是正しているでしょう。今度はウクライナ軍の指揮通信を無力化し、サイバー攻撃も使ってウクライナ軍のお株を奪う戦闘をするでしょう。今度という今度は、善戦を続けてきたウクライナ軍も、あちこちで分断孤立化し、殲滅されることになるでしょう。ドゥボルニコフ将軍のことですから、目標線が東部2州からクリミアを結ぶ線であったとしても、恐らくドニエプル川東岸の線くらいまで進出線を引いているかも知れません。結果的に、ウクライナの東半分に当たるドニエプル川東岸の線まで制圧地域が広がるかも。これを上限とすれば、最低限の下限の成果がクリミアからマウリポリの回廊を経て東部2州の線までの制圧。上下限の間で停戦協議に臨み、ウクライナにロシアの望む条件を飲ませるのがプーチンの腹です。

 今後の、(静かにもう始まっているかもしれませんが)戦闘の結果として、マスコミが喧伝する「残虐行為」は不可避的に起きます。懸念すべきは残虐行為の前に総攻撃です。
 もうひとつ、マスコミが喧伝している「5月9日のロシア戦勝記念日までに成果を上げて勝利をPRし停戦に臨むのではないか」説をあまり信じない方が良いと思います。「プーチンも早く紛争を終わりにしたいはずだ」という思い込みは、前述の「残虐行為への懸念」と同様に西側の常識人の論理です。プーチンに当てはめない方が良いでしょう。
 彼の発言通り、「目標を達成するまで軍事行動は続ける/やめない」のです。決して時期が目標ではありません。

(了)

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2022/04/07

ウクライナ善戦の陰に特殊部隊:ロシア軍の残虐行為の一因かも

ロシアのウクライナ侵攻はなぜ膠着?
 ロシアのウクライナ侵攻が開始されて1ヶ月以上が経過。開戦したらアッという間にロシアがウクライナを蹂躙し、電撃侵攻により数日のうちにキーウ陥落となるだろう…との私の推察は大きくハズレ、ウクライナ軍は大善戦。ロシア軍は東部から南部で制圧地域を逐次に広げるものの、ほとんどの正面で先端戦力の戦車・装甲車がウクライナ軍に撃破され、後続部隊は道路上に数珠つなぎで停滞、そこをトップアタック(戦車の上空から戦車の天上目がけて命中)のジャベリンなどの対戦車火器で撃破され、更に前線の部隊への弾薬・燃料・食料・医薬品などを補給する後方支援部隊も、長い補給線の所々でドローンなどで伏撃され、前線部隊の補給が断たれ、……事実上ロシア軍の侵攻は膠着状態に陥っています。

 なぜウクライナ軍はかくも善戦しロシア軍はこれほど苦戦しているのか、当ブログの前々回の話題で、トルコから導入したドローンがウクライナ軍善戦の陰で大活躍している話をさせていただきました。

 しかし、それでもウクライナ軍善戦、ロシア軍苦戦の理由にイマイチ判然としていなかったのです。ロシア軍は、自衛隊にとって長い間の仮想の対抗部隊でしたので、その戦史や戦略/戦術/戦法やつい近々のチェチェンやクリミアでの戦い方について十分勉強させてもらっていました。そのイメージとはあまりに違う今回のウクライナ侵攻でのロシア軍。・・・それは、既に報道で知られているような携帯対戦車ミサイルのジャベリン、携帯対空ミサイルのスティンガー、トルコ製のドローンによる情報収集や攻撃などが活躍したとしても、それって今やどの国のどの戦闘でも考えられる話です。各正面のロシア軍の攻撃を鈍らせ、焦燥感に悩ませ、苛立たせている要因は、別にあるはずです。
 webを通じて米軍系や欧州系の情報を漁っていて、ドローンに続くもう一つの納得の行く要因が分かりました。ウクライナの特殊作戦部隊の活躍です。
Ukrainean special operation force
Ukrainian Special Operations Forces (UASOF) ( 2022年3月17日付grey dynamics記事「Ukrainian Special Operations Forces (UASOF)」より)

侵略者ロシア部隊を狩るウクライナ特殊部隊
 見出し通りのウクライナ特殊作戦部隊の活躍を報じる記事等を幾つか見つけましたが、中でも2022年3月15日付のCEPA (欧州政治分析センター)記事「Hunting the Invader: Ukraine’s Special Operations Troops 」が非常に興味深い内容でした。同記事の概要は以下の通りです。

 ウクライナ善戦の陰の立役者は、特殊作戦部隊である。侵攻するロシア軍の戦車・装甲車が市街地の辻々で、或いは田舎道で神出鬼没のゲリラ攻撃を受けて撃破されている。この担い手がウクライナ特殊作戦部隊である。彼らは、部隊行動というよりは分散・浸透して侵攻正面の住民に紛れ、ゲリラ戦術、機動防御、神出鬼没の襲撃や伏撃を組み合わせ、侵攻するロシア軍を分断孤立化し、ロシア軍部隊に組織的な部隊行動をさせていない。加えて、攻撃的電子戦(妨害電波による通信阻絶)により、ロシア軍の指揮通信を分断し、ロシア軍部隊は物理的にも指揮通信網からも分断孤立化され、その町や村の中で逐次に各個に撃破されている。要するに、侵攻しているはずのロシア軍が、侵攻しているはずのウクライナの街角や田舎道、森の中で狩人に狩られている状態と言える。

 ウクライナ特殊作戦部隊は、ロシアによるクリミア侵攻やこれに連動したウクライナ東部での親ロシア派武装組織を装ったロシア軍の浸透に危機感を抱いたウクライナ政府が、米国をはじめNATOの協力を得て、編成・組織し、教育・訓練をしてきた。7コ部隊、2000名を擁す特殊作戦コマンドを形成している。創設以来、やがて起きうるロシアのウクライナ侵攻に対処するため、NATO包括的支援パッケージの枠組みの中で、資金援助、安全保障部門改革(SSR)プログラム、等の防衛協力イニシアチブの形で、米、英、カナダ及び欧州諸国を含む西側諸国の実質的な支援がなされた。そして、米CIAも密接に連携している。

懸念:ウクライナ特殊作戦部隊の活躍がロシアの市民への残虐行為の由縁かも
 前述の特殊部隊の活躍の件、非常に効果的だと思います。合点がいきました。他方で同時に懸念が浮かびました。
 私見ながら、現在国際社会やマスコミが糾弾しているロシア軍の市民への残虐行為の由縁が、前述のウクライナ特殊作戦部隊の活躍への恐怖からくるものではないか、と懸念します。ロシアの侵攻部隊は、基本的に徴兵され訓練されたロシアの普通の若者を兵隊に、一応経験のある軍曹が班規模の小部隊を任されて行動し、それを小隊・中隊・大隊の部隊単位で将校が指揮して作戦行動しています。彼らの作戦行動は、基本的に正規部隊対正規部隊の通常作戦です。特殊部隊による隠密の(目に見えない)襲撃・伏撃、不意急襲的なゲリラ攻撃には非常に脆弱です。なぜなら、特殊部隊員は恐らく一般市民に紛れて行動しているからです。例えば、街中の前進において、一見弱々しく見える市民達に相対していると思っていたら、街角でいきなりゲリラ攻撃を受けるわけです。一般市民が情報を提供している、とか、一般市民の中に特殊部隊員がいる、と疑心暗鬼になるわけです。恐らく、民族的に近似し言葉も概ね通じるウクライナ市民であっても、ロシア軍にとってはウクライナ市民は皆敵に見えていると存じます。それが故に、街や村の建物を破壊し、市民が避難している避難施設をも攻撃目標とし、尋問して縛り上げ、果ては銃殺したりする残虐行為が起きるのではないか、と推察します。
 更に言えば、ウクライナ特殊作戦部隊は、侵攻以前のウクライナ東部2州の親ロシア派武装組織との抗争でも活躍してきたと思われます。ウクライナ特殊部隊による親ロシア武装勢力への特殊作戦による攻撃のことが、プーチンが東部ロシア系住民が「ネオナチ」に弾圧されていると言っている由縁なのかも知れません。プーチンを弁護するつもりはありませんが、恐らくこのことを言っているのではないかと思います。
 ウクライナ軍の善戦、特に特殊部隊が活躍するが故に、それを恐れ苛立つロシア軍が、市民に対して残虐行為に及ぶ、…… 悲しい話ですが、これが戦争ですね。

(了)


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