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2021/05/21

停戦成るか:やむにやまれぬイスラエルとパレスチナの衝突

停戦成るか?バイデン米大統領のネタニヤフ首相への電話会談
 A statement released by the White House said: "The president conveyed to the prime minister that he expected a significant de-escalation today on the path to a ceasefire." (米大統領府の発表:「米大統領はイスラエル首相に対し、本日中に停戦に向けた重大な緊張の緩和をすることに期待する、と伝えた。」)(BBC 2021年5月19日付(現地時間)記事「Israel-Gaza: Biden tells Netanyahu he wants 'path to ceasefire'」より)
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イスラエルの航空攻撃を受けたガザ市街 (Damage from an Israeli air strike overnight in Gaza City: 前述のBBC記事より)

 連日イスラエルとパレスチナの泥沼の攻撃の応酬が続き、現地市民の悲惨な被害の状況や衝突の状況が日本にも伝えられています。国連や国際社会の仲介も空しく、連日の報復の応酬でしたが、米国がやっと動きましたね。これまでは強い言葉での停戦要請せずにいたバイデン米大統領は、日本時間の本日=現地時間の2021年5月19日(水)朝、イスラエルのネタニヤフ首相と数度目の電話会談をし、今回は明確かつ期限を示して停戦に向けた舵を切れと要請をしました。実質的にパトロンの米国にここまで言われたら、いくらイスラエルのネタニヤフ首相が食えない奴でも、さすがに停戦の方向に舵を切ることにならざるを得ないでしょう。既にイスラエルの外交筋や軍は、これまでの空爆等の成果を評価し概ね軍事的にイスラエルにとっては十分な成果を上げていると分析した上で、エジプトやカタールを仲介に交渉を始めている模様です。

 そうなれば何よりですが、ソロバン勘定通りに行かないのが中東、特にパレスチナ問題なのです。中でも、今回の攻撃の応酬の焦点「ガザ地区」というのは、同じパレスチナ自治政府のでもハマスという過激派組織が実効支配する地区で、今回の衝突でもイスラエルの人口集中地区に対するロケット弾の飽和攻撃という手段で徹底抗戦をしていますので、イスラエル側も一歩も退かない状況です。勿論、ガザ地区のハマス側も一定の成果を得ての停戦という話は受け得る話です。しかし、本当の停戦に至るかどうかのカギは、双方の思惑が停戦の条件において折り合いが付けられるかどうかでしょうね。

 私見ながら、バイデン大統領に直接要請されたからには、表面上イスラエル側は一旦矛先は収めると思いますが、イスラエル官憲の弾圧行為に対するパレスチナ側の反発で起きる地上における小さな衝突を契機に、またどちらかが報復攻撃をし、また再び報復攻撃の応酬の口火を切る可能性が大きいと見ています。

 PKOでイスラエルに勤務し、その際に生のパレスチナ問題も実体験で見聞しました。その肌感覚から言えば、パレスチナ問題は根が深く、一触即発の導火線の中で日常生活をしている感じですから、一度火がついたからには行きつくところまでいかないと治まらないのではないか、と憂慮しています。

「かくすれば かくなるものと 知りながら 已むに已まれぬ 大和魂」
 我々当事者ではない第3者から見ると、感情の発露や怨嗟の応酬にしか見えません。状況が全く違いますが、吉田松陰の和歌を思い出しました。千発ものロケット弾をイスラエルの市街地に向けて撃つガザ地区のパレスチナ人、これを防空システムで迎撃しつつ、航空攻撃でガザの市街地に精密な報復攻撃をするイスラエル軍、・・・「あんなことしたらこうなるから止めとけよ」と我々第3者に批判されようが、彼らにとっては「そうと分かっていても報復攻撃をせざるを得ない」、そんな状況です。「やむにやまれぬ」双方それぞれの感情があって、周囲から即時の攻撃停止を呼びかけられても、攻撃を停止するなどあり得ない、敵に対する報復攻撃をせずにはいられない。そんな彼らを突き動かしている思いとは、自らの生存を脅かす敵を殲滅しない限り、自らの家族の生存が危ういのだ、という自らの生存のための「自己防衛」に根差しています。第3者から何を言われようが、「他人が口を出すな!お前らに何が分かる?」という状況です。
 イスラエルとパレスチナがなぜかくも憎しみ合い傷つけ合うのか、現地で勤務した経験に基づき、見聞きした現場感を踏まえてそれぞれの思いをご紹介します。

パレスチナの「やむにやまれぬ」事情
 イスラエルの事実上の実効支配地域の中に、パレスチナ自治政府の西岸地区とガザ地区があります。これは世界史で皆さんもご承知の通り、2000年も前に確かに現イスラエルの地にユダヤ人の国がありましたが、ユーラシア大陸とアフリカをつなぐ戦略的重要性の高い場所に位置するこの地は、歴史上様々な帝国に支配され、ここにいたユダヤ人たちも歴史の反動の中で世界に離散していました。ユダヤ人とはユダヤ教を信仰する人々のことですから、ユダヤ教の教え通り、「ユダヤの民は今は世界に離散していてユダヤの土地に戻れない状況に身をやつしているが、神との約束に基づき、やがて聖なるあの土地に帰る日が来るのだ。」と2000年の間願ってきました(シオニスト運動)。それが2度の世界大戦後に時機到来したわけです。世界のユダヤ人がユダヤの地に帰り、自分の国を建国しました。しかし、ユダヤ人にとってのユダヤの地は、パレスチナ人にとっては昔からここに住んでいるパレスチナの土地ですから、ここで当然利害対立が起きます。ユダヤ人は当初は英国の手引きで、じ後は自らの手で、この地に帰りつき、お金で土地を買ったり不毛の地を開拓したり、少しづつ土地を獲得し、やがてユダヤ人の国「イスラエル」を建国しようとします。当然、パレスチナ人と衝突。財力と知力を使い、イスラエル建国闘争に勝ち、イスラエルを建国します。パレスチナ人は難民となり、周囲に離散。ここで周囲のアラブ諸国が激怒し、イスラエルに対する戦争となりました。これがいわゆる数次に及ぶ中東戦争です。これまた知力・財力・軍事力・米国の力を借りて、イスラエルは建国当初より支配地域を拡大しました。しかし、国際社会も黙っておらず、国連の安保理決議などの横槍が入って、何とか先住民であったパレスチナ人の自治区を作れということで、今の状況に収まってきました。
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 上図の薄いピンク色がイスラエル、事実上イスラエルの実効支配地域内で点線で境界が引かれたせヨルダンと隣接している「西岸地区」とエジプトに隣接している「ガザ地区」の2つがパレスチナ自治政府の土地です。パレスチナ自治政府は「ファタハ」党が与党のアッバース議長(大統領)が政府の代表ながら、ガザ地区はこれに従わず、過激派組織ハマスが実効支配しています。
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西岸地区やガザ地区を囲む隔壁

 この西岸地区、ガザ地区の周囲は上の写真のような壁に囲まれています。これはパレスチナ側が自治区の領域を示すため立てた塀ではなく、イスラエルがパレスチナのテロリストがイスラエル側に入ってこないように、自国市民の安全確保のために勝手に設置した隔壁であり、事実上パレスチナ自治区を監獄状態にしています。更に念を入れて、地中海に面しているガザ地区においては、海上からの出入りをイスラエル海軍が封鎖しています。信じられますか?パレスチナへの出入りは西岸地区もガザ地区も数か所のみに制限され、出入りにはイスラエル軍・警察による執拗なチェックを受けます。要するに、国家としての尊厳をイスラエルが実力で圧殺し、パレスチナ自治政府の土地を事実上の監獄化しているわけです。しかも、米国がパレスチナを国家として認めておらず、日本も米国に右を倣えをしてパレスチナを国家として承認していません。なので「自治政府」というもってまわった言い方をしているわけです。お恥ずかしい話です。

 現地を知る者として、PKO当時、中立的に勤務しなければいけない立場なので職務上は中立を貫きましたが、パレスチナ問題に関しては正直なところ「親パレスチナ・反イスラエル」になってしまいます。パレスチナ側からイスラエルのチェックを受けて毎日出稼ぎにくるパレスチナの人々が、イスラエル軍によりひどい仕打ち・扱いを受けているのを何度も見ました。高圧的にして暴力的なそのチェックのありさまを見ていると、第3者ながら血が逆流しました。パレスチナ人はそんなひどい仕打ち・扱いを受けても、イスラエル側に出稼ぎに行きます。それは、悲しいまでにパレスチナ自治区内での仕事より給料がいいから。パレスチナはイスラエルによって強制的に鎖国させられているような状況なので、政治も経済もひっ迫し、物は流通しないは失業率は50%程度だわ、上水道も寸断、下水道も普及しておらず衛生状況も悪いわ、いいことがありません。ガザ地区なんか特に酷く、し尿が市内や地中海に垂れ流しにするものだから、地中海のガザ近郊の海洋汚染が甚だしい状況です。日々の生活は苦しく、金も仕事もなく、イスラエルへの出稼ぎも屈辱的だが生きるために働く、・・・そんな閉塞感を抜きに、今回の報復攻撃の応酬は語れないのです。

 今回の衝突の始まりは、聖都エルサレムのイスラム教の聖地岩のドームとアルアクサモスクの聖域にイスラエル軍が侵入・閉鎖してパレスチナ人を締め出した事案、これに続いて東エルサレムの本来ならパレスチナ自治区の土地にユダヤ人が土地の所有をめぐって提訴し、イスラエルの裁判で勝訴しパレスチナ人の土地を取り上げた事案があり、これに抗議するパレスチナ人がイスラエルの官憲に逮捕拘束され、デモは弾圧されたことから全土に拡大しました。パレスチナ自治区でもでも、パレスチナ自治区ではないイスラエルの地域でもイスラエル国民のパレスチナ人がいます。あちこちでデモがあり、これがイスラエル軍や官憲に手酷い弾圧に遭いました。これに呼応する形でガザ地区のパレスチナ人によるイスラエルに対するテロ的な攻撃があり、これをイスラエルが弾圧し、これに報復するロケット弾攻撃が始まりました。イスラエルはロケット攻撃を超ハイテク装備のアイアンドームという迎撃精度の高い局地防空システムで防空するとともに、航空攻撃による精密誘導ミサイルでハマスのアジトを攻撃。ハマスもわざと病院やら学校やらパレスチナ市民を人間の盾にしてアジトを作るので、イスラエルの攻撃で被害をこうむる罪のない無垢の市民も出ます。この辺をイスラエルは配慮しません。イスラエル市民を守るため、パレスチナ市民が多少犠牲になっても「仕方がない」と考えます。だから、ハマスはカッサームロケットというパイプを改造した手製のロケットを沢山作って、イスラエルのハイテク防空システムに対してローテクだが飽和攻撃によって対抗します。ハマスはガザの地下にトンネルを無数に作って、トンネルからの神出鬼没のロケット発射をしては隠れます。イスラエルはこれを衛星やドローンで監視し、トンネル入り口と思しきものに航空攻撃で潰しにかかっています。また、イスラエルはモサドというイスラエル版CIAを使ってハマスの主要幹部の暗殺工作も実施しています。これまでも(今回以前)何人ものハマス幹部が暗殺されています。
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カッサームロケット弾

 連日の攻撃の応酬により、イスラエルでは12名が死亡、ガザのパレスチナ人は200数十名が死亡。ハマスにしてみれば善戦している方かもしれません。しかし、ガザの普通の市民も攻撃による夥しい負傷者や生活の破壊、市街地の破壊でもうクタクタです。しかし、怨嗟の炎がやまない状況なのです。若者たちはハマスがイスラエルに一矢報いている姿が英雄に見えるわけです。・・・だから、なかなか終わらない。終われない。そんな気がします。

 おそらくバイデンのイニシアチブでイスラエル側は小休止するでしょうが、パレスチナ側が抑制の効かない過激な鉄砲玉がいて小衝突が起きると思います。そしてまた報復の連鎖へ。専門家は、ソロバン勘定からして「長期戦は誰も望まない。」ので停戦になると読んでいる方々がいます。しかし、ガザのパレスチナ人は治まらず、結局泥沼化するでしょう。1987年~93年の第1次、2000年~2005年の第2次インティファーダのような泥沼状態になるのではないか、と懸念しています。あの時も、泥沼の抗争が何年も続いたあげくに、ようやく双方が疲弊して交渉のテーブルに着いたのですから。
 悲しいかな、誰も望んではいないものの、イスラエルとパレスチナの抗争は泥沼のインティファーダ化するであろう、と推測する次第です。

(了)

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