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2023/04/26

スーダン邦人退避:まずは無事で何より、今後は柔軟対応すべく見直しを!

TJNO.jpg
(2023年4月25日 21時14分NHKニュースより)

スーダン邦人退避:まずは無事で何より、今後は柔軟対応すべく見直しを!
まずは無事で何より
 スーダンの政情悪化に伴う邦人退避が、昨日2023年4月25日までの間に国外退避を希望する在スーダン邦人全員の無事の退避ができました。現地にの緊迫した状況の中、無事に退避できましたことの幸運を喜びますとともに、国内外の関係者のご努力に心から感謝申し上げます。

 無事に退避できた認定NPOロシナンテス川原尚行さんの話によれば、退避の直接のキッカケは「国軍が来て、危険な情報を察知したからすぐここを立ち去るか、すぐ車に乗れって。それはもう緊張が走りました。」、というスーダン国軍の突然の来訪と通告だったようで、川原さん一行は仕方なくマイカーに乗り込んで、取るものもとりあえず国軍の誘導で退避を開始した模様です。国連の車列に加入する形で、首都ハルツームから遥か遠方のポートスーダンまでて、陸路800㎞以上のスーダンを横断を敢行して爆走したそうです。特に、国軍と敵対するRSFとの支配地域が交錯する長距離を、先導が国軍だったり、交渉ののちRSFに代わったりと、ところどころ停止させられながら、断続的に爆走したそうです。ポート・スーダンで自衛隊はじめ政府関係者の日の丸を見た時にはホッと胸を撫で下ろしたようです。(参照:2023年4月26日05:51テレ朝news「スーダン退避の日本人『夜通し800㎞を車で』」

今後は在外邦人等の退避については柔軟対応できるよう見直すべし!
 本当に無事で何よりでした。無事ですまないことの可能性の方が高かったわけですから、これが当たり前と認識してはいけません。
〇「在外邦人等の輸送(TJNO:Transportation of Japanese Nationals Oversea)」の自縄自縛
 今回の在外邦人等の退避も、前回の一昨年8月のアフガニスタンでもそうでしたが、自衛隊派遣は「在外邦人等輸送」という自衛隊法84条の4に基づく「輸送」に限定された任務でした。海外の国々はいわゆる「NEO(非戦闘員退避作戦)」という自国軍を当該国で柔軟に運用して在外自国民等の退避を安全確保しつつ実施する枠組みがあって自軍を「迅速に」かつ「効果的に」かつ「非交戦で」遂行していますが、我が国はとどのつまり「在外邦人等の輸送」というガンジガラメの自縄自縛の規定により非常に融通性のない退避活動しかできません。生命又は身体の保護を要する在外邦人等を安全な地域に「輸送」する、というものです。端的に言えば、自衛隊員は「輸送」活動しか認められておらず、この作戦での武器使用は隊員及び隊員の管理下で行動を共にする避難者らの防護に限られ、自己保存 のための必要最小限の武器使用(「自己保存型」)、すなわち正当防衛の範囲でしか敵対者への危害射撃は認められていません。

〇枠組みができたのに適用できない「在外邦人等の保護措置(RJNO:Rescue of Japanese Nationals Oversea)」
 一応、2016 年3月の安保関連法の施行に伴い、この「在外邦人等の輸送」に加えて、「在外邦人等の保護措置」という邦人の 警護、救出、保護、等の活動ができ、武器使用についても、例えば陸 上輸送に伴う隊員及び隊員の管理下で行動を共にする避難者らの保護措置のために、「任務の遂行のため実力をもって妨げる企てに対抗するための 武器使用(任務遂行型」)ができる法的枠組みがあります。ところが、防衛ネタによくあるあることですが、越えるべき「高い国内制約のハードル」があって、逆説的にこの「在外邦人等の保護措置」が実施できるための条件が非常にクリア困難になっています。

・ 手続: 外務大臣からの依頼を受け、外務大臣と協議し、内閣総理大臣の承認を得て、防衛大臣の命令により実施
・ 実施要件:次の全てを満たす場合に保護措置を行うことが可能
 ① 保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること
 ② 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国など10の同意があること
 ③ 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること
 (参照:「令和2年版防衛白書」)

 非常に矛盾している話ですが、当該国は政情不安で在外邦人を退避させようとしているはずなのに、その国が①「当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがない」、②「自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国などの同意がある」、③「(当該保護措置を)当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保」、等の条件を満たさねばなりません。これは論理的に矛盾していて現実的にあり得ませんよね。
 もって、今回の在外邦人の退避に当たっても、結果的に「在外邦人等の保護措置:RJNO」は条件を満たさず、「在外邦人等の輸送:TJNO」しかGoをかけられなかったわけです。かくして、一昨年8月のアフガン退避と同様に、自衛隊員は輸送限定の活動しかできなかったわけです。

 これを自縄自縛と言わずして何でしょうか?
 別に武器使用をさせたいわけではないのです。他国と同様のNEOができるよう、柔軟な運用が必要だ、というのが趣旨です。要するに、実施要件を「輸送」並みに緩和し、必要であれば避難者の保護のため必要な行動ができる担保を与えるべきだと思います。
 さもなくば、いつまで経っても米欧等の諸外国に依存したままの在外邦人の退避しかできないまま、世界の笑いもののままでしょう。実際、現役自衛官時代、何度かこの作戦の矢面に立ちましたが、現行法制上の国内的制約の中でしか活動はできませんので、諸外国軍との調整では失笑を買っていました。別に自衛隊が笑い物になるのは構いませんが、現場の避難者(在外邦人のみならず他の避難者も)に申し訳が立ちません。

 政治家の皆さんは、現場の在外邦人をはじめ避難者の保護について、国家として為すべき活動を真剣に考えていただきたいものです。前時代のような帝国主義的な軍の暴走?なんて、現代の自衛隊の在外邦人等保護措置の現場ではありえません。他国の地で武力をもってやりたい放題なんて、ありえませんから。極めて正当防衛的にしか武器使用しないように徹底的にしつけられていますので。国民の皆様のご理解を得て、柔軟な運用に変えていただきたいものです。

(了)

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2023/04/21

ウクライナ反撃攻勢前夜とロシアの迎撃態勢強化

ウクライナ反撃攻勢前夜とロシアの迎撃態勢強化
 2023年4月21日現在(日本時間)のウクライナ情勢は、まさに「盾」vs「矛」(たてvsほこ)状態です。すなわち、ウクライナは待望の反撃攻勢を着々と準備中、いつどこにどのような攻撃の狼煙が上がるのかが世界中の注目を浴び、他方、ロシアは総延長1000キロにも及ぶ戦闘の接触線の全正面に亘る戦闘築城は勿論のこと、その接触線後方に広域多重な防御陣地網を構成し、ウクライナの構成に対する迎撃態勢を強化しています。

ウクライナ反撃攻勢の準備は万端
 2023年4月19日、ウクライナのアンナ・マリヤール国防副大臣は、ウクライナのTVのインタビューにおいて、「ウクライナ軍の反撃攻勢はすでに進行中」とのビックリ発言をしています。この発言はすぐに西側諸国をはじめ、ウクライナ、ロシアでも報道されました。同国防副大臣は、「攻勢作戦は、既にバハムート、マリンカ、アウディーイウカ、ライマンの4方向で実施中」とも発言しています。しかし、これらの正面では、今まさにウクライナ軍とロシア軍が戦闘中の接触正面です。発言を注意深く読むと、同国防副大臣がいいたいのは、前線で今起きているウクライナ軍の行動のその全てが来るべき「反撃攻勢」の一環なのだ、ということのようです。要するに、反撃攻勢の開始時期や攻撃正面や攻撃方向、攻撃要領などは軍事機密であって発表・言明するものに非ず。攻勢作戦の複雑精緻な計画の中で、攻撃行動のみならず局地的な防御行動も含めた総合的な作戦で構成される、ということを言いたいようです。マリヤール国防副大臣の発言はブラフのつもりではなく、反撃攻勢はもはや水面下で計画発動しているという心意気と捉えるべきでしょう。(参照:2023年4月19日付Newsweek記事「Ukraine's "complex" counteroffensive is already underway: Defense minister」、同日付Top War (ウクライナの独立系軍事情報サイト)記事「Deputy Minister of Defense of Ukraine: the counteroffensive of Ukrainian troops is already underway」、同日付TASS通信社(ロシアの官営報道機関)記事「Nevertheless, Anna Malyar acknowledged the successes of Russian forces "in some areas"」、ほか)

 ウクライナのレズニコフ国防相は、4月18日に米国からのパトリオット防空ミサイルやフランスからの「装輪のスナイパー」AMX-10装輪戦闘車がウクライナに到着したことを嬉々として発表しています。ウクライナの国家安全保障防衛評議会のダニロフ委員長によれば、攻勢準備は着々と準備されており、Goをかけるのはゼレンスキー大統領であり、もはや時間の問題である、と述べています。一部で心配された米国防省の機密のリークによる影響はほとんどない模様であり、4月下旬か5月に入ってからか、いずれにせよここ数日~数週のうちに世紀の反撃攻勢が開始される模様です。
(参照:2023年4月18日付Newsweek記事「Ukraine Counteroffensive 'A Matter of Time': Official」、同月18日付Newsweek記事「Ukraine Set To Unleash France's AMX-10 Tanks: 'Sniper On Wheels'」、同日付同紙記事「Ukraine praises arrival of new "dream" weapons」ほか)
 
ロシアは広域多重の防御陣地網を強化し虎視眈々と迎撃態勢を整える 
 対するロシアも虎視眈々と迎え撃つ態勢を都と寝ている模様です。
 ウクライナ戦争の前線の接触線や陣地線などを克明にリサーチして情報提供しているTwitterアカウントWarMapperとMore Mapperにアップされた地図によれば、ロシア軍は1000キロ超のウクライナとの戦闘接触線の後方に、広域多重の防御要塞を広大なネットワークとして構築している模様です。下図をご覧ください。これにはハッキリ言って驚愕です。
war mapper[1072]
右図は2023年4月10日付War Mapper掲載のロシアの防御陣地網の全体図、
左図は同年同月18日付More Mapper掲載のザポリージャ周辺の細部の追加情報

 この図からすると、ロシア軍はウクライナの反撃攻勢の主攻撃方向はザポリージャ正面からと読み、特にザポリージャ正面の現戦闘接触線からメリトポリ~マリウポリのアゾフ海に抜ける地域を努めて前方で守るように、ヴァシリフカ、トクマク、ポロイ等の都市を取り囲む防御陣地網で守りを固めています。この構えは、仮に第一線陣地が突破され、一正面でウクライナの突進を許したとしても、次の線で止めて横並びの近傍の陣地や更に後方の陣地から、広域多重の火網が構成され、確実にウクライナの突進をボヤで初期消化する防御ゾーンがいくつも広域多重に作られてる模様です。要するに、ウクライナが戦力を集中して突破を追求してくるであろうザポリージャ正面で、確実に対戦車障害や対戦車地雷原などの障害で止めて、これに連接した陣地による広域多重の阻止火力の集中により、陣地防御を達成する腹と読めます。これは確かに手強いでしょう。
(参照:2023年4月19日付Newsweek記事「Russia Is Building a Vast Network of Defensive Fortifications in Ukraine」、ほか) )

 来るべきウクライナの反撃攻勢は、西側諸国の先進装備の力で一挙にロシアの陣地線を破って蹂躙できそうに見えますが、ロシアも陸軍大国の威信にかけて死に物狂いで防御戦闘をするでしょう。よって、さぞかし激戦が予想されます。激戦の雌雄を決するのは、最後には国家を守る執念の強さです。ウクライナの執念に期待し、その勇戦敢闘を祈ります。

それでも頑張れ、ウクライナ!
ロシアの鼻に指を突っ込んで、その鼻面を引き摺り回せ!

(了)

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2023/04/14

ウクライナ:米国防省機密文書流出事案?真相は不明ながら影響は小と見た

US MOD
機密漏洩が指摘される米国防省(2023年4月11日付BBC記事「Pentagon leak: How secret files on Ukraine spread, then disappeared」(ペンタゴンリーク:ウクライナの秘密ファイルがどのように広がり、その後消えたか)、より)

米国の機密文書流出問題
 2023年4月13日現在、数日前から米国防省筋から流出したものと思しき機密文書がネットに流布し、ロシアでも喧伝されました。その内容が米国防省や情報機関のトップシークレット的な情報を含み、一部にはウクライナに展開する(いることになっていないはずの)西側諸国の特殊部隊の記述など米国の同盟国軍の情報や、友好国も情報収集の対象として情報分析しているビックリ情報が含まれるなど、米国の安全保障や外交上の問題にも発展することが懸念されています。特に、数週間前の内容ながら、ウクライナ軍の攻勢部隊の情報や軍の細部の情報まで記載された文書が出回り、ウクライナの来るべき攻勢の成否にも影響が懸念されています。 ウクライナの満を持した反転攻勢の直前に、こうした機密漏洩事案が起きてしまい、ウクライナ軍は攻勢作戦の修正もやむなし、との見方もあり、成り行きが注目されています。
(参照: 2023年4月10日付BBC記事「Ukraine war: Who leaked top secret US documents - and why?」 、同日付 BBC記事「Russia Pounds Eastern Ukraine, Kyiv Reported to Rethink Counteroffensive After Leak」、11日付BBC記事「Ukraine war: Leak shows Western special forces on the ground」、ほか)

とはいえ、結論から言うと私見ながら、真相は不明ながら影響は「小」
 流出した文書は100点にも及び、実に様々な情報が漏れ出たようですが、ことウクライナの攻勢作戦への影響に限れば、影響は小さいと言えましょう。

 この機密流出については、米国防省の生の機密文書と思しき文書が卓上に置かれたものが写真データとしてマイナーなSNS「discord」に出たのが出元のようですが、それがあちこちに拡散し、ロシアでも大騒ぎになり、その内容や出元をめぐって西側もロシア側も左右各派が持論を展開しています。ロシア側には、「これは米国の意図的な偽情報であり、ウクライナの防空能力や砲弾の不足をことさら訴えて西側の更なる援助を得ようと企図している」と言い、またウクライナを含む西側には「これはロシアの意図的な偽情報であり、米国の機密情報管理の杜撰さや同盟・友好国にすら盗聴などの情報活動をする謀略的なイメージを情報操作し、ウクライナ侵攻をロシアに有利に展開しようとしている」と主張しています。いずれともあり得る言い分ですよね。実際、ロシア側の「米国の偽情報」論も一理ありますし、ウクライナ含む西側の「ロシアの偽情報」論も十分納得がいきます。実際の話、流布している情報の数字には、例えばロシア軍とウクライナ軍の死傷者の数字を明らかにロシアが少なくウクライナが多く改ざんしているものが見受けられます。しかし、真相は不明のまま、今となっては出元も削除され、検証追求できなくなっている模様です。
(参照: 2023年4月11日付BBC記事「Pentagon leak: How secret files on Ukraine spread, then disappeared」、ほか)

 真相はどうあれ、肝心なことはウクライナ戦争への影響、なかんづく来るべきウクライナの攻勢作戦への悪影響があるのか?というところだと思います。 
 そのウクライナ戦争、特に攻勢作戦への悪影響については、流出した情報から言えば、致命傷になるものは何もなく、一部でウクライナの攻勢部隊の編成や西側諸国からの戦車・火砲等の戦闘装備品の詳細が列挙されているリストもありますが、それらは全てロシア軍や情報機関も承知済みの、古い既知の情報、ないし、半ば公開情報の範囲内と言えます。今回の機密流出事案について、ウクライナの高官が「攻勢作戦の一部に変更せざるを得ないこともあり得る」という発言をしたことから、攻勢作戦が危ぶまれるような読みをしている向きもあるようですが、ハッキリ言ってウクライナ軍が計画している攻勢作戦にはほとんど影響のないもの、と言えましょう。

 ちなみに、米国陸軍の元在欧州米陸軍司令官ホッジス中将がドイツの報道機関DWからインタビューされた際のコメントでこんな言い方をしています。
"Well, to be honest, Sarah, I think the Russians already knew all this. This is information that's come to light for us, but none of this will be new to the Russians or to the Ukrainians,"(「率直に言うと、ロシア人は既にこれらの情報を全て知っていたと思う。これは今回明らかになった情報ではあるが、ロシア人にとってもウクライナ人にとっても、そこには新しい情報は全くないだろう。」)
(参照: 2023年4月11日付BBC記事「Ret. U.S. General Pours Cold Water on Threat Revealed in Ukraine Docs Leak」、ほか)

 勿論、機密の内部文書であるはずの生文書が画像で出回ること自体、機密保全や情報管理の観点からは大問題ではあります。また、流出した内容が米国と友好関係にある国々から米国に対して不信感を抱くようになる影響もでるでしょう。例えば、一部で、米国が同盟・友好国にも猜疑心をもって情報活動していることがつまびらかになっている情報も含んでいました。グテーレス国連事務総長がロシアに非常に甘い、とか、米国が結構支援しているはずのエジプトの大統領が、ロシアと密約しミサイルを内密に製造しようとしている、とか、韓国がウクライナに直接的に戦闘に使う武器・弾薬を提供できずポーランドに輸出して間接的に支援しているのは実はロシアにきがねしているから、とか。へぇー!というビックリ情報も含まれています。これらが米国の今後の外交上のトゲになるであろうことは間違いないでしょうね。

 結論的には、機密保全に関しては、米国はこの機会に襟元を正していただくとしても、「ウクライナ戦線、異状なし」と言えるでしょう。

12 April Bakhmut
バハムートの戦場で束の間のたばこ休憩をするウクライナ兵(A Ukrainian soldier takes a cigarette break in Bakhmut on April 12 2023年4月12日付Radio Free Europe記事「Bakhmut As Seen From Both The Russian And Ukrainian Battle Lines」より)

 現在、もはや冬攻勢の攻撃衝力の尽きたロシアが、最後の力を振り絞ってバハムートだけは陥落させたろか!と猛攻撃をしている模様です。防戦一方で押され気味のウクライナ軍のバハムート守備隊の旅団は、もはや満身創痍でロシア軍と戦っています。ウクライナ軍も攻勢前なので援軍を振り向けることができません。・・・

頑張れ!バハムート守備隊!もうそこに光は見えている!
頑張れウクライナ!
攻勢でロシア軍に薄皮防御線に風穴を開けたれ!

(了)

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2023/04/02

ウクライナの春季攻勢を読む:いつ?攻める部隊は?どこをどう攻める?展望は?

Western Tanks arrived
春季攻勢のためウクライナに到着した西側諸国の主力戦車等(Ukrainian defense officials pose in front of foreign-supplied military hardware, including a British Challenger 2 battle tank, at an unidentified location in Ukraine, in this handout picture released by Ukraine's Defense Ministry March 27, 2023.)(2023年3月30日付VOA記事「Western Tanks Arrive in Ukraine: Will It Turn War in Kyiv's Favor?」より)

ウクライナの春季攻勢を読む
 まだまだ前線各地で激戦は続き、概ねロシアとウクライナの接触ラインは膠着しつつあります。ただ、大方の見方として、ロシアの冬季攻勢は概ね失敗に終わったと言える状況です。ロシアの活発な攻撃行動は低調になりつつあり、西側諸国もロシアも、来るべきウクライナの反転攻勢に注目が集まりつつあります。
 そのウクライナの攻勢について、攻勢開始はいつか?攻勢部隊はどのような部隊か?攻勢は何を目標にどこをどのように攻めるのか?そして、その攻勢の行方はどのように展望できるか?、について考察します。

ウクライナの春季攻勢の目的・目標
 ゼレンスキー大統領が公言しているところですが、戦術的妥当性から言っても、「侵攻するロシア軍を排除し失地を回復すること」が目的と考えられます。問題は、その目標の設定です。「どこまでの線を攻勢作戦の目標ラインとするか?」が大きな問題と言えましょう。ゼレンスキー大統領はたびたび「クリミア及び東部2州の完全回復を含む領土の回復」を主張してきました。究極の国家としての対ロシアの戦略的目的・目標はそれで当然だと思います。しかし、いや、ただし、現実的には、時間的にも目標とする地域的にも、段階的に進めなければなりません。この際、ロシアの事実上の領土奪取の歴史的経緯の線が目標ラインとなります。すなわち、①2022年2月24日以前の線までの回復、②2014年以前の線までの回復、という大きく2つのラインがあって、この順になると思われます。この際、①と②のギャップの焦点となるクリミア半島と東部2州親ロ地域(2014年~2022年2月までの親ロシア勢力の実効支配・半自治地域)がネックとなる。ウクライナ国民の心情からは2014年以前のクリミアも東部2州も完全に回復しなければ気が済まないのは理解できます。しかし、2014年以前のクリミアと東部2州の地域には、2014年~現在までの間にクリミアは事実上ロシアであったし、ロシア人が入植し既に今も生活の場としている地域ですし、東部2州の親ロシア勢力下だった地域は事実上ロシアの傀儡自治州だったので、これらの2014年以降のロシアの支配下の地域については、ロシアにとっては「死活的国益」として絶対に一歩も退かない戦いになるであろうことは火を見るよりも明らかです。
よって、西側諸国も①の線までは許容するでしょうが、②の線の追求については西側諸国にとってロシアの逆鱗に触れる「レッドライン」として、それ以上を追求するなとウクライナを押しとどめる可能性が大でしょう。よって、賢明なゼレンスキー大統領及び軍事指導部は、今回の攻勢開始に当たっては最終的な②の追求についてはぼやかして言明せず、あくまで春季攻勢開始の段階での作戦目的は漠然と「領土回復」とし、作戦目標としては、目前の達成しやすい作戦目標を設定すると考えられます。どこを目標とし、どの方向からどこを攻める、という細部は後述しますが、これまでの作戦もそうでしたが、具体的な作戦目標については(部隊の作戦計画には当然明記されますが)作戦上「秘」であって公表しないでしょう。

攻勢部隊の陣容
 ウクライナ軍は、来るべき春季攻勢の中核となる攻勢部隊として、現在前線でロシア軍と対峙しているウクライナ軍の第一線部隊のはるか後方で、数個の突撃旅団(assault brigade)を編成中の模様です。その突撃旅団を構成するのは、マリウポリで孤軍奮戦した「アゾフ」連隊の生き残りをはじめ、「スパルタン」、「アイアンボーダー」、「フロンティア」、「フューリー」などの元々あった歴戦の部隊に新編部隊を加えて、「Offensive Guard(攻勢警護軍団)」として数個の突撃旅団を編成している模様です。そのOffensive Guardを構成する将兵は、2014年からのロシアのクリミア侵攻や東部2州をめぐる紛争、及び2023年2月のロシアのウクライナ侵攻との戦いで各地の前線で戦った歴戦の兵士や残留市民からの志願兵、一部海外からの義勇兵などの模様です。志願した将兵は、厳しい身上調査や身体検査・体力検査を含む適格性の審査のうえ、数ヶ月間に亘る戦闘訓練を受け、それぞれ指定された旅団に配属されます。基本的には、アゾフ連隊のように出身地を同じくする郷土部隊への配置が多い模様です。
 攻勢部隊には、特に攻撃戦闘時に最前線で敵陣に突入する部隊には、装甲兵員輸送車、戦車、重砲など、西側や他の国際ドナーによって提供された最新鋭の近代装備が供与されます。例えば、ウクライナ軍が重視している主力戦車・装甲戦闘車のラインナップとしては、ドイツのレオパルドⅡ(ツヴァイ)戦車、英国のチャレンジャー60戦車、米国のM1A1戦車(ただしM1A1戦車の前線到着はかなり遅い模様)、M100ブラッドレー歩兵戦闘車、英国のスパルタ「装甲タクシー」、など。野戦砲については、フランスのCAESAR自走榴弾砲、イタリアのメラーラモッド榴弾砲。米国のHIMARSシステム、チェコのRM-120ミリ榴弾砲(ニックネーム「ヴァンパイア」)、フィンランドの92KRH70重迫撃砲、など。また対空砲(対航空機・ヘリ・ドローン・低速のロケット/ミサイル)にスウェーデンのボフォースL4対空砲、ドイツのゲパルト対空戦車、など。戦闘機については、スロバキアからMiG-29(13機)、など。他にも、ドイツの河川戦闘巡視艇、クロアチアから地雷除去器材、など。・・・・等々の最新鋭西側装備から旧式ロシア装備まで、種々雑多ながら、非常に充実した占領となる兵器・装備が続々と到着中です。
(参照:2023年3月30日付Newsweek記事「Russian official says Ukraine counteroffensive will target these areas」、同日付VOA記事「Western Tanks Arrive in Ukraine: Will It Turn War in Kyiv's Favor?」、同日付Newsweek記事「Russian official says Ukraine counteroffensive will target these areas」ほか)

春季攻勢の時期・場所・攻撃目標・攻撃方向などの推測
 ウクライナの春季攻勢の時期は、ゼレンスキー大統領がたびたび公言しているように、西側諸国をはじめとした各国からの十分な兵器・装備が揃えばすぐにでも春季攻勢を開始する、という構えです。まぁこれは政治的発言として、戦機としては、ロシアの冬季攻勢が沈静化した今、まさに戦機が来ています。しかし、冬季に降った雪、凍った大地が雪解けとなる4月中は、平原においては泥濘が予想されるため、戦車・装甲車などのキャタピラを履いた車両以外は舗装道の上しか動けない時期とも言えます。では泥濘が収まる5月まで待つのか?私見ながら、キャタピラを履いた戦車・装甲車の縦横無尽の突破力に期待し、戦機を捉えて4月中に攻勢を開始すると見ています。
 全くの私見ながら、攻撃は複数の攻撃軸を用意すると思われます。一案としては、2022年2月以前の線の回復を作戦目的とした以下の3軸の攻撃です。
① 東部戦線北正面(北部正面ともいう)ではロシアの薄い陣地線を破ってロシアの東部正面北部の要衝Kreminna奪取を目指す攻撃、
② 東部戦線ドンバス正面ではバハムートの北のSpirneまたは南のToretskのロシアの薄い陣地線を突破し、バハムートを逆包囲する攻撃でバハムート攻防戦を勝利に導く攻撃、
③ 南部戦線ザポリージャ正面では、今激戦の地であるVuhledarなどを突破して南部の要衝ベルディアンスクやメリトポルを奪取し、ザポリージャ平原を貫通してマリウポリ方向へスクリュードライバー的な突進により、クリミア半島への陸の回廊を分断を目指す攻撃、
 この攻勢の主攻撃は③。ロシアにとって一番脅威を感じる攻撃が③であり、ロシアにとって最も重要なクリミア半島が東部2州からの陸の回廊でつながっていることが大事なため、ここを分断されることは一番の苦痛です。主攻撃は③で、①や②は助攻撃。①②対応にロシアの戦力を分散させ、主戦力は③に傾注してマリウポリを目指させるザポリージャ平原突破分断作戦です。恐らく、上記3軸の攻撃の前に南部戦線ネルソン正面のドネツク川の渡河作戦をダミー攻撃で偽騙(ぎへん)すると思われます。ロシア軍はクリミアに近いネルソン正面で渡河されると思うと、その正面が気になって仕方なくこの正面に戦力を振ります。こうして3軸の攻撃よりかなり離れた南部戦線ネルソン正面にロシアの一定規模の戦力を分散させることができます。

春季攻勢の行方を展望する
 まず、前向き予測から。
 あくまでウクライナ国内の目論見の話ですが、・歴戦の経験豊富な将兵と西側からの近代兵器で武装した複数の突撃旅団の新編のため、前例のない志願兵募集キャンペーンを展開し、相当数の兵力を蓄えており、現在作戦準備中なわけです。ウクライナにしてみれば、この春に予定される突撃旅団達による空前の攻勢は、昨年秋のウクライナの反転攻勢にてロシアに占領された6.000平方キロメートルに及ぶ領土を解放した際と同様の大成果への期待が高まっています。

 他方、後ろ向き予測を紹介いたしますと、マーク・ハートリング(退役)中将(元米在欧州陸軍司令官)の評価によれば、ウクライナ軍は春季攻勢においていくつもの課題に直面する、と見られています。 同退役中将によれば、まず第1に「再編成の問題」があります。現在実施中の南北数百キロに及ぶ最前線での防御戦闘に従事しながら、一方で攻勢部隊を集め、見たこともない他国の兵器を使いこなす精強部隊に編成しなければならず、この両立は極めて難しいという点です。ロシアもウクライナ侵攻の初めの怒涛の攻勢の後の再編成がうまくできず、攻勢は頓挫し、じ後のウクライナの反転攻勢で押された理由もここにあります。続いて第2の問題は「ロシア周到に準備した防御陣地への攻撃になることから相当の損耗が予想されるという問題」です。これまでの1年の戦争で人的資源が有限のウクライナにとって、攻勢作戦に伴う人的損耗の高さはかなりのハードルとなりましょう。そして、同退役中将は結論として、ウクライナ軍は春季攻勢で一定の領土の奪回ができるであろうが、攻勢の成果は一定程度であって、この攻勢で「戦争の勝者」にはならず、結局更なる追加の支援を西側に求めることになろう、というコメントをしています。(参照2023年3月30日付Newsweek記事「Ret. U.S. general outlines "challenges" facing Ukraine's spring offensive」)

 私見ながら、米軍司令官経験者の分析にしては、当たり前すぎるつまらないコメントだと切って捨てます。再編成が難しいとか、周到防御する敵に攻撃すると相当の損害があるとか、この攻勢作戦だけじゃ戦争に勝てないとか、そんなことは誰でも分かっていることでしょ。ウクライナも攻勢のリスクなんて承知の上ですよ。それでも国家の存亡がかかっているから、獲られた領土を取り返すために、乾坤一擲で反転攻勢をかけるんでしょ?難しくても再編成をしますよ。応答の損害があろうとも、それを承知で被害を局限する攻撃の時期・場所・方向を脳漿を絞って作戦を立てますよ。この攻勢作戦でも一定程度の成果しか得られないかもしれなくて、また西側に支援をねだるでしょうよ。そんなことは分かっているんですよ。でも、ウクライナはリスクを知っての上で戦うんでしょ?バカじゃないの?こんなアホを司令官にしちゃダメですね。

 確かに、西側諸国の支援も今回大奮発していますが、未来永劫続くわけじゃありませんし、米国内など一部でウクライナに「白紙の小切手」を切るな!という反対論が出ている状況です。西側諸国も、ウクライナへの支援がウクライナの求めに応じて又支援額や支援内容を引き上げるという流れには限界があります。よって、こうした攻勢に期待した大型支援は今回が最初で最後かもしれませんよね。

 私見ながら、私の展望の読みを申し上げると、本攻勢で一定の成果は必ず得られますので、その「一定の成果」を次の戦況を大きく動かる「潮流」につなげる形になる、否しなければならない、と考えています。本攻勢作戦は、人的資源が有限で、西側諸国の支援も有限である中、乾坤一擲の1回性の攻勢にならざるを得ません。具体的には、これまで膠着的だった東部戦線や南部戦線でウクライナ軍の突破が成功し、薄皮一枚のロシア軍防御線を破って、ドンバス平原やザポリージャの平原にウクライナ軍がスクリュードライバー的にねじ込まれます。ロシアの将兵は「ついに突破された!」というやられた感と、「退路を断たれて包囲されるかも!全滅させられるかも!」という敗走感をそそらせます。これは、前線のロシアの将兵に敵前逃亡したい願望と厭戦気運を疫病のようにはびこらせます。こうした戦場の戦闘結果は、戦場のみならずロシア・ウクライナをはじめ内外に衝撃を与えます。ロシアにあっては、国内に動揺や反戦・反政府世論を巻き起こさせ、親ロ諸国にも動揺を与えてロシア支援に躊躇させ、他方で西側諸国では攻勢の良好な攻撃進展に「イケイケ押せ押せムード」ないし「バスに乗り遅れるな」的な国際世論を惹起させて、ロシアのプーチン政権を追い込む潮流を作るでしょう。攻勢作戦のキモは、こうしたシナジー効果を生み出す潮流を生み出すことだと思います。もし最悪ケースの場合でも、よい潮流が巻き起こせなくても、一定程度の成果において努めて多くの領土を回復し、仮にそこで長期に渡って膠着したとしても、かなり今よりはましになるよう、或いは、ロシアが更なる侵攻は諦めるような、そんな攻勢の成果を得る。私はそう展望します。

 頑張れ!ウクライナ!
 ロシアの鼻の穴に指をひっかけて引きずり回せ!

(了)

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