セベロドネツク陥落:辛勝したロシアの息切れ

ウクライナ中部・ポルタワ州のクレメンチュクにあるショッピングセンターがロシア軍のミサイル攻撃を受け、これまでに少なくとも18人が死亡し、59人が負傷した(2022年6月27日付NHKニュースより)
セベロドネツクで辛勝したロシアの息切れ
前回のブログで予測した様な展開になってきました。
ドンバス平原セベロドネツク正面で6月下旬まで組織的戦闘をしていたウクライナ軍は、セベロドネツクの西側を画するシヴェルスキー・ドネツ川を辛うじて渡河し、撤退しました。西に下がって、シヴェルスク、クラマトルスク、スロヴィャンスクの拠点の陣地線まで「戦闘撤退」する模様です。(参照:2022年6月28日付ISW「Ukraine Conflict Updates」) これをもって、ロシア軍は約2ヶ月かかったセベロドネツク攻防戦の末に同市を完全に掌握下に入れる「辛勝」を納めたわけです。
他方、本来なら要衝を奪取した戦勢を活かして、要衝セベロドネツクを拠点に後続の攻撃部隊を押し出して、敵の後退を追うように戦果拡張するのが定石なはずですが、今、我々が目にしている戦況からすると、一部マイナーな勢力のセベロドネツクの近隣シスチャンスクへの進出程度で、どうやら主力部隊は動きがありません。撤退するウクライナ軍を、本来なら後方に包囲してこれを捕捉し撃滅するのが戦術的合理性です。なぜ追撃しないのか?… やはり、セベロドネツク攻防戦の果てに息切れし、人も矢弾も尽き、暫し戦闘力の再編成中の模様です。本来なら、「超越交代」と言って、後続部隊が息切れした部隊を乗りこえて、新戦力をもって戦果拡張するはずですが、後続の新戦力を捻出出来ず、これまで戦ってきた部隊に新たな人員補充や武器・装備・弾薬等の再補給をして、戦闘力の回復をしている、と見られます。第一線主力部隊が追撃してこない代わりに、侵攻継続をアピールすべく、主要都市に対するミサイルによる精密誘導攻撃や多連装ロケットによる無差別攻撃を多用しています。
総じて、前回のブログで予測した流れですね。
辛勝を得るために費やした犠牲は多大
セベロドネツク攻防戦で勝利し、この要衝を確保するために消耗した人的物的損害は多大でした。特に、指揮官を含む将兵の戦死・戦傷、武器・装備の損害は大きく、広域多方向からセベロドネツクに集中砲撃を浴びせた火砲の弾薬量も相当な量です。まぁ、後者の火砲や弾薬については、ロシア軍の莫大なストックからすればまだ一定の余裕もあろうと思いますが、決定的な要素は人的損害です。これらのセベロドネツク攻防戦でのロシア軍の人的物的損害は、ウクライナ軍が自軍の人的物的損害とセベロドネツクという要衝を犠牲にしつつもロシア側に強いた代償と言えましょう。敗れたりと言えども、善戦しましたよ、ウクライナ軍は。
ドンバス平原の戦いが本格化する直前の4月初めに、ロシア軍はウクライナ侵攻作戦の見直しをし、その際に指揮系統を統一するための総司令官を据えました。アレクサンドル・ドゥボルニコフ将軍です。シリアのアレッポ制圧作戦やチェチェンにおけるグロズヌイ制圧作戦で、一般市民の犠牲を意に介さない情け容赦ない徹底攻撃で名高い「シリアの屠殺者」という異名を持った名将でしたが、どうやら即戦即決のスピーディーな戦果拡張を求めたプーチン大統領の意に敵わず、先頃更迭されたようです。後任はジェナディ・ジドコ大佐(?)という、つい先日までロシア軍事政治総局の局長だった人の模様です。6月26日に実施されたウクライナ侵攻ロシア地上軍の閲兵視察の際、ロシア国防相セルゲイ・ショイグの隣に座っており、西側のウォッチャーが愕然としたようです。(参照:2022年6月26日付ISW「Ukraine Conflict Updates」) 軍事組織において有名な将官が更迭され、後任がつい先日まで泣かず飛ばずポストの聞いたことのない大佐だったら、それを見聞きした部下将兵はヤル気が無くなります。前任者は有名な(悪名高い)方だったので、部下将兵はその着任を聞いて戦々恐々だったと思いますが、今回は部下将兵は「誰それ?」と顔を見合わせていることでしょう。他にも、各級指揮官クラスも更迭・交代が多い模様です。間違いなく、指揮統率は乱れ、部隊としての指揮命令系統も機能しない状況だと推察できます。
また、マンパワーとしての人的戦力の損失を補充するため、ロシア軍全体の中から部隊を抽出してウクライナ戦争に参加させ、更にロシアの衛星国(?)のチェチェン等の共和国部隊なども参加させ、更にロシアの徴兵制の年齢制限上限を引き上げるなど、無手勝流に人的戦力の補充に努めています。(参照:2022年6月28日付ISW「Ukraine Conflict Updates」)
長期膠着消耗戦の我慢比べ
ことほどかように、この戦争は長期化は必至、かつ長期膠着したまま相互が消耗する戦闘様相になるでしょう。そうなると、長期消耗戦に耐えられるか?という国家間の我慢比べになります。白紙的には、白紙的軍事力は勿論のこと、ロシアの方が国力、即ち、国土も大きく、人口も多く、経済力も大きく各種資源も豊富ですから、ウクライナに比して圧倒的に有利です。しかし、国際的支援という国際的バックアップがウクライナを後押ししています。ウクライナ側の懸念は、民主国家であるが故に自由意見を有する国民が長く辛い紛争継続に耐えられるか?とか、有限な人的戦力でもつのか?という問題は今後の継戦議論に陰を落とすでしょう。
願わくば、ロシア側で宮廷内クーデターが起き、侵攻意思を捨てないプーチンのクビをすげ替えられんことを。
頑張れウクライナ!
(了)


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