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2022/05/25

ウクライナ戦況の実相:今様「西部戦線異状なし」 実は今だに一進一退

メディアの報道では分からない戦況の実相
 メディアの報道ぶりを紙面やTV画面で斜め読みしていると、ともするとドンバスの戦いは終わったかのような錯覚に陥りますが、とんでもない話です。 米国のInstitute of Study of War(戦争研究所)の最新情報(参照: 2022年5月24日付ISW記事 「Ukraine conflict updates (May 23, 2022)」)の戦況の細部を確認したところ、ウクライナの全正面で実は今だに一進一退の戦闘が続いている状況がよく分かります。確かに戦勢(勢い)上はウクライナが辛勝したと言えますが、実際の戦場ではロシア軍とウクライナ軍は各戦線で対峙しており、まだ戦闘は継続中なのです。

一進一退の戦闘が各地で続く
 以下、戦況を説明するに当たり、便宜上、侵攻(攻撃)側のロシア軍の作戦構想で下記の4正面を分けて説明します。(戦争研究所の戦況分析は、ウクライナ軍、米軍からの情報に加え、ロシア内の独自情報源によるものです。下記の戦況は、戦争研究所の前掲戦況資料に基づき、私の解釈を加えています。)
スライド1

 ザックリ言うと、各正面の概要は次のような状況です。
 ロシア軍の攻撃は、
  主作戦正面①: 東部(ドンバス地域)正面(イジュームとドネツク及びルハンシク正面における対ウクライナ軍包囲作戦)
  支作戦正面②: マリウポリ正面(マリウポリの完全掌握のためのアゾフスタリ製鉄所の掃討戦)
  支作戦正面③: ハルキウ正面(ハルキウから部隊を北に転じて東部正面の取作戦正面のための後方補給線の確保)
  支作戦正面④: 南部正面(へルソン州の確保)。

 総じて言うと、東部正面(ドンバス平原)においてロシア軍は引き続き各地域で攻撃を継続しており、一部では突破し、局地的に新たな獲得地を得たり、ウクライナ軍を包囲・撤退させている模様です。ウクライナ軍にしてみれば、概ね陣地線を維持しつつも、一部で奪取された地域もある激戦が続いている状況です。ハルキウ正面では、ウクライナ軍がロシア軍を押し戻したものの、同正面にロシア軍は一部を維持し、主作戦正面への後方連絡線(補給線)を維持、マリウポリ正面及び南部(へルソン)正面では、ロシア軍は「防勢転移」の態勢と言えましょう。
 図の見方として、ここ数日の攻防の進展として、水色部分がウクライナがここ数日で反撃して奪還した地域、黄土色(オレンジ?)がロシア軍がここ数日で新たに突破・奪取した地域です。
  
<① ドンバス平原正面>
スライド2
スライド3
 東部戦線ドンバス正面のロシア軍の作戦目的は「ドネツク州及びルハンシク州2州の完全掌握」であり、そのための作戦目標は「ドンバス平原に主力部隊を集結させたウクライナ軍を包囲・殲滅する」ことである。しかし、現在の戦況ではロシア軍の攻撃衝力は勢いを失しているものの、局地的に戦力を投入して攻撃を仕掛けてきており、局地的な突破口が形成されると形勢が逆転する可能性もあるギリギリのせめぎあいである。
 具体的には、23日、イジューム南東部への空爆と砲撃を強化し、ロシアの各地からの増援部隊を投入し、スロビャンスク地区での突破を目指した攻撃を再開する模様。イジュームの南東、ディブロヴェ、ヴィルノピリヤ、ボゴロディチネ、フサリフカ、チェピル、ドリーナ、ストゥデノク、スヴィアトリルスク周辺のウクライナ軍陣地への偵察をしている。ロシア軍がイジューム南東20kmのドヴェンケ地区での突破を図ったが、ウクライナ軍が阻止している。ロシア本土~ハルキウ東部~イジュームに伸びる後方連絡線(Line of Communication/要するに補給線)を確保するため、ハルキウからイジュームの地域に潜むパルチザン(ロシア支配地域にいる親ウクライナ一般市民のゲリラ)のテロ攻撃を封殺するため、この地域にロシア軍治安部隊を投入し、厳戒態勢と摘発体制を強化している。

 また、セヴェロドネツク地区では、ロシア軍の攻撃に進展あり。セヴェロドネツク北東のシチェドリシチェヴェで局地的に突破、さらに、ゾロテでも突破し、南からセヴェロドネツクの局地的包囲を遂げ、この地域でのウクライナ軍に対する局地的な包囲に成功した模様。ロシア軍は、この局地的成功に勢いづき、ポパスナ周辺のトシキフカ、コミシュヴァカ、ニルコヴェ、ヴァシリフカ、ノヴァ・カミャンカ、ミロニフスキー地域での突破を図り、バフムートに向かって西進する企図がある模様。包囲されたウクライナ軍はヴォロディミリフカからソレダールまで西に撤退した模様。ロシア軍は、さらにドネツクとルハンスクの行政国境付近で前進し、バフムートの南東にあるミロノフスキーを攻撃奪取した模様。今後、南と西の両方からバフムートに攻撃する可能性あり。

 また、ライマン地区でも部分的な突破に成功しライマンの一部を支配、次なる目標としてアヴディイフカの攻略を目指している模様。ここが奪取されると、スロヴィャンスクへの高速道路を確保されるため、ウクライナ軍は警戒している。

<② マリウポリ正面>
  (画像なし)
 マリウポリ正面のロシア軍の作戦目的は「マリウポリの完全占領」であり、そのための作戦目標は「ウクライナ軍守備隊の縮小」である。大きな戦闘は起きていないが、アゾフスタリ製鉄所のアゾフ連隊の残留部隊の掃討戦が続いている。
具体的な動向としては、ロシア軍と親ロシア派武装勢力は、アゾフスタリ製鉄所地域は度重なる戦闘とロシア軍のクラスター型ロケット焼夷弾の惨状が著しく、地域の安全化に苦慮している模様。アソフスタリ製鉄所へのクラスター型ロケット焼夷弾攻撃についてはロシア内でも批判があり、ウクライナ軍の降伏を待つべきだった、との意見もある模様。アゾフスタリ製鉄所の攻防戦では、ウクライナ軍アゾフ連隊の製鉄所地下要塞を根城にした神出鬼没のゲリラ戦により、相当数のロシア軍の死傷者があった模様。しかも、未だに製鉄所の地下要塞に残留部隊が潜んでおり、掃討戦が続いている。なお、既に投降したアゾフ連隊の兵士らは連行・収監され、占領下のドネツク州の拘置所で裁判を待っている模様。ドネツク州の親ロ派自治政府とロシア政府の占領局との間で官僚的な主導権争いがある模様。また、ロシアからの「ボランティア?」部隊及びチェチェン軍部隊がマリウポリからザポリージャ州に続く高速道路を警戒・監視している模様。

<③ ハルキウ正面>
スライド4
 ハルキウ正面におけるロシア軍の作戦目的は、「イジュームへと延びる後方連絡線を確保する」であり、このための作戦目標は、「ハルキウ正面で攻撃部隊だった勢力を北に転じ(撤退させ)、ハリコフの北部の防御陣地を構築・陣地線の維持」をすることである。ロシア第6軍と第41統合武器軍、ドネツクの親ロシア部隊の第1軍団及びルハンシクの親ロシア部隊の第2軍団の部隊が、ハルキウ正面でのウクライナ軍の更なる前進を防ぐためにこの地域で活動している模様。ロシア軍でなく、東部2州の親ロシア部隊を運用する理由は、同じウクライナ人同士で争わせることを作為している。親ロシア派情報では、ロシア軍がリプシとハルキウ州のルビジネ(ルハンシク州ではなく)でまだ戦闘中、と報告しており、これはロシア軍がハリコフ市の北部で一部をウクライナから再奪還したことを意味する。
 ちなみに、 ロシア軍は5月23日現在で、今だハルキウ市とその周辺を砲撃し続けている。

<④ 南部正面>
スライド5
 南部正面におけるロシア軍の作戦目的は、「ウクライナ南部で恒久的な支配を確立」であり、そのための作戦目標は「ウクライナの反撃から制圧下に置いたヘルソンを確保する」ことである。

 具体的には、ロシア軍がヘルソン州とムィコラ~イウ州の国境を強化している模様。また、ロシア軍は、クリミア北西部に2つのS-400対空ミサイル大隊を配備し、ウクライナの反撃の可能性に対する防空を強化している模様。これらから、ロシア軍は来るべきウクライナ軍のへルソン奪回に向けた備えを固めつつあると言える。 

 また、南部正面(へルソン州)の特質の一つは、ザポリージャ市の南80kmにあるザポリージャ原子力発電所があることだが、ロシア軍がこの発電所の東にあるヴァシリフカに部隊を集結させており、ザポリージャ原子力発電所の支配を未だ狙っており、ザポリージャ州におけるウクライナの反撃の脅威を低減させる企図がある模様。

戦況の実相は今様「西部戦線異状なし」: 一進一退の膠着戦の中で損耗が続く現実
 上記の戦況の記述は、地図と一致しない地名がゴジャゴジャ出てきて読み辛くてすみません。地名等の記述の細部は、分かり辛いので読み流してください。要するに、まだ一進一退の攻防が続いて、辛く長い闘いの日々が続いていることが分かってもらえば結構です。
 いやー、改めて再認識しました。東部正面のドンバス平原の戦いは、今だに激戦中ですね。ロシアが突破を試み、それをウクライナが阻止し、一部では突破され・・・、というような、一進一退の苦しく長い闘いの渦中のようです。
 既述の通り、ウクライナ戦線は名画「西部戦線異状なし」と同様の様相です。戦況は実は今だに一進一退の激戦がそこかしこで起きており、そこに地域住民や双方の兵士の死傷者が数百名出ているのが実態でありながら、双方の上層部や国際的な関心から俯瞰的に見ると、「異状なし、特筆すべき進展や失陥なし」で片づけられる長期膠着戦に陥っているわけです。

 ちなみに、古い映画ですが「西部戦線異状なし」って知っています?第1次世界大戦下の戦線の膠着の中、ある青年ドイツ兵士を主人公に、彼の眼を通じて、当時の一般市民の生活、出征、訓練、前線での砲爆撃、塹壕での生活、戦友の死、空虚感、自らの人間性の喪失、そして自らの戦死、の心の軌跡をたどる名画です。忘れられない名シーンに、思いがけず出くわした敵兵を何とか刺殺したのち、その敵兵にも家族が待っていることを知り、後悔しながら敵兵を介抱するが死んでしまうシーンがあります。またラストシーンでは、人間性を失いつつあった主人公が塹壕の近くでさえずるヒバリに久しぶりに優しい気持ちを起こし、久々にスケッチしようとして手を伸ばしたところで狙撃され死んでしまいます。そして、その日の戦闘報告には「西部戦線異状なし、特筆すべき報告事項なし。」と記載される、という何とも切ない余韻に包まれる名シーンがあります。

 映画の舞台は第1次世界大戦ですが、時を隔てて21世紀の現代戦下でも、この同じ地球の片隅で全く同じことが起きているなぁ、ということをつくづく痛感します。この戦争を、いち早く、終結させたいと思いつつ、我々にはどうしようもないのが現実。せめて、日々メディアの現地の戦況への関心が薄れる中、それでも長期膠着戦の下ではこうした悲劇がずっと起きていることを忘れないようにしたいと思います。

(了)

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