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2021/09/12

北朝鮮 異例づくめのパレード敢行: その虚像と実像

金正恩総書記
スリムになって血色の良い金正恩総書記(2021年9月9日付VOA記事「North Korea Shows Off Horses, Dogs but No Missiles at Anniversary Parade」より)

2021年9月9日未明、北朝鮮は国家をあげて朝鮮人民民主共和国の創立73周年を祝う軍事パレード「民間・安全武力閲兵式」を金日成広場で開催しました。

異例づくめのいつもと違うパレード
 このパレードがいろいろ異例だったことが話題になっています。この1年だけでもこうした大パレードを3回も深夜(未明)に実施していますが、これまでのパレードではこれ見よがしに北朝鮮正規軍の特殊部隊の徒歩行進、戦車、装甲車、火砲、核ミサイル発射車両、等々を走らせ、国民と国際社会に北朝鮮の軍事的脅威を見せつける威圧的なものでした。今回のパレードは、従来と打って変って、馬に乗った部隊、犬の部隊、サイドカーをつけたオートバイ隊、ガスマスクをつけたオレンジ色の防護服部隊、消防車、トラクターが牽引する多連装ロケット、等々といったパレードでした。要するに、正規の軍隊ではなく、「労農赤衛隊」といういわば予備役や消防等を使った民間防衛組織オンリーのパレードだったのです。バイデン大統領になってからの米朝交渉の再開が期待される中、焦点となる核ミサイル系の参加はありませんでした。(参照:2021年9月9日付VOA記事「North Korea Shows Off Horses, Dogs but No Missiles at Anniversary Parade」)
騎馬隊
バイク隊
騎馬隊、バイク隊の景況(前掲VOA記事より)

目を引く金正恩総書記の元気な姿
 目を引いたことの2つ目は、金正恩総書記の久々の人前への登場です。しかも、ダイエットしたらしい健康そうな姿で。白っぽいスーツに日焼けした笑顔、確かに以前よりスリムで健康を回復した感じに見えます。以前は、濃紺のパンパンの人民服姿で見た目にもメタボ、内臓疾患っぽいくすんだ笑顔、しかも片足を引きずっていました。また、国家にとって大イベントのはずの金日成誕生祝賀会に姿を見せず、内外から安否が懸念されていたところでした。北朝鮮の官制メディアの朝鮮中央通信は金総書記の久々の元気な姿と減量ぶりに平壌の市民の喜びの評判などまで伝える異例の報道ぶりも海外マスコミの注目を集めました。ちなみに、同メディアは、100枚以上の今回のパレードの写真を掲載して国内世論を鼓舞した模様です。

総参謀長の異例の大抜擢
 更に、1月のパレ―ドで総参謀長朴正天大将の大将昇任のお披露目と晴れ姿をパレードデビューさせましたが、今回のパレードの直前に正規に朝鮮労働党の政治局の常務委員・書記に昇格させるという異例の大抜擢の発表もありました。今回のパレードでは金総書記の右腕としてひな壇入りです。朴大将は現在の金総書記のお気に入りのようで、まるで金総書記同様に、聖なる白頭山で部下将兵を従えて馬に跨った英雄風の姿の写真まで出回っているそうです。朴大将は、2018年に米朝交渉の進展に伴い、それまでの長距離核ミサイル開発から短距離核ミサイル開発に舵を切ったあたりで、それまでの核開発で大活躍した李炳鉄大将に代わって頭角を現したと言われています。
(参照:2021年9月6日付VOA記事「North Korea Promotes General to Ruling Party's Presidium, State Media Says」
スライド1
総参謀長 朴正天大将(前掲VOA記事より)

北朝鮮の思惑
 今回のパレードについて、西側メディアや専門家も北朝鮮の思惑を書きたてています。
まず今回のパレードの民間防衛的な国民大動員という手法から。北朝鮮政府としては、北朝鮮は公には新型コロナ感染者ゼロということになっていますが、世界でも類を見ない徹底的なロックアウトで、事実上の鎖国状況で新型コロナウイルスの水際阻止を2年近く続けている中、「コロナ禍の中でもいざとなればこれだけの軍・民ともの大動員ができるのだぞ!」という国家の姿勢を内外に見せる意図があったと推察されます。国内的にも、国民大動員を契機に、市民の目標をこの大パレードの成功という喫緊の課題に向かせ、国家のあちこちに転がる閉塞感を打破する姿勢を示したかったのではないか、と推察されています。
 また、前回までのパレードで目を引く焦点だった「核ミサイル開発」の新型装備等という色を全く出さなかったことについては、核ミサイル開発が焦点となる米国との交渉の進展に向けた意図的なトーンダウンであろう、という見方をされています。敢えて、米朝交渉を再開する前に「値を吊り上げる」意味で、核ミサイル開発系の新装備をバンバン走らせるという手もあったと思いますが。そうしなかったのは、バイデン新大統領にはまず交渉のテーブルについてもらう作法として、軍事的挑発を避けたのかも知れません。
(参照:2021年9月9日付産経新聞、読売新聞、NHK報道、等)

裏読み的に、実像を探ると・・・
 私見ながら、そうした今回の大パレードから垣間見られる北朝鮮の「今」の実像を考察してみます。
 従来のパレードなら、正規の軍隊による数カ月前からの予行練習に次ぐ予行練習で、一糸乱れぬ軍の精強なパレードを演出していました。軍隊の場合は、数カ月前からパレード本番まで、軍隊にとってはそれが達成すべき任務ですから、徹底的に練成する形になります。他方、今回は国民を動員しているため、昼はそれぞれの仕事や学校でのパレード以外の仕事や勉強に精励しているため、自ずと予行練習の期間も濃密度も反復演練の回数も違ったでしょう。また、パレード参加は17歳~60歳までの開きのある労農赤衛隊という予備役が主体ですから、男女も年齢もいろいろありの混成でした。異例づくめのパレードでしたが、パレードとしての兵士一人ひとりまで身長・体格・歩調、部隊の線、敬礼の腕の角度や目線、等々、部隊の精強さを示す「一糸乱れぬ」バリバリの練度ではなく、玄人目に見れば不揃いが目につき、「市民の部隊行進にしては予行をよくやったんだぁ」という感じ。従来のパレードとは格段の差がありました。 

 なぜ、軍隊でなく民間防衛組織のパレードにしたか?
 前述の西側メディアの推察のように、軍事的挑発を避けて国内の団結・結束を示す形としたのは内外へのPRだ、というのが大方の見方ですが、裏読みすると、そうせざるを得ない状況ではないか?とも考えられます。国内の団結・結束を目標として示し、国民に団結や結束の維持を訴えないとならないくらい、国内的に厳しい状況に追い込まれている状況なのではないか、と。よく指摘される状況として、北朝鮮は昨年に度々風水害に見舞われ、農業は大打撃を受け大飢饉に陥っている、と言われています。9月2日には、金正恩総書記が、党政治局の拡大会議の中で、自然災害、異常気象への対応強化と感染症対策の強化について国家全体として取り組むよう、異例の指示をしています。(参照:2021年9月3日付ロイター「北朝鮮の金総書記、自然災害・コロナ対策の強化指示」)要するに、昨年の自然災害の被害のダメージから立ち直れておらず、今年も風水害のシーズンを迎えて、防災努力を国家全力でやれという状況なわけです。感染症対策についても、公称「感染者ゼロ」ですが、かなり感染症の蔓延が進み、防疫に国家挙げて努力をしなければならない状況ということが考えられます。
 また、北朝鮮の核開発については、IAEAが恒常的に衛星画像等でウォッチしていますが、2018年以来しばらく止まっていた寧辺の核開発施設(原子炉)の稼働が、最近再開されたとの報道がありましたが(参照:2021年8月30日付ロイター「北朝鮮、寧辺の原子炉再稼働のもよう=IAEA報告書」)、これまた裏読みすると、北朝鮮をウォッチしている米国の機関「38North」によれば2018年の風水害でその核開発施設が被害を受け、原子炉を冷却する装置が使用不能になったとのこと。ということは、以来未復旧の状況で、最近やっと復旧し、原子炉を再稼働でき、もって冷却水を排出している状況がIAEAにウォッチされた、という状況が考えられます。それが真相だったのではないでしょうか。
 要するに、北朝鮮は虚像的には強いままですが、その実態はかなり経済が疲弊し、自然災害がそれに拍車をかけて国民生活を打撃しており、当面の国家の目標は自然災害に打ち勝ち、感染症の更なる蔓延を局限して、何とか国民が一致団結・結束して難局に当たろう、という苦しい局面に置かれている、というのが実情ではないでしょうか。
 その意味で、国家国民にとって朗報は、金正恩総書記のダイエット成功・健康の回復ってところではないか、と私見ながら裏読みしています。

(了)

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