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2023/07/30

ウクライナ大規模攻勢開始か: ロシアはベラルシ経由でポーランド・リトアニア国境を牽制

ウクライナ、大規模攻勢を開始か
 ここ数日のISWの分析によれば、ウクライナ軍は、南部戦線ザポリージャ西部正面を中心に、更に南部戦線ドネツク州ザポリージャ州境界正面、及び東部戦線バハムート正面において、西側供与の戦車・装甲車等の装甲打撃力を発揮した比較的大規模な攻勢を仕掛けている模様です。
(参照: 2023年7月25日~29日付ISW記事「Russian Offensive Campaign Assessment, July 25~29, 2023」、ほか)

 ウクライナ軍の主攻撃と思われる南部戦線ザポリージャ西部正面で、オリヒフ南5キロの位置にあるロボタインの東まで前進し、ロボタインの北東森を占領した模様です。これはロシア側の軍事ブロガーの発信でも確認されており、戦車・装甲車からなるウクライナの機械化部隊が正面攻撃で、ロシアの防御陣地を突破し、ロボタイン付近でようやく前進をロシア軍が止めた、と報じています。

 また、ウクライナ軍の助攻撃と思われる南部戦線ザポリージャ州・ドネツク州境界正面の戦闘では、リヴノーピリ、スタロマヨルスケ、ウロザインの近くでウクライナの地上攻撃が前進し、ロシア軍がようやく止めた模様です。また、同様にウクライナ軍の助攻撃と思われる東部戦線バハムート正面でも、バハムートの南のクリシチイウカ、クルデュミフカ、アンドリーイウカの近くで攻撃を続けたと、ロシア側の軍事ブロガーが報じています。

 また、ウクライナ軍は、上記の大規模攻勢に同時並行して、ロシアの南部戦線の後方の拠点になっているクリミア半島の兵站施設に対してミサイル攻撃を仕掛け、燃料、武器・弾薬等の補給基地を徹底的に叩いています。もってロシア軍の継戦能力をギリギリまで低下させ、更にロシア本土からクリミア半島への橋を介した補給も断つために、クリミア半島に係るケルチ大橋やクリミア半島とロシアが占領するヘルソン州の間のチョンハル鉄道橋もミサイル攻撃で破壊しています。


July29 ザポリージャ西部


July29 ザポリージャドネツク境界


July29 バハムート

 上図3枚は、上から主攻撃正面の①南部戦線ザポリージャ西部正面、中が助攻撃正面と思われる②南部正面ザポリージャ州ドネツク州境界正面、下が同じく助攻撃正面と思われる③東部戦線バハムート正面の戦況図です。青色が6月以来のウクライナ軍の攻勢による新規の奪取した地域、黄土色が逆にロシアが更に取り返した地域です。しばらく膠着していた戦線は徐々にウクライナ軍の「戦勢」を獲得したことを示しています。(3つの図とも前掲2023年7月29日付ISW記事より)

このままロシア陣地線の突破の戦果を拡張して進軍すればメリトポリを奪取して王手をかけられる 
 上の図の主攻撃正面の①南部戦線ザポリージャ西部正面の図をご覧ください。図中の黒と緑の円で表示がロボタインです。ロボタインから左下(図の下縁真ん中あたりまで伸びる道路の目指す方向(図の下縁真ん中あたりに赤▲(ロシア軍の防御陣地線)が半円型にある部分、図の下なので見えませんが、この赤▲の防御陣地線が囲って守っているのがトクマク市です。このウクライナの主攻撃は、ロボタインを越えて左下に伸びる道路に沿って20キロ行った先のトクマクが中間目標でしょう。この中間目標が奪取できれば、更に左下(南西)方向に道路が伸び50キロ先に大都市メリトポリがあります。

 そんなにうまく行くのかよ、という声が聞こえてきそうですが、確かにこれまでも「反転攻勢開始!」と言っても相当の時間がかかっているように、そうトントン拍子には進みません。やはり、攻撃進展には相当の時間がかかります。しかし、どっちみち時間はかかりますが、ここで戦線に一服の新風を吹き込んでくれる友軍がこの地域にいるのです。実は、このザポリージャ州西部のトクマクやメリトポリの地域には、元々この地の住民でロシアに占領された後もこの地で面従背腹しているウクライナ人市民が「パルチザン」活動をしてくれています。ロシアに占領されている地域の中でも、特にこの地域のパルチザンは屈強で、絶え間ないロシアの摘発をかいくぐり、ロシア軍の行動や防御陣地の状況をウクライナ軍に情報提供したり、ロシア軍やロシア占領当局に対するテロ攻撃を敢行したり、非常に勇敢に戦っています。恐らく、現在の大規模攻勢がトクマクやメリトポリに進軍が至ると、この地域のパルチザンが銃を取って友軍として協力してくれるであろう、と期待されています。(参照: 2023年7月25日付EDM記事「Ukrainian Resistance Adapts to Key Role in Counteroffensive」、ほか)

 メリトポリの奪取がこの大規模攻勢の当面の戦略目標で、メリトポリを陥落・奪取すれば、アゾフ海まで攻勢が貫通し、もってロシアのロシア本土から東部2州、ザポリージャ州、へルソン州を経てクリミア半島へ通じる陸の回廊は遮断することができます。名人レベルの将棋でよくあることですが、相手に痛烈な一手をもらってよくよく将棋盤の全体状況を読んでいくと、ここまでやられたら…と次の次の一手を読んで行き詰まり、凡人には「あれ?」と思う状況でも、名人レベルだと先読みして自分が勝てない「詰んだ状態」になることを悟り、「参りました」と投了する場面がありますよね。この攻勢で言えば、もしウクライナがメリトポリまで奪取できたら、純軍事的な読みで言えば、ロシアは「投了」すべき段階です。もはや、陸の回廊を遮断されては、クリミア半島は窒息します。クリミア半島に展開する、ロシア陸海空軍、特に黒海艦隊は、クリミアから撤収するしかない状況に陥ります。普通の神経の国家指導者であれば、メリトポリを取られた時点で、もはやウクライナ侵攻作戦は勝ち目なし、として停戦協議に入るのが定石です。・・・まぁ、純軍事的にはそうでも、プーチン大統領はメンツをかけて他の手を打って来るでしょう。

ヤケクソになっているプーチン大統領の西側への揺さぶり:ポーランド・リトアニア国境への軍事的恫喝
 ロシアが始めた軍事侵攻、本来の勝負は当然の如く軍事作戦で勝負をつけるべきですが、当面ロシアとしてウクライナ侵攻作戦そのもので各戦線各正面で打つ手なしです。そこに今回のウクライナの大規模攻勢の再開が来ました。ロシアは、とりあえず、攻勢をかけられた正面で戦うしかないわけですが、打つ手がないロシアとして、ヤケクソ的な反撃を画策している模様です。それがどうやら今行われつつある、ベラルーシの西部国境に当たるポーランド・リトアニア国境への軍事的恫喝を与える作戦の模様です。
スヴァウキギャップ
青丸の部分がポーランド・リトアニア国境のスヴァキア・ギャップ、ベラルーシ西部のワグネルの宿営地から不穏な動きがあり、ポーランドが神経をとがらせています。(グーグルマップを筆者が加工)

 7月29日に、ポーランドのモラヴィエツキ首相は、ベラルーシに再集結しつつあるワグネル部隊やベラルーシの特殊部隊がこの地域で不穏な動きをとっており、ロシアの同盟国ベラルーシから不法移民を装ってポーランド側に浸透するなどで、ポーランド・リトアニア国境(スヴァウキ・ギャップ)に対する「ハイブリッド攻撃」を計画している可能性がある、と警告を発しています。(参照: 2,023年7月29日付 Newsweek記事「Poland Sounds Alarm as Putin Allies Suggest Wagner Will Invade NATO Country」)
 この「スヴァウキ・ギャップ」というのは、このすぐ西にロシアの飛び地カリーニングラードがあり、ここをベラルシ・ロシアに占拠されると、エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト3国は西側から孤立してしまいます。西側諸国にとって「NATOのアキレス腱」と言われるほどセンシティブな戦略的な弱点で、これまでもNATO軍演習やこれに対抗するロシア・ベラルーシの同盟軍の演習が何度も行われた地域です。

 もし、ロシア・ベラルーシ連合軍がポーランド・リトアニア国境のスヴァウキ・ギャップに浸透してこの地を占領し回廊を形成するなどの行動を取れば、これはもうNATO同盟国に対する攻撃とみなして、NATO軍による軍事的な対抗措置を取ることにならざるを得ず、これはイコールNATO対ロシア連合軍の紛争を意味し、第3次世界大戦になってしまいます。
 もちろん、ロシアがそれを画策しているということではなく、あくまで「しちゃうぞ!できちゃうぞ!」という軍事的恫喝で「揺さぶり」をかけているというのが正しい認識だと思います。ポーランドなんかは自分の国の庭先ですから気が気じゃありませんよね。西側諸国に対する揺さぶりで、ウクライナに対する西側支援に足する結束を瓦解させようという姑息な手段です。

 これらに動揺することなく、ウクライナの攻勢に関しては、ロシアがいろいろと国内でもめている間に、ガンガン攻めるべきです。ロシアに対応の暇を与えず、ロシアの鼻面を引き回すべきです。具体的には、まず、トクマクを奪取!次いでメリトポリを奪取!これで王手をかけましょう。

 頑張れウクライナ!
 まずはトクマクだ!
 勝利の日は近い!

(了)

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2023/07/27

内乱の内幕:プリゴージンを駒にプーチン後の覇権を占った側近たち

prigozhin as a tool 
反乱はプリゴージン単独犯の自爆ではなく背後にプーチン側近がいたかも(2023年7月11日及び24日付EDM記事「The Anatomy of Prigozhin’s Mutiny and the Future of Russia’s Mercenary Industry (Part One & Two)より)

内乱の内幕:プリゴージンを駒にプーチン後の覇権を占った側近たち
 プリゴージンの乱はプリゴージンの自爆に非ず、プーチン側近たちがプリゴージンを駒に使って乱を起こさせ、プーチンや側近内のライバルの力を削ぎ、プーチン後の布石を打った企てだった模様です。

 後述いたしますが、要約いたしますと以下の通りです。
 旧ソ連時代からロシアに特化した粘り強い分析・研究で定評のあるジェイムズタウン財団のユーラシアン・デイリー・モニター誌(EDM: Eurasian Daily Monitor)の記事によれば、プリゴージンの乱の前後を辿ると幾つかのシナリオに分かれるものの、乱はプリゴージン単独の自爆ではなく、プリゴージンと内通・連携したプーチン側近の一派がいて、プリゴージンなりに勝算があって決起した模様です。この側近一派は、もはやプーチン大統領を見限り、プーチン後の覇権を賭けて今回の反乱を利用したものの、反乱に加わる勢力が続々と続くのではという期待は大きく外れ、その一派はこの先の情勢の成り行きを読んでプリゴージンを見限り、保身から反乱中に沈黙を守りました。一派は、プリゴージン単独の自爆であったように事態を収め、反乱後の事後処理を通じて自分の関与の痕跡を消しつつ、この好機に乗じてクレムリン内の邪魔な政敵の力を削いでいる模様です。
(参照: 2023年7月11日及び24日付EDM記事「The Anatomy of Prigozhin’s Mutiny and the Future of Russia’s Mercenary Industry (Part One & Two)、ほか)

反乱の背後にいた一派とは
 前掲記事によれば、シナリオは3説あるようです。いずれが事実かは不明ですが、いずれもありそうなシナリオです。

 ①ロシア安全保障会議のパトルシェフ書記とキリエンコ第1副主席補佐官らが、プーチン後の権力掌握を探りつつ、西側とも意見交換を始めている…という説。一部のウクライナの軍事専門家やロシアの有力軍事ブロガーで最近逮捕されたガーキンもこの一派が首謀したという説を自分のブログで書いていました。

 ②ロシア連邦保安局(FSB:旧ソ連時代のKGB)円長官のが仕組んだという説。特に、FSBの元長官だったパトルシェフ書記と現長官のボルトニコフが首謀し、FSB指導部がプリゴージンをプーチンの弱さを露呈させるために駒として使った可能性が指摘されています。

 ③国防省・軍指導部が仕組んだという説。プリゴージン率いるワグネル部隊の良き理解者であり、半ばプリゴージンに利用されていたとも言えるスロビキン将軍と元国防副大臣のミジンツェフ将軍がプリゴージンの背後にいました。一方、これと反対の勢力であるショイグ国防相・ゲラシモフ参謀総長らが一計を案じ、ワグネル部隊のロシア正規軍への登録を迫ってプリゴージンの指揮下から外す施策でプリゴージン側を憤慨させ、反乱を決起するように仕向け、反乱でプーチン大統領を弱らせるとともに、この反乱を子飼いのロシア正規軍で鎮圧して一挙にプリゴージン側を潰す、という腹だった模様です。この説は、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問が唱えています。

反乱前後のプーチン、プリゴージン、側近の動向
 実は、プーチンは反乱前にプリゴージン率いるワグネル部隊の不穏な動きを察知していたようです。それがまさか、反乱を起こすとまでは予想したかどうか不明ですが、不穏な動きのあるプリゴージン側に対し、先手を打ちました。それが、ロシア正規軍以外の武装勢力は7月1日までに国防省に正規に登録するよう命じた通告で、明確にプリゴージン率いるワグネル部隊を狙い撃ちにし、国防省への正規登録をもってワグネル部隊をプリゴージンの指揮下から切り離し、かつ、これまで別格扱いでプリゴージン率いるワグネル部隊に割り当てられていた財政的支援を終了する、という2つの狙いを果たそうというものでした。私見ながら、穿った見方をすると、プーチンにそうさせたのは反乱の背後にいた前述のいずれかの一派の画策であったかもしれません。

 プリゴージン側の不穏な動きに先制パンチを与えたつもりのプーチンでしたが、この国防省への正規登録を命じた通告がプリゴージンの反乱決起の引き金になってます。

 プリゴージンが怒りの声明をSNSに載せ、ついに6月23日に反乱を起こしましたが、プリゴージン率いるワグネル部隊がモスクワに行進するとぶち上げてロシア社会が混乱し始めました。一方のプーチン大統領は、以前の神がかったカリスマ的なリーダーシップというよりは意外と弱気で動揺を見せましたが、「国家への反逆である」として断固戦う姿勢を見せました。ロシア国家・社会にとって、反乱の初期ながら非常に深刻な段階を迎えました。しかし、プリゴージンが期待した反乱賛同者が現れず、プリゴージンの後ろ盾だったはずのロシア軍高官のスロビキン将軍らは情勢を見守って動きませんでした。まぁ動いたとしても、スロビキンは空軍なので、実動部隊は決定的な力を持っていませんが。
ここで、前述の背後にいた側近一派たちは、自らが画策してプリゴージンの反乱をおこさせたものの、反乱への賛同・追加参加勢力等が現れない状況、クレムリン内の動きを見極めて、・・・保身から沈黙を貫くことにしました。ここでルカシェンコの仲介で、プリゴージン率いるワグネル部隊は身の安全を保障を条件に、矛を収めて「恭順」する形であっけなく幕切れとなりました。プリゴージンの背後にいた側近一派は、当初から今回の反乱には関係がなかった整理とし、自らの関与の痕跡を消しつつ、事態の収拾にかかります。この際、この機に乗じてクレムリン内の自分にとって邪魔な政敵の力を削ぐ事後処理をしています。

反乱後に笑った者、笑顔を失った者
 前述のどのシナリオ、どの一派が背後にいたのが事実だったかは不明ですが、結果的に言えることは、反乱後に笑っている者と、笑顔を失った者がいることです。

 私見ながら、間違いなく、ショイグ国防省・ゲラシモフ参謀総長は、軍の統制下に入ろうとせず、彼らを目の敵にして指弾していた目障りなプリゴージンを失脚させたわけですから、笑った者でしょうね。また、事後処理のリーダーシップをとってFSBや国防省・軍指導部内のプリゴージンの理解者をたちを摘発しているキリエンコ第1副首席補佐官は笑っているでしょう。その意味では、パトルシェフ書記は反乱中に対応の指揮を執ろうとした際に、他のクレムリン内の側近たちから協力・支援が得られなかった模様です。ただし、反乱後に処分を受けたりはしていないようです。
他方で、FSBは今回の事後処理の中で相当力を削がれた模様です。その意味では笑顔を失った者と言えるでしょう。そして明確なのがもう一人、プーチン大統領は笑えないのは間違いないでしょう。今回の反乱への対応を通じて、国民に見せた姿は、在りし日の神がかったカリスマ、絶対強者プーチン帝ではありませんでした。事態に動揺を見せ、やや弱気で決心が揺れ惑う「弱いプーチン」大統領でした。これを逮捕された軍事ブロガーのガーキンは「臆病者」と呼びました。

 ということは、笑った者たちの中に背後にいた下手人がいるようです。全くの私見ですが、ガーキンが予測したように、キリエンコが首謀者で、ショイグ国防相・ゲラシモフ参謀総長ら国防省・軍指導部と図って、プリゴージンに反乱を起こさせて、プーチンを揺さぶり、あわよくば・・・を狙ったものの、中途半端ながらこの反乱の収拾・事後処理を通じて漁夫の利を得た、というとところではないでしょうか。


 ロシアがドタバタしているうちに、こっちこそ漁夫の利を得るべし!
 プーチンも力が陰ってきたぞ、
 今だチャンスが、ウクライナ!
 勝利の日は近い。

(了)

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2023/07/23

末期症状のプーチン:戦争を支持してきたインフルエンサーたちの逮捕始まる

全般状況:攻勢はゆっくり着実に進展しつつも、穀物輸出は難しくなり黒海が戦闘地域に・・・
 ウクライナ戦争の全般状況は、ウクライナの攻勢がゆっくりだが着実に進展している状況です。特定正面におけるロシアの防御ラインの突破などの大きなブレイクスルーは見られないものの、ほぼ各正面でウクライナの攻撃作戦は、小さいながら着実に、ロシア軍の支配地域からの奪回した地域が拡大してきています。
 しかしながら、ウクライナ側の手によるものと思われる7月18日のケルチ大橋(ロシア本土とクリミア半島を直接結ぶ橋で、ロシア軍南部戦線の主要な後方補給線だった)の爆破で、ロシアにとって打撃が大きかっただけにその報復が猛烈に展開され始めました。世界の穀倉と言われるほどだったウクライナの小麦等の穀物輸出が、その穀物を死活的な食料として待つアフリカ等への安定供給のため、国連やトルコが仲介に入って穀物協定を結んでいましたが、ロシアはそこから「脱退」を宣言。これが意味するのは、ウクライナのオデッサ等の港湾から輸送船で黒海を渡って輸送するのが主要ルートですが、その黒海にロシアが黒海艦隊を臨戦態勢で展開するという状況となっています。要するに、NATOはじめ国際的な海運ルートであるはずの黒海が戦闘地帯になる、ということです。ウクライナ戦争の新たな局面と言えましょう。
 そんなウクライナ戦争にもうひとつ、新たな展開が、見えてきています。
 (参照: 2023年7月21日付ISW記事「Russian Offensive Campaign Assessment, July 21, ,2023」)

Girkin arrested
逮捕され裁判所でメディアのカメラの前に立つイゴール・ガーキン。この面構えはただモノではないですね。(画像: 2023年7月22日付The Guardian記事「Russian arrest of pro-war blogger likely to trigger fury in military, says UK MoD」より)

戦争を支持してきたインフルエンサー=著名な軍事ブロガーが次々と逮捕
 ロシアの著名な軍事ブロガーであり、元ロシア連邦保安庁(FSB=旧ソ連のKGB)の将校で、2014年のロシアのクリミア半島侵攻の際に暗躍し、その後のウクライナ東部2州の内戦状態で親ロシア軍事勢力を指揮したイゴール・ガーキン(別名もありますがこの名で統一します)が7月21日に「過激主義を扇動した」という名目で逮捕されました。
 (参照: 2023年7月21日付Newsweek記事「Igor Girkin Detained in Russia After Wagner 'Tip-Off'」ほか)

 ガーキンは、これまでにも侵攻開始以来一貫して、詳細な戦況や作戦の方向性、問題点を冷静・緻密に分析して提示するとともに、過激なまでの愛国心からプーチン大統領や国防相、参謀総長、作戦指揮官たちを舌鋒厳しく批判してもきました。私の前々回のブログ(2023年7月17日付「プーチンの誤算・迷走: ワグネル部隊はロシア軍への帰属拒否により解体へ、内輪からの失脚画策の可能性も」)でも書きましたが、この軍事ブロガー・ガーキンが、「プーチン大統領の内輪の側近たちが宮廷クーデターを起こし、プリゴージンや第1副参謀長キリエンコなどを首班として立ててプーチンを失脚させる可能性がある」との指摘をブログに載せ、ロシア国内でも大きな反響を呼んでいました。
 (参照: 2023年7月13付Newsweek記事「Putin May Be Facing Plot From Inner Circle, Warns Igor Girkin」)

 また、ガーキンのみならず、ガーキンの関連会社である元連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のウラジミール・クヴァチコフ大佐に対して、「ロシア軍の信用を傷つけた罪」の名目で刑事訴訟を開始、更に、著名な軍事ブロガーで人気のインサイダーテレグラムチャンネルを運営していた元FSB将校のミハイル・ポリャコフ大佐も逮捕されています。これに関連して、ロシアの裁判所は逮捕したガーキンをメディアの前に出して(上の写真参照)訴訟手続きについてを公表、ロシアのメディアはガーキン、クヴァチコフ、ポリャコフの訴訟・逮捕の件を、つい先日のワグネル総帥プリゴージン私邸の捜索で隠し財産を摘発した画像とひっかけて、連日キャンペーンのように放映している模様です。上記の3名の著名な軍事ブロガーのみならず、他の軍事ブロガーたちも戦々恐々の状況です。これまで「特別軍事作戦(ウクライナ侵攻作戦のロシアの正式名称)」に対する反戦、反対、批判は侵攻後に作った法律で違法行為として処罰の対象になりましたが、軍事ブロガーたちは基本的に愛国者であり戦争支持派であって、ロシア政府や国防省として政府の公式発表の足らざる情報を補足したり、一般国民が見て胸のすくようなロシア軍のいい話や感動の話、イケイケ的な意見などを代弁してくれる存在でしたので、政府としても軍事ブロガー達の情報発信には非常に寛容で、これまで摘発されるようなことがありませんでした。ところが、今回のガーキンらの逮捕は、一種の見せしめでもあり、「行き過ぎた政府や国防省・軍指導部に対する批判や意見に対しては、今後は厳しく罰するからな!」という脅しですよね。これは、彼ら軍事ブロガーを財政的ないし実務としてもバックアップしてきた「シロビキ」と呼ばれる政権内の治安・国防・情報機関の出身者からなる保守右派勢力に対する見せしめでもあって、「お前ら政府側(軍含む)の人間のクセに軍事ブロガーたちに軍の情報を流すんじゃないぞ!お前らも逮捕するぞ!」という脅しですね。私見ながら、特に、FSBを狙い撃ちで脅し、政権内における力を削ごうとしているのではないかと推察します。ISWの分析では、「ロシアの治安機関に関連する超国家主義者に対する最近の取り締まりは、クレムリンの権力政治における重要な変化の公の現れである可能性」を指摘しています。
 (参照: 前掲7月21日付ISW記事)

朗報?ロシア政権内に新たな曲者(いい奴かも)、キリエンコ氏に注目
 今回のプリゴージンの反乱の後始末やガーキンら軍事ブロガーたちの逮捕などの一連の政策を主導しているのは、もちろんトップはプーチン大統領であって、その意を受けてやっているわけでしょうが、実務的にはガーキンが彼のブログの中で今後台頭してくる男として名指したキリエンコ大統領府第1副長官です。彼は、プーチン側近中の側近で、陰の実力者と言われており、その考え方はリベラルな経済改革派で原子力にも長じた切れ者です。ガーキンは、宮廷内クーデターはキリエンコが主動するのではないか、と見ていたほどの男ですから。今後キリエンコという名前には要注目ですね。
  (参照: 前掲7月21日付ISW記事)
キリエンコ

キリエンコ大統領府第1副長官(画像:Wikipedia「キリエンコ」より)


 私見ながら、プーチン大統領にとって、今直面している飼い犬に手を噛んだプリゴージンの反乱の後始末や、政権内の動揺などを収めるに当たり、一番警戒するのは諜報・陰謀・暗殺を常套手段としているFSBでしょうね。こいつら、俺を失脚させるつもりじゃないだろうな?と。キリエンコはそこをうまく突いています。その一方、政権内の自分のライバルとなりうる集団の力を削いでいるわけです。ただモノじゃない・・・。でもこいつが、面従背腹にてプーチンを手のひらで転がし、機を見てプーチンを失脚させて政権を取るのなら、特に、ウクライナ戦争を穏便に終わらせ、西側とも穏便に付き合える奴であるなら、それはそれで頑張ってもらいたいですね。メドベージェフのようなプーチンのコピーのような奴では、プーチンの後釜でも性格や政治姿勢・判断がハードライナーなままですから。メドベージェフなんかに比べれば、まだ国際社会と協調できるロシアのホープになるかも知れません。

ガーキンらの逮捕で前線の将兵や一般国民に不満や怒りが高まる
 前述の通り、情報統制下のメディアの報道の限界を代行してきた軍事ブロガーたちでしたが、政府・国防省・軍指導分にとっても国民に情報提供し政府も戦争支持を代弁してくれているので統制を甘くしていましたが、今回で状況一変しました。前線の将兵や一般国民はこれをどのように見ているでしょうか。

 英国防省の情報では、「今回のガーキン逮捕は前線将兵たちの怒りを買うであろう」、とのことです。
 (参照: 2023年7月22日付The Guardian記事「Russian arrest of pro-war blogger likely to trigger fury in military, says UK MoD」、下のツイッター画像も同記事より) 
UK MOD Int
 
 ここから先は、この記事に触発された私見です。
 つい先日のポポフ少将の解任をはじめ、前線の第一線部隊指揮官が国防省・軍指導部に対して率直な意見具申をしたことが「国家に対する反抗」ととられ、次々と解任させられる状況です。前線の将兵たちは自分の直属指揮官たちの解任劇を目の当たりにし、動揺し士気は低下し、もはや国防省や軍指導部に対する不信や怒りになっている状況の模様です。ポポフ少将が、本人の意図しないところで自分の気持ちを吐露した映像がSNSで流布され、その一節に多くの将兵が同情しポポフ少将を慕ったそうです。「・・・:(我々第一線指揮官は国防省や軍指導部に対して)面従背腹で沈黙を保ち、上層部が聞きたいこと報告し続けるべきか、あるいは意を決して前線の将兵の命を預かる者として言わねばならないことを言うべきか、重大な決断であった。私は、全ての戦死した戦友・将兵の名において、嘘をつくことはできなかった。(言うべきことをいうことにした)・・・」 ポポフ少将は、前線で次々にウクライナの砲撃で倒れていく将兵たちの思いを代弁し、現在の作戦方針は間違っており、今何が足らないか、どういう支援をしてもらいたいか、上層部に意見具申をしたわけです。そして解任されました。将兵たちは憤懣やるかたない思いを持っていたでしょう。軍事ブロガーガーキンは、そうした声に出せない前線の将兵の思いを代弁して、ポポフ少将はじめとした前線の第一線指揮官たちの解任は間違っている!と胸のすくブログを書いてくれました。将兵たちはヤンヤの喝采です。さぞ溜飲が下がったことでしょう。しかし、そのガーキンら軍事ブロガーまでも、ついに逮捕が始まったわけです。前線の将兵たちの不満や怒りというのは容易に理解できますね。

 他方、これまた私見ながら、それはロシア一般国民も同様であろうと思います。一般国民にとって、情報統制下のロシアのメディアの報道は政府発表の範囲内であり、本当に知りたい情報である実際の戦況や実情はサッパリ分からない状況です。それを補う情報源が様々な軍事ブロガーの情報発信でした。戦争当事国ロシアの厳しい情報統制で、戦争への批判や反対意見は「違法」として逮捕される状況下、戦況や戦争指導・作戦方針を知るには、軍事ブロガーたちのブログが唯一の情報収集手段だったし、自由な議論が戦わされる場でもありました。今回それが弾圧されつつあるわけです。軍事ブロガーたちも、今後は逮捕されないように、ブログ内容にはビンビンに神経を使い、ビットが立つような内容は控え、差支えのない内容のみのブログになるでしょう。この流れの中で、前線の将兵と同様に、胸のすく情報発信や代弁をしてくれていた軍事ブロガーたちの逮捕・弾圧劇に、一般国民たちの心情も同様に、不満や怒りが高まっているのは間違いないと推察します。

こうした状況はプーチン大統領の「末期症状」と見た
 歴史上、多くの独裁者が、その治世の末期に現れる間違った判断・政策・施策の共通項に、つい先日まで利用していた部下や仲間に疑いの目を向けて粛清していき、それが自分の真の支持者、理解者、協力者を自ら減らしていくこととなり、側近含め誰も信じない/信じられない「そして誰もいなくなった」状態に陥り、最終的に自分自身の命取りになる、という「末期症状」があります。スターリンは、側近さえ信じず寝室を使い分けていたため脳卒中で倒れた際にしばらく見つからずに数日後に死亡、ムッソリーニは弾圧していたパルチザンに囚われ、そのパルチザンに処刑され、死体は民衆に晒されて足蹴にされています。ヒトラーは戦況悪化に伴い側近と軍指導部のみで地下壕の司令部にいたものの、もはや誰も信じない状態で、最後は愛人エバと拳銃自殺。ルーマニアのチャウシェスクは、反体制派を弾圧し強固な独裁体制を敷いていたところ、政府支持デモに参加したはずが、集められた国民が一転して反政府デモと化し国民蜂起となり、命からがら逃亡しますが結局捕まって銃殺されました。まぁ枚挙に暇がないほどです。今のプーチンのしていていることは、悲惨な末路となった先輩の独裁者たちと同様、自分の言うことを聞かない者たちを弾圧し粛清しています。まだ、末期の中でも第1段階かも知れませんが、国家の英雄だった独裁者が次第に国民の信を無くし、次第に孤独になっていく、その過程にいる、と言えましょう。そして、今着実に進行しているのは、反政府勢力の台頭と側近の中にいる面従背腹の宮廷内クーデター計画者の台頭でしょう。 まさに、日本の古典「平家物語」の一節を思い出します。

・・・ 祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろび ・・・


 今だ、チャンスだウクライナ!
 穀物輸出は難しい状況だが、もうそこまで夜明けはきているぞ!
 頑張れ!ウクライナ

(了)

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2023/07/20

プーチン大統領を悩ませる命令に従わないロシア軍の将軍たち

プーチン大統領を悩ませると命令に従わないロシア軍の将軍たち
 今、前線に立つロシア軍の第一線指揮官の将軍たちが、続々とプーチン大統領や国防省・軍指導部の無理筋の命令や方針に異を唱え、正面切って議論をし、その結果解任されるという状況が起きています。ロシアの軍事ブロガー達は斬られた第一線指揮官たちに同情し代弁するブログで論戦を張り、国防省や軍指導部が為すべきことは第一線指揮官の解任・更迭ではなく、第一線部隊の戦闘を支えるための砲兵支援、情報支援、後方補給支援の充実であるべきであって、このままでは前線の第一線部隊は満足に戦えず、降伏する部隊が出てくるぞ!と舌鋒厳しく訴えています。ロシアでは、「特別軍事作戦(ウクライナ侵攻のロシア国内での正式作戦名)」に関する批判は国内法で厳しく処罰されるため、マスメディアはジャーナリズム機能を果たせず、政府の公式発表内容しか報道できません。その代役を演じているのが、こうした軍事ブロガーであり、マスメディアが報道できない戦況や戦果、激戦などについての情報発信媒体となっており、ロシア国民は軍事ブロガーの論戦を固唾を呑んで情報収集している状況です。(ただし、発信内容は所詮は個人のブログですので、戦況や部隊配置の詳細など、まことしやかに記述してあっても真偽のほどは疑問符がつかざるを得ません。)その軍事ブロガーたちがこぞって、第一線部隊指揮官たちが国防省や軍指導部に対して言うべきことを意見具申した揚げ句に解任・更迭される話を「報道」するので、ロシアの一般国民がロシア軍内でそういう問題が起きているということを知り、問題意識を持ち始めています。プーチン大統領や国防省・軍指導部(特に、ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長兼総司令官)もこれを憂慮し、益々第一線部隊に「黙って命令・指示に従え」と命じる状況になっています。
(参照: 2023年7月16日付ISW記事「Russian Offensive Campaign Assessment, July 16,2023」、18日付同記事、同年同月17日付Newsweek記事「Putin Making MilitaryChanges As Troops Disobey Orders」、同月12日付BBC記事「Ukraine war: Russian general fired after criticizing army generals」、ほか)

前線のロシアの将軍たちが上層部に異を唱える理由
 これまで黙って戦ってきた第一線指揮官たちが異を唱え始めた原因は、プーチン大統領が迅速かつ明確な戦果を求めて指揮系統を無視した第一線部隊に対する直接の命令・指示をたびたび出すこと、軍指導部がウクライナの攻勢に対する防御戦闘の方針で「人海戦術でとにかく止めろ」と精神論的な要求をし死傷者が絶えないこと、その反面、その強靭な防御戦闘のバックアップとなる武器・弾薬の補給や砲兵火力の支援が欠如していること、防御戦闘を側面から支える必要な情報支援が欠如していること、などなどです。

MajGen popov
更迭されたポポフ少将(2023年7月12日付BBC記事「Ukraine war:Russian general fired after criticising army generals」より)

 そんな更迭された将軍の典型例は、ロシア陸軍第58軍司令官のポポフ少将です。ポポフ少将の部隊は、ウクライナ軍の主攻撃方向=ロシア軍のザポリージャ地区の正面を担当し、欧米から主力戦車を含む最新の装甲打撃力でぶちかまして来るウクライナ軍の猛攻撃を一身に受け止めて一歩も退かない強靭な防御戦闘を続けています。ロシア軍指導部の戦闘指導の方針として、「人海戦術でとにかくウクライナ軍を止めろ!」という精神論的なコンセプトに基づき、ロシア陸軍の中でも最精鋭部隊である親衛空挺師団(DVD)をも消耗品的に運用して死体の山を築く形となっているので、ポポフ少将は、これを上級部隊に抗議し、更にウクライナ軍の優勢な砲兵火力で前線の隊員が死傷が増えているので、ウクライナ軍の砲兵の射撃陣地に対しすぐに撃ち返す「対砲兵戦」をするロシア軍の砲兵支援が欠如しているので、その必要性を軍指導部に直訴し、かつ後方補給が滞っているので後方補給ラインを太く維持してくれ、という極めて真っ当な意見具申をしました。意見具申を受けた上級司令部や軍指導部は軍のトップである参謀総長兼総司令官のゲラシモフ大将にご注進的に報告。ゲラシモフ総司令官は激怒し、軍指導部に楯突く奴は許さん、と解任したわけです。解任され、憤懣やるかたないポポフ少将は自分の考えを淡々と語る映像を残しています。これをどういう系統で入手したか不明ですが、ロシア国会議員が自らの政治的野心でこれをSNS上に公表し、炎上しました。これを知って、同じ思いを持つ前線の第一線指揮官たち、更にはその指揮下で戦う一般将兵たち、更には一般のロシア国民もみな同情的に受け止めており、部隊は動揺し、国民は国防省・軍指導部に対して不信感が渦巻く状態です。

 ちなみに、同様な立場の第一線指揮官たちを列挙すると、第101親衛空挺師団長セリバーストフ少将、第7親衛空挺師団長コルネフ少将、同師団の勇猛で知られる部隊長テプリンスキー准将、第90戦車師団長イヴァトゥリン少将、等がいます。それぞれ、上級部隊に対する意見具申が反抗・不服従ととられ、解任処分となっています。特に、軍指導部とかなりの激論をし、自分の考えをSNSで発信したと思しきテプリンスキー准将は「逮捕される」との情報があり、これに対し、部隊も黙っておらず、テプリンスキー准将に指揮されていた第7親衛空挺師団に至っては、テプリンスキー准将が逮捕された場合は、現在展開している占領地のへルソン州から撤退するぞ、と警告しているほどです。

どこにでも起きうる話しながら、ロシア軍の指揮の動揺・混乱はかなりひどい状況
 上記の第一線指揮官たちの不満は、元自衛隊幹部として実に身につまされる内容です。ロシアのみならず、にほんでも十分にあり得る話です。それにしても、今回のロシアの話はひどい。プーチンが指揮命令系統を無視して思いつきで指示を出し、それが上級部隊を介さずに無責任な命令・指示が発信元が「プーチン大統領」として前線に届く……。さぞや第一線部隊指揮官たちは忸怩たる思いでその命令・指示の紙を握りつぶしたことでしょう。また、上級司令部からの「人海戦術でとにかく敵を止めろ」という無茶苦茶な精神論的な指示で、どれだけ多くの将兵が無為に死傷していくことか。「戦え」と命じるのなら、上級司令部の責任として、第一線部隊が思う存分戦えるだけの武器・弾薬等の後方補給、砲兵支援、情報支援などのバックアップをしてあげなければなりません。

 こうした問題が起こるのは、そもそもその国家の状態が、もはや第一線部隊に思う存分戦わせてあげられるだけの経済的及び物資的=後方補給的な余裕がない、というところまで来ていることの証左です。日本が武力攻撃事態を迎えたとしたら、間違いなく同じような状況下で同じような話が起きると思います。洋の東西を問わず、どこにでも起きうる話ですが、今回のロシアの話はかなりひどい状況ですね。
 
 つい先日(7月17日月曜)、ロシア本土からクリミア半島への主要幹道であるケルチ大橋が何者かに爆破されました。これにより、ロシア本土からロシアの南部戦線への後方補給線は一段と厳しい状況になりました。まさにポポフ少将が懸念していた南部戦線の第一線部隊の後方補給の状況が悪化するでしょう。上記のような指揮の動揺・混乱、将兵の士気の低下に加えて、今回のケルチ大橋の損傷による後方補給ラインが益々か細くなる状況は、今後のウクライナの攻勢の戦況に大きく影響がありそうです。

 ロシア軍の内情はかなり動揺・混乱し士気が落ちている。
 将兵たちに同情はするが、今起きているウクライナ侵攻は別問題
 今がチャンスだ、ウクライナ!
 動揺・混乱しているロシア軍を突破せよ!
 勝利の日は近い!

(了)

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2023/07/17

プーチンの誤算・迷走: ワグネル部隊はロシア軍への帰属拒否により解体へ、内輪からの失脚画策の可能性も

putin and prigozhin 2
プーチン大統領は7月13日木曜に(ワグネル部隊は)「ロシア国内法上存在しない」と発言 (Russian President Vladimir Putin, left, is pictured in Moscow on July 13, 2023, while Wagner Group leader Yevgeny Prigozhin, right, is shown in Vladivostok, Russia, on September 2, 2016. Putin said on Thursday that the Wagner Group "does not exist" legally.) (2023年7月13日付Newsweek記事「Putin Says Wagner Group 'Does Not Exist,' Rejected Offer to Keep Fighting」より)


解体に向かうワグネル部隊
 ロシアのワグネル部隊が、どうやら解体に向かっている模様です。
 ワグネル部隊の一部はベラルーシにてベラルーシ軍の教育訓練にあたっている模様ですが、既に5月下旬にバハムートを撤退して以来、ワグネル部隊は対ウクライナ戦における組織的な戦闘をしていません。反乱収束後、保有していた戦車・火砲・等の戦闘装備品はロシア軍に返納させた模様です。

 つい先日のロシアのペスコフ報道官の記者会見での発言で、プーチン大統領が反乱収束のわずか5日後の6月29日にプーチン大統領がクレムリンにプリゴジンとワグネル部隊の指揮官35名を招いて3時間も懇談し、プリゴージンと指揮官たちは国家と大統領に対する変わらぬ忠誠を誓い、プーチン大統領は彼らの活躍を高く評価して反乱の件の許しを与えロシア軍への雇用オプションを提示した、と述べました。これでプーチン大統領は内外に反乱の収束をPRし、ワグネルという貴重な部隊戦力とアフリカ諸国で暗躍して希少資源を確保する国策企業としての力を引き続きロシア国家の力の源として確保するもの、と見られていました。どうやらそうは動かないようですね。

プーチン自らが明らかにした誤算
 7月13日(木)、プーチン大統領がロシアの政治経済紙コメルサントのインタビューで自ら明らかにしたところによると、前述のクレムリンでのワグネル部隊指揮官たちとの懇談の際、プーチン大統領はワグネル部隊指揮官たちに引き続きロシア軍の一翼として戦うよう提案したがそれは拒否されたこと、また、今後のワグネル部隊の活動については「(民間軍事会社は)そもそもロシアの国内法上は存在しない」との姿勢を示しました。この意味するところは、要するにプーチン大統領はワグネル部隊を引き続きロシアの戦力として使いたいので、反乱の咎を水に流して新たな雇用契約としてオファーしたのですが、ワグネルの指揮官たちはそれに乗ってこなかったということです。そして、そのオファーを受け入れない以上、プーチン大統領としてはワグネルという民間軍事会社=傭兵企業の活動を今後は活動を認めないぞ、と言明して処断しています。その根拠として、ロシア国内法を盾にとっているわけです。

 上記で触れていないプーチンの巧妙な手口について一部説明を補足しますと、実はプーチン大統領はこのワグネル部隊に対するオファーにおいて、ワグネル部隊の指揮を執るものとして内通していた(もしくはプーチンのオファーに乗った)ワグネル幹部で、これまでもワグネル部隊の「事務局長」として事実上のワグネル部隊全体の指揮運用を司っていたアンドレイ・トロシェフ大佐を据え、ロシア軍に再編成や編入されるわけではなく、「これまでと同様に彼の指揮下でワグネル部隊として戦えるぞ」と最大限の譲歩をしています。これはワグネル部隊の指揮官たちにとっても魅力的なオファーだったはずです。プーチン大統領の発言によれば、このオファーに対し多くのワグネル部隊指揮官たちは顔に喜びを讃えて頷いていたそうです。

 しかし、この際、プーチン大統領は本質的なポイントを全く言及しておらず、そこがネックでこの話は破談になったのです。その本質的なポイントとは、プリゴージンの存在を全く言及していないことです。すなわち、プリゴージンを蚊帳の外に置きました。民間軍事会社ワグネルのオーナーであるプリゴージンと、純然たる戦闘部隊としてのワグネル部隊を切り離し、その部隊指揮官たちに新たな雇用契約をロシア政府と結び、実際的にはロシア軍の一翼を担う部隊として引き続き対ウクライナ戦争での活躍を期待したわけです。換言すれば、プリゴージンからワグネル部隊を取り上げてプリゴージンの軍事的発言権を無効にして飼い殺しにし、ワグネル部隊に対してはワグネル部隊のこれまで同様の編成は残すものの、実質的にはロシア軍に接収する形ですね。

 これに対して一歩も退かず、「ちょっと待った」をかけたのが当のプリゴージンでした。プーチン大統領は、あたかもワグネル部隊指揮官たちの自由意志を促すようにオファーをしていましたが、プリゴージンは自分が蚊帳の外に置かれていることを本能的に察知し、ワグネル部隊のオーナーとして厳然たるマネージメント力を行使して、この懇談の場で民間軍事会社ワグネルとしてオファーを拒否しました。ちなみに、プリゴージンは寝返ったワグネル部隊事務局長トロシェフ大佐をクレムリンでの大統領との懇談の翌日6月30日に解雇にした、とのこと。

 これにより、プーチン大統領の目論見は破綻しました。まだまだ十分な戦力を有し、今後ともロシア軍の一翼として期待の高かったワグネル部隊は、もはやプーチン大統領の傘下に入って対ウクライナ戦を戦うことはなくなりました。ロシアにとっては非常に痛い戦力の喪失です。加えて、プーチン大統領は一民間企業としてこれまで国家機関としてはできない汚い裏仕事を担わせていた民間軍事会社ワグネルを失ったわけです。

 (参照: 2023年7月14日付The Guardian記事「Putin says he tried but failed to oust Prigozhin after Wagner mutiny」、同年同月13日付BBC記事「Wagner head Prigozhin rejected offer to join Russia's army – Putin」、同日付Newsweek記事「Putin Says Wagner Group 'Does Not Exist,' Rejected Offer to Keep Fighting」、ほか)

国策企業として荒稼ぎした民間軍事会社ワグネルは飼い主の手を嚙んだ
 ワグネル社は、プーチン大統領との親密さをバックアップにした企業家プリゴージンの民間軍事会社です。これまで民間軍事会でありながら、半ばロシア国家機関のようなステイタスを有して中東やアフリカ諸国で荒稼ぎをし、その一方でロシアを潤わせてきました。特に、その傭兵としての能力をいかんなく発揮してシリアやアフリカ諸国の腐敗した政権を用心棒的に守り、その国軍を軍事顧問的に教育訓練し、必要とあらば軍隊として反政府勢力を殲滅してきました。その見返りとして、ワグネル社は希少鉱物資源の採掘利権で荒稼ぎしロシア経済の一翼を担い、実質的にはロシアの国益を担う国策企業だったわけです。プリゴージンはそうした汚い裏仕事をワグネル社が担うことでプーチン大統領の信を得て、ロシア社会での地位や発言権を得てきたわけです。

 今回の反乱は、プーチンの虎の威を借りて力を得てきたプリゴージンが、その飼い主の手を噛んだ形の文字通りの「反乱」でした。元々、プリゴージンはロシア国防省やロシア軍指導部のウクライナ戦争の戦争指導・作戦運用にしばしば批判し、時にショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長兼総司令官を個人名を挙げて攻撃していました。国防省としては、勝手な行動をするワグネル部隊をロシア軍の完全な指揮統制下に置きたいため、ワグネル以外にも存在する軍閥的な武装勢力を全てロシア軍に登録させる策をとりました。プリゴージンの乱は、これに断固反対して決起したものです。恐らく、プーチンは、自分の下で国防省やプリゴージンのワグネル部隊がもめていることを認知しつつも、基本的にはクレムリンの方針としては国防省の施策を正論として認めていたので、今回の反乱のような事態になるとは思っていなかったのでしょう。しかし、プリゴージンは反乱を画策し、国家的な騒擾状態になりました。プリゴージン率いるワグネル部隊はモスクワへの前進を開始し、ロシア国軍対ワグネル部隊の内戦寸前まで行ってしまったわけです。この辺もプーチン大統領の誤算でしたね。プーチン大統領の選択肢としては対決姿勢を取らざるを得なかったのでしょう。実際、一時的に内戦になったとしても、ワグネル部隊ごときを捻りつぶすことは軍事的に何の問題もなくできたでしょう。しかし、その内戦を通じて失うものは相当大きかったでしょう。何より、たとえ短期間であれ内戦となった場合、ロシア国民のプーチン大統領やロシア政府に対する不信感や国家の騒擾状態を招いた責任に対する反感は相当なものになったでしょう。プーチン大統領はそれが分かっていながら、自ら反乱を収めることができませんでした。結果的に、ベラルーシのルカシェンコ大統領に仲裁に入ってもらう形で相互の譲歩が見られ、内戦は避けられました。そして、反乱が収まった後のアフターケアが今の状況です。前述の通り、ここでまたプーチン大統領は大誤算を犯したわけです。荒稼ぎしてくれた国策企業ワグネル社も、対ウクライナ戦争で激戦を戦ってきた精強部隊ワグネル部隊も、今失おうとしています。

誤算を取り戻そうとするプーチン大統領
 今回のコメルサント紙のインタビューで語った内容は、7月10日のペスコフ報道官の発表のプーチン大統領自身のコメントによる補足説明に当たります。これは間違いなく、内外に対するダメージコントロールです。プーチン大統領としては、どっちみち逐次に明らかになる事実関係について、ロシア国民をはじめ内外に、その背景や理由を説明する必要があって、同じ言い訳をするなら、ロシア政府やプ-チン大統領自身の公式見解を「事実」として、努めて我田引水的に世の人々の認識を書き換える必要があるわけです。反乱収束時には、プリゴージンはベラルーシに追放、ワグネル部隊はロシア軍に編入かベラルーシに行くか選択、と裁定されていたはずが、プリゴージンは罰せられることもなくロシア国内で比較的自由に行動しており、一部はベラルーシに行ったようだがワグネル部隊主力の去就は全く不明なまま。この背景と理由を逐次明らかにしたわけです。ここで、今回のコメルサントのインタビューにおいてプーチン大統領が話している内容は、反乱はロシア政府と国民の大同団結により反乱部隊を屈服せしめた勝利であること、とは言え「特別軍事作戦」において獅子奮迅の活躍をした愛国者集団ワグネル部隊に対してプーチン大統領としては最大限の譲歩をし、ワグネル部隊に非常に協調的なオファーをしワグネル部隊指揮官たちもやぶさかではなかったにもかかわらず、プリゴージンの判断で破談になったのだということ。加えて、民間軍事会社ワグネルという組織はロシア国内法上認められないので、今後の活動は認められないぞ、とワグネル解体の方向性も明確にしました。要するに、プーチン大統領は、大統領として寛容に誠実に今回の問題に向き合い、寛容にも彼らを許すとともに提案までしたのだが、頑ななプリゴージンはこれを拒否したのだ、「誤算」ではなく大統領の示した「寛容」の所産だったのだ、と人々の認識を書き換える情報リリースをしたわけです。

 私見ながら、ロシア国民はじめ内外へのPRはともかくとして、狡猾なプーチン大統領のことですから、前述の誤算による失ったものはその損失を最小限にミニマイズしつつ、むしろ結果オーライな方向に我田引水することでしょう。すなわち、ワグネル部隊のロシア軍への吸収合併ができなかった代わりに、ワグネル部隊が持っていた戦車・装甲車・野戦砲・ロケット・ミサイル等々の武器弾薬をワグネル部隊からすべて接収し、ロシア軍の物的戦力に再利用しています(※1)。 また、これは私の勝手な推察ですが、アフリカや中東で暗躍しロシア国益を支えるワグネル社の活動については、これは国益が絡んでいるのでその活動を国営化し、今後はロシアの公的機関として丸ごと看板をかけ替えるのではないか、と思います。問題児プリゴージンに対しては、表面上は自由の身ですが、現時点で所在不明です。たまにネット上に自分の主張を述べるビデオクリップを乗せたりしますが、ここ最近音なしの構えです。要するに、身を隠しているのです。何から?プーチンの刺客から、でしょうね。プーチン大統領は自分の手を噛んだプリゴージンを、ほとぼりが冷めたら必ずむごたらしく殺すでしょう。かくて、「誤算」を清算していくものと推察します。
 (※1: 2023年7月12日付Newsweek記事「Putin's military just got a huge increase in weapons」)

「誤算」じゃ済まない国家の損失: プーチンの内輪の側近による宮廷内クーデターもあり得る
 「誤算」と言えば、そもそもロシアのウクライナ侵攻の開始自体が最大の誤算です。そして、ロシア国民、なかんづくロシア高官、更に言えばプーチンの内輪の側近たちでさえ、プーチンの誤算に気が付いているし、もはやこの誤算は単なる「誤算」なんて話では収まらないロシア国家としての取り返しのつかない国益の大損失となっていることを認識し始めています。実際、反乱の渦中でロシア国民は過去最大級の現金引き出し(6月だけでも5000億ルーブル=55億ドルに上る)をしており、ウクライナ侵攻開始、予備役招集等の大きな結節ごとにルーブルは外貨に対する下落を加速してします(※2)。国民の現金引き出しは政情不安のバロメーターと言えましょう。
 軍事ブロガーとして非常に有名で、かつ2014年クリミア侵攻と同時並行して東部2州の親ロシア軍事蜂起の際に進駐ロシア軍の司令官として活躍したイゴール・ガーキンがロシアのSNS「テレグラム」に投稿したブログで、プーチン大統領の内輪の側近たちが宮廷クーデターを起こし、プリゴージンや第1副参謀長キリエンコなどを首班として立ててプーチンを失脚させる可能性がある、との指摘をしています(※3)。ガーキンは、プリゴージンに対してはその政治的野心やウクライナ戦争の現接触線での停戦を望んでいることに対して非常に批判的で政府は厳しく処罰すべきとの考えを持っていますが、反乱についてはショイグ国防相やモスクワ地方知事ボロビョフ、モスクワ市長ソビアニンらの発言力を低下させ、権力の再配分の成果を得た、と評価しています。なお、ガーキン自身はプーチン大統領に対して舌鋒厳しく批判的、ウクライナ戦争に対しては現接触線での停戦に反対で、徹底抗戦・勝利追求の提唱者です。要するに、右翼タカ派の眉唾発言の感が否めませんが、右翼タカ派の中ではロシア軍内に広い人脈を有し冷静的確な分析する男なので、宮廷内クーデターの可能性については「火のないところに煙は立たない」話として、一定の信ぴょう性があるものと思われます。すなわち、側近すら、そろそろプーチン大統領には疑問を感じ、機を見て「寝首を掻く」相談が始まっているのかも知れません。
 
(※2: 2023年7月12日付Newsweek記事「Russians Scrambled for Cash Amid Fears of Putin's Ousting」、
 ※3: 2023年7月13付Newsweek記事「Putin May Be Facing Plot From Inner Circle, Warns Igor Girkin」)


 いよいよプーチンの最強・最大・最恐という神話が崩れ始め、人間プーチンの馬脚を現してきました。
 ロシア国内の動揺が露わになってきました。
 行け行け反転攻勢、ウクライナ!
 厭戦気運がはびこってきたロシア軍を突破せよ!
 勝利の日は着々と近づいてきている!


(了)

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2023/07/12

プーチンがプリゴージンと会っていた:反乱収束,No SideをPRしたいプーチン=矛盾が示すプーチンの末期症状

putin and prigozhin
プーチンとプリゴージンのホームタウンであるサンクトペテロブルクの市場でお土産として売られている二人のお面 【筆者の独り言ですが、お面にされるという国民感情は人気なのでしょうか?半分こき下ろしているのでしょうか?】)(Face masks depicting Wagner chief Yevgeny Prigozhin and Russian President Vladimir Putin on sale at a souvenir market in St Petersburg last month)(2023年7月11日付BBC記事「Putin meets Prigozhin: Getting to grips with latest twist in Wagner saga」より)

プーチンがプリゴージンと会っていた:反乱収束,No SideをPRしたいプーチン
 7月10日(月)にロシアのペスコフ報道官が、プーチン大統領がプリゴージンをクレムリンに招いて会合を持っていたことを発表しました。まさに驚愕のニュース。しかも、その会合は反乱収束のわずか5日後の6月29日、しかもワグネル部隊指揮官35名も招待され、3時間もかけ、プーチン大統領はワグネル部隊のこれまでの活躍を高く評価し、指揮官たちの話にも耳を傾け、今後のロシア軍としての雇用オプションを提供した、というから2度ビックリ。更に、プリゴージンはプーチン大統領にワグネル部隊の国家や大統領に対する忠誠を誓った、というから3度目は呆れました。(※1)

 確かに、この発表の前の数日で、「あれ?」と思う、変化の兆しが出ていたのかも知れません。7月6日のベラルーシのルカシェンコ大統領の「プリゴージンはベラルーシにはおらず実はロシアに所在している」発言や、その後プリゴージンがロシア国内で比較的自由に行動している情報などが出始めていました。よって、ロシアにしてみれば、「匂わせ」的な情報を小出しに出して、今回の情報を出す兆候はちゃんと事前に示し、予告していたのかもしれません。

 それにしても、矛盾だらけ。西側メディアの勝手な憶測報道はともかくとして、反乱当時から反乱収束後も含めて、これまでのロシアの政府や大統領の公式な発表や施策とはあまりに矛盾の多い発表ですよね。しかも、この話をペスコフ報道官が発表しているので、「ロシア当局筋の情報」などという不確かな情報源ではなく、ロシア国家としての公式な見解として世に示したわけですから。

 私見ながら、逆説的に、これまでの公式情報とは矛盾するがゆえに、プーチン大統領はこの辺でこの情報を出すことで、内外に認識の修正をしようということなのでしょうね。特に、ロシア国内の一般国民や最前線で戦うロシア軍部隊の将兵に対し、「反乱は名実ともに収束しました、敵も味方もなくノーサイドになりました。今後の禍根は残らず。よかった、よかった」、「偉大なるプーチン大統領は改めて忠誠を誓ったプリゴージンやワグネル部隊を寛大にお許しあそばされました。」と広報することで、一般国民やロシア軍将兵の動揺の沈静化を図るべくPRした、ということでしょう。プーチン大統領にとってみれば、これをもって貸しを作ってしまったはずのベラルーシのルカシェンコ大統領に、もはやその貸しは無効になったぞ、とPRしたいのだと推察します。

矛盾が示すプーチンの末期症状
 しかし、….これまでのプーチン大統領やロシア当局の発表や施策とはどうにも整合しません。やはり、この矛盾を違和感に感じているのは、ひねくれた私だけではなく、西側の方々は勿論、多くのロシア国民も違和感は否めないのではないでしょうか。
なぜならプーチン大統領は反乱当時、プリゴージンやワグネル部隊を「国家に対する反逆」として断固「許さない。潰す。」と発言していましたし、反乱収束後もプリゴージンに対しては「反逆者」との表現を、少なくとも10日のペスコフ報道官の発表以前は、一貫して変えませんでした。(ワグネル部隊に対しては、愛国者であり勇敢に戦ったと寛容を示していましたが)  また、ロシア当局としても一貫してプリゴージンに対しては厳しく処断する姿勢を見せ、プリゴージン邸に対する家宅捜索も公表し、隠し財産の金の延棒や各種贅沢品も公表して、間違いなく明確にプリゴージンの社会的地位や名誉を貶めていました。

 明らかに、当初は「処断」を腹に決めていたはずです。ベラルーシに国外追放しつつ、国内的には社会的地位を貶め、未だ根強い支持を得るプリゴージンへの名誉と信頼を失墜させようとしてきたはずです。それが、それを片や政府の施策として実行させつつ、もう片方の手で、秘密裏にクレムリンにプリゴージンとワグネル部隊指揮官を招き、膝まづかせて忠誠を誓わせた代わりに許しを与え、3時間もかけて懇談した、しかも更に数日後に結局それを公表した?….
これが一貫した方針の下で決められたわけはありません。要するに、プーチンはプリゴージンの処断に揺れ動き、右に触れ左に触れたあげく、「お互いの誤解は晴れた。彼らは皆真の愛国者であり、引き続き国家や(プーチン)政府に対して忠誠を誓っているので、政府としても彼らを許すことにした。これで、ノーサイド。今後一切の遺恨も禍根もない。」という形での大団円を幕引き演出する形に、後付けで修正演出したわけです。プーチンは悩んだあげく、こういうことだったんだよ、と歴史を塗り替えようとしているのです。

 間違いなく、これは現在のプーチンの揺れ惑う判断や精神状態の表れでしょうね。もはや末期症状です。何とか、自分の治世を続けたいがための、延命策に外なりません。まさにこれこそが現在のプーチンの弱さを露呈していると言えましょう。一昔前のプーチンであったなら、プリゴージン率いるワグネル部隊は殲滅されていたでしょう。それが、今のプーチンにはできないのです。なぜなら、前回のブログでも言及したように、反乱の渦中でロシア内務省が実施した世論調査結果で、反乱首謀者プリゴージンとプーチン大統領の政府の支持は概ね真っ二つに支持が割れていた(※2)、という報告にプーチンは驚愕し、反乱者に対して強硬な策で潰そうとすると、国民の信を得られず、プーチンが一番恐れるプーチン自身が失脚することになることに至る可能性をミニマイズしたかったのでしょう。これがプーチンの逃れられない恐怖心として頭から離れず、今回のようなノーサイドに、方向修正したのであろう、と推察します。

(参照: ※1 2023年7月10日付ISW記事「RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, JULY 10, 2023」、同年7月11日付BBC記事「Putin meets Prigozhin: Getting to grips with latest twist in Wagner saga」、ほか内外各紙、
     ※2 2023年7月6日付Newsweek記事「Russia 'On the Edge of Civil War'—Ukraine Spymaster」 )

頑張れ!ウクライナ、
いよいよプーチンの馬脚が露わになってきたぞ、
奴も弱っている、ロシア国民もロシア軍将兵ももう疲れている、
勝利の日は近い!

(了)

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2023/07/08

プーチン基盤が揺れるロシア:実は反乱支持と大統領支持はほぼ同等、エリート達も認識に変化

Prigojin.jpg
泳がされているプリゴージン氏 (Yevgeny Prigozhin of the Wagner Group addresses Telegram, 2023. Belarusian leader Alexander Lukashenko has said Wagner Group boss Prigozhin was in Russia, not Belarus.)(2023年7月7日付Newsweek記事「Why Prigozhin Is Still a Free Man」より)

プーチン基盤が揺れるロシア:実は反乱支持と大統領支持はほぼ同等、エリート達も認識に変化
 ウクライナ情報局長のブダノフ少将が得たロシア内部の情報によれば、プリゴージンの反乱の最中にロシア内務省が世論調査をしたところ、実はプリゴージン支持とプーチン大統領支持は半々だった模様です(※1)。同少将によれば、ロシア内務省が実施した世論調査の際、46の地域のうち17地域でプリゴージン氏を支持、対して21地域でプーチン大統領を支持。その他の地域でも、男性では両氏への支持は半々に分かれた、とのことです。あの反乱の渦中でのこの世論の結果がプーチン大統領の判断に影響したことは間違いありません。

 また、元ロシアの国連代表部だった外交官ボンダレフ氏によれば、ロシア国家のエリート達は長引く戦争への厭戦により大統領への不信・失望、更にプーチン排除の気運が高まりつつある模様です(※2)。同氏によれば、ロシアの国家エリート達は、ウクライナ侵攻が戦果なく長引くこの状況下、ゆっくりと失望と怒りと苛立ちが高まり、ますます大統領に対する不満を募らせている模様であり、この国家エリートたちのモヤモヤした感情は、最終的には「プーチンをクレムリンから追放せざるを得ない」という国家エリート間のコンセンサスになりつつある、とのこと。特に、今回のプリゴージンの乱が大きな波紋を与えており、エりートたちのみならず一般市民も「これは間違っている」と認識し始めている、と指摘しています。

 更に、プリゴージンがベラルーシではなくロシアにて安全確保されている一方、治安機関がプリゴージン邸を捜索し金の延べ棒や贅沢なコレクションを押収するなどを公開して、プリゴージンへの権威や信頼を失墜させる策を取っており、亡命した元プーチン子飼いのオリガルヒ(新興財閥)であるホドルコフスキー氏は、これらの最近のプリゴージンをめぐる動向を受けて、プーチン大統領が逐次に対応を修正し始めていると指摘しています(※3)。当初は、反乱を収めるために寛大な処置で穏便にことを収拾しておいて、プリゴージンを半ば自由に泳がせておいて治安機関による家宅捜索でその権威を失墜させ、今後処罰するであろう流れになっています。同氏によれば、もはやプーチン大統領はロシア国軍将兵の信も失っており、気が付けば今回の反乱より更に大きな衝突を招く可能性があり、次の反乱が起きたとしても、もはやFSB(ロシア連邦保安庁:ソ連時代のKGB)の職員の30%しか従わないであろう、と警告しています。

(参照: ※1 2023年7月6日付Newsweek記事「Russia 'On the Edge of Civil War'—Ukraine Spymaster」、
     ※2 2023年6月27日付Newsweek記事「Prigozhin's Mutiny Will Lead to Putin's Downfall—Russian Ex-Diplomat」、
     ※3 2023年7月6日付Newsweek記事「Only 30% of FSB Would Back Putin if Another Mutiny Happens—Exiled Oligarch」) 
  

 私見ながら、プリゴージンの乱の余波はかなり大きいですね。あの日、プーチン大統領がベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁に応じて寛大な処置をとって事態を収めたことが、今になって大きな波紋になってプーチン大統領の支持基盤に打撃を与えているようです。確かに、プリゴージンへの処遇は波紋を呼びますよね。当初は、プーチン大統領の予想に反してプリゴージン支持派が世論の中で大きかった状況の中で、事態を穏便に収めるために、仕方なくルカシェンコの条件提示に乗ってプリゴージンの恭順と引き換えに身の安全確保を容認したのでしょう。しかし、憤懣やるかたないプーチンは、1週間後にはプリゴージンの私邸を家宅捜索し、そこから発見された贅沢品をこれ見よがしに公表し、その権威を失墜させようとしています。次の一手は、反乱以外の様々な違法行為に対する摘発での身柄の拘束や裁判などでプリゴージンを幽閉するでしょうね。そして、更なる違法摘発や裁判などで社会的制裁を与えてボコボコにし、最終的にはほとぼりが冷めたころに自殺を装って獄中でむごたらしく殺すでしょうね。スミマセン、少し脱線しました。
 いずれにせよ、こうしたプーチン大統領自身の失政の逐次修正は、前述の元外交官や元オリガルヒが指摘するように、プーチン大統領自身が気が付けば身の回りの自分の味方のはずだった国家のエリート官僚やFSBや国軍将兵たちの心は大統領から離れており、追い出されるのは自分自身、という悲しい末路が待っているかも・・・。
 そんなことさえ、可能性がない話ではなくなって来ています。

 頑張れ!ウクライナ
 勝利の日は確実に近づいてきている!

(了)

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2023/07/04

群衆に囲まれファンサするプーチン?! 反乱のダメージコントロールに躍起のプーチン

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群衆に笑顔で答え握手し写メに応じるプーチン大統領 (2023年7月1日付BBC動画「Watch: Three key moments from Putin's unusual week」より)

群衆に囲まれファンサするプーチン?! 反乱のダメージコントロールに躍起か
 上の画像は、プリゴージンの反乱から3日目の6月28日水曜にダゲスタンの市街にて市民に囲まれ笑顔で握手し写メに応じる非常に珍しいプーチン大統領の姿です。反乱後の先週の1週間、ある時は群衆に気さくな笑顔を見せ、またある時は整列する精鋭部隊の将兵に国家指導者としての強いリーダーシップと将兵の労をねぎらい丁寧に演説する真摯な姿を見せるなど、プーチン大統領の姿として国民や軍人に「こう見せたい」というイメージを恐らく意図的に多く見せていたのが印象的でした。画像にはありませんが、その一方でプリゴージンの暗殺を連邦保安局(FSB)に命じたとの情報も。加えて、そのプリゴージンと近い関係にいた軍高官などに対する粛清も始まっている模様です。
 私見ながら、これらは反乱後のダメージコントロールでしょうね。
 
プリゴージンとワグネル部隊のその後
  報道によれば、プリゴージン氏は無事にベラルーシに出国、当面は表に現れず、音なしの構えの模様でした。7月4日16時の時点で、最新のweb上には6月26日以来初めての3日付SNS動画配信にて活動再開に意欲的な姿が出始めたようです。これが事実であるとすれば、ベラルーシで「健在」ということです。(参照: 2023年7月4日付TBSニュース「プリゴジン氏が新たなメッセージか『次の勝利が前線で見られる』 ショイグ国防相は“反乱”は『影響を与えなかった』と主張」)
 他方、ワグネル部隊の行方ですが、反乱終結時の約束通り、基本的にワグネル部隊の戦車・装甲車、火砲、ヘリなどの主要装備はロシア軍に管理換えへとなった模様です。部隊の将兵については各自の考え、もしくは所属部隊と行動を共にして、①一部は希望によりロシア軍への登録・編入により再編成され、再び戦地へ行く形となり、②更に一部は、希望によりベラルーシへ出国しベラルーシ国内の拠点で再編成されベラルーシ軍の教育訓練(?)に備えている模様です。なお、②はベラルーシのルカシェンコ大統領が望んでいる方向であり、一部報道では既にベラルーシ国内にワグネル部隊の活動拠点となるであろうベースキャンプが衛星画像付きで報じられています。しかし、プーチン大統領はあくまで①を望み、②は望まない方向でもあり、それについてプーチン大統領は何もコメントしていません。これをもって、一部の見方では、ワグネル部隊がベラルーシに活動拠点を展開することで、実はロシア軍と連携してウクライナの首都キーウにほど近いウクライナ北部戦線を形成する可能性を懸念する向きがあります。実際、ウクライナ軍もウクライナの北部戦線の形成の可能性を無視できないのは事実でしょう。まぁ、プーチンならやりかねないですね。ルカシェンコとの密約で、ベラルーシの統制下にワグネル部隊を置き同国内で再編成を許可する代わり、北部戦線の形成を懸念させ、ウクライナ軍の有力な一部をこの正面に牽制抑留することを条件に出したのかも知れませんね。

反乱直後の週からあからさまなPR作戦を展開するプーチン大統領の「いつもと違う週」の動画より(上記の3枚とも 2023年7月1日付BBC動画「Watch: Three key moments from Putin's unusual week」より)
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ダメージコントロールを展開するプーチン
①PR作戦:「群衆や兵士らと共にある気さくなリーダー」への転換
 反乱の直後の週から始まったPR作戦については、多くのメディアが着目しました。まぁ、そのくらいあからさまなプーチン大統領のイメージアップ作戦を展開しています。その一例が上の動画です。
 6月27日火曜には整列した精鋭部隊を前に今回の反乱にも言及して式典の演説(軍事用語的には「訓示」)をしていますが、いつも以上に将兵のウクライナ侵攻における勇戦敢闘を讃えつつ力強い国家指導者としてのリーダーシップを見せ、他方いつもと違って、将兵たちに優しく丁寧に反乱鎮圧の経緯を話し、国家の一致団結を求めました。また、28日水曜にはダゲスタンの市街において、いつもは群衆からは暴漢やテロを警戒して距離をとって警戒厳重にしますが、今回はなんと自ら警戒を解いて笑顔を満面にたたえて群衆に分け入り、歓喜する群衆に囲まれて握手するやら写メに応じるやら、果ては群衆の中の少女をハグして頭にキスしたり、といつもはぜっていに見せない気さくな大統領をPR。更に、29日木曜にはイベントに参加してなぜかホワイトボードに笑顔の落書きをするというお茶目な姿までみせました。BBCはこれをunusual weekと呼びましたが、本当にいつもと違うプーチン大統領でした。
 要するに、PR作戦=いつもの「御簾の向こうの見えない守られた上座に鎮座する皇帝」から「群衆や兵士らと共にある気さくなリーダー」への転換のイメージアップの演出ですよね。こうすることで、「戦争指導がうまくいかず、ついに飼い犬プリゴージンにも手をかまれた落ち目の大統領」などとは言わせぬように、前週末の反乱という国家の一大事を何とかボヤで初期消火した不安や焦りを一切見せない「演出」なわけです。不安や焦りや弱り目に祟り目の姿など、国民には一切見せず、「群衆や兵士らと共にある気さくなリーダー」を演じて見せている、ということですね。

②人知れずプリゴージン一派の一掃
 あくまでウクライナ側の情報ですが、私の予想通りやはりプーチンはほとぼりが冷めたころにプリゴージンを暗殺する模様です。ウクライナの国防情報局長ブダノフ少将によれば、プーチン大統領はロシアの治安機関である連邦保安局(FSB=ソ連時代のKGB)にプリゴージン暗殺の命令を下した模様です。(参照:2023年7月1日付Newsweek記事「Putin Assigned the FSB To Assassinate Prigozhin: Ukrainian Intelligence」) 
 更に、プリゴージンの息のかかった軍高官、政府高官らの粛清も開始された模様です。というのも、反乱直後の週の月曜26日に、プーチン大統領は検事総長、捜査委員会委員長、FSB連邦保安局長官など捜査機関の長を含めた政府内の会合を招集し、政府内部や軍内部でのプリゴージン一派を洗うための指示が出された模様です。既に、元ウクライナ侵攻の全権を握ったこともあるスロビキン副司令官が拘束されたという情報や、空挺師団長テプリンスキー中将が危ないという情報などが出回り、もっと小物の大佐級の拘束もあった模様です。プーチンの粛清は、過去もいろいろあって、地獄の果てまで追いかけてむごたらしく暗殺された者は数知れません。2006年の元KGB・FSBのスパイで英国に亡命したリトビネンコ氏の場合、亡命先の英国にFSBのエージェントが忍び込み、放射性物質を飲まされて暗殺された話はあまりにも有名です。特に、自分を裏切ったものは絶対に許さない男ですから。・・・あな恐ろしや。

③諸刃の剣となる軍事ブロガーとの関係に苦慮
 ダメージコントロールのうち、プーチンがどうやら苦慮している模様なのが軍事ブロガーの扱いのようです。これまで、ロシアの軍事ブロガー達はウクライナ侵攻の始まる前から大活躍をしていました。彼らは、いわゆる報道機関とは違って、公共放送や新聞等のメディアではなく、ネットという新たな情報空間において、ロシアに対する「愛国心」をエネルギーとして、ロシア軍というよりはプーチン大統領の代弁をする形で、軍事情勢や情報をいろいろ発信し、いわゆるジャーナリズムの中立性や真実追求の姿勢とは関係なく、メディア報道とは全く違う情報を発信してきました。プーチン大統領はこの軍事ブロガー達を、自分の代弁者として活用してきました。実際、軍事ブロガーはウクライナ侵攻の大義や開戦当初の戦況、うまくいかなくなってからの戦況など、ロシア国民がメディア報道では聞けない話を詳細に伝えてきました。特に、戦況思わしくない場合、ショイグ国防省の政策や軍首脳部の作戦の失敗、作戦を任された指揮官の無能ぶりや責任転嫁などを、真偽のほどは不明ながら、告発してきました。国民は、報道では聞けない話を軍事ブロガー達のブログで読み、思わず胸のすく軍事ブロガー達の話にヤンヤの喝さいを浴びせてきました。要するに、戦況が思わしくないことへの国民の不満や怒りの矛先は、ショイグ国防相や国防省、軍首脳や戦場指揮官に向けられ、決してプーチン大統領には向かないようにしてくれていたわけです。しかし、ここで今回の反乱で雲行きが怪しくなりました。軍事ブロガー達の相当数はプリゴージンの主張に同調し、軍事ブログでもプリゴージンの代弁をする始末。なので、プチンは軍事ブロガーの扱いに悩むわけです。さて、軍事ブロガー達を検閲し、プリゴージン派を見つけ出して断罪し、一掃すべきなのか?もし、そうした場合、軍事ブロガー達の今後のブログでプーチンの代弁を今までのようにさせられるか?そうはいかないでしょうね。対立構図は「軍事ブロガー」対「国防相、軍首脳」だったものが、「軍事ブロガー」対「プーチン」になりかねません。いや、プーチンは引き続き、これまで同様にプーチンの代弁やプーチン自身を守るために国防相や軍首脳をスケープゴートにする策を続けるかも知れません。だとしたら、プリゴージン派を許すのか?
 侵攻の開始前後にはプーチン大統領の代弁者として、戦果が思わしくない時は国防省・軍の作戦や指揮のまずさを批判させて大統領自身の免責に利用してきた軍事ブロガー達。他方で、プリゴージン支持者も多くプリゴージンの主張を助長した側面もあり、これを断罪すべきか苦慮するプーチン大統領。 国防省を守って軍事ブロガーを検閲するか、軍事ブロガーを守って国防省を引き続きスケープゴートにするか・・・この辺がプーチン大統領の悩ましいところです。
(参照:2023年7月3日付ISW記事「RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, JULY 2, 2023」ほか)


 とは言え、自分のしてきたことのツケを払わねばならなくなった、ということですよね。
 まぁ、当然の報いと言えましょう。
 アホは放っておいて、頑張れウクライナ!
 ロシアがボウっとしている隙に、反転攻勢で攻めまくれ!
 勝利の日は着々と近づいている!

(了)

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