中印国境の緊迫:一触即発、紛争再燃、拡大の危険性
中印国境の緊迫:一触即発、紛争再燃、拡大の危険性

2019年10月12日のインドのモディ首相と中国の習主席の会談(India's Prime Minister Narendra Modi (3rd R) and China's President Xi Jinping (3rd L) lead talks in Mamallapuram, on the outskirts of Chennai, India, Oct. 12, 2019.) (
2020年9月7日付VOA記事「Experts Warn China-India Standoff Risks Unintentional War」より)
<状況>
2020年8月末、5月上旬の兵士間の殴り合いを契機に6月に対立が再燃したものの、一旦距離を取って収まって対峙していた中国・インド国境のヒマラヤ山脈西部の山岳地域の係争地で、再度双方が相手方の越境・動員を非難し合う緊迫した状況に戻った模様。
双方とも政府指導者レベルは実質的な紛争再燃を望んでいないものの、専門家の指摘では、双方の国民のボルテージの高さを反映して偶発から一触即発の衝突事態になり、更に、近傍地域でインドと係争地を抱えるパキスタンの思惑も絡んだ紛争の拡大化が危ぶまれ、中印国境の緊迫への懸念が高まっています。
(参照:2020年9月7日付VOA記事「Experts Warn China-India Standoff Risks Unintentional War」、同日付Newsweek記事「China, India Accuse Each Other of Firing Shots at Border Ahead of Russia Meeting」及び「China, India Aim for Peace But Keep Edging Toward Conflict at Border」)
<私見ながら>
○ 中印の緊迫が危険な理由:「双方のナショナリズム」と「米国、パキスタンの要因」
双方の政治指導者は軍事衝突を全く望まないと思いますが、怖いのは双方の国民世論のタカ派的な煽りによって、緊迫の国境地帯の中国とインドの兵士達が気を高ぶらせていることでしょう。5月上旬に起きた双方の兵士の「殴り合い」的な小衝突は、武器使用こそなかったものの、双方数十名の死者が出たほどです。双方のマスコミがナショナリズムを煽るため、国民世論としてイケイケムードが立ち込め、現場兵士も勿論のこと、現場を預かる小隊・中隊等の小部隊指揮官たちも異様な興奮の中にあって、双方の主張する国境がダブっている国境地帯で対峙をしているため、ちょっとした兵士の行動が「挑発行為」や「越境行為」に映るわけです。当然、作用に対して反作用が起き、今回双方が相手側の越境や発砲を非難する状況になっています。まだ銃撃戦に至っていないので緊迫のまま事態が推移していますが、一触即発であることに違いありません。
ここにワイルドカードとして作用する大きな要因が2つあります。米国のインドへの肩入れ、及び中印の緊張の高まりに乗じたもう一つのインドの国境紛争の係争正面であるパキスタンの動向です。この2つの要因を単純な図式にすると、中国・パキスタン組vsインド・米国組、という対立軸になります。しかも、4ケ国とも核保有国。中国と米国は一応は核兵器の使用に関しては、合理的な政治的判断のコントロールが効いているので、紛争拡大したとしても核兵器の使用が取りざたされることはないと存じます。しかし、インドとパキスタンについては、相互に不倶戴天の敵、双方が「相手が核武装するならうちも自衛のために核開発せざるを得ない」との切迫感で核開発・保有に至っているので、いざという時にはエスカレーションの至る先に核兵器を控えさせているのが両国なのです。隣国同士でありながら、双方の国民の生命財産の潰し合いになることを辞さず、核の投げ合いに至る可能性があります。(同様の危険性があるのが、イランvsサウジなどの湾岸諸国です。)
○ タイミングの悪いことに米大統領選挙が迫る時期
トランプ米国大統領の考えそうなこととして、選挙戦における現役大統領の大統領候補者としても強み・伝家の宝刀を使うかもしれないことが懸念されます。戦争に至るかもしれないという国家の危機に際して、大統領の強力なリーダーシップ発揮の場になり得ます。戦争になるかも?という非常時の大統領には国民の絶大なる支持が後押ししますから、トランプ大統領がこの誘惑にかられないとも限りません。中印の危機を米国が作為して火をつけておいて、自ら仲介役として火を鎮める、というマッチポンプです。緊迫する中印国境の状況下に、「米国が平和的な仲介に立つ」と建前を前面に出しつつ、インドに対する中国に劣る部分の直接的・間接的な絶大なる軍事力の支援やバックアップを提供し、インドに対する有事の全面支援を約束するなどの密約をした場合、インドが意を強くして冒険に出たり、国民世論的なイケイケムードが醸成されかねません。トランプ大統領は、自ら危機を煽り焚き付けておいて、自らが正直な仲介者(honest broker)を演じて危機を治める。世界の指導者を自作自演できるわけです。マスコミ論調は、選挙戦の対抗候補との論戦などはそっちのけで、中印国境紛争問題ばかりが世の注目を浴びることとなりましょう。絶好の選挙運動ですね。
しばらくは中印国境に注目が必要です。
(了)


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2019年10月12日のインドのモディ首相と中国の習主席の会談(India's Prime Minister Narendra Modi (3rd R) and China's President Xi Jinping (3rd L) lead talks in Mamallapuram, on the outskirts of Chennai, India, Oct. 12, 2019.) (
2020年9月7日付VOA記事「Experts Warn China-India Standoff Risks Unintentional War」より)
<状況>
2020年8月末、5月上旬の兵士間の殴り合いを契機に6月に対立が再燃したものの、一旦距離を取って収まって対峙していた中国・インド国境のヒマラヤ山脈西部の山岳地域の係争地で、再度双方が相手方の越境・動員を非難し合う緊迫した状況に戻った模様。
双方とも政府指導者レベルは実質的な紛争再燃を望んでいないものの、専門家の指摘では、双方の国民のボルテージの高さを反映して偶発から一触即発の衝突事態になり、更に、近傍地域でインドと係争地を抱えるパキスタンの思惑も絡んだ紛争の拡大化が危ぶまれ、中印国境の緊迫への懸念が高まっています。
(参照:2020年9月7日付VOA記事「Experts Warn China-India Standoff Risks Unintentional War」、同日付Newsweek記事「China, India Accuse Each Other of Firing Shots at Border Ahead of Russia Meeting」及び「China, India Aim for Peace But Keep Edging Toward Conflict at Border」)
<私見ながら>
○ 中印の緊迫が危険な理由:「双方のナショナリズム」と「米国、パキスタンの要因」
双方の政治指導者は軍事衝突を全く望まないと思いますが、怖いのは双方の国民世論のタカ派的な煽りによって、緊迫の国境地帯の中国とインドの兵士達が気を高ぶらせていることでしょう。5月上旬に起きた双方の兵士の「殴り合い」的な小衝突は、武器使用こそなかったものの、双方数十名の死者が出たほどです。双方のマスコミがナショナリズムを煽るため、国民世論としてイケイケムードが立ち込め、現場兵士も勿論のこと、現場を預かる小隊・中隊等の小部隊指揮官たちも異様な興奮の中にあって、双方の主張する国境がダブっている国境地帯で対峙をしているため、ちょっとした兵士の行動が「挑発行為」や「越境行為」に映るわけです。当然、作用に対して反作用が起き、今回双方が相手側の越境や発砲を非難する状況になっています。まだ銃撃戦に至っていないので緊迫のまま事態が推移していますが、一触即発であることに違いありません。
ここにワイルドカードとして作用する大きな要因が2つあります。米国のインドへの肩入れ、及び中印の緊張の高まりに乗じたもう一つのインドの国境紛争の係争正面であるパキスタンの動向です。この2つの要因を単純な図式にすると、中国・パキスタン組vsインド・米国組、という対立軸になります。しかも、4ケ国とも核保有国。中国と米国は一応は核兵器の使用に関しては、合理的な政治的判断のコントロールが効いているので、紛争拡大したとしても核兵器の使用が取りざたされることはないと存じます。しかし、インドとパキスタンについては、相互に不倶戴天の敵、双方が「相手が核武装するならうちも自衛のために核開発せざるを得ない」との切迫感で核開発・保有に至っているので、いざという時にはエスカレーションの至る先に核兵器を控えさせているのが両国なのです。隣国同士でありながら、双方の国民の生命財産の潰し合いになることを辞さず、核の投げ合いに至る可能性があります。(同様の危険性があるのが、イランvsサウジなどの湾岸諸国です。)
○ タイミングの悪いことに米大統領選挙が迫る時期
トランプ米国大統領の考えそうなこととして、選挙戦における現役大統領の大統領候補者としても強み・伝家の宝刀を使うかもしれないことが懸念されます。戦争に至るかもしれないという国家の危機に際して、大統領の強力なリーダーシップ発揮の場になり得ます。戦争になるかも?という非常時の大統領には国民の絶大なる支持が後押ししますから、トランプ大統領がこの誘惑にかられないとも限りません。中印の危機を米国が作為して火をつけておいて、自ら仲介役として火を鎮める、というマッチポンプです。緊迫する中印国境の状況下に、「米国が平和的な仲介に立つ」と建前を前面に出しつつ、インドに対する中国に劣る部分の直接的・間接的な絶大なる軍事力の支援やバックアップを提供し、インドに対する有事の全面支援を約束するなどの密約をした場合、インドが意を強くして冒険に出たり、国民世論的なイケイケムードが醸成されかねません。トランプ大統領は、自ら危機を煽り焚き付けておいて、自らが正直な仲介者(honest broker)を演じて危機を治める。世界の指導者を自作自演できるわけです。マスコミ論調は、選挙戦の対抗候補との論戦などはそっちのけで、中印国境紛争問題ばかりが世の注目を浴びることとなりましょう。絶好の選挙運動ですね。
しばらくは中印国境に注目が必要です。
(了)


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