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2020/09/19

中印国境緊迫続く:チベットに帰る日を夢見たチベット兵の死

death of a tibetan commando soldier2
チベット出身のインドの特殊部隊兵士の部隊葬(2020年9月18日付VOA記事「Death of Tibetan Commando Offers Insight Into Little-Known Elite Indian Force」より)
death of a tibetan commando soldier1

<状況>
① 緊張の続くヒマラヤ山脈の中印国境にて、8月下旬にインド陸軍の一兵士が地雷に触雷して死亡、もう一名も重体となった。9月初旬にその兵士の葬儀がインド側の国境の町レーで行われたが、同じ部隊の隊員が参列する中、チベット仏教僧によるチベット仏教の礼式に基づく部隊葬が営まれた。

② この兵士の部隊は、インド陸軍所属の亡命チベット人の山岳コマンドー部隊(特殊部隊)で、部隊の存在も公表されていない。専門家の指摘によると、1960年代の中印国境紛争の際、一般のインド兵では山岳高地地域での作戦環境に不慣れで作戦行動が上手く取れなかった教訓に基づき、中国から亡命しこの国境の山岳高地地域に定住したチベット人たちを募って編成した山岳地域の特殊作戦部隊。1960年代から70年代初期までは米国のCIAが教育訓練に携わり、国境を越えて中国軍と戦闘をさせていたらしい。1972年の米中接近により、米国は対中政策を変更したため、この部隊の教育訓練から手を退き、じ後はインド陸軍が引き継ぐ。兵力は5000名~10000名の規模とも言われる。彼らの故郷チベットは、今は中国政府の支配下で残留チベット人の中国化が進み、年年歳歳、故郷が消滅しようとしている。彼らの夢は、いつの日か自らの手で故郷を開放し、チベットに帰還すること。

<私見ながら>
○ VOAの記事で上記の状況を知り、初めてその部隊の存在を知りました。インド陸軍所属で亡命チベット人部隊があったんですね。

  「中印国境が緊迫」ということからして、中国人とインド人の国境における領土をめぐる対峙、というイメージですから、当たり前のようにインド軍はインド人部隊と思っていました。勿論、国境に張り付いているインド軍の全部隊ではなく、一部の作戦をこの亡命チベット人特殊部隊にやらせているんでしょう。しかし、一番きつい山岳地域でのパトロール、特に中印ともに自分の土地だという両者が交錯しているド緊張した地域での作戦行動を、インド軍はチベット人部隊にやらせていたのですね。

  この兵士は、その緊迫した山岳地域でのパトロール中に中国軍の仕掛けた地雷に触雷して亡くなった模様です。元自衛隊員であった私にとって、彼らが「いつの日かチベットに帰りたい」という見果てぬ夢を胸に、インド陸軍に身をやつして中国軍と対峙する中印国境の係争地域=ヒマラヤの山岳地域にて作戦行動中であった、というのが何ともシンパシーを感じるところです。空気の薄い、風吹きすさぶ寒い荒涼としたこの地域で、敵部隊の偵察斥候と出くわしてしまうかもしれない一触即発の緊迫したパトロール任務に就いていたのでしょう。そんなある日のパトロール、ふとワナ線に足を引っかけ、しまった!と思うのも束の間、地雷が地面から⒑数センチのところにビヨ~ンと飛び出し、バン‼という破裂音とともに、何千という破片を周囲にぶちまけ、その破片を身体中に受ける!声も出ず意識が飛ぶ!手足が吹き飛び、胴体が大地にドッと倒れる・・・!。彼は間もなく死亡、彼の近傍にいたもう一人の隊員も重体に。そんな彼らの最期の光景が目に浮かぶようです。兵士というものの宿命ですが、何とも「もののあわれ」を感じます。

○ 最近、ネットで見かけたニュースによれば、国境に張り付いている中国軍も、慣れない山岳高地の作戦環境に適合が難しく、病気や心身の不調に陥っているそうです。さもありなん。命令だからやっているとは言いながら、山岳高地地域の厳しい自然環境の中で作戦行動をするのは、敵も味方もきついでしょうね。

  しかし、命令だけではなく、兵士たちの強い動機づけとして忘れてならないものが、前回の私のブログで述べたように「双方の国民のボルテージの高さ」です。もともと焚き付けたのはそれぞれの国家の政府やマスコミですけどね。双方の政治指導者達は割と冷静で、一歩も退かない姿勢は崩さないものの、本格的な軍事衝突に至らないように緊張緩和のためのテーブルにも就きます。しかし、一般大衆はそうはいきません。犠牲者は国家にとって英雄として奉られ、敵国に対する憎悪を募らせ、係争地域の兵士への国民達の異様な期待や異様なプレッシャーは高まるばかりです。

  前回のブログで、私が想定した視点は中国vsインド、ここにパキスタンや米国の思惑を踏まえて、中国・パキスタン組vsインド・米国組というお話をしましたが、今回の記事を通じてもう一つの視点が分かりました。中国内に今もあるチベット自治区、そこから亡命してきた在インドのチベット人、そんな思惑もあったわけです。勿論、国家という実体を持ったものではないので、一つのファクターではあるものの決定的な影響を持つものではないかもしれません。しかし、中国・インド両国軍兵士が一触即発の緊迫状況下でにらみ合っている現場の兵士達の心情に、強い動機付けを持つ亡命チベット人たちの望郷の思いがあること、厳しい環境下にあること、・・といった要因があることに気付きを得ました。

  これは益々もって、この地の緊張が下がることはまだまだなさそうです。冷却するまでもう半年以上かかるか・・・、或いは、ボルテージの高い電極に手を近づけた時のように、近づけた手に反応して電極から遂にビビビッと稲妻が延びて、遂に一触即発の衝突が起きてしてしまうのか・・・。まだまだ目が離せません。

(了)

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