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2022/06/29

セベロドネツク陥落:辛勝したロシアの息切れ

ウクライナ商業施設にミサイル攻撃
ウクライナ中部・ポルタワ州のクレメンチュクにあるショッピングセンターがロシア軍のミサイル攻撃を受け、これまでに少なくとも18人が死亡し、59人が負傷した(2022年6月27日付NHKニュースより)

セベロドネツクで辛勝したロシアの息切れ
 前回のブログで予測した様な展開になってきました。
 ドンバス平原セベロドネツク正面で6月下旬まで組織的戦闘をしていたウクライナ軍は、セベロドネツクの西側を画するシヴェルスキー・ドネツ川を辛うじて渡河し、撤退しました。西に下がって、シヴェルスク、クラマトルスク、スロヴィャンスクの拠点の陣地線まで「戦闘撤退」する模様です。(参照:2022年6月28日付ISW「Ukraine Conflict Updates」) これをもって、ロシア軍は約2ヶ月かかったセベロドネツク攻防戦の末に同市を完全に掌握下に入れる「辛勝」を納めたわけです。
 他方、本来なら要衝を奪取した戦勢を活かして、要衝セベロドネツクを拠点に後続の攻撃部隊を押し出して、敵の後退を追うように戦果拡張するのが定石なはずですが、今、我々が目にしている戦況からすると、一部マイナーな勢力のセベロドネツクの近隣シスチャンスクへの進出程度で、どうやら主力部隊は動きがありません。撤退するウクライナ軍を、本来なら後方に包囲してこれを捕捉し撃滅するのが戦術的合理性です。なぜ追撃しないのか?… やはり、セベロドネツク攻防戦の果てに息切れし、人も矢弾も尽き、暫し戦闘力の再編成中の模様です。本来なら、「超越交代」と言って、後続部隊が息切れした部隊を乗りこえて、新戦力をもって戦果拡張するはずですが、後続の新戦力を捻出出来ず、これまで戦ってきた部隊に新たな人員補充や武器・装備・弾薬等の再補給をして、戦闘力の回復をしている、と見られます。第一線主力部隊が追撃してこない代わりに、侵攻継続をアピールすべく、主要都市に対するミサイルによる精密誘導攻撃や多連装ロケットによる無差別攻撃を多用しています。
 総じて、前回のブログで予測した流れですね。

辛勝を得るために費やした犠牲は多大
 セベロドネツク攻防戦で勝利し、この要衝を確保するために消耗した人的物的損害は多大でした。特に、指揮官を含む将兵の戦死・戦傷、武器・装備の損害は大きく、広域多方向からセベロドネツクに集中砲撃を浴びせた火砲の弾薬量も相当な量です。まぁ、後者の火砲や弾薬については、ロシア軍の莫大なストックからすればまだ一定の余裕もあろうと思いますが、決定的な要素は人的損害です。これらのセベロドネツク攻防戦でのロシア軍の人的物的損害は、ウクライナ軍が自軍の人的物的損害とセベロドネツクという要衝を犠牲にしつつもロシア側に強いた代償と言えましょう。敗れたりと言えども、善戦しましたよ、ウクライナ軍は。
 ドンバス平原の戦いが本格化する直前の4月初めに、ロシア軍はウクライナ侵攻作戦の見直しをし、その際に指揮系統を統一するための総司令官を据えました。アレクサンドル・ドゥボルニコフ将軍です。シリアのアレッポ制圧作戦やチェチェンにおけるグロズヌイ制圧作戦で、一般市民の犠牲を意に介さない情け容赦ない徹底攻撃で名高い「シリアの屠殺者」という異名を持った名将でしたが、どうやら即戦即決のスピーディーな戦果拡張を求めたプーチン大統領の意に敵わず、先頃更迭されたようです。後任はジェナディ・ジドコ大佐(?)という、つい先日までロシア軍事政治総局の局長だった人の模様です。6月26日に実施されたウクライナ侵攻ロシア地上軍の閲兵視察の際、ロシア国防相セルゲイ・ショイグの隣に座っており、西側のウォッチャーが愕然としたようです。(参照:2022年6月26日付ISW「Ukraine Conflict Updates」) 軍事組織において有名な将官が更迭され、後任がつい先日まで泣かず飛ばずポストの聞いたことのない大佐だったら、それを見聞きした部下将兵はヤル気が無くなります。前任者は有名な(悪名高い)方だったので、部下将兵はその着任を聞いて戦々恐々だったと思いますが、今回は部下将兵は「誰それ?」と顔を見合わせていることでしょう。他にも、各級指揮官クラスも更迭・交代が多い模様です。間違いなく、指揮統率は乱れ、部隊としての指揮命令系統も機能しない状況だと推察できます。
 また、マンパワーとしての人的戦力の損失を補充するため、ロシア軍全体の中から部隊を抽出してウクライナ戦争に参加させ、更にロシアの衛星国(?)のチェチェン等の共和国部隊なども参加させ、更にロシアの徴兵制の年齢制限上限を引き上げるなど、無手勝流に人的戦力の補充に努めています。(参照:2022年6月28日付ISW「Ukraine Conflict Updates」)

長期膠着消耗戦の我慢比べ
 ことほどかように、この戦争は長期化は必至、かつ長期膠着したまま相互が消耗する戦闘様相になるでしょう。そうなると、長期消耗戦に耐えられるか?という国家間の我慢比べになります。白紙的には、白紙的軍事力は勿論のこと、ロシアの方が国力、即ち、国土も大きく、人口も多く、経済力も大きく各種資源も豊富ですから、ウクライナに比して圧倒的に有利です。しかし、国際的支援という国際的バックアップがウクライナを後押ししています。ウクライナ側の懸念は、民主国家であるが故に自由意見を有する国民が長く辛い紛争継続に耐えられるか?とか、有限な人的戦力でもつのか?という問題は今後の継戦議論に陰を落とすでしょう。
 願わくば、ロシア側で宮廷内クーデターが起き、侵攻意思を捨てないプーチンのクビをすげ替えられんことを。

 頑張れウクライナ!

(了)

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2022/06/25

セベロドネツク陥落か:実はウク軍善戦、ロシア軍消耗大で失速へ

セベロドネツク撤退か
ウクライナ東部ルハンスク州のハイダイ知事が24日、同州リシチャンスクに至る橋が空爆されたとしてSNSに投稿した写真。この損傷により、トラックなどの大型車両が橋を渡れなくなったという(2022年6月24日付朝日新聞disital「セベロドネツクから『撤退させねば』州知事がSNS投稿」より)

セベロドネツク陥落か
 ドンバス平原の要衝セベロドネツクをめぐる攻防戦は益々激化し、2022年6月24日付のSNSにてルハンシク州のハイダイ州知事は、「残念ながら我が軍をセベロドネツクから撤退せねばならない」と述べました。(前掲朝日新聞disital記事より)。 州知事は、「もはやとどまる意味がない」とまで発言。更に同市のみならず南西に隣接するリシチャンシクにロシア軍が進軍している状況を訴えています。各メディアも「もはや陥落か」という勢いで報じています。

 やはりウクライナは、底力のあるロシア軍に浸食される運命にあるのでしょうか?これまでの善戦空しく、所詮はロシアに手向かうのは無理なのでしょうか?

ところがどっこい、ウクライナ軍は実はロシアを相当消耗させている
 ロシアの猛攻でウクライナは押され、ドンバス平原の要衝セベロドネツクをまさに今ロシアに奪取されようとしている、…..と大方の目には映っています。 

 ところが、開戦当初から継続的に幅広い情報収集力と緻密な戦闘分析で世界で最も信頼されている米国の戦争研究所(ISW)の分析では、違う見方をしています。(参照:2022年6月23日付ISW「ISW Ukraine Conflict Updates」) 
 ISWの分析では、攻防戦の趨勢そのものは確かにロシアが態勢上(戦況図上の両軍の接触線、支配下に置いた地域の増減など)は優勢と言えますが、この数週間のセベロドネツク攻防戦により、ロシア軍の全軍の努力を傾注させ、相当数量の将官から兵士までの兵員、武器、弾薬、装備を集中消費させ、相当な消耗をさせました。この間、戦場の指揮を執った高級将官や最前線の指揮官達を含む相当数の兵士たちが、戦死・戦傷・更迭で後方に下げられ、また交代要員が戦場につぎ込まれました。結果的に、この数週間、ロシアは当初のセベロドネツク奪取までのタイムラインを大幅に遅延させ、主作戦正面であるセベロドネツク正面以外の、北正面のハルキウ、南正面のヘルソン等では防勢一辺倒で、有効な作戦軸を構成できなくなりました。要するに、ロシア軍は意地になってセベロドネツク攻略にその戦力を集中運用したため、相当な消耗により全体的な戦力が低下し、今後数週間で「失速」する可能性が高い状態です。

 興味深いことに、ISWの分析では、仮にウクライナ軍がセベロドネツク正面から撤退したとしても、ロシア軍はセベロドネツクやリシチャンスクを占領できないかもしれない状態なほど消耗している模様です。

セベロドネツク失陥後の今後の予測
 私見ながら、セベロドネツク失陥後の今後の動きを推察いたします。
 ウクライナにとって要衝セベロドネツクの失陥は痛いです。他方、東部2州の完全支配を狙うロシアにとっては重要な要衝を獲得したことになり、今後の作戦展開の重要な拠点となるわけです。戦略的な思考、戦術的妥当性上からのあるべき論で言えば、ロシアは要衝セベロドネツクという非常に有力な緊要地形を確保し、ウクライナの堅い防御線を破る突破口を形成したので、この突破口を拡大するとともに、この突破口から後続の新戦力を次から次へと投入し、ドンバス平原を電撃的に蹂躙して戦果を拡張するべきところです。しかし、前述のように、セベロドネツク攻防戦を通じて、ロシア側も相当な消耗をしてしまったため、もはや失速は免れない模様です。セベロドネツクを拠点に新戦力を送り込もうにも、もう後が続かないのです。よって、セベロドネツク攻防戦の果てに、疲れ切ったロシア軍は毛づくろいに入るでしょう。戦闘編成の再編成など、態勢をとり直す必要があるものと思われます。よって、今後数週間は大きな部隊の動きはなく、あるとすれば欧米からの長射程砲の新装備の集積所を狙ってミサイル攻撃するとか、ウクライナの首都キーウやハルキウなどの主要都市への無差別砲撃など、「引き続き戦ってまっせ」というポーズを見せて、部隊そのものは態勢をとり直すでしょう。

 一方のウクライナ軍は、欧米から次々と届くHIMARS等の長射程砲を戦力化し、今後は反撃に移る方向にあります。セヴェロドネツクの失陥は確かに痛恨ですが、この要衝の失陥のツケは、必ず反撃で返礼すべく、着々と戦力を蓄えるべきです。特に、欧米の新装備はウクライナ兵士が使いこなせるのに訓練に時間がかかりますので、臥薪嘗胆の思いで、新装備の訓練をしているものと思います。(実際、西側の元軍人たちのグループが、陰に日向にウクライナ軍の訓練指導をするため、ウクライナに入国しています。)

 頑張れ!ウクライナ

(了)

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2022/06/18

セベロドネツク危うし、されど朗報「仏独伊が支援確約」

French,German,Italy visited Kief
2022年6月17日付ロイター「仏独伊首脳ら「ウクライナは欧州の一員」、キーウで大統領と会談」より

ジリ貧のセベロドネツク
 日々セベロドネツクの激戦の状況、特にジリジリと同市内のウクライナ軍を包囲しつつある状況が報道されています。ロシア軍は、同市内のウクライナ軍の退路を断つため、同市から西に退避する際に通らねばならない橋を全て破壊したため、事実上、ウクライナ軍は徹底抗戦か降伏かしか選択肢がありません。同市はマリウポリ陥落の時のアゾフスタリ製鉄所のように、ウクライナ軍の拠点及び同市市民の避難所となっているアゾト化学工場に追い詰められた形となりました。お約束的ですが、ロシア軍による降伏勧告や人道回廊の設置が報じられては、「ウクライナ軍は降伏に応じないどころか、人道回廊による市民の避難を妨害している」というロシア側の伏線回収のオチが着きます。

独仏伊の首脳の「戦況に関わらずウクライナ支持」確約は超朗報
 2020年6月16日、独・仏・伊・ルーマニアの首脳がキーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領に「戦況に関わらずウクライナを支持する」旨の確約をしたことは、ウクライナ情勢を見守る者にとってビックニュースでした。私見ながら、西側諸国が、これ以上の戦争継続による人道的配慮及び経済庭影響の大きさを踏まえて、調停仲介に本格的に乗り出すキッカケ的な出来事として、東部の要衝セベロドネツクの失陥は十分あり得るだろうなと、と危惧していました。現在の趨勢では、東部の要衝セベロドネツクが第2のマリウポリになりそうな状況です。このタイミングでの西側一部首脳のキーウ訪問なので、ここで調停好きなマクロン仏大統領が「平和的解決」という大義名分に押し出して、ロシアとの調停に動くことはあり得るかもしれない、と危惧していたわけです。だって、ロシアとウクライナの停戦ということは、現在の接触線をもって当面の領土が仮置きされ、じ後、停戦交渉で線引きを議論しますが、東部2州や南部の現在のロシア支配地域は、恐らくそのままロシアの支配地域になるわけで、それをウクライナに「譲歩」させることになるわけです。私見ながら、そこを危惧しているわけです。マクロンという人は自分ならプーチンとサシで腹を割った交渉ができる、と根拠のない自信を持っています。実際、一度試みて失敗してますけどね。そのマクロン仏大統領が独・伊らの首相とともに、ゼレンスキーに「この辺でそろそろ、平和的な解決を我々に託さないか?」と言ったりしそうだなぁ、と危惧していたわけです。だってタイミング的には東部戦線に世界の耳目が集まり、ロシアが一見有利に見える時期ですから・・・。

 それが、あにはからんや、ウクライナ支援を確約してくれましたよ。
 The leaders of Germany, France, Italy, and Romania committed to Ukrainian officials that the West would not demand any concessions from Ukraine to appease Russia and will support Ukraine to the end of the war during a visit to Kyiv on June 16. French President Emmanuel Macron declared that France, Germany, Italy, and Romania are “are doing everything so that Ukraine alone can decide its fate.” (2022年6月16日付ISW Ukraine Conflict Updates) (独、仏、伊、ルーマニアの首脳は、西側がロシアを懐柔するためにウクライナに譲歩を要求するようなことはなく、終戦に至るまでウクライナを支援していくことをウクライナ当局に確約した。 マクロン仏大統領は、「仏独伊ルーマニアの四国はウクライナが自国の運命を自ら決めることができるよう、あらゆる支援をしていく、と宣言した。」
 いやぁー、胸をなでおろしました。これなら当面、ゼレンスキー大統領も安心して西側に長射程砲などの武器供与などおねだりできる基盤ができました。勿論、今回の一行は仏独伊ルーマニアですから、西側の中核である米国と英国がその場にいないので「西側が」という主語ではないかもしれません。しかし、米英がいない場で、米英と一線を画すマクロン仏大統領が出てきたので私は危惧していたわけですよ。もし、マクロンさんが仲介すると言い出したら、今度はプーチンは西側の結束が崩れるがゆえに仲介に前向きなポーズをとるでしょう。プーチンは仲介してもらいたいとは思っていないでしょうが、西側の一枚岩的結束を乱してくれるマクロンさんを大歓迎するでしょう。いやー良かった良かった。

他方、全般状況ではまだまだ一進一退は変わらず
 ここでよくご理解いただきたいのですが、全般状況は引き続き一進一退の膠着状況ですので、メディア報道で一喜一憂されませんようお願いいたします。
 全般状況をザックリまとめると以下の通りです。併せて、ISW Ukraine Conflict Updates(同左2022年6月16日付)の戦況図をご覧ください。

① ロシアの主作戦正面: ドンバス平原の戦いにおいては、東部の要衝セベロドネツク攻防戦でロシアが概ね同市を包囲。リシチャンシクへのウクライナ軍の後方連絡線を断つように攻撃中。他方、ロシア軍の攻撃を観察すると、本来とるべき戦闘のための編成である「大隊戦術群(BTG)」の体をとれていない、無手勝流な態勢での無秩序な攻撃となっている。指揮、統制が取れていない状況、と見積もられる。また、セベロドネツクの北西の正面では、ロシア軍はスラビャンスク攻撃に失敗、一方のウクライナ軍はイジュームの西にて反撃態勢に入った模様。

② ロシアの支作戦正面(北): 北のハルキウ正面では、ウクライナ軍の反撃、ロシア軍の防御の形でハルキウ北部と北東部で交戦が繰り返されたものの、接触線の進展はない模様。

③ ロシアの支作戦正面(南): 南のヘルソン正面でも同様に、ウクライナ軍の反撃、ロシア軍の防御の態勢で戦闘が継続したが、大きな接触線の進展はない模様。

④ ロシアに既に占領・支配された地域では、親ロ派による自治政府がロシア行政の指導でロシア化政策を推進中。他方、同地域に残る親ロ派でないウクライナ人は非協力的で、一部の勢力は「パルチザン」としてゲリラ攻撃活動を各地で実施。その掃討覆滅のため、多くの親ロ派の部隊や一部のロシア軍の勢力が兵力を割かれている。

スライド1
2022年6月16日の全般状況

スライド3
①主作戦正面 ドンバス(セベロドネツク、イジューム等)正面の状況

スライド4
②支作戦正面(北): 北のハルキウ正面の状況

スライド5
➂支作戦正面(南): ヘルソン正面の状況

(了)

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2022/06/11

正念場セベロドネツク:長射程砲を望むウクライナ、しかし・・・

Sievierodonetsk.jpg
ロシア軍の猛烈な砲爆撃で焦土と化すセベロドネツク市街(2022年6月10日付CNN「セベロドネツクで「激戦継続」とウクライナ当局、市内の人道状況は「危機的」より)

いよいよ正念場を迎えたセベロドネツク攻防戦
 ウクライナ東部ドンバス平原の戦いにおける要衝セベロドネツクをめぐる攻防戦が、いよいよ正念場を迎えているようです。これまで、「当面は『一進一退』だからいメディアの報道で一喜一憂すべきでない」と言ってまいりましたが、全般状況は「一進一退」であっても、セベロドネツクが陥落すると非常に痛い!ここがロシアの手中に入ると、ルハンシク州のほぼ全域がロシアの傘下に入ってしまいます。しかも、この戦いにウクライナ軍の主力が関わっているので、過早に後退すると陥落を早めてしまうものの、後退時期を逸すると退路を断たれて包囲・殲滅されてしまいます。そんなドンバス平原の戦いの一つ焦点となる「正念場」を迎えています。
 なにぶん、今今の話なので、こうしてブログを書いているうちに戦況が速く動くこともありますが、敢えて、なぜ今ウクライナが西側に長射程砲を求めているのか、その辺に関わる話なので、お付き合いください。

セベロドネツク市街の死闘
 これまでロシア軍は戦車・装甲車による突破口の形成、部隊の突入、後続部隊によるウクライナ陣地の小包囲、という戦車主体の機動打撃力を重視したガチンコ戦法でしたが、先週あたりから機甲戦闘力の陣地線突破の前に徹底的に砲爆撃でウクライナ陣地及びセベロドネツク市街を焦土化する戦術に変えてきた模様です。ロシア軍のほぼすべての火力はセベロドネツク市街に集中的に砲撃しています。ウクライナ軍は、ロシア軍の砲撃重視へのシフトに伴い、射ってくるロシア軍野戦砲部隊の位置を標定して砲撃をする「対砲兵戦」を展開しますが、ロシア砲兵がウクライナの持つ野戦砲より長射程砲を使うので、射程が届かなかったりで有効に戦えず、弾薬も尽きています。ウクライナ軍の砲撃が薄くなり、ロシア軍の機甲部隊と歩兵がセベロドネツク市内に突入、市街戦になっています。この市街戦は至近距離戦であり、敵味方が柔道の寝技で戦うような熾烈な格闘戦の様相を呈しています。焦土と化した市街地で、ここに潜伏していたウクライナ歩兵が突入してきたロシア軍戦車や歩兵と戦う形ですので、押され気味になり、ロシア軍が市街地に浸透してきた状態です。ただし、ウクライナ軍とロシア軍がセベルドネツクの市街で組みつ解れつの戦いをしているがゆえに、ロシア兵もいるのでロシア軍の優勢な砲爆撃が落ちてこないため、ウクライナ軍にとってはむしろ歩兵対歩兵の勝負ができて、局地的にはロシア軍を撃退しているところもある模様です。これについて、ウクライナ軍の現地指揮官は「ウクライナ軍は、優勢なロシアの砲兵戦力を無力化するため、敢えてロシア兵をセベロドネツク市街でのストリートファイトに引き込んでいるのだUkrainians were drawing Russians into street fighting to neutralize Russia's artillery advantage.」と語っています。(参照:2022年6月9日付VOA記事「Battle for Ukraine’s Eastern City of Sievierodonetsk Rages On」)

ウクライナが欲しいのは長射程砲ですが・・・
 ドンバス平原の戦い、それはロシアのウクライナ東部2州の完全支配を食い止める決戦場です。ウクライナにとって、ドンバス平原の主要な防波堤の一角が要衝セベロドネツクです。ここが落ちるとルハンシク州は概ねロシアの手中に落ちます。だからこそ、ここを落とすわけにはいかないのです。そのためには、ロシア軍の長射程砲に対抗する長射程砲と継続的な弾薬補給が欲しいのです。米国の懸念は、長射程すぎるとロシア本土に届いてしまい、ロシアを刺激することが怖いわけです。だから抑え気味にしか米国は支援しない形です。しかし、少なくとも英軍が長射程砲を供与するようですから、それが間に合うようにセベロドネツク攻防戦に戦闘加入できれば、戦況が変わる可能性は十分あります。
 他方、長射程砲がウクライナに供与されると、プーチンは「待ってました」と言わんばかりに欧米西側陣営を非難し、核攻撃の恫喝をするとともに、手始めにウクライナ首都キーウのゼレンスキー大統領のいる政権中枢の建物を精密誘導兵器で狙い、ゼレンスキー大統領を仕留めようとするでしょう。今まで手控えていたゼレンスキー大統領への直接的な斬首作戦を決行することでしょう。
 数週間前の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にて、源頼朝が実弟の義経を討つとともに奥州藤原氏を滅ぼす謀略を北条義時に命じました。驚く義時に「あくどいか?あくどいよのう。」と頼朝がいう場面がありました。私にとっては、プーチンと頼朝がダブりましたね。あくどいプーチンは、先日のコメントで「もし西側が長射程砲をウクライナに供与し、ロシアそのものが脅かされるようであれば、敵の頭脳に当たる部分に報復攻撃をする。」と犯行予告をしています。長射程砲のウクライナ供与を引き金に、ゼレンスキーの首を取り、東部2州を手中に収めるや、手のひらを返して早々に和平協議に臨んで停戦を訴えるかも知れませんよ。プーチン、恐るべし。あくどい奴です。

 ゼレンスキー大統領は、ここ最近セベロドネツクを含め前線によく激励に出かけるようですが、くれぐれも気を付けてもらいたいところです。彼という国際的なアイコンが倒れたら、ウクライナにとって致命的。最後の最後まで生き残ってもらいたいですね。

(了)

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2022/06/07

激戦!ドンバス平原:ロシアの猛攻に耐えたセべロドネツク、しかし依然一進一退

メディアの報道に一喜一憂されませんように:依然「一進一退」ですから…
 ほーら、言った通りでしょ。メディアの報道ぶりはまたまた一転、5月末の「セベロドネツク危うし!ウクライナ東部危うし!」から6月になって「ウクライナ軍“過去24時間で7回敵を撃退” 東部で反転攻勢」(2022年6月5日付NHKニューズ)となりました。更に、その舌の根も乾かないうちに、「ウクライナ軍、東部要衝で再び劣勢 ロシア軍が「焦土作戦」」(同年同月7日付AFPニュース)とトーンダウンしました。しかし、ウクライナはよくもセベロドネツクで持ちこたえたものです。ここにウクライナ軍の主力も展開しており、南北から挟まれる両翼包囲をされていたら殲滅させられていました。恐らく、突破され小包囲された正面でも、陣地を保持し、後続部隊を抑える頑強な抵抗を続けていたものと思われます。その頑強な抵抗で、突破されても突破口を長続きさせず、小包囲してきたロシア部隊を孤立化させ、これを潰していったのでしょう。見上げた敢闘精神です。西側の武器供与は確かに大きな増援になったとは思いますが、こういうギリギリの苦しい戦いの際は、結局ものを言うのはウクライナ(侵攻される側)の「絶対侵略者に降参しない=徹底抗戦」の意志の強さです。日本人も見習わなければいけませんね。
 ロシア側、ウクライナ側双方が、それぞれ公表したい内容を公表したい時期に公表しますが、ロシア側の発表はそもそも当てにならないし、ウクライナ側の発表も概ね当てにあるものの、政治的な意図もあるので額面通りには受け止められません。全般の戦況を俯瞰的にとらえて、ある程度の確からしさがある情報源としては、やはりほぼ毎日アップデートしてくれている米国の戦争研究所(ISW)の戦況分析です。他には、英国防省が折に触れて秀逸な戦況分析を出しています。
 いわんや、メディア特派員の報道はその取材クルーが見聞きした一断面なので、俯瞰的に戦況を捉えているものではありません。特に、メディアは視聴者の興味を引きたいバイアスがかかっているため、くれぐれも彼らの術中にはまって、その時々の刹那的、局地的な戦況報道で一喜一憂されませんよう、お気を付けください。

戦況は、当面は「一進一退」ですよ。
 日露戦争における海の日本海海戦、或いは陸の奉天会戦のような、双方の軍が主力対主力でガップリ四つ相撲で雌雄を決するような「決戦」をしないと、いわゆる勝敗は明確になりません。今回のドンバス平原の戦いでは、双方が主力を展開させているものの、特定正面で特定の時期場所で決定的な戦闘力を集中した「決戦」をロシアが選んでいません。セベロドネツク正面においても、この正面に戦力を集中しているものの、いくつかの局地的な戦闘正面でそれぞれ突破~小包囲を追求していますが、隣接部隊との協力・連携は見られず。何なんでしょうね。ひょっとしたら(米軍がバックアップした)ウクライナ軍のマルチドメイン作戦で、ロシア軍の指揮通信をズタズタに途絶させ、指揮連絡が困難なのかもしれません。いずれにせよ、決戦なく第1次世界大戦の長期膠着型の消耗戦の様相です。ですから、どこかで局地的に押したり引いたり、局地的な優勢劣勢はあるでしょうが、俯瞰的に見れば、比較的長期に渡って膠着状態が続くでしょう。

 ちなみに、「一進一退」の実態をクロノロジー的にご理解いただくため、次の戦況図の推移をご確認ください。一応、戦況の変遷はありますが、結局はウクライナ東部攻撃の膠着戦以降はあまり全般戦況は変わっていないことが確認できると思います。「一進一退」がご理解いただけると思います。並べると次の通りです。①3月24日頃のロシアのウクライナ侵攻が最盛期の頃、②4月3日頃のキーウ含む北部から退潮し始めた頃、➂4月17日頃のロシア軍が侵攻を立て直してウクライナ東部攻撃を開始した頃、④5月17日頃のマリウポリのアゾフスタリ製鉄所のアゾフ連隊の任務終了宣言の頃、⑤5月27日頃のロシアのウクライナ東部攻撃が進展しセベロドネツク包囲が懸念された頃、⑥6月4日頃のセベロドネツクでウクライナが包囲を脱し反撃に転じたと報じられた頃、⑦6月6日頃の再びロシア軍のセベロドネツクで優勢になったと報じられた最新の戦況図、です。

①3月24日頃のロシアのウクライナ侵攻が最盛期の頃、
スライド1

②4月3日頃のキーウ含む北部から退潮し始めた頃、
スライド2

➂4月17日頃のロシア軍が侵攻を立て直してウクライナ東部攻撃を開始した頃、
スライド3

④5月17日頃のマリウポリのアゾフスタリ製鉄所のアゾフ連隊の任務終了宣言の頃、
スライド4

⑤5月27日頃のロシアのウクライナ東部攻撃が進展しセベロドネツク包囲が懸念された頃、
スライド5

⑥6月4日頃のセベロドネツクでウクライナが包囲を脱し反撃に転じたと報じられた頃、
スライド6

⑦6月6日頃の再びロシア軍のセベロドネツクで優勢になったと報じられた最新の戦況図
スライド7

(了)

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2022/06/01

激戦化ドンバス平原:ここが我慢の正念場!セベロドネツクを固守すべし!

メディアはまたも一喜一憂:セベロドネツク危うし報道
 メディアの報道ぶりを紙面やTV画面で斜め読みしていると、先週と一変して「セベロドネツク危うし!ウクライナ東部危うし!」という報道ぶりになりました。
 確かに、一局面として、ドンバス平原における緊要な地点であるセベロドネツク正面でロシア軍に突破から小包囲され、更に翼側から2重包囲されて、退路を断たれそうなウクライナ軍の局地的後退が起きています。

 メディアは、セベロドネツクはもはや陥落し、ルハンシク州のみならず東部2州を諦めるべき時が来たかのような勢いで報道しています。猫も杓子も、ウクライナの戦況がロシア優勢にひっくり返ったようなあまりの軽率な報道ぶりに、メディアの底の薄さを痛感します。
 ロシアの「ルハンシク州の90何%を掌握した」などという声明に惑わされず、ウクライナの徹底抗戦を見守りましょう。戦況は一進一退と申し上げた通り、ロシアとウクライナの接触線ラインは局地的に押しもすれば退きもするので、メディア報道にいちいち一喜一憂されませんように。
 
 戦争指導者の頭の中の戦局というものは、2次元の地図上で見る一局面の攻防の前線ラインの優勢劣勢のみならず、広く全正面を俯瞰的に見て全般状況を把握するとともに、更に時間軸の過去・今・今後の奥行きをもって総合的に戦況を判断すべきものです。セベロドネツク正面で苦戦しているウクライナのみならず、敵のロシアも実情はギリギリのところで苦しい戦いを続けています。長期膠着戦は我慢比べであり、そして今こそが我慢のしどころなのです。
 ゼレンスキー大統領の頭の中では、セベロドネツクという局地的劣勢をもって西側諸国が腰が砕けてヒヨってしまい、ウクライナ支援を盾にとってウクライナに妥協を促す和平協議推進路線に転換されるのが何より怖いところです。

 ですから、日本の皆さん、メディア報道で一喜一憂せず、全般状況から総合的に、長ーい目で見てウクライナを支援していただければ幸甚です。

戦況は一進一退
 では、西側公開情報の中で一番信頼できる米国の戦争研究所(Institute of Study of War(ISW))のUkraine Conflict Updates(2022年5月30日付)に基づき、戦況をザックリ概観してみましょう。

 各正面の概要は次のような状況です。
 ロシア軍の攻撃構想に合わせて4つの作戦正面に分けて述べます。
①主作戦正面: 東部(ドンバス地域)正面(イジュームとドネツク及びルハンシク正面における対ウクライナ軍包囲作戦)
②支作戦正面: マリウポリ正面(マリウポリの完全掌握のためのアゾフスタリ製鉄所の掃討戦)
③支作戦正面: ハルキウ正面(ハルキウから部隊を北に転じて東部正面の取作戦正面のための後方補給線の確保)
④支作戦正面: 南部正面(へルソン州の確保)
スライド1

 以下、各作戦正面ごとに概観しますが、地名などの細かな話は分かりづらいと思いますので、各作戦正面の戦況図の色を見てください。
ここ数日の攻防の進展として、黄土色(オレンジ?)がロシア軍がここ数日で新たに突破・奪取した地域、水色部分がウクライナがここ数日で反撃して奪還した地域、です。

<①主作戦正面:ドンバス平原正面>
 東部戦線ドンバス正面のロシア軍の作戦目的は「ドネツク州及びルハンシク州2州の完全掌握」であり、そのための作戦目標は「ドンバス平原に主力部隊を集結させたウクライナ軍を包囲・殲滅する」ことである。
スライド2
スライド3
 セベロドネツク正面において、ロシア軍は同市所在のウクライナ軍を包囲しつつある。5月30日現在、セベロドネツクの北東を支配してウクライナ軍を正面に拘束し、東翼側から小包囲して同市の南東郊外に回り込んだところ。包囲部隊は南東から南に回り込んで包囲を達成すべく、、トシキフカ、ウスティニフカ、ヴォロノヴェ、ボリフスケ、メトルキン等の地域で戦闘中。ロシア軍は主努力をセベロドネツクでのウクライナ軍の包囲・撃滅に注いでおり、大量の兵力を集中しつつある。ロシア側の主張では、シヴェルスキー・ドネツ川の南岸全体を既に奪取した模様。

 スロヴィャンスク及びバルヴィンコヴェ正面では、イスクにて一旦攻撃態勢を再編成中の模様であり、この正面での攻撃は失敗している。また、イジュームの南30キロにあるクルルカへの攻撃も失敗した模様。攻撃が進展しないこの正面での戦力増強のため、クピャンスク付近に鉄道橋を再建し、部隊を増強する模様。イジューム地域の部隊を南東へと移動させる兆候が見られ、今後スロビャンスク正面の攻撃に重点をシフトする可能性が高いとみられる。このため、2軸に分け、イスクから南東方向へ、及びライマンから西方向へ、2方向から同時に攻撃前進する模様。ロシア側の主張では、30日の時点でライマンとスロヴィアンスクの間のスタリー・カラヴァンとディブロバを奪取した模様。しかしながら、ロシア軍の現在の攻撃はセベロドネツク正面の包囲作戦なので、主努力はそちらに傾注しているため、スロヴィアンスク正面の攻撃に割ける兵力は限定され、攻撃が進展する見込みは低い。

バフムト正面のロシア軍の攻撃は、その目的がバハムト市の占領ではなく、バハムト北東にあるウクライナの後方連絡線を断つことを狙いとした攻撃を続けている模様。

<② マリウポリ正面>
  (画像なし)
 マリウポリ正面のロシア軍の作戦目的は「マリウポリの完全占領」であり、そのための作戦目標は「ウクライナ軍守備隊の縮小」である。この作戦正面に関する記述なし。掃討戦は終了した可能性がある。
 
<③ ハルキウ正面>
 ハルキウ正面におけるロシア軍の作戦目的は、「イジュームへと延びる後方連絡線を確保する」であり、このための作戦目標は、「ハルキウ正面で攻撃部隊だった勢力を北に転じ(撤退させ)、ハリコフの北部の防御陣地を構築・陣地線の維持」をすることである。
ハルキウ正面では、ウクライナ軍にロシア国境付近まで押された態勢であり、ロシア国内からイジュームへと延びる後方連絡線を維持するため、ロシア軍の態勢は防御態勢に転移しており、ウクライナ軍の更なる前進を阻むための砲爆撃で打撃を与えるにとどまる。
スライド4

<④ 南部正面>
 南部正面におけるロシア軍の作戦目的は、「ウクライナ南部で恒久的な支配を確立」であり、そのための作戦目標は「ウクライナの反撃から制圧下に置いたヘルソン州及びザポロジア州を確保する」ことである。
 ヘルソン正面では、ウクライナの反撃著しく、ロシア軍は部隊を再編成し防御態勢に移行し、ウクライナの反撃を阻止する構え。一部でウクライナに奪還された地域を再び奪還している。また、この地域の確保のための増援を受け入れている模様。
 他方、支配したヘルソン州を長期安定的に確保するため、占領地域の行政管理のロシア化活動を推進中。
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 総じていえば、「一進一退」と言っているのがご理解いただけると思います。
 確かにセベロドネツク正面では、黄土色のロシアの新規獲得地域が徐々に広がりつつあり、包囲されつつあります。ここを攻略されると、ロシアが主張するようにルハンシク州の全面支配につながります。しかし、長い戦いの一局面なのです。ウクライナ軍には、何とかセベロドネツクで持ちこたえてもらいたいところですが、一方でヘルソン正面やハルキウ正面では 図の通り、水色の新規奪回地域が広がりつつあります。要するに、一進一退。
 ウクライナには長い戦いを我慢し続けて戦い抜いてもらうしかありません。我々は一喜一憂せずにじっくりと粘り強くウクライナを支援することですね。

(了)

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