ロシアはミサイル・ドローン攻撃を主軸に長期に渡り西側と対峙する戦略に...でも、その前に2月にドンバス大攻勢がある!と読む

米国から供与されるM1A1主力戦車は、戦場にてロシア戦車を圧倒すると専らの下馬評(2023年1月28日付BBC記事「How tanks from Germany, US and UK could change the Ukraine war」より)
ロシアはウクライナ侵攻の戦略を対NATO長期戦にシフトした可能性あり
2023年1月26日(木)、欧米西側諸国から主力戦車の提供を受けることになったウクライナに対し、ロシアの猛烈な砲爆撃が再開されました。タイミングとしては、ウクライナのゼレンスキー大統領の「ロシアの侵攻を止めるには適切な武器が必要」という欧米の主力戦車へのラブコールを受け、英国のチャレンジャー、ドイツのレオパルドⅡ、米国のM1A1などの各国が主力戦車の提供に応じたとの報道の直後でした。
この動きを受け、27日(金)、EUの欧州対外行動局ステファノ・サンニーノ事務総長は、「ロシアは侵攻作戦を別のステージに移行し始めた(Russia started moving the war into a different stag.)」と語り、「ロシアの攻撃目標はもはや軍事目標ではなく、民間人と都市に対する無差別攻撃になった。プーチン大統領は『特別軍事作戦』の構想そのものをNATO及び西側諸国に対する戦争に切り換えた。(Putin has moved from a concept of [a] special [military] operation to a concept now of a war against NATO and the West.)」と記者会見で述べています。
(参照:2023年1月27日付VOA記事「Ukraine Hit by Deadly Wave of Russian Missile Strikes as Zelenskyy Calls for Aircraft, Missiles」、及び「EU: Russia Taking Ukraine War to ‘Different Stage’」ほか)
東部戦線の地上戦は激戦しつつも前線は膠着
前述のようなくだりだけ見ると、地上戦はもはや静かな状態のように聞こえますがトンデモナイ。東部戦線ドンバス平原をめぐる戦闘は激戦状態です。今のところの焦点は、要衝バハムート市をめぐる攻防戦であり、プリゴージンの傭兵ワグネル部隊が奪取したと過早に宣言したソレダールなどの周辺の街を「取った/取られた/押した/押し戻した」という攻防で相当の期間に渡り武器・装備が無為に費やされ、相当数の将兵の血が流れています。
最近のロシア側の戦況報告(ロシア国内向けの)では、「ヴァルダダールというこの地域の戦略的重要性を有する街を間もなく奪取できる。ヴァルダールの確保により、ドンバス地域全体の奪取が見えてきた」という希望的観測に満ちたことを喧伝しています。しかし、私見ながら、ISWの戦況分析でもほとんど語られないような街の話であり、ヴァルダール自体が戦略的に重要性のある要衝ではありません。要するに、「陸上戦闘は頑張ってまっせ!激戦を乗り越えて、やっとこれからドンバス全体をを取り戻すところまで見えてたんですよ!」という過大広告ですね。フェイクと言ってもいいかもしれない。
(参照:2023年1月27日付Newsweek記事「Potential Russian Capture of Vuhledar May Provide Key Strategic Advantages」
今後はミサイル・ドローン等の砲爆撃戦を主軸に長期に渡り西側と対峙する……でも、その前に地上戦でドンバス戦線大攻勢がある、と読む
前述の2つの流れからすると、ロシアはもはや地上戦を諦め、今後はミサイルやドローンによる非軍事目標への砲爆撃戦でウクライナのインフラや市民生活を圧迫すること戦術に換えたように見受けられますが、……私見ながら、私はちょっと違う読みをしています。
なぜロシアが東部戦線の戦況でこういう広報活動をしているのか?そして、なぜつい最近、プーチンはウクライナ侵攻の総司令官を軍のトップのゲラシモフ将軍に挿げ替え、その下に前総司令官の空爆好きの空軍スロヴィキン将軍を仕えさせ、かつ地上戦の作戦ではこいつを置いてほかにいないラパン准将を置いたか?
私見ながら、まず初めの自問から自答します。
ヴァルダール奪取をめぐるロシアの戦況広報は、膠着しているが故の「頑張ってまっせ」アピール以外の何物でもないでしょう。要するに、地上戦はもはや今後の西側主力戦車の戦場到着をもって押され気味になることが必至なので、今のうちに見かけ上の成果をPRしている、ということではないかと推察します。
一つの可能性ですが、西側主力戦車が戦場に届く前に、ロシアがドンバスで大攻勢をかけて来ることは十分考えられます。もはや地上戦で長期戦を戦えるほど兵站が続きませんから、短期決戦で。この大攻勢の攻撃目標は、ウクライナから脱してロシアに併合された東部2州の線まで何とか取り返しすことでしょう。そこでこの東部2州と現状で確保しているクリミア地区とロシア本土を結ぶ地続きの回廊(ヘルソン州南部とザポリージャ州南部)の確保をもって、当面の有利な地歩を確立しておいて停戦交渉を切り出す、ということは十分可能性があると思います。ちなみに、「大攻勢」については、ゲラシモフは先週記者会見で宣言してますから。これを「キーウ再攻略」と読む人もいます。確かに、ミサイル・ドローンによる徹底的な砲爆撃に加えて、キーウ北方100キロほどのベラルーシから電撃的な侵攻作戦、というのも可能性としては考えられますが、キーウ侵攻ということは、その後ウクライナ全土を占領奪取する長―い地上戦となりますが、もはやロシアにそこまでの兵力はありません。だから私は「キーウ再侵攻はない」と見ています。むしろ、今の前線でウクライナに取り返された東部2州の地域の奪回の方が現実的。それを、まだ西側の主力戦車が戦場に届くまで、かつ地面が凍っていてロシアの戦車・装甲車が蹂躙できる2月中に(3月後半から凍土が溶けてぬかるみ状態になる)やろうとしているのではないか、と読んでいます。まさに、このために予備役を動員して兵員を確保し、北朝鮮やイランや中国ほか第3国から武器や材料を輸入したりして自国の防衛産業も大車輪操業状態で武器・弾薬・装備品を大増産していたわけですから。それを短期決戦でぶつけてくるのではないか?と推察します。
プーチンの腹:有利な態勢を確保してから長い停戦交渉を砲爆撃戦を交えて戦うつもり
私見ながら、プーチンの腹は小見出しの通りではないかと推察します。
現状が不利なので、この大攻勢でとりあえず停戦交渉で十分元を取れる態勢を確保しつつ、停戦交渉を持ちかける。とはいえ、「そんな勝ち逃げは許すまじ」とウクライナも西側もそれを良しとせず、停戦交渉は当然こじれて長期化します。プーチンは、それを見越してミサイル・ドローンによる非軍事目標への砲爆撃主体にて、ウクライナ市民のやる気を挫きながら、長―い戦いをウクライナ及び西側諸国と渡り合うつもりなのではないか、と推察します。この段階で地上戦で「押した/押された」の攻防をやると、西側の主力戦車が戦闘加入していますから「押される」一方になります。だから、そこを見越して地上戦は2月の大攻勢をもって終了し、それ以降の地上戦闘を避ける。西側主力戦車に押される話も勿論ですが、西側が関わってくると、ウクライナと戦っているはずがNATOとの戦争になりかねません。そこは西側も避けたがっているシナリオなので、ウクライナは地上戦を継続したがるでしょうが、地上戦に持ち込まずにミサイル・ドローンによる砲爆撃戦ばかりに切り替える、とプーチンは考えているのではないか、と思います。既に確保した東部2州の線を維持するのみで、そこはその線が「現状の線」で交渉が始まりますから。プーチンは、そういう深謀遠慮の下で2月に大攻勢をドンバス戦線でかけてくるのではないか、との読みです。
それでも頑張れ!ウクライナ
(了)


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