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2022/09/28

ロシアの占領地併合、動員令、核の脅し:プーチンの頭の中と実態の乖離

exile.jpg
cars to escape
上:2020年9月25日、動員招集から逃れるためジョージア国境に急ぐロシア市民(People carrying luggage walk towards a customs checkpoint between Georgia and Russia some 25 km outside the city of Vladikavkaz on September 25, 2022. Russia's Federal Security Service has deployed soldiers and an armored personnel carrier to the country's border with Georgia as men attempt to flee Vladimir Putin's partial military mobilization.)
下:ジョージア国境に長蛇の列を作るロシア市民の車列(Traffic jam near Russia's border with Georgia, 25 September 2022)
(上下とも画像は、2022年9月26日付Newsweek記事「Russia Deploys Soldiers, Armored Vehicle to Georgia Border Amid Exodus」より)

「ロシアの占領地併合、動員令、核の脅し」の決定から1週間経過
 前回のブログでも述べましたように、2022年9月21日の段階で、ウクライナの反撃攻勢に押され気味であることに危機感を感じたロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻でロシアが占領している地域を住民投票で併合を急ぐとともに、押され気味の戦線を巻き返すために予備役の部分動員を開始し、更に、併合後の占領地はロシア本土となるため「国土防衛のためには核兵器使用も辞さず」というケツをまくった姿勢を示しました。そこから1週間経過しましたが、あにはからんや、プーチンの頭の中で「こうすればこうなるだろう」と計算していた状況とは違う絵姿が現実のものとなってきています。
 賢明なプーチン大統領のことですから、ある程度の内外の反発や施策遂行上の現場の不協和音は想定していたものと思いますが、一週間経過してみると、その実態はプーチンの想定をかなり逸脱した状態になっていることに驚いているのではないでしょうか。

誤算1:「占領地併合」は同盟・友邦国にも受け入れられず
 プーチンの頭の中では、西側諸国から批判や非難を受けるのは当然想定内のことですが、旧ソ連邦で現在もロシアとCSTO(Collective Security Treaty Organisation)という集団安全保障の同盟国であるカザフスタンから「承認しない」との事前通告をされています。ちなみに、カザフスタンはウクライナ侵攻自体も容認しておらず、ウクライナ侵攻への派遣要請も拒否しています。また、ウクライナ侵攻に「賛同」し侵攻拠点にもなったベラルーシは、併合についての態度を明確にしていません。(参照:2022年9月27日付Newsweek記事「Putin Ally Promises Refuge to Russians Fleeing 'Hopeless Situation'」)

誤算2:「動員令」に国民は笛吹けど踊らず
 プーチンの頭の中では、国際的な批判や避難は想定内どころかアウトオブ眼中であって、むしろ国内においてはほとんどの国民の理解と信頼を得て、前線の兵士と国民は一致団結する方向へ進むと考えていたのではないでしょうか。今回の発表で契機となって、これまで日常の国民生活とかけ離れたウクライナとの紛争に対し関心が高くなかった国民にとり、自らの国家、地域、家族の問題であると再認識するであろうと期待していたのではないでしょうか。勿論、国民の一部には政府の決定に反対する輩というのは常に存在するので、動員をめぐって一部で反対運動や混乱があるのは想定内だったでしょう。

 プーチンの計算では、これまで割と無関心だった国民は今回の決定を通じて官製メディアの報道で現状認識や政府の方針に対する理解が促進される、というものだったでしょう。特に、実は今回のウクライナとの紛争は、ウクライナ領域内のロシア系住民やロシアとの併合を望む住民達がナチズムに冒されたウクライナにより危機に瀕しており、隣国ウクライナとNATOが共謀してロシア国家を侵そうと企てている。この親ロシアの地域の窮状を救うため、特別軍事作戦のもとでロシア軍が戦ってるが、米欧の最新装備で力押しでくるウクライナ・NATO 同盟軍に対し、ロシアの将兵は非常に苦戦している。国民よ、ロシア国家は今危機の中にある。特別軍事作戦の達成のため、予備役を部分的に動員する。来たれ!予備役兵よ!国民よ一致団結して戦おうではないか!・・・という一昔前の思考ですね。

 ところが、実際に起きているのは、動員や戦争に反対する猛反発、デモ、徴兵忌避のための国外脱出ラッシュ、入隊事務所や職員への放火や発泡などのテロ行為、…等々でした。それも、プーチンの想定の幅をかなり超える人数や各地への飛び火、頻度や規模の拡大なのではないでしょうか。既に、ロシアと地続きの隣国であるジョージア、カザフスタン、モンゴル等の国境では何キロにも及ぶロシアから逃れるための自家用車の列が連なり、空港・鉄道・港湾は大混雑し、陸海空の国際便の予約は満杯・価格は高騰・予約ブースはダウン…等々、枚挙に暇がありません。ジョージア政府やカザフスタン政府が流入してくるロシア人に対し拒否しない決定をしています。この辺もプーチンにとって計算外だったことでしょう。ちなみに、ロシアは間もなくこの国境に入隊受付所を設置する模様です。国境を越える前に入隊受付という名の検問を設ける訳です。新たな混乱の種ですね。(参照:2022年9月27日付BBC記事「Ukraine war: Russia to open war enlisting hub on Georgia border」)

 また、動員をめぐって各地で混乱も起きていて、それへの反発も大きい状況です。予備役兵18才~60才の健康状態などの動員条件適格者を選択的に動員の召集令状が行くはずだったのに、実際には傷病者や体の不自由な方、高齢者、そもそも予備役でない(軍隊経験のない)人まで召集令状が来るなど、相当混乱している模様です。これはロシア政府が地方政府に示した動員ノルマを達成するため、地方政府の職員が住民リストから適切に選定せずに手続きしていることが原因のようです。(公表上は「30万人の予備役動員」ですが、一部のロシアの独立系メディアの報道では「100万人にも及ぶ」といわれていますので、地方政府もノルマ達成に必死なのでしょう。)ロシア政府はこれを承知して拡大解釈し、「動員をめぐる国民の動揺は、全て一部の地方政府の官僚の誤った違法な手続きに原因と責任がある。これを直ちに正す。よって国民の動揺は解消される」というメッセージを繰り返し官製メディアを通じて国民に流しています。(参照:2022年9月26日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, SEPTEMBER 26」)
 ここまでくると、「誤算」というより「誤解」、いや「捏造」や「すり替え」ですね。ロシア国民は手続きミスに怒っているのではなく、戦争や動員に反対しているのです。プーチンにとっては、ここまで反対されると思ってもみなかったでしょうが…。

誤算3:「核兵器使用」実態はお粗末過ぎて使えないかも…
 プーチンの頭の中では、西側諸国から批判や非難を受けるのは当然想定内のことですが、自国軍の核兵器は量も質も米国と並ぶ「最強のラインナップ」と認識していたと思いますが、実態はかなりお寒いようです。これでは本当に核兵器を使用する段階に入った際、現場ではプーチン大統領の想定した状況とは根底から違った問題が生じる可能性があるようです。

 プーチンが自国の核兵器に絶大の信頼を置いているのは、戦略核兵器、特にボレイ級攻撃型原子力潜水艦の近代化に巨額の投資をしていることなど、耳に入っている報告は準備態勢もバッチリの最新鋭のものの話だけでしょう。その他の戦略核兵器、例えば、サルマト大陸間弾道弾などは、恐らくプーチンの想像の中にしか存在しないものです。要するに、装備はあってもやや旧式で、戦略核兵器としての準備態勢が維持されてると言える状態ではない模様です。特に、前回のブログで述べたように、実際にウクライナ戦争で核兵器を使用するとすれば、それは長射程かつ大規模な破壊力のある「戦略核兵器」ではなく、射程も短く破壊力も限定された小型の誘導弾や砲弾などの「戦術核兵器」でしょう。そういう戦略兵器でないものほど、現在のロシアでは平素の整備や管理が超杜撰な状態であり、実際に使用できる状況ではありません。これらの非戦略核弾頭は、この30年もの間、10数ケ所の核弾頭貯蔵施設に眠った状態で厳重に管理されています。いわゆる「油漬け」状態。これをイザ使うとなったら、この30年、誰も訓練もしていない、弾頭を取り付けて撃ってみたこともない兵器を使うという危険な状態になります。戦術核兵器を使う、というトップの判断が出ても、それを必要な時期・場所で求められた形で使用できるか、極めて疑問です。要するに、「核兵器の使用」は概念上の想定ではあるものの、実際の使用に当たっては使用に耐える状態ではないものなのです。使用部隊も使用の経験のないほど油漬けになっていた「使えない兵器」を使用する、という話なのです。核使用をチラつかせるプーチンの瀬戸際政策は、概念上は存在しても現実とはかけ離れている状況なわけです。
(参照:2022年9月26日付Eurasian Daily Monitor記事「Putin’s Botched Mobilization and Nuclear Non-Option (Publication: Eurasia Daily Monitor Volume:19 Issue:141)」)

プーチンも遂に焼きが回ったか
 2000年の大統領就任から22年、途中で2008年~2012年にメドベージェフに譲位したものの院政を敷いた後にまた返り咲いて、終始ロシアの最高権力者であったプーチン。彼にも、ついに焼きが回ってきましたね。抜け目なく才気煥発にして狡猾だったKGBの権化のような往時のプーチンは、今や往時の冴えは剥落してきたようです。もはやプーチンの頭の中にしかないロシアを動かしているのかもしれません

(了)

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2022/09/22

プーチン「占領地併合、予備役動員、核の脅し」と来るならウクライナに勝機!

スライド1
スライド2
モスクワのセントピータースブルグにおける反戦・反動員の市民デモとそれを鎮圧する警察(Take a look at some of the scenes in Moscow and St Petersburg.)(2022年9月22日付BBC記事「Russia begins drafting new troops to fight in Ukraine」より)

プーチン「占領地併合、予備役動員、核の脅し」
 2022年9月21日、ロシアのプーチン大統領は国民に向けた演説にて、占領地の住民投票によるロシアへの併合、その領土保全のための予備役召集の必要性を説きました。加えて、この領土保全のためには核兵器を含めあらゆる手段を使うとも述べました。ルハンシク、ドネツク、ザポリージャ、へルソンの4州、(加えてクリミア)をロシアが我が領土とし、この領土保全のためには核をも使うぞ!というケツをまくった姿勢を内外に宣言することで、内にあっては予備役動員と徹底抗戦のための国民の愛国心高揚を、外にあっては(特に欧米に)核兵器使用の脅しで対ロ強硬策に二の足を踏むだろう、と考えたのでしょう。

 しかし、私見ながら、この決断では前線への戦力強化に繋がりません。予備役の動員でしかないので戦力造成までに時間を要し、兵力投入にも十分な武器・弾薬・各種補給品の再補給も成されません。こてでは苦戦している現在の戦況を跳ね返すことは出来ず、むしろウクライナ戦争の敗北を早め、ひいてはプーチン政権崩壊を早める結果となる、と推察します。

①住民投票による占領地の併合

 プーチンの決定通りに、住民投票については今後数日中に行われ、ロシアは占領地をロシアに併合する政策については割とやすやすと進捗させるかもしれません。占領地の住民投票結果で、「ロシアへの併合を住民自らが選んだのだ」という理屈で、一応の民主的手続きによるロシアへの併合を進める政策です。これが国際社会から認められず非難の的となり、厳しい経済制裁を課されるであろうことは、プーチンは百も承知なのでしょう。むしろ、既に十分厳しい経済制裁下でこの10年やってきているので、国際社会の非難や制裁などタカが知れている、というケツのまくり方なのでしょう。要するに、江戸時代の鎖国的なマインドで、「うちはうちの考えで自己完結でやって行く。うちなりの民主的手続きで正当な領土保全を図るのだ!世界にはうちと外交や経済活動で連携する国だってある、ほっといてくれ!」というケツのまくり方です。
 しかしながら、住民投票は建て付けから危うい所があります。もともと今回の侵攻前から親ロシア武装勢力が実効支配していたルハンシク・ドネツク東部2州の南東部では親ロシア系住民が多いので比較的整斉と進むかもしれませんが、その東部2州やへルソン州やザポリージャ州の北西部ではウクライナとの交戦により「弾が飛んでくる」地域です。また、へルソンやザポリ-ジャではパルチザン活動(反ロシア親ウクライナの抵抗組織)が活発ですので、住民投票はテロ攻撃の目標ですから、住民投票は荒れるでしょうね。概して、住民投票による占領地併合は準備不足の中で強行するため、杜撰な手続きによる手前味噌な併合の強行となるでしょう。また、国際社会からは非難轟々、領土として承認できないので、今後国際的な外交や経済で大きなハンデとなるでしょう。

②予備役の動員
 予備役の動員については、全予備役の数%の30万名とのことで、それでも動員できれば大兵力ではあります。プーチン大統領が期待したのは、一般市民の徴兵・招集は法手続き上及び一般市民からの反発のリスクがあるし、その新兵を戦力化するための教育訓練のスタッフも所要期間もかかるので、この手は取らず、予備役であれば軍務経験のある者たちなので、戦力化するための教育訓練所要は最小限ですむだろうというリスクの低さでしょう。
 しかし、その期待効果として求められた動員された兵士の前線への兵力投入や戦力発揮は、人数分だけ軍事力になるという「足し算」にはならず、むしろ「引き算」になると考えられます。ここにはロシアが直面する現実の壁が幾つかあります。まず予備役と言っても教育訓練の不十分、加えて軍全体で不足している武器・弾薬・装備という兵站の不十分、そして彼らを指揮する小隊・中隊・大隊等の各級指揮官が不足がしていること、これらの現実の壁が高く、およそ「戦える戦力」にならないだろうと推察されます。不十分な教育訓練のため、与えられた武器・弾薬・装備品が使いこなせなかったり、そもそもモノが不足していたり、また部隊を指揮する指揮官も不足しているのでポンコツ指揮官が無理な命令で無理な任務を要求してくる、そんな戦場ですから、予備役30万の兵力は通常の軍隊の30万ではなく、3割引きとか4割引きした戦力でしかないのです。前線の兵士の士気、すなわち戦う気力も、そもそもウクライナ侵攻に「大義」がないので、「自分の郷土を、家族を守る」という祖国防衛の大義すらない状況です。士気が低い、ということは任務や命令に従わず、陣地や武器を置いて敵前逃亡したり降参したりすることが起きるわけです。
 ちなみに、そもそもの予備役招集の段階から別の問題が立ちふさがっているようです。数%の確率で予備役登録のある市民に召集令状が送付される訳ですが、それを受けて召集に応じて出頭して来るのか?という問題です。予備役登録のある市民とその家族は気が気じゃない状態ですよね。今回の予備役動員のニュースを受け、航空機国際便や列車の国際便の予約ブースに予約が殺到し、受付電話もネット受付もパンクしたそうです。この示すところは、召集前に国外に逃亡しようという予備役の方とその家族が沢山いる、ということです。この様子だと、30万揃わない可能性が極めて高い、と言えるでしょう。

③核兵器による恫喝
 核兵器保有国の伝家の宝刀、「あらゆる利用可能な手段」という言葉でオブラートに包みながらも「核使用の威嚇/脅し」をプーチンは使ってきました。
 現在ロシアにある核弾頭は5,977発(米国の推定値)、このうち約1,500発が旧式で退役・解体される予定、残りの約4,500発のほとんどが戦略核兵器(弾道ミサイル、または長距離ロケット)です。万が一、今回プーチンが「核兵器を使う」とすれば、戦略核ではないでしょう。ロシアとウクライナでは地理的に近すぎますから。使う可能性があるのは、いわゆる戦術核という近距離のミサイル等で目標に爆発する小型で破壊性の低いものと考えられます。もちろん、核兵器ですから爆発による熱線、爆風、放射能という核兵器の3大威力は揃っていて、破壊性が小さいと言ってもその絶対的な威力は通常爆弾とは比較にならないほど大きいでしょう。使うとすれば、例えばロシアとしては、守りたい核心としては元々の親ロシア勢力の実効支配していた(ロシア系住民の多い)東部2州の南東部やクリミア、そこを守るためにバッファゾーンを取って「この線から絶対下がるな!」という作戦上の外郭となるライン、具体的にはへルソン市(ドネツ川北岸)の攻防で、いよいよ北岸からロシア軍が撤退しなければならない時期に、占領するためにへルソン市占領のために進軍・集中してきたウクライナ軍に対し、「へルソン市の使用の拒否」及び「進軍してくるウクライナ軍の殲滅」を目的に戦術核を使用する、というようなことは十分考えられます。この1発で、へルソン正面のウクライナ軍の出足は必ずやストップします。負傷した市民や将兵を後方に下げるのが精一杯で、東部戦線などの他正面での反撃攻勢もストップするかもしれません。国際的な非難は受けるでしょうが、この1発でウクライナの反撃攻勢を止め、ここから先は中国が仲介に出てきて停戦交渉に入ることも十分あり得るわけです。なぜなら、ロシアにとって有利な今の接触線を半ば境界とすることを前提に、停戦交渉を有利に展開できる訳です。
 しかし、核兵器のサガとして、使ってしまったら最後、逆に使った瞬間にロシアの「負け」でもあります。「核兵器を使用した国」という消えない烙印が押され、国際社会からは徹底的な経済制裁を受け、孤立します。未来永劫とも世界の指弾を受け、何世紀たっても悪行として語り継がれることになります。普通の神経なら核兵器使用という判断は避けますが、今、プーチンはその瀬戸際を歩いている状況です。

ロシアは敗戦を早め、プーチン政権崩壊も早める
 ①②③の占領地併合・予備役動員・核兵器使用発言に関連して、プーチンの今回の決定直後から、これまでサイレントマジョリティだった静かなる一般市民が反対の声を上げ始めました。このブログの冒頭の画像がまさにそういうシーンです。反対デモをやると、すぐにロシアの官憲が鎮圧し、身柄の拘束・収監をしているようですが、今回ばかりは「もう黙っていられない」とメディアの取材に毅然とした態度で答える活動家ではない一般市民の声が多く見られます。「プーチンにNOを」の声を上げ始めた一般市民のムーブメントは燎原の火のように、ロシア国民の水面下に広がっているでしょう。いくらなんでも…と。他方、プーチンにしてみれば、今回の決定を国民も重く受け止めて領土保全に賛同し、予備役も喜んで応召するものと思っていたのではないでしょうか。ところが現実はさにあらず、笛吹けど踊らない国民に苦々しく思っているでしょう。それと同時に、逐次追い込まれつつある自分に気がついているでしょう。

 私はこれまで、この戦争は冬を越す長い闘いになると読んでいました。ロシアのサイレントマジョリティのロシアの一般市民は誰も戦争継続を望んではいないでしょう。しかし、プーチンは侵攻をやめる気は毛頭ない。だとすれば、私はこう思っていました。プーチンはウクライナの反撃攻勢を阻止し戦勢を取り戻すため、「ロシア本土がウクライナに攻撃され侵略されつつある」と解釈できる偽旗攻撃を捏造して、これをキッカケに、第2次世界大戦の独ソ戦争に勝った「大祖国戦線」を国民に想起させ、国家非常事態宣言を発令して国家総動員体制と戒厳令を敷くだろう、そして強烈な国民大動員をかけて、総力戦でウクライナ戦争に臨むのではないか、と思っていました。まさかそんなことはすまい、と皆さんは思うかもしれませんが、プーチンならその位の思い切ったことをするだろうと思っていました。ところがビックリ、今回の決心と処置は中途半端もいいところ、何とも踏ん切りの悪い、ケツの穴の小さい結論でした。前線のロシア正規軍の将校達は陣地の中で絶望しているでしょうね。
 だとすればチャンス到来!プーチンがこういう手で来たからには戦闘は流動的に動きます。思っていたより早く決着がつく可能性が出てきました。

 そうしたことを背景に、私見ながら一案があります。
 ウクライナ軍は反撃攻勢を今のうちにイケイケドンドンで進めるべきです。今の接触線をぐいぐいと押して行くのです。接触線の攻防戦で住民投票を阻みます。どうせロシアは住民投票は無理くりに強行するでしょうから、それでも併合は起きてしまうでしょう。しかし、それでも押せ押せで反撃攻勢を進めましょう。ドラスティックな戦闘力強化のない、戦力造成まで時間のかかる今回のロシアの政策なら、前線は当面は増援部隊も再補給も得られないままです。今がチャンス!行けるとこまで押して押して押しまくりましょう。
 と言いますのも、ロシア軍の将兵の心を読むに、陣地で死ぬまで頑強に戦って死守するつもりだったロシア正規軍の将兵たちは、今忸怩たる思いで前線の陣地に身を置いている、と思うのです。予備役が30万?しかも教育訓練不十分で、武器装備も追加で来ないのかよ、と。戦えない兵士が追加されても返って始末が悪く、士気も低くて敵前逃亡してしまう。これでは戦えないじゃないか、と。なぜもっとドラスティックな増援や再補給で前線に希望を与えてくれないのか?…と、ロシア軍は今、浮足立っている状態です。
 今がチャンス!ロシア軍はそれでも予備役を前線に送ってくるでしょうが、どうせ直ぐに揃わないし時間がかかり、来援したところで大した戦力ではないので、アウトオブ眼中です。今のうちに押せるところまで押してしまいましょう。冬を越すどころか、クリスマス前に終戦となるかも。
 そして、そのうまくいかない戦況にロシア国民はついにプーチンを見限るでしょう。もはや、多くの国民の信を失っているでしょう。いや、政権の側近かFSB(旧KGB)が宮廷内クーデターでプーチンを暗殺するかも。待ちに待ったプーチン帝国の崩壊が今始まっている…。
 It won’t be long…..

頑張れ!チャンスだウクライナ!

(了)

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2022/09/18

ロシア軍北部戦線ハルキウ州敗走:背景に劣悪な指揮、装備、兵士

recruiting in jail
兵士不足を補うため刑務所の囚人に志願を募るロシア民間軍事会社ワグネル(2022年9月17日付BBC記事「Russia's Wagner boss: It's prisoners fighting in Ukraine, or your children」より)

敗走したロシア軍将兵の声なき声
 2022年9月初旬のウクライナの北部から東部にかけての反撃攻勢が成功裏に進むや否や、連日ウクライナ情勢のマスコミ報道がかしましくなされています。その尻馬に乗るようにロシアをこき下ろすような話を書きたくないのですが、そんな記事の中に現在第一線にいるロシア軍の将兵が直面している様々な困難な問題が見られ、今後のウクライナ戦争の行方にも大きく影響しそうなので、そうした要因に着目してみたいと思います。特に、ロシア軍が撤退したハルキウ州に残されたロシア軍の武器や弾薬、様々な遺棄資料、或いは、ロシア国内での軍事ブロガーの軍や政府への批判の中に、耳を傾けるべき前線のロシア軍将兵の声なき声が聞こえてきます。

敗走の背景に指揮、装備、兵士の質の問題が
 北部戦線ハルキウ正面でロシア軍がかくも脆くも敗走するに至った背景にはどういう要因があったのか?について、軍事作戦の優劣以外の要因を焦点に、いろいろな記事を読み漁ったところ、①指揮、②装備、③兵士の資質、の3点で現場のロシア軍将兵がひじょうに困難な状況に直面している模様です。これが故に、ロシア軍は本来の頑強な抵抗や我慢強さを発揮することなく、意外に脆くも敗走に至ったのではないか、と推察されます。

①指揮
 頼りない指揮、端的には「指揮官」が本来の指揮を執っていないことが問題のようです。それを端的に示す例として、前線の将兵達が「There is no opponent worse than your own commander who is a… (=バカな指揮官は敵より怖い)」という刺繍のパッチを戦闘服に貼って行動している、そんな画像がロシア国内の軍事ブログに出回っているそうです。(参照:2022年9月17日付BBC記事「Ukraine war: Russian retreat exposes military weaknesses」) どこの軍隊でも、たまにバカな指揮官はいるものです。そんな場合、将兵達は腹ではそう思っても(たまに将兵間の酒のツマミに上司の悪口をいうことはあっても)、自分の考えをパッチに刺繍して貼るなんて自殺行為はしませんよ。特に、上下関係の厳格な以前のロシア軍ではあり得ないことです。ロシア軍なら見つかったら全員摘発され、拷問のあげく反省独房に入れられ、相当の痛い目に遭うハズです。自衛隊ですら、反省房はないもののこってりと指導され、「注意」処分を受けるでしょう。そのはずが、こうして隊員達が上官の頼りなさをこき下ろすパッチを隊員共有のコンセンサスかのように平気で貼っている、….近代軍隊として考えられない状況です。要するに、小隊長クラスの身近な将校を含めて、小隊・中隊・大隊・連隊等の各級指揮官の「部隊指揮」が成り立っていないのでしょう。これでは軍事作戦の実行を命じる「命令」の尊厳は無力化してしまい、部隊の軍事行動は成り立ちません。
 こういう状況であれば、指揮官の「撤退」命令を待たずに、将兵が自分の守るべき陣地を捨てて勝手に逃げ出し始め、もはや統制の取れない状況で「敗走」に至ったのであろうことは、容易に想像できます。

②装備
 2022年2月下旬にロシアのウクライナ侵攻が開始されて以来、特に、電撃侵攻の初期作戦において、第2次世界大戦後最大規模のロシア軍の大戦車軍団がウクライナの各正面で機動・展開し、惜しげもなく精密誘導弾などの新鋭兵器が撃ち込まれました。恐らく短期決戦の算段をしていたのでしょう。それが半年を超える長期戦となり、ロシア軍はもはや「矢弾尽きる」状態になっています。
 前線の将兵は、今日明日の装具・武器・弾薬・各種補給品にも事欠いている状況です。その窮状は、現場の将兵が家族との間でとる電話連絡やSNSを通じてロシア国内にも知られ、国内でクラウドファンディングが始まっている模様です。国家財政からの支出ではなく市民レベルの資金集めにより、既に過去3ヶ月間で約15億ルーブル(1700万ドル)を集め、戦う装備の武器・弾薬やドローンに始まり、兵士が身につける戦闘服や防寒具・靴下・下着に至るまで、ありとあらゆる補給品を前線に送るため、資金集めが活発に行われている…。状況はそんなところまで来ているようです。民間がお金で軍需品を買って前線に寄付する?そんなことができる国なんですね。

③兵士の資質
 侵攻開始以来、ロシア軍将兵の人的損耗は相当な数字に至っていると思われます。ロシア国防省の発表では千名程度のようですが、ウクライナ国防省の読みで4万名、米国国防省の読みでも1万5千名は戦死しているとのこと。戦線での人的損耗の交代要員をロシアは補充したいわけですが、今回の戦闘は他国との「戦争」ではなく、特定の目的のもと限定的な軍事目標を達成するための「特別軍事作戦」という仕切りになっており、国家としての徴兵や動員の大号令をかけていません。これに代えてロシア政府がやっているのは「志願兵の募集」です。
 ところが、この「志願兵」がクセモノ。ロシアの周辺少数民族をお金で釣って雇って少数民族の志願兵大隊を作ったり、東部2州などの占領地の男子を半ば強制で動員したり(もはや占領地の男性は老いも若きも駆り出されている模様)、果ては悪名高きロシアの民間軍事企業ワグネルが刑務所に服役中の囚人を動員(一応「志願」兵らしい)して、これらの動員された志願兵は、わずか1週間の新兵訓練だけ受けたのみで前線に放り込まれている模様です。(参照: 2022年9月17日付BBC記事「Russia's Wagner boss: It's prisoners fighting in Ukraine, or your children」)
 いやぁー、これでは戦えないでしょうね。兵士の資質なんて、1週間で養えるものではありません。彼らはまだ田舎の市井の市民のまま、或いは囚人のままでしょう。彼らに銃だけ持たせて「戦え!」と言っても、人数だけ揃っても部隊の軍事作戦行動になりませんよ。

間もなくウクライナ戦争の天王山となるヘルソン市攻防戦が始まる!
 あまり着目されていませんが、ISWの毎日の分析を見ていて、私見ながら見出しにように「間もなくウクライナ戦争の天王山となるヘルソン市攻防戦が始まる!」と見ています。9月初旬の北部攻勢を主攻撃と思っているど素人なマスコミ報道に騙されないでください。南部ヘルソン正面がウクライナ軍の主攻撃です。
 否、ヘルソン市攻防戦はもう始まっているのですが、ロシア軍のヘルソン市の防御陣地が固いので戦況が進んでいないだけです。間もなく、ウクライナ軍は血の代償を払いつつ、いずれかの攻撃軸で血路を開き、ここから多くの両軍の血を吸うであろうヘルソン市攻防戦が始まると推察します。
 ロシア軍は、引き続き前述の3点の困難を患いながらも、ここで頑強な抵抗を示すと思います。世界はロシア軍のど根性をここで目撃する、私見ながらそう思っています。

(了)

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2022/09/14

プーチンがハルキウ敗北を認める!とは言え、まだまだ長期戦は続く。アホなイケイケ報道に注意

プーチンがついにハルキウ敗北を認める!
 状況が急に動き出しました。
 2022年9月13日、ロシアの大統領府クレムリンが初めてハルキウ州でのロシア軍の敗北、撤退を認めました。
 いやー、プーチンが「敗北・撤退」を認めたのは、プーチンが大統領就任以来初めてのことです。ロシア大統領府にしてみれば、上を下への大騒ぎの異状事態です。プーチンは、現在の戦況を国民に知らしめ、ハルキウでの敗北の原因は軍指導部の作戦指導と大統領府への補佐に問題があったことに責任をすり替えている模様です。(参照:2022年9月14日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, SEPTEMBER 13」)

とは言え、まだ長期戦は続きますよ、ご留意を!
 アホなマスコミは、もはやウクライナの勝利が確定しているかのような報道ぶりですが、賢明な日本国民の皆様は、マスコミのアホな報道にミスリードされませんように。
9月13日と5月23日の戦況比較
今回の反撃攻勢(9月13日)の戦況図とセベロドネツク攻防戦の頃(5月23日)の戦況図の比較: 実はそれほど大差はない(2022年9月13日付及び5月23日付IISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT」を基にブログ主が加工)

 プーチン大統領という男を、いや、ロシアという国の底力を見くびり・見誤ってはいけません。全般戦況図を見てください。確かに北部ハルキウ正面でウクライナの失地回復が進みました。素晴らしいことです。しかし、東部ドンバス平原では、ハルキウ正面の南=ドンバス平原の北に当たる要衝イジュームを獲った、とは言え、両軍の多くの兵士の血を吸ったドンバスの要衝セベロドネツクはまだロシアの支配地域ですし、全般的にはまだまだそれほど数週間前と戦況図そのものは変わりがありませんよ。ロシアの陣地強度が薄かったハルキウ正面で戦況が進んだだけで、今後の東部ドンバス平原正面の戦いは、今回の戦争前から親ロシアが支配していた地域を核心に、非常に固い防御陣地線になります。イケイケドンドン的に攻撃前進できるものではありません。南部に目を転じれば、ほとんど接触戦は変わっていないのです。もちろん、南部へルソン正面でウクライナ軍は攻勢をかけていますよ。しかし、ロシアの陣地防御が頑強で、なかなか進んでいないのです。今後、ロシア軍は部隊や陣地線を再編成して、いよいよもって頑強な抵抗を示すものと推察します。もちろん、全般状況はウクライナが逐次に押していくものと思いますが、スケジュール感的には今年の冬まで、長―い持久戦闘を持ちこたえるでしょう。ナポレオンの攻撃に耐え、ナチスドイツの猛攻に耐え、冬将軍を味方にして持久戦を戦ったロシア軍の底力を想起しなければいけません。・・・これが現実、これが歴史であって、決してもはやウクライナの勝ちが見えてきたわけではありませんので、ご留意を。

 他方、今回の「ハルキウ正面におけるロシア軍の敗退」という現実に直面して、プーチンも腹をくくったことでしょう。今後は、一部のロシア下院議員が先行して伏線を張っているように、こうなったら国難に対処するため、無関心な国民に「国難」を認識させ奮い立たせる施策を打って、ついに伝家の宝刀「徴兵・動員」に踏み切るのではないか、と推察します。記述が前後しますが、ロシアの下院議員3名がロシア議会の中での発言として、今回のハルキウ敗北に言及し、今後は戦況を国民に正確に伝え、マスコミは無関心な国民を啓蒙し奮い立たせ、徴兵・動員を簡略手続きでできるように、等の要求をしています。(参照:前掲ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, SEPTEMBER 13」) これまで国民の大動員という伝家の宝刀を使うことを手控えてきたプーチン大統領でしたが、いよいよ腹をくくった、と推察します。

「南部攻勢はブラフで北部攻勢で奇襲に成功」というのは事実に反する
 ただ、少し気になるのは、ウクライナの反撃でハルキウ正面でにわかに戦況が著しく進みましたが、アホなマスコミや軍事を知らない学者さんやコメンテーターが、もはやウクライナの勝ちが決まったかのようなコメントがなされています。それ、間違っています。特に、ある報道で、今回のハルキウ正面の勝利は「奇襲」と表現し、「そもそも南部での反撃と見せかけてロシア軍の主力を南部にくぎ付けにし、実は北部ハルキウ正面にウクライナ軍主力を結集させていて攻勢をかけた、それがマンマとうまくいった」かのようなことをシャーシャーと言っていますが、それは事実に反しています。奇襲ではありません。ロシアは確かに、東部ドンバス平原正面でセベロドネツク攻防戦に勝利した虎の子精強部隊を南部へルソン正面に転用するなど、南部の備えを強化していました。しかし、ロシア軍は北部や東部をおろそかにしたわけでも、東部や北部から攻撃されるなんて思ってもみなかったわけでもありません。また、ウクライナ軍も南部攻勢をかけるフリをして実は北部に全力を振り向けた訳でもありません。それが証拠に、8月から9月初旬のいずれの時期でも、北部ハルキウ正面~東部ドンバス平原正面~南部へルソン正面まで、全正面でロシア軍とウクライナ軍は接触戦を維持していて、かつ、全正面で双方が地上攻撃を繰り返してはお互いに撃退していて膠着戦を続けていたのです。 事実、攻勢開始後に、ウクライナ軍は南部を主作戦正面(主攻撃)とし、ヘルソン市奪取を名指して3軸で攻勢をかけて激戦、南部正面のロシア軍が頑強に陣地防御で抵抗し、ガップリ四つ相撲の最中です。ウクライナ軍は、支作戦正面(助攻撃)として北部正面にアゾフ連隊の生き残りのようなイケイケ部隊を当てて、ロシア軍の比較的防御強度の薄い正面にスクリュードライバーのようなネジネジぶりで強行突破し、この正面のロシア軍を敗走させました。これは助攻撃ならではの成果です。助攻撃は助攻撃正面に敵をキリキリ舞いさせることで、主攻撃正面への戦力配分を減じることで役割を果たし、主攻撃に寄与しているのです。今の北部〜東部正面のウクライナ-ロシア両軍の接触線は、元々親ロシア勢力が支配していた線にほど近い一枚前の線です。ここを突破できたとしても、元々親ロシア勢力が支配していた陣地線で止まるでしょう。他方、南部正面はヘルソン市という要衝の攻防戦は相当の血を吸う激戦となりますが、へルソン市を陥落させれば東部まで数線の陣地でロシア軍の抵抗を受けますが、比較的ガンガンいけます。そしてこっちからの方向の攻勢も、結局もともと東部で親ロシア派勢力が支配していた線で膠着戦となるでしょう。

 ロシア軍を侮ってはいけません。繰り返しのようで恐縮ですが、アホなマスコミの報道に惑わされませんように。ロシアやロシア軍にはツッコミどころは沢山あり、ロシア軍が実は弱くて脆いかのように報道されがちですが、アホなマスコミの言説の尻馬に乗って、明日にもウクライナ戦争がウクライナの完全勝利で終わるとか、プーチン政権が崩壊するとか・・・、現実はそう簡単ではありません。ご留意を。

 それでも頑張れ!ウクライナ!

(了)

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2022/09/10

ウクライナの反撃: 北部の助攻撃進展、占領地内の抵抗でロシアに疼痛

car bombing targeting a Moscow appointed official in occupied Berdyansk, Zaporizhzhia Oblast, Ukraine
ロシア占領地内ザポリージャでロシアが指名した行政官を標的としたパルチザンによる自動車爆破テロ (The aftermath of an early September car bombing targeting a Moscow appointed official in occupied Berdyans'k, Zaporizhzhia Oblast, Ukraine)(2022年9月8日付Eurassian Daily Monitor記事「Russian ‘Referendums’ Delayed, Ukrainian Resistance Mounting in Occupied Kherson and Zaporizhzhia」より)

ウクライナの反撃はじっくり着実に進展
 ウクライナの反撃攻勢が開始されてから10日が過ぎ、そろそろ2週目という頃ですが、ウクライナの反撃は目にはさやかに見えねども、ジワジワとじっくり着実に進んでいるようです。

 ウクライナの反撃攻勢の主作戦正面(主攻撃)は南部ヘルソン正面であり、一進一退の攻防戦の最中です。目を引くのは支作戦正面(助攻撃)北部戦線ハルキウ正面での攻撃に進展で、はや1000平方キロにわたる地域を奪回した模様。また、ロシア占領地内の住民に抵抗、端的にはパルチザン活動(テロ攻撃)がロシア化政策を急ぐ占領地行政機関を標的として活発に行われ、ロシアの占領地政策を著しく滞らせています。このウクライナ軍の攻撃と占領地内の住民の抵抗という内憂外患が、ロシアにとっては脊柱管狭窄症による腰から足に掛けての疼痛のように耐えがたい痛みを与えている、と推察します。

南部戦線ヘルソン正面のウクライナ軍主攻撃の状況
 ウクライナ軍の反撃攻勢の主攻撃であるヘルソン正面の攻撃作戦は、西側に流れるニュース等では未だ明確にどのラインまで占領したとか、どの市町を開放した、などの細部が明確になっておらず、表面上はウクライナ軍の進撃は目にはさやかに見えていません。しかしながら、ウクライナ軍当局筋の情報では、数軸の攻撃において2キロ~数十キロの前進を遂げるとともに、ヘルソン正面のロシア軍後方地域において、ロシア軍の後方連絡線、指揮所など指揮通信の拠点、弾薬庫などの兵站基盤を標的に砲爆撃を継続している模様。この際、占領地内のウクライナ住民のパルチザンがウクライナ軍に協力し、ロシア軍の兵站活動を妨害・破壊し続けている模様です。ただし、ロシア軍の抵抗も頑強であり、未だヘルソン市の攻防戦も始まっていません。ロシア側も沈黙を守っており、この姿勢にも薄気味の悪いものを感じます。

北部戦線ハルキウ正面のウクライナ軍助攻撃の進展
 ウクライナは北部戦線ハルキウ正面、ハルキウ市からイジュームのロシアの陣地線において、数軸の攻撃でこれを突破した模様です。2022年9月8日(木)夕の定例の演説においてウクライナのゼレンスキー大統領は、攻撃が進展しロシアから1,000平方キロ(ニューヨーク市とほぼ同じ)以上の国土を奪還、数十の市町を解放した、と述べました。また、大統領側近のミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、ロシア軍はもはやハルキウ正面から撤退せざるを得ない状況であることをツイートしています。(参照:2022年9月9日付BBC記事「Ukraine has retaken 1,000 square kilometres in a week – Zelensky」)

 ロシア側は北部戦線の状況について意図的にコメントしていませんが、ロシアの軍事ブロガーたちの間で現地の状況をすっぱ抜くブログが入り乱れ、ある者は戦況を公表しない国防省をこき下ろし、ある者は北部戦線でのウクライナの攻撃成功を認め、ロシア軍の不甲斐なさを嘆き、ロシア軍の作戦運用について厳しく批判するコメントがあるなど、元々はロシア軍礼賛の愛国ブロガー達が、ここへ来て当惑し始めたことが窺い知れます。(参照:2022年9月8日付ISW記事「UKRAINE CONFLICT UPDATES: Russian Offensive Campaign Assessment, September 8」)

ウクライナ軍の反撃開始と占領地内の住民の抵抗が国民投票を阻む
 ロシアは、元々ロシア系住民の多かったルハンシク及びドネツクの東部2州及びハルキウ州、ヘルソン州とザポリージャ州で、ロシア国内の国民投票と同期した住民投票を行い、住民自らがロシア領となることを希望する形で「民主的手段で住民自らがロシアへの帰属を望んだ」という大義名分を作ろうと企てていました。その目標日は9月11日でしたが、それがもはや延期・延期に次ぐ無期限延期になりつつあります。原因は、9月上旬に起きたザポリージャ州の自動車爆破による行政官暗殺事件に代表される占領地内の住民のパルチザン活動の活発化とこの度のウクライナ軍の反撃開始のダブルパンチです。特に、ハルキウ州は既に占領されていた地域が逐次ウクライナに奪回されている状態ですから、そもそも占領地自体も浮動状況です。

 占領地内の住民の抵抗は、パルチザン活動のような「爆破テロ」や「武装抵抗」などの過激なもののみならず、普通の市井の住民たちもロシア化を強制する占領行政のやり方に頑強に抵抗しています。例えば、住民投票の準備のため、各地域の選挙委員を立て、ドアトゥードア的に名簿作成をしていく作業があるのですが、まず、その選挙委員が揃いません。住民が結託して辞退するなど、弱い者なりの抵抗を示しています。
 また、学校の教師を再教育し、教育のロシア化、学童へのロシア教育を企図していますが、協力しないウクライナ教師が多く、ロシア本土からの教師に挿げ替えています。

 住民投票のみならず、パルチザン活動でロシア本土と占領地を結ぶ物流や後方連絡線に攻撃しているので、占領地内の日常生活そのものにも多大な影響が出始めている状況です。
(参照:2022年9月8日付 Eurassian Daily Monitor記事「Russian ‘Referendums’ Delayed, Ukrainian Resistance Mounting in Occupied Kherson and Zaporizhzhia」)

ロシア占領地内は内憂外患で疼痛に苦しんでいるのではないか
 私見ながら、前述のようなウクライナ軍の攻撃と占領地内の住民の抵抗という内憂外患により、ロシアは疼痛のように耐えがたい痛みに耐えているのではないか、と推察します。 
 というのも、恥ずかしながら私自身が今、脊柱管狭窄症による腰から足に掛けての疼痛に打ちひしがれています。長年自衛隊で鍛えたはずの足腰は、まだ十分に筋肉もスタミナもあるのに…、毎日腕立て・腹筋・持久走など地道な運動習慣もしているのに…、そんなこととは関係なく脊柱管狭窄で足腰の神経が痛むのですよ。まるでセミのヒグラシが鳴くような滲みるような波状攻撃で。これが疼痛っていうんだな…、と痛みを味わっていたら、ロシアは今そんな感じなんだろうなぁ、と思ったわけです。
 ロシア軍そのもの相当疲弊しながらもまだ余力がある状態だと思いますが、ウクライナ軍の砲爆撃やパルチザンの攻撃で後方連絡線や物流に被害を受け、生命線の兵站の動脈が狭窄され、血が行きわたらない状況だと思います。また、住民の抵抗により、占領地内の占領行政も思うに任せず、ロシアからの行政指令の伝達が来て実行に移そうにも、占領地内の行政を実行に移すラインが狭窄され、神経の指示が伝わらない状況だと思います。要するに神経痛状態が起きているのではないか、そう思ったわけです。自嘲ネタですね。

行け行け、頑張れ!ウクライナ‼

(了)

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2022/09/06

ウクライナ戦争の潮目が動き始めた!:少しずつ市町を奪還、当面のヤマ場はへルソン市とザポリージャ原発の奪還か

ukraine flag
奪回したウクライナの街にウクライナ国旗を掲げる!(2022年9月6日付Mail online記事「Russian-installed authorities POSTPONE 'referendum' on whether occupied city of Kherson should come under Moscow's control after coming under heavy fire from Ukrainian counter-offensive」より)

ついに「一進一退」から潮目が動き始めた!
 2022年8月29日に反撃開始を発表して以来、1週間に当たる9月6日(日本時間)現在、未だ戦況全般は明確ではありませんが、反撃の成果が少しずつ見えてきました。9月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説にて、ウクライナ軍の反撃攻勢で南部と東部ドネツク州で計3か所の集落をロシア軍から奪還したと発表しました。(参照:2022年9月5日付NHKニュース「ゼレンスキー大統領 南部と東部で奪還に向けた作戦進展と強調」)激戦地の南部戦線へルソン正面など、まだ戦闘が流動的であることと、ウクライナ当局が作戦の推移を意図的に公表していない政策をとっているため(ウクライナ国防省の戦況ブリーフィングなどの発表が行っていない)、どの地域を奪回したかなどの地域の確保情報は限られていますが、ロシア側の公表や官製メディアなどの1次資料から透けて見えてきたのは、プーチン大統領肝いりで画策した9月に予定されていた占領地域での国民投票が安全上の理由から中止になるなど、ロシア占領地域の行政と物流は著しく低下している模様であることから、ウクライナの反撃攻勢が様々な面でロシアにとってマイナスの影響が出始めていることは間違いありません。もはや、つい先日までの占領地域に対するロシア化などが横行していましたが、もはやそれどころではなく、人的戦力確保のため、占領地の住民を強制的に徴兵して戦力として前線へ押し出し始めているほど、「占領地のケツに火がついた」状況になってきました。

 ウクライナ、ロシアのそれぞれの発表内容やISWの分析を参照すると、・・・全般的な戦況全般は「一進一退」の域にはあるものの、戦勢(戦いの勢い)で言えば、これまで一進一退で滞っていた戦いの潮目がついに動きはじめ、「ゆっくりながら着実にウクライナがロシアを押し出し始める方向に転じた、潮目の動きはじめを今我々は見ている…」、そんな思いがします。

最新の戦況
 ISWの最新の戦況を要約すると以下のような状況です。

 -南部戦線ヘルソン正面において、ウクライナの反撃攻勢が開始されて1週間、数個の軸でロシア軍の最前線主要陣地を攻撃中。前述のゼレンスキー大統領の3つの市町の「開放」発言、及び国防省の中央ヘルソン州におけるロシアの後方連絡線(GLOC)の破壊に関する言及を除き、ウクライナ当局は反撃に成果についてはほとんど公表しておらず、作戦遂行上の沈黙を保っている。衛星画像による確認、西側及びロシア側のSNSや軍事ブロガーの投稿等から、全般状況の図では未だ明確な前進成果の色分けができないものの、へルソン正面の数個の軸で地上攻撃を展開し、併せて継続的にロシア軍後方の弾薬庫など兵站基地や橋梁などの交通上のネック、ロシア軍の指揮所などをHIMARSなどによる精密照準射撃で潰している。対するロシア軍は陣地防御で堅い守りを見せ、一部ではウクライナ軍の攻撃を撃退しているものの、一部では突破され新たな線で突進を阻止するなど何とか凌いでいる模様。第一線の戦闘力を維持するため、攻撃された道路や橋梁の復旧など、後方連絡線の維持にかなりの努力を払い、一部では軍事アセットの後退も見られるなど、ハチの巣をつつく大騒ぎ状態。かなり反撃攻勢開始の初期作戦の成果があったものと推察される。
 -同じく南部戦線の最左翼ザポリージャ州との接際部にあるザポリージャ州エネルホダル西部のロシア占領下の街カミアンカ・ドニプロフスカにおいてウクライナ軍スペツナズ分遣隊(特殊部隊)をもって特殊作戦を遂行、ロシア軍が偽の国民投票の準備をしていた国民投票本部の機能も兼ねたロシア連邦保安局(FSB)の基地を破壊した。
 -ザポリージャ原子力発電所では、IAEA(国際原子力機関)の事務局長以下の調査団が9月1日から現地における調査を開始したが、ロシア軍が占拠している危機管理センターには立ち入りを許されなかったものの、原発の機能に対する調査は概ね順調に確認できた模様。調査団は6名が残っていたが、5日に事態が落ち着くまで最後まで残る覚悟の2名体制となった。しかし、度重なる出所不明の砲爆撃で発電所の送電線が損傷。ウクライナの原子力事業企業エネルゴアトム社によれば、ウクライナへの電力システムに接続していた最後の電力線が切断され、事実上外部から給電されていない大変危険な状態が続いている。一連の攻撃は、ウクライナ側はロシアの仕業、ロシア側はウクライナの仕業、と互いに主張している。

 -ロシア軍の主作戦正面である東部戦線ドンバス正面では、スロヴィャンスク、バハムート、ドネツク市など各地でウクライナ軍の反撃とロシア軍の地上攻撃が交錯する一進一退の激戦が続く。いずれも一進一退で、一部でウクライナ軍が攻撃成功する一方、一部でロシア軍に攻撃成功を許す、といった様相。

 -ロシア占領地域では、ロシア軍や占領地行政機関やその要員を標的としたパルチザン活動(テロ攻撃)の活発化と相まって、ウクライナ軍の反撃開始により、占領地の行政機関は混乱した状況。占領地の帰属をロシアと認めさせるはずだった国民(住民)投票は、軒並み安全上の理由から延期や中止に。また、後述する人的戦闘力の確保・戦力化のため、ドネツク・ルハンシクなどのロシア占領地域の住民に強制的な徴兵が開始され、更に占領地域の病院から様々な病気や怪我の男性を強制的に動員している模様。

 ⁻前線での人的損耗が著しいため、人的戦闘力の確保の正面において、ロシア国内、占領地内を問わず、少数民族への義勇兵の募集、更に刑務所や病院など、本来対象外の要員に対しても、軍事要員としての適齢の男性に対して条件が合えばほぼ強制に近い動員が行われている模様。
(参照:2022年9月6日付ISW記事「Ukraine conflict updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, SEPTEMBER 5」ほか)

当面のヤマ場はへルソン市とザポリージャ原発の奪還か
 ここから先は私見です。

 ウクライナの反撃攻勢の当初の作戦目標は「へルソン市の奪回」、及び「ザポリージャ原発の奪回」ではないかと推察します。いずれも、目標達成ができた時点で国際的なインパクトや評価は大きな違いが生じると思います。へルソン市もザポリージャ原発も、逆説的にロシア側の最前線の陣地防御の拠点として絶対確保する所存でしょう。従って、当面の作戦の焦点になりますね。9月初旬から両目標に対する攻撃が開始され、ドンバス平原の戦いと同様、勝敗が決するまで数週間かかるのではないかと思います。相当な戦力を費やす激戦をしないと白黒つかないでしょう。

 へルソン市攻防戦は今後の戦争の行方を左右する、勝敗を決するといってもいい激戦地となるでしょうね。ウクライナを縦断するドニエプル川の河口の右岸(上流から下流を見て右岸、地図上の北岸)の大都市へルソン市がへルソン州の緊要地形です。ここを制したものがへルソン州のヘゲモニーを握る交通の要衝です。これを渡さじ、とロシアは南はクリミアから、東はドンバス東部2州の占領地を経て、ガッチリとした戦力維持の大動脈となる後方連絡線を維持しようとするでしょう。ウクライナがこの1ケ月あまりずっとHIMARSで砲爆撃していたのがまさにこの後方連絡線の破壊、弾薬庫や兵站基地、橋梁などのネックとなる地形地物でした。これまでの砲爆撃の戦果として、ロシアの後方連絡線はかなり線が細くなっています。だから勝負になるのです。不謹慎ですが、相当な激戦が展開されるでしょう。ここがウクライナの手に下れば、ドミノ倒し的に占領地の攻撃は進捗が早まるでしょう。国際的な支援も、「バスに乗り遅れるな」とばかりに、ロシアを見限って各国がウクライナをバックアップするでしょう。
 「ヘルソン市攻防戦が激戦になる」ということについて補足致します。ヘルソン市はロシアのウクライナ侵攻開始の初期にあれよあれよの間にロシアの占領下に落ちましたので、マリウポリのようにロシアの圧倒的な砲爆撃を長期間受けるようなことにならずに済んでおり、比較的無傷な状態の市街地です。ロシアはこの地の重要性に鑑み、ロシア軍の中でも精鋭部隊を配置し、市街地の建物と密接に連携した防御陣地をガッチリ構築しています。具体的には、ウクライナの砲爆撃から身を守るため、建物群で掩護し地下通路等も駆使した火器(小銃、機関銃、RPGなどの携帯肩撃ち対戦車砲、対戦車ミサイル、榴弾砲、等)の陣地を構築し、陣地前に対人及び対戦車障害(地雷、仕掛け地雷、対戦車障害用の穴や妨害物、鉄条網、等)を構成して、ウクライナ軍の戦車・装甲車及び徒歩兵の侵入を誘致導入し、キルゾーンに導き、ここに各種火器の射撃を集中して撃破する….。そんな障害と火力を密接に連携した陣地線を広域多重に構成しています。ここに陣地防御している部隊は、金で釣られた少数民族の志願兵でも占領地で動員された住民兵などでもなく、ドンバス平原で勝利したロシア正規軍の精鋭部隊です。それは頑強に抵抗するでしょう。更に、ウクライナ軍にとって厄介なのは、このほぼ無傷に近かったウクライナの我が街を自らの砲爆撃で灰燼に帰せないこと。国土防衛戦ゆえの苦しい作戦上の難しさがあります。しかも、逃げてくれりゃあいいのに、ウクライナ住民が根強く残っています。この「住民混在下」というハンデはウクライナ軍にとって非常に大きなハンデです。ロシア軍は敵地に攻め込んで来たので、敵の市街地、敵の住民ですから、何の遠慮会釈なく攻め放題撃ち放題ができました。それがウクライナ軍の場合は、我が街、我が市民がいる場所に敵が陣地防御して待ち構えている訳です。攻撃の前には、攻撃準備射撃と言って、これから攻撃する場所を徹底的に砲爆撃で叩くのですが、それが慎重な砲爆撃にならざるを得ないのです。何とか市街地に突入できたとしても、そこにロシア軍部隊が地下施設を活用した頑強な市街戦に引き摺り込んで来るでしょう。マリウポリで徹底抗戦したウクライナ軍のアゾフ連隊がアゾフスタリ製鉄所の地下施設を拠点として、長期間頑強に抵抗したように…。かくして、ヘルソン市攻防戦は血みどろの激戦となる、と推察されます。ウクライナ軍も避けられるものならば避けたいところですが、国家の存亡が懸かった戦いですから、いくら犠牲が出ることが分かっていようが、彼らは住民混在下の我が街ヘルソン市を攻撃するでしょう。 (脱線ながら、専守防衛を旨とする我が日本の国土戦でも同じことが言えます。先島諸島を中国に取られた後、奪回作戦をするとしたら….。勿論ヘルソン市とは市街地が違いますが、我が街、我が市民の残留する島への奪回作戦ですから、同様の難しさに直面する訳です。)

 もう一方のザポリージャ原発は鬼門ですね。ザポリージャ原発は原発を盾にされるので、戦力対戦力の四つ相撲ではない、国連、EU、IAEAなど国際社会の仲介を経て中立化するなど、軍事的勝敗とは別の話となると思います。それでも、国際的仲介が入ってロシア軍が出ていき、ウクライナ軍も入らない国際的監視下の「中立」であったとしても、ウクライナからすれば目標達成です。ロシア軍が原発を人質にした状態からロシア軍を排除できれば、それでOKです。まぁ、ここはロシアも一歩も退かず、ロシア軍が完全撤退せず、「ロシア軍と国際的機関が共同で管理」という亜流の解決になるかもしれません。しかし、仮にロシアの主張する義を立ててやってロシア軍の一部が残ったとしても、原発敷地内でロケットをア発射するなどの軍事拠点化を認めず、いかなる軍事作戦もさせない感じで「非軍事作戦化」したロシア軍の停戦監視的存在なら、結果的にはウクライナの目標達成と言えるでしょう。要は、ロシアの軍事拠点化を排除し、ザポリージャ原発の安全が確保できれば、とりあえず欧州全体が懸念する「ザポリージャ原発の脅威」が消えますから。
 
 さぁ、頑張れウクライナ!

(了)

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2022/09/02

ウクライナ反撃開始とは言え、ロシアを舐めるべからず

Ukraine counteroffensive
反撃開始の砲撃(2022年8月31日付NHK World記事「Ukraine launches counter-offensive in Kherson region」より)

反撃開始と戦況
 2022年8月29日に反撃開始を発表して以来、4日目(日本時間)に当たる9月2日現在、未だ戦況は明確ではありません。勿論、報道やSNSなどで様々な断片的ニュースが出ていますが、プロパガンダや情報操作、或いはある局地的な戦況の一断面のみの事実、であって、そのままニュース画像で全体像を語る時期ではないと思います。前回のブログでも申し上げたように、反撃を開始したらウクライナ軍が破竹の大進撃で次々とロシア軍占領地域を奪回して行く、というようなマンガのような展開にはなりません。数日後にチビチビと戦況が伝わってくるものの、ロシア軍も必死の抵抗をしますので、牛歩の歩みながら着実に、ウクライナは占領地を奪回していく、と推察します。恐らく、そのくらいウクライナの反撃もロシア軍の防御戦闘の頑強な抵抗に遭い一進一退。押しこむであろうものの、まだ戦況の帰趨は当面明らかにはならないと思います。ロシア軍もあの手この手で戦況の巻き返しをしてきますから、全く余談を許さない状況が数週間続くものと思います。 

最新の戦況
 一応、ISWの最新の戦況を要約すると以下のような状況です。

 -南部戦線ヘルソン正面において、ウクライナの反撃攻勢が8月29日以降開始され、数個の軸でロシア軍の最前線主要陣地を攻撃中。ウクライナ当局は反撃に成果については一切公表しておらず、作戦遂行上の沈黙を保っている。ロシアの軍事ブロガーはウクライナの攻撃軸は4個(正誤は不明)であり、いずれも初期の攻撃は失敗と評価しているが、情報操作の意図もありそう。ウクライナ軍は、その攻撃と並行し、引き続き南部のロシア軍の弾薬庫・兵站基地を標的に砲撃を続けている。
 -ロシア軍の主作戦正面である東部戦線ドンバス正面では、スロヴィャンスクの北西、バハムートの南と北東、ドネツク市の北西と南西それぞれ地上攻撃を実施したが、いずれも一進一退で、目立った戦果は上げていない。これまでドネツク州の完全掌握の目標時期を8月31日としていたが、それを小修正し9月15日に延期(これも達成しそうにないが)した。他方、ロシア軍は、ドンバス正面への増援のため、第3軍団を編成中の模様。
 -9月1日、IAEA(国際原子力機関)の事務局長以下の調査団がザポリージャ原発に到着。調査を開始したが、ロシア当局は原発をウクライナ軍の攻撃が脅かしていると主張。
 -ロシア占領地域では、ロシア軍や占領地行政機関やその要員を標的としたパルチザン活動(テロ攻撃)が活発化。ロシア占領当局は、パルチザンや一般住民の抵抗のため、占領地域のロシア帰属を正当化する住民投票を計画中のところ、準備が進まず投票が危ぶまれている。
 -プーチン大統領は、9月1日、カリーニングラードの小学生との会談で、「今回の『特殊軍事作戦』の目的はロシアにとって実存的脅威である"反ロシア飛び地"を排除することだ」と表現。アレ?当初は「東部2州のロシア系住民のナチズムからの保護」って言ってなかったか?
(参照:2022年9月1日付ISW記事「Ukraine conflict updates」)

ロシアを舐めるべからず
 ウクライナ反撃開始に伴い、先読みを誤ったイケイケの記事がチラホラ出ていたのが気になったので、異論を述べたいと存じます。 

 2022年9月2日付東洋経済記事「『旧来型の戦闘』で冷笑されるロシア軍の瀬戸際 ウクライナと米欧の「連合国」体制が押し破るか」(吉田 成之)にて、もはや戦況はウクライナが主導権を取っており、あたかもウクライナ・米欧諸国の「連合軍」が膠着戦を打破し、一機に戦況がウクライナ有利に進んで行くかのような趣旨で書かれていました。 

 いやいや、それは早計。ロシアを舐めすぎです。確かに、この記事が指摘するように、ロシア軍の戦術・戦法、特に指揮命令系統は旧来型で、やや硬直化していますので、米欧の新装備や先端テクノロジーやDXを駆使した柔軟で回転の速い戦闘の仕方を採用したウクライナ軍とでは、ある一定の正面ではロシア軍はウクライナ軍に明らかに劣っているかもしれません。しかし、そうした一面的な評価だけで、戦況がみるみる好転すると考えているとしたら「ド素人」も甚だしい。敢えて、アンチテーゼとして最新テクノロジーに基づく最新装備(有形=物理的)ではない要素(無形=物理的以外の要素)の話をしましょう。

 軍事力とは、軍事作戦を構成する様々な有形・無形の要素から構成されていて、このうち無形の要素が結構ものを言います。古くから長い歴史の中で培われた軍事的伝統のある国というものは、歴史や戦史の記憶がDNAレベルで民族の血に脈々と流れていて、つい数十年前いや数年前まで戦っていたなど、先祖と言わず祖父や父の世代の「血の記憶」として脈々と息づいています。
 ロシアがまさにそれ。ともすると最新のテクノロジーや考え方に基づく有形の戦闘力の優秀性ばかりが目について、そうした要素が決定的要素となって戦争の流れを決めてしまうように思いがちですが、とんでもない。ロシアは、第2次世界大戦にて、最強の敵ナチスドイツに侵略され首都モスクワに籠城して攻防戦を勝ち抜いたド根性の国です。国土が戦場になり、老いも若きも男女ともに戦った血の歴史があって今がある国です。各国の軍の各階級的に比べたらいずれの国軍が優秀かを評した逸話にこんなのがあります。「将官はアメリカ、将校はドイツ、下士官(軍曹)は日本、兵士はロシア」。そうなのです、ロシア兵は、特に末端の一兵士において、世界有数の我慢強さを持っています。いかに戦況が苦しかろうが、武器・弾薬・医薬品・食料が欠乏しようが、文句を言わずに歯を食いしばって与えられた任務を果たそうとする、見上げた根性を持っています。特に、現在のウクライナ戦争における各正面の膠着戦の様相からして、ウクライナ軍もロシア軍も、相当な苦しい状況で装備品・弾薬・医薬品・食料なども困苦欠乏している中、非常に我慢強く戦っていますよね。確かに、ロシア軍は戦術・戦法や指揮命令系統において、旧来のやり方を改善せずに墨守する頑迷固陋さぶりはご指摘の通りです。・・・しかし、ウクライナの反撃に対しては頑強に抵抗すると思いますよ。従って、ウクライナが今回のロシア侵攻に頑強に抵抗したのと同様、ウクライナの反撃攻勢に対してロシア軍も相当な抵抗をするでしょう。だから、戦況はそうやすやすと進まず、ちびちびとしか進まない、と思っているのです。

 (ちなみに、ロシア(当時ソビエト連邦)がナチスドイツと戦った第2次世界大戦の独ソ戦においては、ウクライナも激戦地になっていて、キーウ(当時キエフ)もドイツに占領された時期があり、当時ソ連の一員としてウクライナ人もロシア人も、老いも若きも男女を問わず一致団結してドイツと戦った「血の記憶」があり、いざ故郷が存亡を懸けて戦うとなった時の我慢強さ・頑強な抵抗はウクライナ人も同様に培っています。そうした背景が、世界が驚いた今回のウクライナ人のしなやかで頑強な抵抗の基盤だったのでしょうね。
 そう考えると、今の日本で同様な事態が起きた際、彼らほど頑強な抵抗をできるのか、正直自信を持って答えられません。日本人も一応軍事的伝統の「血の記憶」がDNAレベルであるはずなのですが、戦後の日本人、取り分け令和の時代の我々がウクライナ人のように戦えるでしょうか?突如国際紛争に巻き込まれ、我が街が破壊され、敵占領下に置かれていく中、武器・弾薬・医薬品・食料も十分にない中で困苦欠乏に耐えつつも国土防衛のために銃を取って立ち上がり、自らの生命の危険を賭してでも、愛する人々、愛する郷土、愛する国土のために戦ってくれるだろうか?
 つくづく、こうした話は他人事のうちがハナですね。)

 私は基本的にウクライナに見方をする立場をとっていますが、そのことと敵を舐めてかかることとは別です。「敵であるロシア軍の戦術・戦法、装備に加えて、兵士の精強性や頑強な抵抗を考慮しつつ、慎重に戦況を読む」という態度が重要だと肝に銘じています。 

 それでも頑張れ!ウクライナ!

(了)

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