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2021/04/03

中国が一帯一路をテコに反米外交攻勢?:その強みと弱み

中国が一帯一路をテコに反米外交攻勢?:その強みと弱み
 2021年3月31日付読売新聞記事「中国『対米』で中東接近」によれば、3月30日、中国の王毅外相は中東6ケ国歴訪を終えて大きな成果をあげて帰途についた。サウジ、トルコ、イラン、UAE、オマーン、バーレーンを歴訪し中東実施し、一帯一路に基づく中国マネーによる恩恵をテコに中国との関係強化を推進するとともに、米国バイデン新政権の人権外交への反対について認識共有を得た。読売をはじめ多くのマスコミは、同じく米国と対立するイランとの「包括的戦略パートナーシップ協定」の締結という関係強化に注目した。

 私見ながら、既述の前半部分について、中国を含め歴訪された6ケ国はいずれの国も国内に人権問題についてスネに傷のある国々なので、「自国内の問題は自国が責任を持って対応する。内政問題に他国が口を出すべきではない」という論理が賛意を得たのは当然と言える。他方、後半のイランとの関係強化については中国とイランが反米同盟を結んだわけではなく、それ自体のインパクトは限定的。むしろ、インパクトは後述する港湾使用権を得たことだろう。
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(日本経済新聞2020年3月27日付記事「中国・イラン、反米で接近 米欧は一帯一路に対抗」より)

真の成果: 「ウイグル問題」と「軍港」
 私見ながら、今回の王毅外相の中東歴訪の成果で読売が見落としている真の成果は2つ。
 第一は、中国国内のウイグル人の駆け込み寺的存在だったトルコを中国側に引き寄せたこと。これにより、中国のアキレス腱である新疆ウイグル問題について、ウイグル人と血が濃く敵に回すと厄介なトルコを友好国とし、本件に関する発信源となることを抑え込む効果が得られる。

 第二は、中東ペルシャ湾とアデン湾〜紅海という国際的海上輸送路の大動脈に中国海軍の根城となる軍港が確保できたことである。今回歴訪したオマーン、UAE、イラン等から港湾使用権の協定を得ている。この意味は、単なる中国船籍の商用船の寄港地ではない。東西冷戦の頃のスタンスで言えば、ソ連が北ベトナムのカムラン湾をソ連太平洋艦隊の常駐の軍港としていたことを思い出していただきたい。今回の港湾使用権の獲得により、中国はこの世界で最も重要な2本の海上交通路に中国海軍の活動拠点が得られた戦略的意義が大きい。事実、既にアデン湾~紅海の海上ルート上にジブチに「軍港」を保有している。今回はペルシャ湾のアラビア半島側にもユーラシア大陸側にも活動拠点として利用できる港湾を得たのだ。
 とは言え、ペルシャ湾においては、当初は中国海軍艦船の一時的な寄港にとどめ、「常駐」や「軍港化」は避けるだろう。インパクトが強すぎるからだ。新たなペルシャ湾危機になってしまう。そのくらいインパクトのある外交成果と言える。

一帯一路と中東の海上輸送路の確保の実質的な強み・弱み
 今回の中東歴訪と一帯一路の掛け合わせについては、「強み」と見る目と、むしろ「弱み」と見る目の両方の見方がある。
 まず「強み」と見る方では、Yahoo Japanニュースの3月31日付「王毅中東歴訪の狙いは『エネルギー安全保障』と『ドル基軸崩し』」(遠藤誉)が面白い。同記事では、今回の中東歴訪の真の狙いは「エネルギー安全保障」と「石油人民元の構築」と見ている。やはり中東の石油が引き続き重要なのだ、という視点でイランやサウジとの関係強化によるエネルギー安定供給を高く評価。また、米ドルの牙城をデジタル人民元で崩すのだという見方をしている。後者について同様な見解として、2020年2月3日付nippon.com記事「デジタル人民元の恐るべき野望と未来」(田村秀夫)では、中国は2022年(北京冬季五輪の年)にデジタル人民元の完成を目指し、企業ではなく中国中央政府主導のデジタル通貨の流通で米ドル基軸を崩す目論見があるのだ、と見る。なるほど、この記事と前述の記事を合わせ読むとそんな気もしてくる。

 「弱み」と見る見方では、Newsweek日本版2021年03月25日付記事「退潮する中国の一帯一路が元の姿で復活することはない」(河東哲夫)は、中国の「一帯一路」について看板と実像の落差を辛辣に低評価している。もともと、一帯一路政策は日本のODAのような国外援助でも何でもなく、むしろ中国国内の素材・建設企業に対する需要拡大なのだと見る。一帯一路に引っ掛けた一帯一路の6つのルート沿いの発展途上国での事業拡大で国外需要で先ほどの素材・建設企業を潤した。一帯一路周辺国のみならず、関係なさそうなアフリカや南米にもばら撒き、2013年からの5年間で融資総額900億ドルに及ぶ。しかし、元々あまり採算や当該国のためになる事業を育てていないので、当該国はその事業で潤わず返済に苦しみ、選挙で政権交代が起きるとボロカスに責められ、その事業自体も中国との関係も覆される。加えて、中国の経済状況も激変した。中国の内需拡大政策がうまくいかず、結局は一帯一路で膨らんだ不良債権は悪化するばかり。鳴り物入りだったアジアインフラ投資銀行も、2019年末の融資残高は22億ドルと小さい。結果的に、「一帯一路」という政策はただの大風呂敷だった、と酷評している。

 私見ながら、前述のデジタル人民元の野望という話も一帯一路と同様に大風呂敷ではないか?構想自体は立派だが、「竜頭蛇尾」、「羊頭狗肉」ないし「大山鳴動、鼠一匹」ではなかろうか。
 
イランと中国の関係強化というジョーカーの使い道
 これまた私見ながら、多くの報道が注目したイランとの関係強化のインパクトについては限定的ではないかと見ている。
確かに、中国とイランが米国との対立という認識共有は連帯の原動力であったろう。中国は新疆ウイグルの人権問題で、イランは米国の核合意離脱や経済制裁で、共通の敵は米国であり、基本的な利害は一致しており、今回の王毅外相のイラン訪問で、25年もの長期の協力関係を結んだ。

 しかし、イランの思惑はそれほど単純ではない。片方の手で当面の友として中国との協力関係を約しつつも、もう片方に手で米国主導の経済制裁を解かせること=核合意への米国の復帰を模索していることは間違いない。バイデン新政権の誕生に伴い、米国の核合意の枠組みへの復帰と経済封鎖の緩和という期待感は隠せない。とは言え、まだ今のところ、イランも米国も相互に自分の主張を前面に出している状況ではあるが...。イランは「まず経済制裁の緩和が先だ!」と主張し、米国は「まず核開発の放棄が先だ!」と、相互に一歩も退かない。それでも、トランプ時代よりは好転の可能性もあるだけでもましな状態には違いない。従って、反米一辺倒で中国と反米同盟を組むわけには行かない。反米同盟で行くなら、イランの港湾に中国海軍を常駐させるなんて手を打つだろう。さすれば、もはやペルシャ湾は緊張最高潮になろう。世界の商船は新たなペルシャ湾危機に怯える状況となってしまう。しかし、そうはすまい。それはイランが国際協調を大事にしているとか、そんな話ではない。そうすることで得られることと失われるものの損得勘定として、割に合わないことが分かっているからだ。

 イランにとって、中国との関係強化というカードの使い道は、反米同盟という戦略的・軍事的なカードとしてではなく、「そういう手を切ることもできるんだぞ」という今後の対米交渉で米側の譲歩を引き出すための外交カードとしてではないだろうか。

(了)

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