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2022/10/31

ヘルソン市攻防戦 :冷たい雨と泥濘の中で静かに始まる

ISW Ukraine Conflict Updates Kherson as of October29
へルソン正面の戦況(2022年10月30日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates Oct29」より)

ヘルソン市攻防戦 :冷たい雨と泥濘の中で静かに始まる
 ウクライナ戦争の戦況分析において最も信頼できる米国の戦争研究所ISWの日々の分析を見ていても、目にはさやかに見えねども、恐らくウクライナ戦争最大の激戦となるであろう「ヘルソン市攻防戦」が秋の冷たい雨と泥濘の中で静かに始まっています。

 今、対峙する両軍の兵士達は、ひとたび雨が降り始めると長雨となり、冷たい雨に濡れながら、やがて泥濘に膝まで足元を呑み込まれ、装輪車両を腹ばい状態にさせられ、進退極まる状態になる……。そんな中で、それでもウクライナ軍は反撃攻勢を継続し、ロシア軍は必死の抵抗戦闘を継続しています…..。そう、激戦はもう静かに始まっています。

ウクライナ戦争最大の激戦の予感
 10月半ば、一部の不勉強なメディアが、ロシアがヘルソン市からの住民避難や一部の部隊の後退させていた事象を捉えて、「ロシアはヘルソン市をもはや放棄して撤退か?」との誤報を流していました。ロシアがへルソンを放棄?とんでもない、ヘルソン市にはロシア正規軍の精鋭部隊が、ヘルソン地域特有の灌漑用の貯水池を活用した縦深横広な塹壕陣地を堅固に構築しており、やがて来る本格的な市街地での攻防戦を準備しています。一部のロシア軍部隊がへルソン市より西でウクライナ軍と交戦し、その後退却してへルソン市よりさらに東方に下がったのは、へルソン市を主戦闘地域として前方(西方)でウクライナ軍の前進を遅滞させていた前方部隊であって、その前方地域での役割を終えて後方に下がって新しい任務を準備する、当たり前の作戦行動です。それを全部隊の退却かの如く報じていました。軍事作戦においては常識的なこと。勉強不足ですね。

 ロシアが、というよりウクライナもですが、放棄するなんてありえません。両国がヘルソン市を重視する最大の要因は、ウクライナを南北に縦断する最大の河川ドニプロ川の河口であること、そしてロシアが支配するクリミア半島とウクライナ最大の貿易港オデッサの両方を押さえる黒海の要衝であるきと、という戦略的重要性です。ロシアがここを失えば、クリミアの安全も風前の灯となり、もはや侵攻前の既得権益だったクリミアと東部2州の親ロシア地域は陸で繋がらず、分断される運命でしょう。だから、プーチンはヘルソン市の死守を命じているはずです。
ISWの見積もりでは、プーチンが命じた予備役部分招集で得た30万?の召集兵のうち8万名近くを南部戦線に注ぎ込み、半分を前線の戦闘部隊へ、もう半分を後方の支援部隊へ投入した模様です。
 
 この地域は、戦略的重要性は勿論のことながら、更に戦史上名高い激戦地でもあります。季節は秋、これから冬を迎える秋に雨季となり、地域は冷たい雨と泥濘で覆われます。19世紀のナポレオンのロシア侵攻でも1941年のヒトラーのソ連侵攻でも、2人の戦争カリスマの「常勝」のキャリアを阻止したのがこの地域とこの季節の雨季による泥濘です。更にこのあとにトドメを刺す刺客が待ち構えています。すべての生きとし生けるものを大地ごと凍てつかせる冬将軍のシーズンが来ます。ナポレオンもヒトラーも結局は侵攻を断念して退却を余儀なくされました。
ナポレオン

 私見ながら、プーチンは西側諸国にバックアップされたウクライナの破竹の進撃をヘルソンで止めることを企図していると推察されます。ナポレオンやヒトラー同様、秋の雨と泥濘で出足を止め、冬将軍でトドメを刺して攻撃頓挫だせるつもりでしょう。確かに、秋の泥濘や冬の凍結は、陣地攻撃をする側にとっては不利、陣地防御をする側にとっては有利となります。

ウクライナは元々地元精通、そうは行かない
 ナポレオンやヒトラーとウクライナの決定的な違いは、よそ者の侵略者ではなく元々この地域に精通した地元民であること、そしてロシアに奪われた土地を奪回する逆襲である、ということです。よって、この地域の地理や気候や土壌・植生をよく知り、秋の泥濘や冬の凍結の中でも永年暮らしてきた地元民ですから、この地の地の利・時の利を得て戦えるのではないか、と推察します。

 ナポレオンもヒトラーも、秋の泥濘や冬の凍結を当時最強の軍事力で無理に攻勢を押し切ろうとし、泥濘に足を取られ攻勢が頓挫し、身動きが取れなくなった挙句、冬を迎えて補給線が切れて多くが凍死し、遂に退却しました。その点ウクライナは、西側諸国からの武器弾薬支援に奢ることなく、一気呵成攻勢を押し切らず、まずロシア軍の後方連絡線の要所となる主要な橋などのチョークポイント、兵站拠点となる武器弾薬食料等の各種補給品の補給所や弾薬庫等を長射程火器HIMARSでかなり長期かつ計画的に潰しています。しかも、攻撃要領も1点突破〜突破口の拡大〜戦果の拡大という攻撃の一般的定石を踏まず、ウクライナは年寄りの囲碁のように、ジリジリと布石を積み重ねてから小さく切り込むように攻めている模様です。私のように気が短い者の発想からは時間がかかって気が気じゃありませんが、きっとウクライナ軍は地の利・時の利を得てジリジリと間合いを詰めていくのでしょう。

へルソン市攻防戦の展望
 ここからは全くの私見です。じっくり行くウクライナにとっての勝負は、冬が来る前に=秋のうちに、すなわち11月中に泥濘を克服してへルソン市より手前(西)にあるロシア軍陣地を一つ一つ潰して、ドニプロ川の西岸にあるへルソン市に第一線部隊を突入させ、市街戦に持ち込めるかどうかでしょうね。秋の内に市街戦に持ち込めれば、早ければXマス前にへルソン市を陥落できるでしょう。逆に、秋のうちにへルソン市街に部隊を上げられなければ、へルソン市の大激戦を冬場にやることになります。ラッキーなことに、ウクライナにとって地の利がある点は、へルソン市がドニプロ川の西岸(河口に向かって右岸)にあることです。ロシア軍にとって非常に不利な点として、へルソン市で戦うロシア軍を補給するためにはドニプロ川を渡らなければ武器弾薬や食料を届けられないことです。これを泥濘の秋、或いは厳冬にやるのは困難でしょう。下手をすると、へルソン市でロシア軍は補給が届かず、或いは川で退路を断たれることになります。

 勝負を決するのは、秋の泥濘を乗り越えて実施するであろうへルソン市手前の20~30キロにも及ぶへルソン市前方地域のロシア軍陣地の攻略戦です。既存の舗装道路を軸に、ところどころ泥濘を克服して一つ一つ潰していかねばなりません。ここも死闘が繰り広げられるでしょう。多くの血を吸ったあげくにへルソン市街地に部隊を突入させ、これまた、壊れたビルを盾に、一つ一つロシア軍陣地を潰していかねばなりません。ただ、市街地なので舗装され、泥濘戦ではないので、これも多くの血を吸う戦いになるでしょう。ここで勝負を分けるのは補給線です。戦うための武器・弾薬を将兵に届け、戦いで死傷した兵士を後方に後送して救急救命処置のラインに乗せてあげられるかどうか、て勝敗が決まるでしょう。

 もし、ウクライナが秋のうちにへルソン市街戦に持ち込めず、更に冬場にへルソン市街戦にもならずに全く攻撃進展のないまま冬を越す状態では、エネルギー不足で寒い冬を過ごす西側には「ウクライナよ、話が違うぞ!」という落胆を買うでしょう。秋のうちに市街戦にもちこめば、市街地は舗装されているので泥濘なし。市街戦では早晩勝てるでしょう。特に、市街戦への補給線も確保できれば、冬将軍が来ても市街戦で大激戦ののち、ロシア軍を寄り切れます。.....と言っても、ロシア軍もこの市街戦で死に物狂いで勇戦敢闘するでしょうから、両軍の多くの若い兵士の血を吸って勝負が決まるでしょう。面白がってそう言っているのではなく、事実上の決戦ですから、両軍は必死ですよ。特に、ロシアはロシア正規軍の虎の子部隊をへルソン市守備部隊にしていますから、ここで負けたらロシア軍に後はありません。東部戦線に民間軍事企業ワグネルの部隊が残っていますが、あれは正規軍ではなく小部隊の特殊作戦なら活躍しますが、もはやの東部戦線~南部戦の長大な全正面でウクライナ軍と対峙できる軍隊は存在しないことになります。 

 要するに、へルソン市攻防戦は事実上のロシア対ウクライナの決戦なのです。私の読みとしては、ウクライナ軍の年内のへルソン市奪取。死体の山を築いてた上で、へルソン市の焼け落ちた市庁舎の屋根にウクライナ旗がたなびくでしょう。それが「戦勢」というものです。決め手はウクライナ軍の兵站支援の太い補給線の確保、これに対し、ロシア軍の補給線の線の細さ。ウクライナはこれを作為するために、夏から長期的展望でロシアのへルソン市後方の後方連絡線や補給拠点を潰してきたわけですから。

頑張れ!もう少しだウクライナ!

(了)

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2022/10/26

ウクライナが汚い爆弾?:ロシア側の対ウクライナ報道に見る情報戦の手口

Dirty Bomb
8月に行われたザポリージャ原子力発電所における原子力災害対処訓練の一場面(Ukrainian Emergency Ministry rescuers attend an exercise in the city of Zaporizhzhia on August 17, in case of a possible nuclear incident at the Russia-held Zaporizhzhia Nuclear Power Station located near the city, which has since been annexed into the Russian Federation following an internationally unrecognized referendum held in late September.)(2022年10月25日付Newsweek記事「Russia Envoy Talks Nuclear Risk of Ukraine 'Dirty Bomb' U.S. Denies Exists」より)

ウクライナが汚い爆弾?:ロシア側の対ウクライナ報道に見る情報戦の手口
 2022年10月25日あたりから、ロシアが「ウクライナが汚い爆弾を使用する」と主張し始めた話がメディア報道で喧伝されています。ウクライナはじめ西側諸国はこれを完全否定し、その主張自体でロシアの更なる戦闘エスカレーションの契機や核兵器使用の根拠するつもりでは?などの憶測をコメントしている状況です。西側からすれば、これまで同様のロシアの情報戦の一端なのでしょう。

 今回のブログでは、ロシア側が自国内でどのように報道して国民の信頼、協力、支援を得ようとしているか、ロシアの報道の一例をご紹介いたします。出典は2022年10月24日付BBC記事「Ukraine Preparing Nuclear Explosion as Anti-Russian Provocation: Report」より、ロシア国営テレビ・チャンネル1の報道番組のトップニュースを飾った西側ウェブサイト「NewsGuard」の報道だとして紹介した「ウクライナは対ロシア挑発のため核物質爆弾を準備している(Ukraine Preparing Nuclear Explosion as Anti-Russian Provocation)」という報道のザックリとした要約です。要するに、西側で報道されている情報としてまた聞き的に再構成したロシア国営テレビ独自の報道です。読まれる方は、あくまでロシア側の主張であることにご留意を。

<ロシア国営テレビの報道ぶり>
ウクライナが外部の助けを借りて汚い爆弾を準備しているという兆候あり
 ウクライナは対ロシア挑発のため汚い爆弾を準備中、ということが西側情報筋からの情報で明らかになった。「汚い爆弾」とは高濃度放射能を有する粉末やペレットを通常爆弾で爆発させて殺傷効果・残留効果を及ぼす兵器である。比較的軽易に作成でき、核兵器ほどの危険性はないものの、その放射能ゆえに大きな政治的効果を発揮するであろう。ウクライナは、この汚い爆弾をウクライナ領土内で使用し、あたかもロシア軍の仕業であるかのように国際社会に宣伝し、ロシアに対する強い国際的反発・ウクライナに対する国際的支援を得ようとしている。

 ウクライナは、西側諸国の指導の下で汚い爆弾使用計画を準備している模様。具体的には、ウクライナのドネプロペトロフスク州ジョヴティ・ヴォディ市にある東部鉱業加工工場とキエフ原子力研究所が汚い爆弾の製造を担当し、すでに最終段階にある。これまで、キエフ政府当局が西側と秘密裏に調整連携しており、キエフ当局に汚い爆弾製造に必要な核兵器部品等の資機材の移転など、必要な準備を着々と進めたする準備を進めている。この計画の伏線として、最近ゼレンスキー大統領はNATOにロシアに対する予防的核攻撃を行うよう公に要求している。既述の汚い爆弾使用を「ロシアの仕業」と国際社会に信じさせれば、NATOの対ロシア核使用の正当な根拠が得られる、と考えている模様。

 今週、英国のウォレス国防長官が米国のオースティン国防長官とウクライナ紛争について会談することがカギとなる。安全なホットライン電話でも議論できない極秘議論をするのだ。23日、事態を憂慮したロシアのショイグ国防相は米英仏らの国防相にそれぞれ電話し、ウクライナの汚い爆弾使用の可能性について懸念を表明している。

ウクライナは南部戦線で避難する住民を攻撃するなど更なるロシアへの挑発
 ウクライナは汚い爆弾による挑発のほか、南部戦線でも戦災から避難する住民に対する狙い撃ちの攻撃をするなど、ロシアに対する挑発を過激化させている。また、今懸念されているのは、ドニエプル川のカホフスカヤ水力発電所(ウクライナ表記では「カホウカ」)のダムをウクライナが攻撃・決壊させ、180億立方メートルの水がダムから一挙に流出し、幅5キロメートルの洪水地帯となり数時間でヘルソン市を水没させることである。ヘルソン地域のドニエプル川西岸全体が危険となるため、地域住民を川の東側に避難させることが急務であり、ロシア軍主導で懸命に住民避難を実施中。しかし、ウクライナは、卑劣にもその避難住民の避難経路であるアントノフスキー大橋をはじめ、チョークポイントとなる橋やポイントを破壊して避難を困難にさせるとともに、女性、老人、子供を含む避難する住民そのものも狙い撃ちにしており、毎日悲劇が繰り返されている。例えば、ロシア軍は、ウクライナから発射されるNATO軍の火砲HIMARSの砲撃に対し、12発中11発を迎撃したが、撃ち漏らした1発のロケット弾が避難住民の車列に命中した。ウクライナがしていることはナチスと同じである。

プーチン大統領はロシアの新領土となった地域に戒厳令を敷くべし
 ウクライナの地で新たにロシア領土となった地域は、既述のように脅威下におかれた憂慮すべき状態である。この新領土となった地域においては、戒厳令を敷き、保護措置を強化し、地域住民の安全確保、重要施設の安全確保、公共秩序の維持、産業経済の安定確保、特別軍事作戦の兵站支援の確保、などのあらゆるレベルでの迅速な行動が必要となる。この際、地域によって必要な措置が違うので、それぞれの地域特性にあった措置が必要である。同時に、ウクライナに対する徹底的な報復攻撃が必要である。既に、ロシア軍がウクライナの基幹インフラなどの重要施設に強烈な打撃を与えている。特に、ウクライナの主要な発電所や変電所をロケット等で攻撃し、ウクライナの電力網を機能不全に陥らせている。ロシア軍の新司令官スロヴィキン大将は、「(ウクライナへの報復攻撃では)ロシアの極超音速ミサイルが大活躍し、目標の破壊において良好で信頼できることを示すとともに、敵の防空システムを搔い潜る抜群の性能も確認できた。我が作戦の目標達成の妨げをするものはない。」と豪語している。

私見ながら、我々は双方の主張や幅広い情報ソースで「聞く耳・見る目」を持ちましょう
 いかがでしたでしょうか? 既述のロシア側の報道ぶりをご覧になって、いろいろ思うところがおありだろうと思います。「へぇー、そういう見方なんだね」というのもあれば、「何だそれ?ふざけんな」かも知れませんが…。
 ただ大前提として、私の基本姿勢は親ウクライナ・対ロシアであり、かなりタカ派な発言もしてしまいます。しかし、ウクライナ戦争を語る前の自分の頭の整理の段階で、西側オンリーの情報で判断するのではなく、一応ロシア側(加えてベラルーシ、中国、イラン、北朝鮮?など)の主張や報道ぶりも情報収集のアンテナを張って、幅広く聞く耳と見る目を持とうと努力しております。幅広く聞き、見た上で、自分の見解を整理するよう努めているつもりです。「どの口が言う?」とのご指摘を受けそうですね。まぁ、努力が足りないかもしれませんが。

(了)

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2022/10/22

ウクライナ戦争:いよいよ正念場へルソン市攻防戦へ!同時に電力を守れ!

要旨
 いよいよ、南部戦線へルソン正面において、長いウクライナ戦争を終盤戦に持ち込む正念場となる戦い、「へルソン市攻防戦」が間もなく始まるものと推察します。この一戦がウクライナ戦争を終らせる契機になる、プーチンへの痛烈な決定打となるでしょう。本ブログで結構前から「へルソン市攻防戦」が正念場となるという話はしてきましたが、ついにここまで来ましたね。ほ~ら、私のブログで以前推察したような展開になってきたでしょ。
 他方、ロシアは予備役動員がうまくいかずに人的戦闘量の確保が頭打ちの状態となる中、どうやら地上戦での勝利を諦めて、イランから導入した大量の安い自爆型ドローン等による空爆でウクライナのライフラインを断つ戦法に変えた模様です。ロシアの空爆のターゲットはウクライナの「電力」です。ウクライナ全土に所在する主要な発電所を狙うとともに変電所も狙っています。発電所と変電所をやられると、最悪の場合、ウクライナは国全体がブラックアウトになります。へルソン市攻防戦を戦いつつも、同時にウクライナ全土の防空態勢を固め、電力を守らなければなりません。

Ukraine captured Russian tank and souldier
イジュームでの戦闘でウクライナ兵士がロシア戦車とロシア兵を捕獲し、捕虜となった伏せたロシア兵と話す場面。ウクライナ軍のへルソン正面での攻撃はロシア部隊をへルソンから撤退させつつある。(A Russian soldier, taken prisoner, on a tank with Ukrainian soldiers after the city was recaptured from Russian forces on September 11, 2022, in Izyum, Ukraine. A new map has shown how Ukrainian soldiers have forced Russian forces to abandon Kherson.)(2022年10月21日付Newsweek記事「Ukraine timelapse map shows how Russia is abandoning territory in Kherson」より)

へルソン市攻防戦が間もなく始まる
 ロシアのウクライナ侵攻を終盤戦に持ち込む正念場となる「へルソン市攻防戦」が間もなくやって来ます。へルソン市は現在のロシアの占領地の中で最も戦略的価値の高い緊要地形、すなわちドニプロ川河口の水利と交通の要衝、へルソン市を制する者はへルソン州を制し、クリミア半島を守るための防波堤であり玄関口、東部からクリミア半島のロシアの陸上回廊のチョークポイントでもあります。へルソン市攻防戦の末へルソン市を制したものが南部戦線の主導権を握ります。ウクライナ軍はへルソン市を包囲するように北から3軸で攻撃前進中、同市から20~30キロの地域まで来ています。
map as of Oct21 2022
2022年10月21日現在の戦況図。緑色部分がウクライナ軍の奪取した地域、赤色部分がロシア軍が占領している地域、白色灰色のストライプ部分がロシア占領地であるもののウクライナ軍の攻撃でもはや支配が限定的またはウクライナ軍が逐次侵入している地域。白矢印はウクライナ軍の攻撃方向。黒に近い濃い灰色●でKHERSONとあるのがへルソン市、その右の白丸がノヴァ・カホウカという町で、ニュースでロシアが爆破するのでは?と懸念されているカホウカ・ダムの水力発電所のあるところ。(前掲Newsweek記事「Ukraine timelapse map shows how Russia is abandoning territory in Kherson」より)

 対するロシア軍は、戦況図等によれば、ウクライナ軍が前進するにつれてロシア軍がヘルソンの領土を逐次に放棄していることが分かります。ロシア軍からすれば、前方の部隊が任務を終えて逐次に後方に下がる行動であって、「撤退ではない」ということでしょう。かたや、へルソン市守備部隊も、へルソン市攻防戦の前にこの地域の主要な施設や金目の物を後方に下げ、「住民の安全」を大義名分に同市のウクライナ住民を強制移住させる手を打ってきました。同時に、へルソン市より北で守っていた防御部隊がウクライナの攻撃で押されて撤退する動きが10月に入ってから継続的にありました。前を守っていた部隊が撤退してくる!…遠かった砲声がだんだんと近づく!…これはへルソン市守備隊にとって、近づいてくる悪い知らせ。必ずや悪い心理的影響を与えるでしょう。恐らく、この10月中にもへルソン市攻防戦が始まるでしょう。プーチンにとっても、このウクライナ戦争の正念場となる死活的な緊要地形の攻防戦なので、負けられない一戦に相当の増援部隊と武器・弾薬の増強をしたいところですが、先立つもの=新戦力と武器弾薬が不足しているので十分な増強はできないでしょう。結果的には2週間くらいの大激戦の末、双方の軍の死傷者の山と市街の瓦礫の山を築いて、勝利の凱歌を歌いつつ同市に国旗を立てるのはウクライナ軍でしょう。 
(参照:2022年10月20日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, October 20」、同年10月21日付Newsweek記事「Ukraine Timelapse Map Reveals How Russia Is Abandoning Territory in Kherson」、「Ukraine timelapse map shows how Russia is abandoning territory in Kherson」、「Russia Says Key Kherson Bridge Attacked With HIMARS as Region Evacuates」ほか)
evacuation from Kherson2
ドニプロ川に架かるキー橋をウクライナ軍のHIMARS砲撃が叩く中、へルソン市方向から後方へ撤退?するロシア部隊(A road sign reading "Kherson" in the town of Armyansk in the north of Moscow-annexed Crimean peninsula bordering the Russian-controlled Kherson region in southern Ukraine on October 19, 2022. Ukrainian forces reportedly attacked a key bridge over the Dnieper River in the Kherson region with 12 HIMARS missiles Thursday night, killing at least four and injuring 13, according to Russian authorities.)(前掲Newsweek記事「Russia Says Key Kherson Bridge Attacked With HIMARS as Region Evacuates」より)

同時にウクライナの電力を守れ
 クリミア大橋爆破事件後のロシアの報復攻撃が連日続いていますが、その攻撃目標は人口集中地域の市街地で一般市民の被害を拡大することと、そしてもう一つが主要インフラの破壊でした。ロシアの国営放送では、この一連の空爆でウクライナ市民を「凍えさせ、飢えさせる」ことを目標としているとのこと。特に、攻撃目標となったのは「電力」。ウクライナの電力網を系統的に機能劣化させ続けています。その影響は大きく、10月18日のゼレンスキー大統領の発言にもあるように、既に10日から8日間の空爆により、「"Since Oct. 10, 30% of Ukraine's power stations have been destroyed."=10月10日以来、ウクライナの発電所の30%が破壊された」とのこと。大統領は、なぜか発電所しか言及していませんが、実際に攻撃を受けたのは、ほとんど全ての主要な変電所も同様です。変電所が重要なのは、発電所で発電した電気を変電所で変圧して電圧をスケールアップし、高架の送電線で遠距離まで電気を運び、産業用や民間用に変電所で変圧して工場や家庭での使用できるレベルまでスケールダウンする仕組みになっているためです。発電所と変電所が電力網の要所に配置されて成り立っているわけです。地味ながら、送配電のチョークポイントとなる変電所がやられると機能しなくなります。これまでの空爆で目標となった変電所の多くが、壊滅的な施設被害を受けて復旧の見込みがつかない状況の模様です。これ以上の発電所や変電所に対する空爆を防ぐとともに、早急に西側諸国の援助により、重要機材の交換や修理といった復旧を開始しないと全土のブラックアウトも起きえる状態です。
(参照:2022年10月21日付Newsweek記事「As Winter Approaches, Russian Attacks Are Degrading Ukraine's Power Grid」)
Kyiv area power plant which was hit in the Russian attack of October 10
ロシアの空爆で被害を受けたキエフ地域の発電所(Kyiv area power plant which was hit in the Russian attack of October 10.)(前掲Newsweek記事より)
 
 この空爆を担っているのが、イラン製の自爆型ドローン「シャヘド-136」です。このドローンは通常のりゅう弾砲の砲弾の3発分ほどの爆薬しか積めませんが、なにしろ数百万円する精密誘導ミサイルなんかに比べると数十万円程度という廉価・低コスト。しかも、西側諸国から導入されたウクライナの防空態勢でその過半数が撃ち落されますが、それでも大量に使って目標に当てるという戦い方で、ロシアは非常に有利に空爆を進めています。
 
 しかも、防空する上で困ったことには、発電所は大小あっても20箇所程度ですが、変電所は主要なものだけでも百数十のオーダーで全土各地に点在しています。防空というのは、ウクライナ全土をカバーするような防空の網がかぶっており、搔い潜ってきた敵機を迎撃する各種迎撃ミサイルや機関砲で迎え撃つ作りになっています。しかし、有効なのは主要な戦闘機や主要なミサイルに対してであって、自爆ドローンのような、速度は遅いが小さくて低空を飛んでくるものには対応が難しい状況です。全土ではなく、主要都市や前線の部隊には、近傍に小さなカバーの防空の網と迎撃ミサイルや機関砲の傘がかかっています。この小さな傘も全土各所に設けるのは難しい。有難いことに、西側諸国から先進的な防空システム(ドイツの防空プラットフォームIRIS-T SLMや米国のNASAM発射装置、イスラエルのアイアンドームなど、細心の防空システムが導入される模様です。しかし、数に限りがあります。従って、主要な発電所と直近傍の主要な変電所は何とか防空カバーの傘がかけられますが、地方都市の変電所は何もかかっていないでしょうね。よって、ロシアの攻撃目標にターゲッティングされ、逐次に電力の系統の網が壊されていく可能性が大です。この電力をめぐる戦いでも、何とかしのぎつつ、一方でへルソン市攻防戦を勝ち抜かねばなりません。

 もう少しだ、頑張れ!ウクライナ!

(了)

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2022/10/18

ロシアは地上戦諦めドローンでウクライナの市民とライフラインを潰す作戦:ならば地上戦で押しまくれ

Drone Attack in Kyiv
キエフにてドローン攻撃で燃えるビルを消防士が消火に努める(Ukrainian firefighters tackled two big fires in the capital Kyiv on Tuesday)(2022年10月18日付BBC記事「Ukraine war: Russian strikes prompt power cuts across country」より)

2022年10月18日(日本時間)の戦況:ロシアは地上戦諦めドローンでウクライナの市民とライフラインを潰す作戦へ
 2022年10月17日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, OCTOBER 17」によれば、ロシアのウクライナ侵攻の地上戦闘における各戦線の状況は、相変わらずウクライナ軍の反撃攻勢をロシア軍が防御をする図式にて、ウクライナ軍がジリジリと失地を回復しているものの、接触線は概ね膠着的です。クリミア大橋の爆破事件以来、ロシアは連日ウクライナ全土に対するドローンとミサイルによる爆撃を続けています。10月17日の1日だけでも、ウクライナ各地の人口集中地とライフラインの重要インフラを目標に対し9回のミサイル攻撃と39回の空爆を実施しています。別の数字では、「ロシア軍のドローン攻撃43機発射のうち、37機をウクライナの防空網が撃墜している」というものもあり、ウクライナが決してロシア軍に撃たれっ放しな訳ではなく、相当有効な防空戦闘をしていることも分かります。ISWの分析では、ロシアは軍事目標ではなく専らウクライナの市民の生命やライフライン途絶による民心の不安を煽る心理的テロ効果を狙っている、との読みです。全く厚顔無恥も甚だしい卑怯な奴らです。
(参照: 前掲のISW記事に加え、2022年10月18日付BBC記事「Ukraine war: Russian strikes prompt power cuts across country」ほか)

プーチンはついにうまくいかない動員に見切りをつけたかも
 同日10月17日、ビックリニュースが飛び出ました。2022年10月17日付Newsweekに「Has Putin Ended His Mobilization? Moscow Says Goals of Draft 'Achieved'(プーチンは動員を終了したって?モスクワは『目標達成』と言っている」という見出し記事が出ました。飛びついて読み、他の関連記事を確認しましたがハッキリせず。ただし、同記事はロシアの国営タス通信やモスクワ市長が自分のブログに名言している内容なので、一応の信ぴょう性があるわけです。

 同記事によれば、モスクワ市長セルゲイ・ソビャニンのブログ発言として、「プーチン大統領が2週間で終わると言った。部分動員の目標は完全に達成された。召集事務所は17日午後にも閉鎖される。招集通知は、効力を失うだろう。」と述べたことがロシア国営タス通信で報じられた、とのこと。しかし、クレムリンは本件に関連する発表なし、なので「?」は残るわけです。ただ、同記事は本件について16日に米国CBS放送のFace the Nationという看板報道番組で在米ロシア大使オクサナ・マルカロワ女史の驚くべき言質を取っています。なんと、「部分動員は大きな失敗だった。国民は動員されることを望んでいない。動員されても兵士は装備も不十分で戦闘の準備はできていない。やる気もない。」と述べたのです。ロシア大使ですよ。「敵国」米国にてこんなこと言ったらプーチンに殺されるのではないか?と余計な心配をしてしまいます。

 私見ながら、動員がうまくいっていないことは、もはや秘密にしていないのでしょう。プーチンの「動員はあと2週間で終わり」発言は本当にそんな発言をしたのか確認ができませんが、部分動員が国民の反発と動揺を買い、多くの国民が国外に逃れたたり、動員通知が予備役兵のみならず予備役でない人や病人等にも届いたり、召集事務所が焼き討ちに遭ったり、予備役兵の訓練センターに十分なスタッフも装備品もなく、訓練不十分で装備品も不十分、等々の事実がSNS等で明るみになって、もはやプーチンでさえも現状を正しく理解しているようです。動員をあと2週間で終了するかどうかはともかくとして、もはや動員兵士を前線で対ウクライナ戦で活躍させるという期待は捨てたのでしょう。前線に並べる「戦力」というより惜しげなく使える「将棋の駒」として、或いは後詰めや後方任務用として、動員兵力はまぁ使うとして、今後のウクライナ戦の主軸は、ISWの読みのように、イランから導入した自爆型攻撃ドローンやミサイル等によるウクライナの人口集中地や生活の重要インフラを潰すことでウクライナ国民の不安を煽って戦意を削ぐ作戦に転換したのかも知れません。そういえば、プーチン大統領は、つい最近、ウクライナ侵攻作戦の全軍の司令官を頭の悪そうな元戦略空軍司令官のハゲた熊男にしましたが、地上戦闘が分からないミサイル等の司令官でしたから、ドローンやミサイル攻撃を主体とした戦略爆撃は得意なのでしょう。そういう人事なのかも、ですね。

(※余談ながら、前述のNewsweek記事の内容について、ISWは17日付(日本時間の日付は本日18日)の分析において、「モスクワ市長はモスクワ市民が動員に動揺し反発しているため、この発言であくまでモスクワ市の方針としてこの発言をしておちつかせようとしたもの」と見ています。モスクワ市当局は、この発言で動揺を落ち着かせるとともに、他方で動員を継続し、国から示されているノルマの動員兵士の召集続ける模様)とも述べています。なんじゃそれ?それは返って市民の動揺と反発を買いますよね。)

ロシアがそう来るならば、地上戦で押しまくれ!
 相手がそう来るなら、ウクライナ側は正攻法で地上戦闘による失地の回復をガンガン進めましょうよ。ロシア軍は地上戦闘のための兵力も不足し、前線の兵士は武器・弾薬・食料・医薬品など各種補給品も困苦欠乏する中で戦っています。軍人としてその境遇には同情しますが、戦争ですから割り切りましょう。ウクライナ軍も兵力=人的資源は元々有限ですから、兵力が十分ではないのはお互いさま。武器・弾薬・食料・医薬品など各種補給品はふんだんではないものの、一応西側諸国からの厚い支援を受けていますので、ロシア軍よりは有利です。ロシア軍が肩で息をしている今がチャンス!今のうちに、ロシア軍のドローン・ミサイル攻撃からウクライナを守る防空システムや長射程火砲HIMARS等の実戦で使える武器・弾薬を前線に持ってきてもらいましょう。かつ戦力を携えて、攻勢をかけるのです。

 特に南部へルソン正面のへルソン市の奪回を急ぎましょう!ウクライナのど真ん中を流れるドネツ川の西岸にあるへルソン市はまだロシア軍の手中にあります。ここにロシア軍の生き残りの精鋭部隊が集まっています。ここを奪取すれば、南部へルソン州は勿論、クリミア半島の命運を握る=クリミア半島の喉元にドスを突き立てる戦略的な重要性があります。また、東部ドンバス~ザポリージャ正面には、ロシアの民間軍事組織ワグネル部隊が固めています。南部へルソン正面を主攻撃とし、東部ドンバス正面を助攻撃として、冬将軍が来る前に「秋風攻勢」をかけてもらいたいものです。
 これまでロシア軍の補給線や補給基地を継続的に砲爆撃してきたウクライナ軍の戦術が功を奏し、ロシア側は補給の線が細く、兵站の維持が困難です。前線で壊れた戦車や武器を修理できず、使えなくなったら野積み状態、今持っている武器弾薬が尽きたらお手上げ状態です。今がチャンスなのです。

 冬が来たら、戦場は冬景色に一変し、戦闘の状況が変わります。大地は凍土状態、兵士は凍てつく前線です。また長い(春まで)膠着戦に移行します。そこで一旦、接触線は相互ににらみ合い状態になります。目立った戦闘がなくなり、むしろロシア軍に逐次潰される重要インフラの機能不能がウクライナの国民生活に暖房なく電気がつかず物の流通もままならない困窮の越冬を強いることになります。まぁ、地上戦の接触線を冬が来る前に押そうが押すまいが、困窮の越冬生活は避けられないでしょうけどね。しかし、地上戦で攻撃前進を追求し、接触線をロシア国境方向にやれるだけ押し込めば、「政治・外交」の世界で違う世界が開けます。回復した失地は冬のうちに元のウクライナに復帰させましょう。冬の政治・外交のチャンネルにおいて、その時点の接触線が相互の勢力の境界線になる訳ですから。

 頑張れ!ウクライナ!

(了)

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2022/10/14

ロシアは対ウクライナ長期戦の構え:それなら「封じ込め」で疲弊させろ!

ukraine funeral
戦死したウクライナ兵の葬儀でひざまずくウクライナ兵士。ロシア国会議員は「ウクライナは交渉できない奴らなので絶滅するまで戦うのが唯一の解決策だ」と述べた。Ukrainian soldiers take a knee as their comrades carry the coffins of Roman Vyshynskyi, Yuriy Lelyavskyi and Ihor Hadyak, Ukrainian serviceman who were killed in combat fighting Russian troops, during a funeral ceremony in Lviv on October 7. Russian State Duma member Mikhail Sheremet said on Thursday that it is hard to "negotiate" with Ukrainians and that eliminating them is the "only" way forward for the Russian invasion of Ukraine.(2022年10月13日付Newsweek記事「Russian Lawmaker Says Eliminating Ukrainians the 'Only' Solution」より)

要旨
 クリミア大橋爆破事件について、ロシア~ウクライナ間で双方の犯行を主張し平行線のままですが、ロシアは報復として前線から離れたウクライナの主要都市(首都キーウ含む)に対する執拗なミサイル攻撃をここ数日続けています。他方、前線の地上戦闘では攻めるウクライナ軍に対しロシア軍も頑強に抵抗しつつもジリジリ後退しています。頼みの綱の予備役動員も、動員兵士に対する訓練も補給も整わず、十分な訓練も受けず武器弾薬・装備品も不十分なまま前線に立たされた動員兵士は、戦闘を拒否してウクライナ軍に投降している模様です。
 しかし、ロシア側の指導層や強硬派の軍事ブロガーは全く諦める気はなく、むしろウクライナに対する敵愾心に燃え、満を持して長期戦に臨み、徹底的にウクライナを叩きのめし、ロシアの傘下に連れ戻すつもりのようです。このため、イランから攻撃ドローンやミサイルを導入して戦闘に使用しており、また、北朝鮮からも同様に武器等の支援を得ようという動きもあります。(中国は狡猾なので、このバスには乗らないようですが…)
 そこで私見ながら、ロシアがそのつもりなら、いっそのこと西側陣営は結託してロシア陣営を封じ込めて長期戦に臨み、最終的にロシア及びイラン・北朝鮮などの支援国を軍事的にも経済的にも疲弊し尽して自滅させる、というのも有力な一案だと存じます。

クリミア大橋爆破の余波
 2022年10月8日早朝(現地時間)に起きたクリミア大橋爆破事件について、ロシア側は10月12日、ウクライナ人5名を含む8名をロシア国内で逮捕し、様々な証拠を提示してウクライナの特殊工作部隊によるテロと断定しました。他方、ウクライナ側は自国の犯行とは認めず、ゼレンスキー大統領は「その責はむしろロシア自身に対して向けるべきだ」とロシアの偽旗作戦ではないのかと切り返している状況です。様々な筋から出ている映像のうち、「爆破寸前に橋の真下を無人船舶が通り、下から橋に爆発を指向した」という説もあり、その証拠の船舶をロシアが確認ののちなぜか爆破しています。この辺はおどろおどろしい謀略臭がしますね。いずれにせよ、ロシア側は「ウクライナのテロ」との主張の下、「ウクライナはテロ国家」という情報作戦を展開中の模様。加えて、大橋爆破の報復として、ウクライナ各地の主要都市や電力などの基幹インフラを狙い撃ちに、侵攻開始以来最大規模のミサイル攻撃があり、数十名が死亡するなどの被害が出ています。ただし、このミサイル攻撃に使ったミサイルはS-300というロシアの対空ミサイルで、本来は敵航空機を撃墜するものを、対地攻撃用に使っています。それほど武器・弾薬が枯渇しつつある模様です。
(参照:2022年10月12日付BBC記事「Ukraine war round-up: Inside Putin's head and Crimea bridge arrests 」、同日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: Russian Offensive Campaign Assessment, October 13」ほか)

戦況はますます八方塞がりのロシア
 ISWの最新の戦況分析によれば、ウクライナ軍は東部戦線ドンバス正面及び南部戦線へルソン正面において攻勢の手を緩めず攻撃を続けています。現接触線を維持したいロシア側は全正面において陣地防御を主体にしつつ局地的な攻撃も含めながら、徹底抗戦中です。全般的には接触線は概ね膠着しつつも、ジリジリとウクライナ軍が失地を回復しています。ただ、攻撃の進捗は鈍く、主攻撃正面の南部へルソン正面でも、ジリジリとにじり寄りつつも焦点のへルソン市にはまだ30キロ、まだ手が届かない状況です。私見ながら、これはウクライナ軍の攻撃が手ぬるいのではなく、むしろロシア軍へルソン守備隊がへルソン市防衛のため善戦していると言えましょう。とはいえ、前線のロシア軍は継戦能力の命綱たる武器弾薬・各種補給品が欠乏しており、これはクリミア大橋の爆破により、ロシア本土からの大動脈的補給路が瀕死の状態になり、更にひっ迫しています。クリミア半島経由の補給が細っているため、ロシア本土から東部2州を経由する陸路の兵站基地として、マリウポリに一時的な軍事貯蔵施設等が設置され、マリウポリから東西へ向かう輸送トラック、燃料トラック、装備品整備用資機材の頻繁な通行が確認されています。私見ながら、これも早晩ウクライナ軍のHIMARS等の砲撃の目標となるでしょう。

 ロシア軍にとって戦況打開の頼みの綱は、予備役の部分動員による前線への兵員の補充です。しかし、これも武器弾薬・各種補給品の需給ひっ迫は前線のみならずロシア全土の問題なので、動員された予備役兵士への武器弾薬・各種補給品の不足が指摘されています。物不足に加え、動員後の十分な訓練ができず、動員兵士たちは十分な訓練も武器弾薬・装備品も支給されていない模様です。動員兵士の訓練センターの惨状について、10月5日付のロシア地方紙Nakanuneに、クルスク地方のロマン・スタロヴォイト知事が訪問した際の光景が次のように掲載されました。「破壊されたダイニングルーム、壊れた錆びたシャワー、十分なベッドがなく、存在するもの皆バラバラになっている。制服も戦闘服も足りず、パレード場は爆撃されたように見える」。こんな状況下で、ほんの1・2週間足らずの受け入れ訓練ののち、兵士は前線に送られています。実は、これに加え、そもそも動員兵士の内訳として、囚人からの志願兵(恩赦で懲役免除)だったり占領地の強制動員された住民だったりのため、軍隊の命脈である規律も国家への忠誠心もない兵士がウクライナとの最前線に立たされている模様。よって、戦闘配置を拒む兵士や前線で投降してくる兵士がウクライナ軍に確認されています。

 私見ながら、まともな戦闘部隊は侵攻以来ずっと歴戦のロシア正規軍の一部と悪名高い民間軍事会社ワグネル部隊のみの状況です。これでは、もはや地上戦闘に勝つ見込みは全くないと言えましょう。

「ウクライナ憎し」という偏執から長期戦の構えを取るロシア
 こんな状況にも拘らず、戦況不利を意に介さず、ロシアの首脳陣や強硬派軍事ブロガーはその責を現場指揮官を名指しでこき下ろし、更迭しては新しい指揮官に首を挿げ替えています。全権を持つ司令官もいかにも強硬派の頭の悪そうな空軍大将に変わりました。長いことはなさそうです。私見ながら、なぜここまで戦闘継続に拘るのか?と不審に思っていましたが、答えが見つかりました。前ロシア大統領メドベージェフの発言にその核心がありました。「ウクライナ国家は、ロシアにとって、絶え間なく直接的かつ明白な脅威となるだろう。我々の将来のための行動の目的は、ウクライナの政治体制の完全な解体であると私は信じる。」また、本ブログ冒頭の写真の下のコメント(記事のまま)にも同様の発言がロシア国会議員からもありました。「ウクライナは交渉できない奴らなので絶滅するまで戦うのが唯一の解決策だ。」 これらの言葉からすると、民族的にも言語的にも風俗風習的にも非常に近いはずだったロシアとウクライナの、近親感ゆえの「離反への憎悪」ですね。もはやこの飽くなき闘争心の源は「こいつらだけは許せない」という偏執ですよ。もはや合理的・理知的判断など欠片もなく、ただの「ウクライナ憎し」という憎悪のみ。くだらないですね。ロシアの首脳陣とアホな軍事ブロガー達は、ウクライナへの憎悪に燃えて短期的に戦況に活路が見いだせないなら長期にわたる血なまぐさい紛争を続ける構えのようです。
(参照: 前掲ISW記事、2022年10月13日付BBC記事「What is Vladimir Putin thinking and planning?」、同日付前掲Newsweek記事ほか)

それなら冷戦当時の「封じ込め」で長期戦に臨み疲弊・自滅へ誘致導入すべし 
 核戦争の脅威の下で、米ソ直接対決を避けつつも長い冷戦を勝利に導いた基本政策は、西側諸国が結託して軍事的・政治的・経済的に辛抱強く、強固に、かつ注意深い「封じ込め」Containment政策でした。私見ながら、奴らが長期戦の構えであるなら、西側は一致団結して今一度「封じ込め」てやりましょうよ。よく考えると、既に冷戦構造的な軍事的・政治・経済的な封じ込めに近い状態になっているとも言えますね。これを、明示的かつ公明正大に宣言して実行しましょう。これにより、狡猾な中国は全般状況を見て、政治的な発言としてはロシア寄りなコメントをしつつも、実質的にはロシアとは距離を置く立場をとるでしょう。そして、ロシア陣営は世界から孤立する。勿論、一触即発的なリスクはありますが、辛抱強くかつ注意深く、囲い込みましょう。ロシアをドローンやミサイル等の武器供与や要員派遣によって支援するイランや、恐らく間もなく同様な軍事支援を開始するであろう北朝鮮、このロシア陣営を丸ごと封じ込め政策で軍事及び経済ブロックで、身動きが取れないように囲い込みましょう。疲弊し、物は枯渇し、干上がっていくでしょう。長期戦になるであろうウクライナ戦争にて、西側が結託して戦域はこれ以上広がらないように囲い込み、手厚いウクライナ支援を継続してウクライナの継戦能力を支え、ロシア側に徹底的な軍事的な疲弊を強要する。加えて、長期に渡り一切妥協なく経済制裁でロシア陣営を疲弊させる。この策で、ロシア陣営は疲弊し、やがて現政権が弱り国内の対抗勢力により倒されるでしょう。
 冷戦と同様、忍耐が要りますが、核戦争のような決裂を避けつつも、一切妥協なく封じ込めてやりましょうよ。さすれば必ず奴らは自滅します。

頑張れ!ウクライナ!

(了)

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2022/10/09

クリミア大橋爆破!:ウクライナのテロ攻撃?総動員したいプーチンの陰謀かも

クリミア大橋爆発炎上
クリミア大橋が爆発・炎上(2022年10月8日付 THE MAIL ON SUNDAY記事「Putin's 'miracle' bridge in flames: As a huge explosion blows apart vital link between Russia and seized region of Crimea, Ukraine celebrates... by issuing commemorative postage stamps」より)

クリミア大橋が爆破!
 時あたかもプーチン大統領の70歳の誕生日に翌朝、2022年10月8日早朝、ウクライナ南部クリミア半島とロシア本土とを結ぶ19キロにも及ぶ長大なクリミア大橋(ケルチ橋)が、何らかの原因により通行中のトラックが爆発、鉄道の燃料タンクに引火・爆発して大炎上、橋は部分的に崩落しました。このニュースは、爆発の瞬間を映すショッキングなSNS映像の下、ロシア国営RIAノーボスチ通信はじめSNSで世界をかけめぐりました。日本では8日夜のニュースで皆さんも見たのではないかと思います。

 ロシア国営タス通信は、「橋の途中でトラックが爆発し、橋の2Fを走る列車の燃料タンクに引火。この爆発により、死亡3名、自動車道と鉄道は通行止めになった。ロシア政府は事故調査委員会を設置し、調査中」と報道しました。その後の調べで、橋の高速道路の 2区間が部分的に崩壊、9日までに応急復旧し、乗用車は片側車線で通行可能になったが、トラックは通行できない状況で、鉄道も復旧したものの遅れや重量の制約があり、代わってフェリー船が重量物の輸送車両用に肩代わりする模様です。
(参照:2022年10月8日付 THE MAIL ON SUNDAY記事「Putin's 'miracle' bridge in flames: As a huge explosion blows apart vital link between Russia and seized region of Crimea, Ukraine celebrates... by issuing commemorative postage stamps」、同年10月9日付ハフポスト日本版記事「クリミア大橋の爆発、ウクライナ保安庁の作戦か?現地メディアが報道。思わせぶりな投稿も」、同日付BBC記事「Crimea bridge partly reopens after huge explosion – Russia」)
スライド1
上図の赤いクリミア半島の右端にクリミア半島側のカメが右に口を開けた感じの地形を受けるように、右端の白いカメ(ロシア本土)が口を開けた下あごから細い線が赤いカメの上あごの付け根方向に左上がりで伸びているのがクリミア大橋(出典:前掲BBC記事)

攻撃目標となったクリミア大橋とは
クリミア大橋(ケルチ橋)は、クリミア半島とロシア本土を結ぶ長さ19㎞の大橋で、2014年にロシアがクリミア侵攻・不法併合してから4年後に開通建設・開通させたクリミア併合のシンボル的な橋です。プーチンは日本円で約4350億円の巨費を投じて開通させ、開通式には、プーチン自身がロシア側からトラックを運転して渡るパフォーマンスを演じる、文字通り国家の政策=クリミア併合の象徴でした。大橋は、1日4万台の自動車が往来し、2F建ての2Fには鉄道も走り、年間では1400万人の利用者と1300万トンの貨物が移動可能な、文字通りロシア本土とクリミアを結ぶ大動脈でした。従って、ウクライナ侵攻においても、ロシアからウクライナ南部の戦場に兵士、武器、弾薬、各種補給品を移動させたロシア軍の重要な後方連絡線=物資供給ルートです。

 このクリミア大橋が稼働停止となると、ロシア軍の南部戦線ヘルソン地域での作戦にとっては死活的と言える、大動脈が詰まって窒息状態になる訳です。よって、ロシアは迅速に復旧しているものと思われます。道路も鉄道も一部再開していますが、未だ重量物輸送は稼働停止状態ですから、ロシアにとってはクリミアへ壕の象徴が破壊されたということに加え、軍の作戦への大打撃であることに違いありません。

 ロシアは、大橋を建築した時点から、この戦略的意義の高い橋がテロ攻撃の目標になることを想定して、陸海空の鉄壁の対テロ対策・警戒態勢を敷いており、防空レーダーから対空ミサイル、水中破壊工作員を検出するためのソナーシステム、機関砲等を揃え、対地は勿論のこと、対空であろうが対海上・海中であろうが、海軍旅団の対応チームが厳重な警備をしていることから、ロシアはメディアを通じて「厳重に守られた橋は難攻不落だ」と宣言していました。

ロシアの反応 ・ロシアの処置、復旧
 自分の誕生日の翌朝このニュースを聞いたはずのプーチン大統領は、さぞや激怒したことでしょう。それくらい、プーチンにとって衝撃的かつ屈辱的な攻撃であったに違いありません。

 プーチンは、事件の報に接し、直ちに橋の復旧を命じるとともに、原因の徹底究明のための調査を命じ、更に、クリミアの行政官セルゲイ・アクショノフに「クリミア住民をパニックに陥らないよう」指示した模様です。プーチン大統領の指示に基づき、この戦略的重要性の高い橋の通行を回復するため、ロシアは直ちに橋の応急復旧に従事し、数時間後には片側通行ながら道路通行を復旧し、鉄道も制限付きで再開しています。

 大橋の爆破事件を受けて、住民は一部パニック状態で、必要物資の買い物パニックと半島からの逃げ出し渋滞の兆候が出ており、クリミア行政府は「食料と燃料の十分な在庫がある」と住民を落ち着かせるのに四苦八苦している模様です。
クリミア大橋の爆破
上の画像は、ウクライナ政府高官が調子に乗ってTwitterに投稿した画像で、爆発炎上する大橋の横にマリリン・モンローがケネディー大統領の誕生祝いにHappy Birthdayを色っぽく歌った画像を並べたもの(前掲THE MAIL ON SUNDAY記事より)

ウクライナの反応 ・思わせぶり?
 一方のウクライナですが、上のTwitter画像のようにクリミア大橋爆破事件に大盛り上がり状態です。ウクライナのソーシャルメディアは、ロシアのプーチン大統領の70歳の誕生日翌朝だったこともあって、上の画像のように大炎上している模様です。ウクライナ市民にとっては、ロシアのクリミア併合のシンボルの爆発・炎上に、よほど痛快だったのでしょう。ウクライナの郵便局は直ちに橋の破壊をデザインした記念切手を発行する、と発表し、また、ウクライナの第二位の銀行が崩壊した橋をデザインとしたデビットカードを出すそうです。悪乗りですね。

 一部、ウクライナのメディア、インタファクス・ウクライナ通信が10月8日に、「橋の爆発はウクライナ保安庁(SBU)による特別な作戦だった、と情報筋が語っている」という伝聞に過ぎない報道をしています。

 当のウクライナ保安庁は、犯行を認めるようなコメントは避けたものの、Twitterにクリミア大橋の画像に添えてウクライナ国内で最も有名な詩人タラス・シェフチェンコの4行詩の替え歌で、’It’s dawn/ The bridge burns beautifully/ Nightingale in the Crimea/ Greet SBU.’(「橋は夜明けに美しく燃えている。ナイチンゲールがクリミアでSBUにご挨拶する。」)という、なんとも思わせぶりな投稿をしています。

 思わせぶりはともかく、くどいようですが、ウクライナ政府はゼレンスキー大統領を含め今回の攻撃の犯行声明をしていません。

SNS映像から爆破を分析すると
 ロシアの調べによると、トラックが道路上で爆破され、貨物列車の燃料貯水槽が平行な鉄道橋で火災を起こしたことが直接の原因で、車に乗っていた3名の人員が死亡(死体は水中で発見)した、ということです。

 私見ながら、出回っているSNS画像を見る限り、誘導ミサイルのような外部からの攻撃ではなく、走行中のトラックが爆発し、上の階を走る列車の燃料タンクに引火した、ということのようです。(面白いことに、自爆トラックも列車も、ロシア側からクリミアへと向かっています。)よく考えると、下の階のトラック爆発とその上の階の燃料タンクへの引火というのは、偶然ではないのでしょう。十分にタイミングを計ったものでしょう。要するに、自爆するトラックは、この時間に階上を通過する列車が燃料タンクを数両も従えて通過することを知っていて、その燃料タンク貨車車両が真上にいるタイミングで爆発しているわけです。それが証拠に、トラックの爆発の炎の方向は下向きではなく、全方位?むしろ上向きではないかと思います。道路を壊すのなら、爆破装薬に指向性をつけてジェット噴流を下向きに=道路に向けてぶつけます。しかし、むしろ上向きということは、上空に爆発力が行きます。上の階の列車に向けているんでしょうね。ただし、別の角度の写真では、かなり道路階と鉄道階が真上でなくずれているので、引火というよりは誘爆なんでしょうね。誘爆して起爆する仕組みかしかけてあったのか...。もう一つ考えられるのは、トラックの自爆と同期して列車の燃料貨物車両に仕掛けた爆破装置が同時に爆破、というものです。それはそれで事前の工作が大変ですよね。かなり難しいかな。いずれにせよ、これは周到綿密な計画に基づく爆破テロです。この橋に相当のダメージを与えるためには、トラックの自爆程度では損傷が小さいので、燃料貨車車両を狙ったわけです。鉄道が南部戦線へルソン地域でのロシア軍の補給の大動脈ですから。

 よく、「犯人はこの犯行で一番得をする奴だ!」なんていいますが、このクリミア大橋の爆破でウクライナが得る効果は大きいでしょう。ウクライナ国民は「よくやってくれた」と胸のすく思いでしょうし、前線のウクライナ兵士は思わずハイタッチする思いでしょう。ウクライナの計画的犯行=攻撃だったのなら、それはそれで大したものです。ロシア側も、ウクライナの犯行と一次的な報道をしています。

 しかし…、私見ながら、私は少しうがった見解をしています。SNS映像もベストなアングルでタイミングよく撮っているのでデキ過ぎ感があり、そこに違和感を覚えなくもありません。むしろ、一番得をするのってプーチン大統領ではないか?と。これってプーチンの謀略ではないか?と。

私見ながら懸念:ロシアの国土防衛への愛国心を掻き立てるプーチンの陰謀かも
 プーチン大統領は、今や内憂外患、前線の戦況は押され気味です。逐次、時間の経過ともに、ウクライナに領土を取り返されつつあります。起死回生のため、兵士の増強を期すために、予備役の部分動員を命じました。一応国民に必要性と協力を説きました。しかし、笛吹けど踊らず。反戦及び動員への反対のデモがロシアの各地で起き、召集を回避するロシア市民が国境から隣国へと抜け出ています。国内には右翼・タカ派もいますから、「生ぬるい!」と強硬策を訴えてきます。プーチンももともと強硬派ですから、強硬策を取るのはやぶさかないわけですが、プーチンなりにタイミングを計っているわけです。そんな中、いかにもウクライナの仕業で、ロシアの死活的国益そのものをド派手に攻撃してくれた事件が起きました。今なら、まだロシアが絶対の「負け」的な前線の接触線ではありません。へルソン市も未だ保っています。このタイミングで、この派手にやられた事案をショウアップないし、プレイアップするには絶好です。ウクライナの犯行を示す様々な証拠とまことしやかなストーリーを出してくるでしょう。そして、国民にもう一度説くわけです。「ウクライナにこういう攻撃をされた!ロシア国民に問う。ロシア国土がウクライナに侵されつつあるぞ!立て!銃を取れ!」と。いよいよ、国民に「国家非常事態宣言」をし、ウクライナ戦争に国家を総動員させる契機とするのではないでしょうか。

 こうなれば、国際社会が何を言おうがアウトオブ眼中。核の使用すら十分にありうるオプションになります。プーチンは、そのタイミングを計って、隠し玉として今回の事件をたくらんだのではないか?…と、私見ながらいぶかっています。

それでも頑張れ!ウクライナ

(了)

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2022/10/04

東部要衝ライマンからロシア軍撤退:好機を逃すな!押せ押せウクライナ!

Lyman.jpg
ライマン市をウクライナが奪回、路上に残置されたロシア軍戦車(2022年10月2日付BBC記事「Ukraine war: Russian troops forced out of eastern town Lyman」より)

 前々回(9/22付)のブログで、ロシアの東部4州の住民投票や併合、動員に注目が集まる中、ウクライナ軍には「今がチャンスだから押せ押せ」という話をさせていただきましたが、ウクライナは押してくれていました。東部要衝のライマンを奪回しましたね。これをロシアの右派が激怒し、一部で核兵器使用を提唱する輩まで出ています。今回のお話は、ロシア国内の動きをアウトオブ眼中で「怯まず押せ押せ!」というお話です。

東部要衝ライマンからロシア軍撤退
 2022年10月1日、ロシア軍は東部の要衝ライマンから撤退、ウクライナ軍が同市を解放しました。ライマン市は、プーチン大統領がロシアに不法併合したドネツク州の交通の要衝で、ロシア軍はここを重要な補給拠点としていました。ロシア軍のライマン守備隊は、ウクライナ軍の猛攻に耐えきれず、完全に包囲されて退路を断たれる前に撤退。急な指示に応じて撤退したらしく、ライマン市内のあちこちにロシア軍が乗り捨てた戦車、装甲車、残置した装備品や不用品が散乱していた模様です。

ロシア軍ライマン撤退に我慢のならないロシア右派の突き上げ、一部には核使用提唱も
 どこの国にも何でも政府に反対する一派もいますが、イケイケ思考のバカという一派もいるものですね。ロシアのチェチェンの指導者ラムザン・カディロフは、この撤退を中央軍ラパン司令官の指揮の失敗と断じ、しかも参謀総長ゲラシモフ大将がその失敗を隠ぺいしたとまで軍の戦争指導を批判し、更にロシアに対し低出力の核兵器(戦術核を意味すると思います)を含め使用可能な兵器を駆使して併合した東部4州を確保するよう公言してはばからず。また、これを悪名高き民間軍事会社ワグネルの実権を握る金融屋エフゲニー・プリゴジンが賛同し、同様の軍指導部やクレムリンへの批判をコメントしているのをはじめ、ロシア国内の右派の軍事ブロガーが炎上状態の同様の軍やクレムリン批判の大合唱をしているそうです。西側メディアは、こうした核使用提唱コメントや軍や政府批判がロシア国内で起きていることにすぐ飛びつきました。(参照: 2022年10月4日付Reuters記事「Russia's war machine faces ridicule from two Putin allies」、同日付日本版ロイター記事「プーチン氏盟友2人、異例のロシア軍司令部批判 要衝からの敗走で」ほか)

 西側のメディアはそこに飛びつきますが、当のプーチン大統領の反応は一味違うのです。 こうした政府批判には徹底的に弾圧してきたはずの一方のプーチン大統領は、不思議なほどこうした軍事ブロガーコメントに対し寛容で、むしろ軍の状況報告よりも軍事ブロガーの戦況分析を信頼できる情報源として見ている節があります。こうした右派・タカ派の軍事ブロガーが、プーチン大統領にとって自己の意見の代弁やリスクのある案の観測気球を上げてくれたりするツテとして便利に使っている、との指摘もあります。また、ロシアの大勢を占めるサイレントマジョリティーな国民にとっても、軍や政府の発表が隠ぺい気味でクリアカットにならないモヤモヤ感ばかりなので、軍事ブロガーの右派的コメントが思わず膝を打つ胸のすく思いのする代弁者になっている模様です。私見ながら、プーチン大統領は、こうした政府批判をする軍事ブロガーに寛容なところを見せることで、それが国民のプーチン支持の基盤にもなっていると思っている、と推察します。国民から見ると、本来批判を受けるべきは大統領本人のはずです。軍事ブロガーは国民の思いを反映して、ブログの中で軍や政府を批判することで延長上のプーチンを批判しています。そこが国民に取り胸がすく思いなのでしょう。ここを弾圧せずに国民のガス抜きをしているところが奴の狡猾なところです。西側メディアは、こういうところに目をつけるべきですね。

一方で東部4州のロシア国会における併合の法的手続きは進み、次の一手は「核の脅し」
 東部4州の併合手続きは、用意周到にして律儀にロシア国内の法的手続きを経て、着々かつ淡々と進捗しています。ここもプーチンの狡猾なところで、決して大統領の決定で全てが決まったものではなく、併合は東部4州に住む住民の意志でウクライナではなくロシアへの帰属を申し出てきたのだ、それをロシア国内の民主的法的手続きを経て併合したのだ、という「民主的法的手続き」という誰もが文句を言えないアリバイを公然と作っているのです。ここで、「併合」の次に来るプーチンの一手は「(併合した地域はロシア領なので)国土防衛のためにはあらゆる手段を辞さない=核兵器使用の脅し」の最大限活用でしょうね。核兵器使用の危機を「真実の脅威」「切迫した危機」としてウクライナというよりも西側、特に米国に認識させるため、プーチンは今にも核兵器使用に踏み切るのではないかと西側に疑心暗鬼にさせる手を打ってくるでしょう。初めは今回の軍事ブロガーの観測気球的なことから、次第に軍や政府の報道官発言として、そして最終的にはプーチン大統領の生の発言として、核の脅しをマキシマイズしてくるでしょう。初めは西側メディアが大騒ぎ、そして米国大領領の仲介的な外交開始へと至ることになるかも知れません。核抑止というものは、「絶対に核兵器は使わない」とは限らない、「あいつは本当に使うかも知れないぞ」と相手を疑心暗鬼にさせることで成り立ちます。相手を信用しきれないからこその「相互確証破壊」という信頼関係ができるわけです。「俺はやらないからお前もやるなよ!やったらお互いに全滅覚悟の核の打ち合いになるぞ!分かっているだろうな!分かっているよな!」という、相手を信頼していないからこその逆説的な信頼関係なのです。プーチンは「ウクライナは俺の領域を侵すつもりのようだが、おいおい、それはレッドライン越えることになるぞ!米国よ、分かっているだろうな!俺は自国本土を守るためには核使用も辞さない。米国よ、ウクライナを止めろ!お前が止めなくて誰が止める!」というケツをまくるカードを切ってくるでしょう。

にもかかわらず、好機だ、押せ押せウクライナ!
 核の脅しは、ウクライナへの一手というよりも米国への一手です。米国との交渉カードなのです。
 だから、私見ながら、ウクライナはそんなことは歯牙にもかけず、ひたすら今の戦線での尚一層の猛烈な反撃攻勢を続けるべきだと思います。狡猾なるプーチンは、必ず前述の駆け引きを米国に仕掛けます。しかし、米国が仲介に動き出す時までにはあと数か月、短くても数週間あります。米国が仲介に乗り出す時のウクライナとロシアの接触線=前線ラインが交渉のスタートしなります。

 だから「イケイケで押すべし!」と私見ながら主張します。ロシアは前線において勢いを失っており、戦勢はウクライナにあります。今から数週間が絶好の押せ押せの好機、ゴリゴリに押すべきです。
その一つの焦点はへルソン市攻防戦です。へルソン州は広いですが、へルソン市なきへルソン州なし。東京なき関東地域と同様、と思ってください。ここを取ればへルソン州の帰趨が決まります。今のところ、プーチンがへルソン市を絶対に取らせまいと、ロシア正規軍の精鋭部隊を配置し、東部で押されようとも戦える部隊や装備を引き抜いて南部に転用しています。前述の軍事ブロガー達もこの点を「ハルキウやイジュームやライマンの失陥は、東部を補強せず南部ばかり補強するからだ!」と批判しています。そしてこれはプーチンのマイクロマネージメント的決定で、誰も文句が言えない決定でした。プーチンにはへルソン市の重要性が分かっています。ここを取られると、ロシアにとっての聖域クリミアの安定的確保が危ぶまれるからです。おっと、脱線しました。

 だから言うのです。
 「今が好機だ、押せ押せウクライナ!」、核使用の脅しに乗って米国が仲介的介入をするまでの間に、接触線を押しまくれ!今なら南部へルソンを獲れる!主攻撃を南部に指向してへルソン市奪取、助攻撃を東部に指向して侵攻開始前の線まで奪回を目指すべきです!

 行け行け、ウクライナ!

(了)

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