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2022/11/30

奪還したヘルソン市が直面しているロシア軍占領の後遺症

戦況:接触線での局地的攻防のみでやや膠着した状況
 前回のブログで述べた状況と大きく変わったところはありません。ウクライナ軍が東部戦線スヴァトゥヴェ~クレミンナ、南部戦線ヘルソン~ザポリージャで局地的な攻撃を実施し、これをロシア軍が防御で阻止し、結局のところ接触線の線はあまり変わらず。
 ただし、ISWの最新の分析では、ロシア軍は侵攻開始以来の部隊の戦闘損耗と後方補給の枯渇により、もはや当初の戦闘のための基本編成であった「大隊戦術グループ」という体制を保持できず、残った部隊にアドホック的に新たな補充兵と旧式装備を補給する程度の劣化した戦闘編成で戦っている模様です。(参照:2022年11月2日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates:RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, NOVEMBER 29」)

ロシア軍が弱体化している今こそ攻勢をかけよ!(前回も言いましたが)
 しかし、この状況は前回のブログで私が指摘していた懸念する状況です。厳冬期に膠着状況を許してロシアに回復する時間を与えてしまうと、春までの間にロシア軍は動員した予備役兵達の増援を受け、各正面で兵力が増強され、冬の間にイラン、北朝鮮、中国等からの装備品の再補給を受けて、パワーアップして春攻勢をかけてきます。厳冬期の戦線の膠着や和平交渉の素振りを見せるのは、ロシアの常套手段です。これに騙されてはいけない。ロシア軍が弱体化していて継戦能力を持っていない今こそ攻勢をかけるべきです。ロシア軍は薄皮一枚の防御陣地なので、縦深に重畳して戦力を置いていません。突破すると無人の荒野を前進できます。ロシアは予備戦力をそこに振り向けてくるでしょうが、突破口からウクライナ軍の後続部隊をバンバンつぎこめばロシア軍の予備部隊も対応できなくなります。

奪還したヘルソン市が直面しているロシア軍占領の後遺症
 戦況があまり進んでいない中、なぜウクライナ軍は攻めないのか?何か事情があるのか?といろいろネットで関連記事を読み漁っていて、「へぇ、そうなのか…」と認識を新たにした事象がありましたのでご紹介いたします。
 メディアで報道があった通り、11月中旬にへルソン市がウクライナ軍によって解放され、一時は歓喜一色で染まったへルソン市民でしたが、歓喜がひと段落したのちに直面しているのが、①ロシア軍のインフラ破壊により住民は厳冬期に避難が必要なこと、②ロシア占領下で弾圧された人々と仕方なくロシア占領を受け入れた人々の間で断絶があって住民の統合が難しいこと、の2点です。ロシアのウクライナ侵攻・占領という現実の一断面、ウクライナが直面している困難というものを浮き彫りにしている事象のご紹介です。
配給を待つヘルソン市民
食料配給に群がるへルソン市民(2022年11月24日付Al Jazeera記事「Russian forces in Kherson alert as Ukraine plans next move」より)

①インフラが破壊され厳冬期に住民避難が必要
 ウクライナのへルソン市では、ロシア軍によって市民生活の基盤となるインフラはことごとく破壊され、特に12月には厳冬期が始まる現実への対応策として、暖房が成り立たない以上、へルソン市民を少なくとも暖の取れる避難地域へ住民避難させるしかない現実に直面しています。このため、ウクライナ政府はヘルソン市奪還の1週間後から住民避難を開始し、避難のための交通手段、宿泊施設、医療を提供しています。

 ヘルソン市解放の歓喜の瞬間からわずか1週間で住民避難ですから、むごい話ですね。しかし、へルソン市民の我が家は瓦礫の中、運よく自宅が住める状態でも食料も電気もガスも水道もなく、とても市民生活が続けられる状態ではありません。前述の通り、決め手は厳冬期に耐えられないこと。戦闘における勝利でへルソン州の州都へルソン市の解放にこぎつけましたが、ドネツ川を挟んで東(南)側にはロシア軍が防御陣地を構え、継続的にへルソン市街を砲撃してきます。市民にとっては、避難するしか道は残されていません。
(参照:2022年11月21日付Guardian記事「Ukraine to start evacuations in Kherson and Mykolaiv regions as winter sets in」)

②ロシア占領下で抵抗し弾圧された人々と占領を受け入れた人々の断絶
 ロシア軍の占領に対し、抵抗するパルチザン(西側諸国の用語ではレジスタンスですが、東側諸国の用語ではパルチザン)として、或いは、努めて占領軍には消極的に従いつつも抵抗すべき一線は断固として譲らななかったためロシア軍に連行・拘留され拷問を受けた人々もいました。
ヘルソン 拘留
ロシア軍によるパルチザン容疑者の拘留・拷問が影を落とす(2022年11月24日付CNN記事「Stories of Ukrainian resistance revealed after Kherson pullou」より)
 ある者は、ロシア軍に対する敵愾心に燃え、酔ってヘルソン市内を歩くロシア兵を夜陰に乗じて暗殺するほど抵抗をし、昼間はロシア軍のパルチザン狩りから逃げまくり、ついに捕まって拘留・拷問を経験しています。多くのサイレントマジョリティの市民は、占領軍の強制に対し仕方なく消極的に従いました。それでも「ロシア国籍を取れ」には従わず、ロシア軍に連行・拘留されたりしました。(参照:前掲CNN記事「Stories of Ukrainian resistance revealed after Kherson pullout」)

 一方、ある者は元々ロシア人に敵愾心を持たず、むしろウクライナ政府より実質的に生活を保障してくれるならと、占領軍やロシア傀儡州政府に積極的に従いました。占領政策で、ロシア人としての国籍・パスポートを申請すればロシア貨幣のルーブルで大金が一時金でもらえるため、これに従った人々も少なからずいました。そういったそれぞれの背景を持ったヘルソン市民が、いざ解放の際、解放の瞬間は一同こぞって歓喜ムードで迎えたものの、迎合した市民のことを「許せない」と思っていた市民たちは、解放後に心一つにはなれないようです。当然、「ロシア迎合組」を許せない人々は、「迎合組」のことを「ロシアに媚びを売った」と吊るし上げます。迎合組は忸怩たる思いで解放後の生活を送っている模様です。恐らく、一旦厳冬期の避難でクールダウンするでしょう。しかし、春以降、元の同じへルソン市民には戻れないのでしょう。(参照:2022年11月22日付 Washington Post記事「In Kherson city, sympathies for Russia complicate reintegration into Ukraine」)

 解放後のへルソン市は今、こうした現実に直面しているんですね。これが、戦争というものが影を落とす厳しい現実、というものなのでしょう。

 それでも頑張れ!ウクライナ!

(了)

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2022/11/26

なぜ攻めない?ドネツ川を渡河して南部戦線へルソンのロシア陣地線を突破せよ!

Nov 25 2022
最新の戦況全般図(2022年11月26日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, NOVEMBER 25」より)

戦況:やや膠着、ドネツ川渡河・東岸ロシア陣地線の突破はまだ先かも
 今のところウクライナ軍は、当初見せていた渡河攻撃はISWの分析でも言及がなく、西岸を占領、攻撃築城で同地を確保したまま、ロシア軍と川を挟んで睨み合い状態です。
 11月26日付ISWの分析では、どうやらロシア軍は南部戦線よりも東部戦線ドンバス平原正面での攻勢に重点を置き、バハムートとアウディイウカ等の局地攻撃で現接触線を西に押し広げる動きを見せています。一方のウクライナ軍は、バハムート正面はロシア軍の攻撃を阻止しつつ、それより少し北部のスヴァトゥヴェ~クレミンナで攻撃をしています。
 ウーム…。11月中旬以降のISWの分析を見ていると、どうやら南部戦線も東部戦線も既述のような現接触線での局地的な押したり引いたりの状況のようで、一言で言えば「膠着」しつつある模様です。要するに、全般的には現接触線のラインで、ロシア軍は防勢転移して陣地線での防御を中心に局地的に攻勢を試み、一方のウクライナ軍は全般的に反撃・攻勢作戦を続けているものの、ロシアの陣地線を押しきれず、その陣地線の手前の線で当面身を守るための攻撃築城を施して、…要するにウクライナ軍とロシア軍はこの線で対峙したまま膠着しつつある、という感じです。

このまま戦線を膠着させたらロシアの思うつぼ
 しかし、私見ながら、前回・前々回のブログでも申しましたように、ここで止まってはいけない。今、戦線を膠着させたら、これから厳冬期を迎えるため、このまま春の凍土が解け始める時期まで戦線は膠着したままになります。ウクライナ軍のこれまでの攻撃は、囲碁のような自軍の線を合わせた布石でジリジリと態勢上の優位を得て、敵は仕方なく後退する、という作戦志向です。このままの状況であれば、厳冬期もあって東部・南部戦線とも膠着戦となり、この間にロシア軍に戦力回復の機会を与えてしまいます。それこそが、まさにロシアの思うつぼ。春までの間に、ロシア軍は動員した予備役兵達の増援を受け、各正面で兵力が増強され、冬の間にイラン、北朝鮮、中国等からの装備品の再補給を受けて、パワーアップして春攻勢をかけてきます。厳冬期の戦線の膠着や和平交渉の素振りを見せるのは、ロシアの常套手段です。これに騙されてはいけない。

主攻撃は南部へルソン正面!ウクライナよ突破せよ!
 特に、南部ヘルソン正面で、ドネツ川を挟んで膠着させることなく、12月中旬以降の厳冬期スタートの前に、渡河作戦を敢行し、ドネツ川東岸に橋頭堡を設けて、いち早くロシアの陣地線を突破する衝撃力を見せなければいけません。ヘルソン正面のロシア軍陣地を突破し、突破口を拡大し、後続部隊をどんどん押し出してドネツ川東岸(南岸)のへルソン州に放てば、薄皮一枚で守っていたロシア軍は、一挙に東部ドンバス正面、またはクリミア半島に後退するしかありません。こうした攻撃がロシアに取ってどういう意味を持つか?実に、ロシア本土と陸続きの東部2州と違って、へルソン正面でこのスクリュードライバー的攻撃でロシア軍を分断すれば、ロシア軍はヘルソンに分断孤立化してしまいます。へルソン州に所在のロシア軍は東部2州まで後退するでしょう。更に、ヘルソン正面でロシア軍を分断するということは、クリミア半島はロシア本土から陸続きではないため、ヘルソンで分断孤立化されることになります。ちなみに、クリミア半島は慢性的な真水不足であり、飲用、生活用水から農業用水を含め、85%の真水をドネツ川ノヴァ・カホウカからの北クリミア運河に依存しています。2014年のロシアのクリミア併合以降、ウクライナはこれを閉じましたが、今回のウクライナ侵攻でヘルソン州を獲得したロシアは運河を再開しました。北クリミア運河は、クリミア半島の生命線になっており、この攻撃はこれを再び断つことになります。これはロシアにとっては大きな痛手になります。この攻撃が成功すれば、クリミア半島を特に重視してきたプーチンにとって、これが一番の戦略的な打撃となるでしょう。
north cremean canal
クリミア半島の生命線=北クリミア運河(North Crimean Canal)

 ボクシングで言えば、強烈な右フックのようなこの南部正面からのスクリュードライバー的なねじ込み攻撃は、必ずやロシア軍の侵攻作戦の鼻を挫く打撃となります。また、第2次世界大戦の戦例で言えば、ノルマンディー上陸後のパットン将軍指揮の米第3軍のスクリュードライバー的な攻撃です。ノルマンディー上陸作戦で、ヨーロッパの地に橋頭堡を築いたものの、当時、欧州戦線では依然ドイツ軍は強大でした。橋頭堡の線で戦線を膠着させることなく、一挙に均衡を破ったのは、連合軍の最右翼(南)を担ったパットン大戦車軍団の右フック的な突破~電撃戦的な進撃による敵部隊の大包囲です。これを、ヘルソンでやって欲しい。へルソン正面で薄皮一枚の防御陣地線を維持しているロシア軍に対し、一点突破で突破できたら、ここで突破口を広げて、どんどん後続部隊を投入し、留まることなく、一気通貫して敵の後方のクリミア半島や東部ドネツク正面に突進したら、突破されたロシア軍は一挙に瓦解するでしょう。北部戦線ハルキウ正面でロシア軍が後退する時にそうであったように、突破されて後方に回り込まれたのを知るや、慌てふためいてその場に全てを置いたまま、潰走・敗走するでしょう。

今だ、攻めろ!ドネツ川を渡河して南部戦線へルソンのロシア陣地線を突破せよ!
 ・・・という私の作戦志向はウクライナには一顧だにされず、恐らくウクライナは長考の年寄りの囲碁のように、時間をかけて敵後方の後方・補給基盤を長射程砲でじわじわと潰しながら、じわじわと手堅く布陣を進めていくのでしょう。じわじわでもいいから、せめてドネツ川を渡る渡河作戦で、ドネツ川東岸に橋頭堡を確保する作戦を始めてくれてもよさそうなものなのに、どうやらストップしています。
 なぜウクライナ軍は渡河作戦を本格化させないのだろう?…と訝って(いぶかって)いたのですが、どうやら西側諸国、特に米国からの武器等の主要装備品が揃うのを待っている模様です。
 しかし、聞いてよウクライナ、時間は待ってはくれないよ。早くしないと厳冬期がやって来る。春まで待つつもりかい?ロシア軍が回復しちゃうよ。
 「今だ、攻めろ!ドネツ川を渡河して南部戦線へルソンのロシア陣地線を突破せよ!」と、老兵は思うのです。

 それでも頑張れ!ウクライナ

(了)

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2022/11/17

ウクライナ軍のドニプロ川渡河作戦始まる:東岸に橋頭堡を確立せよ! 

Nov 16 2022
現地時間11月16日の南部戦線の戦況(2022年11月17日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates:RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, November 16」より)

ドニプロ川渡河作戦は始まっている 
 狡猾なウクライナ軍は音なしの構えのためメディア報道がされていませんが、ウクライナ軍のドニプロ川東岸への渡河作戦は既に開始されています。 
 ISW(米国の戦争研究所)の分析にて、数日前からウクライナ軍が数か所でドニプロ川の渡河を試み、ロシア軍の陣地からの渡河を阻止する戦闘が報告されていました。最新の2022年11月15日付(日本時間16日午後発信)の分析では、ロシア側の一部の報告として「既にヘルソン市の東方40㎞のノヴァ・カホウカ、同市の南東10㎞オレシキー、及び同市の西方40㎞以上に黒海に伸びる突き出る半島キンバーン・スピットに到達した」との情報があります。オレシキーのウクライナ市長が「ウクライナ軍がオレシキーを解放した」とのソーシャルメディアへの投稿がありましたが、後に削除した模様です。一方で、ロシア側のソーシャルメディアへの投稿でオレシキーから後退するロシア軍の姿が報告されています。要するに、ウクライナ軍は既に渡河作戦を実施中で、一部は東岸に達しているものの、渡河作戦は「半渡(はんと)」と言って渡河の途中が一番脆弱なため、敢えてその行動を秘匿し、ロシア軍からの集中砲火を避けているものと思われます。 
 
東岸に橋頭堡を確立せよ 
 ドニプロ川渡河作戦の最初の関門はドニプロ川を渡って、橋頭堡を設置することです。橋頭堡とは、「敵地などの不利な地理的条件での戦闘を有利に運ぶための前進拠点であり、本来の意味では橋の対岸を守るための砦のこと」(Wikipediaより)であり、ロシア軍の構えるドニプロ川の東岸にウクライナ軍の攻撃拠点を設置することです。この拠点が設置されれば、この拠点が盾となって後続部隊の渡河を援護し、かつ後続部隊がこの拠点からロシア陣地に対して攻撃をする際にはこの拠点が攻撃の援護射撃をする拠点になります。 
 しかし、渡河作戦というのは実に難しい。まず橋をロシア軍に落とされたドニプロ川を渡らねばなりません。ドニプロ川は大河なので渡渉点によっては100mを越えます。恐らく橋頭堡が設置されるまでは浮橋(ふきょう)を使った艀(はしけ)で部隊を対岸で隠密裏に運んで、橋頭堡が設置された後に浮橋を連結して応急の架橋を設置するのではないかと思われます。 
 努めて隠密裏に渡河し、敵のいる東岸に拠点を築く、というのが一苦労です。このため、敵に気付かれずに比較的容易に川が渡れて、なおかつ、対岸に拠点となりそうな堅固な盾となってくれる地形があって盾の後に後続部隊を収容できる一定程度の地積がある、そんな場所を選ばねばなりません。恐らく、夜間のうちに一部の部隊が隠密に渡河し、夜陰に乗じて拠点となる地域を偵察し、同地を占領・確保を目指しますが。恐らくは、ロシア軍も警戒していますから、半渡の状態でウクライナ軍の渡河の動きを察知し、そこに集中砲火をかけてきます。こちらも西岸の後方から敵陣地に猛烈に砲撃して頭を上げさせないように応戦します。その激戦の中、拠点を設定する部隊を渡河させ、東岸に引き入れて応急の陣地を構成し、何とか橋頭堡を設置する、という流れです。当然、激戦になります。この激戦の中で、橋頭堡を設定し、なおかつ逐次部隊と装備を投入して強化して、拠点化する流れです。 
 恐らく、ウクライナ軍は今まさに橋頭堡を設定している最中でしょう。激戦は必至ですが、頑張ってくれ! 
自衛隊 艀(浮橋)
 (架橋)浮橋
プレゼンテーション3
上が浮橋を使った艀(はしけ)、中が浮橋を使った応急の架橋(MotorFan.jp「陸上自衛隊:90式戦車も渡れる! 浮体橋とボートで構成、柔軟に運用できる『92式浮橋』自衛隊新戦力図鑑」より(※写真は自衛隊提供) ) 、下の写真は朝鮮戦争時の釜山橋頭堡
 
冬を見越して早期に渡河作戦を成功させ努めて早く東岸のロシア陣地線を突破せよ 
 よく指摘される「冬将軍」の条件下での作戦について、どんな様相になりそうかを展望します。 
 まず、この地域の冬は北海道以上の寒さであること念頭に置く必要があります。大陸の冬ですから、日本人の経験したことのない様相です。強いて言えば、日露戦争時の冬の黒溝台の戦闘で我々の大先輩たちが経験した状況に近いのかも知れません。今回のウクライナ戦争の地域では、過去、ナポレオンやナチスドイツが冬将軍に敗れ、厳寒の中で半死半生の退却となりました。 
 さて、元々の地元同士の戦いとなったウクライナ軍対ロシア軍はどうか?結論から言うと、厳寒の気候は戦闘の進展を大いに減速するものの、両国軍とも冬装備を保有し、冬でも戦闘訓練を積んでいますから、基本的に戦闘行動は継続できます。事実、ナチスドイツにモスクワ攻防戦まで迫られた当時のソ連軍は、厳冬期に頑強な戦闘を継続し、ナチスドイツに粘り勝ちしました。当時は現ウクライナ人もロシア人もソ連軍として戦っています。従って、戦況進展のスピードは鈍くなりますが、これまで通り日々戦闘は継続するでしょう。とは言え、12月半ばから一機に厳寒の気候に入り、ドニプロ川は凍結し、大地は凍土となります。このことが戦闘に大きく影響することは間違いありません。 
 攻者ウクライナ軍と防者ロシア軍の差についてですが、一般的に、防御側は自ら準備した防御陣地に戦闘に必要な武器・弾薬・食料・各種補給品を備蓄してあり、防寒を含め備えかつ構えているので、有利であることは明白。他方、攻撃側は、事前の準備もなく何の防護物もない敵地に自らの姿を晒して乗り込んでいくので、更に武器・弾薬・食料は携行したもので当面の戦いをしなければならないので、非常に不利です。厳寒の中、敵弾に晒されて凍る大地に身を伏せるので、敵弾下でそのまま動けなければ凍死する状況です。 
 厳寒期の気候が戦闘に与える影響ですが、これは攻防両軍に言えることですが、武器や戦車等の装備は厳寒下で故障や結露が起き得ます。金属の潤滑グリスが固まってしまったり、人が接する照準具や照準眼鏡の結露も起きます。故障排除するにも、修理のための後送するにも、厳寒期ゆえの困難が伴います。この点では、西側諸国の支援の下、後方補給態勢が比較的整っているウクライナ軍は有利であり、一方、ロシア軍ヘルソン東岸守備隊はウクライナ軍の長射程砲HIMARSによる後方補給拠点やチョークポイントへの砲撃により、後方補給態勢が非常に脆弱になっており、この点ではウクライナ軍が非常に有利と言えます。 
 また、日照時間が短くなるので、いわゆる日中の戦闘時間が短く、夜間戦闘の時間が長くなります。現地では夏季に日に15時間程度ある日照時間が、冬季には9時間程度になります。夜間でも戦闘するには照明弾による照明や暗視眼鏡の使用が必要です。この点でも、西側諸国の支援を受けたウクライナが有利、後方補給が脆弱なロシアは不利と言えましょう。 
  
 総じて言うと、12月半ば以降の厳冬期は両軍の戦闘行動に大きく影響を与えますが、戦闘行動は継続します。しかし、既述の通り厳冬期となると基本的に防者に有利、攻者に不利なため、厳寒期を迎える前に渡河作戦を成功させられるか否かがカギとなります。厳寒期の渡河作戦は非常に厳しい。ヘタをするとドニプロ川の線で戦線が膠着してしまいます。それではロシア軍の思う壺。よって、ウクライナ軍の観点から言えば、現在の戦勢を活かして努めて早期=努めて11月中にヘルソン東岸に橋頭堡を確立して、12月前半にロシア陣地線に突破口を開けて陣内戦に持ち込みたいところです。

 頑張れ、ウクライナ!

(了)

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2022/11/12

ロシア軍ヘルソン西岸から後退:今後の焦点はドニプロ川渡河作戦になる

Khelson.jpg
ロシア軍が後退したへルソン市で解放された歓喜を爆発させる残留住民(2022年11月11日付CNN「Ukrainian troops sweep into key city of Kherson after Russian forces retreat, dealing blow to Putin」より)

遂にロシア軍がへルソン西岸から後退
 先週あたりからメディアが喧伝していたロシア軍の「へルソン撤退」について、2022年11月9日水曜にロシアが正式に発表し、10日木曜には相当数のロシア軍のドニプロ川の渡河・後退が確認されています。ちなみに、メディア報道では「へルソン撤退」(2022年11月11日付朝日新聞「ヘルソン撤退『命のため』プーチン政権、痛手払拭に必死 戦況膠着か」、同日付JIJI.COM記事「「防衛強化」か「敗北」か ロシアがヘルソン撤退決定―ウクライナ情勢、今後に影響」ほか)とか「放棄」(同日付産経新聞記事「ロシアがヘルソン市の放棄を決定」ほか)といった言葉を使っていますが、正確にはロシア軍はヘルソン市の主要部があるドニプロ川西岸からの「後退」をするのであって「(完全)撤退」ではありません。事実は、ドニプロ川の東岸に後退し、東岸の線に構築した塹壕陣地でウクライナの進撃を川の線で止める構えです。(参照:2022年11月12日付ISW記事「RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, NOVEMBER 11」)

 ともあれ、11日金曜の段階で、ウクライナ軍は慎重に前進しつつ、主力部隊をヘルソン市手前で展開させつつ、一部の部隊をへルソン市に投入しました。へルソン市は全くの沈黙、ロシア軍の攻撃はなし。潜んでいたものの、大丈夫そうなので街へ出てきた残留住民が解放された歓喜を爆発させ、市街へ繰り出し始めました。前掲のCNNの報道によれば、街へ繰り出してきた住民にインタビューしたところ、まさに前日までロシア軍の略奪に遭い、男性は拘束・拷問され、女性は強姦(記者が実際にインタビューした15歳の少女の話をレポートしていました)されていた恐怖の日々だったとのこと。歓喜を爆発させるのも理解できるところです。

ドニプロ川の渡河が次の焦点に
 解放を喜ぶ残留住民でごった返すヘルソン市中心部は、今のところかりそめの開放・勝利を喜ぶ状態ですが、喜びもつかの間、すぐ直面するのは「戦争継続中」という現実でしょう。ウクライナ政府や軍首脳が警戒しているロシア軍のへルソン市への攻撃は、まさにいつ始まるかわからない緊張下にあります。へルソン市を市の街に変えるロシア軍の猛烈な砲爆撃、残留住民を装って潜伏するロシア兵によるテロ攻撃、カホウカ水力発電所の巨大ダムの決壊など、考えられるロシア軍の報復攻撃に警戒しつつ、ウクライナ軍は非常に慎重に、じっくりとドニプロ川西岸に布陣し始めています。11月半ばには、ドニプロ川に沿って、カホウカからヘルソン市を経て黒海の河口までの間の250キロに渡って、ウクライナ軍とロシア軍が対峙する形となるでしょう。

 ヘルソン市攻防戦の前半戦は、ウクライナ軍がロシア軍の兵糧攻めをする形で寄り切り、継戦能力の無くなったロシア軍が川で退路が断たれる前に東岸に後退する形となりました。まさにウクライナ軍の「寄り切り」ないし「押し出し」ですね。へルソン市内の血みどろの激戦とならずに静かな勝利となりました。これは、ウクライナ軍の8月から計画的かつ徹底的に実施した兵糧攻めによるものです。ロシア軍へルソン守備隊のはるか後方にあった武器・弾薬庫などの兵站基地、後方補給線のチョークポイントとなる橋などを、西側供与の長射程火砲HIMARSで破壊した結果、ロシア軍は戦闘継続のための武器・弾薬・食料等の備蓄を枯渇させ、かつそれを再補給する補給線をか細くさせたため、継戦能力を断ったのです。加えて、ウクライナ軍の攻撃は、一部の部隊による果敢な突撃などを一切排し、部隊として線を揃えてじわじわと攻撃前進し、前後左右の部隊の鉄壁の相互支援の下で歩を進める形をとった模様です。まさに囲碁の布石ですね。将棋の棒銀戦法のように、一部の部隊で突っ込んで相手をかき回すようなことはせず、あくまで慎重に部隊の線を揃えてじわじわと地域を確保していく攻め方です。この調子でドニプロ川西岸にじわじわと詰めて行くでしょう。

 さて後半戦、ドニプロ川を挟んでの両軍対峙からスタート。勝負はドニプロ川のウクライナ軍の渡河攻撃です。対するロシア軍は、せっかく西岸の部隊を温存して後退させ、東岸陣地線に配備するからには、ドニプロ川の線で努めて長期間防御戦闘を継続して、ウクライナ軍の反撃攻勢の進捗を止めて、時間稼ぎをすることです。プーチンから「ドニプロ川の線を死守せよ」と厳しく厳命されていることでしょう。ドニプロ川は莫大な水量の大河ですから、守るロシア軍にとっては天然の要塞であり、渡河しなければならないウクライナ軍にとっては難攻不落の城の要塞に見えるでしょう。渡河するためには、西岸に川を渡るための拠点を作り易く、川を渡り易く、なおかつ渡った後に東岸に比較的頑強な出城を作り易い「渡渉点」適地を数本設け、同時に渡河作戦を遂行することになります。このため、東岸のロシア陣地に砲弾のどしゃ降りを降らせて頭を上げさせず、この隙に渡河するための架橋(応急の橋の作成)、浮橋(ボートではしけを作ってはしけごと渡河)等の手段で渡河し、渡河した東岸で拠点を設けて、後続の渡河を援護し、後続部隊は東岸で攻撃を継続する、・・・というのが流れです。しかし、今回はその川の線でロシア軍は陣地線を構築しているので、この渡河作戦は間違いなく激戦になります。

ロシアの時間稼ぎに騙されてはいけない
 恐らく、ロシア軍のへルソン守備隊の任務は、ドニプロ川の線でウクライナ軍の新軍を止めて長期持久することです。プーチンとしては数か月ほしいところであり、冬将軍の力も借りて何とか長期持久させたいところでしょう。これは予備役の部分動員で得た補充兵を十分に訓練し、装備も充実させて、晴れて強力な増援部隊として前線に出して、十分な兵力で戦線を巻き返すためです。しかし、今のへルソン守備隊の兵力とか細い補給では長くても1ケ月でしょうね。従って、ロシア軍はこれを何とか持久させるためのあの手この手の策を取ってくるでしょう。例えば、西岸のへルソン市への猛烈な砲爆撃、残留住民を装ったロシア特殊部隊によるへルソン市でのテロ攻撃、ウクライナ軍の残留ロシア兵の掃討を「へルソン住民へのウクライナ軍の残虐行為」と報じる情報戦、潜入させた特殊部隊によるカホウカ・ダムの爆破・決壊、ウクライナの電力などのインフラ攻撃の再興、西側へのLNGガス等の供給停止、ウクライナからの穀物輸出への攻撃、などなど何でもありの妨害工作をするでしょう。また、ヘルソン正面だけの話ではなく東部戦線ドンバス正面を含めたロシアとウクライナの間の両国間の話として、厳寒時期を迎えるこの機に乗して「見せかけの停戦交渉」を仕掛けてくるかもしれません。期間を限定した「停戦」など、ありとあらゆる時間稼ぎをするでしょう。事実、ミリー米軍統合参謀長が「両軍とも相当数の死傷者を出している。(厳冬期を迎えるに当たり)そろそろ停戦交渉をすべき。」との趣旨の発言をし始めました。(参照:2022年11月11日付Republiworld.com記事「Russia-Ukraine War: 100,000 Russian Soldiers Killed & Wounded, Says US Army Gen Milley」)米軍のミリー将軍は善意で言っているのでしょうが、こういう流れに乗って騙されてはいけません。ロシアに取っては、それらは「住民保護」や「停戦」の衣をまとった時間稼ぎに過ぎません。

激戦承知で渡河作戦あるのみ!
 ウクライナ軍にとっての一番の対抗策は、渡河作戦の敢行とヘルソン全域への進撃継続、ひいてはクリミア半島奪回を目指した反撃攻勢の続行です。恐らく、激戦となり多くの血が流れ相当数の兵士が死傷するでしょう。しかし、やらねばならないのです。ロシアに時間稼ぎの機会を与えると、パワーアップしたロシアは各正面で劣勢を挽回してきます。その期間に、か細かった後方補給線も太く回復し強靭化してしまいます。従って、引き続き、へルソン守備隊の後方補給線への攻撃を続けるとともに、ロシア軍のドニプロ川東岸陣地線を早期に渡河・突破すべし!ロシア軍の先手先手を打っていき、ロシアの鼻面を引きずり回しましょう。

頑張れ!もう少しだウクライナ!

(了)

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2022/11/06

ロシア軍へルソン撤退?に惑わされるな!必ずヘルソン攻防戦は激戦となる

Nov 5
2022年11月5日付ISW記事「RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, NOVEMBER 5」より

ロシア軍へルソン撤退?に惑わされるな!必ずヘルソン攻防戦は激戦となる
「ロシア軍がヘルソン撤退を準備している」との見方が喧伝されていますが、今回は、「こうした情報戦に惑わされちゃいけない、必ずヘルソン攻防戦は激戦になる!」というお話です。

撤退準備ではなく、東岸に周到な防御線を準備しているというのが事実
 確かに、欧米西側諸国の分析やウクライナ当局の発表でも、ひいてはISW(米国の戦争研究所)の分析でも「ロシア軍のドニプロ川西岸から東岸への後退準備」について指摘しているので、メディアはそこに飛びついて今にもロシア軍がヘルソン市を放棄してずっと後方へ撤退するかのような喧伝ぶりをしています。しかし、ISWのような確かな筋の分析をよく見ていただきたい。ロシアはヘルソン市を放棄なんかしない。元々地理的にロシア軍に不利なドニプロ川の西岸から川を隔てた「ドニプロ川東側に後退陣地を周到に構築し、秩序よく計画され意図的な後退を準備している」というのが事実です。これを大局的にみると、へルソン市の主要部がドニプロ川西岸なので、あたかもヘルソン市を放棄したように早合点するド素人が多いですが、よく見てください、東岸で周到な防御陣地を構築しているのです。へルソン市の主要部がある西岸で激戦となるのは自明の理です。ここで西岸で戦うロシア軍にとって非常に不利な条件なのが、ドニプロ川という大河を背にしており、これがネックで武器・弾薬・食料・負傷者の後送などの後方への連絡線が川の存在で分断されるわけです。従って、ロシア軍は西岸を死守するのは不利と考えて、予め東岸に堅固な防御線を構築して最悪の場合はドニプロ川の線でウクライナの反撃を止めて冬将軍の到来を待つ、という考えなのでしょう。

しかし何かおかしい。ロシア軍は何か隠し玉を使うワナかも?
 前述の「川の線で止める」という話は戦術的には理解できる話ですが、ウーム何かおかしい。今回の動きを見ていて、どうもおかしいなと思っています。ロシアがそんなに合理的で受け身の思考のワケがない。例えば、ロシアの新総司令官になったスロヴィキン将軍は、早くも10月中旬にヘルソン攻防戦について「難しい決定が必要かもしれない」なんて気弱な発言をしています。(参考:2022年11月4日付ABC News記事「Russia-Ukraine live updates: Officials think Russia plotting withdrawal from Kherson」)これまで超タカ派のイケイケ発言ばかりしてきた新総司令官スロヴィキン将軍がなぜそんな弱気な発言をわざわざしたのか?私はここを疑っています。そんなはずがない。ということは、この「撤退」匂わせ発言や、西側情報筋が「計画的な後退準備か」と分析するような見え見えの人員や装備の東岸への移動や守備隊司令部機能の東岸への移設は、ブラフの可能性があります。ロシアがケツに火がついて今にも西岸から後退するような印象をウクライナや西側に与え、或いは実際に西岸から東岸に守備隊が後退している姿を見せることで、ウクライナ軍がドニプロ川西岸のへルソン市に安易な攻撃前進をさせるとか、安易な部隊の集中をする。撤退したヘルソン市西岸の市街地にはありとあらゆるブービートラップ(仕掛け地雷など)が張り巡らされているでしょうし、ウクライナ軍の部隊がヘルソン市に集中したところに、そこを狙ってドニプロ川西岸のへルソン市主要部に対してロシアの徹底的な砲爆撃を集中発揮、ウクライナ軍の主力部隊を一挙に殲滅するとか。実際に、ロシア軍が東岸に後退したとしたら、当然ウクライナ軍は西岸のへルソン市主要部を占領確保するために部隊を前進させますから、当たり前のように必ずそこを砲爆撃してくるでしょう。ただし、その際に非常に怖いのは、戦術核兵器の使用、或いは生物・化学兵器の使用。まさかとは思いますが、今のロシア軍ならやりかねません。ウクライナ軍よ、お気を付けを。

ドニプロ川の東西で冬を迎えて膠着するだろうか?させてたまるか!
 2つ前の段落で述べた「ロシア軍は西岸を死守するのは不利と考え予め東岸に堅固な防御線を構築し、ドニプロ川の線でウクライナの反撃を止めて冬将軍の到来を待つ」という考え方について考察します。
 果たして川の東西でウクライナ・ロシア両軍が対峙したまま冬を迎えて膠着戦となるでしょうか。古今東西の戦史から学ぶ「戦理」からして、戦いには勢い「戦勢」というものがあって、川という地形的障害は確かに重要な要素ではありますが、本当にこの線でロシアはウクライナを止められるのか?非常に疑問です。純然たる戦術的な方法論として、予め川を背にする不利なへルソン市主要部を主戦闘地域とせず、本格的防御戦闘を川の東岸で構えるという理解できる話ですが、へルソン市主要部を比較的早期に敵に明け渡すというのが本当に正解か?否、です。戦術的には西岸にへルソン市のような戦略的重要性の高い緊要地形があるなら、まずはへルソン市主要部を守るべくへルソン市の前方(北ないし西)に十分な前方地域戦闘地帯を置いて、前方地域にて敵を遅滞する作戦をするのが定石です。そのあげく主戦闘地域のヘルソン市に主要な防御線を敷き、へルソン市直前の地域で敵を止め、最悪の場合でもへルソン市内で陣内戦=市街戦となりますが、後方から逆襲部隊を投入して、陣内に突入できたウクライナ軍を小さいうちに殲滅する、という王道の防御戦闘の戦い方をするはずです。それをせず、公然と初めから東岸に主戦闘地域を下げるというのは解せません。東岸が主戦闘地域ということは、西岸までは敵の侵入を許すことになります。西岸まで比較的容易に前進できたウクライナ軍は、ドニプロ川を渡河しないと東岸のロシア軍の主陣地を撃破できませんから、渡河できるように渡河拠点を設け、猛烈な援護射撃の下で人員用・車両用の応急の橋を架け、またはボート製のはしけで人員・車両を渡河させる作戦を実施します。東岸に取り付いたら、そこから東岸に渡って攻撃をしていけるように橋頭堡を設定し、そこからロシアの主陣地に攻撃を仕掛けます。当然、川を渡る作戦、そして橋頭堡を設定しそこから部隊を前に押し出す、なんて場面は弱点に違いなく、ロシア軍から集中砲火を浴びます。相当の激戦になるでしょう。しかし、それはヘルソン市攻防戦に限る話ではなく、周到な防御陣地に対する攻撃では当たり前のことです。相当な激戦にはなりますが、「戦勢」のあるウクライナ軍は西側諸国の最新装備や十分な武器弾薬があれば不可能なことではありません。ロシアが東岸で周到な陣地線を敷いたところで、早ければクリスマス前に東岸の陣地も撃破できるでしょう。

 問題は冬将軍です。早ければ12月下旬、遅くとも1月には川は凍結します。凍結すれば渡れるか?というとそうはいきません。返って渡河作戦が困難になります。川が凍結するほどの気候ですから、生身の人間が陣地で比較的温もりながら敵を狙う防御側に比べれば非常に厳しい攻撃前進になります。大地も凍りますから、凍土の上に伏せているだけで数時間で凍死します。身を潜め暖を獲れる場所に身を潜めるしかなくなります。この冬将軍という気候が攻撃を難しくするのは確かです。だから、東岸陣地の攻撃のチャンスは12月中しかないのです。どこかで陣地線を破って突撃が成功し、突入口を形成できれば、そこを逐次維持拡大し、後続部隊をどんどん投入して戦果の拡張をします。突入口ができれば混乱した陣内戦となり、ロシア軍も自軍の上には砲爆撃ができないので、陣内戦に持ち込めば冬でも戦えます。

 ヘルソン陥落ができれば、世界の目に「ロシアの退潮」を見せつけられます。ヘルソンを獲得すれば、ロシアが最も恐れるウクライナの悲願「クリミア半島奪回」も夢ではなくなる話です。

 頑張れ!ウクライナ!

(了)

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