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2022/12/31

ロシアの年末の逆襲:ウクライナ全土に砲爆撃のお歳暮

russian missile attack
キーウ上空のミサイル迎撃の状況 (画像:2022年12月29日付BBC記事「Massive Russian missile barrage pummels cities across Ukraine」より)

ロシアの年末の逆襲:ウクライナ全土に砲爆撃のお歳暮
 「空襲警報、直ちに避難所に避難してください。」
 2022年12月29日木曜の零下厳寒の早朝、首都キーウを始めとするウクライナの各地に空襲警報がかかりました。電気は予防的に遮断されて停電、人々は防空壕や地下鉄等へ避難しました。同日5時半ころ、黒海上のロシア海軍艦船からの巡航ミサイル発射を始めとするロシア軍からの砲爆撃の兆候を感知したウクライナの警戒管制システムの情報により、ウクライナ主要都市など各地で空襲警報が発せられました。
 そして同日朝から長いところでは8時間にわたって、過去最大規模のロシアからの砲爆撃のお歳暮がウクライナ各地を襲いました。首都キーウを始め、ハルキウ、オデッサ、ミコライウなどの主要都市、東部および南部ヘルソンなどのロシアからの奪還地域、更にはリヴィウなどのウクライナ西部の都市にも、ほぼ全土への最大規模の砲爆撃でした。既述の主要都市・地方都市という政治経済の集中点・人口集中地域に加えて、現在血みどろの激戦が行われている東部ドンバス戦線の最前線各正面にも、ロケットや砲弾の雨が降り注いだ模様です。

ロシアは新旧装備の詰め合わせで自軍の砲爆撃力の質量を見せつけた
 砲爆撃で発射されたのは、いわゆる「ハイロー・ミックス」で、空軍機や海軍艦船からの巡航ミサイルのような戦略ハイテク最新装備もあれば、旧ソ連時代から使っていたようなカチューシャ多連装ロケットのような戦場用のローテク旧式装備まで、ありとあらゆる砲爆撃手段を駆使したものでした。
 枯渇したのではなかったのか?少なくとも、誘導ミサイルなどのハイテク装備は枯渇したはずだったのに……、と思っていましたが、今回の砲爆撃で「実は、まだまだあるのですよ」と砲爆撃力の質量の豊富さを見せつけてきた形です。一体、どこに、いや、どこから手に入れたのか?

 ロシアの軍需産業は、これほど多くのミサイル・ロケット・砲弾などの砲爆撃を供するに十分な生産能力は持っていません。ロシアへの経済制裁によるサプライチェーンの問題もあって、軍需産業を支える部品や材料も手に入りづらくなっています。よって、ロシアは世界各地でそういった装備や装備を支える部品や材料の入手に血眼になっています。ここで頼りにしている相手が、やはりイランや北朝鮮です。英国の国連大使の発言では、ロシアが数百発の弾道ミサイルや高性能攻撃ドローンを含むより多くの武器をイランから入手しようとしている、とのこと。英国の情報では、ロシアが北朝鮮[をはじめとした第3国から、厳しく制裁を課された統制品目をあちこちの国から調達しようとしている、とのこと。やはり、直接的にはイラン、北朝鮮のドローンやロケットや砲弾、そして間接的には誘導武器の周辺パーツ・材料などを中国が搦め手から供与している模様です。
 あちこちからの供与を基に、何とかギリギリ、まだまだ前線での戦闘を継続しつつ、今回のような都市やインフラへの戦略砲爆撃を継続していく武器・弾薬のバックアップを保っている模様です。しぶといものですね。

最大規模の砲爆撃を食らったウクライナでは
 迎え撃つウクライナ軍側は、早期警戒システムとミサイルやロケットの迎撃をする地上部隊との間の連携が非常に良好に機能している模様です。不幸中の幸い的な話ですけど、玄人的には驚くべき防空能力を発揮しています。元々保有していたロシア製のS-300対空ミサイルの防空システムをはじめ、西側供与の最新の防空システムや対空ミサイルなどを駆使して、首都キーウでは9割がた迎撃したようですが、すり抜けた砲爆撃や迎撃したミサイル等の破片が落下して、建物などに大きな被害を与えました。一部では、首都キーウン防空のために撃った迎撃ミサイルS-300が射ち漏らしてベラルーシ領空に飛来し、ベラルーシの迎撃ミサイルで撃ち落された模様です。

 空襲警報の避難呼びかけが功を奏して、幸い人的被害は最小厳に食い止められました。しかし、狙いはウクライナ主要都市の人口集中地域とその電力などの重要インフラだったようです。電気に関してはキーウの40%、西部リヴィウの90%の電力が失われたほどの大きな被害でした。
 特に、今回のように、軍事用語で「弾幕」と言えるような圧倒的な質と量の広範囲への砲爆撃があると対応が困難なのは、もはや仕方がありません。防空能力が向上し迎撃能力高くなったとしても、今回のオーバーキル的な全土への最大規模の砲爆撃があると、結局は迎撃能力を超える砲爆撃には一定の被害を甘んじざるを得ないようです。悲しい現実ですね。

 他方、ウクライナへは、今後今以上に西側からの最新の防空・迎撃システムが導入される予定です。例えば、ドイツからのIris-Tシステム、フランスやオランダからも追加の防空ミサイル、また、米国からは最先進的な地上ベースのミサイル防衛システムであるパトリオットミサイルが、それぞれ導入が予定されています。これらは導入までの基幹や、導入後のウクライナ軍の要員の訓練等の戦力化までの猶予期間がかかりますが、逐次に確実に戦力になっていきます。

(以上の参照: 2022年12月29日付BBC記事「Massive Russian missile barrage pummels cities across Ukraine」、同日付Global news記事「Massive Russian missile attack in Ukraine targets power stations amid freezing temps」、同日付The New York Times記事「Russian Missile Barrage Staggers Ukraine’s Air Defenses」ほか)

年末に暗いニュースで年を越しますが明るい新年を迎えたいものです
 本日2022年12月31日朝10時前に北朝鮮の弾道ミサイル3発が発射され、いずれもEEZ街に落下しました。今年37回目の北朝鮮の弾道弾発射、その射ち納めでしょうか。  
 ロシアも北朝鮮も、一部の国家指導者の偏執狂的な考えでこうした無意味なことがシャーシャーと行われています。この両国は「首長」の首を取らない限り変わらないのかも知れません。悲しい現実ですね。
 願わくば、来るべき新年は少しは明るい現実を迎えたいものです。

(了)

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2022/12/25

狡猾!ゼレンスキー訪米の深謀遠慮

 2022年12月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領が米国を電撃訪問し、米国からパトリオット供与をはじめ追加支援を得たニュースが世界を駆け巡りました。ゼレンスキー大統領にとり、ロシアによる侵攻開始以来これが初めての出国であり、ロシアに徹底抗戦するウクライナにとって最大の支援者である米国に電撃訪問、バイデン大統領との首脳会談や米国議会での演説など、同大統領はいつものモスグリーンの軍のセーター姿のまま、駆け足ながら外交日程をこなして帰国の途につきました。
 今回の訪米で、米国からパトリオット防空ミサイルなどの武器弾薬の供与をはじめ、高額の追加支援を得たゼレンスキー大統領は、Xマス直前の世界のニュースを独占し、直前の19日に隣国ベラルーシを訪れてルカシェンコ大統領と首脳会談をしたロシアのプーチン大統領の鼻を明かした形でした。

電撃訪米の成果
 今回の訪米の成果は次の3点と推察されます。まず、最大の表向きの成果は、①「長期戦、ロシアの攻勢再開を見越した米国のバックアップ態勢の担保」でしょう。次いで、もう一つの狙いは①を確保するための米国内の世論へのケアとして、②「米国内の「支援疲れ」世論へのつなぎ広報」でしょう。熱しやすいが冷めやすく、国外の話より目の前の生活の不安に目が行くアメリカ人の気質を踏まえて、つなぎ広報をしっかりとやったのだと思います。そして、①②の成果の副次的効果として、③「積極外交によるプーチン大統領への痛烈なボディーブロー」をかましたことも大きな成果と言えましょう。

 この電撃訪米は、当然のことながら米国のバイデン大統領との共同作戦ですから、バイデン大統領との共通の目的達成のための連携策応ですが、バイデン大統領のプロデュース以上に舞台の上のゼレンスキー大統領は役を演じきった形でしたね。恐らく、千載一遇のチャンスをもらい、自分で今回の電撃訪米の役作りをしたのでしょう。スタッフと共に、米国大統領に何を言うか、米国議会で何を言うか、記者会見で何を言うか、いかに振舞うか、服装をどうするか、等々を熟考し、その結論として、今回の大舞台の役を演じ切りました。まさに深謀遠慮。本当によく考え、よく演じましたよ。一介のコメディアンが若冠40代で大統領になり、こんな大芝居をやり切るんですから。

成果① 長期戦、ロシアの攻勢再開を見越した米国のバックアップ態勢の担保
  表向きの成果で、各紙の見出しに踊ったのは、米国からの防空ミサイル・パトリオットの供与と18億5000万ドル(約2440億円)規模の新たな軍事支援です。この一義的な意義・重要性は、今後も長く続きそうなロシアとの徹底抗戦を戦い抜くため、特に現在懸念されているベラルーシ方向からのキーウ奪取を狙う攻勢作戦なども念頭に、継戦能力のネックとなる武器・弾薬・各種経済的支援の担保を米国からもらえたことでしょう。

 ゼレンスキー大統領としては、ロシアと戦うための各種装備・武器・弾薬について、もっと細かな要望も上げていますが、米国が供与を確約したのは上記のような、ロシアへの過剰な刺激を避けたものとなっています。今回得られた成果として、玄人目に評価しているのは、地味ながら日々消費していく火砲の弾薬について、米国から供与を受ける担保が取れたことです。ウクライナ軍は旧ソ連規格の火砲を装備し扱いなれているため、即戦力となる旧ソ連規格の各種砲弾の供与が現場の兵士にとっては死活的な戦力です。今回、152㎜榴弾砲を4万5千発、122㎜榴弾砲を2万発、122mm自走多連装ロケット砲「グラート」のロケットを5万発、主力戦車T-72系列の125㎜滑空砲弾を10万発の供与を約束してもらえたので、越冬戦及び懸念されている新年のロシアの攻勢への迎撃態勢は何とか首が繋がったと言えます。
patriot missile system
防空ミサイル「パトリオット」の運用イメージ(2022年12月22日付BBC記事「Ukraine war: US Patriot missiles will comfort Kyiv and alarm Moscow」より)

<ちなみに、パトリオット1基の供与の意味>
 日本のマスコミもかなり注目をした「パトリオット」についてですが、白紙的には、パトリオットの導入でロシアからのドローンやミサイル攻撃に対し、40km~160㎞の有効射程で極めて高い迎撃性能を有するため、これまでの6~7割の迎撃率から8~9割に向上すると言われています。しかし、米国からの供与は1基(1個射撃中隊)のみですから、「なぁんだ1個じゃ意味ないじゃないか」と象徴的な供与ととられがちです。ところが、結構な意義はあるんですよ。

 パトリオットの導入は、私見ながら、ロシアがたまにチラつかせる核攻撃に対する最後の防波堤として、ウクライナの市民の安心感の基盤になるでしょう。1発が4億円もする極めて高額な防空ミサイルなので、数万~数十万円のイランのドローンの迎撃に使うわけにはいきません。当然のように、使い道は最も危険な敵の攻撃=ウクライナにとっても被害が致命的となる場合に限定されるでしょう。要するに、首都キーウをロシアの核攻撃から守る最後の切り札として、という運用になるでしょう。ちなみに、パトリオットは日本にも弾道ミサイル防衛の最後の切り札として導入され、今も首都圏をはじめとする各地に配置・警戒中です。これを、首都キーウのみのため、なけなしの1基を運用する、ということでしょう。

 1基とは、パトリオットの射撃のための運用の基礎単位で1個射撃中隊(battery)ということです。この射撃中隊には、ミサイル本体の発射車両(再装填装置付(いわゆるパトリオットミサイルPAC-3弾が4発~16発搭載可))に加え、射撃管制、レーダー、アンテナ、情報調整、通信(無線中継)、電源(発電機)、整備、等の各機能の約10両以上の車両で構成されています。これらの車両で射撃陣地適地に自走し、各車の機能に基づく配置と離隔をとって射撃陣地を準備します。本来なら数個~6個の射撃中隊を1個射撃大隊が指揮運用しますが、今回1個射撃中隊のみの供与なので、とてもウクライナ全土を防衛できるものではなく、あくまで一定の局地的な防空手段に過ぎません。ただし、恐らく米軍ともリンクしたロシア~欧州の広域をカバーする空域の警戒管制網と繋げて、主として首都キーウの空の守りの一端を担うことになるでしょう。飛んでくる飛翔体を識別し、そいつが弾道ミサイルか、それとも安っぽいイランのドローンかロシアの防空ミサイルS-300を転用したミサイル等による攻撃かを警戒管制システムが瞬時に分析・判断し、迎撃が極めて難しい弾道ミサイル(非常に高額なのでロシアも乾坤一擲の攻撃にしか使わないと思われる)でない限り、パトリオットに射撃命令は来ないと思ません。弾道ミサイルだと、パトリオット以外の防空システムでは迎撃できないでしょう。このパトリオットが最後の切り札であること自体が、首都キーウの防空にとっては極めて大きい安心感を与えることは間違いありません。
(参照: 前掲BBC記事ほか)

 また、米国がパトリオットを(たとえ1基であっても)ウクライナに供与をした、ということの国際社会へのPR度は大きいと思います。米国がパトリオットを供与しているのは、ドイツ・オランダなどのNATO同盟国、サウジ・クウェート・カタールなどのアラブの産油国かつ友好国、イスラエルのような特別な関係国、極東の二国間同盟国である日本・韓国・台湾などだけですから、今回ウクライナに供与したということの戦略的な意義・重要性は大きく、要するに「この国は米国にとって戦略的に非常に重要な同盟国だぞ」とロシアに念を押した形になります。

成果②: 米国内の「支援疲れ」世論へのつなぎ広報
 皆さんもご覧になったでしょうか?ゼレンスキー大統領が米国議会で演説した際に、過半数の議員がスタンディングオベーションでゼレンスキー演説に拍手をしている中、一部のウクライナ支援への懐疑派の共和党議員たちが、苦々しい顔のまま座席に座ったままであったことを。そうなのです。まぁ、民主国家なので当たり前のことですが、政権や政府の進める方向性に異議を持ち、公然と反対する人達って存在するわけです。これは、米国の平均的な世論をも反映していて、「なぜ米国がヨーロッパの片田舎の国のために多額の国税を費やしているのか?」という素朴な疑問を多くの米国市民も持っているわけです。この辺は、最近の米国大統領の中間選挙と上下院の当選者数にも如実に反映されてきています。侵攻当初の3月頃、米国世論はウクライナ支援に80%がGoサインでしたが、11月の中間選挙では米国の国境警備や冷えつつある経済への対策の方が大事なのではないかという議論がおきました。特に、トランプ前大統領をはじめ共和党の一部議員は、「(ウクライナに)空白の小切手をきるべきではない」(共和党上院ミッチ・コーネル氏)、とか「(ゼレンスキー大統領は)恩知らずの国際福祉の女王だ」(ドナルド・トランプ・ジュニア氏)などと公然と異を唱えています。
(参照: 2022年12月22日付BBC記事「Zelensky makes his pitch - will US sceptics buy it?」ほか)

 今回のゼレンスキー大統領の訪米は、こうした米国の世論の動向を踏まえた「つなぎ広報」になったと推察します。ゼレンスキー大統領の演説内容には、熱しやすく冷めやすく、遠い他人への慈善行為より目の前の自分の生活の安定に目が戻りがち、そのくせ結構情に脆く、世話する気になったら親身の肩入れをする、という米国市民の琴線に響く言葉選びが目立ちました。「アメリカの援助は『慈善』ではなく『投資』」というのは効き目がありましたし、また、「(ウクライナでは)Xマスにキャンドルで祝う。電気がないから…」という発言や、演説の最後に「皆さんへのプレゼントだ」と前線の兵士への激励に行った際に兵士からもらったウクライナ国旗への寄せ書きを広げて見せたのも泣かせる演出でした。アメリカ人は情に脆いので、結構やられたのではないかと推察します。

 今回の「つなぎ広報」が米国議員をはじめ米国世論全体を一夜にしてウクライナ全面支援に転じるような効果があったわけではありませんが、結果的に、今後も引き続きウクライナ支援をつづけるというバイデン大統領のウクライナ政策に関しては国民世論的には是認のハンコが押されたものと存じます。少なくとも、懐疑派たちも、ウクライナ支援について大上段に振りかぶった反対がしにくい環境は醸成できたと思います。

成果③: 積極外交でプーチンへの痛烈なボディーブロー
 今回の訪米に対し、ロシアにとってみれば苦虫をかみつぶす思いだったことは間違いないでしょう。派手な右ストレートやフックで相手をダウンさせる打撃のようなパンチではないものの、ボクシング世界3階級制覇の井上尚弥のボディーブローのように、腹部の内角にえぐりこむようなレバーブローのように、地味ながら非常に痛い息のできなくなるような効き目がロシアの腹部に入ったと思います。

 今回の訪米やパトリオット供与などについて、明確に否定的な発言をしています。
プーチン大統領は、折も折、バイデン米政権に侵攻して併合した東・南部の現状をステイタス・クオとして認めたままで「停戦」交渉にウクライナをつかせる話を持ち掛けていましたが、このゼレンスキー訪米・首脳会談の成功により、米国に一蹴された形になりました。憤懣やるかたないプーチン大統領は、今回のゼレンスキー大統領訪米を「交渉を拒否」と捉え、「停戦に逆行する」と非難し、更に、パトリオット供与に対する明確な返礼として、「パトリオットは当然攻撃目標となる」とか、「極超音速兵器『アバンガルド』を発射できる最新鋭のシステムに切り替え、大陸間弾道ミサイル『サルマト』を実戦配備する」とけん制しています。また、ぺスコフ報道官は、 ウクライナとの和平交渉が実現する可能性を否定し、欧米諸国はウクライナへの武器供与で紛争を悪化させていると非難しました。よほど悔しいのでしょうね。
(参照: 2022年12月23日付JIJI.com記事「プーチン・ロシア政権の期待外れる ゼレンスキー氏訪米「停戦に逆行」ほか」


 ゼレンスキー大統領は、隠密移動の電撃訪問のため、夜陰に乗じて汽車でポーランドへ出て、ポーランドの空軍基地から米軍機に乗り、英国や米軍機に護衛されての旅程だったようです。元々は、今戦場になっている東部ドンバス地域の出身で本来の言語はロシア語、ユダヤ系の家系に生まれユダヤ教徒、祖父はロシア軍人として対独戦を戦っており、親戚の多くをホロコーストで失っています。そんな複雑な出自が現在のウクライナの複雑な状況を象徴しているように思えます。

頑張れゼレンスキー大統領!
頑張れ!ウクライナ

(了)

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2022/12/18

ロシアがウクライナの電力を執拗に潰すもう一つの理由

停電下の手術
暗闇の中で少年の心臓手術 病院を取材…ドローン攻撃相次ぐウクライナで深刻な電力不足(2022年12月13日付TBSテレビ【news23】より)

電力逼迫下の越冬となるウクライナ
 ロシアによる電力インフラへの連日の攻撃により、10月以降でも既に1000発以上の砲爆撃を被ったウクライナの電力インフラは深刻な被害を受け、本来の電量需要の50%しか供給できない状態となり、たびたびウクライナの各地での局地的停電をはじめ全土の緊急停電も起きるなど、ウクライナ国内の電力は危機的な逼迫状態になっています。厳冬を迎えたウクライナの市民は、電力逼迫下で寒い冬を乗り越えねばなりません。ウクライナのシュミハリ首相は12月9日に、今回の冬のシーズン中、ウクライナ市民は恒常的に電力消費を制限した中で冬を超えることとなり、基幹インフラ、医療、軍需産業等への優先供給をするようエネルギー相に指示しています。また、ゼレンスキー大統領は12月15日に、「ロシアのエネルギーテロ」に対抗しウクライナのエネルギー供給を維持するため、約8億ユーロ(8億5千万ドル)の電力に当たる電気と約20億立方mのガスを供給してくれるようEU指導者に訴えました。
(参照: 2022年12月17日付NHK NewsWeb記事「ウクライナ 発電施設が被害 “電力需要の50%が供給できない”」、同年同月10日付Newsweek記事「ウクライナ、ロシア軍の攻撃で冬の電力不足継続」ほか)

電力インフラが狙われ始めたのは10月のクリミア大橋爆破事件から
 10月8日のクリミア大橋爆破事件後からミサイル旧式対空ミサイルやらイラン製ドローンやらありとあらゆる飛び道具を駆使したロシアの報復的な砲爆撃が始まりました。以来、連日続いていますが、その攻撃目標は人口集中地域の市街地も勿論でしたが、もう一つがエネルギーインフラの破壊でした。10月中旬にロシアの国営放送は、この一連の空爆でウクライナ市民を「凍えさせ、飢えさせる」ことを目標としていると公言していました。特に、攻撃目標となったのは電力。10月10日から始まった一連の電力インフラへの砲爆撃では、発電所と変電所が狙われており、ウクライナの電力網を系統的に機能劣化させ続けています。変電所が重要なのは、発電所で発電した電気を変電所で変圧して電圧をスケールアップし、高架の送電線で遠距離まで電気を運び、産業用や民間用に変電所で変圧して工場や家庭での使用できるレベルまでスケールダウンする仕組みになっているためです。発電所と変電所が電力網の要所に配置されて電力供給ネットワークが成り立っているわけです。地味ながら、送配電のチョークポイントとなる変電所がやられると機能しなくなります。これまでの空爆で目標となった変電所の多くが、壊滅的な施設被害を受けて復旧の見込みがつかない状況の模様です。
(参照:2022年10月21日付Newsweek記事「As Winter Approaches, Russian Attacks Are Degrading Ukraine's Power Grid」)

ロシアによる電力インフラ攻撃の理由: 「戦場における戦闘に代えて」
 ロシアがウクライナの電力を狙い撃ちにしている理由は、まず第一に芳しくない戦場における戦況の別チャンネルからの打開です。要するに、物理的な戦場における作戦戦闘の推移が「負け」ているので、厳寒を迎えるウクライナの銃後の市民生活を支える「電力を断つ」という戦術で、ウクライナ国民を凍えさせることで戦況を打開しようというものです。基幹インフラである電気がないと、水もガスも情報・通信も、何から何まで制御や起動は電気ですから、末端の市井の国民の生活は逼迫し、凍えながら冬に耐える日々になります。こうしてウクライナ国民を凍えさせ苦しめることで、国民の厭戦気運の醸成、戦争継続への経済的疲弊に陥らせよう、というものです。実際、ロシアが狙っていた効果は逐次に発揮し始めています。ウクライナ国民の敢闘精神はまだまだ電力逼迫ごときで屈したりメゲたりしていませんが、生活や経済を回すエネルギーのひっ迫は確実に経済的疲弊を進めています。であるがゆえに、ゼレンスキー大統領としては頼みの綱の西側諸国に支援を要請し続けるしかないわけです。

ロシアによる電力インフラ攻撃の理由: 「ロシアの死活的なエネルギー輸出戦略として」
 今年の3月頃にボーっと読んで頭に引っかかっていた記事を思い出しました。
 日本総研のレポートで2022年03月23日付記事「EUとロシアの「はざま」にあるウクライナ送電網」(滝口信一郎)に曰く、ウクライナは今年の3月に「EUの広域送電網に接続し、電力の安定供給を確保することに成功した」といいます。3月ですから、ロシアのウクライナ侵攻開始直後です。ウクライナは、ロシアに繋がる送電網を切り離してウクライナの自立的な電力網運用を始め、EUが主導する広域送電網運用機関(ENTSO-e)に国際連系線による接続を要請し、それが認められたわけです。ロシアを刺激するリスクは十分にあったのに、EUもよく認めましたよね。面白いのが、このEUの広域送電網拡大は、脱化石燃料化と再生可能エネルギー拡大の方向性を持っており、この方向性は石油・天然ガス製品の輸出が主力商品のロシアにとっては喧嘩を売っている話に映ります。事実、2021年10月の「ロシア・エネルギー・ウィーク」にて、参加したEU関係者を前にプーチン大統領は「EUの再生可能エネルギー依存はエネルギーの安定供給に支障をきたす」と明確に釘を刺したのだそうです。
 この記事と関連して、今の認識で見るとビックリな話ですが、7月初頭当時ウクライナは隣国ルーマニアに余剰の電力があるから輸出を始めた、というのです。(2022年7月4日付NHKニュース)

 もう一つ、頭に残っていたニュースが、8月末に見たNHKのニュース解説「電力をめぐる戦い、ロシアvsウクライナ」(2022年8月30日付)にて、当時問題になっていたザポリージャ原発への出所不明の砲撃をめぐるロシアとウクライナの非難合戦に関連して、解説者の油井さんの話でした。
 ザポリージャ原発は、ヨーロッパ最大規模とも言われるもので、ロシアのウクライナ侵攻開始前は全電力の5分の1を発電する主力選手でした。前述のウクライナの余剰電力のEU国への輸出について、ウクライナ側は売る気満々で、EUエネルギー相会議で「EUがウクライナから電力を購入すればロシアからのガス購入を減らせる」とまで売り込んでいました。8月末の段階でザポリージャ原発の運営が完全に暗礁に乗り上げ、ウクライナの電力をEUに輸出する話なんて吹っ飛んだわけです。他方、ロシアの観点で言えば、ウクライナの電力輸出という試みを断つとともに、ロシアからEU諸国へのエネルギー供給を絞ることにより、欧州にエネルギー危機を自覚させ、ロシアの望む方向へ誘致導入しようという腹です。更に、実効支配しているザポリージャ原発をウクライナの送電網から切り離し、ロシアの送電網に組み入れることで、当時ロシアが占領していたウクライナ東部や南部の電力を賄い、地域全体のロシア化を進めようという腹なわけです。

 この2つの話は、12月現在のウクライナの電力潰しの話に直結していますよね。
 要するに、ロシアはロシアの外貨獲得ナンバーワンの主力選手であるエネルギー輸出の地位の確保というのが大きな要因であったようです。勿論、戦場における戦況が芳しくないので銃後のウクライナ国民を凍えさせ疲弊させる戦術をとっているのも大きな要因ですが、ロシアの国策としてのエネルギー輸出戦略の観点から、ウクライナがロシアへのエネルギー依存から脱却してEUへと鞍替えし、なおかつロシアに弓を弾いてロシアのエネルギー輸出にとってマイナスの方向に舵を切っていることに対し、ウクライナとともにEUごと実力を持ってねじ伏せようという思惑ではないか、と推察します。

ウクライナは懸命に電力復旧、あとは西側諸国からの支援で乗り切るしかない
 ウクライナは、引き続き空襲警報が鳴る中で、大きな被害を被っている電力施設・機材を懸命に復旧しています。電力インフラの復旧作業は、復旧要員約1000名を70個班に編成して24時間態勢で復旧に当たっています。安全確保のため軍や救助隊も同行しており、ひとたびミサイルやドローンの攻撃等があれば、一旦避難ののち現場に入り、復旧を再開している模様です。復旧に必要な資機材は西側諸国からの支援でかき集めており、完全な復旧はできないものの何とか応急的な復旧で電力供給を維持しようと、必死に取り組んでいます。
 これまで、西側諸国の支援により、11月だけでも発電機8万2124台、変圧器3075台、電池パックや蓄電池など26万6596個、等々の発電や送配電に必須の資機材を供給してもらっています。 

 ロシアに侵攻されているウクライナは、西側支援なくしてはロシアに対する軍事的抵抗はもとより、国民生活の維持も継続できません。「他力本願」な状態ですが、日本も含め西側諸国の支援を得て乗り切るしかありません。日本にできること、日本の一般市民でもできること、様々な形で支援してあげたいものです。

頑張れ、ウクライナ!

(了)

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2022/12/11

ウクライナに間もなく冬将軍がやって来る: されど冬将軍は侵略者を挫く

General Winter
「Vladimir Putin is doing his best to freeze Ukraine into submission, but still the country holds firm」(プーチン大統領がウクライナを凍えさせて屈服させようと全力を尽くしているが、その国はまだ頑強に抵抗している。)(2022年12月10日付The Guardian記事「Russia's winter offensive -cartoon-」より)

ウクライナに間もなく冬将軍がやって来る: されど冬将軍は侵略者を挫く
 面白い風刺画を見つけました。
おどろおどろしくも寒々しい冬将軍が、ミサイルやロケット弾を詰めた雪を投げようと、両手で固めている絵です。その雪のボールを固めながら話す冬将軍のセリフがウィットに富んでいます。
 「I don’t understand, Mr. President, … It’s as if the more we bomb them, the more defiant they become, …」 (大統領閣下、私には分かりません。まるで奴らを砲爆撃すれば砲爆撃するほど、奴らは反抗的になってくるみたいですぜ。)
 絵に添えたコメントが「Vladimir Putin is doing his best to freeze Ukraine into submission, but still the country holds firm」(プーチン大統領がウクライナを凍えさせて屈服させようと全力を尽くしているが、その国はまだ頑強に抵抗している。) とあります。

 言わずもがなですが、これは、どう見てもロシアのプーチン大統領が厳冬期にウクライナを困苦欠乏させようと画策していることを風刺して冬将軍に語らせている絵ですね。いやー、セリフが効いてますね。冬将軍でウクライナを屈服させようとしているわけですが、ウクライナに圧をかければ圧をかけるほど、ウクライナはロシアに屈服するどころか、より団結しより手強くなって対ロシア戦に臨んできています。

 この絵だけでも面白かったのですが、この風刺画への一般投降者からのコメントに、ナルホドねぇ、と唸ってしまいました。
 「Abigailgem さんからのコメント
 General Winter defeats invaders, not the invaded. See Napoleon's march on Moscow.
 (冬将軍は侵略されるものではなく、侵略するものを挫く。ナポレオンのモスクワへの進攻を見よ。)」

 なるほど、ナポレオンのロシア侵攻もナチスドイツのソ連侵攻も、いずれも冬将軍に敗れましたが、そういえば冬将軍は侵攻するものに厳しく厳罰を科し、侵攻されるものを救いましたね。うまいこと言うなぁ。

戦況は膠着しつつある・・・
 12月も中旬に入ります。ウクライナ地域は、間もなく本格的な厳冬のシーズンに入ります。
毎日ISWの戦況分析を見ていますが、ここ最近は東部戦線ドンバス正面も南部正面へルソン正面も、毎日のように局地的な攻防戦は起きているものの、あまり大きな動きがありません。 とは言え、その実情は冬期とは言え文字通りの熱戦が接触線を構成する数百キロにわたってあちこちで繰り広げられ、両軍の兵士達が毎日尊い血を流しています。にもかかわらず、戦況を概括的に見ると、接触線に大きな変化がないので「西部戦線異状なし」というくくり方をしているだけです。悲しいかな、これが戦争の現実です。

 攻勢を継続したいウクライナ、しかし今のところ、一向に現接触線を打通できていない模様です。それはロシア軍にとっても同様で、ウクライナ軍もロシア軍も局地的な攻防は起きているものの、結果的に現接触線が大きく動き始めるような軍事作戦は実施していません。結局は、「戦線は膠着しつつある」と言わざるを得ません。ウクライナは攻勢を継続する気は満々ですが、12月8日夜のゼレンスキー大統領の国民へのコメントをみると、東部戦線ドンバス正面のバハムート市はロシアにより徹底的に破壊され、市民の生命維持活動ができない状態なほどの模様です。バハムート正面のロシア軍は、悪名高い民間軍事企業ワグネル部隊です。ロシア国軍とは違う武器・弾薬の支援を受け、最新装備を持つエリート部隊のため、この正面の戦闘は非常に激烈化し、ひとたび占領地から後退する際は、その地域を焦土化するあくどさを見せています。ゼレンスキー大統領も「東部戦線は非常に厳しい状況」とコメントするほどの頑強な抵抗を見せているようです。 (参照:2022年12月9日付Newsweek記事「Russia Has 'Destroyed' Bakhmut; Donbas Front Lines 'Difficult': Zelensky」)

 季節は12月半ばに入り、12月後半からはいよいよこの地域に本格的な冬が訪れます。
 この地域の冬は、日本の豪雪的な積雪はなく、むしろ単純に冷える冬です。「冷凍室の中のような」、という例えが当たっているようです。最高気温も最低気温も零度以下。ドニプロ川も1月には凍結、大地も凍土化します。以前のブログでも述べましたように、「冬将軍」の条件下での作戦行動への影響ですが、元々の地元同士の戦いとなったウクライナ軍対ロシア軍は、厳寒の気候は戦闘の進展を大いに減速するものの、両国軍とも冬装備を保有し、冬でも戦闘訓練を積んでいますから、基本的に戦闘行動は継続できます。事実、ナチスドイツにモスクワ攻防戦まで迫られた当時のソ連軍は、厳冬期に頑強な戦闘を継続し、ナチスドイツに粘り勝ちしました。当時は現ウクライナ人もロシア人もソ連軍として戦っています。従って、戦況進展のスピードは鈍くなりますが、これまで通り日々戦闘は継続するでしょう。とは言え、12月半ばから一機に厳寒の気候に入り、ドニプロ川は凍結し、大地は凍土となります。このことが戦闘に大きく影響することは間違いありません。
 厳寒期の気候が戦闘に与える影響ですが、これは攻防両軍に言えることですが、武器や戦車等の装備は厳寒下で故障や結露が起き得ます。金属の潤滑グリスが固まってしまったり、人が接する照準具や照準眼鏡の結露も起きます。故障排除するにも、修理のための後送するにも、厳寒期ゆえの困難が伴います。この点では、西側諸国の支援の下、後方補給態勢が比較的整っているウクライナ軍は有利であり、一方、ロシア軍ヘルソン東岸守備隊はウクライナ軍の長射程砲HIMARSによる後方補給拠点やチョークポイントへの砲撃により、後方補給態勢が非常に脆弱になっており、この点ではウクライナ軍が非常に有利と言えます。
 また、日照時間が短くなるので、いわゆる日中の戦闘時間が短く、夜間戦闘の時間が長くなります。現地では夏季に日に15時間程度ある日照時間が、冬季には9時間程度になります。夜間でも戦闘するには照明弾による照明や暗視眼鏡の使用が必要です。この点でも、西側諸国の支援を受けたウクライナが有利、後方補給が脆弱なロシアは不利と言えましょう。

ウクライナの一般市民の冬との戦い
 ロシアによるウクライナの電力網を中心とした徹底的な砲爆撃により、電気は勿論のこと、水もガスも生活必需インフラは制御装置が電動であるため、ほとんどの生活インフラが機能しない状況に陥りつつあります。その上、この冬将軍の到来がダブルパンチ。プーチン大統領は初めからそれが目的でウクライナの電力網を破壊しているわけで、まさに冬将軍を武器に、ウクライナ国民を凍えさせて屈服させようとしています。

 前述の東部戦線ドンバス正面の先頭では、奪回したもののロシア軍に破壊の限りを尽くされたバハムート市では、残留住民は 「死ぬ覚悟はできた。凍死か、攻撃で死ぬか。どう死ぬか待っているだけだ」という切羽詰まった状態の模様です。(参照:2022年12月8日付TBSテレビ「『凍死か、攻撃で死ぬか…どう死ぬか待っているだけ』真冬のウクライナ最前線~バフムトからの声【報道1930】」)
 実際、冬将軍による厳冬の中の困苦欠乏は非常に厳しいものがあり、前回のブログで紹介したように、12月4日、ゼレンスキー大統領は国民が一致団結して協力し合うことで何とか厳冬期を乗り越えるよう、訴えました。
 これに応えるように、ウクライナの各インフラも応急的な復旧に全力を挙げており、ウクライナの一般市民も厳冬期を乗り越えるべく、被災した市街での生活基盤の立て直しや水や食料等の生活必需物資の配給の際の助け合いなど、非常に逞しく国民レベルのレジリエンスの力を見せています。

 風刺絵の通り、冬将軍に打ち倒されるのは侵略する者たちであってもらいたいものです。冬将軍も侵略される側の市民も軍人には辛く当らないよう祈るばかりです。

 頑張れ!厳冬を乗り切れ、ウクライナ!

(了)

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2022/12/06

ウクライナ、国民に厳冬克服のための一致団結・協力を呼びかけ、冬季も攻勢継続を表明!

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国民に90日の厳冬を一致団結して乗り越えようと鼓舞するゼレンスキー大統領(2022年12月4日付Newsweek記事「「Winter War in Ukraine 'Will Obviously Be Difficulty': Zelensky」より)

ウクライナ、国民に厳冬克服のための一致団結・協力を呼びかけ、冬季も攻勢継続を表明!
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、12月4日(日)の夜の国民へのメッセージにて、引き続きロシアと戦いつつ、これから厳しい冬を乗り越えなければならないこと、そのためには国民が一致団結・協力する必要があることを国民に呼びかけました。(参照: 前掲Newsweek記事)  また、これだけでも素晴らしいのに、これに加え、ウクライナ当局のスポークスマンは、冬季でも現在のウクライナ軍の戦勢・戦果を生かして、攻勢作戦を続ける計画であることを表明しました。(参照: 2022年12月4日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, DECEMBER 4」)しかも、南部戦線へルソン正面では、ついにドネツ川を渡河し橋頭堡を確保した模様です。(参照: 同年12月3日付ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, DECEMBER 3」)

 いやー、素晴らしい。 ゼレンスキー大統領、貴方は偉大な国家指導者ですね。国民目線で国家が現在直面している状況を説明し、国民にこれから厳冬を迎えて益々厳しい生活となるが、どうか一致協力して乗り越えてくれ、と呼びかけるその真摯な姿勢には頭が下がります。日本の総理大臣にも、こういうリーダーシップを取っていただきたいものですね。

見よ!ゼレンスキー大統領の真摯な国民への呼びかけを
 いやぁ、久々に政治家のスピーチで感動しました。ゼレンスキー大統領のメッセージは、国民の団結力を高め、苦しさを乗り越える力を湧きあがらせる、そんな力が言葉に宿っています。

 "The enemy [Russia] really hopes to use winter against us: to make winter cold and hardship part of his terror, … We have to do everything to endure this winter, no matter how hard it is. And we will endure. To endure this winter is to defend everything."
 「敵は、来るべき冬の寒さと厳しさを奴らのテロ行為の一部として、我々に対する武器として使おうと望んでいます。…どんなにこの冬が厳しく辛かろうとも、我々はあらゆる努力をしてこの厳冬を乗り越えねばなりません。そして我々は耐え切るでしょう。この厳冬を乗り越えるということが、我々の全てを守るということなのです。」

 "We defend our home, and that gives us the strongest motivation possible. We fight for freedom, and that always multiplies any force. We defend the truth, and this unites the whole world around Ukraine,"
 「我々は我々の家を守る。それが、我々に可能な限り最強の動機付けを与えてくれます。我々は自由を求めて戦う。それが常に我々の力を倍増してくれます。我々は真実を守る。それが、ウクライナの周囲の全世界を一致団結させてくれるのです。」

 "To get through this winter, we have to help each other more than ever and care for each other even more. … And please don't ask if you can help, and how. Just help when you see you can.”   
 「来るべき厳冬を乗り越えるためには、我々はこれまで以上にお互いに助け合い、お互いに面倒を見合わなければなりません。 … どうか『自分に助けることができるでしょうか』なんて聞かないでください。貴方ができることを見かけた時、手助けしてくれればよいのです。」

 “To get through the winter, we have to be even more resilient and even more united than ever. There can be no internal conflicts and strife, which can weaken us all, even if someone out there thinks that somehow it will strengthen him personally. We need more interaction than ever. All of Ukraine has to become one big Point of Invincibility and work every day, work every night. The state, business, people - all of us, Ukrainians, all together. "
 「来るべき厳冬を乗り越えるには、これまで以上に回復力と一致団結を持たねばなりません。もし、誰かが自分個人の力をいくらか強化するためであったとしても、我々全員を弱体化させるであろう内部対立や争いごとを起こすなど、あってはならないのです。これまで以上に、我々はより多くの相互の意思疎通が必要なのです。ウクライナ全土が不撓不屈の大きな火の玉になり、毎日毎晩、働き続けなければなりません。国家、企業、人々 - 我々全員、ウクライナ人が一致団結して。・・・」

同日、厳冬期でも反撃攻勢を継続する旨を表明
 同日(12月4日)日中に、ウクライナ軍の東部戦線のスポークスマンが、厳冬期でも反撃攻勢は継続する旨、キッパリと表明していました。(参照: 前掲ISW記事「Ukraine Conflict Updates: RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, DECEMBER 3」) 私見ながら、この発言は、恐らく前日の12月3日土曜に米国の国家情報長官アブリル・ヘインズ女史が、現在の戦況を作戦テンポが減速していると断じ、冬季はこのままだろうと予測し、両軍とも春の反撃に備えて、再編成や武器・弾薬・装備の再補給をするだろうという発言をしていますので、これに対するウクライナの「ふざけんな」という反論ではないか、と推察しています。冬で作戦のテンポが減速するのは物理的に仕方がないことですが、冬はこのまま大きな動きはなく双方が春攻勢の準備をする時期だなんてしたり顔で言われたら、前線で戦っている将兵たちや司令部で作戦を練っている指揮官幕僚たちは「激怒」しますよね。ともすればそうなりそうなことは確かです。しかし、戦っている軍人たち、特に国の存亡がかかっているウクライナ軍にしてみれば、冬で休憩のようなことはあり得ません。実際、ウクライナ軍当局の発言として、厳冬期の作戦テンポの減速について路面の凍結状態は戦車・装甲車の走行にとってはむしろ有利であり、かえって春になって路面の凍結が溶解する頃の方が泥濘で前進不能になるから冬でも問題なく攻勢できるのだ、と豪語しているようです。これは、やはり米国の国家情報長官の発言に対しての反論ですよね。脱線しました。すみません。

 大事なことは、ウクライナ軍が米国の情報長官の発言に怒って反論をしたかどうかということではなく、厳冬期でも攻勢を継続する、と意思表明したことです。
 私としては胸のすく発言です。前回、前々回、前々々回からずっと言っていることですが、ロシア軍が弱体化している今、この時の戦機を逃してはいけません。しかも、今のウクライナ軍には戦勢があります。米国の情報長官の言のように、ロシア軍は間違いなく春攻勢を期して再編成・再補給をしており、そのため冬の時期は局地的な攻撃を仕掛けたりしていますが、周到に準備した攻勢作戦ではありません。単発の局地的な攻撃戦闘に過ぎません。要するに時間稼ぎ。この時期に戦線を膠着させてはいけないのです。ロシアは薄皮一枚の防御線でしかないので、突破してしまえば瓦解します。・・・まぁ、ウクライナも相当な戦闘疲労の中で歴戦していますから、お互い苦しいところですけどね。

 ここで朗報だったのが、12月3日付のISWの分析では、ウクライナ軍は南部戦線へルソン正面のドネツ川の前線で、実は人知れず渡河作戦を実施していて、既に橋頭堡を築いている模様、とのこと。橋頭堡にウクライナ旗を掲げているSNSが出ているそうです。まだまだ戦闘経過に過ぎませんので、その橋頭堡は複数なのか、まだ確保しているのか、逆襲されたのか、全く情報がないので分かりませんが、いやぁー朗報ですよ。これで、前述の厳冬期でも攻勢を継続すると言っている発言は「真実」であることが裏打ちされます。

 大統領の厳冬期を国民の一致団結で乗り越えろというリーダーシップや、厳冬期でも敵に侵攻された国土の回復には執念を燃やして攻勢を継続する、その国家としての敢闘精神には、ただただ脱帽です。

 厳冬期でも頑張れ!ウクライナ!

(了)

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