新型コロナ: 中東でイランバッシング
中東でも新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、拡散源としてイランがやり玉に上がっている。中東各国は、「イランは新型コロナ対応で国内での感染拡大の実態を隠蔽しており、拡大阻止のための施策が不十分であり、近隣各国に感染が拡大している」とイランに対する非難や締め付けを強めている。
(参照: VOA記事2020年2月27日付「Virus Response in Mideast Tainted by Political Views of Iran」及び「Virus Response in Mideast Tainted by Political Views of Iran」(下の写真も同記事より))
イラン政府の新型コロナ対応の記者会見(汗を拭って説明している保健省次官が実は感染が判明)
<状況>
①2020年2月27日現在のイランにおける新型コロナ感染による死者は24名で、中国以外の国では最高値、これはわずか2日前の25日の発表で死者15名であったことからしても感染拡大の程が窺える。内外からの指摘では、イランの感染者や死者はこの公式発表の数字よりずっと多く、イラン政府は感染の実態を隠蔽し報道管制を行なっていると言われている。イランのある地域の議員の告発によれば、感染の焦点であるコム市内だけでも既に50名死亡しており、感染が拡大しつつあるという。感染者と思しき患者が当局に救急車で何処ともなく連行される映像がネットに流れたり、政府の発表をしていた保健省の次官自身が感染していたことで、内外の報道の注目を浴びている。
②イラン近隣各国では、既にクウェートとバーレーンで数十名、イラク6名、レバノン2名、をはじめ中東地域で240名の感染者が確認されており、これらはイランからの感染拡大と受け止められている。近隣各国政府も神経をとがらせ警戒感を顕にしている。イラク、トルコ、パキスタン、オマーンなどでは、イランから感染者が自国へ流入しないよう飛行機乗り入れや陸路・海路の渡航者や帰還者の入国をシャットアウトしている。
(ここまでは前回のブログでお話しした通り)
③イラン近隣各国では、元々の反イラン感情もあって、半ば政治的な意図で「今回の新型コロナウイルスの中東各国への感染拡大はイランが元凶」との報道やイラン締め出し政策を講じている模様。
反イラン色が強いペルシャ湾岸諸国は特に旗幟鮮明。サウジアラビアでは、サウジ政府系報道機関が「イラン政府はどこか腐っている。イラン政府は国内の多くの市民に感染が拡大していることを隠し通している」との激しい口調でイランの拡大阻止不全を糾弾。また、ドバイも地元紙が自国内の感染者は全てイランが感染源であると一面トップで報じた。
国内にシーア派が一定程度いて、反イランと親イランが混交しているレバノンとイラクではやや複雑。レバノンもイラクも国内に親イラン勢力がイランの強力な支援を得て国内政治に強い影響力を持っている。反イラン派はイランが感染源であると喧伝する一方、親イラン派は沈黙を守る。しかし、親イラン派が政権を取っているイラクでさえ、イランから入国した者が感染が判明したことに伴い、さすがに国境を封鎖している。
<私見ながら>
◯ 中東各国のイランバッシングは半ば政治的な「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」バッシング
感染防止、特に水際での流入防止のための純然たる医学的・疫学的な政策ならともかく、イラン近隣の中東各国のアンチ-イラン的・政治的なプロパガンダや悪評の喧伝や意地悪的な措置については国家としての品格を疑います。この機に乗じてイランを袋叩きする国々や勢力は、政治的な思惑が背景にあるのであって、見ていてあさましいですね。
確かに中東地域での感染拡大の何分の1かはイランに帰すると思います。しかし、ほとんどの感染源は中国でしょ。イランに帰するって話も元々のウイルス発祥や感染源は中国ですから。例えば、ドバイの地元紙の一面トップの国内の感染者はイランが感染源というのは誤報で、感染者の多くが中国からの帰還者。にも関わらず「中国」については一切糾弾していません。中国が自国に多額の投資をしていることに起因していると考えられます。
◯ 敵は新型コロナウイルス、敵を見失うべからず。
イランの新型コロナ対応の会見でいつも説明していた保健省の次官が感染していたという話。その人は保健省次官ですが、医師でもあり、公式会見の場でスポークスマンとしての立場もありながら、感染拡大阻止の現場の第一線の医療現場にも立っていたそうです。ある日の会見では油汗を拭き拭き質疑応答していて、会見後の検査で感染していたと判ったと言います。病状は安定しているそうですが、彼は第一線で戦い不幸にして敵弾に倒れました。立派な戦死ですよ(死んでないけど)。見上げたもんです。
敵を見誤ってはいけません。敵は新型コロナ。イラン政府は確かに拡大阻止をミスリードしているかもしれないし隠蔽しているかもしれない、そこを糾弾するのはまだいいし、自国の感染防止のためにイランからの入国に制限を設けのも適切な処置だと思います。しかし、この機に乗じて政治的にバッシングするのは筋違い。
平素はギクシャクした関係にあっても、いかにウイルスを封じ込めるか、中東地域の各国で情報交換し協力・協調してもらいたいところです。まぁ無理でしょうけど。
(了)


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(参照: VOA記事2020年2月27日付「Virus Response in Mideast Tainted by Political Views of Iran」及び「Virus Response in Mideast Tainted by Political Views of Iran」(下の写真も同記事より))
イラン政府の新型コロナ対応の記者会見(汗を拭って説明している保健省次官が実は感染が判明)
<状況>
①2020年2月27日現在のイランにおける新型コロナ感染による死者は24名で、中国以外の国では最高値、これはわずか2日前の25日の発表で死者15名であったことからしても感染拡大の程が窺える。内外からの指摘では、イランの感染者や死者はこの公式発表の数字よりずっと多く、イラン政府は感染の実態を隠蔽し報道管制を行なっていると言われている。イランのある地域の議員の告発によれば、感染の焦点であるコム市内だけでも既に50名死亡しており、感染が拡大しつつあるという。感染者と思しき患者が当局に救急車で何処ともなく連行される映像がネットに流れたり、政府の発表をしていた保健省の次官自身が感染していたことで、内外の報道の注目を浴びている。
②イラン近隣各国では、既にクウェートとバーレーンで数十名、イラク6名、レバノン2名、をはじめ中東地域で240名の感染者が確認されており、これらはイランからの感染拡大と受け止められている。近隣各国政府も神経をとがらせ警戒感を顕にしている。イラク、トルコ、パキスタン、オマーンなどでは、イランから感染者が自国へ流入しないよう飛行機乗り入れや陸路・海路の渡航者や帰還者の入国をシャットアウトしている。
(ここまでは前回のブログでお話しした通り)
③イラン近隣各国では、元々の反イラン感情もあって、半ば政治的な意図で「今回の新型コロナウイルスの中東各国への感染拡大はイランが元凶」との報道やイラン締め出し政策を講じている模様。
反イラン色が強いペルシャ湾岸諸国は特に旗幟鮮明。サウジアラビアでは、サウジ政府系報道機関が「イラン政府はどこか腐っている。イラン政府は国内の多くの市民に感染が拡大していることを隠し通している」との激しい口調でイランの拡大阻止不全を糾弾。また、ドバイも地元紙が自国内の感染者は全てイランが感染源であると一面トップで報じた。
国内にシーア派が一定程度いて、反イランと親イランが混交しているレバノンとイラクではやや複雑。レバノンもイラクも国内に親イラン勢力がイランの強力な支援を得て国内政治に強い影響力を持っている。反イラン派はイランが感染源であると喧伝する一方、親イラン派は沈黙を守る。しかし、親イラン派が政権を取っているイラクでさえ、イランから入国した者が感染が判明したことに伴い、さすがに国境を封鎖している。
<私見ながら>
◯ 中東各国のイランバッシングは半ば政治的な「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」バッシング
感染防止、特に水際での流入防止のための純然たる医学的・疫学的な政策ならともかく、イラン近隣の中東各国のアンチ-イラン的・政治的なプロパガンダや悪評の喧伝や意地悪的な措置については国家としての品格を疑います。この機に乗じてイランを袋叩きする国々や勢力は、政治的な思惑が背景にあるのであって、見ていてあさましいですね。
確かに中東地域での感染拡大の何分の1かはイランに帰すると思います。しかし、ほとんどの感染源は中国でしょ。イランに帰するって話も元々のウイルス発祥や感染源は中国ですから。例えば、ドバイの地元紙の一面トップの国内の感染者はイランが感染源というのは誤報で、感染者の多くが中国からの帰還者。にも関わらず「中国」については一切糾弾していません。中国が自国に多額の投資をしていることに起因していると考えられます。
◯ 敵は新型コロナウイルス、敵を見失うべからず。
イランの新型コロナ対応の会見でいつも説明していた保健省の次官が感染していたという話。その人は保健省次官ですが、医師でもあり、公式会見の場でスポークスマンとしての立場もありながら、感染拡大阻止の現場の第一線の医療現場にも立っていたそうです。ある日の会見では油汗を拭き拭き質疑応答していて、会見後の検査で感染していたと判ったと言います。病状は安定しているそうですが、彼は第一線で戦い不幸にして敵弾に倒れました。立派な戦死ですよ(死んでないけど)。見上げたもんです。
敵を見誤ってはいけません。敵は新型コロナ。イラン政府は確かに拡大阻止をミスリードしているかもしれないし隠蔽しているかもしれない、そこを糾弾するのはまだいいし、自国の感染防止のためにイランからの入国に制限を設けのも適切な処置だと思います。しかし、この機に乗じて政治的にバッシングするのは筋違い。
平素はギクシャクした関係にあっても、いかにウイルスを封じ込めるか、中東地域の各国で情報交換し協力・協調してもらいたいところです。まぁ無理でしょうけど。
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