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2020/11/30

イラン核開発科学者をイスラエルが暗殺か:バイデン就任前に対イラン外交を悪化狙う? 

イラン核開発科学者殺害事件
 2020年11月27日、イランの首都テヘラン郊外のアブザードという小さな町で、イランの核開発の主導的役割を果たした科学者モーセン・ファクリザデ博士が、乗車していた車両を標的とした機関銃によるテロ攻撃を受け、殺害されました。イランのザリフ外相もイラン国営メディアも、以前イスラエルのネタニエフ首相が記者会見でこの博士の名前を出し「この名を覚えておいた方がいい」という思わせぶりな発言があったことから、イスラエルの仕業であると名指しで非難しています。また、イラン最高指導者ハメネイ師もイスラエルを糾弾し、報復を宣言しています。なお、今のところイスラエルはコメントしていません。(参照: 2020年11月27日付 VOA記事「Top Iranian Scientist Assassinated in Attack on His Convoy」、及び同年11月28日付BBC記事「Mohsen Fakhrizadeh, Iran's top nuclear scientist, assassinated near Tehran 」)
Iranian scientist murdered
ファクリザデ博士が銃撃され暗殺された車両(This photo released by the semi-official Fars News Agency shows the scene where Mohsen Fakhrizadeh was killed in Absard, a small city just east of the capital, Tehran, Iran, Nov. 27, 2020. (前述のVOA記事より)

私見ながら
 これは間違いなくイスラエルの仕業ですね。
 イランのザリフ外相や、最も最新ではイラン最高指導者ハメネイ師の発言(参照:2020年11月28日付AP記事「Iran’s Supreme Leader Vows Revenge Over Slain Scientist」)で明確に糾弾されているように、これはイスラエルの「暗殺」です。理由は明確、次期米国大統領バイデン氏のイラン核合意体制(トランプ現大統領が離脱した)への復帰という方向性に対する「妨害」です。こういう時のイスラエル政府の思考はたちが悪い。確信犯ですよ。イランにとって救国の英雄である核開発プロジェクトのリーダーだった国の宝のような科学者を暗殺したりしたら、この後、イランは激怒し、まともに外交交渉なんてできない状況になることを知っての上での暗殺なのです。イランの対外交渉は硬直、特に、イスラエル寄りの対米国外交では初めからヘソが曲がってしまう。次期米国大統領バイデンがイランとの核合意体制に復帰したいことを潰すために、わざと今は何ら対応できないトランプ政権下で暗殺なんてことをする。このタイミングでこんなことをすれば、イランにとっては本来はあるべき宥和策であったとしても、一度我を忘れて激怒してしまったイランはもはや手が付けられない。その根源は、理屈ではなくイスラムの原理・原則と感情的に一歩も退かなくなってしまう最高指導者ハメネイ師の性格。そこを読んで、イスラエルという国は意図的にやっているのです。
Mohsen Fakhrizadeh
ファクリザデ博士(既述のVOA記事より)

 イスラエルのイランに対する暗殺や謀略は、実はこれまで何度も起きてきました。狙いは、イランの核開発の殲滅です。イスラエルにとって、イランの核開発の標的は自国になろうことは明確なためです。どっちもどっちと言えばその通りですが、イランは核開発を追求し、イスラエルはありとあらゆる手段で潰しにかかってきました。イランの核開発は1989年に極秘裏に始まり、プロジェクトAMADと呼ばれ、ファクリザデ博士は研究開発部門のトップでした。しかし、2000年代初めに米国とイスラエルの共同のサイバー攻撃(※stuxnetというウイルスを使いました)で、核開発の中心的拠点だったナタンツ原子力施設の遠心分離機を破壊し、開発を頓挫させました。イランは様々な報復をイスラエルに仕掛けるとともに、核開発を復興しました。ファクリザデ博士は核開発復興の中止人物で、核濃縮を前進させたと言われており、イスラエルもずっと付け狙っていたと思われます。イスラエルは、これまで2010年から2014年までの間に4名の核開発の主要な科学者をイスラエルは暗殺し、今回のファクリザデ博士で5人目です。イランにしてみれば、憤懣やるかたない悔しさでしょう。
(※この米国とイスラエルによるサイバー攻撃でイランの核開発を潰した件は、本ブログ2019/03/25付けの「東京五輪を狙ったサイバー戦は始まっている」にやや詳しく書きました。興味のある方は覗いてみてください。)

 イスラエルがバイデン次期米大統領及び西欧諸国の対イラン宥和政策を潰しにかかっている、と読んでいる専門家の皆さんhs非常に多いようですが、私見ながら、あくまで状況証拠に過ぎませんが、同様のことを他の地域でもやっている、と見ています。
 今回のファクリザデ博士の暗殺と同時並行的に、イスラエルがシリアと軍事的に対峙し、国連PKO(UNDOF)も停戦監視任務で展開しているゴラン高原において、シリア側(クネイトラ県内)に航空攻撃を仕掛けています。(参照: 2020年11月24日付VOA記事「Report: Syria Claims Israeli Attack on Post South of Capital」)この攻撃について、シリア側はゴラン高原イスラエル側方向からの航空攻撃であることを非難し、イスラエル側も攻撃を認めています。イランが背後にいるヒズボラ系の軍事拠点であることが攻撃の理由らしいですが、私が問題だと思っているのは、直近傍に国連PKOのUNDOF部隊が「停戦監視」を任務として展開しているのに、イスラエルは意図的にその停戦合意を抵触する攻撃をしています。国連でもめることを計算に入れているとしか考えられません。

 既述の暗殺もそうですが、ゴラン高原の停戦監視地域であるクネイトラ県内での攻撃も、平素なら米国に動きを察知されて「止めよ」と勧告されたり、米国にも内緒で作戦遂行しても後で米国側に裏を取られてしまうので、普通ならやりません。にもかかわらず、イスラエルが今やっているのは、間違いなくトランプからバイデンへの移行期という、しかもトランプ政権下にうちにやってしまえ、という駆け込みラッシュです。トランプはバイデンへの恨みもありますし、娘婿もユダヤ系ですし、やってきた政策も在イスラエル米国大使館をテルアビブからエルサレムにする(国際的にはアラブ諸国の猛反対がある)など、親ユダヤです。今後の米国のイランとの宥和政策の方向性を意図的に潰すための布石を、そうと知っていて見逃しているのでしょうね。米国の元CIA長官のジョン・ブレナンは、ファクリザデ殺害事件について、中東地域の紛争に火をつける無謀な犯罪行為、と非難しています。(参照:前述のBBC記事)


(了)

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