ウクライナ大規模攻勢開始か: ロシアはベラルシ経由でポーランド・リトアニア国境を牽制
ウクライナ、大規模攻勢を開始か
ここ数日のISWの分析によれば、ウクライナ軍は、南部戦線ザポリージャ西部正面を中心に、更に南部戦線ドネツク州ザポリージャ州境界正面、及び東部戦線バハムート正面において、西側供与の戦車・装甲車等の装甲打撃力を発揮した比較的大規模な攻勢を仕掛けている模様です。
(参照: 2023年7月25日~29日付ISW記事「Russian Offensive Campaign Assessment, July 25~29, 2023」、ほか)
ウクライナ軍の主攻撃と思われる南部戦線ザポリージャ西部正面で、オリヒフ南5キロの位置にあるロボタインの東まで前進し、ロボタインの北東森を占領した模様です。これはロシア側の軍事ブロガーの発信でも確認されており、戦車・装甲車からなるウクライナの機械化部隊が正面攻撃で、ロシアの防御陣地を突破し、ロボタイン付近でようやく前進をロシア軍が止めた、と報じています。
また、ウクライナ軍の助攻撃と思われる南部戦線ザポリージャ州・ドネツク州境界正面の戦闘では、リヴノーピリ、スタロマヨルスケ、ウロザインの近くでウクライナの地上攻撃が前進し、ロシア軍がようやく止めた模様です。また、同様にウクライナ軍の助攻撃と思われる東部戦線バハムート正面でも、バハムートの南のクリシチイウカ、クルデュミフカ、アンドリーイウカの近くで攻撃を続けたと、ロシア側の軍事ブロガーが報じています。
また、ウクライナ軍は、上記の大規模攻勢に同時並行して、ロシアの南部戦線の後方の拠点になっているクリミア半島の兵站施設に対してミサイル攻撃を仕掛け、燃料、武器・弾薬等の補給基地を徹底的に叩いています。もってロシア軍の継戦能力をギリギリまで低下させ、更にロシア本土からクリミア半島への橋を介した補給も断つために、クリミア半島に係るケルチ大橋やクリミア半島とロシアが占領するヘルソン州の間のチョンハル鉄道橋もミサイル攻撃で破壊しています。
①

②

③

上図3枚は、上から主攻撃正面の①南部戦線ザポリージャ西部正面、中が助攻撃正面と思われる②南部正面ザポリージャ州ドネツク州境界正面、下が同じく助攻撃正面と思われる③東部戦線バハムート正面の戦況図です。青色が6月以来のウクライナ軍の攻勢による新規の奪取した地域、黄土色が逆にロシアが更に取り返した地域です。しばらく膠着していた戦線は徐々にウクライナ軍の「戦勢」を獲得したことを示しています。(3つの図とも前掲2023年7月29日付ISW記事より)
このままロシア陣地線の突破の戦果を拡張して進軍すればメリトポリを奪取して王手をかけられる
上の図の主攻撃正面の①南部戦線ザポリージャ西部正面の図をご覧ください。図中の黒と緑の円で表示がロボタインです。ロボタインから左下(図の下縁真ん中あたりまで伸びる道路の目指す方向(図の下縁真ん中あたりに赤▲(ロシア軍の防御陣地線)が半円型にある部分、図の下なので見えませんが、この赤▲の防御陣地線が囲って守っているのがトクマク市です。このウクライナの主攻撃は、ロボタインを越えて左下に伸びる道路に沿って20キロ行った先のトクマクが中間目標でしょう。この中間目標が奪取できれば、更に左下(南西)方向に道路が伸び50キロ先に大都市メリトポリがあります。
そんなにうまく行くのかよ、という声が聞こえてきそうですが、確かにこれまでも「反転攻勢開始!」と言っても相当の時間がかかっているように、そうトントン拍子には進みません。やはり、攻撃進展には相当の時間がかかります。しかし、どっちみち時間はかかりますが、ここで戦線に一服の新風を吹き込んでくれる友軍がこの地域にいるのです。実は、このザポリージャ州西部のトクマクやメリトポリの地域には、元々この地の住民でロシアに占領された後もこの地で面従背腹しているウクライナ人市民が「パルチザン」活動をしてくれています。ロシアに占領されている地域の中でも、特にこの地域のパルチザンは屈強で、絶え間ないロシアの摘発をかいくぐり、ロシア軍の行動や防御陣地の状況をウクライナ軍に情報提供したり、ロシア軍やロシア占領当局に対するテロ攻撃を敢行したり、非常に勇敢に戦っています。恐らく、現在の大規模攻勢がトクマクやメリトポリに進軍が至ると、この地域のパルチザンが銃を取って友軍として協力してくれるであろう、と期待されています。(参照: 2023年7月25日付EDM記事「Ukrainian Resistance Adapts to Key Role in Counteroffensive」、ほか)
メリトポリの奪取がこの大規模攻勢の当面の戦略目標で、メリトポリを陥落・奪取すれば、アゾフ海まで攻勢が貫通し、もってロシアのロシア本土から東部2州、ザポリージャ州、へルソン州を経てクリミア半島へ通じる陸の回廊は遮断することができます。名人レベルの将棋でよくあることですが、相手に痛烈な一手をもらってよくよく将棋盤の全体状況を読んでいくと、ここまでやられたら…と次の次の一手を読んで行き詰まり、凡人には「あれ?」と思う状況でも、名人レベルだと先読みして自分が勝てない「詰んだ状態」になることを悟り、「参りました」と投了する場面がありますよね。この攻勢で言えば、もしウクライナがメリトポリまで奪取できたら、純軍事的な読みで言えば、ロシアは「投了」すべき段階です。もはや、陸の回廊を遮断されては、クリミア半島は窒息します。クリミア半島に展開する、ロシア陸海空軍、特に黒海艦隊は、クリミアから撤収するしかない状況に陥ります。普通の神経の国家指導者であれば、メリトポリを取られた時点で、もはやウクライナ侵攻作戦は勝ち目なし、として停戦協議に入るのが定石です。・・・まぁ、純軍事的にはそうでも、プーチン大統領はメンツをかけて他の手を打って来るでしょう。
ヤケクソになっているプーチン大統領の西側への揺さぶり:ポーランド・リトアニア国境への軍事的恫喝
ロシアが始めた軍事侵攻、本来の勝負は当然の如く軍事作戦で勝負をつけるべきですが、当面ロシアとしてウクライナ侵攻作戦そのもので各戦線各正面で打つ手なしです。そこに今回のウクライナの大規模攻勢の再開が来ました。ロシアは、とりあえず、攻勢をかけられた正面で戦うしかないわけですが、打つ手がないロシアとして、ヤケクソ的な反撃を画策している模様です。それがどうやら今行われつつある、ベラルーシの西部国境に当たるポーランド・リトアニア国境への軍事的恫喝を与える作戦の模様です。

青丸の部分がポーランド・リトアニア国境のスヴァキア・ギャップ、ベラルーシ西部のワグネルの宿営地から不穏な動きがあり、ポーランドが神経をとがらせています。(グーグルマップを筆者が加工)
7月29日に、ポーランドのモラヴィエツキ首相は、ベラルーシに再集結しつつあるワグネル部隊やベラルーシの特殊部隊がこの地域で不穏な動きをとっており、ロシアの同盟国ベラルーシから不法移民を装ってポーランド側に浸透するなどで、ポーランド・リトアニア国境(スヴァウキ・ギャップ)に対する「ハイブリッド攻撃」を計画している可能性がある、と警告を発しています。(参照: 2,023年7月29日付 Newsweek記事「Poland Sounds Alarm as Putin Allies Suggest Wagner Will Invade NATO Country」)
この「スヴァウキ・ギャップ」というのは、このすぐ西にロシアの飛び地カリーニングラードがあり、ここをベラルシ・ロシアに占拠されると、エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト3国は西側から孤立してしまいます。西側諸国にとって「NATOのアキレス腱」と言われるほどセンシティブな戦略的な弱点で、これまでもNATO軍演習やこれに対抗するロシア・ベラルーシの同盟軍の演習が何度も行われた地域です。
もし、ロシア・ベラルーシ連合軍がポーランド・リトアニア国境のスヴァウキ・ギャップに浸透してこの地を占領し回廊を形成するなどの行動を取れば、これはもうNATO同盟国に対する攻撃とみなして、NATO軍による軍事的な対抗措置を取ることにならざるを得ず、これはイコールNATO対ロシア連合軍の紛争を意味し、第3次世界大戦になってしまいます。
もちろん、ロシアがそれを画策しているということではなく、あくまで「しちゃうぞ!できちゃうぞ!」という軍事的恫喝で「揺さぶり」をかけているというのが正しい認識だと思います。ポーランドなんかは自分の国の庭先ですから気が気じゃありませんよね。西側諸国に対する揺さぶりで、ウクライナに対する西側支援に足する結束を瓦解させようという姑息な手段です。
これらに動揺することなく、ウクライナの攻勢に関しては、ロシアがいろいろと国内でもめている間に、ガンガン攻めるべきです。ロシアに対応の暇を与えず、ロシアの鼻面を引き回すべきです。具体的には、まず、トクマクを奪取!次いでメリトポリを奪取!これで王手をかけましょう。
頑張れウクライナ!
まずはトクマクだ!
勝利の日は近い!
(了)


にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
ここ数日のISWの分析によれば、ウクライナ軍は、南部戦線ザポリージャ西部正面を中心に、更に南部戦線ドネツク州ザポリージャ州境界正面、及び東部戦線バハムート正面において、西側供与の戦車・装甲車等の装甲打撃力を発揮した比較的大規模な攻勢を仕掛けている模様です。
(参照: 2023年7月25日~29日付ISW記事「Russian Offensive Campaign Assessment, July 25~29, 2023」、ほか)
ウクライナ軍の主攻撃と思われる南部戦線ザポリージャ西部正面で、オリヒフ南5キロの位置にあるロボタインの東まで前進し、ロボタインの北東森を占領した模様です。これはロシア側の軍事ブロガーの発信でも確認されており、戦車・装甲車からなるウクライナの機械化部隊が正面攻撃で、ロシアの防御陣地を突破し、ロボタイン付近でようやく前進をロシア軍が止めた、と報じています。
また、ウクライナ軍の助攻撃と思われる南部戦線ザポリージャ州・ドネツク州境界正面の戦闘では、リヴノーピリ、スタロマヨルスケ、ウロザインの近くでウクライナの地上攻撃が前進し、ロシア軍がようやく止めた模様です。また、同様にウクライナ軍の助攻撃と思われる東部戦線バハムート正面でも、バハムートの南のクリシチイウカ、クルデュミフカ、アンドリーイウカの近くで攻撃を続けたと、ロシア側の軍事ブロガーが報じています。
また、ウクライナ軍は、上記の大規模攻勢に同時並行して、ロシアの南部戦線の後方の拠点になっているクリミア半島の兵站施設に対してミサイル攻撃を仕掛け、燃料、武器・弾薬等の補給基地を徹底的に叩いています。もってロシア軍の継戦能力をギリギリまで低下させ、更にロシア本土からクリミア半島への橋を介した補給も断つために、クリミア半島に係るケルチ大橋やクリミア半島とロシアが占領するヘルソン州の間のチョンハル鉄道橋もミサイル攻撃で破壊しています。
①

②

③

上図3枚は、上から主攻撃正面の①南部戦線ザポリージャ西部正面、中が助攻撃正面と思われる②南部正面ザポリージャ州ドネツク州境界正面、下が同じく助攻撃正面と思われる③東部戦線バハムート正面の戦況図です。青色が6月以来のウクライナ軍の攻勢による新規の奪取した地域、黄土色が逆にロシアが更に取り返した地域です。しばらく膠着していた戦線は徐々にウクライナ軍の「戦勢」を獲得したことを示しています。(3つの図とも前掲2023年7月29日付ISW記事より)
このままロシア陣地線の突破の戦果を拡張して進軍すればメリトポリを奪取して王手をかけられる
上の図の主攻撃正面の①南部戦線ザポリージャ西部正面の図をご覧ください。図中の黒と緑の円で表示がロボタインです。ロボタインから左下(図の下縁真ん中あたりまで伸びる道路の目指す方向(図の下縁真ん中あたりに赤▲(ロシア軍の防御陣地線)が半円型にある部分、図の下なので見えませんが、この赤▲の防御陣地線が囲って守っているのがトクマク市です。このウクライナの主攻撃は、ロボタインを越えて左下に伸びる道路に沿って20キロ行った先のトクマクが中間目標でしょう。この中間目標が奪取できれば、更に左下(南西)方向に道路が伸び50キロ先に大都市メリトポリがあります。
そんなにうまく行くのかよ、という声が聞こえてきそうですが、確かにこれまでも「反転攻勢開始!」と言っても相当の時間がかかっているように、そうトントン拍子には進みません。やはり、攻撃進展には相当の時間がかかります。しかし、どっちみち時間はかかりますが、ここで戦線に一服の新風を吹き込んでくれる友軍がこの地域にいるのです。実は、このザポリージャ州西部のトクマクやメリトポリの地域には、元々この地の住民でロシアに占領された後もこの地で面従背腹しているウクライナ人市民が「パルチザン」活動をしてくれています。ロシアに占領されている地域の中でも、特にこの地域のパルチザンは屈強で、絶え間ないロシアの摘発をかいくぐり、ロシア軍の行動や防御陣地の状況をウクライナ軍に情報提供したり、ロシア軍やロシア占領当局に対するテロ攻撃を敢行したり、非常に勇敢に戦っています。恐らく、現在の大規模攻勢がトクマクやメリトポリに進軍が至ると、この地域のパルチザンが銃を取って友軍として協力してくれるであろう、と期待されています。(参照: 2023年7月25日付EDM記事「Ukrainian Resistance Adapts to Key Role in Counteroffensive」、ほか)
メリトポリの奪取がこの大規模攻勢の当面の戦略目標で、メリトポリを陥落・奪取すれば、アゾフ海まで攻勢が貫通し、もってロシアのロシア本土から東部2州、ザポリージャ州、へルソン州を経てクリミア半島へ通じる陸の回廊は遮断することができます。名人レベルの将棋でよくあることですが、相手に痛烈な一手をもらってよくよく将棋盤の全体状況を読んでいくと、ここまでやられたら…と次の次の一手を読んで行き詰まり、凡人には「あれ?」と思う状況でも、名人レベルだと先読みして自分が勝てない「詰んだ状態」になることを悟り、「参りました」と投了する場面がありますよね。この攻勢で言えば、もしウクライナがメリトポリまで奪取できたら、純軍事的な読みで言えば、ロシアは「投了」すべき段階です。もはや、陸の回廊を遮断されては、クリミア半島は窒息します。クリミア半島に展開する、ロシア陸海空軍、特に黒海艦隊は、クリミアから撤収するしかない状況に陥ります。普通の神経の国家指導者であれば、メリトポリを取られた時点で、もはやウクライナ侵攻作戦は勝ち目なし、として停戦協議に入るのが定石です。・・・まぁ、純軍事的にはそうでも、プーチン大統領はメンツをかけて他の手を打って来るでしょう。
ヤケクソになっているプーチン大統領の西側への揺さぶり:ポーランド・リトアニア国境への軍事的恫喝
ロシアが始めた軍事侵攻、本来の勝負は当然の如く軍事作戦で勝負をつけるべきですが、当面ロシアとしてウクライナ侵攻作戦そのもので各戦線各正面で打つ手なしです。そこに今回のウクライナの大規模攻勢の再開が来ました。ロシアは、とりあえず、攻勢をかけられた正面で戦うしかないわけですが、打つ手がないロシアとして、ヤケクソ的な反撃を画策している模様です。それがどうやら今行われつつある、ベラルーシの西部国境に当たるポーランド・リトアニア国境への軍事的恫喝を与える作戦の模様です。

青丸の部分がポーランド・リトアニア国境のスヴァキア・ギャップ、ベラルーシ西部のワグネルの宿営地から不穏な動きがあり、ポーランドが神経をとがらせています。(グーグルマップを筆者が加工)
7月29日に、ポーランドのモラヴィエツキ首相は、ベラルーシに再集結しつつあるワグネル部隊やベラルーシの特殊部隊がこの地域で不穏な動きをとっており、ロシアの同盟国ベラルーシから不法移民を装ってポーランド側に浸透するなどで、ポーランド・リトアニア国境(スヴァウキ・ギャップ)に対する「ハイブリッド攻撃」を計画している可能性がある、と警告を発しています。(参照: 2,023年7月29日付 Newsweek記事「Poland Sounds Alarm as Putin Allies Suggest Wagner Will Invade NATO Country」)
この「スヴァウキ・ギャップ」というのは、このすぐ西にロシアの飛び地カリーニングラードがあり、ここをベラルシ・ロシアに占拠されると、エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト3国は西側から孤立してしまいます。西側諸国にとって「NATOのアキレス腱」と言われるほどセンシティブな戦略的な弱点で、これまでもNATO軍演習やこれに対抗するロシア・ベラルーシの同盟軍の演習が何度も行われた地域です。
もし、ロシア・ベラルーシ連合軍がポーランド・リトアニア国境のスヴァウキ・ギャップに浸透してこの地を占領し回廊を形成するなどの行動を取れば、これはもうNATO同盟国に対する攻撃とみなして、NATO軍による軍事的な対抗措置を取ることにならざるを得ず、これはイコールNATO対ロシア連合軍の紛争を意味し、第3次世界大戦になってしまいます。
もちろん、ロシアがそれを画策しているということではなく、あくまで「しちゃうぞ!できちゃうぞ!」という軍事的恫喝で「揺さぶり」をかけているというのが正しい認識だと思います。ポーランドなんかは自分の国の庭先ですから気が気じゃありませんよね。西側諸国に対する揺さぶりで、ウクライナに対する西側支援に足する結束を瓦解させようという姑息な手段です。
これらに動揺することなく、ウクライナの攻勢に関しては、ロシアがいろいろと国内でもめている間に、ガンガン攻めるべきです。ロシアに対応の暇を与えず、ロシアの鼻面を引き回すべきです。具体的には、まず、トクマクを奪取!次いでメリトポリを奪取!これで王手をかけましょう。
頑張れウクライナ!
まずはトクマクだ!
勝利の日は近い!
(了)


にほんブログ村

国際政治・外交ランキング
スポンサーサイト